特許第6356317号(P6356317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6356317多発性骨髄腫患者の医薬への応答性を判定する方法、並びに多発性骨髄腫患者における骨病変の予防及び/又は治療のための医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6356317
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】多発性骨髄腫患者の医薬への応答性を判定する方法、並びに多発性骨髄腫患者における骨病変の予防及び/又は治療のための医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20180702BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20180702BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20180702BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20180702BHJP
【FI】
   A61K31/7088
   A61K39/395 N
   A61P19/00
   A61P35/02
   G01N33/53 PZNA
   C12Q1/6806
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-111217(P2017-111217)
(22)【出願日】2017年6月5日
【審査請求日】2017年12月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的がん医療実用化研究事業」「IL−34を基軸としたがん微小環境分子基盤の理解とその臨床的特性に基づいた新しい治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清野 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】バグダーディー ムハンマド
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/204216(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/068503(WO,A2)
【文献】 国際公開第2016/097420(WO,A1)
【文献】 第41回日本骨髄腫学会学術集会 プログラム・抄録集,2016年 4月 9日,P-53
【文献】 Leukemia Research,2008年,Vol.32, No.8,pp.1279-1287
【文献】 The Journal of Immunology,1989年,Vol.143, No.11,pp.3543-3547
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 38/00−38/58
A61K 39/00−39/44
A61K 45/00−45/08
G01N 33/53
C12Q 1/6806
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬への当該患者の応答性を判定する方法であって、前記患者から単離された骨髄腫細胞がIL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である場合に前記医薬への応答性があると判定する工程を含み、前記物質が核酸、抗体及び抗体誘導体よりなる群から選択される少なくとも1である、前記判定方法。
【請求項2】
IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する、IL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である骨髄腫細胞を有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬又は医薬組成物であって、前記物質が核酸、抗体及び抗体誘導体よりなる群から選択される少なくとも1である、前記医薬又は医薬組成物
【請求項3】
プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、サリドマイド、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、SLAMF7阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤よりなる群から選択される1以上の薬剤と組み合わせて用いるための請求項2に記載の医薬又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン34を阻害する物質を有効成分として含有する医薬に対する多発性骨髄腫患者の応答性を判定する方法、並びに多発性骨髄腫患者における骨病変の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性骨髄腫(Multiple Myeloma, MM)は、骨髄における形質細胞のがんである。多発性骨髄腫は、形質細胞が変異した骨髄腫細胞が骨髄中で異常増殖することによる造血機能や免疫機能の低下、骨髄腫細胞が無制限に産生する異常免疫グロブリン(Mタンパク質)による腎障害や血液循環障害等の症状を呈する。また、骨髄腫細胞によって刺激された破骨細胞が骨組織を破壊することによる骨病変は、多発性骨髄腫患者の約8割に認められる主要な症状である。骨病変は、骨芽細胞の骨形成よりも破骨細胞の骨吸収が優勢となって骨組織が破壊されることにより生じ、骨組織の破壊による痛み、骨折、脊髄圧迫及び/又は高カルシウム血症等を伴う。
