特許第6356025号(P6356025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356025
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】窒化硼素粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20180702BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180702BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20180702BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C01B21/064 G
   C08L101/00
   C08K3/38
   C08K9/00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-189354(P2014-189354)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-60661(P2016-60661A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】和間 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】今澄 誠司
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−098882(JP,A)
【文献】 特開2011−006586(JP,A)
【文献】 特開昭60−155507(JP,A)
【文献】 特開平08−143305(JP,A)
【文献】 特開2006−273667(JP,A)
【文献】 特開2010−265520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 − 21/50
C08K 3/38
C08K 9/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化硼素の鱗片状粒子よりなる一次粒子の凝集粒子を含み、上記一次粒子の平均粒子径(d)が0.5μm〜10μm、平均粒子径(D1)が40〜150μm、超音波分散後の平均粒子径(D2)の前記平均粒子径(D1)に対する減少率が40%以下であり、且つ、金属不純物濃度が500ppm以下であり、更に、エポキシ樹脂に60体積%で充填した厚さ1.2mmのシートについて、レーザーフラッシュ法にて測定される熱伝導率が、10.2W/m・K以上であることを特徴とする窒化硼素粉末。
【請求項2】
前記超音波分散後に測定された粒度分布において、前記一次粒子の平均粒子径(d)以下の粒子径を有する粒子の占める割合が、10容量%以下である請求項1に記載の窒化硼素粉末。
【請求項3】
硼素化合物、カーボンブラック、ポリオール化合物、及び含酸素金属化合物を含有する混合物を、硼素化合物とカーボン源との割合が、元素比(B/C)換算で0.5〜1.0、硼素化合物とポリオール化合物との割合が、元素比(B/C)換算で0.5〜4.0、硼素化合物とカーボン源との合計量(HBO、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で3〜30質量部となるように調整し、窒素雰囲気下、1700℃以上の温度に加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の窒化硼素粉末を充填してなる樹脂組成物。
【請求項5】
請求項記載の樹脂組成物よりなる電子部品の放熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化硼素粉末及びその製造方法に関する。詳しくは、樹脂に充填して得られる樹脂組成物に高い熱伝導性を付与することが可能な窒化硼素粉末及びその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化硼素は、一般に黒鉛と同様の六方晶系の層状構造を有する白色粉末であり、高熱伝導性、高電気絶縁性、高潤滑性、耐腐食性、離型性、高温安定性、化学的安定性等の多くの特性を有する。そのため、窒化硼素粉末を充填した樹脂組成物は、成形加工することで熱伝導性絶縁シートとして好適に使用されている。
【0003】
