【実施例】
【0036】
実施例1.多発性骨髄腫細胞におけるIL-34及びM-CSFの発現解析
1)多発性骨髄腫患者の骨髄腫細胞
北海道大学の自主臨床研究に関する承認及びヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針の下、臨床学的に多発性骨髄腫と診断された患者から、文書同意を得て、骨髄液を採取した。遠心分離により細胞を回収した後、抗CD19抗体(Biolegend, catalog no. 302206)及び抗CD138抗体(Biolegend, catalog no. 352307)を用いたフローサイトメトリー(FACS Aria II, Beckman Coulter)を行い、CD19
-CD138
+細胞を分離した(n= 6)。分離細胞に対してDiff-Quik染色を行い、骨髄腫細胞として典型的な特徴である細胞の形状が球形であること、及び細胞核の偏在を確認した(
図1)。
【0037】
上記CD19
-CD138
+細胞を蛍光色素標識抗IL-34抗体(Abcam, catalog no. ab101443)及び抗M-CSF抗体(Abcam, catalog no. ab66236)で免疫染色し、蛍光顕微鏡下で観察したところ、いずれの細胞もIL-34は陽性(
図2A)、M-CSFは陰性であった(
図2B)。
【0038】
2)ヒト多発性骨髄腫細胞株
ヒト多発性骨髄腫細胞株であるRPMI8226、KMS-11、OPM-2、OPC及びU266B1(いずれも徳島大学血液内科の安倍正博教授から供与)を、10% FBS及び1ng/mlのIL-6を含有するRPMI1640を用いて5% CO
2、37℃で培養した。培養後の細胞を蛍光色素標識抗IL-34抗体(R&D, catalog no. IC5265P)又は抗M-CSF抗体(Novus, catalog no. IC2161G)と反応させた後、フローサイトメトリーによって各抗体と反応した細胞を検出した。いずれの骨髄腫細胞株でもIL-34は陽性であった。M-CSFはU266B1細胞においてわずかに検出された以外は陰性であった(
図3)。
【0039】
3)マウス骨髄腫細胞株
マウス骨髄腫細胞株であるMOPC315.BM細胞(Bjarne Bogen博士(Centre for Immune Regulation, Institute of Immunology, University of Oslo and Oslo University Hospital)から供与)を、10% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸(Gibco)、100 IU/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、0.005% 1M I-thioglycerol solution(Sigma)を加えたRPMI1640+Gluta MAX(Thermo Fisher science)を用いて5% CO
2、37℃で培養した。また、健常BALB/cマウスの骨髄、末梢血、リンパ節、脾臓から常法に従って細胞を回収し、CD19 microbeads(Miltenyl Biotec, catalog no. 130-052-201)を用いてCD19
+細胞を分離し、RPMI-1640(Sigma)培地を用いて5% CO
2、37℃で培養した。培養後の上清を回収し、ELISA kit(Legend MAX mouse IL-34 ELISA kit, catalog no. 439107)を用いて上清中のIL-34濃度を定量した。MOPC315.BM細胞ではIL-34の産生が認められた一方、健常マウス由来のCD19
+細胞ではIL-34の産生は認められなかった(
図4)。IL-34 mRNAも同様の傾向を示した(データを図示せず)。
【0040】
以上から、ヒトの多発性骨髄腫細胞ではIL-34が発現していてM-CSFが発現していないこと、及びマウスにおいて多発性骨髄腫の病態を引き起こすマウス骨髄腫細胞株でもIL-34が発現していることが確認された。
【0041】
実施例2.骨髄腫細胞と骨髄間質細胞との相互作用の解析
1)骨髄にホーミングしたマウス骨髄腫細胞株におけるIL-34の発現
