特許第6356046号(P6356046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6356046超電導線材の接続構造、超電導線材及び接続方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356046
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】超電導線材の接続構造、超電導線材及び接続方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20180702BHJP
   H01R 4/68 20060101ALI20180702BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   H01B12/06
   H01R4/68
   H01R43/02 B
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-226839(P2014-226839)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-91880(P2016-91880A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度経済産業省「高温超電導コイル基盤技術開発プロジェクト高安定磁場コイルシステム基盤技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】中井 昭暢
(72)【発明者】
【氏名】天野 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】福島 弘之
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−181664(JP,A)
【文献】 特開2001−319750(JP,A)
【文献】 特開平04−202047(JP,A)
【文献】 特開2013−235699(JP,A)
【文献】 特開平01−102881(JP,A)
【文献】 特開2005−063695(JP,A)
【文献】 特開平08−083519(JP,A)
【文献】 特開平06−040775(JP,A)
【文献】 特開2008−066399(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0294670(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01R 4/68
H01R 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材が互いの接続端部で接続された接続構造であって、
前記二本の超電導線材の超電導導体層が同一平面に沿って並ぶと共に、前記二本の超電導線材の基材が同一平面に沿って並び、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面から他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面までの間のいずれかの範囲に成長形成された第一の中間超電導導体層を備え、
前記二本の超電導線材の基材の接続端部側の端面の位置がいずれも前記二本の超電導線材の長手方向について、前記第一の中間超電導導体層の範囲外であることを特徴とする超電導線材の接続構造。
【請求項2】
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面から他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面までの間のいずれかの範囲に、基材と当該基材の片面側に形成された超電導導体層とを備える第一の接続用線材の超電導導体層からなる第二の中間超電導導体層が配置され、
前記二本の超電導線材の長手方向について、前記二本の超電導線材及び前記第一の接続用線材の超電導導体層の接続端部の端面の位置が、いずれも、前記二本の超電導線材の基材の接続端部側の端面の位置と異なることを特徴とする請求項1記載の超電導線材の接続構造。
【請求項3】
前記二本の超電導線材の基材の間にこれらの基材と同一平面に沿って並ぶ他の基材が介在し、
前記二本の超電導線材の長手方向について、前記他の基材の両側の端面の位置が前記超電導導体層の端面の位置と異なることを特徴とする請求項1記載の超電導線材の接続構造。
【請求項4】
前記二本の超電導線材の長手方向について、一方の前記超電導線材の中間層の端面の位置が前記二本の超電導線材の基材の接続端部側の端面の位置よりも他方の前記超電導線材側に位置することを特徴とする請求項1記載の超電導線材の接続構造。
【請求項5】
前記二本の超電導線材の長手方向について、少なくとも一方の前記超電導線材の前記超電導導体層の端面の位置を含む所定の範囲で前記中間層の厚みが他の部位よりも厚い部位があることを特徴とする請求項4記載の超電導線材の接続構造。
【請求項6】
前記二本の超電導線材の長手方向について、前記二本の超電導線材の超電導導体層の接続端部の端面の位置と前記二本の超電導線材の基材の接続端部の端面の位置とが少なくとも1[μm]以上離れていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の接続構造を備えることを特徴とする超電導線材。
【請求項8】
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
前記二本の超電導線材の接続端部の超電導導体層を厚さ方向に一部又は全部除去する第一の除去工程と、
前記二本の超電導線材の基材の接続端部同士を接合する接合工程と、
前記超電導導体層が除去された部分に、基材と当該基材の片面側に形成された超電導導体層とを備える第一の接続用線材を、前記二本の超電導線材の超電導導体層と前記第一の接続用線材の超電導導体層とが同一平面上に位置するように配置する第一の配置工程と、
前記二本の超電導線材の超電導導体層のそれぞれの接続端部側の端面と前記第一の接続用線材の超電導導体層からなる第二の中間超電導導体層の両端部の端面との間に第一の中間超電導導体層を新たに形成する第一の形成工程とを含むことを特徴とする超電導線材の接続方法。
【請求項9】
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
前記二本の超電導線材の接続端部の基材を除去する第二の除去工程と、
基材と当該基材の片面側に位置する中間層とを備える第二の接続用線材の中間層が、前記第二の除去工程により露出した前記二本の超電導線材の中間層に接すると共に前記二本の超電導線材の基材と前記第二の接続用線材の基材とが同一平面上に位置するように前記第二の接続用線材を配置する第二の配置工程と、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面と他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面との間に第一の中間超電導導体層を新たに成形成する第二の形成工程とを含むことを特徴とする超電導線材の接続方法。
【請求項10】
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
一方の前記超電導線材の接続端部の超電導導体層を厚さ方向に一部又は全部除去する第三の除去工程と、
他方の前記超電導線材の接続端部の基材を除去する第四の除去工程と、
前記一方の超電導線材の残存する前記超電導導体層又は露出した前記中間層と前記他方の超電導線材の露出した前記中間層とを重合するように前記二本の超電導線材を配置する第三の配置工程と、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面と他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面との間に第一の中間超電導導体層を成形成する第三の形成工程とを含むことを特徴とする超電導線材の接続方法。
【請求項11】
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
一方の前記超電導線材の接続端部の超電導導体層を厚さ方向に一部又は全部除去する第五の除去工程と、
他方の前記超電導線材の接続端部の基材を除去する第六の除去工程と、
一方の前記超電導線材の前記超電導導体層が一部又は全部除去された部分に、他方の前記超電導線材を、前記超電導導体層を前記一方の超電導線材側に向けた状態で、前記二本の超電導線材の超電導導体層が同一平面上に位置するように配置する第四の配置工程と、
前記二本の超電導線材の超電導導体層のそれぞれの接続端部側の端面の間に他の超電導導体層を新たに形成する第四の形成工程とを含むことを特徴とする超電導線材の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の接続構造、超電導線材及び接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臨界温度(Tc)が液体窒素温度(約77K)よりも高い酸化物超電導体として、例えば、YBCO系(イットリウム系)の高温酸化物超電導体が注目されている。
この高温酸化物超電導線材は、長尺でフレキシブルな金属などの基板上に酸化物超電導膜を堆積したり、単結晶基板上に酸化物超電導膜を堆積したりして超電導導体層が形成されたものが知られている。また、基板と超電導導体層との間には、必要に応じて中間層が設けられることもある。
【0003】
上記YBCO系の高温酸化物超電導体はいわゆるab面(CuO面)に沿って電流が流れやすく、これに垂直なc軸方向には電流が流れにくい性質を有している。そして、YBCO系の高温酸化物超電導体による超電導線材は、その線材の長手方向がab面に平行であって、超電導導体層がab面に沿うように形成される。
