特許第6355240号(P6355240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355240
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】銀微粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20180702BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20180702BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B22F9/00 B
   H01B1/22 A
   H01B1/00 M
   B22F1/00 K
   B22F1/02 B
   B22F9/24 F
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-102981(P2014-102981)
(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公開番号】特開2015-218362(P2015-218362A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】村野 由
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 修次
(72)【発明者】
【氏名】吉原 大貴
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/026033(WO,A1)
【文献】 特開2014−047413(JP,A)
【文献】 特開2013−241507(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139454(WO,A1)
【文献】 特開2010−121206(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/104913(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0277300(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0177897(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/30
C09D 11/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸またはその誘導体で被覆された銀微粒子が水系分散媒中に分散し、アンモニアと硝酸を含む銀微粒子分散液において、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルを含む表面調整剤またはポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合物からなる表面調整剤が添加され、銀微粒子分散液中の表面調整剤の含有量が0.15〜0.6質量%であることを特徴とする、銀微粒子分散液。
【請求項2】
有機酸またはその誘導体で被覆された銀微粒子が水系分散媒中に分散し、アンモニアと硝酸を含む銀微粒子分散液において、シリコーン消泡剤が添加され、銀微粒子分散液中のシリコーン消泡剤の含有量が0.01〜0.6質量%であることを特徴とする、銀微粒子分散液。
【請求項3】
前記銀微粒子分散液の液中の前記アンモニアの濃度が0.1〜2.0質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀微粒子分散液。
【請求項4】
前記銀微粒子分散液の液中の前記硝酸の濃度が0.1〜6.0質量%であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項5】
前記銀微粒子分散液のpHが5.3〜8.0であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項6】
前記水系分散媒が50質量%以上の水を含む溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項7】
前記銀微粒子分散液中の前記銀微粒子の含有量が30〜75質量%であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項8】
前記銀微粒子の平均粒径が1〜100nmであることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項9】
前記有機酸が炭素数5〜8のカルボン酸であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項10】
前記銀微粒子分散液中の銀に対する前記有機酸またはその誘導体の量が2〜20質量%であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【請求項11】
前記銀微粒子分散液のラメラ長の平均値が4.6mm以下であることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれかに記載の銀微粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀微粒子分散液に関し、特に、RFIDアンテナなどの電子部品の導電回路などの形成に使用する銀微粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RFIDアンテナなどの高信頼性が要求される電子部品の配線や導電回路は、マスクした基板上に高価な貴金属のスパッタリングにより形成されている。しかし、スパッタリングにより配線や導電回路を形成する方法では、様々な工程が必要となるため、生産性が高いとはいえず、また、原料として投入される高価な貴金属のすべてが配線や導電回路の形成に使用されるのではないため、資源の有効活用の観点から、他の方法により配線や導電回路を形成することが検討されている。
【0003】
近年、電子部品の配線や導電回路などを大量に且つ容易に形成する方法として、印刷技術を応用して配線や導電回路などを形成するプリンテッド・エレクトロニクスが注目されており、金属粒子を分散媒中に分散させた導電性インクを、フレキソ印刷やスクリーン印刷などの様々な印刷技術により基材上に印刷した後に、金属粒子同士を焼結させて配線や導電回路などを形成することが検討されている。
