(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施形態に基づき、本発明を説明する。
図1に、本発明の積層体の構造の一例を示す。この積層体10は、バイオマスポリエチレン層11の両面に、それぞれ接着層14,15を介して表面層12,13が積層された構造を有する。
【0014】
バイオマスポリエチレン層11は、積層体10の中間層であって、バイオマスポリエチレンを主成分とする樹脂層である。バイオマスポリエチレンは、サトウキビやトウモロコシ等の植物に由来するバイオマスを出発原料として製造される。バイオマスが澱粉等の炭水化物である場合は、発酵を容易にするため、炭水化物を加水分解により糖に変換することが好ましい。糖を含有するバイオマスの発酵によってエタノール(いわゆるバイオエタノール)を生成し、エタノールの脱水反応により得られたエチレンをモノマーとして用いて重合することによりバイオマスポリエチレンが製造される。エチレンからポリエチレン(PE)への重合反応は、石油由来のエチレンを重合させる場合と同様である。
【0015】
バイオマスポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)等のようにエチレンのホモポリマーであってもよく、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のようにエチレンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。ポリエチレンに共重合させる他のモノマー(コモノマー)としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンが挙げられる。コモノマーは、植物等のバイオマスに由来する方法で製造されたものでもよく、石油由来のものでもよい。バイオマスポリエチレン層が、バイオマスLLDPE100%〜30%、バイオマスHDPE0%〜70%の組成からなると、成形性が向上する。
【0016】
石油由来ポリエチレンは、質量数14の放射性炭素(
14C)を含まないのに対し、バイオマスポリエチレンが
14Cを含むことから、両者の区別が可能である。バイオマス由来の炭素の割合(バイオマス度)は、
14Cの含有量に基づき測定可能である。バイオマスポリエチレン層11のバイオマス度は、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。
【0017】
バイオマスポリエチレン層11は、バイオマスポリエチレン以外の樹脂を含むことができる。バイオマスポリエチレン層11に含まれる樹脂のうちバイオマスポリエチレンの割合は、バイオマスの使用割合を高くする観点からは、重量比で50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。バイオマスポリエチレン以外の樹脂は、石油由来の樹脂でもよいが、バイオマスに由来する樹脂が好ましい。バイオマスポリエチレン層11は、樹脂以外の添加物を含んでもよい。これらの添加物は、バイオマスに由来しない物質であってもよい。
【0018】
バイオマスポリエチレン層11の厚さは、積層体10の全体の厚さの25%以上であることが好ましい。バイオマスポリエチレン層11の厚さの割合が大きいほど、バイオマスの使用割合を高くすることができる。また、PTP包装やブリスター包装のボトム材のように、積層体の両面から熱型で凹部または凸部をプレス成形する際、表面層12,13よりも低融点のバイオマスポリエチレン層11の流動性が高まり、成形性が向上する。
【0019】
表面層12,13は、積層体10の厚さ方向の両側の表面(表面および裏面)に、それぞれ設けられる。PTP包装やブリスター包装のボトム材のように、積層体の両面から熱型で凹部または凸部をプレス成形する場合、表裏面は中間層よりも耐熱性の高い樹脂とする必要がある。そこで、積層体10の両側の表面層12,13がポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂から選択されるいずれか1種類を含む層であることが好ましい。
【0020】
表面層12,13を構成するポリプロピレン(PP)系樹脂は、モノマーの重量比の50%以上がプロピレンである樹脂であればよい。つまり、プロピレンのホモポリマー(ホモポリプロピレン)でもよく、プロピレンと他のモノマーとの共重合体でもよい。ポリプロピレンに共重合させる他のモノマーとしては、エチレンのほか、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンが挙げられる。ポリプロピレンの具体例としては、ホモポリプロピレン、メタロセン系ポリプロピレン、ポリプロピレン系エラストマー、ブロックポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム(EPR)等が挙げられる。主成分であるホモポリプロピレン中に、エチレン−プロピレン共重合体やエラストマーが分散した構造を有するポリプロピレン系熱可塑性エラストマーは、耐熱性に柔軟性を兼ね備えているため、好ましい。このような熱可塑性エラストマーとして、リアクターメイドによるポリマーアロイも好ましい。
【0021】
一方の表面層12と他方の表面層13とは、互いに異なる樹脂であってもよいが、同一の樹脂であると加工性が向上し、好ましい。
【0022】
