(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
RE系超電導線材(第2世代高温超電導線材)はテープ状線材であり、金属基材上にセラミックス層を中間層、超電導導体層として成膜し、金属保護層、金属安定化層を成膜することにより製造される。
すなわち、高温超電導線材は異種材料の積層構造体であり、超電導線材として特性は超電導導体層の配向性に大きく左右される。これらはセラミックスであるため、線材が折れ曲がる等により劣化が生じやすい。劣化した場合でも、多くの場合は目視では確認できず、いざ通電してみて初めて分かることが多い。
また、局所的な劣化の場合は劣化個所で、通電電流由来のジュール発熱が生じ、周辺の線材や構造物を巻き込んで焼損する。コイル・ケーブルなどのアプリケーションへの応用の際は劣化個所の有無がアプリケーションの信頼性に大きく影響する。
劣化モードの一つとして線材の剥離がある。これは超電導線材の表面に引きはがし力がかかり、中間層や超電導導体層といったセラミック層で線材表面が剥がれてしまう問題である。引きはがし力は、線材をオペレーション温度まで冷却した際に、超電導線材と含浸材、絶縁材などの構造物との線膨張率の差によって生じる応力に起因するものや、コイルを通電した際に発生する電磁力に起因するものがある。アプリケーション内に超電導線材同士、もしくは超電導線材と電流端子など接続部が存在する場合、当該部の剛性が不連続に変化するため、冷却や電磁力によって発生する応力が集中しやすく、劣化が生じやすくなる可能性があった。
【0003】
超電導線材同士の接続は、接続する超電導線材の端部同士を重ね合わせて接合した接続構造(以下「ラップ接続」という。)、接続する超電導線材の端部同士間に他の接続用の超電導線材を架け渡して重ねて接合した接続構造(以下「ブリッジ接続」という。)といった超電導線材を対向させて半田で接続する方法がとられる。このようなラップ接続やブリッジ接続といった線材同士を重ね合わせて接合する構造において、対向させる向きは線材の超電導導体層側同士が半田で接合されるようになる向きであり(基材が共に外側)、半田などの抵抗体をなるべく短い電流パスで通過させるための構造とされる。
このような接続構造をとった場合、超電導線材同士の接続部は、主な要素でいうと金属基材・超電導導体層・半田・超電導導体層・金属基材の順番で各層が積層され、剛性が小さく壊れやすい超電導導体層が、金属基材、半田といった剛性の大きい層に挟まれた積層構造となる。
このような積層構造の接続部を有した超電導線材を曲げたり、ねじったりすると超電導導体層に引きはがし力がかかり、接続部で剥離や劣化が生じることがある。
超電導線材同士を接続するための接合方法としては、半田で接合する方法が主であるが、銀ペーストや超音波接続を使用した接合方法も提案されている。これらの接合方法であっても、超電導線材同士の接続部の構造はラップ接続・ブリッジ接続となることが多く、半田の場合と同様に曲げやねじりによる剥離や劣化の問題が生じる。
また、近年超電導導体層同士を接合させる技術が提案されているが、本技術による場合にも超電導線材同士の接続部は弱いセラミック層が金属基材に挟まれた構造となるため、同様に曲げやねじりによる剥離や劣化の問題が生じる。
【0004】
超電導線材同士の接続部における剥離問題に関連した文献として特許文献1が挙げられる。
すなわち、特許文献1に記載の発明にあっては、超電導導体同士の接続部を有した超電導コイルにおいて、接続部に配置される第2の超電導導体の端末部は幅が端末に近づくほど狭くなるように形成されていることにより、巻線部内の接続部における第2の超電導導体の基材の占める割合が端末に近づくほど低減し、これとともに機械的強度(曲げ強さ)も低減しているので、第2の超電導導体の端末部の先端部分における例えば半田接合などの接合処理での加熱を受けた基材の元に戻ろうとする力(外周側に向う力)が低減されており、第2の超電導導体における基材側と超電導導体層側との剥離を防止しようとする。
【0005】
上述の積層構造を有した超電導線材を積極的にねじった状態で保持した超電導ケーブルが開示された文献として特許文献2が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1は、フラットワイズ方向の曲げに対する剥離防止策について記載されており、ねじりに対する剥離防止効果が不明であるとともに、接続する一方の超電導線材の端部は幅が端末に近づくほど狭くなるように三角状に切り欠かれているから、一定の長手方向の接合長さ内において他方の超電導線材との接合面積が減少する。