従って、上記超電導線材を接続する場合、一方の超電導線材の超電導導体層と他方の超電導線材の超電導導体層とを重ね合わすように超電導導体層の平面同士を対向させて接続すると、超電導線材の接続部ではc軸方向に電流を流すことになり、電流が流れにくくなって超電導特性が低下する。
【0004】
このため、特許文献1では、互いの超電導線材の接続端部側の超電導導体層を除去し、基材の接続端部の端面同士を接続し、それぞれの超電導線材の超電導導体層が除去された部分に新たに超電導導体層を成長させて形成する接続方法が提案されている。
また、特許文献2では、接続する超電導線材同士の先端を離間させて配置し、それぞれの超電導線材の超電導導体層に対向するように基板を重ね合わせて接続し、この基板の超電導導体層に対向する面上であって、超電導導体層と超電導導体層との間の部分に超電導導体層を新たに形成し、超電導線材同士を接続する接続方法が提案されている。
【0005】
これらの接続方法によれば、互いに接続する超電導線材の超電導導体層と新たに形成された超電導導体層とが同一平面上に並んで接続されるので、ab面に沿って電流を流すことができ、超電導特性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−319750号公報
【特許文献2】特開2005−063695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の接続方法は、接続された基材の間に段差が生じると、その上に超電導導体層の成長不良が起こりやすくなるため、ミクロンオーダーで上面を揃えて基材を接続しなければならず、接続作業が非常に困難性を伴うものとなっていた。
【0008】
また、特許文献2の接続方法は、基材の段差の問題は生じないが、超電導線材の基材同士が直接接続されていないので、相互の接続強度が低くなるという問題があった。
またこの接続方法では、あらたに超電導導体層に形成する位置が基材の端部に近いことから、基材端部からの金属拡散により超電導導体層の超電導特性が低下するという問題も生じていた。
【0009】
本発明の目的は、接続強度が高く、良好に電流を流すことができる超電導線材の接続構造、超電導線材及び接続方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材が互いの接続端部で接続された接続構造であって、
前記二本の超電導線材の超電導導体層が同一平面に沿って並ぶと共に、前記二本の超電導線材の基材が同一平面に沿って並び、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面から他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面までの間のいずれかの範囲に成長形成された第一の中間超電導導体層を備え、
前記二本の超電導線材の基材の接続端部側の端面の位置がいずれも前記二本の超電導線材の長手方向について、前記第一の中間超電導導体層の範囲外であることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の超電導線材の接続構造において、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面から他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面までの間のいずれかの範囲に、基材と当該基材の片面側に形成された超電導導体層とを備える第一の接続用線材の超電導導体層からなる第二の中間超電導導体層が配置され、
前記二本の超電導線材の長手方向について、前記二本の超電導線材及び前記第一の接続用線材の超電導導体層の接続端部の端面の位置が、いずれも、前記二本の超電導線材の基材の接続端部側の端面の位置と異なることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の超電導線材の接続構造において、
前記二本の超電導線材の基材の間にこれらの基材と同一平面に沿って並ぶ他の基材が介在し、
前記二本の超電導線材の長手方向について、前記他の基材の両側の端面の位置が前記超電導導体層の端面の位置と異なることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の超電導線材の接続構造において、
前記二本の超電導線材の長手方向について、一方の前記超電導線材の中間層の端面の位置が前記二本の超電導線材の基材の接続端部側の端面の位置よりも他方の前記超電導線材側に位置することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の超電導線材の接続構造において、
前記二本の超電導線材の長手方向について、少なくとも一方の前記超電導線材の前記超電導導体層の端面の位置を含む所定の範囲で前記中間層の厚みが他の部位よりも厚い部位があることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の超電導線材の接続構造において、
前記二本の超電導線材の長手方向について、前記二本の超電導線材の超電導導体層の接続端部の端面の位置と前記二本の超電導線材の基材の接続端部の端面の位置とが少なくとも1[μm]以上離れていることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、超電導線材において、
請求項1から6のいずれか一項に記載の接続構造を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、超電導線材の接続方法において、
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
前記二本の超電導線材の接続端部の超電導導体層を厚さ方向に一部又は全部除去する第一の除去工程と、
前記二本の超電導線材の基材の接続端部同士を接合する接合工程と、
前記超電導導体層が除去された部分に、基材と当該基材の片面側に形成された超電導導体層とを備える第一の接続用線材を、前記二本の超電導線材の超電導導体層と前記第一の接続用線材の超電導導体層とが同一平面上に位置するように配置する第一の配置工程と、
前記二本の超電導線材の超電導導体層のそれぞれの接続端部側の端面と前記第一の接続用線材の超電導導体層からなる第二の中間超電導導体層の両端部の端面との間に第一の中間超電導導体層を新たに形成する第一の形成工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、超電導線材の接続方法において、
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
前記二本の超電導線材の接続端部の基材を除去する第二の除去工程と、
基材と当該基材の片面側に位置する中間層とを備える第二の接続用線材の中間層が、前記第二の除去工程により露出した前記二本の超電導線材の中間層に接すると共に前記二本の超電導線材の基材と前記第二の接続用線材の基材とが同一平面上に位置するように前記第二の接続用線材を配置する第二の配置工程と、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面と他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面との間に第一の中間超電導導体層を新たに成形成する第二の形成工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、超電導線材の接続方法において、
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
一方の前記超電導線材の接続端部の超電導導体層を厚さ方向に一部又は全部除去する第三の除去工程と、
他方の前記超電導線材の接続端部の基材を除去する第四の除去工程と、
前記一方の超電導線材の残存する前記超電導導体層又は露出した前記中間層と前記他方の超電導線材の露出した前記中間層とを重合するように前記二本の超電導線材を配置する第三の配置工程と、
一方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面と他方の前記超電導線材の超電導導体層の接続端部側の端面との間に第一の中間超電導導体層を成形成する第三の形成工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
請求項11記載の発明は、超電導線材の接続方法において、
基材の片面側に中間層を介して超電導導体層が形成された二本の超電導線材を互いの接続端部で接続する接続方法であって、
一方の前記超電導線材の接続端部の超電導導体層を厚さ方向に一部又は全部除去する第五の除去工程と、
他方の前記超電導線材の接続端部の基材を除去する第六の除去工程と、
一方の前記超電導線材の前記超電導導体層が一部又は全部除去された部分に、他方の前記超電導線材を、前記超電導導体層を前記一方の超電導線材側に向けた状態で、前記二本の超電導線材の超電導導体層が同一平面上に位置するように配置する第四の配置工程と、
前記二本の超電導線材の超電導導体層のそれぞれの接続端部側の端面の間に他の超電導導体層を新たに形成する第四の形成工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記発明では、上記の構成により、電流を良好に流すことが可能な超電導線材の接続構造、接続方法及び超電導線材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】超電導線材の斜視図である。
図2図2(A)〜図2(C)は第一の実施形態である超電導線材の接続構造を形成する接続方法を示した断面図である。
