(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理液の前記実際温度を設定温度まで上昇させているときに、前記実際温度が第1処理液温度に至るまでは前記加熱部上限温度を第1加熱部上限温度に設定し、前記実際温度が第1処理液温度より高い第2処理液温度に至るまでは前記加熱部上限温度を第1加熱部上限温度よりも低い第2加熱部上限温度に設定する、請求項6記載の液処理装置。
処理液供給源から処理液供給ラインを介して被処理体に処理液を供給して前記被処理体に液処理を施す液処理工程と、前記処理液供給ラインを流れる前記処理液を加熱する加熱部を備えるヒータユニットの前記加熱部に供給される電力を制御することにより、前記処理液供給ラインを流れる前記処理液の温度を制御する制御工程と、を備えた液処理方法であって、
前記制御工程は、前記処理液供給ラインを流れる前記処理液の実際温度に基づき、前記処理液供給ラインを流れる前記処理液の流れの停止が生じたものと仮定したときに、前記加熱部への電力供給を停止したとしても前記ヒータユニット内にある前記処理液が到達する最高温度が処理液上限温度を上回るという事象が生じるであろうと判断される場合に、前記加熱部に供給される電力を遮断する遮断制御を行う工程を含み、
前記制御工程は、
前記処理液の前記実際温度の目標温度に対する偏差に基づいて、前記実際温度が前記目標温度となるように前記ヒータユニットの加熱部に供給すべき電力を決定する第1制御部と、
前記ヒータユニットの加熱部の実際温度が設定された加熱部上限温度を超えた時に、前記遮断制御として、前記ヒータユニットの加熱部に供給される電力を遮断するとともに、前記ヒータユニットの加熱部の実際温度が前記加熱部上限温度以下の時に、前記第1制御部により決定された電力が前記ヒータユニットの加熱部に供給されることを許容する第2制御部と、
を有する制御装置を用いて実行され、
前記処理液供給ラインを流れる前記処理液の前記実際温度が高いほど前記加熱部上限温度が段階的に若しくは連続的に低くなるように、前記加熱部上限温度が前記処理液供給ラインを流れる前記処理液の前記実際温度の関数として設定される、液処理方法。
前記処理液の前記実際温度を設定温度まで上昇させているときに、前記実際温度が第1処理液温度に至るまでは前記加熱部上限温度を第1加熱部上限温度に設定し、前記実際温度が第1処理液温度より高い第2処理液温度に至るまでは前記加熱部上限温度を第1加熱部上限温度よりも低い第2加熱部上限温度に設定する、請求項13記載の液処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す図である。以下では、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0014】
図1に示すように、基板処理システム1は、搬入出ステーション2と、処理ステーション3とを備える。搬入出ステーション2と処理ステーション3とは隣接して設けられる。
【0015】
搬入出ステーション2は、キャリア載置部11と、搬送部12とを備える。キャリア載置部11には、複数枚のウエハWを水平状態で収容する複数のキャリアCが載置される。
【0016】
搬送部12は、キャリア載置部11に隣接して設けられ、内部に基板搬送装置13と、受渡部14とを備える。基板搬送装置13は、ウエハWを保持する基板保持機構を備える。また、基板搬送装置13は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、基板保持機構を用いてキャリアCと受渡部14との間でウエハWの搬送を行う。
【0017】
処理ステーション3は、搬送部12に隣接して設けられる。処理ステーション3は、搬送部15と、複数の処理ユニット16とを備える。複数の処理ユニット16は、搬送部15の両側に並べて設けられる。
【0018】
搬送部15は、内部に基板搬送装置17を備える。基板搬送装置17は、ウエハWを保持する基板保持機構を備える。また、基板搬送装置17は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、基板保持機構を用いて受渡部14と処理ユニット16との間でウエハWの搬送を行う。
【0019】
処理ユニット16は、基板搬送装置17によって搬送されるウエハWに対して所定の基板処理を行う。