【0004】
一方、金属粒子の粒径が数nm〜数十nm程度になると、比表面積が非常に大きくなって、融点が劇的に低下するため、数μm程度の粒径の金属粒子を分散媒中に分散させた導電性インクを使用して配線や導電回路を形成する場合と比べて、微細な配線や導電回路の形成が可能になるだけでなく、200℃以下の低温で焼成しても金属粒子同士を焼結させることができるようになるので、耐熱性の低い基板などの様々な基板を使用することができるようになる。そのため、粒径が数十nm以下の金属微粒子(金属ナノ粒子)を分散媒中に分散させた導電性インク(金属微粒子分散液)をプリンテッド・エレクトロニクスに応用して電子部品の微細な配線や導電回路を形成することが期待されている。
【0005】
また、粒径が数十nm以下の金属微粒子は、活性が非常に高く、そのままでは粒子として不安定であるので、金属微粒子同士の焼結や凝集を防止して、金属微粒子の独立性や保存安定性を確保するために、長鎖の界面活性剤などの有機物で被覆した金属微粒子をデカンやターピネオールなどの有機溶媒中に分散させた導電性インク(金属微粒子分散液)が提案されている。しかし、金属微粒子を高分子量の長鎖の界面活性剤で被覆すると、その沸点や分解点が高いことから、金属微粒子同士を焼結させて配線や導電回路など形成する際に、金属微粒子の表面の界面活性剤を除去や分解するために、高温で処理する必要があり、耐熱性の低い基板を使用することができなくなるだけでなく、30分〜1時間程度の比較的長時間にわたって熱処理する必要があり、生産性が悪くなる。また、導電性インクの分散媒として有機溶媒を使用すると、廃棄の際に注意を払わなければ環境汚染の原因になり得るし、また、加熱の際や開放系で放置した場合に蒸発した有機成分が周囲に拡散するため、大量に処理する場合に局所排気装置の設置などが必要になるので、有機溶媒を主成分としない分散媒を使用することができれば、環境面および作業面において望ましい。
【0006】
そのため、主成分が水である溶媒中に有機酸またはその誘導体により保護された銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この銀ナノ粒子組成物を導電性インクとして使用すれば、低温で短時間の熱処理でも銀ナノ粒子同士を焼結させて基材上に良好な配線や導電回路など形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/026033号(段落番号0016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、工業的に通常用いられているロール・ツー・ロールの連続式のフレキソ印刷機により、特許文献1の金属ナノ粒子組成物を導電性インクとして使用して、複雑なデザインの配線の形状に基板上に印刷すると、隣接して対向する配線部分の間に鳥の水かき状の薄膜が形成され、熱処理して形成される配線の短絡が生じ易くなるという問題がある。このような薄膜は、特許文献1の銀ナノ粒子組成物中の有機酸またはその誘導体と(銀ナノ粒子の合成時や反応後のpH調整のために添加された)アンモニアとの反応物に起因すると考えられる。
【0009】
このような薄膜の形成は、低容量のアニロックスロールを使用すれば防止することができるが、低容量のアニロックスロールを使用すると、導電性インクの転写率が低下して、熱処理して形成される配線の膜厚が薄くなって抵抗が高くなるという問題がある。
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、フレキソ印刷により基材上に所望の配線形状に印刷することができるとともに、熱処理して基板上に形成した配線の抵抗の低下を防止することができる、銀微粒子分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、有機酸またはその誘導体で被覆された銀微粒子が水系分散媒中に分散し、アンモニアと硝酸を含む銀微粒子分散液に形状保持剤を添加することにより、フレキソ印刷により基材上に所望の配線形状に印刷することができるとともに、熱処理して基板上に形成した配線の抵抗の低下を防止することができる、銀微粒子分散液を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による銀微粒子分散液は、有機酸またはその誘導体で被覆された銀微粒子が水系分散媒中に分散し、アンモニアと硝酸を含む銀微粒子分散液において、形状保持剤が添加されていることを特徴とする。
【0012】
この銀微粒子分散液において、形状保持剤として表面調整剤を使用するのが好ましく、銀微粒子分散液中の表面調整剤の含有量が0.15〜0.6質量%であるのが好ましい。表面調整剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルまたはポリエーテルとを含む表面調整剤を使用するのが好ましい。また、形状保持剤として消泡剤を使用してもよく、銀微粒子分散液中の消泡剤の含有量が0.005〜0.6質量%であるのが好ましい。消泡剤として、シリコーン消泡剤を使用するのが好ましい。
【0013】
また、銀微粒子分散液の液中のアンモニアの濃度が0.1〜2.0質量%であるのが好ましく、硝酸の濃度が0.1〜6.0質量%であるのが好ましい。また、銀微粒子分散液のpHが5.3〜8.0であるのが好ましく、水系分散媒が50質量%以上の水を含む溶媒であるのが好ましい。また、銀微粒子分散液中の銀微粒子の含有量が30〜75質量%であるのが好ましく、銀微粒子の平均粒径が1〜100nmであるのが好ましく、有機酸が炭素数5〜8のカルボン酸であるのが好ましい。また、銀微粒子分散液中の銀に対する有機酸またはその誘導体の量が2〜20質量%であるのが好ましく、銀微粒子分散液のラメラ長の平均値が4.6mm以下であるのが好ましい。
【0014】
なお、本明細書中において、「銀微粒子の平均粒径」とは、銀微粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)による一次粒子径の平均値である一次粒子平均径(平均一次粒径)をいう。
【0015】