図3】Niの自己拡散係数の温度依存性を示す線図である。
図4図4(A)〜図4(C)は第二の実施形態である超電導線材の接続構造を形成する接続方法を示した断面図である。
図5図5(A)〜図5(C)は第三の実施形態である超電導線材の接続構造を形成する接続方法を示した断面図である。
図6図6(A)〜図6(C)は第四の実施形態である超電導線材の接続構造を形成する接続方法を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第一の実施形態]
以下に、本発明を実施するための好ましい第一の実施の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複した説明を適宜省略する。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0024】
[超電導線材]
図1は、本発明の第1実施形態に係る超電導線材の斜視図である。
図1に示すように、超電導線材10は、超電導成膜用基材1(以下、「基材1」とする)の厚み方向の一方の主面(以下、成膜面11という)に、中間層2及び酸化物超電導導体層3がこの順に積層されている。即ち、超電導線材10は、基材1、中間層2、酸化物超電導導体層3(以下、「超電導導体層3」とする)による積層構造を有している。
【0025】
基材1は、テープ状の低磁性の金属基板やセラミックス基板が用いられる。金属基板の材料としては、例えば、強度及び耐熱性に優れた、Co、Cu、Cr、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金が用いられる。特に、耐食性及び耐熱性が優れているという観点からハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)等のNi基合金、またはステンレス鋼等のFe基合金を用いることが好ましい。
また、これら各種金属材料上に各種セラミックスを配してもよい。また、セラミックス基板の材料としては、例えば、MgO、SrTiO、又はイットリウム安定化ジルコニア等が用いられる。その他にも、サファイアを基材として用いてもよい。
【0026】
成膜面11は、略平滑な面とされており、例えば成膜面11の表面粗さが10nm以下とされていることが好ましい。
なお、表面粗さとは、JISB-0601-2001において規定する表面粗さパラメータの「高さ方向の振幅平均パラメータ」における算術平均粗さRaである。
【0027】
中間層2は、超電導導体層3において例えば高い2軸配向性を実現するための層である。このような中間層2は、例えば、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基材1と超電導導体層3を構成する超電導体との中間的な値を示す。
また、中間層2は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、その層数や種類は限定されないが、非晶質のGdZr7−δ(δは酸素不定比量)やAl或いはY等を含むベッド層と、結晶質のMgO等を含みIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法により成形された強制配向層と、LaMnO3+δ(δは酸素不定比量)を含むLMO層と、を順に積層した構成となっていてもよい。また、LMO層の上にCeO2等を含むキャップ層をさらに設けてもよい。
上記各層の厚さは、LMO層を30nm、強制配向層のMgO層を40nm、ベッド層のY層を7nm、Al層を80nmとする。なお、これらの数値はいずれも一例である。
【0028】
この中間層2の表面には、超電導導体層3が積層している。超電導導体層3は、酸化物超電導体、特に銅酸化物超電導体を含んでいることが好ましい。銅酸化物超電導体としては、高温超電導体としてのREBaCu7−δ(以下、RE系超電導体と称す)が好ましい。なお、RE系超電導体中のREは、Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,YbやLuなどの単一の希土類元素又は複数の希土類元素である。また、δは、酸素不定比量であって、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。なお、酸素不定比量は、オートクレーブ等の装置を用いて高圧酸素アニール等を行えば、δは0未満、すなわち、負の値をとることもある。
【0029】
また、超電導導体層3には、その表面(中間層2とは逆側の面)を覆う安定化層を形成しても良い。また、超電導導体層3の表面に限らず、安定化層によって、積層状態の基材1、中間層2及び超電導導体層3の表面全体を覆ってもよい。
この安定化層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、その層数や種類は限定されないが、銀からなる銀安定化層と、銅からなる銅安定化層を順に積層した構成となっていてもよい。
【0030】
[超電導線材の接続構造]
本実施形態は、超電導線材の接続構造100と当該超電導線材の接続構造100を有する超電導線材と超電導線材の接続方法とを示すものである。なお、「超電導線材の接続構造100を有する超電導線材」とは、接続構造100により接続された第一と第二の超電導線材10A,10Bを有する超電導線材を示す。
【0031】
本実施形態である超電導線材の接続構造100は、図2(C)に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部同士を突き合わせた状態で後述する接続方法によって接続することにより形成される。但し、超電導線材の接続構造100は、後述する接続方法によって形成されるものに限定されず、他の接続方法によって形成しても良い。
第一と第二の超電導線材10A,10Bは上記超電導線材10と同一構造であり、各層1〜3については超電導線材10と同じ符号を使用する。
また、ここでは、一例として、基材1の厚みをおよそ50μm、中間層2の厚みをおよそ200nm、超電導導体層3の厚みをおよそ1μmとする。なお、この値については一例であり、中間層2が超電導導体層3よりも薄いことを前提とすれば、これらの数値に限定されず、任意に変更可能である。
【0032】
この接続構造100は、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの接続端部の基材1,1同士が溶接により接合され、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの接続端部の超電導導体層3,3同士が第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cを介して接続されている。
【0033】
即ち、各超電導線材10A,10Bのそれぞれの基材1,1及び中間層2,2は、各々の接続端部側の端面12,12,21,21同士を対向させた状態とし、基材1,1同士が接続端部側の端面12,12で溶接により接合されている。
また、各超電導線材10A,10Bの接続端部側の超電導導体層3,3は、接続された各超電導線材10A,10Bの長手方向L(以下、単に「長手方向L」とする)について所定の長さで除去されており、各超電導線材10A,10Bにおける超電導導体層3,3の除去された部分に第一の接続用線材10Cが配置されている。
【0034】
この第一の接続用線材10Cは、基材1Cの片面側に中間層2Cを介して超電導導体層3Cが形成されている。第一の接続用線材10Cの基材1C,中間層2C及び超電導導体層3Cは、それぞれ、超電導線材10の基材1,中間層2及び超電導導体層3と同一材料から形成されている。
なお、超電導導体層3Cは、超電導導体層3と同一材料ではなく、同種の超電導導体層であっても良い。ここで、同種の超電導導体層とは、超電導導体層3と同系統の材料を意味する。例えば、超電導導体層3をY(イットリウム)系の高温銅酸化物超電導体とした場合には、超電導導体層3CはY系の高温銅酸化物超電導体であれば良く、物質が完全に一致しなくとも良い。また、超電導導体層3Cを同種材料から形成した場合には、中間層2Cも超電導導体層3Cに応じて適宜材料を変更しても良い。
また、第一の接続用線材10Cの基材1C,中間層2C及び超電導導体層3Cの厚さは前述した第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,中間層2及び超電導導体層3の厚さと等しくすることが望ましいが、これらが近似していれば、異なる厚さを選択しても良い。
【0035】
上記第一の接続用線材10Cは、超電導導体層3C側が各超電導線材10A,10Bに対向するように配置され、これにより、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cとが長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。即ち、第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cは、「第二の中間超電導導体層」として機能する。
なお、「同一平面上に並ぶ」とは、接続する端面同士が厚さ方向一部重複する部分が存在していれば良い。以下、同じとする。また、超電導導体層3,3と超電導導体層3Cは同一直線上に並ぶことがより好ましい。また、後述する基材1,1も同一直線上に並ぶことがより好ましい。
