特許第6355671号(P6355671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6355671Cu−Ni−Si系銅合金条及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355671
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】Cu−Ni−Si系銅合金条及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20180702BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20180702BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20180702BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   C22C9/06
   C22F1/08 B
   C22F1/08 P
   H01B1/02 A
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 613
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-70077(P2016-70077)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179511(P2017-179511A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 知亮
(72)【発明者】
【氏名】中妻 宗彦
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−013836(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/006053(WO,A1)
【文献】 特開2009−068114(JP,A)
【文献】 特開2011−162848(JP,A)
【文献】 特表平08−507104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
C22F 1/00− 1/18
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:1.5〜4.5質量%、Si:0.4〜1.1質量%を含有し、残部Cu及び不可避的不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金条であって、
導電率が30%IACS以上、引張強さが800MPa以上であり、
結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、
ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、すべてのオイラー角における結晶方位の極密度が12以下であるCu−Ni−Si系銅合金条。
【請求項2】
さらに、Mg、Fe、P、Mn、Co及びCrの群から選ばれる一種以上を合計で0.005〜0.8質量%含有する請求項1記載のCu−Ni−Si系銅合金条。
【請求項3】
Ni:1.5〜4.5質量%、Si:0.4〜1.1質量%を含有し、残部Cu及び不可避的不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金条のインゴットを熱間圧延後に、溶体化処理、時効処理、材料温度220〜280℃、均熱時間が24時間以上の拡散熱処理をこの順で行い、さらに加工度40%以上で拡散熱処理後冷間圧延を行う請求項1又は2記載のCu−Ni−Si系銅合金条の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料などの電子部品の製造に好適に使用可能なCu−Ni−Si系銅合金条及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICパッケージの小型化に伴い、リードフレーム、電子機器の各種端子、コネクタなどの小型化、ひいては、多ピン化が要求されている。特に、QFN(quad flat non-leaded package)と称される、LSIパッケージのランドに電極パッドを配置し、リードピンを出さない構造が開発されており、多ピン化、狭ピッチ化がさらに要求される。これらリードフレーム等を多ピン化するにはエッチングによる微細加工が必要になるため、材料となる銅合金の強度を向上させると共に、エッチング性を向上させることが要求される。
そこで、介在物の個数を規制し、粗大な介在物によるエッチング性の低下を抑制した技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−49369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、介在物の個数を規制するとエッチング不良は改善するが、銅合金の母材自身に生じる表面凹凸を改善することができない。そのため、エッチング後の表面に「アラビ」と呼ばれるガサツキが生じ、微細加工の妨げとなるという問題がある。又、特殊なエッチング液等を使用することで、エッチング後の表面凹凸を低減することは可能であるが、エッチング作業が煩雑になり、生産性の低下やコストアップを招くおそれがある。