また、「ラメラ長」とは、液体膜がどれだけ伸びるかを示す指標であり、リング(ラメラ長測定子)を液体に浸漬した後に鉛直方向に引き上げて、リングと液体面との間に形成された液体膜によりリングに働く力が最大になってから、液体膜が切れるまでのリングの引き上げ距離をラメラ長として測定することができる。本明細書中において、「ラメラ長の平均値」とは、ラメラ長測定子として線材直径0.40mm、リング直径14.4mmの白金リングを使用し、自動表面張力計により、ステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェットステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェット浸漬距離2.50mm、プリウェット浸漬時間5秒で測定したときに、ラメラ長の6回の測定値の平均値をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フレキソ印刷により基材上に所望の配線形状に印刷することができるとともに、熱処理して基板上に形成した配線の抵抗の低下を防止することができる、銀微粒子分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】銀微粒子分散液の水かき状の薄膜の長さを測定するために形成した塗膜の形状および大きさを示す平面図である。
図1B】銀微粒子分散液の水かき状の薄膜の長さの測定方法を説明する図である。
図2】実施例および比較例で作製したRFIDアンテナの形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による銀微粒子分散液の実施の形態は、有機酸またはその誘導体で被覆された銀微粒子が水系分散媒中に分散し、アンモニアと硝酸を含む銀微粒子分散液において、形状保持剤が添加されている。
【0019】
水系分散媒は、水を主成分とする溶媒であり、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上の水を含む溶媒である。この水系分散媒の粘度を調整するために、銀微粒子分散液に対して10質量%以下のポリウレタンシックナーなどのシックナー(増粘剤)を添加してもよく、湿潤のために10質量%以下のプロピレングリコールなどの有機溶媒を添加してもよい。また、水系分散媒と基材との密着性をより強固にするために、水中に高分子が安定して懸濁および分散した水性分散樹脂を添加してもよい。この水性分散樹脂として、塩化ビニルなどの水性ラテックスなどを使用することができる。水性分散樹脂の添加量は、0.5〜8質量%であるのが好ましく、1〜7質量%であるのがさらに好ましい。0.5質量%未満では基材との密着性をより強固にするには十分ではなく、8質量%よりも多いと、銀微粒子分散液中に凝集塊が発生するなど、分散性が悪化するととともに、塗膜化する際の導電性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0020】
形状保持剤として、表面調整剤または消泡剤を使用するのが好ましく、表面調整剤が水に不溶性であるのが好ましい。銀微粒子分散液に表面調整剤(好ましくは水に不溶性の表面調整剤)や消泡剤を添加すると、銀微粒子分散液を複雑なデザインの配線の形状に基板上に印刷した場合でも、隣接して対向する配線部分の間に鳥の水かき状の薄膜が形成されるのを抑制し、熱処理して形成される配線の短絡を防止することができる。また、銀微粒子分散液中の泡を消したり、銀微粒子分散液を基板上に塗布して塗膜を形成した際に、塗膜の表面の泡を消して塗膜を均一の厚さにすることもできる。形状保持剤として表面調整剤を使用する場合には、銀微粒子分散液中の表面調整剤の含有量が0.15〜0.6質量%であるのが好ましく、0.2〜0.5質量%であるのがさらに好ましい。また、形状保持剤として消泡剤を使用する場合には、銀微粒子分散液中の消泡剤の含有量が0.005〜0.6質量%であるのが好ましく、0.01〜0.3質量%であるのがさらに好ましい。
【0021】
表面調整剤としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルまたはポリエーテルとを含む表面調整剤を使用するのが好ましい。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルを含む表面調整剤としては、不揮発成分を95質量%以上含み、表面張力低下能力が中程度であり、43質量%のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと57質量%のポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルを含む表面調整剤(BYK社製のBYK302)を使用することができる。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルを含む表面調整剤としては、不揮発成分を98質量%以上含み、表面張力低下能力が中程度であり、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合物からなる表面調整剤(BYK社製のBYK331)や、不揮発成分を97質量%以上含み、表面張力低下能力が高く、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合物からなる表面調整剤(BYK社製のBYK333)を使用することができる。
【0022】
消泡剤としては、シリコーン消泡剤を使用するのが好ましい。このシリコーン消泡剤として、信越化学株式会社製のKM−7750(有効成分38%)やKM−90(有効成分53%)を使用することができる。
【0023】
銀微粒子分散液の液中のアンモニアの濃度は、0.1〜2.0質量%であるのが好ましく、0.2〜1.5質量%であるのがさらに好ましい。アンモニア濃度が0.1質量%未満であると、銀微粒子分散液中の銀微粒子の2次凝集体が大きくなって銀微粒子の沈降が激しくなり、銀微粒子分散液を基板上に塗布して焼成することにより形成された銀導電膜の導電性が悪化する。一方、アンモニア濃度が2.0質量%を超えると、イオン強度が高くなり過ぎて、銀微粒子が激しく凝集する。
【0024】
銀微粒子分散液の液中の硝酸の濃度は、0.1〜6.0質量%であるのが好ましく、0.3〜5.0質量%であるのがさらに好ましい。硝酸の濃度が0.1質量%未満であると、銀微粒子分散液を基板上に塗布した塗膜を加熱して焼成することにより銀導電膜を形成する際に、銀微粒子分散液に添加した樹脂などの分解を促進することができなくなり、低温焼結性が悪化する。一方、硝酸の濃度が6.0質量%を超えると、イオン強度が高くなり過ぎて、銀微粒子が激しく凝集する。
【0025】