また、第一の接続用線材10Cは長手方向Lにおける長さが、第一及び第二の超電導線材10A、10Bの超電導導体層3,3の除去された部分の長さの合計よりも短くなっている。従って、第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの両端部における端面31C,31Cは、いずれも、第一及び第二の超電導線材10A、10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31から離間している(図2(B)参照)。このため、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの一方の端面31Cとの間と、第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの他方の端面31Cとの間とには、それぞれ第一の中間超電導導体層32,32が超電導材料の成長形成により形成されている。
これら第一の中間超電導導体層32,32も、超電導導体層3と同一又は同種の超電導材料から形成される。
【0036】
これにより、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cと第一の中間超電導導体層32,32が長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。また、超電導導体層3,3と超電導導体層3Cと第一の中間超電導導体層32,32とは同一直線上に並ぶことがより好ましい。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31は第一の中間超電導導体層32,32の一方の端面321,321と接合され、第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの端面31C,31Cは第一の中間超電導導体層32,32の他方の端面321,321と接合され、各端面31,31,31C,31C,321,321は全て長手方向Lに対しておおむね垂直となっている。
これらによって、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3から第二の超電導線材10Bの超電導導体層3までab面に沿って電流を流すことができ、良好な超電導状態を形成することができる。
【0037】
また、長手方向Lにおける第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置、第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置、第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの両端部の端面31C,31Cの位置は、全て、基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置と一致せず、十分に離間している。
このため、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31、第一の中間超電導導体層32,32の両端部の端面321,321及び第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの両端部の端面31C,31Cに対する、各基材1,1の接続端部側の端面からの金属拡散の影響を十分に低減させている。
【0038】
図3は基材1に含まれる主要な材料として一般的なNiの自己拡散係数の温度依存性を示す線図である。図3において、横軸はTu/T(TuはNiの融点、Tは加熱温度)、縦軸は自己拡散係数を示している。超電導線材の接続構造100の形成作業における加熱温度は、1000℃未満であるため、この加熱温度を1000℃として図3の関係により自己拡散係数を求めると、加熱時間を1時間とした場合に、Niはおよそ1[μm]の距離まで拡散することになる。
実際には加熱温度は1000℃に満たないことから、基材1の接続端部側の端面12から長手方向Lにおける第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31、第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31、第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの両端部の端面31C,31Cのそれぞれの距離を1[μm]以上とすれば、基材1からの拡散の影響を十分に低減することが可能である。そしてこれら各端面31,31,31C、31Cは全て、基材1の接続端部側の端面12から長手方向Lに1[μm]よりも十分に離間しているため、拡散の影響を十分に低減することができる。
【0039】
また、二つの第一の中間超電導導体層32,32は、いずれも、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置が、長手方向Lについて、第一の中間超電導導体層32,32の範囲外となっている。
【0040】
[超電導線材の接続方法]
上記接続構造100を形成する超電導線材の接続方法について、図2(A)〜図2(C)に基づいて説明する。
まず、図2(A)に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部の超電導導体層3,3を長手方向Lについて所定の長さで、厚さ方向について全部除去し、中間層2,2の表面を露出させる(第一の除去工程)。これらの除去は、機械的研磨、化学的研磨(例えば、エッチング処理)又はこれらの組み合わせにより行う。
【0041】
なお、長手方向Lについて超電導導体層3,3を除去する所定の長さは、この除去範囲に形成される二つの第一の中間超電導導体層32,32の形成作業を個別に行う場合には、第一と第二の超電導線材10A,10Bを個別に加熱槽に格納可能な長さ、例えば、数十[cm]としても良い。また、第一と第二の超電導線材10A,10Bを個別に加熱しない場合には、より短くしても良い。
また、超電導導体層3,3の厚さ方向について全部ではなく一部除去し、一部残存させても良い。各超電導導体層3,3を一部残存させた場合には、後述する第一の中間超電導導体層32,32は、残存する超電導導体層3,3の上に重ねて形成される。
また、超電導導体層3,3を除去した部分の表面粗さは十分小さくしておくことが望ましい。例えば、その表面粗さ(中心線平均粗さRa)は、50nm以下とすることが望ましく、10nm以下とすることがより望ましい。
【0042】
さらに、図2(B)に示すように、第一の超電導線材10Aの基材1の接続端部と第二の超電導線材10Bの基材1の接続端部とを対向させる共に互いの接続端部側の端面12,12を溶接により接合する(接合工程)。これにより基材1,1を介して第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとが十分な強度をもって連結される。
【0043】
さらに、図2(B)に示すように、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3の除去範囲に、第一の接続用線材10Cを第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cとが同一平面上に位置するように配置する(第一の配置工程)。
【0044】
なお、この第一の接続用線材10Cは、配置される前に予めその基材1Cの両端部の端面が長手方向Lに長さeだけエッチング処理等により除去される。この除去長さeは1[μm]以上とすることが望ましい。この基材1Cの両端部の除去により、第一の接続用線材10Cの両側における第一の中間超電導導体層32,32の形成において、基材1Cの両端部の端面からの金属拡散の影響を低減することが可能となる。
【0045】
また、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3の除去範囲に第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cを配置する場合には、当該超電導導体層3Cと第一及び第二の超電導線材10A,10Bの中間層2,2との間は、加熱による接合を行っても良い。
また、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3の除去範囲に厚さ方向について一部の超電導導体層3,3を残存させている場合も、第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cと残存する超電導導体層3,3とを加熱により接合しても良い。
【0046】
次に、図2(C)に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3のそれぞれの接続端部側の端面31,31と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの両側の端面31C,31Cとの間に第一の中間超電導導体層32,32を新たに形成する(第一の形成工程)。
【0047】
第一の中間超電導導体層32,32の形成は、MOD法(Metal Organic Deposition法/有機金属堆積法)により行われる。即ち、第一の中間超電導導体層32,32の形成箇所にMOD液が塗布される。このMOD液は、例えば、RE(Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)及びHo(ホルミウム)等の希土類元素)とBaとCuとが約1:2:3の割合で含まれているアセチルアセトナート系MOD溶液が使用される。
そして、塗布されたMOD液に含まれる有機成分を除去するための仮焼成工程と、エピタキシャル成長により第一の中間超電導導体層32,32を形成するための本焼成工程とが、所定の加圧環境下で実施される。
具体的な例示としては、仮焼成工程については、第一の中間超電導導体層32,32の形成箇所を400℃以上500℃以下の温度範囲で熱処理し、本焼成工程では、第一の中間超電導導体層32,32の形成箇所を750℃以上830℃以下の温度範囲で熱処理することが望ましい。
【0048】
なお、第一の形成工程は、MOD法に限らず、化学気相蒸着法(CVD法) 、レーザー蒸着法(PLD法)等、Y系の超電導導体層の形成を可能とする公知のいずれの方法を用いても良い。