【0020】
また、基板処理システム1は、制御装置4を備える。制御装置4は、たとえばコンピュータであり、制御部18と記憶部19とを備える。記憶部19には、基板処理システム1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部18は、記憶部19に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって基板処理システム1の動作を制御する。
【0021】
なお、かかるプログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置4の記憶部19にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0022】
上記のように構成された基板処理システム1では、まず、搬入出ステーション2の基板搬送装置13が、キャリア載置部11に載置されたキャリアCからウエハWを取り出し、取り出したウエハWを受渡部14に載置する。受渡部14に載置されたウエハWは、処理ステーション3の基板搬送装置17によって受渡部14から取り出されて、処理ユニット16へ搬入される。
【0023】
処理ユニット16へ搬入されたウエハWは、処理ユニット16によって処理された後、基板搬送装置17によって処理ユニット16から搬出されて、受渡部14に載置される。そして、受渡部14に載置された処理済のウエハWは、基板搬送装置13によってキャリア載置部11のキャリアCへ戻される。
【0024】
次に、処理ユニット16の概略構成について
図2を参照して説明する。
図2は、処理ユニット16の概略構成を示す図である。
【0025】
図2に示すように、処理ユニット16は、チャンバ20と、基板保持機構30と、処理流体供給部40と、回収カップ50とを備える。
【0026】
チャンバ20は、基板保持機構30と処理流体供給部40と回収カップ50とを収容する。チャンバ20の天井部には、FFU(Fan Filter Unit)21が設けられる。FFU21は、チャンバ20内にダウンフローを形成する。
【0027】
基板保持機構30は、保持部31と、支柱部32と、駆動部33とを備える。保持部31は、ウエハWを水平に保持する。支柱部32は、鉛直方向に延在する部材であり、基端部が駆動部33によって回転可能に支持され、先端部において保持部31を水平に支持する。駆動部33は、支柱部32を鉛直軸まわりに回転させる。かかる基板保持機構30は、駆動部33を用いて支柱部32を回転させることによって支柱部32に支持された保持部31を回転させ、これにより、保持部31に保持されたウエハWを回転させる。
【0028】
処理流体供給部40は、ウエハWに対して処理流体を供給する。処理流体供給部40は、処理流体供給源70に接続される。
【0029】
回収カップ50は、保持部31を取り囲むように配置され、保持部31の回転によってウエハWから飛散する処理液を捕集する。回収カップ50の底部には、排液口51が形成されており、回収カップ50によって捕集された処理液は、かかる排液口51から処理ユニット16の外部へ排出される。また、回収カップ50の底部には、FFU21から供給される気体を処理ユニット16の外部へ排出する排気口52が形成される。
【0030】
次に、
図3を参照して、
図1に示した複数の処理ユニット16に処理液を供給する処理流体供給源70(
図2参照)について説明する。複数の処理ユニット16には共通の処理流体供給源70により処理液が供給される。
【0031】
基板処理システム1の各処理ユニット16は、複数種類の処理液をウエハWに供給するように構成されている。本実施形態に係る処理ユニット16は、ウエハWに、処理液として、薬液(例えばDHF、SC1等)、リンス液(例えば純水)、乾燥補助流体としてのIPA(イソプロピルアルコール)等を供給することにより、ウエハWに液処理を施すように構成されている。従って、基板処理システム1には、処理液毎に専用の処理流体供給源70が設けられている。以下においては、IPA供給用の処理流体供給源70についてだけ説明する。
【0032】