銀微粒子は、平均粒径が1〜100nmであり、1〜50nmであるのが好ましく、1〜30nmであるのがさらに好ましく、1〜20nmであるのが最も好ましい。平均粒径が100nmよりも大きいと、銀微粒子として期待される低温焼結性が得られ難くなる。また、銀微粒子分散液中の銀微粒子の含有量は、30〜75質量%であるのが好ましく、55〜75質量%であるのがさらに好ましい。銀微粒子分散液中の銀微粒子の含有量が少な過ぎると、銀微粒子分散液を使用して形成した配線や導電回路などの導電性が悪くなり、銀微粒子分散液中の銀微粒子の含有量が多過ぎると、銀微粒子分散液の粘度が高くなり過ぎて、基銀微粒子分散液を基板上に良好に印刷することができなくなる。
【0026】
銀微粒子は、表面が炭素数5〜8のカルボン酸(例えば、ヘプタン酸)のような有機酸またはその誘導体で被覆されているのが好ましい。このような被覆により銀微粒子間の焼結を防ぎ、銀微粒子間の距離を適度に保つことができる。炭素数が8よりも大きくなると、熱分解時に高い熱エネルギーが必要となり、一方、炭素数が3より小さくなると、銀微粒子間の距離を適度に保つことができなくなる。
【0027】
銀微粒子分散液のpHは、5.3〜8.0であるのが好ましい。pHが5.3より低いと、銀微粒子分散液中の有機酸やその誘導体がほとんど溶解しないため、銀微粒子の表面から過剰な有機酸やその誘導体を解離させることができず、pHが8.0より高いと、銀微粒子分散液中の有機酸やその誘導体の溶解度が高くなり過ぎて、銀微粒子同士を分散させるために十分な量の有機酸やその誘導体により銀微粒子を被覆することができなくなるため、銀微粒子同士が凝集する。
【0028】
銀微粒子分散液の粘度は、25℃において11.7(1/s)、108(1/s)および1000(1/s)で、それぞれ10,000mPa・s以下、2,000mPa・s以下、500mPa・s以下であるのが好ましい。銀微粒子分散液の粘度が高過ぎると、銀微粒子分散液を基板上に塗布した際の塗膜の表面が粗くなるとともに、銀微粒子分散液を基板上に連続的に印刷する場合に、銀微粒子分散液を供給し難くなり、良好に印刷することができなくなる。
【0029】
銀微粒子分散液中の銀に対する有機酸またはその誘導体の量は、2〜20質量%であるのが好ましい。2質量%未満であると、銀微粒子を被覆して保護する効果が著しく低下し、銀微粒子の凝集体を生じ、低温焼結性が悪化する。一方、20質量%を超えると、有機酸やその誘導体の沸点が水よりも高いことから、低温で且つ短時間で焼結させることができなくなる。
【0030】
なお、銀微粒子の平均粒径(一次粒子平均径)は、例えば、60質量%のAg粒子と3.0質量%の塩化ビニルコポリマーラテックスと2.0質量%のポリウレタンシックナーと2.5質量%のプロピレングリコールとを含む水系Agインクなどの銀微粒子を含む水系Agインク2質量部をシクロヘキサン96質量部とオレイン酸2質量部の混合溶液に添加し、超音波によって分散させた後、得られた分散溶液を支持膜付きCuマイクログリッドに滴下して乾燥させ、このマイクログリッド上の銀微粒子を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM−100CXMark−II型)により加速電圧100kVとして明視野で観察した像を倍率300,000倍で撮影し、得られたTEM像から算出することができる。この銀微粒子の一次粒子平均径の算出は、例えば、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製のA像くん(登録商標))を使用して行うことができる。この画像解析ソフトは、色の濃淡で個々の粒子を識別して解析するものであり、例えば、300,000倍のTEM像に対して「粒子の明度」を「暗」、「雑音除去フィルタ」を「有」、「円形しきい値」を「20」、「重なり度」を「50」とする条件で円形粒子解析を行って、200個以上の粒子について一次粒子径を測定し、その数平均径を求めて一次粒子平均径とすることができる。なお、TEM像中に凝結粒子や異形粒子が多数ある場合には、測定不能とすればよい。
【0031】
また、銀微粒子分散液のラメラ長は、ラメラ長測定子として線材直径0.40mm、リング直径14.4mmの白金リングを使用し、自動表面張力計により、ステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェットステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェット浸漬距離2.50mm、プリウェット浸漬時間5秒で測定したときに、6回の測定値の平均値が4.6mm以下であるのが好ましい。このラメラ長の平均値が4.6mmより長くなると、複雑なデザインの配線の形状に基板上に印刷した場合に、隣接して対向する配線部分の間に鳥の水かき状の薄膜が形成され、熱処理して形成される配線の短絡が生じ易くなる。
【0032】
また、フレキソ印刷機を使用し、アニロックス容量20cc/m(150線/インチ)、印刷速度20m/分として、紙の基材上に、図1Aに示す形状および大きさの塗膜(長さ30mm×幅9.5mmの領域内に線幅0.5mm、幅方向間隔0.5mmで折り返した塗膜)を形成するように銀微粒子分散液を(矢印Bで示す方向に)塗布したときに、図1Bに斜線で示す領域に形成された(銀微粒子分散液の)水かき状の薄膜の長さLが10mm以下であるのが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明による銀微粒子分散液の実施例について詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
まず、28質量%のアンモニア水0.31kgとヘプタン酸0.36kgをイオン交換水1.2kgに混合した原料液Aと、85質量%の含水ヒドラジン0.39kgをイオン交換水1.0kgで希釈した原料液Bと、硝酸銀結晶1.4kgを加温したイオン交換水1.2kgに溶解させた原料液Cを用意した。
【0035】
次に、還流冷却器付の反応槽にイオン交換水を11kg添加して攪拌しながら加熱し、液温が30〜50℃の範囲になったときに、攪拌しながら原料液A、B、Cを順次添加して、銀微粒子の合成反応を開始させた。この反応中に液温が60℃以上にならないように、反応槽に設置した冷却管により反応槽内を冷却した。この反応槽の冷却を止めても、反応熱による昇温がなくなった時点で反応終了した。
【0036】
この反応により得られた反応液(ヘプタン酸が周囲に配置された銀微粒子を含む液)を別の容器に移して24時間静置した後、上澄み液を取り除いて反応液を濃縮した。このようにして得られた濃縮物を気密性の高い蓋付き瓶に入れて冷暗所で3か月静置した後、上澄み液を適度に取り除いて、さらに濃縮された反応液を得た。
【0037】
このようにして濃縮された反応液にアンモニア水を添加してpH6.0に調整し、3日間静置して(銀微粒子の周囲から)過剰なヘプタン酸を解離させた後、上澄み液を取り除いて、ヘプタン酸で被覆された銀微粒子を含む液を得た。なお、この銀微粒子の平均粒径は18nmであった。