【0003】
多発性骨髄腫患者における骨病変には、RANKL(Receptor Activator NF-κB Ligand)を介した破骨細胞の機能亢進が関与するとされている。RANKLは、骨芽細胞が産生するタンパク質であり、破骨細胞前駆細胞に発現している受容体RANKと結合することで破骨細胞の分化と骨吸収を促進する。破骨細胞の機能はRANKLとRANKLに結合してRANKを競合的に阻害するオステオプロテゲリンとのバランスによって制御されているが、多発性骨髄腫においてはこのバランスがRANKL優勢に傾くことで、破骨細胞の機能が過剰亢進して骨破壊が進行すると考えられている。多発性骨髄腫患者における骨病変はQOLを著しく損なうことから、骨病変の抑制や治療は医療上重要な意義を有する。
【0004】
RANKL-RANK系は、骨破壊の進展の防止に加えて、骨髄腫の進展に抑制的に作用する可能性も期待されており、重要な治療標的と考えられている。実際に、骨粗鬆症の治療薬であるRANKL特異的なモノクローナル抗体(一般名「デノスマブ」)が、多発性骨髄腫患者における骨病変の治療薬として用いられている。しかしながら、RANKLを標的とした医薬の使用は、関節痛、筋肉痛、感染リスクの増大等の副作用を伴うことが多い。
【0005】
一方、骨髄由来の単球マクロファージ系の前駆細胞から破骨細胞への分化に、CSF-1R(Colony Stimulating Factor-1 Receptor, CD-115又はc-fmsとも呼ばれる)とその特異的リガンドであるM-CSF(macrophage colony-stimulating factor)との結合が関与することが知られている。CSF-1Rは、細胞外ドメインに免疫グロブリン(Ig)モチーフを有する一本鎖膜貫通受容体型チロシンキナーゼである。またM-CSFは、骨代謝関連サイトカインの一種であり、単球等により産生され、マクロファージコロニーの形成を刺激する。
【0006】
M-CSFとCSF-1Rとの結合も骨病変に対する治療標的と考えられている。例えば特許文献1は、多発性骨髄腫を含むがんに関連する骨溶解の治療又は予防にM-CSFに対する特異抗体を利用することを報告しており、多発性骨髄腫における骨溶解とM-CSFとの関連が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2005/068503号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、多発性骨髄腫患者が、IL-34の機能を阻害する物質を有効成分として含有する医薬への応答性があるかを判定する方法、及び多発性骨髄腫患者における骨病変の予防及び/又は治療のための医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、多発性骨髄腫細胞では破骨細胞の分化誘導を促すM-CSFの発現が殆ど見られずIL-34の発現が亢進していること、かかる骨髄腫細胞に対してIL-34の機能阻害を行うことで、効率的に骨病変を予防及び治療することができると期待し得ることを見いだし、下記の各発明を完成させた。
【0010】
(1)IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬への当該患者の応答性を判定する方法であって、前記患者から単離された骨髄腫細胞がIL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である場合に前記医薬への応答性があると判定する工程を含む、前記判定方法。
(2)IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する、IL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である骨髄腫細胞を有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬又は医薬組成物。
(3)プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、サリドマイド、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、SLAMF7阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤よりなる群から選択される1以上の薬剤と組み合わせて用いるための(2)に記載の医薬又は医薬組成物。