処理流体供給源70は、IPA(処理液)を貯留するタンク102と、タンク102から出てタンク102に戻る循環ライン104とを有している。循環ライン104にはポンプ106が設けられている。ポンプ106は、タンク102から出て循環ライン104を通りタンク102に戻るIPAの循環流を形成する。ポンプ106の下流側において循環ライン104には、IPAに含まれるパーティクル等の汚染物質を除去するフィルタ108が設けられている。
【0033】
循環ライン104に設定された接続領域110に、1つまたは複数の分岐ライン112が接続されている。各分岐ライン112は、循環ライン104を流れるIPAを対応する処理ユニット16に供給する。各分岐ライン112には、開閉弁112aが設けられている。各分岐ライン112には、必要に応じて、流量制御弁等の流量調整機構、フィルタ等を設けることができる。
【0034】
液処理装置は、タンク102に、IPAを補充するタンク液補充部116を有している。なお、処理液がIPA以外の薬液例えばDHF(希フッ酸)である場合、タンク液補充部116は、薬液構成成分の一部のみ(HF(フッ酸)または純水)を供給することもある。タンク102には、タンク102内のIPAを廃棄するためのドレン部118が設けられている。
【0035】
フィルタ108の下流側において循環ライン104には、IPAを加熱するヒータユニット200が設けられている。
【0036】
ヒータユニット200は、内部に循環ライン104の一部をなす内部流路202を有する。内部流路202は、加熱部206により囲まれている。加熱部206は、例えば、アルミニウム合金等の高熱伝導性部材に形成された穴の中にシースヒータ等の抵抗加熱ヒータからなる発熱要素208を配置することにより形成することができる。内部流路202の接液面204は、内部流路を流れるIPA(処理液)中に有害な物質の放出(溶出または欠落)が無いような材料により形成されている。このような材料として、(1)石英、(2)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)等のフッ素系樹脂等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
電源装置210から電力が供給されることにより発熱要素208が発熱する。発熱要素208への電力供給は、ヒータコントロールユニット220により制御される。ヒータコントロールユニット220は、PID制御部222と、ON/OFF制御部224と、電力調整部226とを有する。電力調整部226は、例えば位相制御、サイクル制御、ON/OFF時分割制御等の公知の制御方法により、電源装置210から発熱要素208への供給電力を制御する。電力調整部226は、例えば半導体リレー(SSR)からなる。なお、ヒータコントロールユニット220のPID制御部222およびON/OFF制御部224は、制御装置4の一部として構成することも可能である。
【0038】
ヒータユニット200の内部流路202の出口付近(本実施形態ではヒータユニット200の内部流路202の出口のわずかに下流側の位置)の循環ライン104を流れるIPAの実際温度T1が、温度センサ228により検出される。PID制御部222は、前述した制御装置4から受け取ったIPAの目標温度T1t(これはPID制御における設定値SVであり、記憶部19に格納されたプロセスレシピにより予め定められている)と、温度センサ228により検出されたIPAの実際温度T1(PID制御における測定値PV)との偏差に基づいて、実際温度T1を目標温度T1tと一致させるために必要な発熱要素208への供給電力を演算し、その演算結果に基づく指令値(PID制御における操作量MV)を電力調整部226に送る。具体的には、PID制御部222は、電力調整部226に向けて、「ヒータユニット200の定格入力(常用最大入力)のX%(Xは0〜100)を発熱要素208に送れ」ということを意味するXという指令値を出力する。この指令値が実現されるように、電力調整部226は電源装置210から発熱要素208への供給電力を制御する。
【0039】
また、ヒータユニット200の加熱部206の実際温度T2が、温度センサ230により検出される。本実施形態では、温度センサ230は、発熱要素208が内蔵された高熱伝導性部材の温度を検出している。温度センサ230は、発熱要素208に対する電力供給を遮断した直後における加熱部206が持つ熱量(すなわち余熱)と高い相関を有する温度が測定できるならば、ヒータユニット200の加熱部206自体ではなく、加熱部206以外の構成要素の温度を測定しても構わない。本実施形態では、発熱要素208に対する電力供給を遮断した直後における加熱部206が持つ熱量と最も高い相関を持つものと考えられる、高熱伝導性部材の温度を検出している。
