特許第6356013号(P6356013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356013
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】パーム椰子種子殻の貯蔵方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20180702BHJP
   B01D 53/38 20060101ALI20180702BHJP
   F23G 5/02 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B09B3/00 303Z
   B01D53/38 150
   F23G5/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-171269(P2014-171269)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-43335(P2016-43335A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】河村 義人
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−170191(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/023479(WO,A1)
【文献】 特開2012−046662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00 − 5/00
B09C 1/00 − 1/10
B01D 53/34 − 53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
F23C 9/08
F23C 13/00 − 13/08
F23C 99/00
F23D 1/00 − 1/06
F23D 17/00 − 99/00
F23G 5/02
F23G 5/033− 5/12
F23G 5/44 − 5/48
F23K 1/00 − 3/22
C10L 5/00 − 7/04
C10L 9/00 − 11/08
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーム椰子種子殻を、発電設備から発生する抽気蒸気を使用した熱処理設備にて、50℃以上の温度で加熱処理した後、貯蔵することを特徴とするパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【請求項2】
前記熱処理設備からの排ガスを無害化処理する排ガス処理手段を有する請求項1記載のパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【請求項3】
前記排ガス処理手段が、排ガスを水と接触させて臭気成分を吸収除去する手段である請求項2記載のパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【請求項4】
前記排ガス処理手段が、排ガスを発電設備におけるボイラーの火炉に供給して臭気成分を燃焼せしめる手段である請求項2記載のパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【請求項5】
前記加熱処理により、パーム椰子種子殻の含水率が15質量%以下となるように調整する請求項1〜4のいずれか一項に記載のパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーム椰子種子殻の新規な貯蔵方法に関する。詳しくは、簡便で、且つ、安価な処理により、通常の貯蔵方法で長期にわたり貯蔵した場合においても、不快臭が効果的に低減することが可能な、パーム椰子種子殻の貯蔵方法である。
【背景技術】
【0002】
火力発電に使用する石油や石炭等の化石燃料の利用を抑制するため、近年、種々のバイオマス燃料が検討されている。その中に、PKSがある。上記PKSは、パーム椰子の果肉から分離され、胚平からパーム核油を搾取した後の殻であり、燃焼時の発熱量は4400kca1/Kgと木屑と比較して高いものである。
【0003】
前記パーム椰子の生産量の増大と共に年間400万トン程のPKSが発生し、その処理が問題となっている中で、該PKSを大量に処理する手段の一つとして、石炭等の発電用燃料としての利用が検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
ところが、PKSは、産地で収集され、燃料庫に移送されるが、成分として低級脂肪酸を含有し、かかる低級脂肪酸が菌により分解して生じる分解物は不快臭が強く、そのため、作業環境や周囲の環境に及ぼす影響を低減することも課題として存在していた。それ故、使用に向けて、貯蔵設備に大量に保存することができず、使用量も限られていた。
【0005】
前記かかる不快臭を防止する方法として、消臭剤の散布等が検討されているが、安価な燃料として優位性があるPKSに対して、処理費用の増大は経済的に困難であり、臭気対策が実用化に向けての大きな壁となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−268394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、簡便で、且つ、安価な処理により、野積みによる貯蔵や屋内貯蔵などの通常の方法による長期の貯蔵においても、PKSの不快臭の低減が可能な貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ねた結果、PKSを、発電設備の廃蒸気である、抽気蒸気を使用して、特定の温度で加熱処理することにより、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、輸送手段により搬送されたパーム椰子種子殻を、発電設備から発生する抽気蒸気を使用した熱処理設備に直接供給し、該熱処理設備にて、80℃以上の温度で加熱処理した後、貯蔵することを特徴とするパーム椰子種子殻の貯蔵方法が提供される。
【0010】
本発明の方法においては、
(1)前記熱処理設備からの排ガスを無害化処理する排ガス処理手段を有すること、
(2)前記排ガス処理手段が、排ガスを吸収液と接触させて臭気成分を吸収除去する手段であること、
(3)前記排ガス処理手段が、排ガスを発電設備におけるボイラーの火炉に供給して臭気成分を燃焼せしめる手段であること、
(4)前記加熱処理により、パーム椰子種子殻の含水率が15質量%以下に調整すること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加熱処理後のPKSは、不快臭の発生が少ないため、長期間にわたって大量に通常の方法により貯蔵することが可能となる。また、貯蔵設備からの移送時、破砕時、火炉、バーナー等への供給時などにおいても、周囲の環境への影響を低減することができる。