(4)前記物質が、核酸、抗体、ペプチド及び化合物よりなる群から選択される少なくとも1である、(2)又は(3)に記載の医薬又は医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、IL-34の機能阻害を機序とする骨病変の予防及び/又は治療のための医薬に対する多発性骨髄腫患者の応答性を判定することができ、副作用を伴いやすいRANKL又はM-CSFの機能阻害を機序とする治療法に代えて、骨病変の主因と考えられるIL-34の機能を阻害することを機序とする医薬を患者に提供することが可能となる。また、多発性骨髄腫の治療に用いられる薬剤に対する多発性骨髄腫細胞の治療抵抗性の抑制も期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】多発性骨髄腫患者から分離したCD19-CD138+細胞のDiff-Quik染色写真である。
図2】多発性骨髄腫患者から分離したCD19-CD138+細胞におけるIL-34(図2A)又はM-CSF(図2B)を免疫染色した写真である。
図3】ヒト多発性骨髄腫細胞株におけるIL-34(図3A)又はM-CSF(図3B)のフローサイトメトリー解析結果を示すヒストグラムである。太線は抗IL-34抗体又は抗M-CSF抗体を用いたサンプル、細線はアイソタイプコントロールの抗体を用いたサンプルである。
図4】健常マウス由来のCD19+細胞及びマウス骨髄腫細胞株MOPC315.BMのIL-34産生を示すグラフである。
図5】in vitroで培養されたMOPC315.BM細胞における、及び健常マウスへの投与後に脾臓又は骨髄から回収されたMOPC315.BM細胞におけるIL-34遺伝子発現量を示すグラフである。
図6】骨髄由来間質細胞(BMSC)とMOPC315.BM細胞との共培養における、各細胞のIL-34及びRANKLの遺伝子発現量を示すグラフである。図中の−は単独培養時の各細胞における発現量、+は共培養時の各細胞における発現量である。
図7】トランスウェル培養プレートの上部チャンバーにIL-34をノックダウンしたMOPC315.BM細胞(MOPC315.BMIL-34KD)又は対照細胞(MOPC315.BMcontrol)を単独で又はBMSCとの混合物として加え、下部チャンバーに骨髄細胞を加えて培養した系(図7A)における、下部チャンバー内の細胞のTRAP染色写真(図7B)である。
図8】MOPC315.BMcontrol、MOPC315.BMIL-34KD又はPBSを静脈内投与したマウスの頭蓋骨の透過X線画像(図8A)、骨の厚さ、骨密度及び灰分(図8B)を示す図である。
図9】MOPC315.BMcontrol、MOPC315.BMIL-34KD又はPBSを静脈内投与したマウスの第5腰椎及び第6腰椎の透過X線画像(図9A)、骨密度及び灰分(図9B)を示す図である。
図10】MOPC315.BMcontrol、MOPC315.BMIL-34KD又はPBSを静脈内投与したマウスの大腿骨の透過X線画像(図10A)、骨密度及び灰分(図10B)を示す図である。
図11】MOPC315.BMcontrol、MOPC315.BMIL-34KD又はPBSを静脈内投与したマウスの血清カルシウム濃度の推移を示すグラフである。
図12】トランスウェル培養プレートの上部チャンバーに多発性骨髄腫患者由来の骨髄腫細胞を、下部チャンバーに健常ボランティア由来のCD14+細胞を加えて培養した系(図12A)における、下部チャンバー内の細胞のTRAP染色写真(図12Bは弱拡大像、図12Cは強拡大像)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の態様は、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬への当該患者の応答性を判定する方法であって、前記患者から単離された骨髄腫細胞がIL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である場合に前記医薬への応答性があると判定する工程を含む、前記判定方法に関する。本発明はまた、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬への当該患者の応答性を判定するためのデータの収集方法であって、前記患者から単離された骨髄腫細胞におけるIL-34及びM-CSFの発現を測定する工程を含む、前記データ収集方法をも提供する。
【0014】
骨髄腫細胞は、臨床学的に多発性骨髄腫と診断された患者の骨髄液から、CD19陰性及びCD138陽性という細胞表面マーカープロファイルを有する細胞として、フローサイトメトリーによって分離することができる。
【0015】
IL-34及びM-CSFの発現の確認は、塩基配列又はアミノ酸配列が公知である遺伝子又はタンパク質の発現を確認することが可能な、当業者に公知の各種方法を採用して行うことができる。典型的な方法は、IL-34又はM-CSFをコードする各遺伝子の公知の塩基配列を元にして設計した塩基配列からなる核酸をプライマーとして用いるPCR法、又はIL-34若しくはM-CSFに特異的な抗体を用いる免疫学的方法である。特に、適当な蛍光物質を組み合わせることで検出感度が高められた方法を採用することが好ましい。ヒトのIL-34の遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はNCBI GeneにGene ID:146433として、タンパク質のアミノ酸配列はUniProtKB/Swiss-Protにアクセッション番号Q6ZMJ4.1として登録されている。また、ヒトのM-CSFの遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はNCBI GeneにGene ID:1435として、タンパク質のアミノ酸配列はUniProtKB/Swiss-Protにアクセッション番号P09603.2として登録されている。