曲げモーメントやねじりモーメントは、超電導ケーブルの取扱時や設置時に加わり得るほか、特許文献2に記載されるようなねじりケーブルを構成したり、さらにこのねじりケーブルを巻線して超電導コイルを構成したりする場合に加わる。
ラップ接続やブリッジ接続により超電導線材の端部同士を重ねて接合した接続部が有る場合には、接続部の剛性は自ずと接続部の前後の他の部分より高くなっており、ねじり難く、取扱いや設置のほか、上掲のねじりケーブルやこれを巻線したコイルを均整な状態に作製することを困難にするとともに、無理にねじった場合には上述したように剥離の問題が生じる。
特許文献1に記載のように、超電導線材の端部同士の接続部に配置される一方の超電導線材の端部を三角状に切り欠いても、この三角状の端部を、他方の三角状にされていない超電導線材の端部に重ねるから、接続部の剛性が自ずと接続部の前後の他の部分(重ねられていない部分)より高くなることに変わりがなく、同様の問題が生じる。
【0008】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、超電導線材同士の接続部を、ねじりが加わっても剥離や劣化が生じにくくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、基材と超電導導体層を含んだ積層構造を有する超電導線材同士を長手方向に接続した超電導線材の接続構造であって、
一の超電導線材の接続端部と他の超電導線材の接続端部とが各自の基材を外側にして積層方向に重ね合わされ、その重ね合わされた面で互いに接合された接続部が構成され、
長手方向には前記一の超電導線材の接続端部と前記他の超電導線材の接続端部とが重ね合わされた範囲に亘り、積層方向には前記一の超電導線材の基材から前記他の超電導線材の基材までに亘って前記接続部の積層構造を幅方向に分断するスリットが1又は複数設けられた超電導線材の接続構造である。
【0010】
、
請求項2記載の発明は、前記スリットは、前記接続部を幅方向に3等分したときの中央部分に相当する範囲に設けられている請求項1に記載の超電導線材の接続構造である。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の超電導線材の接続構造により接続された2以上の超電導線材をねじった状態で保持した超電導ケーブルである。
【0012】
、
請求項4記載の発明は、請求項3に記載の超電導ケーブルを巻線して構成された超電導コイルである。
【0013】
請求項5記載の発明は、基材と超電導導体層を含んだ積層構造を有する超電導線材同士を長手方向に接続した超電導線材の接続処理方法であって、
一の超電導線材の接続端部と他の超電導線材の接続端部とが各自の基材を外側にして積層方向に重ね合わされ、その重ね合わされた面で互いに接合された接続部を構成した後、
長手方向には前記一の超電導線材の接続端部と前記他の超電導線材の接続端部とが重ね合わされた範囲に亘り、積層方向には前記一の超電導線材の基材から前記他の超電導線材の基材までに亘って前記接続部の積層構造を幅方向に分断するスリットを加工することを特徴とする超電導線材の接続処理方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超電導線材同士の接続部に構成される基材から基材までの積層構造は、1又は必要により複数のスリットにより幅方向に分断されるので、ねじり剛性が低下し、ねじりが加わっても応力は低く抑えられ剥離や劣化が生じにくいという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超電導線材の接続構造の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る超電導線材の接続構造のブリッジ接続にした場合の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る超電導ケーブルの一部を示す見取り図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る超電導コイルの見取り図である。
【