【0049】
また、この第一の形成工程により、第一の中間超電導導体層32,32を形成した後には、当該第一の中間超電導導体層32,32と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3C及び第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部に対して酸素をドープする酸素アニール処理を行うことが望ましい。この酸素アニール処理は、第一の中間超電導導体層32,32と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3C及び第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部を酸素雰囲気内に収容し、所定の加熱環境下で実施する。
具体的な例示としては、酸素アニールの対象部位を、350℃以上500℃以下の温度範囲の酸素の雰囲気下に置き、この条件下で酸素ドープを行う。
【0050】
また、さらに、酸素アニール工程の後、接続構造100各超電導導体層3,3,3C,32,32の表面又は接続構造100の全体の表面に対して、銀を蒸着し、または、銀ペーストを塗布した後に焼成することで銀安定化層を形成し、その上に電解めっき法などで銅安定化層を形成する安定化層形成工程を付加しても良い。
【0051】
これらの各工程により、超電導線材の接続構造100が形成される。
【0052】
[第一の実施形態の技術的効果]
上記超電導線材の接続構造100は、第一と第二の超電導線材10A,10B及び第一の接続用線材10Cの超電導導体層3,3,3Cが同一平面に沿って並ぶと共に、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1が同一平面に沿って並んでいる。また、超電導線材の接続構造100では、接続された超電導線材10A,10Bの長手方向Lについて、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31及び第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの端面31C,31Cの各位置(これらは第一の中間超電導導体層32,32の四つの端面321の位置と一致する)と基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置とがいずれも1[μm]以上離れた配置となっている。
これらにより、Ni等の金属拡散を生じ得る基材1,1の接続端部側の端面から各超電導導体層3,3,3Cの端面31,31,31C,31Cを全て離間させることができ、基材1,1における金属拡散の影響を低減し、接続構造100において良好な超電導特性で電気抵抗を十分に低減させて通電を行うことが可能となる。
また、上記の接続構造100により、第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとの間で超電導臨界電流密度を十分に大きくすることができ、大電流でも超電導状態を良好に維持することが可能となる。
【0053】
また、超電導線材の接続構造100では、各超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置に第一の接続用線材10Cを配置し、基材1,1の境界に跨がるように超電導導体層を形成する必要がないことから、基材1,1を厚さ方向に高精度に位置合わせしなくとも、第一の中間超電導導体層32の成膜に影響を及ぼすことがない。このため、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3同士を良好に接続し、また、接続構造100の形成作業負担の軽減を図ることが可能となる。
【0054】
また、超電導線材の接続構造100では、各超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部を接合するので、接続構造100の接続強度の向上を図ることが可能となる。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31と第一の接続用線材10Cの超電導導体層3Cの端面31C,31Cの間に第一の中間超電導導体層32,32の成膜を行うので、例えば、基材と基材の間などの用に深い凹みの内側に成膜を行う場合と異なり、成膜後の酸素アニールを良好に行うことが可能となる。
また、二つの第一の中間超電導導体層32,32は、いずれも、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置が、長手方向Lについて、第一の中間超電導導体層32,32の範囲外となっている。このため、段差のない平滑面上に第一の中間超電導導体層32,32を良好に形成することができ、各超電導導体層3,3,3Cを良好に接続することが可能である。
【0055】
また、上記超電導線材の接続構造100を、前述した第一の除去工程と接合工程と第一の配置工程と第一の形成工程とによって形成するので、より簡易に接続構造100を形成することが可能となる。
【0056】
[第二の実施形態]
図4に第二の実施形態である超電導線材の接続構造100Dを示す。この接続構造100Dについては、前述した接続構造100と同一の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
[超電導線材の接続構造]
本実施形態は、超電導線材の接続構造100Dと当該超電導線材の接続構造100Dを有する超電導線材と超電導線材の接続方法とを示すものである。
本実施形態である超電導線材の接続構造100Dは、図4に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部同士を突き合わせた状態で後述する接続方法によって接続することにより形成される。但し、超電導線材の接続構造100Dは、後述する接続方法によって形成されるものに限定されず、他の接続方法によって形成しても良い。
【0058】
この接続構造100Dは、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの接続端部が第二の接続用線材10Dを介して接続されている。
第二の接続用線材10Dは、基材1Dの片面側に中間層2Dが形成されている。第二の接続用線材10Dの基材1Dと中間層2Dは、それぞれ、超電導線材10の基材1と中間層2と同一材料から形成されている。
【0059】
上記各超電導線材10A,10Bは、接続端部の基材1,1が長手方向Lについて所定の長さで除去されており、これにより露出した各超電導線材10A,10Bの中間層2,2と第二の接続用線材10Dの中間層2Dとが密着し、なおかつ、各基材1,1の接続端部側の端面12,12と第二の接続用線材10Dの基材1Dの両端部の端面12D,12Dとが溶接により接合されている。
また、第二の接続用線材10Dの長手方向Lの長さは、各超電導線材10A,10Bの接続端部の基材1,1の除去長さの合計よりも長く、これにより、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31と第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31との間には隙間が生じる。そして、この隙間には第一の中間超電導導体層32Dが超電導材料の成長形成により形成されている。また、第一の中間超電導導体層32Dは、超電導導体層3と同一又は同種の超電導材料から形成される。
これらの構造により、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3と第一の中間超電導導体層32Dとが長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。また、各超電導線材10A,10Bの基材1,1と第二の接続用線材10Dの基材1Dも長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。なお、超電導導体層3,3と第一の中間超電導導体層32Dは同一直線上となることがより好ましい。また、基材1,1,1Dは同一直線上となることがより好ましい。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31は第一の中間超電導導体層32Dの端面321D,321Dと接合され、各端面31,31,321D,321Dは全て長手方向Lに対しておおむね垂直となっている。
これらによって、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3から第二の超電導線材10Bの超電導導体層3までab面に沿って電流を流すことができ、良好な超電導状態を形成することができる。
【0060】
また、長手方向Lにおける第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置及び第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置は、いずれも、基材1,1の接続端部側の端面12,12の各位置と一致せず、各々が1[μm]よりも十分に離間している。
このため、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31及び第一の中間超電導導体層32Dの両端部の端面321D,321Dに対する、各基材1,1,1Dの端面12,12Dからの金属拡散の影響を十分に低減させている。
【0061】
また、第一の中間超電導導体層32Dは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置が、いずれも、長手方向Lについて、第一の中間超電導導体層32Dの範囲外となっている。