該窒化硼素の製造方法としては、(i)硼素を窒素、アンモニア等を用いて直接窒化する方法、(ii)ハロゲン化硼素をアンモニアやアンモニウム塩と反応させる方法、(iii)硼酸、酸化硼素等の硼素化合物とメラミン等の含窒素化合物とを800℃程度の温度で反応させて硼素化合物を還元窒化するメラミン法、(iv)窒素雰囲気下、硼素化合物とカーボン源を1600℃以上の高温に加熱して、硼素化合物を還元窒化する還元窒化法がある。(iv)の還元窒化法は、低コストの原料を使用でき、窒化硼素の製造に最も好適な方法である。
【0004】
上記還元窒化法において、得られる窒化硼素の結晶性を向上させて、六方晶窒化硼素を得るためには、通常、原料に結晶化触媒を添加する技術が採用されている。その際使用される結晶化触媒としては金属酸化物が多く用いられる。その中でも含酸素カルシウム化合物が多く用いられる。
【0005】
そして、このようにして得られる窒化硼素粉末は、結晶に由来する鱗片状粒子よりなる一次粒子を含み、該鱗片状粒子は熱的異方性を有している。即ち、前記鱗片状粒子は面方向よりも厚み方向の熱伝導率の方が格段に優れている。通常、上記鱗片状粒子を含む窒化硼素粉末を充填剤として用いた熱伝導性絶縁シートの場合、該熱伝導性絶縁シートの面方向に鱗片状粒子が配向するため、鱗片状粒子同士の接触の機会が少なく、該熱伝導率絶縁シートの厚さ方向の熱伝導率は低い。このような熱的異方性を改善するために、上記鱗片状粒子が多方向を向いて凝集した窒化硼素凝集粒子が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記窒化硼素凝集粒子は、取扱時、或いは、樹脂との混練時に凝集粒子が崩壊し、凝集粒子を構成する一次粒子が遊離するといった問題があった。
【0007】
一方、窒化硼素凝集粒子の強度を上げる改善案としては、凝集粒子の焼成工程において、硼酸カルシウムといった窒化硼素粒子同士を繋ぐ結合剤を添加することによる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかし、かかる手法により得られる窒化硼素凝集粒子は、結合剤を含有するため、純度が低下し、結果的に、該窒化硼素凝集粒子を用いた樹脂組成物の熱伝導率、及び絶縁耐圧の低下を引き起こすことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−26661
【特許文献2】特開2014−40341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、前記窒化硼素の凝集粒子を含み、取扱時、或いは、樹脂との混練時に上記凝集粒子が崩壊し難く、且つ、高純度である窒化硼素粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、窒化硼素粉末を構成する前記一次粒子として、鱗片状粒子の粒子径を小さくすることにより、粒子相互の凝集性が向上し、結合剤を使用することなく、凝集性が高い凝集粒子を形成することができ、しかも、結合剤を使用しないことにより高純度化が図れるという知見を得た。
【0012】
そして、上記知見に基づき、更に研究を重ねた結果、硼素化合物、カーボン源、及び結晶化触媒である含酸素カルシウム化合物を含有する混合物を原料とする還元窒化法において、上記原料にポリオールを添加することにより、鱗片状粒子よりなる一次粒子の粒子径を極めて小さくすることに成功し、該一次粒子が凝集して成る窒化硼素凝集粒子は、上記結晶化触媒を除去後も高強度であり、かつ高純度であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、窒化硼素の鱗片状粒子よりなる一次粒子の凝集粒子を含み、上記一次粒子の平均粒子径(d)が0.5μm〜10μm、平均粒子径(D1)が40〜150μm、超音波分散後の平均粒子径(D2)の前記平均粒子径(D1)に対する減少率が40%以下であり、且つ、金属不純物濃度が500ppm以下であり、更に、エポキシ樹脂に60体積%で充填した厚さ1.2mmのシートについて、レーザーフラッシュ法にて測定される熱伝導率が、10.2W/m・K以上であることを特徴とする窒化硼素粉末が提供される。
【0014】