図6】本発明の実施例1に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図7】本発明の実施例2に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図8】本発明の実施例3に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図9】本発明の実施例4に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図10】本発明の実施例5に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図11】本発明の実施例6に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図12】本発明の実施例7に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図13】本発明の実施例8に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図14】本発明の実施例9に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図15】本発明の実施例10に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図16】本発明の実施例11に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図17】本発明の実施例12に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図18】比較例1に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【
図19】比較例2に係る超電導線材の接続構造の模式的断面図(a)及び平面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る超電導線材の接続構造の斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の超電導線材の接続構造は、超電導線材1と超電導線材2とを長手方向に接続した接続構造である。図中に幅方向X、長手方向Y、積層方向(厚み方向)Zを示す。
超電導線材1,2はRE系酸化物超電導線材で、互いに同様の構成であり、基材11(21)上に、中間層12(22)、超電導導体層13、(23)、安定化層14(24)をこの順で積層しテープ状構造となっている。
【0018】
基材11(21)は、テープ状の低磁性の金属基板やセラミックス基板が用いられる。金属基板の材料としては、例えば、強度及び耐熱性に優れた、Co、Cu、Cr、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金が用いられる。特に、耐食性及び耐熱性が優れているという観点からハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)等のNi基合金、またはステンレス鋼等のFe基合金を用いることが好ましい。
また、これら各種金属材料上に各種セラミックスを配してもよい。また、セラミックス基板の材料としては、例えば、MgO、SrTiO
3、又はイットリウム安定化ジルコニア等が用いられる。その他にも、サファイアを基材として用いてもよい。
【0019】
中間層12(22)は、超電導導体層13(23)において例えば高い2軸配向性を実現するための層である。このような中間層12(22)は、例えば、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基材11(21)と超電導導体層13(23)を構成する超電導体との中間的な値を示す。
また、中間層12(22)は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、その層数や種類は限定されないが、非晶質のGd
2Zr
2O
7−δ(δは酸素不定比量)やAl
2O
3或いはY
2O
3等を含むベッド層と、結晶質のMgO等を含みIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法により成形された強制配向層と、LaMnO
3+δ(δは酸素不定比量)を含むLMO層と、を順に積層した構成となっていてもよい。また、LMO層の上にCeO
2等を含むキャップ層をさらに設けてもよい。
上記各層の厚さは、LMO層を30nm、強制配向層のMgO層を40nm、ベッド層のY
2O
3層を7nm、Al
2O
3層を80nmとする。なお、これらの数値はいずれも一例である。
【0020】
この中間層12(22)の表面には、超電導導体層13(23)が積層している。超電導導体層13(23)は、酸化物超電導体、特に銅酸化物超電導体を含んでいることが好ましい。銅酸化物超電導体としては、高温超電導体としてのREBa
