(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記未硬化材料供給工程は、前記溝を有する面が現れるように前記溝付き樹脂成形品を射出成形型に入れ、前記樹脂の熱変形温度以上の温度で前記未硬化材料を射出圧入し、前記溝に配する未硬化材料射出工程を含む、請求項2に記載の複合成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一の成形品と他の成形品とを接合したときの強度に関し、さらなる改良の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より高い接合強度を有する樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品の樹脂を一部除去し、繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を形成するとともに、この樹脂の熱変形温度以上の温度で未硬化材料を溝に配し、溝をかしめる方向に応力を加え、上記未硬化材料を硬化することで、溝で露出する繊維状無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の破壊を抑えるアンカーの役割を果たすとともに、他の成形品が溝でかしめられるため、結果として複合成形体の強度が著しく高まることを見出した。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1)本発明は、繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を有する溝付き樹脂成形品と、前記溝に接する凸部を有する他の成形品とを備え、前記凸部が前記溝でかしめられている複合成形品である。
【0009】
(2)また、本発明は、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品から樹脂の一部除去を行い、前記繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を形成し、溝付き樹脂成形品を得る溝形成工程と、前記樹脂の熱変形温度以上の温度で未硬化材料を前記溝に配し、前記溝をかしめる方向に応力を加える未硬化材料供給工程と、前記未硬化材料を硬化する硬化工程とを含む、複合成形品の製造方法である。
【0010】
(3)また、本発明は、前記未硬化材料供給工程が、前記溝を有する面が現れるように前記溝付き樹脂成形品を射出成形型に入れ、前記樹脂の熱変形温度以上の温度で前記未硬化材料を射出圧入し、前記溝に配する未硬化材料射出工程を含む、(2)に記載の複合成形品の製造方法である。
【0011】
(4)また、本発明は、前記樹脂の一部除去がレーザの照射により行われる、(2)又は(3)に記載の複合成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、溝で露出する繊維状無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の破壊を抑えるアンカーの役割を果たすとともに、他の成形品を溝でかしめることができるため、結果として複合成形体の強度が著しく高まる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0015】
<複合成形品1>
図1は本発明の複合成形品1の概略拡大断面の模式図である。複合成形品1は、溝付き樹脂成形品10と、溝に接する凸部を有する他の成形品20とを備える。溝付き樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤が側面より突出して露出された溝を有する。そして、他の成形品20の凸部は、溝付き樹脂成形品10の溝でかしめられている。
【0016】
〔溝付き樹脂成形品10〕
図2は、溝付き樹脂成形品10の概略拡大断面模式図である。溝付き樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11を含有する。また、溝付き樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11が側面より突出し露出された溝12を有する。
【0017】
[樹脂]
樹脂の種類は、レーザの照射等により除去され、結果として溝12を形成でき、複合成形品1を得る際に、他の成形品20の凸部を溝12でかしめることができるものであれば、特に限定されるものではなく、熱可塑性であってもよいし、熱硬化性であってもよい。樹脂の好適な材質として、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)等が挙げられる。
【0018】
レーザの照射により樹脂を一部除去するにあたり、レーザの吸収を調整する手法として、樹脂にレーザを吸収する配合剤の種類や添加量を調整することが挙げられる。このような配合剤としては、顔料や染料といったものが用いられ、カーボンブラックが効果的である。
【0019】
[繊維状無機充填剤11]
繊維状無機充填剤11は、樹脂成形品の樹脂の一部を除去することにより溝12を形成する際に、繊維状無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10に形成される溝において溝の側面より突出し露出されるものであれば、特に限定されない。
【0020】
繊維状無機充填剤11として、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー繊維、等を挙げることができ、単独もしくは混合して用いることが出来る。繊維状であれば、繊維状無機充填剤11が複合成形品1から脱落することを防止し、繊維状無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の分離を抑えるアンカーの役割を果たす。中でもガラス繊維が本願発明においては好適に用いられる。