【0062】
[超電導線材の接続方法]
上記接続構造100Dを形成する超電導線材の接続方法について、図4(A)〜図4(C)に基づいて説明する。
まず、図4(A)に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部の基材1,1を長手方向Lについて所定の長さで、厚さ方向について全部除去し、中間層2,2の表面を露出させる(第二の除去工程)。これらの除去は、機械的研磨、化学的研磨(例えば、エッチング処理)又はこれらの組み合わせにより行う。
【0063】
さらに、図4(B)に示すように、第一の超電導線材10Aの基材1の接続端部と第二の超電導線材10Bの基材1の接続端部とを対向させ、第二の除去工程により露出した各中間層2,2に中間層2Dが接し、基材1,1と基材1Dとが長手方向Lに沿って同一平面上に並ぶように第二の接続用線材10Dを第一の超電導線材10Aの接続端部と第二の超電導線材10Bの接続端部との間に配置する(第二の配置工程)。
また、この時、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12と第二の接続用線材10Dの基材1Dの端面12D,12Dとを個別に溶接により接合する。これにより基材1,1,1Dを介して第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bと第二の接続用線材10Dとが十分な強度をもって連結される。
【0064】
上記第二の配置工程により、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3は長手方向Lに沿った同一平面上に位置する状態となる。
そして、図4(C)に示すように、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の間であって第二の接続用線材10Dの中間層2Dの上面に第一の中間超電導導体層32Dを形成する(第二の形成工程)。
なお、第二の接続用線材10Dの中間層2Dは、配置する前にその表面粗さを十分小さく(例えば、中心線平均粗さRaを50nm以下、より望ましくは10nm以下)しておくことが望ましい。
【0065】
第一の中間超電導導体層32Dの形成は、MOD法により行われる。MOD法の詳細は、第一の実施形態の第一の中間超電導導体層32の形成と同じである。
また、この第一の中間超電導導体層32Dも、MOD法に限らず、CVD法 、PLD法等、Y系の超電導導体層の形成を可能とする公知のいずれの方法を用いても良い。
【0066】
また、第一の中間超電導導体層32Dの場合も、その形成後には、第一の中間超電導導体層32の場合と同様に、酸素アニール処理を行い、さらには、安定化層形成工程を付加しても良い。
これらの各工程により、超電導線材の接続構造100Dが形成される。
【0067】
[第二の実施形態の技術的効果]
上記超電導線材の接続構造100Dは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3及び第一の中間超電導導体層32Dが同一平面に沿って並ぶと共に、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1と第一の接続用線材10Dの基材1Dとが同一平面に沿って並んでいる。
また、超電導線材の接続構造100Dでは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの長手方向Lについて、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の各位置(これらは第一の中間超電導導体層32Dの二つの端面321Dの位置と一致する)と基材1,1の接続端部側の端面12,12の各位置(これらは第一の接続用線材10Dの基材1Dの端面12D,12Dの位置と一致する)とが1[μm]以上離れた配置となっている。
従って、超電導線材の接続構造100Dもまた、超電導線材の接続構造100と同様に、各超電導導体層3,3,32Dに対する金属拡散の影響を低減して、良好な超電導特性で電気抵抗を十分に低減させて通電を行うことが可能となる。
また、上記の接続構造100Dにより、第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとの間で超電導臨界電流密度を十分に大きくすることができ、大電流でも超電導状態を良好に維持することが可能となる。
【0068】
また、超電導線材の接続構造100Dでは、第二の接続用線材10Dの中間層2Dの表面に第一の中間超電導導体層32Dを形成するので、基材1,1,1Dを厚さ方向に高精度に位置合わせしなくとも、第一の中間超電導導体層32Dの成膜に影響を及ぼすことがない。このため、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3同士を良好に接続し、また、接続構造100Dの形成作業負担の軽減を図ることが可能となる。
【0069】
また、超電導線材の接続構造100Dでは、各超電導線材10A,10Bの基材1,1と第二の接続用線材10Dの基材1Dの接続端部を接合するので、接続構造100Dの接続強度の向上を図ることが可能となる。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の間に第一の中間超電導導体層32Dの成膜を行うので、例えば、基材と基材の間などの用に深い凹みの内側に成膜を行う場合と異なり、成膜後の酸素アニールを良好に行うことが可能となる。
また、第一の中間超電導導体層32Dは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置が、いずれも、長手方向Lについて、第一の中間超電導導体層32Dの範囲外となっている。このため、段差のない平滑面上に第一の中間超電導導体層32Dを良好に形成することができ、各超電導導体層3,3を良好に接続することが可能である。
【0070】
また、超電導線材の接続構造100Dでは、長手方向Lについて、第一の超電導線材10Aの基材1の接続端部側の端面12から超電導導体層3の接続端部側の端面31までの範囲と第二の超電導線材10Bの基材1の端面12から超電導導体層3の接続端部側の端面31までの範囲で中間層2,2が第二の接続用線材10Dの中間層2Dと重合し、当該重合部分で中間層の厚みが他の部位よりも厚いので、金属拡散の影響をより効果的に低減することが可能となる。
【0071】
また、上記超電導線材の接続構造100Dを、前述した第二の除去工程と第二の配置工程と第二の形成工程とによって形成するので、より容易に接続構造100Dを形成することが可能となる。
【0072】
[第三の実施形態]
図5に第三の実施形態である超電導線材の接続構造100Eを示す。この接続構造100Eについては、前述した接続構造100と同一の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0073】
[超電導線材の接続構造]
本実施形態は、超電導線材の接続構造100Eと当該超電導線材の接続構造100Eを有する超電導線材と超電導線材の接続方法とを示すものである。
本実施形態である超電導線材の接続構造100Eは、図5に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部同士を突き合わせた状態で後述する接続方法によって接続することにより形成される。但し、超電導線材の接続構造100Eは、後述する接続方法によって形成されるものに限定されず、他の接続方法によって形成しても良い。
【0074】
この接続構造100Eは、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1同士を接続し、超電導導体層3,3は第一の中間超電導導体層32Eを介して接続されている。
【0075】
第一の超電導線材10Aは、接続端部の超電導導体層3が長手方向Lについて所定の長さで除去されており、第二の超電導線材10Bは、接続端部の基材1が長手方向Lについて第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去長さよりも短い長さで除去されている。
そして、第一と第二の超電導線材10A,10Bは、互いの基材1,1の接続端部側の端面12,12が溶接により接合されており、第二の超電導線材10Bの中間層2及び超電導導体層3の接続端部は、第一の超電導線材10Aの中間層2の接続端部の上面に載置された状態となっている。
【0076】
また、長手方向Lについて、第二の超電導線材10Bの中間層2の端面21の位置及び超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置が、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置よりも第一の超電導線材10A側に延出されている。これにより、第一の超電導線材10Aの中間層2と第二の超電導線材10Bの中間層2とは一部重合した状態となっている。
【0077】
また、前述したように、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去長さは第二の超電導線材10Bの基材1の除去長さよりも長いので、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31と第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31との間には隙間が生じる。そして、この隙間には第一の中間超電導導体層32Eが超電導材料の成長形成により形成されている。この第一の中間超電導導体層32Eは、超電導導体層3と同一又は同種の超電導材料から形成される。
【0078】