2Cu
3O
7−δ(以下、RE系超電導体と称す)が好ましい。なお、RE系超電導体中のREは、Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,YbやLuなどの単一の希土類元素又は複数の希土類元素であり、これらの中でもBaサイトと置換が起き難い等の理由でYであることが好ましい。また、δは、酸素不定比量であって、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。なお、酸素不定比量は、オートクレーブ等の装置を用いて高圧酸素アニール等を行えば、δは0未満、すなわち、負の値をとることもある。
【0021】
安定化層14(24)は、超電導導体層13(23)の表面を覆っているが、基材11(21)と中間層12(22)と超電導導体層13(23)の周囲全体を覆っていることがより好ましい。
この安定化層14(24)は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、その層数や種類は限定されないが、銀からなる銀安定化層と、銅からなる銅安定化層を順に積層した構成となっていてもよい。
【0022】
さて、本実施形態の超電導線材の接続構造は、
図1に示すように超電導線材1の接続端部1aと超電導線材2の接続端部2aとが各自の基材11,21を外側にして積層方向Zに重ね合わされ、その重ね合わされた面で互いに接合された接続部4が構成されたものである。この接合を実現するための接合材層3は、半田、銀ペーストなどより構成されるが、超電導導体層13,23同士が接合した構造など、接続端部1aと接続端部2aとの間に介在する接合材層3が無い構造であってもよい。
【0023】
超電導線材1,2の層構造の図示を省略し、接合材層3の図示を省略して描いた断面図を
図2(a)に、対応する平面図を
図2(b)に示した。
図1及び
図2に示すように本接続構造にはスリットSが設けられている。
スリットSは、長手方向Yに略平行に形成されている。
接続部4の一端に配置される超電導線材1の終端1bから、接続部4の他端に配置される超電導線材2の終端2bまでが、長手方向Yについての超電導線材1の接続端部1aと超電導線材2の接続端部2aとが重ね合わされた範囲に相当する。スリットSは、長手方向Yにはこの終端1bから終端2bまでの範囲に亘り形成されている。
図1及び
図2には終端1bから終端2bまでの範囲から両端へ延び出して形成されたスリットSを描いている。このようにスリットSは、終端1bから終端2bまでの範囲を超えて形成されるものであってもよい。
スリットSは、長手方向Yに対して平行が望ましいが、長手方向Yに対して±10度程度の範囲に収まれば、実用に足る。
【0024】
スリットSは、表裏に貫通して形成されている。
すなわち、積層方向Zには超電導線材1の基材11から超電導線材2の基材21までに亘って形成されている。
以上のような範囲に亘ってスリットSは形成されており、スリットSは、接続部4の積層構造を幅方向Xに分断するものである。
スリットSが接続部4の積層構造を幅方向Xに分断するので、スリットSが無い場合に比較して、接続部4のねじり剛性が確実に低下する。ここでいう「ねじり」は、長手方向Yに距離を隔てた2つのXZ平面要素に相対的角度変化を生じさせるねじりである。ねじり剛性が低下するので、ねじりが加わっても応力は低く抑えられ接続部4において剥離や劣化が生じにくいという効果がある。
図1に示すように接続部4は剛性の高い基材11,21によるサンドイッチ構造となり、F1、F2といったねじれ力が加わると、通常
図1にFGで示した基材11,21の高剛性に起因した劈開力が発生し、弱い超電導導体層13,23、中間層12,22での剥離の原因になる。本接続構造によれば、接続部4にスリットSを入れることで、ねじれが発生した際に接続部4に応力が集中することを防ぎ、劈開力FGは分断された各部に分散して低減するので、超電導線材の層間剥離や電導特性の劣化が生じにくい接続構造とすることができる。
【0025】
図1及び
図2に示した接続構造はラップ接続であるが、
図3に示すように接続用の超電導線材5を、平置きした超電導線材1,2間に架け渡してそれぞれに接合したブリッジ接続の場合にも、本発明を実施できる。ブリッジ接続の場合にも、
図3に示すようにスリットSによって接続部41,42の積層構造を幅方向Xに分断した構造とする。
図3では、線材1および2の接続部41,42が離れて設けられているが、互いに接するように配置していてもよい。
【0026】
以上の効果を利用して、本接続構造により接続された2以上の超電導線材を、