【0040】
温度センサ230により検出された温度に基づいて、ON/OFF制御部224は、PID制御部222による指令値Xがそのまま電力調整部226に送られるスルー状態と、PID制御部222による指令値Xに関わらず電力調整部226が受け取る指令値Xを0(ゼロ)にする遮断状態とを採る。別の言い方をすれば、ON/OFF制御部224は、スルー状態にあるときにはPID制御部222から受け取った指令値Xに1を乗じて得られた積を電力調整部226に送り、遮断状態にあるときにはPID制御部222から受け取った指令値Xに0を乗じて得られた積を電力調整部226に送るように構成されているともいえる。
【0041】
ON/OFF制御部224は、温度センサ228により検出されたIPAの実際温度T1に基づいて、上記スルー状態と遮断状態との切替の基準となる第1温度閾値T21および第2温度閾値T22(但しT21>T22)を設定する(設定方法は後述)。ON/OFF制御部224は、これら第1および第2温度閾値T21,T22と温度センサ230により検出された加熱部206の実際温度T2とを常時比較し、その比較結果に基づいてスルー状態と遮断状態を切り替える。すなわち、ON/OFF制御部224は、閾値(第1および第2温度閾値T21,T22)を設定する閾値設定部と、閾値設定部が設定した閾値と実際温度T2との比較結果に基づいてスルー状態と遮断状態を切り替えるON/OFF動作部を有しているとも言える。
【0042】
具体的には、ON/OFF制御部224は、加熱部206の実際温度T2が第1温度閾値T21より高いときに遮断状態となり、実際温度T2が第2温度閾値T22より低いときにスルー状態となる。実際温度T2が第2温度閾値T22以上第1温度閾値T21以下の場合には、実際温度T2が第1温度閾値T21より高い状態から下降した結果そのようになったのならばON/OFF制御部224は遮断状態となり、実際温度T2が第2温度閾値T22より低い状態から上昇した結果そのようになったのならばON/OFF制御部224はスルー状態となる。このようなヒステリシスを設けることにより、制御が不安定となることを防止している。
【0043】
次に、処理液として70℃のIPAを処理ユニット16に供給する場合を例にとって、IPA供給用の処理流体供給源70の具体的運用について説明する。
【0044】
タンク102に予め定められた量の常温(運転時設定温度より低い温度でもよい)のIPAが貯留され、ポンプ106により、IPAが循環ライン104を循環している状態を出発点とする。この状態から、タンク102および循環ライン104からなる循環系内に存在するIPAを、迅速かつ安全に70℃まで昇温する。ここでは、「安全に」というのは、不測の事態によって突然にIPAの循環が停止したとしても、直ちにヒータユニット200の加熱部206への電力供給を停止しさえすれば、ヒータユニット200内に存在するIPAが沸騰することが無いようにすることである(以下、これを「安全要件」とも呼ぶ)。ヒータユニット200内のIPAが沸騰すると、圧力上昇によりヒータユニット200(特に接液面204を構成する石英若しくは樹脂材料)の破損ひいてはIPAの漏出が生じ得る。
【0045】
なお、制御装置4は、ポンプ106に意図せぬ停止あるいはこれに準じる不具合が生じたことが検出されると、電源装置210内の電流遮断デバイス(例えば電磁接触器)を動作させ、電源装置210からヒータユニット200への電力供給を停止する制御を行うようになっている。また、半導体製造工場に停電が生じた場合にも同様に、ポンプ106が停止するともに、ヒータユニット200への電力供給が停止し、上記と同じ状態になる。従って、上記安全要件を満足するには、IPAの循環が停止すると同時にヒータユニット200への電力供給が停止したときに、ヒータユニット200の加熱部206が保持している熱量(余熱)によってヒータユニット200の内部流路202内にあるIPAが沸騰しないような温度に加熱部206の温度が常時維持されていればよいことになる。上記の安全要件を満足するために、ON/OFF制御部224により加熱部206の温度が制御される。