上記本発明の窒化硼素粉末は、前記超音波分散後に測定された粒度分布において、前記一次粒子の平均粒子径(d)以下の粒子径を有する粒子(以下、遊離粒子ともいう。)の占める割合が、10容量%以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の窒化硼素粉末は、硼素化合物、カーボンブラック、ポリオール化合物、及び含酸素金属化合物を含有する混合物を、硼素化合物とカーボン源との割合が、元素比(B/C)換算で0.5〜1.0、硼素化合物とポリオールとの割合が、元素比(B/C)換算で0.5〜4.0、硼素化合物とカーボン源との合計量(HBO、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で3〜30質量部となるように調整し、窒素雰囲気下、1700℃以上の温度に加熱することによって得ることができる。
【0016】
更に、本発明は、前記窒化硼素粉末を充填してなる樹脂組成物を提供する。
【0017】
更にまた、本発明は、上記樹脂組成物よりなる電子部品の放熱材をも提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の窒化硼素粉末は、一次粒子径が特定の大きさまで微細化された一次粒子により凝集粒子が形成されるため、かかる凝集粒子は高い強度を有しており、取扱時、樹脂等への充填時における崩壊が極めて少ない。そのため、使用時における遊離粒子の量が少なく、粉立ちはもとより、樹脂への充填時における粘度の上昇、異方性による熱伝導率の低下が少ない。また、凝集強度を向上させるための結合剤を使用していないため、高純度であり、これを充填剤して得られる樹脂組成物において、高い熱伝導率、絶縁耐圧を発現することができる。
【0019】
また、上記本発明の窒化硼素粉末は、前記したように、原料として、結晶化剤とポリオール化合物を使用することを特徴とする還元窒化法により再現性良く製造することが可能である。
【0020】
尚、前記製造方法において、ポリオール化合物を使用することにより、得られる窒化硼素粉末の一次粒子を構成する鱗片状粒子が微細化する理由は明らかではないが、本発明者らは、硼素化合物とポリオールの縮合によって硼酸エステル結合が形成され、硼素源とポリオール中のカーボンが分子レベルで均質に分散し、窒化硼素の生成及び結晶化が促進され、粒成長が起こらないうちに結晶化が進行することによるものと推定している。
【0021】
そして、上記微細な鱗片状粒子よりなる一次粒子が凝集した凝集粒子は、一次粒子同士の接点が増加し、凝集強度が高くなる。また、原料中に結晶化触媒として混合した金属成分は酸洗浄することにより、凝集粒子の強度を低下させることなく除去することができ、高い純度を有する窒化硼素粉末を得ることができる。
【0022】
また、上記窒化硼素製造方法は、一段の焼成プロセスで実施が可能であり、窒化硼素粉末の製造後に造粒等のプロセスを含む従来の窒化硼素凝集粒子の製造方法よりも工業的に有利に窒化硼素粉末を得ることが可能であるという利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(窒化硼素粉末)
本発明の窒化硼素粉末は、窒化硼素の鱗片状粒子よりなる一次粒子の凝集粒子を含み、上記一次粒子の平均粒子径(d)が0.05μm〜10μmであり、平均粒子径(D1)が10〜200μm、超音波分散後の平均粒子径(D2)の前記平均粒子径(D1)に対する減少率が40%以下、且つ、金属不純物濃度が500ppm以下であることを特徴とする。
【0024】
尚、本発明において、上記窒化硼素粉末を構成する一次粒子の平均粒子径(d)、窒化硼素粉末について、平均粒子径(D1)、超音波分散後の平均粒子径(D2)、超音波分散後の平均粒子径の減少率、及び純度は、以下の方法により求めたものである。
【0025】
[一次粒子の平均粒子径(d)]
倍率3000倍のSEM観察像から異なる凝集粒子100個を無作為に選び、各凝集粒子から無作為に一次粒子10個を選択し、それぞれの一次粒子について長軸の長さを測定し、合計1000個の一次粒子について、上記測定値の平均値を算出して平均一次粒子径とした。
【0026】
[窒化硼素粉末の平均粒子径(D1)]
窒化硼素粉末0.3gを50ccの5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液と共に、容積100cc、直径4cmのスクリュー管瓶に投入し、マグネチックスターラー(直径7mm×長さ25mm)を使用し、300rpmの回転数で5分間撹拌することにより分散させた窒化硼素懸濁液について粒度分布を測定し、体積平均値を求め、平均粒子径(D1)とした。
【0027】
[超音波分散後の窒化硼素粉末の平均粒子径(D2)]
上記平均粒子径(D1)の測定により得られた窒化硼素懸濁液に、径0.2cmのプローブを水中に1cm挿入した状態で、室温下、上記プローブより50Wの出力で5分間超音波を作用せしめた後の窒化硼素懸濁液について粒度分布を測定し、体積平均値を求め、平均粒子径(D2)とした。