図4に示すようにねじった状態で保持した超電導ケーブル30を容易に高品質に構成することができる。なお、本接続構造により接続された2以上の超電導線材の連結体をさらに複数枚重ねて厚みを増すとともに超電導導体層の積層数を増し自己インダクタンスの低減化等の特性向上が図られる。
ねじった状態で保持した超電導ケーブル30は、360°のうちの任意の角度に曲げやすくなっているので、
図5に示すように超電導ケーブル30を巻線して構成された超電導コイル31を容易に高品質に構成することができる。
【0027】
以上の効果を得るためには、スリットSは幅方向Xの中央に設けることが好ましい。すなわち、スリットSを幅方向Xの端にあまり寄らないようにすべきであり、基準としてスリットSは、接続部4を幅方向Xに3等分したときの中央の3分の1に相当する中央部4c(
図2(b)参照)に、少なくとも1本が設けられていることが好ましい。
【0028】
図1及び
図2には1本のスリットSが設けられる場合を示したが、スリットSは複数設けてもよい。すなわち、幅方向Xに距離を隔てて配置された複数のスリットSを設けることができる。スリットSの本数が多いほど、接続部4の分断数が増加し、従って接続部4のねじり剛性が低下する。
しかし、スリットSを多く入れると、スリットSを加工にあたって超電導導体層13,23が削られるので電導特性が落ちる。その点と、ねじり剛性低下による効果の利得とを比較考量してスリットSの本数を選択すべきである。
また、スリットSの加工方法としては、機械加工やレーザー加工を適用し得るが、超電導線材1,2の面積になるべく損失が少ない方法が望ましい。そのため、レーザー加工が好適である。
スリットSの加工は、超電導線材1の接続端部1aと超電導線材2の接続端部2aとが各自の基材11,21を外側にして積層方向Zに重ね合わせ、その重ね合わせた面で互いに接合した後、すなわち、接続部4を構成した後に行う。例えば、接合方法として半田付けを適用する場合は、その半田付けの後にスリットSの加工を実施する。半田付けを適用する場合は、スリットSの加工時の熱によって半田が溶け出す可能性があるため、超電導線材1,2が相対的に動かぬように保持してスリットSの加工を実施することが望ましい。
【0029】
〔実施例〕
各種の実施例を制作し、超電導特性を検査したのでこれを開示する。
【0030】
(a)スリットが入ることに伴い、超電導線材の表面積が損失して臨界電流値が低下するため、スリットを入れる数は超電導線材の特性とトレードオフの関係にある。
(b)現状一般的によく使用されている、RE系高温超電導線材の線材幅オプションは4mm幅、6mm幅、10mm幅とmm単位の線材である。スリット加工に使用されるレーザー種として、YAGレーザーなどが使用されるが、スリット加工に使用するレーザーによる損失幅は100μm程度である。したがって、4mm幅線材を使用した場合、レーザースリットを1本入れるとテープ幅の損失は3%程度となる。この損失は超電導線材の特性劣化に反映され、線材の臨界電流値が3%減少することを意味する。したがって、多くのスリットを入れる程、線材の臨界電流値が減少することとなる。
(c)なお、実際の運転では臨界電流値まで、臨界電流を流すことはなく、特に接続部においては接合に使用した半田等が電流の転流先となるため、接続部4におけるスリットはそれ以外の場所でのスリットよりも、焼損リスクが少ない。
【0031】
上述した実施形態の
図1、
図2に示した接続構造であって接合材層3に半田を採用した構造につき、スリットの長さ、配置、本数などを様々に変更して作製した本発明の実施例1〜12と、以下に説明する比較例1〜5につき、(1)ねじり無しの状態、(2)45度のねじれを加えた状態、(3)60度のねじれを加えた状態のそれぞれにおける超電導特性を検査した。
すべて銅安定化層つき4mm幅線材で、接続部4の長手方向Yの長さは10cm、接続部4の厚みは230μmである。
【0032】
(実施例1)
実施例1は、
図6に示すようにスリットSは1本で幅方向Xの中央に接続部4から両端が30mmずつ延長されるように形成した。
(実施例2)
実施例2は、
図7に示すようにスリットSは1本で幅方向Xの中央に接続部4から両端が1mm程度だけ出るように形成した。
(実施例3,4)
実施例3は
図8に示すように実施例1に対し、実施例4は
図9に示すように実施例2に対し、スリットSの幅方向Xの配置を外側から全幅の3分の1の位置とした配置に変更したものである。
(実施例5,6)
実施例5は
図10に示すように実施例1に対し、実施例6は
図11に示すように実施例2に対し、スリットSを2本として幅方向Xに3等分する位置にそれぞれ配置したものである。