【0016】
IL-34及びM-CSFの発現陽性及び陰性の判定は、正常なB細胞(IL-34及びM-CSFのいずれも発現していない細胞)を比較対照とし、RT-PCR、イムノアッセイその他の遺伝子又はタンパク質の発現レベルを測定する方法を実施したときに、正常B細胞の測定結果と同程度であれば発現陰性、正常B細胞の測定結果を上回って発現している場合には陽性として判定すればよい。
【0017】
多発性骨髄腫患者の骨髄腫細胞がIL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である場合、その患者の骨病変は骨髄腫細胞が産生するIL-34が主因となるものと推測される。そのような患者に対しては、M-CSFやRANKLの機能阻害に基づく骨病変の処置よりも、IL-34の機能阻害を機序とする処置、例えばIL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する医薬の投与が有効であると判定することができる。言い換えれば、IL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である骨髄腫細胞を有する多発性骨髄腫患者は、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する医薬に対して応答性があると判定することができる。
【0018】
また、多発性骨髄腫患者における骨病変の治療、例えばビスホスホネート製剤の投与による骨病変の治療は、骨病変の改善と独立して多発性骨髄腫患者の生存期間と無増悪生存期間を優位に延長することができることが報告されている(例えば、G.J.Morgan et al., Blood, 2012, Vol.119, 23, pp. 5374-5383)。本発明の第1の態様によって、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分とする医薬への応答性があると判定された多発性骨髄腫患者については、ビスホスホネート製剤によって確認されたと同様の生存期間の延長等の効果を当該医薬によって享受することができるものと期待される。
【0019】
多発性骨髄腫に対しては、プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、サリドマイド、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、SLAMF7阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤等の様々な薬剤の投与による治療法が提唱されている。しかしながら、一般的に、抗がん剤投与によるがんの治療において、当該薬剤に対する抵抗性をがん細胞が獲得し、薬剤の有効性が低下してしまうことが、しばしば経験されている。多発性骨髄腫についても、薬剤投与による治療期間の長期化と共に治療抵抗性を増大することが報告されている(例えばA. Papadas et al., Handbook of Experimental Pharmacololy, 2017, Mar 18. doi: 10.1007/164_2017_10.; A. Natoni et al., Leukemia, 2017, Apr 25. doi: 10.1038/leu.2017.123.)。
【0020】
一方、本発明者らの発明にかかる国際特許出願である特許文献2(WO2016/204216)に示されるように、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質は、治療耐性がんに対する治療耐性低減剤として有効である。したがって、本発明の第1の態様によってIL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する医薬への応答性があると判定された多発性骨髄腫患者については、早期に前記物質を用いた治療を開始することで、骨病変の予防及び/又は治療のみならず、プロテアソーム阻害剤その他の薬剤を使用することにより生じ得る骨髄腫細胞の治療抵抗性を低減又は抑制して、プロテアソーム阻害剤その他の薬剤の治療効果をより高めることができるものと期待される。
【0021】
以上のように、本発明は第2の態様として、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する、IL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である骨髄腫細胞を有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬を提供する。特に第2の態様にかかる医薬は、プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、サリドマイド、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、SLAMF7阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤よりなる群から選択される1以上の薬剤と組み合わせて用いるための骨病変の予防及び/又は治療のための医薬として有用である。