これらの構造により、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3と第一の中間超電導導体層32Eとが長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。また、各超電導線材10A,10Bの基材1,1も長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。なお、超電導導体層3,3と第一の中間超電導導体層32Eは同一直線上となることがより好ましい。また、基材1,1は同一直線上となることがより好ましい。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31は第一の中間超電導導体層32Eの端面321E,321Eと接合され、各端面31,31,321E,321Eは全て長手方向Lに対しておおむね垂直となっている。
これらによって、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3から第二の超電導線材10Bの超電導導体層3までab面に沿って電流を流すことができ、良好な超電導状態を形成することができる。
【0079】
また、長手方向Lにおける第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置及び第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置は、いずれも、基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置と一致せず、各々が1[μm]よりも十分に離間している。
これにより、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31及び第一の中間超電導導体層32Eの両端部の端面321E,321Eに対する、各基材1,1の接続端部側の端面12,12からの金属拡散の影響を十分に低減させている。
【0080】
また、第一の中間超電導導体層32Eは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置が、長手方向Lについて、第一の中間超電導導体層32Eの範囲外となっている。
【0081】
[超電導線材の接続方法]
上記接続構造100Eを形成する超電導線材の接続方法について、図5(A)〜図5(C)に基づいて説明する。
まず、図5(A)に示すように、第一の超電導線材10Aの接続端部の超電導導体層3を長手方向Lについて所定の長さで、厚さ方向について全部除去し、中間層2の表面を露出させる(第三の除去工程)。また、第二の超電導線材10Bの接続端部の基材1を長手方向Lについて第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去長さよりも短い長さで、厚さ方向について全部除去し、中間層2の表面(図における下側表面)を露出させる(第四の除去工程)。
第三の除去工程及び第四の除去工程の除去は、機械的研磨、化学的研磨(例えば、エッチング処理)又はこれらの組み合わせにより行う。
なお、第三の除去工程と第四の除去工程はいずれを先に行っても良いし、同時に行ってもよい。
【0082】
さらに、図5(B)に示すように、第一の超電導線材10Aの中間層2の接続端部の上に第二の超電導線材10Bの中間層2の接続端部を重合させた状態で互いの基材1,1が長手方向Lに沿って同一平面上に並ぶように第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとを配置する(第三の配置工程)。
また、この時、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12を互いに溶接により接合する。これにより、第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとが十分な強度をもって連結される。
【0083】
上記第三の配置工程により、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3は長手方向Lに沿った同一平面上に位置する状態となる。
そして、図5(C)に示すように、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の間であって第一の超電導線材10Aの中間層2の上面に第一の中間超電導導体層32Eを形成する(第三の形成工程)。
なお、第一の超電導線材10Aの中間層2は、配置する前にその表面粗さを十分小さく(例えば、中心線平均粗さRaを50nm以下、より望ましくは10nm以下)しておくことが望ましい。
また、第二の超電導線材10Aの接続端部において超電導導体層3は厚さ方向について一部残存させてもよい。その場合も残存した超電導導体層3の表面粗さは十分小さく(例えば、中心線平均粗さRaを50nm以下、より望ましくは10nm以下)しておくことが望ましい。
【0084】
第一の中間超電導導体層32Eの形成は、MOD法により行われる。MOD法の詳細は、第一の実施形態の第一の中間超電導導体層32の形成と同じである。
また、この第一の中間超電導導体層32Eも、MOD法に限らず、CVD法 、PLD法等、Y系の超電導導体層の形成を可能とする公知のいずれの方法を用いても良い。
【0085】
また、第一の中間超電導導体層32Eの場合も、その形成後には、第一の中間超電導導体層32の場合と同様に、酸素アニール処理を行い、さらには、安定化層形成工程を付加しても良い。
これらの各工程により、超電導線材の接続構造100Eが形成される。
【0086】
[第三の実施形態の技術的効果]
上記超電導線材の接続構造100Eは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3及び第一の中間超電導導体層32Eが同一平面に沿って並ぶと共に、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1が同一平面に沿って並んでいる。
また、超電導線材の接続構造100Eでは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの長手方向Lについて、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の各位置(これらは第一の中間超電導導体層32Eの二つの端面321Eの位置と一致する)と基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置とが1[μm]以上離れた配置配置となっている。
従って、超電導線材の接続構造100Eもまた、超電導線材の接続構造100と同様に、各超電導導体層3,3,32Eに対する金属拡散の影響を低減して、良好な超電導特性で電気抵抗を十分に低減させて通電を行うことが可能となる。
また、上記の接続構造100Eにより、第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとの間で超電導臨界電流密度を十分に大きくすることができ、大電流でも超電導状態を良好に維持することが可能となる。
【0087】
また、超電導線材の接続構造100Eでは、第一の超電導線材10Aの中間層2の表面に他の超電導導体層32Fを形成するので、基材1,1を厚さ方向に高精度に位置合わせしなくとも、第一の中間超電導導体層32Eの成膜に影響を及ぼすことがない。このため、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3同士を良好に接続し、また、接続構造100Eの形成作業負担の軽減を図ることが可能となる。
【0088】
また、超電導線材の接続構造100Eでは、各超電導線材10A,10Bの基材1,1を接合するので、接続構造100Eの接続強度の向上を図ることが可能となる。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の間に第一の中間超電導導体層32Eの成膜を行うので、例えば、基材と基材の間などの用に深い凹みの内側に成膜を行う場合と異なり、成膜後の酸素アニールを良好に行うことが可能となる。
また、第一の中間超電導導体層32Eは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置が、長手方向Lについて、第一の中間超電導導体層32Eの範囲外となっている。このため、段差のない平滑面上に第一の中間超電導導体層32Eを良好に形成することができ、各超電導導体層3,3を良好に接続することが可能である。
【0089】
また、超電導線材の接続構造100Eでは、長手方向Lについて、第一と第二の超電導線材10A,10Bの基材1,1の接続端部側の端面12,12から第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31までの範囲で中間層2,2が重合し、当該重合部分で中間層の厚みが他の部位よりも厚いので、金属拡散の影響をより効果的に低減することが可能となる。
【0090】
また、上記超電導線材の接続構造100Eを、前述した第三及び第四の除去工程と第三の配置工程と第三の形成工程とによって形成するので、より容易に接続構造100Eを形成することが可能となる。
【0091】
[第四の実施形態]
図6に第四の実施形態である超電導線材の接続構造100Fを示す。この接続構造100Fについては、前述した接続構造100と同一の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0092】
[超電導線材の接続構造]
本実施形態は、超電導線材の接続構造100Fと当該超電導線材の接続構造100Fを有する超電導線材と超電導線材の接続方法とを示すものである。