表面層12,13を構成するポリエチレン系樹脂は特に限定されるものではないが、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)や低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)の中から選択されるいずれか1種または2種以上が好ましい。ポリエチレン系樹脂は、バイオマスポリエチレン、石油由来のポリエチレン、両者の混合物のいずれでもよい。
【0023】
表面層12,13を構成するポリ塩化ビニルは特に限定されるものではないが、カレンダー成形もしくは押出成形されたフィルムもしくはシートで、ブリスター成形への加工性があるものが好ましい。
【0024】
表面層12,13を構成する塩化ビニリデン樹脂(ポリ塩化ビニリデン)は特に限定されるものではないが、あらかじめフィルムになったものを接着剤で貼り合わせてもよいし、エマルジョンとして分散されている液を塗布してもよいし、ポリ塩化ビニリデンを溶剤に溶解させた液を公知の手法で塗布してもよい。
【0025】
表面層12,13を構成するフッ素系樹脂は特に限定されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレンやポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体、エチレン・4フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体の中から選択されるいずれか1種または2種以上が好ましい。
【0026】
接着層14,15は、バイオマスポリエチレン層11と表面層12,13との間を接着する層である。接着層14,15を構成する樹脂が、バイオマスポリエチレン層11と表面層12,13との接着が可能な熱可塑性樹脂であれば、バイオマスポリエチレン層11および表面層12,13との共押出により積層体10を製造することが可能になるので好ましい。接着層14,15を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)とのブレンド樹脂や、エチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。表面層12,13のいずれか一方または両方とバイオマスポリエチレン層11とをドライラミネートにより積層する場合は、接着層14,15に接着剤を用いてもよい。
【0027】
表面層12,13のいずれか一方または両方がバイオマスポリエチレン層11と直接接着可能である場合、対応する接着層14,15のいずれか一方または両方は省略可能である。例えば、ポリエチレン層とバイオマスポリエチレン層とが共押出等で直接接着可能であれば、間に他の層を介在する必要はない。
【0028】
バイオマスポリエチレン層11と表面層12,13との間に介在する接着層14,15の層数は、それぞれ1層以上でもよく、2層以上であってもよい。バイオマスポリエチレン層11と表面層12,13との間に2層以上の接着層を設ける場合、バイオマスポリエチレン層11に近い側から表面層12,13に近い側に向けて、順に各層の組成を変えると、層間の組成の差を小さくして接着性を向上することができる。
【0029】
本実施形態の積層体10は、一方の表面層12、一方の接着層14、バイオマスポリエチレン層11、他方の接着層15、他方の表面層13の順に各層を積層することで製造することができる。接着層14,15が熱可塑性樹脂からなる場合、各層を共押出法により積層することも可能である。
【0030】
本実施形態の積層体10は、プレスによる凹凸の成形が容易であるため、PTP包装やブリスター包装のボトム材に好適である。医薬品を収納するPTP包装に適用した場合、毎日の服用後には廃棄される包装材料として環境負荷の少ないものを使用することにより、持続可能な社会に貢献することができる。本実施形態の積層体10は、十分な透明性を有するので、アルミ箔や板紙などの不透明な蓋材と組み合わせても内容物の視認性を確保することができ、歯ブラシ、電池、各種日用品などの包装に広く用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0032】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
ポリプロピレン層15μm/接着層10μm/バイオマスポリエチレン層200μm/接着層10μm/ポリプロピレン層15μmの5層を共押出でフィルム状に成形し、積層することにより、
図1に示す5層構成の積層体10を作製した。
【0033】
ここで、バイオマスポリエチレン層11のバイオマスポリエチレンとしては、ブラスケム(braskem)社製のLLDPE(SLL218)とHDPE(SGM9450F)との混合物を用いた。
また、表面層12,13のポリプロピレンとしては、プライムポリマー社製のホモポリプロピレンである、プライムポリプロ(登録商標)E103WAを用いた。
また、接着層14,15には、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)とのブレンド樹脂を用いた。
【0034】
バイオマスポリエチレン層11におけるLLDPEとHDPEとの配合比(表1参照)を6通りに変え、それぞれにより得られた積層体を実施例1〜4、比較例1〜2とした。
【0035】
ヤング率[MPa]の測定では、実施例1〜4、比較例1〜2についてi〜vの5回、異なるサンプルで測定を繰り返し、平均値を算出した。
【0036】