【0022】
第2の態様にかかる医薬は、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質を有効成分として含有する。ここで「有効成分として含有する」とは、有効量のかかる物質を含有することを意味する。有効量は、多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療に有効な量を意味し、用法、患者の年齢、疾患の状態その他の条件等に応じて適宜決定される。
【0023】
IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質は、IL-34をコードする遺伝子からのRNA転写若しくはタンパク質翻訳を阻害することができる、IL-34がCSF-Rとの結合を介して発揮する生理活性を阻害することができる、及び/又はCSF-1Rに作用してIL-34との結合を阻害することができる若しくはIL-34に作用してCSF-1Rとの結合を阻害することができる物質であればよい。かかる物質は、核酸、抗体、ペプチド及び化合物よりなる群から選択することができる。
【0024】
IL-34の発現を阻害する物質の例としては、IL-34をコードしている遺伝子の公知の塩基配列を基にして当業者が設計、作製することができる、アンチセンスRNA又はsiRNA等の阻害性核酸を典型例として挙げることができる。
【0025】
IL-34がCSF-Rとの結合を介して発揮する生理活性を阻害することのできる物質の例としては、CSF-1Rとの結合部位以外の部位においてIL-34に特異的に結合し、IL-34がCSF-1Rと結合してもその生理活性を発揮させないように働く抗体等を挙げることができる。
【0026】
また、IL-34とヒトCSF-1Rとの結合を特異的に阻害する物質としては、CSF-1R又はIL-34に、特にIL-34に特異的に結合することで、IL-34とヒトCSF-1Rとの結合を阻害する物質が好ましい。そのような物質の例は、CSF-1R上のIL-34結合部位をブロックすることでIL-34とCSF-1Rとの結合を阻害する抗CSF-1R抗体、前記結合部位とは異なる部位でCSF-1Rに結合するが立体障害的にIL-34とCSF-1Rとの結合を阻害する抗CSF-1R抗体、IL-34上のCSF-1R結合部位をブロックすることでIL-34とCSF-1Rとの結合を阻害する抗IL-34抗体、又は前記結合部位とは異なる部位でIL-34に結合するが立体障害的にIL-34とCSF-1Rとの結合を阻害する抗IL-34抗体等を挙げることができる。CSF-1RはIL-34の他にM-CSFとも結合することから、本発明においてはM-CSFとCSF-1Rとの結合に影響を与えないという点で、IL-34に結合する抗体の利用が好ましい。
【0027】
本発明において利用される前記抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であり得、また当該抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、scFv、ダイアボディ(diabody)、dsFv、CDRを含むペプチド等の抗体誘導体も本発明において利用することができる。
【0028】
抗体は、好ましくは遺伝子組換え手法で作製された組換えヒトIL-34を抗原としてウサギ、マウス、ラット等の適当な実験動物を免疫することを含む、一般的な抗体作製方法によって調製することができる。あるいは、前掲特許文献2に記載されている抗IL-34抗体、R&D systemsから市販されている抗IL-34抗体であるMAB5265、その他の既存の抗IL-34抗体を使用してもよい。
【0029】
上記抗体を有効成分とする本発明の医薬は、抗体を含有する医薬製剤に用いられる一般的な担体を用いて凍結乾燥製剤又は水溶液の形態に調製されて使用されることが好ましい。担体の例としては、緩衝剤、抗酸化剤、保存剤、タンパク質、親水性ポリマー、アミノ酸、キレート化剤及び非イオン性界面活性剤等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0030】
本発明の医薬は、IL-34の発現を抑制する、IL-34の活性を阻害する及び/又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害することのできる、前記阻害性核酸又は抗体以外の物質を含んでもよい。そのような物質は、IL-34を発現している適当な細胞を用いた発現抑制能のスクリーニング、又はCSF-1Rを発現している適当な細胞とIL-34とを用いたIL-34の活性阻害能若しくは結合阻害能のスクリーニングを通じて探索することができる。
【0031】