本実施形態である超電導線材の接続構造100Fは、図6に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部同士を重合させた状態で後述する接続方法によって接続することにより形成される。但し、超電導線材の接続構造100Fは、後述する接続方法によって形成されるものに限定されず、他の接続方法によって形成しても良い。
【0093】
この接続構造100Fは、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3同士が他の超電導導体層32Fを介して接続されている。
【0094】
第一の超電導線材10Aは、接続端部の超電導導体層3が長手方向Lについて所定の長さで除去されており、第二の超電導線材10Bは、接続端部の基材1が長手方向Lについて第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去長さよりも短い長さで除去されている。
この第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去長さは、この除去部分に第二の超電導線材10Bの先端部を重ねて配置するのに十分な長さであればよい。
また、第二の超電導線材10Bの基材1の除去長さは、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去部分に第二の超電導線材10Bの接続端部を重ねる長さよりも短くすることが望ましく、また、基材1の接続端部側の端面12の金属拡散の影響が他の超電導導体層32Fに対して十分に低減できる長さとすることが望ましい。例えば、基材1にNiを使用する場合には少なくとも1[μm]以上とすることが望ましい。
【0095】
そして、第二の超電導線材10Bは、基材1に対する超電導導体層3の厚さ方向の配置が第一の超電導線材10Aと逆となるように向きを反転させた状態で、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3が長手方向Lに沿った同一平面に沿って並ぶように、第二の超電導線材10Bの接続端部が第一の超電導線材10Aの接続端部であって中間層2の上面に載置されるように配置されている。
【0096】
また、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31と第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31との間には隙間が形成され、当該隙間には他の超電導導体層32Fが形成されている。この他の超電導導体層32Fは、超電導導体層3と同一又は同種の超電導材料から形成される。
【0097】
これらの構造により、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3と他の超電導導体層32Fとが長手方向Lに平行な同一平面上に並んだ状態となっている。なお、超電導導体層3,3と他の超電導導体層32Fは同一直線上となることがより好ましい。
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31は他の超電導導体層32Fの端面321F,321Fと接合され、各端面31,31,321F,321Fは全ておおむね長手方向Lに垂直となっている。
これらによって、第一の超電導線材10Aの超電導導体層3から第二の超電導線材10Bの超電導導体層3までab面に沿って電流を流すことができ、良好な超電導状態を形成することができる。
【0098】
また、長手方向Lにおける第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置及び第二の超電導線材10Bの超電導導体層3の接続端部側の端面31の位置は、いずれも、基材1,1の接続端部側の端面12,12の位置と一致せず、各々が1[μm]よりも十分に離間している。
これにより、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31及び他の超電導導体層32Fの両端部の端面321F,321Fに対する、各基材1,1の接続端部側の端面12,12からの金属拡散の影響を十分に低減させている。
【0099】
[超電導線材の接続方法]
上記接続構造100Fを形成する超電導線材の接続方法について、図6(A)〜図6(C)に基づいて説明する。
まず、図6(A)に示すように、第一の超電導線材10Aの接続端部の超電導導体層3を長手方向Lについて所定の長さで、厚さ方向について全部除去し、中間層2の表面を露出させる(第五の除去工程)。また、第二の超電導線材10Bの接続端部の基材1を長手方向Lについて第一の超電導線材10Aの超電導導体層3の除去長さよりも短い長さで、厚さ方向について全部除去し、中間層2の表面を露出させる(第六の除去工程)。
第五の除去工程及び第六の除去工程の除去は、機械的研磨、化学的研磨(例えば、エッチング処理)又はこれらの組み合わせにより行う。
なお、第五の除去工程と第六の除去工程はいずれを先に行っても良いし、同時に行ってもよい。
【0100】
さらに、図6(B)に示すように、第二の超電導線材10Bを厚さ方向について反転させた状態で、第一の超電導線材10Aの中間層2の接続端部の上に第二の超電導線材10Bの接続端部の超電導導体層3を重合させて、互いの超電導導体層3,3が長手方向Lに沿って同一平面上に並ぶように第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとを配置する(第四の配置工程)。
【0101】
そして、図6(C)に示すように、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの各超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の間であって第一の超電導線材10Aの中間層2の上面に他の超電導導体層32Fを形成する(第四の形成工程)。
なお、第一の超電導線材10Aの中間層2は、配置する前にその表面粗さを十分小さく(例えば、中心線平均粗さRaを50nm以下、より望ましくは10nm以下)しておくことが望ましい。
また、第二の超電導線材10Aの接続端部において超電導導体層3は厚さ方向について一部残存させてもよい。その場合も残存した超電導導体層3の表面粗さは十分小さく(例えば、中心線平均粗さRaを50nm以下、より望ましくは10nm以下)しておくことが望ましい。
【0102】
他の超電導導体層32Fの形成は、MOD法により行われる。MOD法の詳細は、第一の実施形態の第一の中間超電導導体層32の形成と同じである。
また、この他の超電導導体層32Fも、MOD法に限らず、CVD法 、PLD法等、Y系の超電導導体層の形成を可能とする公知のいずれの方法を用いても良い。
【0103】
また、他の超電導導体層32Fの場合も、その形成後には、第一の中間超電導導体層32の場合と同様に、酸素アニール処理を行い、さらには、安定化層形成工程を付加しても良い。
これらの各工程により、超電導線材の接続構造100Fが形成される。
【0104】
[第四の実施形態の技術的効果]
上記超電導線材の接続構造100Fは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3及び他の超電導導体層32Fが同一平面に沿って並んでいる。
また、超電導線材の接続構造100Fでは、第一と第二の超電導線材10A,10Bの長手方向Lについて、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の各位置(これらは他の超電導導体層32Fの二つの端面321Fの位置と一致する)と基材1,1の接続端部側の端面12,12の各位置とが1[μm]以上離れた配置となっている。
従って、超電導線材の接続構造100Fもまた、超電導線材の接続構造100と同様に、各超電導導体層3,3,32Fに対する金属拡散の影響を低減して、良好な超電導特性で電気抵抗を十分に低減させて通電を行うことが可能となる。
また、上記の接続構造100Fにより、第一の超電導線材10Aと第二の超電導線材10Bとの間で超電導臨界電流密度を十分に大きくすることができ、大電流でも超電導状態を良好に維持することが可能となる。
【0105】
また、超電導線材の接続構造100Fでは、第一の超電導線材10Aの中間層2の表面に他の超電導導体層32Fを形成するので、基材1,1を厚さ方向に高精度に位置合わせしなくとも、他の超電導導体層32Fの成膜に影響を及ぼすことがない。このため、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3同士を良好に接続し、また、接続構造100Fの形成作業負担の軽減を図ることが可能となる。
【0106】
また、各超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3の接続端部側の端面31,31の間に他の超電導導体層32Fの成膜を行うので、例えば、基材と基材の間などの用に深い凹みの内側に成膜を行う場合と異なり、成膜後の酸素アニールを良好に行うことが可能となる。
【0107】
また、上記超電導線材の接続構造100Fを、前述した第五及び第六の除去工程と第四の配置工程と第四の形成工程とによって形成するので、より容易に接続構造100Fを形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0108】
1,1C,1D 基材
2,2C,2D 中間層
3 酸化物超電導導体層
3C 超電導導体層(第二の中間超電導導体層)
32,32D,32E 第一の中間超電導導体層
32F 他の超電導導体層
10,10A,10B 超電導線材
10C 第一の接続用線材
10D 第二の接続用線材
11 成膜面
12,12D,21,31,31C,321,321D,321E,321F 端面
100,100D,100E,100F 接続構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6