【0028】
[超音波分散後の平均粒径の減少率]
上記窒化硼素粉末の平均粒子径(D1)と超音波分散後の平均粒子径(D2)を用い、下記式により平均粒子径の減少率を算出した。
【0029】
平均粒子径の減少率=((D1−D2)/D1)×100
本発明の窒化硼素粉末は、窒化硼素の鱗片状粒子よりなる一次粒子の凝集粒子を含み、該一次粒子の平均粒子径(d)が、0.5μm〜10μm、好ましくは1〜8μm、更に好ましくは1〜7μmであることを特徴とする。従来、鱗片状の一次粒子を凝集させることにより、該一次粒子の熱的異方性を解消することは知られているが、かかる一次粒子径は比較的大きく、凝集粒子の強度を付与するためには多量の結合剤が必要であった。これに対し、本発明は、後述する特定の製造方法により、一次粒子径を大幅に小さくすることに成功し、上記結合剤を使用しなくとも、十分な強度を有する凝集粒子を付与することができる。
【0030】
従って、本発明の窒化硼素粉末において、一次粒子の平均粒径(d)が、10μmを超えた場合、凝集粒子に十分な強度を付与することが困難となり、窒化硼素粉末を製造した直後において、凝集粒子を形成せずに存在する一次粒子が多く存在し、また、取扱時、或いは樹脂等への充填時に凝集粒子が崩壊し、一次粒子を含む微細な粒子が増大する。そのため、例えば、樹脂への充填において、混練時に粘度の上昇が起こったり、熱的異方性が強くなることで、得られる樹脂組成物の熱伝導性の低下が生じたりする問題が発生し易くなる。
【0031】
一方、平均粒径(d)が、0.5μm未満の一次粒子は製造が困難であり、また、凝集粒子の強度においてそれ以上の向上も期待できない。
【0032】
本発明の窒化硼素粉末の平均粒子径(D1)は、用途にもよるが、20〜200μmが一般的であり、特に、40〜150μmが好ましい。例えば、樹脂組成物用充填剤として用いた場合、上記平均粒子径(D1)が、20μm未満では、凝集粒子同士の接点が多くなり、熱抵抗となるといった理由により、高い熱伝導性を発現できず、一方、200μmを超えると、樹脂組成物により得られる成形体の表面上に浮き出て、外観不良を起こす虞がある。
【0033】
また、本発明の窒化硼素粉末は、前記特徴的な一次粒子により凝集粒子が形成されているため、超音波分散後の平均粒子径(D2)の前記平均粒子径(D1)に対する減少率が40%以下、特に、30%以下がより好ましく、25%以下を達成する。上記平均粒子径の減少率が40%を超えるということは凝集粒子の強度が不足していることを意味し、凝集粒子に期待される高熱伝導性が低下し、本発明の目的を達成することが困難となる。
【0034】
更に、本発明の窒化硼素粉末は、前記超音波分散後に測定された粒度分布において、前記遊離粒子の占める割合が、10容量%以下、特に、5容量%以下を達成するものである。かかる遊離粒子の割合は、超音波分散前から既に存在する遊離粒子をも含む値であり、使用時において、窒化硼素粉末中にどの程度の遊離粒子が存在し易いかを示す指標となる。本発明の窒化硼素粉末は、かかる遊離粒子の割合が極めて少なく、かかる微細な粒子の存在による前記問題を回避することができる。
【0035】
本発明の窒化硼素粉末は、前記したように、凝集粒子について高い強度を有しながら、金属不純物濃度が、元素換算で、500ppm以下、特に、300ppm以下という極めて高い純度を有することも特徴として挙げられる。即ち、本発明の窒化硼素粉末は、小さい粒子径の一次粒子により凝集粒子が形成されるため、凝集粒子の強度発現に、結合剤を使用する必要が無く、その使用量を極めて少量とするか、使用しない程度に抑えることが可能である。また、後述の製造方法において説明するように、結晶化触媒として使用する金属化合物も、酸洗浄などの手段により除去が可能であり、これらの要因により、前記高い純度を達成することができる。上記金属不純物としては、原料に由来し、還元窒化、酸洗浄後に残存する金属化合物が挙げられる。具体的には、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カリウム化合物、ナトリウム化合物、イットリウム化合物、セリウム化合物などが挙げられる。
【0036】
このように高い純度を有する窒化硼素粉末は、例えば、該窒化硼素粉末を充填剤として使用した樹脂組成物において、絶縁耐圧の低下を効果的に防止することができる。
【0037】
(窒化硼素粉末の製造方法)
本発明の窒化硼素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、以下の方法が挙げられる。