本発明の医薬は、先に例示されるもの以外の薬学的に許容される賦形剤、安定化剤、担体等の成分と医薬組成物を形成し又は製剤化して使用することができる。薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十七改正日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。
【0032】
本発明の医薬又はこれを含む医薬組成物は、筋内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与等、非経口的に投与されることが好ましく、そのような投与経路に適した製剤、例えば注射剤又は点滴剤等であることが好ましい。
【0033】
本発明における医薬又はこれを含む医薬組成物は、プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、サリドマイド、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、SLAMF7阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤等の多発性骨髄腫の治療に用いられる他の薬剤と組み合わせて用いることが好ましい。
【0034】
本発明の骨病変治療薬は、IL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である骨髄腫細胞を有する多発性骨髄腫患者に対して特に有効であり、骨病変の予防及び/又は治療、生存期間の延長、プロテアソーム阻害剤その他の多発性骨髄腫に対する治療薬への骨髄腫細胞の抵抗性の低減等の効果を期待することができる。したがって発明はまた、IL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である骨髄腫細胞を有する多発性骨髄腫患者に、IL-34の発現又はCSF-1RとIL-34との結合を阻害する物質の有効量を投与することを含む、骨病変及び/又は多発性骨髄腫の予防及び/又は治療のための方法も提供するものである。
【0035】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1.多発性骨髄腫細胞におけるIL-34及びM-CSFの発現解析
1)多発性骨髄腫患者の骨髄腫細胞
北海道大学の自主臨床研究に関する承認及びヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針の下、臨床学的に多発性骨髄腫と診断された患者から、文書同意を得て、骨髄液を採取した。遠心分離により細胞を回収した後、抗CD19抗体(Biolegend, catalog no. 302206)及び抗CD138抗体(Biolegend, catalog no. 352307)を用いたフローサイトメトリー(FACS Aria II, Beckman Coulter)を行い、CD19-CD138+細胞を分離した(n= 6)。分離細胞に対してDiff-Quik染色を行い、骨髄腫細胞として典型的な特徴である細胞の形状が球形であること、及び細胞核の偏在を確認した(図1)。
【0037】
上記CD19-CD138+細胞を蛍光色素標識抗IL-34抗体(Abcam, catalog no. ab101443)及び抗M-CSF抗体(Abcam, catalog no. ab66236)で免疫染色し、蛍光顕微鏡下で観察したところ、いずれの細胞もIL-34は陽性(図2A)、M-CSFは陰性であった(図2B)。
【0038】
2)ヒト多発性骨髄腫細胞株
ヒト多発性骨髄腫細胞株であるRPMI8226、KMS-11、OPM-2、OPC及びU266B1(いずれも徳島大学血液内科の安倍正博教授から供与)を、10% FBS及び1ng/mlのIL-6を含有するRPMI1640を用いて5% CO2、37℃で培養した。培養後の細胞を蛍光色素標識抗IL-34抗体(R&D, catalog no. IC5265P)又は抗M-CSF抗体(Novus, catalog no. IC2161G)と反応させた後、フローサイトメトリーによって各抗体と反応した細胞を検出した。いずれの骨髄腫細胞株でもIL-34は陽性であった。M-CSFはU266B1細胞においてわずかに検出された以外は陰性であった(図3)。
【0039】
3)マウス骨髄腫細胞株
マウス骨髄腫細胞株であるMOPC315.BM細胞(Bjarne Bogen博士(Centre for Immune Regulation, Institute of Immunology, University of Oslo and Oslo University Hospital)から供与)を、10% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸(Gibco)、100 IU/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、0.005% 1M I-thioglycerol solution(Sigma)を加えたRPMI1640+Gluta MAX(Thermo Fisher science)を用いて5% CO2、37℃で培養した。また、健常BALB/cマウスの骨髄、末梢血、リンパ節、脾臓から常法に従って細胞を回収し、CD19 microbeads(Miltenyl Biotec, catalog no. 130-052-201)を用いてCD19+細胞を分離し、RPMI-1640(Sigma)培地を用いて5% CO2、37℃で培養した。培養後の上清を回収し、ELISA kit(Legend MAX mouse IL-34 ELISA kit, catalog no. 439107)を用いて上清中のIL-34濃度を定量した。MOPC315.BM細胞ではIL-34の産生が認められた一方、健常マウス由来のCD19+細胞ではIL-34の産生は認められなかった(図4)。IL-34 mRNAも同様の傾向を示した(データを図示せず)。