【0046】
安全要件を満たす加熱部206の温度について、
図4の表を参照して説明する。
図4の表は、IPAの循環停止および発熱要素208への電力供給停止をした後に、加熱部206が持つ熱量(余熱)により昇温するヒータユニット200の内部流路202内のIPAの最高温度Timaxを、IPAの循環停止直前における循環ライン104を流れるIPA温度Ti(温度センサ228により検出可能であり前述したT1に等しい)および加熱部206の温度Th(温度センサ230により検出可能であり前述したT2に等しい)の組み合わせとの関係で示したものである。例えば、Ti=70℃、Th=105℃であるならTimax=82.5℃である。
【0047】
この表を参照して、TimaxがIPAの沸点である83℃を超えないように、つまり、ヒータユニット200の損傷が生じうるIPA温度であるIPA上限温度(処理液上限温度)を超えないように、各IPA温度Tiに対して加熱部上限温度Thmaxを定める。加熱部上限温度Thmaxとは、加熱部206に許容される最高温度であり、温度センサ230により検出される加熱部206の実際温度T2がこの加熱部上限温度Thmaxを超えたときには、加熱部206への電力供給が遮断される。前述した第1および第2温度閾値T21,T22は、加熱部上限温度Thmaxに基づいて決定される。加熱部上限温度Thmaxは、IPAの沸騰回避のために設定される温度であるから、IPA温度Tiが高いほど低い値に設定される。一例として、Thmaxは、Ti≦50℃のときに130℃、50℃<Ti≦60℃のときに120℃、60℃<Ti≦65℃のときに110℃、65℃<Ti≦70℃のときに105℃に設定される。
【0048】
Thmaxは、ある程度の安全マージンを考慮して決定される。例えば、
図4の表を見ると、Thmax=130℃の列を見ると、Ti=60℃のときでもTimax=80℃でありIPAの沸点83℃より低いことがわかる。このため、Ti=60℃まではThmax=130℃としても構わないとも考えられる。しかし、このようにすると、Tiが60℃を超えてThmaxを120℃に切り替えた直後(このとき加熱部206はThmax=130℃に相当する余熱を持っている)に、IPAの循環が不意に停止すると、TimaxがIPAの沸点の83℃を上回る可能性がある。このような事態が生じることを余裕を持って回避するため、Thmax=130℃に対応するIPA温度Tiの範囲は、低めに設定している。つまり、上述したように、Ti≦50℃のときにThmaxを130℃と設定している。Thmax=120℃に対応するIPA温度Tiの範囲も同様に低めに設定している。なお、実際のIPA温度Tiが最終目標温度である70℃に近いときには、ヒータユニット200への供給電力は小さくなるため(これはPID制御を行っているため当然である)、上述したような事態が生じる可能性は低くなる。このため、例えば、上述したように60℃<Ti≦65℃のときにはThmaxを110℃に設定している。
【0049】
先に説明した制御ヒステリシスを設けるために、各加熱部上限温度Thmaxに対応する第1温度閾値T21および第2温度閾値T22が決定される。一例として、第1温度閾値T21=加熱部上限温度Thmax、第2温度閾値T22=加熱部上限温度Thmax−0.5℃とされる。例えば、加熱部上限温度Thmax=105℃ならば、これに対応する第1温度閾値T21=105℃、第2温度閾値T22=104.5℃である。
【0050】
上記設定の下で、タンク102および循環ライン104からなる循環系内を循環している常温のIPAを70℃に昇温する過程について、
図5のグラフを参照して説明する。
【0051】
図5のグラフの上段は、温度センサ228により検出されるIPAの実際温度T1、温度センサ230により検出される加熱部206の実際温度T2、及び加熱部上限温度Thmaxの各々の経時変化を示している。
図5のグラフの下段は、上から順に、PID制御部222の出力(指令値)、ON/OFF制御部224の出力(指令値)、そして、最終的に電力調整部226が受け取る指令値の経時変化をそれぞれ示している。
【0052】