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、強度を向上させると共に、エッチング後の表面凹凸を低減させたCu−Ni−Si系銅合金条及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは種々検討した結果、銅合金のあらゆる結晶方位の極密度がいずれも12以下であれば、各結晶方位によるエッチング速度の差が小さくなり、エッチング後の表面凹凸が低くなってエッチング性(例えばソフトエッチング性)が向上することを見出した。
【0006】
すなわち、本発明のCu−Ni−Si系銅合金条はNi:1.5〜4.5質量%、Si:0.4〜1.1質量%を含有し、残部Cu及び不可避的不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金条であって、導電率が30%IACS以上、引張強さが800MPa以上であり、結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、すべてのオイラー角における結晶方位の極密度が12以下である。
【0007】
さらに、Mg、Fe、P、Mn、Co及びCrの群から選ばれる一種以上を合計で0.005〜0.8質量%含有することが好ましい。
【0008】
本発明のCu−Ni−Si系銅合金条の製造方法は、請求項1又は2記載のCu−Ni−Si系銅合金条の製造方法であって、Ni:1.5〜4.5質量%、Si:0.4〜1.1質量%を含有し、残部Cu及び不可避的不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金条のインゴットを熱間圧延後に、溶体化処理、時効処理、材料温度220〜280℃、均熱時間が24時間以上の拡散熱処理をこの順で行い、さらに加工度40%以上で拡散熱処理後冷間圧延を行う。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度が高く、エッチング後の表面凹凸を低減させたCu−Ni−Si系銅合金条が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】オイラー角(φ1、Φ、φ2)を示す図である。
図2】実施例4の結晶方位分布関数ODFを示す図である。
図3】比較例18の結晶方位分布関数ODFを示す図である。
図4図2図3の19個のグラフのφ2を示す図である。
図5図2図3の19個のグラフのΦ、φ1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るCu−Ni−Si系銅合金条について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0012】
まず、銅合金条の組成の限定理由について説明する。
<Ni及びSi>
Ni及びSiは、時効処理を行うことによりNiとSiが微細なNiSiを主とした金属間化合物の析出粒子を形成し、合金の強度を著しく増加させる。また、時効処理でのNiSiの析出に伴い、導電性が向上する。ただし、Ni濃度が1.5%未満の場合、またはSi濃度が0.4%未満の場合は、他方の成分を添加しても所望とする強度が得られない。また、Ni濃度が4.5%を超える場合、またはSi濃度が1.1%を超える場合は十分な強度が得られるものの、導電性が低くなり、更には強度の向上に寄与しない粗大なNi−Si系粒子(晶出物及び析出物)が母相中に生成し、曲げ加工性、エッチング性およびめっき性の低下を招く。よって、Niの含有量を1.5〜4.5%とし、Siの含有量を0.4〜1.1%とする。好ましくは、Niの含有量を1.6〜3.0%とし、Siの含有量を0.4〜0.7%とする。
【0013】
<その他の元素>
さらに、上記合金には、合金の強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善する目的で、更にMg,Fe,P,Mn,Co及びCrの群から選ばれる一種以上を合計で0.005〜0.8質量%含有することができる。これら元素の合計量が0.005質量%未満であると、上記効果が生じず、0.8質量%を超えると所望の特性は得られるものの、導電性や曲げ加工性が低下することがある。
【0014】
<導電率と引張強さTS>
本発明の実施形態に係るCu−Ni−Si系銅合金条は、導電率が30%IACS以上、引張強さTSが800MPa以上である。
半導体素子の動作周波数の増大に伴い、通電による発熱が増大するので、銅合金条の導電率を30%IACS以上とする。
又、ワイヤボンディングする際のリードフレームの変形等を防止し、形状を維持するため、引張強さTSを800MPa以上とする。
【0015】
<各結晶方位の極密度>
本発明の実施形態に係るCu−Ni−Si系銅合金条は、結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、すべてのオイラー角(φ1,Φ,φ2のそれぞれは0〜90°)の結晶方位の極密度が12以下である。
【0016】
ここで、オイラー角(φ1、Φ、φ2)は、図1に示すように、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組(φ1,Φ,φ2)をいう。オイラー角(φ1、Φ、φ2)は、図1に示すBunge方式で表される。又、「RD」は圧延方向、「ND」は圧延面に垂直な方向、「TD」は幅方向である。