BALB/cマウス(6〜8週齢、雄、日本SLC)に、1×10
6個のDsRed標識MOPC315.BM細胞を静脈注射により投与し、4週間後に骨髄及び脾臓を採取した。骨髄及び脾臓から常法に従って細胞を回収し、DsRedの発現に基づいてフローサイトメトリーによりMOPC315.BM細胞を分離した。Tripure Isolation Reagent(Roche Life Science)を用いてMOPC315.BM細胞からRNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(TOYOBO)を用いてcDNAを合成し、KAPA SYBR Fast qPCR Kitを用いて以下のプライマーでRT-PCRを行った。
マウス Il-34
フォワードプライマー 5’- CTTTGGGAAACCAGAATTTGGAG -3’(配列番号1)
リバースプライマー 5’- GCAATCCTGTAGTTGATGGGGAA -3’(配列番号2)
【0042】
骨髄から分離されたMOPC315.BM細胞では、脾臓から分離された又はin vitroで培養したMOPC315.BM細胞と比べてIL-34 mRNAの発現が著しく上昇していたことから(
図5)、骨髄にホーミングしたMOPC315.BM細胞では骨髄微小環境においてIL-34の発現が増強されることが示された。
【0043】
2)骨髄腫細胞と骨髄由来間質細胞との共培養におけるIL-34及びRANKLの発現
BALB/cマウス(6〜8週齢、雄、日本SLC)から採取した骨髄細胞を、10% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸、1 mM ピルビン酸ナトリウム、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、55μM 2-メルカプトエタノール(Sigma)を加えたα-MEM(Gibco)を用いて5% CO
2、37℃で一晩培養した。ディッシュ底面に接着した細胞と浮遊細胞を分離し、接着細胞は骨髄由来間質細胞(BMSC)として、MOPC315.BM細胞との共培養実験に使用した。
【0044】
MOPC315.BM細胞とBMSCとを1:1の細胞比で混合し、RPMI+Gluta MAX中で1週間、共培養を行った。共培養後、両細胞を分離し、それぞれから上記1)と同様の手法でRNAを調製し、RT-PCRを行って、IL-34、RANKL、IL-3、IL-6、IL-7、IL-17、TNFα、MIPA、TGFβ1、VEGFα及びOPGのmRNAを定量した。単独培養したMOPC315.BM細胞及びBMSCについても同様にmRNAを定量した。
【0045】
MOPC315.BM細胞とBMSCとの共培養は、MOPC315.BM細胞においてIL-34の他、IL-3、IL-17及びVEGFαの発現を亢進し、またBMSCにおいてRANKL、IL-6、IL-7、TNFα、MIPA、TGFβ1及びVEGFαの発現を亢進していた。IL-34及びRANKLについての定量結果を
図6に示す。これらの発現亢進が認められた因子はいずれも破骨細胞活性化因子である。他方、破骨細胞の発達および機能の重要な制御因子であるオステオプロテゲリン(OPG)の遺伝子発現は、MOPC315.BM細胞と相互作用したBMSCにおいて顕著に減少した。
【0046】
以上から、骨髄腫細胞と骨髄由来間質細胞は相互に作用して、破骨細胞形成を促進する因子の発現を高めることが示された。
【0047】
実施例3.IL-34 siRNAによる骨髄腫細胞の機能抑制
1)骨髄由来間質細胞と共培養したIL-34ノックダウン骨髄腫細胞の破骨細胞形成能
IL-34特異的siRNA発現ベクター又は対照のsiRNA発現ベクター(いずれもApplied Biological Materials Inc., catalog No. i048742)をMOPC315.BM細胞にエレクトロポレーションでトランスフェクトし、siRNAを安定的に発現する株を選抜し、それぞれMOPC315.BM
IL-34KD、MOPC315.BM
controlとして以下の評価に用いた。MOPC315.BM
IL-34KDにおけるIL-34ノックダウン効率は80%超であった。
【0048】