【0038】
即ち、本発明によれば、硼素化合物、カーボンブラック、ポリオール化合物、及び含酸素金属化合物を含有する混合物を、硼素化合物とカーボン源との割合が、元素比(B/C)換算で0.5〜1.0、硼素化合物とポリオールとの割合が、元素比(B/C)換算で0.5〜4.0、硼素化合物とカーボン源との合計量(HBO、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で3〜30質量部となるように調整し、窒素雰囲気下、1700℃以上の温度に加熱することを特徴とする窒化硼素粉末の製造方法が提供される。
【0039】
(原料の調製方法)
上記本発明の製造方法において、原料の硼素化合物としては、硼素原子を含有する化合物が制限なく使用される。例えば、硼酸、無水硼酸、メタ硼酸、過硼酸、次硼酸、四硼酸ナトリウム、過硼酸ナトリウムなどが使用できる。一般的には、入手が容易な硼酸が好適に用いられる。また、使用する硼素化合物の平均粒子径も特に限定されないが、操作性及び還元反応制御の観点から、1〜1000μmが好ましく、10〜900μmがより好ましく、20〜800μmが更に好ましい。即ち、硼素化合物の平均粒子径が1μmより大きいものを使用することによって、取扱いが容易となる。しかし、1000μmを超えると硼素化合物の還元反応が進行し難くなる虞がある。
【0040】
本発明の製造方法において、カーボン源としては公知の炭素材料が特に制限無く使用される。例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が挙げられる。そのうち、反応性の高い非晶質炭素が好ましく、更に、工業的に品質制御されている点で、カーボンブラックが特に好適に使用される。また、上記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用することができる。また、上記カーボン源の平均粒子径は、0.01〜5μmが好ましく、0.02〜4μmがより好ましく、0.05〜3μmが特に好ましい。即ち、該カーボン源の平均粒子径を5μm以下とすることにより、カーボン源の反応性が高くなり、また、0.01μm以上とすることにより、取り扱いが容易となる。
【0041】
本発明の製造方法において、硼素化合物とカーボン源との割合は、元素比(B/C)換算で0.5〜1.0とすることが必要である。即ち、上記割合が1.0を超えると、還元されずに揮散する硼素化合物の割合が増加し、収率が低下するばかりでなく、上記揮散成分により、製造ラインに悪影響を及ぼす。また、前記割合が、0.5未満では、未反応のカーボン源の存在割合が増加する。
【0042】
本発明の製造方法において、使用されるポリオールとしては、複数の水酸基を含む有機化合物が特に制限なく利用される。例えば糖類、マンニトール、グリセリン、エチレングリコール、クエン酸、ポリビニルアルコール(PVA)などが好適に利用される。そのうち硼素化合物と安定に硼酸エステル結合を形成するポリオールとしてマンニトール、グリセリン、PVAなどが好適に使用される。ポリオールの形態としては粉末、液体、水溶液などの形態が使用可能である。
【0043】
前記硼素化合物とポリオールとの割合は、元素比(B/C)換算で0.5〜4.0、好ましくは、1.0〜3.0以下とすることが必要である。上記割合が0.5未満であると、カーボンとなる炭素が増加し、未反応のカーボンの残存割合が増加する。また、4.0を超えると添加量が不足し、一次粒子径を所定の範囲まで小さくすることが困難となる。
前記原料混合物中の総金属不純物濃度は低いほど好ましいが、後述の焼成・酸洗工程である程度は減少するため、上記原料混合物中の総金属不純物濃度の上限は、前記窒化硼素粉末の金属不純物濃度よりも高い値が許容される。かかる総金属不純物濃度は、一般に、元素換算で、10000ppm以下、さらに好ましくは5000ppm以下、特に、1000ppm以下が推奨される。
【0044】
本発明の製造方法において、結晶化触媒として使用される含酸素金属化合物としては、公知のものが特に制限無く使用されるが、特に、酸素とカルシウムが含まれる含酸素カルシウム化合物が好適に使用される。含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられる。その中でも含酸素カルシウム化合物が好適に使用出来る。含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等を使用することが出来、これら2種類以上を混合して使用することも可能である。その中でも、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを使用するのが好ましい。