本発明の実施形態に係るCu−Ni−Si系銅合金条のすべての結晶方位の極密度がいずれも12以下であれば、各結晶方位によるエッチング速度の差が小さくなり、エッチング後の表面凹凸が低くなってエッチング性が向上する。その結果、エッチング精度が向上して微細加工が可能となり、例えばリードフレーム等の多ピン化、狭ピッチ化を行うことができる。
【0017】
一方、いずれかのオイラー角における結晶方位の極密度が12を超えると、その結晶方位のエッチング速度が他の方位のエッチング速度と大きく異なってしまい、エッチング後の表面凹凸が大きくなる。
結晶方位の極密度の下限は特に制限されないが、銅粉同様のランダム方位の極密度である1が下限値である。
すべての結晶方位の極密度をいずれも12以下に制御する方法としては、時効処理の後に「拡散熱処理及びその後の冷間圧延」を行うことが挙げられる。拡散熱処理及び拡散熱処理後冷間圧延については後述する。
【0018】
<Cu−Ni−Si系銅合金条の製造>
本発明の実施形態に係るCu−Ni−Si系銅合金条は、通常、インゴットを熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、拡散熱処理、拡散熱処理後冷間圧延、歪取焼鈍の順で行って製造することができる。溶体化処理前の冷間圧延は必須ではなく、必要に応じて実施してもよい。また、溶体化処理後で時効処理前に冷間圧延を必要に応じて実施してもよい。上記各工程の間に、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト、酸洗等を適宜行うことができる。
【0019】
溶体化処理は、Ni−Si系化合物などのシリサイドをCu母地中に固溶させ、同時にCu母地を再結晶させる熱処理である。溶体化処理を、熱間圧延で兼ねることもできる。
時効処理は、溶体化処理で固溶させたシリサイドを、NiSiを主とした金属間化合物の微細粒子として析出させる。この時効処理で強度と導電率が上昇する。時効処理は、例えば375〜625℃、0.5〜50時間の条件で行うことができ、これにより強度を向上させことができる。
【0020】
<拡散熱処理及び拡散熱処理後冷間圧延>
時効処理の後、拡散熱処理を行う。拡散熱処理は、例えば材料温度220〜280℃、均熱時間が24時間以上の条件で行うことができる。
時効処理では、上述のようにマトリクス(母材)中のNi,SiがNiSi等の金属間化合物として析出するが、析出粒子近傍のマトリクスのNi,Siが消費され、周囲に比べてNi,Siの濃度が低下する。つまり、析出粒子・マトリクス境界から周囲のマトリクスへ向けてNi,Siの濃度勾配が生じる。そして、マトリクス中にこのような濃度勾配が生じると、濃度(組成)の差が組織の差となって極密度が12より大きい方位が発生する。
そこで、低温加熱となる拡散熱処理を行うことで、マトリクス中の濃度勾配が低減して一様になるようにNi,Siが拡散し、圧延後の組織が一方向に集合しなくなる(極密度が低くなる)。
【0021】
拡散熱処理の温度が220℃未満、又はその時間が24時間未満の場合、拡散熱処理が不十分となり、母材(マトリックス)の濃度勾配が低減せず、組成が不均一となって極密度が12を超える結晶方位が生じてしまう。
拡散熱処理の温度が280℃を超える場合、拡散熱処理が過度となって、NiSiを主とした金属間化合物の析出が顕著になり、同様に母材(マトリックス)の組成が不均一になって結晶方位の極密度が12を超えてしまう。
なお、拡散熱処理の時間は24時間以上であれば良いが、24〜36時間が好ましい。
【0022】
次に、拡散熱処理の後に冷間圧延(拡散熱処理後冷間圧延)を加工度40%以上で行う。上述の溶体化処理によって再結晶組織が残り、拡散熱処理を十分に行っても極密度が大きくなる原因となる。
そこで、拡散熱処理後に加工度40%以上の冷間圧延を行えば、溶体化処理によって生じた再結晶集合組織を加工によって消失することができる。又、上述のNiSi等の析出粒子は、圧延加工によって特定方位への集合が生じることを抑制する。これらの効果の兼ねあいにより、極密度が低減する。
拡散熱処理後冷間圧延の加工度が40%未満であると、溶体化によって残った再結晶組織を十分に消失させることが困難であり、極密度が12を超える結晶方位が生じてしまう。
【0023】
拡散熱処理後冷間圧延の加工度は40〜90%が好ましい。加工度が90%を超えると、強加工によって特定の方位の極密度が大きくなり、析出粒子による特定方位の成長を抑制する効果を上回り、極密度が12を超える結晶方位が生じることがある。
拡散熱処理後冷間圧延の加工度は、拡散熱処理後冷間圧延の直前の材料厚みに対する、拡散熱処理後冷間圧延による厚みの変化率である。
本発明のCu−Ni−Si系銅合金条の厚みは特に限定されないが、例えば0.03〜0.6mmとすることができる。
【実施例】
【0024】
各実施例及び各比較例の試料を、以下のように作製した。
電気銅を原料とし、大気溶解炉を用いて表1、表2に示す組成の銅合金を溶製し、厚さ20mm×幅60mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを950℃で板厚10mmまで熱間圧延を行った。熱間圧延後、研削し、冷間圧延、溶体化処理をこの順に行った。
次に、表1、表2に示す条件で、時効処理及び拡散熱処理をこの順に行った。その後、表1、表2に示す加工度で拡散熱処理後冷間圧延を行い、100〜200℃で1〜30秒の歪取焼鈍を行って板厚0.126mmの試料を得た。