【0040】
以上から、ヒトの多発性骨髄腫細胞ではIL-34が発現していてM-CSFが発現していないこと、及びマウスにおいて多発性骨髄腫の病態を引き起こすマウス骨髄腫細胞株でもIL-34が発現していることが確認された。
【0041】
実施例2.骨髄腫細胞と骨髄間質細胞との相互作用の解析
1)骨髄にホーミングしたマウス骨髄腫細胞株におけるIL-34の発現
BALB/cマウス(6〜8週齢、雄、日本SLC)に、1×106個のDsRed標識MOPC315.BM細胞を静脈注射により投与し、4週間後に骨髄及び脾臓を採取した。骨髄及び脾臓から常法に従って細胞を回収し、DsRedの発現に基づいてフローサイトメトリーによりMOPC315.BM細胞を分離した。Tripure Isolation Reagent(Roche Life Science)を用いてMOPC315.BM細胞からRNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(TOYOBO)を用いてcDNAを合成し、KAPA SYBR Fast qPCR Kitを用いて以下のプライマーでRT-PCRを行った。
マウス Il-34
フォワードプライマー 5’- CTTTGGGAAACCAGAATTTGGAG -3’(配列番号1)
リバースプライマー 5’- GCAATCCTGTAGTTGATGGGGAA -3’(配列番号2)
【0042】
骨髄から分離されたMOPC315.BM細胞では、脾臓から分離された又はin vitroで培養したMOPC315.BM細胞と比べてIL-34 mRNAの発現が著しく上昇していたことから(図5)、骨髄にホーミングしたMOPC315.BM細胞では骨髄微小環境においてIL-34の発現が増強されることが示された。
【0043】
2)骨髄腫細胞と骨髄由来間質細胞との共培養におけるIL-34及びRANKLの発現
BALB/cマウス(6〜8週齢、雄、日本SLC)から採取した骨髄細胞を、10% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸、1 mM ピルビン酸ナトリウム、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、55μM 2-メルカプトエタノール(Sigma)を加えたα-MEM(Gibco)を用いて5% CO2、37℃で一晩培養した。ディッシュ底面に接着した細胞と浮遊細胞を分離し、接着細胞は骨髄由来間質細胞(BMSC)として、MOPC315.BM細胞との共培養実験に使用した。
【0044】
MOPC315.BM細胞とBMSCとを1:1の細胞比で混合し、RPMI+Gluta MAX中で1週間、共培養を行った。共培養後、両細胞を分離し、それぞれから上記1)と同様の手法でRNAを調製し、RT-PCRを行って、IL-34、RANKL、IL-3、IL-6、IL-7、IL-17、TNFα、MIPA、TGFβ1、VEGFα及びOPGのmRNAを定量した。単独培養したMOPC315.BM細胞及びBMSCについても同様にmRNAを定量した。
【0045】
MOPC315.BM細胞とBMSCとの共培養は、MOPC315.BM細胞においてIL-34の他、IL-3、IL-17及びVEGFαの発現を亢進し、またBMSCにおいてRANKL、IL-6、IL-7、TNFα、MIPA、TGFβ1及びVEGFαの発現を亢進していた。IL-34及びRANKLについての定量結果を図6に示す。これらの発現亢進が認められた因子はいずれも破骨細胞活性化因子である。他方、破骨細胞の発達および機能の重要な制御因子であるオステオプロテゲリン(OPG)の遺伝子発現は、MOPC315.BM細胞と相互作用したBMSCにおいて顕著に減少した。
【0046】
以上から、骨髄腫細胞と骨髄由来間質細胞は相互に作用して、破骨細胞形成を促進する因子の発現を高めることが示された。
【0047】
実施例3.IL-34 siRNAによる骨髄腫細胞の機能抑制
1)骨髄由来間質細胞と共培養したIL-34ノックダウン骨髄腫細胞の破骨細胞形成能
IL-34特異的siRNA発現ベクター又は対照のsiRNA発現ベクター(いずれもApplied Biological Materials Inc., catalog No. i048742)をMOPC315.BM細胞にエレクトロポレーションでトランスフェクトし、siRNAを安定的に発現する株を選抜し、それぞれMOPC315.BMIL-34KD、MOPC315.BMcontrolとして以下の評価に用いた。MOPC315.BMIL-34KDにおけるIL-34ノックダウン効率は80%超であった。
【0048】