図5に示すように、加熱開始時点t0以降、加熱部206の実際温度T1が上昇してゆき、これに伴いIPAの実際温度T1も上昇してゆく。時点t1よりやや前の時点において、加熱部206の実際温度T2が120℃を超えるが、この時点では加熱部上限温度Thmaxが130℃であるため、ON/OFF制御部224はスルー状態であり、PID制御部222から送信された指令値Xが電力調整部226にそのまま入力される。従って、このとき、加熱部206への供給電力は通常のPID制御により制御される。
【0053】
時点t1において、IPAの実際温度T1が50℃を超える。すると、加熱部上限温度Thmaxが130℃から120℃に切り替わる。すると、加熱部206の実際温度T2が加熱部上限温度Thmaxよりも高くなるため、ON/OFF制御部224はPID制御部222から電力調整部226に向けて送信された指令値Xを遮断する。その後、ON/OFF制御部224は、加熱部上限温度Thmaxに応じて決定された第1温度閾値T21(例えば120℃)および第2温度閾値T22(例えば119.5℃)を用いてヒステリシスを持ったON/OFF制御を行う。一方、PID制御部222は、ON/OFF制御部224の状態を全く考慮することなく、IPAの目標温度70℃に対するIPAの実際温度T1との偏差に基づいて指令値Xを生成し続けている。つまり、PID制御部222にて生成された指令値X(時間とともに変化する)にON/OFF制御部224で0(ゼロ)または1を乗じた指令値が電力調整部226に送られることになる。
【0054】
時点t2において、IPAの実際温度T1が60℃を超える。すると、加熱部上限温度Thmaxが120℃から110℃に切り替わる。時点t3において、IPAの実際温度T1が65℃を超える。すると、加熱部上限温度Thmaxが110℃から105℃に切り替わる。時点t2から時点t3までの間、及び時点t3以降におけるPID制御部222およびON/OFF制御部224の動作は、先に説明した時点t1から時点t2までの動作と同じである。なお、IPAの実際温度T1が目標温度である70℃に近づいてくると、PID制御部222が大きな指令値を出力することはなくなるので、加熱部206の実際温度T2が大きく上昇することがなくなる。従って、ON/OFF制御部224はほぼスルー状態を維持するようになる(時点t4以降)。
【0055】
上記実施形態によれば、加熱部上限温度ThmaxをIPAの実際温度T1と関連付けて変化させているため、不意のIPA循環停止が生じたとしてもヒータユニット200内のIPAの沸騰が生じることを防止できることを保証しつつ、ヒータユニット200の加熱能力を最大限に活用することができる。このため、IPAの昇温を迅速に行うことができる。この効果について
図5に併記された比較例の作用を参照して説明する。
【0056】
比較例では、加熱部上限温度Thmaxを105℃に固定している。つまり、想定しうる全てのIPAの実際温度T1においてIPAの循環が突然停止されたとしてもヒータユニット200内でIPAの沸騰が生じないように加熱部上限温度Thmaxが設定されている。この場合、加熱部206の実際温度T2が早期に加熱部上限温度Thmaxに達し、その後、ON/OFF制御部224によるON/OFFの繰り返しが長期にわたって継続する。このため、ヒータユニット200の発熱要素208へのトータルの供給電力が減少し、IPAの昇温は先に説明した実施例と比較して大幅に遅れる。比較例におけるIPAの実際温度T1’および加熱部206の実際温度T2’が
図5のグラフにおいて破線で示されている。つまり、比較例においては、時点t1のやや前の時点から時点t5に至るまでの間、ON/OFF制御部224によるON/OFFが繰り返されており、これに伴い、IPAの実際温度T1’が目標温度である70℃に到達するまでの時間が実施形態と比較して大幅に遅れている。
【0057】
これに対して前述した実施形態では、IPAの循環が突然停止されたときのヒータユニット200内におけるIPA沸騰の可能性を考慮して決定された可変の加熱部上限温度Thmaxに基づいて、ON/OFF制御部224によるON/OFF制御が行われる。つまり、上記実施形態では、発熱要素208への通電が停止された後の加熱部206の余熱によりヒータユニット200内のIPAが加熱されたとしても、IPAの実際温度T1が低いときにはIPAの沸騰が容易には生じないことに着目して、IPAの実際温度T1が低いときには加熱部上限温度Thmaxを高めに設定している。このため、IPAの実際温度T1が低いときには発熱要素208への供給電力を大きくすることができ、IPAの昇温を迅速に行うことができる。