【0025】
<導電率(%IACS)>
得られた試料につき、JIS H0505に基づいて4端子法により、25℃の導電率(%IACS)を測定した。
【0026】
<引張強さ(TS)>
得られた試料につき、引張試験機により、JIS−Z2241に従い、圧延方向と平行な方向における引張強さ(TS)をそれぞれ測定した。まず、各試料から、引張方向が圧延方向になるように、プレス機を用いてJIS13B号試験片を作製した。引張試験の条件は、試験片幅12.7mm、室温(15〜35℃)、引張速度5mm/min、ゲージ長さ50mmとした。
【0027】
<結晶方位の極密度>
得られた試料につき、X線回折法を用いて試料の表面の正極点測定を行った。X線回折装置は、株式会社リガク製RINT−2000を用い、Schulz反射法で測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
X線源:コバルト、加速電圧:30kV、管電流:100mA、発散スリット:1°、発散縦制限スリット:1.2mm、散乱スリット:7mm、受光スリット:7mm
α角度ステップ:5°、β角度ステップ:5°、計数時間:2秒/ステップ
但し、反射法では、試料面に対するX線の入射角が浅くなると測定が困難になるため、実際に測定できる角度範囲は正極点図上で0°≦α≦75°、0°≦β≦360°(但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸、β:前記回転軸に平行な軸)となる。
【0028】
得られた測定結果を株式会社リガク製ソフトウェアPole Figure DataProcessingを用いて極点図化し、株式会社ノルム工学製の立方晶用結晶方位分布関数の解析プログラム(製品名:Standard ODF)により結晶方位分布関数ODF(Orientation Dsitribution Function)を求め、すべてのオイラー角における結晶方位の極密度を出力した。そして、それらの中から極密度の最大値を求めた。なお、オイラー角は5°刻みで上記ソフトウェアから出力される。
なお、完全にランダムな結晶方位を有する材料では、すべてのオイラー角における結晶方位の極密度が1となるので、この値に対して規格化した値が試料の極密度の数値である。
【0029】
なお、図2図3は、それぞれ後述する実施例4、比較例18の結晶方位分布関数ODFを示す。ここで、図2図3は、右下の表示を除き、縦5つ、横4つの19個のグラフを合わせて一覧表示したものであり、各グラフのφ2(0〜90°:5°刻み)を図4に示す。又、図5に示すように、個々のグラフの縦軸がΦ、横軸がφ1であり、各グラフを示すボックスの上から下へ向かってΦ=0〜90°の値を採り、各グラフを示すボックスの左から右へ向かってΦ1=0〜90°の値を採る。
【0030】
<エッチング性>
得られた試料の両面につき、濃度47ボーメに調整した液温40℃の塩化第二鉄水溶液を1〜5分スプレーし、板厚が0.063mm(元の0.126mmの半分の厚み)になるように調整してエッチングした。コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社製、型番:HD100D)を用い、エッチング後表面を圧延平行方向に基準長さ0.8mm、評価長さ4mmとしてJIS B0601(2013)に準ずる算術平均粗さRaを測定した。
エッチング後の算術平均粗さRaが0.15μm未満であれば、エッチング後の凹凸が少なくエッチング性に優れる。
【0031】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1、表2から明らかなように、すべてのオイラー角における結晶方位の極密度が12以下である各実施例の場合、強度が高くてリード変形が少ないと共に、エッチング後の表面凹凸が低減された。
【0035】
一方、拡散熱処理を実施しなかった比較例1〜4の場合、結晶方位の極密度が12を超え、エッチングの表面凹凸が高くなった。なお、比較例3はNiの含有量が規定範囲未満であったため、引張強さが800MPa未満となった。又、比較例4はNi及びSiの含有量が規定範囲を超えたため、導電率が30%IACS未満となった。
拡散熱処理の温度が280℃を超えた比較例5〜9の場合、結晶方位の極密度が12を超え、エッチングの表面凹凸が高くなった。これは、拡散熱処理の温度が高いためにシリサイドの析出が顕著に生じ、マトリクス中のNi,Siに濃度勾配(組成の不均一)が生じたためと考えられる。なお、比較例9はNi及びSiの含有量が規定範囲を超えたため、導電率が30%IACS未満となった。
【0036】
拡散熱処理の温度が220℃未満の比較例10,11の場合、及び拡散熱処理の時間が24時間未満の比較例12〜16の場合、結晶方位の極密度が12を超え、エッチングの表面凹凸が高くなった。なお、比較例15はNiの含有量が規定範囲未満であったため、引張強さが800MPa未満となった。又、比較例16はSiの含有量が規定範囲を超えたため、導電率が30%IACS未満となった。
拡散熱処理後冷間圧延の加工度が40%未満の比較例17〜21の場合も、結晶方位の極密度が12を超え、エッチングの表面凹凸が高くなった。なお、比較例20はSiの含有量が規定範囲未満であったため、引張強さが800MPa未満となった。又、比較例21はNi,Siの含有量が規定範囲を超えたため、導電率が30%IACS未満となった。
図1
図2
図3
図4
図5