トランスウェル培養プレート(Costar, catalog no. 3495)の上部チャンバー内にMOPC315.BMIL-34KD又はMOPC315.BMcontrolを単独又はBMSCとの1:1混合物として、下部チャンバー内に破骨細胞前駆細胞を含有するマウス骨髄細胞を加え、RPMI1640+Gluta MAX中で10日間、共培養を行った。共培養後、下部チャンバーの細胞をTRACP&ALP double stain Kit(TaKaRa)を用いてTRAP染色し、破骨細胞を検出した。
【0049】
MOPC315.BMControlとBMSCとの共培養の培養上清は、骨髄細胞からTRAP染色陽性の大きな多核細胞である破骨細胞(図7B、左上写真の矢印)を誘導したが、MOPC315.BMIL-34KDとBMSCとの共培養では破骨細胞形成は認められなかった(図7B、左下写真)。
【0050】
2)IL-34ノックダウン骨髄腫細胞の骨病変誘発能
BALB/cマウス(6〜8週齢、雄、日本SLC)に、2×105個のMOPC315.BMcontrol、MOPC315.BMIL-34KD又はPBSを静脈注射により投与し、45日間飼育した。飼育中、血清カルシウム濃度をCalcium Assay Kit LS(MG Merallogenics)により経時的に測定した。飼育終了後、頭蓋骨、第5腰椎及び第6腰椎、大腿骨を採取して、Latheta LCT200(Hitachi Aloka Medical, Tokyo, Japan)により透過X線画像解析、骨密度測定及び灰分測定を行った。
【0051】
MOPC315.BMcontrolを投与したマウスでは、対照マウスと比較して、頭蓋骨、腰椎、大腿骨のいずれにおいても骨密度及び灰分の減少が認められ、重篤な骨病変が観察された。MOPC315.BMIL-34KDを投与したマウスでは、MOPC315.BMcontrol投与マウスと比較して、骨病変の程度が減弱されていたか、又は骨病変は観察されなかった(図8図10)。また、血清カルシウム濃度はMOPC315.BMcontrol投与マウスにおいて上昇したが、MOPC315.BMIL-34KD投与マウスにおいてはそのような傾向は認められなかった(図11)。
【0052】
以上から、IL-34 siRNAは骨髄腫細胞の骨病変誘発能を抑制することが示された。
【0053】
実施例4.IL-34中和抗体による骨髄腫細胞の機能抑制
健常人ボランティアの末梢血から遠心分離により赤血球及び血漿を除去後、MAC Cell Separation(Miltenyi Biotec)によりCD14+細胞を調製し、10% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸、1 mM ピルビン酸ナトリウム、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、55μM 2-メルカプトエタノールを加えたRPMI1640を用いて5% CO2、37℃で一晩培養した。トランスウェル培養プレートの上部チャンバー内に実施例1の1)で分離した患者由来の骨髄腫細胞を、下部チャンバー内に上記で得たCD14+細胞を加え、組換えヒトRANKL(Biolegend, catalog no. 591102)を終濃度100 ng/mlで添加した又は添加していない、及び抗IL-34抗体(Abcam, catalog no. ab142096)又はCSF-1R阻害剤であるGW2580(Abcam, catalog no. ab142096)をそれぞれ終濃度10 μg/ml、25nMで添加した又は添加していないRPMI1640を用いて10日間、共培養を行った。共培養後、下部チャンバーの細胞をTRACP&ALP double stain Kit(TaKaRa)を用いてTRAP染色し、破骨細胞を検出した。
【0054】
RANKL存在下で骨髄腫細胞と共培養したCD14+細胞は、TRAP染色強陽性の破骨細胞形態の付着細胞へと分化した(図12Bの左下写真、図12Cの右側写真)。この破骨細胞への分化は、抗IL-34抗体又はGW2580の添加により抑制された(図12Bの中央下及び右下の写真)。
【0055】
以上から、IL-34中和抗体は、CSF-1R阻害剤と同様に骨髄腫細胞の破骨細胞形成能を抑制することが示された。
【要約】
【課題】
本発明は、多発性骨髄腫患者が、インターロイキン−34(IL-34)の機能を阻害する物質を有効成分として含有する医薬への応答性があるかを判定する方法、及び多発性骨髄腫患者における骨病変の予防及び/又は治療のための医薬を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、IL-34の機能を阻害する物質を有効成分として含有する多発性骨髄腫患者の骨病変の予防及び/又は治療のための医薬への当該患者の応答性を判定する方法であって、前記患者から単離された骨髄腫細胞がIL-34発現陽性及びM-CSF発現陰性である場合に前記医薬への応答性があると判定する工程を含む、前記判定方法に関する。本発明によれば、副作用を伴いやすいRANKL又はM-CSFの機能阻害を機序とする治療法を回避して、骨病変の主因と考えられるIL-34の機能を阻害することを機序とする医薬を患者に提供することが可能となる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]