【0038】
このようにして得られた(ヘプタン酸で被覆された)銀微粒子を含む液に、(基板上に塗布する際に基板との密着性を高めるために高TgポリマーとしてTgが73℃の)塩化ビニルコポリマーラテックスと、(粘度調整のために)ポリウレタンシックナーと、(湿潤剤として)プロピレングリコールと、(銀濃度を調整するために)上記のpH調整後に得られた上澄み液を添加して攪拌することにより、61質量%銀微粒子と、3.0質量%の塩化ビニルコポリマーラテックス(Tg=73℃)と、2.0質量%のポリウレタンシックナーと、2.5質量%のプロピレングリコールを含む導電性Agインクを得た。
【0039】
この導電性Agインク200gに、43質量%のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと57質量%のポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルとからなる表面調整剤(BYK社製のBYK302)(不揮発成分を95質量%以上含み、表面張力低下能力が中程度)0.41g(Agインクに対して0.20質量%)と、上記のpH調整前に得られた上澄み液4.98gを添加して、Ag濃度59.4質量%の銀微粒子分散液を得た。
【0040】
このようにして得られた銀微粒子分散液をメンブレンフィルタと超遠心分離機により固液分離し、液体中のアンモニア濃度と硝酸濃度をイオンクロマトグラフにより測定したところ、アンモニア濃度は0.4質量%であり、硝酸濃度は1.0質量%であった。また、銀微粒子分散液に硝酸を過剰に添加して加熱し、完全に金属成分を溶解させた後、n−ヘキサンで4回抽出し、その後、ガスクロマトグラフ質量分析計(ヒューレット・パッカード社製)により、有機酸(ヘプタン酸)を定量したところ、銀に対するヘプタン酸の量は5質量%であった。なお、以下に示す実施例2〜12および比較例1〜7において、銀微粒子分散液の液中のアンモニア濃度および硝酸濃度と銀に対するヘプタン酸の量は上記の値とほぼ同じ値(それぞれ0.4質量%、1.0質量%および5質量%)であった。
【0041】
また、この銀微粒子分散液のpHを(JIS Z8802(1984年度版)のpH測定法に準拠した)pH計(株式会社堀場製作所製のハンディーpH/DoメータD−55)で測定したところ、pH5.84であった。なお、このpH測定前にpH6.86とpH4.01の標準液で2点校正を行い、pH測定は、よく攪拌した後に30秒〜1分程度静置した後に検査端としてpH電極(株式会社堀場製作所製の9611−10D)を銀微粒子分散液に浸けて行った。
【0042】
また、この銀微粒子分散液の粘度をレオメーター(HAAKE社製のReostress600C、コーンはC35/2)を使用して11.7(1/s)、108(1/s)および1000(1/s)で測定したところ、それぞれ383mPa・s、143mPa・s、102mPa・sであり、チキソ比(={11.7(1/s)のときの粘度}/{1000(1/s)のときの粘度})は4であった。また、この銀微粒子分散液のラメラ長をラメラ長測定子として線材直径0.40mm、リング直径14.4mmの白金リングを使用し、自動表面張力計(協和界面科学株式会社製のDY−300)により、ステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェットステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェット浸漬距離2.50mm、プリウェット浸漬時間5秒で測定したところ、6回の測定値の平均値が4.5mm(標準偏差0.15、変動係数3.4%)であった。
【0043】
次に、簡易フレキソ印刷機(RK Print Coat Instruments Ltd.製のフレキソループ100)と、フレキソ印刷版(株式会社渡辺護三堂製、印刷版の材質は旭化成株式会社製の板状感光性樹脂AWP グレードDEF、表面加工150ライン、96DOT%)を使用し、アニロックス容量20cc/m(150線/インチ)、印刷速度20m/分として、紙の基材(三菱製紙株式会社製のDFカラーM70、表面粗さ1.6μm)上に、図1Aに示す形状および大きさの塗膜(長さ30mm×幅9.5mmの領域内に線幅0.5mm、幅方向間隔0.5mmで折り返した塗膜)を形成するように、基材を(矢印Aで示す方向に)移動させて、上記の銀微粒子分散液を(矢印Bで示す印刷方向に)塗布した。
【0044】
このように銀微粒子分散液を塗布した後に、図1Bに斜線で示す領域に形成された(銀微粒子分散液の)水かき状の薄膜の長さLを測定して、その平均値を求めたところ、1.9mmであった。
【0045】
また、上記の銀微粒子分散液を上記と同様の方法により図2に示す形状(全長32.0mm、全幅18.5mm、線幅0.5mmのRFIDアンテナ10の形状)に印刷した後、ホットプレート上において140℃で30秒間熱処理して焼成することによって、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製した。
【0046】
この銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0047】
銀導電膜の膜厚は、レーザーマイクロスコープ(KEYENCE社製の型式VK−9700)を用いて、銀導電膜が形成された基材の表面と銀導電膜の表面との高低差を100箇所測定し、平均値を算出することによって求めた。その結果、銀導電膜の膜厚は2.0μmであった。
【0048】
銀導電膜のライン抵抗(図3に示すDとEの間の電気抵抗)をテスター(CUSTOM社製の型式CDM−03D)により測定したところ、33Ωであった。
【0049】
銀導電膜の体積抵抗率は、銀導電膜の膜厚、幅(0.5mm)、長さ(237.4mm)と電気抵抗から求めた。その結果、銀導電膜の体積抵抗率は14.0μΩ・cmであった。
【0050】
[実施例2]