【0045】
上記含酸素金属化合物は、2種類以上を混合して使用することも可能である。また、上記含酸素金属化合物の平均粒子径は、平均粒子径0.01〜500μmが好ましく、0.05〜400μmがより好ましく、0.1〜300μmが特に好ましい。
【0046】
上記含酸素金属化合物の添加量は、硼素化合物とカーボン源との合計量(HBO、C換算値)100質量部に対して、CaO換算で3〜30質量部とすることが好ましく、5〜25質量部とすることがより好ましく、5〜15質量部とすることが更に好ましい。前記含酸素金属化合物の使用量が3質量部未満では結晶性の高い窒化硼素粉末が得られない。また、前記含酸素金属化合物の使用量が30質量部を超える場合、生成物である窒化硼素粉末からの十分な除去が困難となり、得られる窒化硼素粉末の不純物濃度を上昇させる傾向がある。
【0047】
本発明の製造方法において、上記の各原料を含む混合物の形態は特に制限されず、粉末状のままでもよいが、多孔質バルク体、造粒体を形成してもよい。尚、かかる多孔質バルク体は、例えば、硼酸、カーボン源、炭酸カルシウム、ポリオールを含む混合粉末を加熱し、硼酸からメタ硼酸の生成、メタ硼酸の溶融によりバルク体を形成すると共に、メタ硼酸が溶融している状態で、炭酸カルシウムの分解により二酸化炭素ガスを生成せしめて発泡させる方法が挙げられる。
【0048】
また、上記多孔質バルク体の形状は、混合粉末の加熱に使用する容器等の形状に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、四角柱状、円柱状、球状、多角形状、不定形状、針状及び板状等の形状が挙げられるが、ハンドリング性の観点から、四角柱状、円柱状、球状等の形状であることが好ましい。また、その大きさは、径(球状以外は相当径)5〜300mm程度が一般的である。 本発明の製造方法において、前記硼素化合物、カーボン源、含酸素金属化合物の混合方法特に制限されず、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、V字混合機等の一般的な混合機が使用可能である。
(還元窒化)
本発明の製造方法において、結晶性の高い六方晶窒化硼素粉末を得るために、通常1700℃以上、好ましくは、1700〜2200℃、更に好ましくは1800〜2000℃で熱処理を行い、六方晶窒化硼素を得る。即ち、かかる熱処理温度が1700℃未満では結晶性の高い六方晶窒化硼素は得られず、2200℃以上では、効果が頭打ちとなり、経済的に不利である。
【0049】
本発明の窒化硼素製造方法において、窒素雰囲気は、公知の手段によって形成することが出来る。使用するガスとしては、上記窒化処理条件で硼素に窒素を与えることが可能なガスであれば特に制限されず、窒素ガス、アンモニアガスを使用することも可能であり、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0050】
本発明の窒化硼素製造方法は、反応雰囲気制御の可能な公知の装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、縦型反応炉等の連続炉も使用可能である。
(酸洗浄)
本発明の製造方法において、上述の還元窒化処理を施した直後は窒化硼素を主成分とするが、硼酸カルシウム等の副生成物も含まれているため、酸を用いて洗浄することが必要となる。酸洗浄の方法は特に制限されず、公知の方法が制限無く採用されるが、例えば、窒化処理後に得られた副生成物含有窒化硼素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化硼素の5〜10倍量の希塩酸(10〜20重量%HCl)を加え、4〜8時間接触せしめる方法が挙げられる。
【0051】
上記酸洗浄時に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることも可能である。
【0052】
上記酸洗浄の後、残存する酸を洗浄する目的で、純水を用いて洗浄する。上記洗浄の方法としては、上記酸洗浄時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗浄した窒化硼素を分散させ、再度ろ過する。この操作を数回実施することで、本発明の窒化硼素粉末の純度を達成可能となる。
【0053】
(窒化硼素粉末の用途)
