(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356478
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
H01L21/52 A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-97351(P2014-97351)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-216188(P2015-216188A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】白倉 康平
(72)【発明者】
【氏名】森 栄輔
(72)【発明者】
【氏名】武藤 秀樹
【審査官】
工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−108604(JP,A)
【文献】
特開2005−26612(JP,A)
【文献】
特開平6−188551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/52
H01L21/58
B23K20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の電極として、無酸素下にて、素子側から順にチタン膜、ニッケル膜を形成し、
この半導体素子の電極を、錫含有の半田を用いて回路部材にダイボンディングすることにより、上記電極のチタン膜の内部に、上記ニッケル膜からニッケルが拡散して、該ニッケルと上記チタン膜のチタンとの2金属からなる第1金属間化合物を形成すると共に、
上記電極のチタン膜の内部に更に半田から錫が拡散して、チタン、ニッケル及び錫の3金属からなる第2金属間化合物を形成し、
上記半導体素子と半田層との間に純チタン層、上記2金属からなる第1金属間化合物層、上記3金属からなる第2金属間化合物層を介して、上記半導体素子の電極を回路部材に接合したことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装
置の製造方法、特にパワー半導体素子等をリードフレーム等に半田を用いて接合する半導体装置
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置において、半導体素子(チップ)の裏面とリードフレームや回路基板(回路部材)とを接合する際には、半田を用いたダイボンディングが行われており、このダイボンディングでは、半導体素子の裏面に形成されたニッケルと半田の錫(Sn)成分が結合する。
【0003】
例えば、家電機器、OA機器、音響機器等の電源には、ダイオードやトランジスタ等のパワー半導体装置が用いられているが、このパワー半導体装置では、パワー半導体素子の大電流化及びコストダウンの要請から、ダイボンディングの材料として半田材が用いられる。
近年、特にGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)を用いた半導体素子の開発が進む中、より過酷な環境下でのパワー半導体装置の用途が広がり、半導体装置を形成するワイヤボンディング材、ダイボンディング材、モールド樹脂材といった構成材料の高信頼性の要求が強くなっている。
【0004】
このような状況の中、上記ダイボンディング材として主に錫を含んだ半田材が使用され、半導体素子の裏面(電極)には、外側にニッケル(Ni)膜、このニッケル膜と半導体素子との間にチタン(Ti)膜が形成される。即ち、半田材の錫と結合するためにニッケルが用いられ、このニッケルと半導体素子を接着させるためにチタンが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−188551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の半導体素子とリードフレーム、回路基板等との接合では、半導体素子裏面のニッケルと半田材の錫との合金化により、半田と半導体素子との接合が維持されるため、特に高温環境下では錫とニッケルの相互拡散が進み、半導体素子裏面に配置されたニッケル膜にカーケンダルボイドが発生し、半導体素子と半田との接合が阻害され、オープン不良を引き起こすという問題があった。なお、従来の接合では、錫とニッケルの相互拡散が進んだ状態でも、未反応のニッケルが残る構造となっていた。
【0007】
上記カーケンダルボイドの発生の問題に対処する方法として、半導体素子裏面のニッケル膜(メッキ厚)を厚くする方法があるが、この方法でも、例えば200度以上の高温環境化では相互拡散が加速し、信頼性の要求を満たせない場合があった。しかも、ニッケル膜を厚くすると、半導体素子から剥がれ易くなるという問題もある。
【0008】
図4には、従来の半導体装置の接合で、ニッケルと錫の合金を形成した場合に、−65度〜+200度の温度サイクルを1000サイクル行った後の接合層の断面が示されており、数百サイクル目で、
図4の断面のように、半導体素子10と半田16との間にクラック22が入ってしまう結果となった。なお、17は基板、23はモールド樹脂である。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニッケル膜を厚く形成する必要もなく、高温環境下でもカーケンダルボイドを発生させることなく、半導体素子電極に半田を強固に接合し、高耐熱化を図ることができる半導体装
置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る半導体装置