トランスウェル培養プレート(Costar, catalog no. 3495)の上部チャンバー内にMOPC315.BM
IL-34KD又はMOPC315.BM
controlを単独又はBMSCとの1:1混合物として、下部チャンバー内に破骨細胞前駆細胞を含有するマウス骨髄細胞を加え、RPMI1640+Gluta MAX中で10日間、共培養を行った。共培養後、下部チャンバーの細胞をTRACP&ALP double stain Kit(TaKaRa)を用いてTRAP染色し、破骨細胞を検出した。
【0049】
MOPC315.BM
ControlとBMSCとの共培養の培養上清は、骨髄細胞からTRAP染色陽性の大きな多核細胞である破骨細胞(
図7B、左上写真の矢印)を誘導したが、MOPC315.BM
IL-34KDとBMSCとの共培養では破骨細胞形成は認められなかった(
図7B、左下写真)。
【0050】
2)IL-34ノックダウン骨髄腫細胞の骨病変誘発能
BALB/cマウス(6〜8週齢、雄、日本SLC)に、2×10
5個のMOPC315.BM
control、MOPC315.BM
IL-34KD又はPBSを静脈注射により投与し、45日間飼育した。飼育中、血清カルシウム濃度をCalcium Assay Kit LS(MG Merallogenics)により経時的に測定した。飼育終了後、頭蓋骨、第5腰椎及び第6腰椎、大腿骨を採取して、Latheta LCT200(Hitachi Aloka Medical, Tokyo, Japan)により透過X線画像解析、骨密度測定及び灰分測定を行った。
【0051】
MOPC315.BM
controlを投与したマウスでは、対照マウスと比較して、頭蓋骨、腰椎、大腿骨のいずれにおいても骨密度及び灰分の減少が認められ、重篤な骨病変が観察された。MOPC315.BM
IL-34KDを投与したマウスでは、MOPC315.BM
control投与マウスと比較して、骨病変の程度が減弱されていたか、又は骨病変は観察されなかった(
図8〜
図10)。また、血清カルシウム濃度はMOPC315.BM
control投与マウスにおいて上昇したが、MOPC315.BM
IL-34KD投与マウスにおいてはそのような傾向は認められなかった(
図11)。
【0052】
以上から、IL-34 siRNAは骨髄腫細胞の骨病変誘発能を抑制することが示された。
【0053】
実施例4.IL-34中和抗体による骨髄腫細胞の機能抑制
健常人ボランティアの末梢血から遠心分離により赤血球及び血漿を除去後、MAC Cell Separation(Miltenyi Biotec)によりCD14
+細胞を調製し、10% FBS、0.1 mM 非必須アミノ酸、1 mM ピルビン酸ナトリウム、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、55μM 2-メルカプトエタノールを加えたRPMI1640を用いて5% CO
2、37℃で一晩培養した。トランスウェル培養プレートの上部チャンバー内に実施例1の1)で分離した患者由来の骨髄腫細胞を、下部チャンバー内に上記で得たCD14
+細胞を加え、組換えヒトRANKL(Biolegend, catalog no. 591102)を終濃度100 ng/mlで添加した又は添加していない、及び抗IL-34抗体(Abcam, catalog no. ab142096)又はCSF-1R阻害剤であるGW2580(Abcam, catalog no. ab142096)をそれぞれ終濃度10 μg/ml、25nMで添加した又は添加していないRPMI1640を用いて10日間、共培養を行った。共培養後、下部チャンバーの細胞をTRACP&ALP double stain Kit(TaKaRa)を用いてTRAP染色し、破骨細胞を検出した。
【0054】
RANKL存在下で骨髄腫細胞と共培養したCD14+細胞は、TRAP染色強陽性の破骨細胞形態の付着細胞へと分化した(
図12Bの左下写真、
図12Cの右側写真)。この破骨細胞への分化は、抗IL-34抗体又はGW2580の添加により抑制された(
図12Bの中央下及び右下の写真)。
【0055】
以上から、IL-34中和抗体は、CSF-1R阻害剤と同様に骨髄腫細胞の破骨細胞形成能を抑制することが示された。