(実施例7,8)
実施例7は
図12に示すように実施例1に対し、実施例8は
図13に示すように実施例2に対し、スリットSの幅方向Xの配置を外側から全幅の4分の1の位置とした配置に変更したものである。
(実施例9,10)
実施例9は
図14に示すように実施例1に対し、実施例10は
図15に示すように実施例2に対し、スリットSを3本として幅方向Xに4等分する位置にそれぞれ配置したものである。
(実施例11)
実施例11は
図16に示すように実施例9に対し、両側のスリットS,Sを中央のスリットSより長くしたものである。
(実施例12)
実施例12は
図17に示すように実施例9に対し、3本のスリットS,S,Sの両端の位置を異ならしめたものである。
【0033】
(比較例1)
比較例1は
図18に示すように実施例1に対し、接続部4にスリットを設けず、接続部4の長手方向Yの両側の部分にスリットS,Sを設けたものである。
(比較例2)
比較例2は
図19に示すように実施例1に対し、接続部4の両端までスリットSが至らないものである。
(比較例3)
比較例3はスリット無しのものである(図示略)。
(比較例4)
比較例4はスリット無しであり、特許文献1に記載の発明に従い超電導線材1の接続端部1aは幅が終端1bに近づくほど狭くなるように三角状に切り欠いた構造である(図示略)。
(比較例5)
比較例5は片方の超電導線材1の接続端部1aのみをスリットで幅方向Xに分断したものであり、超電導線材2にはスリットを設けていない(図示略)。
【0034】
以下のように評価判別符号を定義する。
(1)ねじり無しの状態
この場合、上記(b)に記述したスリットの付加に伴う臨界電流の減少率を反映して評価した。
A : 5%未満の臨界電流値の劣化が生じる。
B : 5%以上の臨界電流値の劣化が生じる。
(2)45度のねじれを加えた状態
スリットによるねじれに対する効果を調べるため、長手方向Yに20cmのねじれを加える領域の外側を固定し、1Kgf程度の張力をかけ、線材長手方向中心線を軸として、45度のねじれを加えた。
図6に代表して示すようにねじれを加える領域G(スパン20cm)の中央に接続部4が配置される条件とした。
A : ねじれを加えても、超電導特性は劣化しなかった。
B : ねじれを加えたことによって、超電導特性が劣化してしまった。
(3)60度のねじれを加えた状態
さらに、スリットによるねじれに対する効果を調べるため、長手方向Yに20cmのねじれを加える領域の外側を固定し、1Kgf程度の張力をかけ、線材長手方向中心線を軸として、60度のねじれを加えた。
図6に代表して示すようにねじれを加える領域G(スパン20cm)の中央に接続部4が配置される条件とした。
A : ねじれを加えても、超電導特性は劣化しなかった。
B : ねじれを加えたことによって、超電導特性が劣化してしまった。
【0035】
本発明の実施例及び比較例の条件の要点と評価結果を表にまとめると以下の通りである。
【0037】
(総評)
本発明の実施例1〜4については、いずれの評価項目についても「A」であった。実施例2,4のようにスリットが短くても、実施例11のように長さが異なっていたり、実施例12のように端の位置が異なっていたりしても、接続部4を分断していれば効果は認められた。
また、実施例3,4のようにスリットが中心線からやや外れても効果は認められたが、実施例7,8のように3分の1相当の中央部4cから外れると、60度のねじれに対しては超電導特性の劣化は認められた。許容できるねじれ角は、実施例1,2に比較して実施例3,4の方が小さくなっていると考えられるが、60度までのねじれでは差は生じなかった。
実施例5,6、さらに実施例9〜12のようにスリットの本数を増やすことで、超電導導体層の欠損面積の増加により超電導特性の劣化は認められたが、ねじりを加えることに伴う劣化は認められず、ねじりに対しては効果が認められた。超電導特性と、所定のねじりに対する効果を考慮すると、実施例1〜4のように、線材を幅方向に3等分した時の中央部に1本だけスリットを設けるのがより好ましい。
これに対し、比較例1〜5ではねじれを加えたことにより超電導特性の劣化が認められた。比較例1,3,4では接続部4にスリットが無いため、比較例2では接続部4が幅方向Xに連続する部分が残っており分断されていないため、比較例5では片方の超電導線材2及び接合材層3にはスリットが無いため、ねじりに伴い剥離や応力集中が生じて超電導特性が劣化した。スリットは、超電導線材1、接合材層3及び超電導線材2を貫通し終端1bから終端2bまで接続部4の全体に亘って設けることで効果があることが確認された。