【0012】
更には、前記加熱処理の熱源として発電設備の廃熱として扱われる抽気蒸気を利用することにより、工業的に極めて有利に上記加熱処理を実施できることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、PKSは、パーム核油を採取後の殻である。上記PKSは、入手後直ちに本発明の方法を適用することができるが、一般に入手可能なPKSには、パーム椰子房、パーム椰子ファイバー、石、木屑等の異物を含んでいることが多く、これらの異物は、後工程で目詰まりを起こし、更には、発電設備のボイラーでの燃焼を妨げるので、本発明の後述する加熱処理を実施する前に除去することが好ましい。かかる除去方法は特に限定されないが、メッシュ30mm×30mm〜メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩にPKSをかけ、通過分を回収する方法が簡便であり、しかも、十分な除去効果を有する。
【0014】
上記PKSは、通常、船舶等の輸送手段により搬送されるが、かかる搬送されたPKS、或いは、更に、コンテナーなど輸送手段に移し替えて他の場所に搬送されたPKSに対して本発明を適用する。
【0015】
本発明において、上記搬送後のPKSに対して、先ず、50℃以上、好ましくは、70℃以上の温度で加熱処理を行うことを特徴とする。
【0016】
即ち、上記加熱処理を実施することにより、PKSの乾燥を十分行うことができ、不快臭の原因である臭気成分の低減と菌の活性を低下することができ、密閉した貯蔵設備での貯蔵を必要とせず、野積みなどによる、通常の貯蔵方法を問題無く採用することが可能となる。
【0017】
尚、前記加熱温度が50℃より低い場合、長時間の処理が必要であり、工業的に不利となる。また、上記温度の上限は、特に制限されないが、抽気蒸気の温度やそれを利用する熱処理設備の構造などを勘案すれば、115℃未満とすることが好ましい。
【0018】
また、前記加熱処理時間は、PKSが所定の温度まで加熱されれば特に制限されないが、好ましくは、加熱処理後のPKSの水分量が15質量%以下、好ましくは、12質量%以下、特に、10質量%以下となるように前記温度下で処理することが好ましい。
【0019】
本発明において、上記加熱処理は、発電設備から発生する抽気蒸気を使用した熱処理設備にPKSを供給して実施される。上記抽気蒸気は、一般に100〜150℃程度の蒸気であり、かかる熱を利用して、安価に大量のPKSの加熱処理を実施することができる。また、処理されるPKSは、例えば、石炭と混焼して発電のためのエネルギー源とされるため、発電設備からの廃蒸気としての抽気蒸気を使用することは、エネルギーのリサイクルの点においても、工業的に極めて有利である。
【0020】
上記の抽気蒸気を使用するPKSの加熱方法は特に制限されないが、抽気蒸気に含まれる水分がPKSに混入しないように、抽気蒸気と石炭とを接触させずに加熱する間接加熱方式の構造を有していることが望ましい。このような構造の乾燥機は、例えば、回転する円筒の内部に複数のチューブ状加熱管が設けられており、この加熱管に抽気蒸気を流すことにより、円筒内部を流れる石炭を加熱するという構造を有しているもの(チューブロータリードライヤと呼ばれる)が好適である。
【0021】
また、本発明において、前記輸送手段から上記熱処理設備へのPKSの供給方法に関しても特に制限されないが、可及的に外気と遮断した状態、即ち、臭気成分が大気に放散され難い状態での供給方法が推奨される。例えば、船の船倉、或いはコンテナーから熱処理設備までの輸送においては、フード付きコンベアーで搬送する方法が好適である。
【0022】
更に、本発明において、前記加熱処理により、熱処理設備から発生する排ガスを無害化処理する排ガス処理手段を有することが好ましい。かかる処理設備としては、公知の設備が特に制限無く採用することができるが、排ガスを水等の吸収液と接触させて臭気成分を吸収除去する吸収除去手段、排ガスを発電設備におけるボイラーの火炉に供給して臭気成分を燃焼せしめる燃焼除去手段が好適である。そのうち、後処理が必要無い、燃焼除去手段が好適である。
【0023】
本発明において、前記加熱処理されたPKSは、不快臭が低減され、また、不快臭を発生する菌の活性が低下された状態にあるため、貯蔵中における不快臭の生成が少ない。
【0024】
従って、上記加熱処理されたPKSは、密閉した貯蔵設備を必要とせず、野積みにより大量に貯蔵することができる。但し、貯蔵中における水分量の増加を防止するため、屋根付きの貯蔵設備にて貯蔵することがより好ましい。
【実施例】
【0025】
以下本発明を更に具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
尚、実施例において、貯蔵中のPKSの臭気試験は、任意に抽出した100人のモニターに対して、約1tのPKSを野積みした後、無風状態で、貯蔵場から5mの位置にて、不快臭の度合いを以下の3段階で評価して貰い、その評価結果を示した。
【0027】
A:不快臭が殆ど無い
B:若干の不快臭を感じる
C:激しい不快臭を感じる
実施例1
【0028】
先ず、パーム核油を採取後のPKSを、搬送手段である船舶の船倉より取り出し、メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩に掛けて異物を除去した後、フード付きのベルトコンベアーにより、発電設備からの抽気蒸気(温度140℃)を使用したチューブロータリードライヤに連続的に供給し、出口におけるPKSの温度が80℃になるように設定して加熱処理を行った。
【0029】
上記加熱処理により得られたPKSの含水率は、14.3質量%であり、これを屋根付きの開放系の貯蔵設備に野積みして1週間貯蔵後、かかるPKSについて、臭気テストの結果を表1に示す。
【0030】
尚、加熱処理により発生した排ガスは、配管により発電設備におけるボイラーの火炉に直接供給して含有される臭気成分を燃焼させた。
【0031】
実施例2
実施例1において、加熱処理の温度を100℃とした以外は、同様にして加熱処理を行った。 上記加熱処理により得られたPKSの含水率は、11.7質量%であり、これを屋根付きの開放系の貯蔵設備に野積みして1週間貯蔵後、かかるPKSについて、臭気テストの結果を表1に示す。
【0032】
尚、加熱処理により発生した排ガスは、配管により発電設備におけるボイラーの火炉に直接供給して含有される臭気成分を燃焼させた。
【0033】
比較例1
実施例1において、加熱処理の温度を45℃とした以外は、同様にして加熱処理を行った。上記加熱処理により得られたPKSの含水率は、17.5質量%であり、これを屋根付きの開放系の貯蔵設備に野積みして1週間貯蔵後、かかるPKSについて、臭気テストの結果を表1に示す。
【0034】
【表1】