【0021】
また、繊維状以外のガラスフレーク、マイカ、タルク、ガラスビーズなどの無機充填剤やその他の添加剤や改質剤などが、本発明の効果の発現を妨げない程度に配合されていても構わない。
【0022】
溝12で露出する無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を果たすにあたり、溝12においては、樹脂の一部が除去されることにより形成される凹凸の山13どうしを繊維状無機充填剤11が好適に架けていることが好ましい。
【0023】
繊維状無機充填剤11の含有量は特に限定されるものでないが、樹脂100重量部に対して5重量部以上80重量部以下であることが好ましい。5重量部未満であると、繊維状無機充填剤11が溝12で露出したとしても、この繊維状無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を十分に果たせない可能性がある。80重量部を超えると、繊維状無機充填剤11と溝12に配された他の成形品との係止効果が十分に発揮できない場合がある点で好ましくない。
【0024】
繊維状無機充填剤11を含有する樹脂材料の市販品として、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A1,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維・無機フィラー入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 6165A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPBT(製品名:ジュラネックス 3300、ポリプラスチックス社製)等を挙げることができる。
【0025】
[溝12]
樹脂成形品10の表面には溝12が形成されている。溝12では、繊維状無機充填剤11が露出されている。そして、樹脂の一部除去により溝12を形成するとともに溝の少なくとも表面側において側面から露出し溝に照射されるレーザを一部遮蔽する繊維状無機充填剤の一部を除去することにより、溝12の側面12aから繊維状無機充填剤11を溝側面より突出した状態で露出させることができる。繊維状無機充填剤11の少なくとも一部を除去することで、溝12に露出する繊維状無機充填剤によるレーザの遮蔽効果が減ることで、溝の深くまでレーザが効果的に照射出来るため、溝をより深くすることができ、これにより、他の樹脂成形品と複合成形したときのアンカー効果を高めることができる。また、他の成形品と一体化して複合成形品を得る際、少なくとも表面側において露出する繊維状充填剤の端部を突出する状態で一部を除去しとりわけ溝の中央部の繊維状無機充填剤を除去することで、流動状態にある他の成形品の溝への入り込みを容易にし、溝が深くとも高いアンカー効果を得ることができる。
【0026】
ところで、本発明は、溝付き樹脂成形品10の溝12を有する面を接触面として他の成形品20と一体化して複合成形品1を製造するところ、この複合成形品1において繊維状無機充填剤11は露出されていない。本明細書では、複合成形品1において繊維状無機充填剤11が露出していない場合であっても、複合成形品1から他の成形品20を取り除いた態様において溝12から繊維状無機充填剤11が露出していれば、「溝12において繊維状無機充填剤11が露出されている」ものとする。
【0027】
他の樹脂成形品と複合成形したときに溝の側面から無機充填剤が突出して露出することで十分なアンカー効果がより効果的に得られる点で、溝12の長手方向は、繊維状無機充填剤11の長手方向とは異なることが好ましい。
【0028】
樹脂成形品10の表面に形成される溝12は、複数の溝12を設けることにより、アンカーの効果がより高まる。溝12を複数形成する際、これら複数の溝12は、各々の溝が個別に形成されたものであってもよいし、一筆書きの要領で複数の凹凸からなる溝が一度に形成されたものであってもよい。溝の間隔は広くとっても良いが、溝幅より狭い方が溝に挟まれた山部が変形しかしめ易くなるので好ましい。
【0029】
複数の溝12は両端が繋がった溝12を等高線のように並べて設けても良いし、交差しない縞状に形成されても、溝12が交差する格子状に形成されてもよい。溝12を格子状に形成する場合は、溝12の長手方向が繊維状無機充填剤の長手方向とは異なる斜格子状に形成することが好ましい。また、溝12を格子状に形成する場合、溝12の形状はひし形状であっても良い。
【0030】
溝12の長さは特に限定されるものでなく、溝12が短い場合、開口部の形状は四角形であってもよいし、丸形や楕円形であってもよい。アンカー効果を得るためには、溝12は長い方が好ましい。
【0031】
また、溝12の深さDについても特に限定されるものではないが、より高いアンカー効果を得られる点で、溝12の深さは深い方が好ましく、深さDが浅いと、溝12で他の成形品20と接合して複合成形品1を形成する際に、溝12に露出する繊維状無機充填剤11と他の成形品20との間に十分なアンカー効果を生じないことから、溝付き樹脂成形品10と他の成形品20とを強固に密接できないことがある。
【0032】
〔他の成形品20〕
図1に戻り、他の成形品20について説明する。他の成形品20は、未硬化状態の場合に、繊維状無機充填剤11が露出された溝12に入ることが可能なものであれば特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等)、ゴム、接着剤、金属等のいずれであってもよい。
【0033】
本発明では、他の成形品20は、溝12に接する凸部を有し、この凸部は、溝12でかしめられている。凸部が溝12でかしめられることにより、溝における密着性が高まる。また、高いアンカー効果を得るため、凸部は、溝12の内部において、繊維状無機充填剤11を囲むように配置されることが好ましい。
【0034】
<複合成形品1の製造方法>