【0058】
また、上述の説明より理解できるように、IPAの実際温度T1が目標温度(T1t)付近となった後は、異常が生じ無い限り、ON/OFF制御部224が遮断状態となることは殆ど無い(但し、タンク液補充部116によるIPAの補充時を除く)。このため、PID制御部222によるPID制御により(ON/OFF制御部224の動作により妨げられることなく)IPAの実際温度T1を目標温度付近に安定的に維持することができる。
【0059】
上記のPID制御部222およびON/OFF制御部224は、別個の独立した部品として認識することができるハードウエア(電子的デバイス)として構成されていてもよいし、一体化された電子的デバイスとして構成されていてもよい。これに代えて、PID制御部222およびON/OFF制御部224を、コンピュータで実行されるプログラムにより実現してもよい。上述した実施形態と同様の機能が実現できるのであれば、その具体的構成は任意である。
【0060】
上記実施形態においては、ON/OFF制御部224はPID制御部222から電力制御デバイス(電力制御素子)である電力調整部226に送られる制御信号に介入する(制御信号をそのまま通すか無効化する(ゼロにする))ものであったが、これには限定されない。ON/OFF制御部224は、電源装置210に設けられた電流遮断装置例えば電磁接触器(図示せず)を動作させることにより、ヒータユニット200への供給電力を遮断する制御を行うものであってもよい。この場合、PID制御部222の出力は常時そのまま電力調整部226に送られる。もっとも、電力調整部226が半導体リレーのようなスイッチング素子を用いたものである場合には、上述した実施形態のようにON/OFF制御部224を設けた方が装置コストの観点から有利である。
【0061】
上記実施形態では、処理流体供給源70で取り扱われる処理液がIPAであったが、これには限定されず、酸性薬液、アルカリ性薬液、有機薬液、純水等任意の処理液であってもよい。
【0062】
上記実施形態では、IPAがとり得る実際温度T1を複数の温度帯に分割し、各温度帯に対して不変の加熱部上限温度Thmaxを定めており、このため、IPAの実際温度T1の上昇に応じて加熱部上限温度Thmaxが段階的(階段状)に変化するようになっている。しかしながら、これに限定されるものではなく、加熱部上限温度Thmaxが連続的に変化するようになっていてもよい。すなわち、例えば、加熱部上限温度Thmaxを一次関数Thmax=a・T1+b(a,bは定数)に基づいて設定してもよい。
【0063】
上記実施形態では、加熱部上限温度Thmaxを、循環ライン104内のIPA(処理液)の流れが停止しかつヒータユニット200の発熱要素208への電力供給が停止されたときに、加熱部206が持つ熱量によりヒータユニット200の内部流路202内にあるIPAが沸騰しないことが保証されるような温度に設定したが、これには限定されない。加熱部上限温度Thmaxを、ヒータユニット200の損傷に関連しうる沸騰以外の事象(例えばヒータユニット200を構成する樹脂材料の変形または耐熱温度)と関連付けて決定してもよい。
【0064】
上記実施形態では、処理ユニット16(ウエハW)に処理液を供給する処理流体供給源70が、タンク102、循環ライン104および1つ以上の分岐ライン112を有していた。つまり、分岐ライン112、並びにタンク102から分岐ライン112に至るまでの循環ライン104の部分が処理液供給ラインを構成していた。しかしながら、これに限定されるものではなく、循環ラインを設けずに、処理液を貯留するタンク102と処理ユニット16とを連結する処理液供給ライン(図示せず)を設け、この処理液供給ラインにヒータユニット200を設けてもよい。
【0065】
上記実施形態では、ヒータユニット200が発熱要素として抵抗加熱ヒータを利用したものであったが、これには限定されない。ヒータユニット200が発熱要素としてハロゲンランプを持つものであってもよい。
【0066】
処理ユニット16により処理される被処理体は、半導体ウエハWに限定されるものではなく、例えばガラス基板、セラミック基板等の他の種類の基板であってもよい。