本発明の窒化硼素粉末の用途は、特に限定されず、公知の用途に特に制限無く適用可能である。好適に使用される用途を例示するならば、電気絶縁性向上や熱伝導性付与等の目的で樹脂に充填剤として使用する用途が挙げられる。上記窒化硼素粉末の用途において、得られる樹脂組成物は、高い電気絶縁性や熱伝導性を有する。
【0054】
従って、本発明の窒化硼素粉末は、電子部品の放熱シートや放熱ゲルに代表される固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル用の充填剤として好適に使用することができる。
【0055】
前記樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂等の熱硬化性樹脂、合成ゴムなどが挙げられる。
【0056】
また、本発明の窒化硼素粉末は、立法晶窒化硼素や窒化硼素成型品等の窒化硼素加工品製品の原料、エンジニアリングプラスチックへの核剤、フェーズチェンジマテリアル、固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル、溶融金属や溶融ガラス成形型の離型剤、化粧品、複合セラミックス原料等の用途にも使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例になんら限定されるものではない。
【0058】
尚、実施例において、各測定値は、以下の方法により測定した値である。
【0059】
(1)一次粒子の平均粒子径(d)
倍率3000倍のSEM観察像から異なる凝集粒子100個を無作為に選び、各凝集粒子から無作為に一次粒子10個を選択し、それぞれの一次粒子について長軸の長さを測定し、合計1000個の一次粒子について、上記測定値の平均値を算出して平均一次粒子径とした。
【0060】
(2)窒化硼素粉末の平均粒子径(D1)
窒化硼素粉末0.3gを50ccの5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液と共に、容積100cc、直径4cmのスクリュー管瓶に投入し、マグネチックスターラー(直径7mm×長さ25mm)を使用し、300rpmの回転数で5分間撹拌することにより分散させた窒化硼素懸濁液について、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA−950V2)を用いて、粒度分布を測定し、D50を求めて、平均粒子径(D1)とした。
【0061】
(3)超音波分散後の窒化硼素粉末の平均粒子径(D2)
上記平均粒子径(D1)の測定により得られた窒化硼素懸濁液に、径0.2cmのプローブを水中に1cm挿入した状態で、室温下、上記プローブより50Wの出力で5分間超音波を作用せしめた後の窒化硼素懸濁液についてD1の測定と同様な測定法によりD50を求めて、平均粒子径(D2)とした。
【0062】
(4)超音波分散後の平均粒径の減少率
上記窒化硼素粉末の平均粒子径(D1)と超音波分散後の平均粒子径(D2)を用い、下記式により平均粒子径の減少率を算出した。
【0063】
平均粒子径の減少率=((D1−D2)/D1)×100
(5)超音波分散後の遊離粒子の占める割合
前記(3)の超音波分散後に測定された粒度分布において、前記(1)の一次粒子の平均粒子径(d)以下の粒子径を有する粒子の占める割合(質量%)を算出し、遊離粒子率(%)とした。
【0064】
(6)金属不純物濃度
金属不純物濃度は、蛍光X線分析装置を用いて測定した。蛍光X線分析装置としては、Rigaku社製ZSX PrimusIIを使用した。
【0065】
実施例1
硼酸、アセチレンブラック、酸化カルシウム、マンニトールを表1に示す割合(元素比)の混合物100gをボールミルを使用して混合した。該混合物50gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、15℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃で2時間保持することで窒化処理した。
【0066】
次いで、副生成物含有窒化硼素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化硼素の5倍量の塩酸(10重量%HCl)を加え、回転数800rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化硼素を分散させ、再度ろ過した。この操作を5回繰り返した後、150℃で6時間乾燥させた。
【0067】