本発明に係る複合成形品1の製造方法は、繊維状無機充填剤11を含有する樹脂成形品から樹脂の一部除去を行い、繊維状無機充填剤11が側面より突出して露出された溝12を形成し、溝付き樹脂成形品10を得る溝形成工程と、樹脂の熱変形温度以上の温度で未硬化材料を溝12に配し、溝12をかしめる方向に応力を加える未硬化材料供給工程と、未硬化材料を硬化する硬化工程とを含む。
【0035】
図3は、多重成形によって複合成形品1を得るときの概略説明図である。まず、
図3の(1)に示すように、1次樹脂を1次成形し、溝付き樹脂成形品予備体10’を作製する。続いて、
図3の(2)に示すように、予備体10’の表面の少なくとも一部に対し、樹脂の部分的除去を行い、溝12を形成する。これによって、溝付き樹脂成形品10が作製される。
【0036】
続いて、
図3の(3)に示すように、溝付き樹脂成形品10を金型(図示せず)に入れ、この金型の内部に、溝12を有する面を接触面として、未硬化材料(他の成形品20を構成する材料の未硬化物であり、2次樹脂のほか、ゴム、接着剤、金属等が挙げられる。)を封入する。そして、未硬化材料を硬化する。
図3の(2)が上記溝形成工程に相当し、
図3の(3)が上記未硬化材料供給工程及び上記硬化工程に相当する。
【0037】
〔溝形成工程〕
溝形成工程は、繊維状無機充填剤11を含有する樹脂成形品から樹脂の一部除去を行い、繊維状無機充填剤11が側面より突出して露出された溝12を形成し、溝付き樹脂成形品10を得る工程である。溝を形成する手法は特に限定されるものでないが、例えば、繊維状無機充填剤11を含有する樹脂成形品にレーザの照射を行い、樹脂を部分的に除去することが挙げられる。なお、この手法は一例であり、レーザ以外の樹脂の部分除去手段を用いても構わない。
【0038】
レーザの照射は、照射対象材料の種類や組成、レーザ装置の出力等をもとに設定される。
【0039】
〔未硬化材料供給工程〕
未硬化材料供給工程は、樹脂の熱変形温度以上の温度で未硬化材料を溝12に配し、溝12をかしめる方向に応力を加える工程である。この工程は、溝付き樹脂成形品10の一部を変形させて、他の成形品20の凸部を溝12でかしめることができるものであれば、特に限定されるものではないが、射出成形による多重成形法が好ましく用いられる。
【0040】
多重成形の例として、溝12を有する面が現れるように溝付き樹脂成形品10を射出成形型に入れ、樹脂の熱変形温度以上の温度で未硬化材料を射出圧入し、溝12に配する未硬化材料射出工程が挙げられる。
【0041】
射出圧は、溝に入り込み、溝の側面より突出して露出された繊維状無機充填剤を囲んで、繊維状無機充填剤とのアンカー効果を発揮できるだけの射出圧及び充填後の保圧であればよい。
【0042】
射出速度は、射出圧入の際に、溝に未硬化材料が入り込み溝をかしめることができる射出速度であればよい。
【0043】
〔硬化工程〕
硬化工程は、未硬化材料供給工程で供給した未硬化材料を硬化する工程である。これら溝形成工程、未硬化材料供給工程及び硬化工程を経ることで、多重成形による硬化性樹脂との複合成形品1が得られる。また、同様に、上記未硬化材料を加熱溶融した熱可塑性樹脂とすることにより、多重成形による熱可塑性樹脂との複合成形品1が得られる。この際、溝付き樹脂成形品を構成する樹脂の軟化温度もしくはガラス転移温度以上で2次樹脂を金型に射出注入することにより、溝への2次樹脂の充填と、溝を形成する樹脂成形品の一部に応力をかけて変形させかしめることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を予備試験例及び実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
〔溝付き樹脂成形品〕
ガラス繊維入りポリブチレンテレフタレート(製品名:ジュラネックス(登録商標)PBT 3316,ウィンテックポリマー社製)を下記(ジュラネックスにおける射出成形の条件)に記載の条件で射出成形した射出成形品に、照射回数が10回になるように、射出成形品の表面に対して垂直方向から斜格子状に照射した。レーザの発振波長は1.064μm、最大定格出力は13W(平均)とし、出力は90%、周波数は40kHz、走査速度は1000mm/sとした。これにより、溝幅が100μmで格子状の溝付き樹脂成形品を得た。
(ジュラネックスにおける射出成形の条件)
予備乾燥:140℃、3時間
シリンダ温度:250℃
金型温度:60℃
射出速度:20mm/sec
保圧:80MPa(800kg/cm
2)
【0046】
〔複合成形品の製造〕
上記溝付き樹脂成形品について、レーザの照射によって形成された溝を有する面を接触面として射出成形用金型にインサートし、ポリアセタール樹脂(製品名:ジュラコン(登録商標)POM M90−44,ポリプラスチックス社製)を下記(ジュラコンにおける射出成形の条件)に記載の条件で射出成形した。これにより、実施例に係る複合成形品を得た。
(ジュラコンにおける射出成形の条件)
予備乾燥:80℃、3時間
シリンダ温度:190℃
金型温度:80℃
射出速度:16mm/sec
保圧:80MPa(800kg/cm
2)
【0047】
〔評価〕
上記の溝付き樹脂成形品について、溝を有する面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。また、実施例に係る複合成形品を接合面で破壊した後、接合部破壊面及び溝部断面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。いずれも倍率は100倍とした。結果を
図4〜
図6及び表1に示す。
【表1】
【0048】
図4〜
図6及び表1から、異材質の組合せであっても、溝に露出する無機充填剤と他の成形品とのアンカー効果と、樹脂成形品によるかしめ効果により強固に接合していることが明らかである。また、溝部の樹脂成形品と他の成形品との接合状態によれば、溝部で樹脂成形品と他の成形品の界面に隙間は見られず、溝部で高いシール性が得られることは明白である。