表面調整剤に代えてシリコーン消泡剤(信越化学株式会社製のKM−7750)を使用し、この消泡剤0.02g(Agインクに対して0.01質量%)とpH調整前に得られた上澄み液5.35gを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、Ag濃度59.4質量%の銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で295mPa・s、108(1/s)で129mPa・s、1000(1/s)で80mPa・sであり、チキソ比は4であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が1.1mm(標準偏差0.12、変動係数10.5%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0051】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.3μm、ライン抵抗は29Ω、体積抵抗率は13.9μΩ・cmであった。
【0052】
[実施例3]
消泡剤の添加量を0.04g(Agインクに対して0.02質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を5.35gとした以外は、実施例2と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で358mPa・s、108(1/s)で169mPa・s、1000(1/s)で104mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が1.0mm(標準偏差0.07、変動係数6.9%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0053】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.3μm、ライン抵抗は29Ω、体積抵抗率は14.1μΩ・cmであった。
【0054】
[実施例4]
消泡剤の添加量を0.41g(Agインクに対して0.20質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を4.98gとした以外は、実施例2と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で358mPa・s、108(1/s)で169mPa・s、1000(1/s)で105mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が0.9mm(標準偏差0.11、変動係数13.0%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0055】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.3μm、ライン抵抗は30Ω、体積抵抗率は14.4μΩ・cmであった。
【0056】
[実施例5]
表面調整剤に代えてシリコーン消泡剤(信越化学株式会社製のKM−90)を使用し、この消泡剤0.02g(Agインクに対して0.01質量%)とpH調整前に得られた上澄み液5.35gを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で311mPa・s、108(1/s)で134mPa・s、1000(1/s)で82mPa・sであり、チキソ比は4であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が1.3mm(標準偏差0.18、変動係数14.0%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0057】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は31Ω、体積抵抗率は13.8μΩ・cmであった。
【0058】
[実施例6]
消泡剤の添加量を0.04g(Agインクに対して0.02質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を5.35gとした以外は、実施例5と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で340mPa・s、108(1/s)で164mPa・s、1000(1/s)で103mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が1.3mm(標準偏差0.13、変動係数9.9%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0059】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は1.8μm、ライン抵抗は35Ω、体積抵抗率は13.6μΩ・cmであった。
【0060】
[実施例7]
消泡剤の添加量を0.41g(Agインクに対して0.20質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を4.98gとした以外は、実施例5と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で308mPa・s、108(1/s)で163mPa・s、1000(1/s)で108mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が1.0mm(標準偏差0.10、変動係数9.6%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0061】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は1.9μm、ライン抵抗は33Ω、体積抵抗率は13.4μΩ・cmであった。
【0062】
[比較例1]
表面調整剤を添加せず、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を5.39gとした以外は、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で420mPa・s、108(1/s)で191mPa・s、1000(1/s)で112mPa・sであり、チキソ比は4であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が5.3mm(標準偏差0.08、変動係数1.6%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は25mmであった。
【0063】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は33Ω、体積抵抗率は14.8μΩ・cmであった。
【0064】
[実施例8]