乾燥後に得られた粉末を目開き90μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化硼素粉末を得た。得られた六方晶窒化硼素粉末について蛍光X線分析により不純物濃度を測定した。更に、上記六方晶窒化硼素粉末について、一次粒子の平均粒子径(d)、平均粒子径(D1)、超音波処理後の平均粒子径(D2)を測定し平均粒子径減少率を算出した。上記の六方晶窒化硼素粉末の金属不純物濃度、平均一次粒子径、遊離粒子率、平均粒子径減少率を表2に示した。
【0069】
実施例3
硼酸とマンニトールの割合(元素比(B/C)換算)を3.0とした以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0070】
実施例4
硼酸とマンニトールの割合(元素比(B/C)換算)を3.0、篩の目開きを150μmとした以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0071】
実施例5
硼酸とマンニトールの割合(元素比(B/C)換算)を5.0とした以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0072】
実施例6
ポリオールをグルコースに変更し、表1の原料組成比の通り混合した以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0073】
実施例7
ポリオールをフルクトース、含酸素カルシウム化合物を炭酸カルシウムに変更し、表1の原料組成比の通り混合した以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0074】
実施例8
ポリオールをマンノースに変更し、表1の原料組成比の通り混合した以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0075】
実施例9
ポリオールをクエン酸、含酸素カルシウム化合物を炭酸カルシウムに変更し、表1の原料組成比の通り混合した以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0076】
実施例10
ポリオールをPVAに変更し、表1の原料組成比の通り混合した以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。
【0077】
比較例1
ポリオールを添加しない以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。ポリオールを添加していないため一次粒子径が16.0μmと大きく、遊離粒子率が35%、平均粒子径減少率が60%と共に大きかった。
【0078】
比較例2
硼酸とマンニトールの割合(元素比(B/C)換算)を5.0とした以外は実施例1と同様にした。各測定値を表2に示した。添加したマンニトール量が少量であったため、一次粒子径が12.5μmと大きく、遊離粒子率が25%、平均粒子径減少率が45%と共に大きかった。
【0079】
実施例11、13〜20
実施例1、3〜11で得られた窒化硼素粉末をシリコーン樹脂及びエポキシ樹脂に充填し樹脂組成物を作製し、熱伝導率の評価を行った。エポキシ樹脂は、(三菱化学株式会社製JER806)100重量部と硬化剤(脂環式ポリアミン系硬化剤、三菱化学株式会社製JERキュア113)28重量部との混合物を準備した。シリコーン樹脂は(信越化学工業社製KE−109)100重量部と硬化剤(信越化学工業社製CAT−RG)10重量部との混合物を準備した。次に、各基材樹脂40体積%と、前記特定窒化硼素粉末60体積%とを自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂組成物を得た。
【0080】
これを金型体に注型し、熱プレスを使用し、温度:150℃、圧力:5MPa、保持時間:1時間の条件で硬化させ、直径10mm、厚さ1.2mmのシートを作製した。レーザーフラッシュ法にて熱伝導率を測定した結果を表3に示した。実施例1〜11で作製した窒化硼素粉末を充填したシートはいずれも8.0W/m・K以上であり、高熱伝導率を示した。
【0081】
比較例5〜6
比較例1〜2で得られた窒化硼素粉末を用いた以外は実施例12と同様にした。レーザーフラッシュ法にて熱伝導率を測定した結果を表3に示した。比較例1〜2で作製した窒化硼素粉末を充填したシートはいずれも7.0W/m・K以下であり、低熱伝導率を示した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】