成形性は、成形不良の有無を目視で観察し、不良がない場合を「可」、不良が発見された場合を「不可」とした。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す試験結果のとおり、実施例1〜4の積層体は、バイオマスポリエチレンの使用割合が高く、PTP包装やブリスター包装に使用するのに十分なヤング率を有し、成形性にも問題がなかった。
【0039】
(実施例5〜10)
ポリプロピレン層15μm/接着層10μm/バイオマスポリエチレン層/接着層10μm/ポリプロピレン層15μmの5層を共押出でフィルム状に成形し、積層することにより、
図1に示す5層構成の積層体10を作製した。
【0040】
バイオマスポリエチレン層の厚さを6通りに変え、それぞれにより得られた積層体を実施例5〜10とした。バイオマスポリエチレンはLLDPE:HDPE=7:3の比率とした。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示す試験結果のとおり、実施例5〜10の積層体は、バイオマスポリエチレンの使用割合が高く、成形性にも問題がなかった。
【0043】
(実施例11〜16)
ポリエチレン層15μm/バイオマスポリエチレン層/接着層10μm/ポリプロピレン層15μmの4層を共押出でフィルム状に成形し、積層することにより4層構成の積層体を作製した。ポリエチレンは宇部丸善ポリエチレン製ユメリット(登録商標)140HKを使用した。
【0044】
バイオマスポリエチレン層の厚さを6通りに変え、それぞれにより得られた積層体を実施例11〜16とした。バイオマスポリエチレンはLLDPE:HDPE=7:3の比率とした。
【0045】
【表3】
【0046】
表3の通り、上で得たポリエチレン層/バイオマスポリエチレン層/接着層/ポリプロピレン層の多層シートは、成形性に問題がなかった。
【0047】
(実施例17〜18)
ポリプロピレン層15μm/接着層10μm/バイオマスポリエチレン層の構成品を多層製膜し、そのバイオマスポリエチレン層をコロナ処理した。バイオマスポリエチレンはLLDPE:HDPE=7:3の比率とした。また、三菱樹脂社製ポリ塩化ビニル(ビニホイル(登録商標)C−0475)200μmのシートに、旭化成製サランラテックス(登録商標)コート液(L549B)を2回塗布し乾燥させ、ポリ塩化ビニル/ポリ塩化ビニリデン積層シートを得た。ポリ塩化ビニリデンコーティングの厚さは15μmである。その後、バイオマスポリエチレン層に、ポリ塩化ビニル/ポリ塩化ビニリデン積層シートを、ポリ塩化ビニリデンが内側となるように、ドライラミネートし、PTPシートを得た。ここで使用したドライラミネート用接着剤は一般的なウレタン系の2液硬化型の接着剤(三井化学製タケラック(登録商標)A910、タケネート(登録商標)A12)が使用できた。
【0048】
バイオマスポリエチレン層の厚さを2通りに変え、それぞれにより得られた積層体を実施例17〜18とした。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の通り、上で得たポリプロピレン層/接着層/バイオマスポリエチレン層/ポリ塩化ビニリデン層/ポリ塩化ビニル層の積層シートは、成形性に問題がなかった。
【0051】
(実施例19〜20)
ポリプロピレン層15μm/接着層10μm/バイオマスポリエチレン層の3層を共押出でフィルム状に成形し、積層することにより3層構成の積層体を作製した。その後、バイオマスポリエチレン層の面をコロナ処理した。バイオマスポリエチレンはLLDPE:HDPE=7:3の比率とした。また、三菱樹脂社製ポリ塩化ビニル(ビニホイル(登録商標)C−0475)200μmのシートと旭化成ケミカル社製サラン(登録商標)UB15μmフィルムをドライラミネートし、ポリ塩化ビニル/ポリ塩化ビニリデン積層シートを得た。その後、バイオマスポリエチレン層に、ポリ塩化ビニル/ポリ塩化ビニリデン積層シートを、ポリ塩化ビニリデンが内側となるように、ドライラミネートし、PTPシートを得た。ここで使用したドライラミネート用接着剤は一般的な2液硬化型の接着剤(三井化学製タケラック(登録商標)A910、タケネート(登録商標)A12)が使用できた。
【0052】
バイオマスポリエチレン層の厚さを2通りに変え、それぞれにより得られた積層体を実施例19〜20とした。
【0053】
【表5】
【0054】
表5の通り、上で得たポリプロピレン層/接着層/バイオマスポリエチレン層/ポリ塩化ビニリデン層/ポリ塩化ビニル層の多層シートは、成形性に問題がなかった。
【0055】
(実施例21〜26)
ポリプロピレン層15μm/接着層10μm/バイオマスポリエチレン層の積層体を製膜し、バイオマスポリエチレン層の面をコロナ処理した。バイオマスポリエチレンはLLDPE:HDPE=7:3の比率とした。その後、フッ素系樹脂として、ハネウェル社製ポリテトラフルオロエチレンフィルムをバイオマスポリエチレン層にドライラミネートした。ここで使用したドライラミネート用接着剤は一般的な2液硬化型の接着剤(三井化学製タケラック(登録商標)A910、タケネート(登録商標)A12)が使用できた。ここで、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとドライラミネート用接着剤との合計の厚さは20μmであった。
【0056】
バイオマスポリエチレン層の厚さを6通りに変え、それぞれにより得られた積層体を実施例21〜26とした。
【0057】
【表6】
【0058】
表6の通り、上で得た、ポリテトラフルオロエチレンフィルム/バイオマスポリエチレン層/接着層/ポリプロピレン層の積層シートは、成形性に問題はなかった。