表面調整剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合物からなる表面調整剤(BYK社製のBYK331)(不揮発成分を98質量%以上含み、表面張力低下能力が中程度)を使用し、この表面調整剤0.41g(Agインクに対して0.20質量%)とpH調整前に得られた上澄み液4.98gを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.83であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で384mPa・s、108(1/s)で155mPa・s、1000(1/s)で111mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が4.6mm(標準偏差0.12、変動係数2.6%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は2.2mmであった。
【0065】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.2μm、ライン抵抗は34Ω、体積抵抗率は15.4μΩ・cmであった。
【0066】
[実施例9]
表面調整剤の添加量を0.62g(Agインクに対して0.30質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を4.77gとした以外は、実施例8と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で737mPa・s、108(1/s)で341mPa・s、1000(1/s)で200mPa・sであり、チキソ比は4であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が4.5mm(標準偏差0.09、変動係数2.1%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は4.2mmであった。
【0067】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は33Ω、体積抵抗率は14.4μΩ・cmであった。
【0068】
[実施例10]
表面調整剤の添加量を1.03g(Agインクに対して0.50質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を4.36gとした以外は、実施例8と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で5434mPa・s、108(1/s)で894mPa・s、1000(1/s)で269mPa・sであり、チキソ比は20であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が4.5mm(標準偏差0.10、変動係数2.3%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は3.0mmであった。
【0069】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.0μm、ライン抵抗は34Ω、体積抵抗率は14.0μΩ・cmであった。
【0070】
[比較例2]
表面調整剤の添加量を0.10g(Agインクに対して0.05質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を5.28gとした以外は、実施例8と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で312mPa・s、108(1/s)で158mPa・s、1000(1/s)で103mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が4.9mm(標準偏差0.15、変動係数3.1%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は17mmであった。
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は33Ω、体積抵抗率は14.7μΩ・cmであった。
【0071】
[比較例3]
表面調整剤の添加量を0.21g(Agインクに対して0.10質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を5.18gとした以外は、実施例8と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で312mPa・s、108(1/s)で171mPa・s、1000(1/s)で116mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が4.8mm(標準偏差0.06、変動係数1.3%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は10mmであった。
【0072】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は33Ω、体積抵抗率は14.1μΩ・cmであった。
【0073】
[比較例4]
表面調整剤の添加量を1.54g(Agインクに対して0.75質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を3.85gとした以外は、実施例8と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で30940mPa・s、108(1/s)で1891mPa・s、1000(1/s)で335mPa・sであり、粘度が非常に高く、チキソ比は92であった。また、ラメラ長は、粘度が高過ぎて測定することができなかった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は2.7mmであった。
【0074】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は30Ω、体積抵抗率は13.3μΩ・cmであった。
【0075】
[実施例11]
表面調整剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合物からなる表面調整剤(BYK社製のBYK333)(不揮発成分を97質量%以上含み、表面張力低下能力が高い)を使用し、この表面調整剤0.62g(Agインクに対して0.30質量%)とpH調整前に得られた上澄み液4.77gを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.83であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で392mPa・s、108(1/s)で167mPa・s、1000(1/s)で115mPa・sであり、チキソ比は3であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が3.2mm(標準偏差0.40、変動係数12.5%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0076】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.2μm、ライン抵抗は34Ω、体積抵抗率は15.9μΩ・cmであった。
【0077】
[実施例12]
表面調整剤の添加量を1.03g(Agインクに対して0.50質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を4.36gとした以外は、実施例11と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で1593mPa・s、108(1/s)で397mPa・s、1000(1/s)で182mPa・sであり、チキソ比は9であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が1.9mm(標準偏差0.09、変動係数4.6%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0078】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.4μm、ライン抵抗は31Ω、体積抵抗率は15.6μΩ・cmであった。
【0079】
[比較例5]
表面調整剤の添加量を1.54g(Agインクに対して0.75質量%)とし、pH調整前に得られた上澄み液の添加量を3.85gとした以外は、実施例11と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.85であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で18240mPa・s、108(1/s)で2041mPa・s、1000(1/s)で329mPa・sであり、粘度が非常に高く、チキソ比は55であった。また、ラメラ長は、粘度が高過ぎて測定することができなかった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は0mmであった。
【0080】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.1μm、ライン抵抗は31Ω、体積抵抗率は13.9μΩ・cmであった。
【0081】
[比較例6]
表面調整剤として76質量%のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと24質量%のポリグリコールとからなる表面調整剤(BYK社製のBYK348)(不揮発成分を96質量%以上含み、表面張力低下能力が高い)を使用し、この表面調整剤0.41g(Agインクに対して0.20質量%)とpH調整前に得られた上澄み液4.98gを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.84であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で347mPa・s、108(1/s)で127mPa・s、1000(1/s)で96mPa・sであり、チキソ比は4であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が5.1mm(標準偏差0.16、変動係数3.2%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は26mmであった。
【0082】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は2.0μm、ライン抵抗は33Ω、体積抵抗率は13.9μΩ・cmであった。
【0083】
[比較例7]
表面調整剤として85質量%のポリエーテル変性シロキサンと15質量%のポリエーテルとからなる表面調整剤(BYK社製のBYK349)(不揮発成分を94質量%以上含み、表面張力低下能力が高い)を使用し、この表面調整剤0.41g(Agインクに対して0.20質量%)とpH調整前に得られた上澄み液4.98gを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を作製し、pH、粘度およびラメラ長を測定した。その結果、銀微粒子分散液のpHは5.84であった。また、銀微粒子分散液の粘度は、11.7(1/s)で347mPa・s、108(1/s)で133mPa・s、1000(1/s)で94mPa・sであり、チキソ比は4であった。また、ラメラ長は6回の測定値の平均値が4.9mm(標準偏差0.10、変動係数2.1%)であった。また、実施例1と同様の方法により、銀微粒子分散液を塗布して、水かき状の薄膜の長さLを測定したところ、その平均値は24mmであった。
【0084】
また、この銀微粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法により、銀導電膜からなるRFIDアンテナを作製し、銀導電膜の膜厚および電気抵抗(ライン抵抗)を測定するとともに、銀導電膜の体積抵抗率を算出した。その結果、銀導電膜の膜厚は1.9μm、ライン抵抗は34Ω、体積抵抗率は13.9μΩ・cmであった。
【0085】
実施例および比較例の銀微粒子分散液の組成および特性とそれらの銀微粒子分散液を用いて作製した銀導電膜の特性を表1〜表3に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明による銀微粒子分散液は、プリンテッド・エレクトロニクスに適用することができ、例えば、印刷CPU、印刷照明、印刷タグ、オール印刷ディスプレイ、センサ、プリント配線板、有機太陽電池、電子ブック、ナノインプリントLED、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、印刷メモリなどの製造に使用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 RFIDアンテナ
図1A
図1B
図2