の製造方法は、半導体素子の電極として、無酸素下にて、素子側から順にチタン膜、ニッケル膜を形成し、この半導体素子の電極を、錫含有の半田を用いて回路部材にダイボンディングすることにより、上記電極のチタン膜の内部に、上記ニッケル膜からニッケルが拡散して、該ニッケルと上記チタン膜のチタンとの2金属からなる第1金属間化合物を形成すると共に、上記電極のチタン膜の内部に更に半田から錫が拡散して、チタン、ニッケル及び錫の3金属からなる第2金属間化合物を形成し、上記半導体素子と半田層との間に純チタン層、上記2金属からなる第1金属間化合物層、上記3金属からなる第2金属間化合物層を介して、上記半導体素子の電極を回路部材に接合したことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、まず半導体素子の電極として、素子側からチタン膜、ニッケル膜が無酸素下で順に成膜される。これは、チタン膜を成膜後に酸素雰囲気に晒すことで、チタンと酸素が反応し、接合時(ダイボンディング時)に、錫やニッケル等がチタン
膜内へ取り込まれず、チタン、ニッケル、錫の化合物(合金)が形成されないことを防止するためである。
【0013】
そして、上記半導体素子の電極を錫含有の半田を用いて回路部材にダイボンディングすると、半導体素子
の電極のチタン
膜の内部に、ニッケルと錫の拡散・結合によりチタン、ニッケル及び錫の3金属からなる金属間化合物(合金層)が接合層として形成され、この金属間化合物によって、半導体素子
の電極と回路部材が強固に接合される。
【0014】
なお、チタン
膜内に形成される金属間化合物は、50nm程度の薄い接合層(面)であることが好ましく、そのための半導体素子電極のチタン膜厚は100nm程度又はそれ以上、ニッケル膜厚は未反応のニッケルが残らない程度の膜厚に形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体装
置の製造方法によれば、ニッケル膜を厚く形成する必要がなく、高温環境下でもカーケンダルボイドを発生させることなく、半導体素子(裏面)電極に半田を強固に接合することができ、半導体装置の高耐熱化を図ることが可能となる。
【0016】
即ち、従来と同様に、半導体素子の電極にチタン、ニッケルを用いることができ、これらチタン膜とニッケル膜は、それぞれ100nm以上の薄い膜厚で成膜できることから、設備の大幅な変更とニッケルの無駄な使用が不要となる。
また、ダイボンディング時の初期にチタン
膜の内部に形成されるチタン、ニッケル及び錫の金属間化合物は、200度を超える高温環境下においでも成長が殆どなく、かつ強固な接合を維持することから、半導体装置の高耐熱化を図ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る実施例において半導体素子装置の構成を示し、図(A)はその裏面電極を回路基板に接合したときの側面図、図(B)は接合部の断面図である。
【
図2】実施例の半導体素子裏面電極の構成を示す側面図である。
【
図3】実施例の半導体装置の裏面電極の接合部の構成を示す断面図である。
【
図4】従来の半導体装置の電極の接合状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、実施例の半導体装置の構成が示され、
図2には、半導体素子の構成が示されており、実施例では、パワー半導体素子を回路基板にダイボンディングする半導体装置の場合を説明する。この半導体装置の製造では、
図2のように、半導体素子10の裏面に、電極として、素子側から、100nm以上のチタン(Ti)膜12、100nm以上のニッケル(Ni)膜(ニッケルメッキ)13、金(Au)膜(金メッキ:最外表)14が形成されており、これらチタン膜12、ニッケル膜13、金膜14の形成は、無酸素状態下で行われる。即ち、チタン膜12を成膜した直後に、酸素雰囲気に晒すとチタンと酸素が反応し、ニッケルや錫等をチタン内に取り込むことが阻害されるので、これを防止するために、膜形成を無酸素下で行っている。
【0019】
そして、上記半導体素子10の裏面電極が、
図1(A)に示されるように、半田16によって基板17にダイボンディングされるが、実施例では、この半田16として、ビスマス(Bi)、銀(Ag)、錫(Sn)、銅(Cu)で構成された材料が用いられる。このダイボンディングは、常温で半田をリードフレーム上に配置し、半導体素子10の電極を半田に押し付け、その後、半田の融点以上に加熱(330℃〜350℃、60秒〜120秒)して、半田を溶融させ結合する。
【0020】
このダイボンディング時に、
図1(A)のように、半導体素子10の電極のチタン
膜12が合金化されずに残る、純チタン層18G
と別に金属間化合物20が形成される。即ち、半導体素子10の電極外表に形成されていた金膜14は、半田16の中に拡散し、上記金属間化合物20には殆ど存在せず、この金膜14の内側に形成されていたニッケル膜13の殆ども、半田16の中に拡散し、約50nm程度のニッケル13のみがチタン
膜12の内部に拡散し、かつ半田16内の錫が拡散し、
図1(B)に示されるように、金属間化合物20として、チタン−ニッケル合金層20aとチタン−ニッケル−錫合金層20bからなる接合層が形成される。
図1(B)に示すチタン層18は、チタン膜12から形成された合金層と、合金化されずに残るチタン層(純チタン層18G)とを示している。
【0021】
図3には、実際の接合部の断面が示されており、この例では、上記チタン−ニッケル合金層20aが150nm程度、チタン−ニッケル−錫合金層20bが50nm程度形成されている。実施例では、この50nm程度の薄いチタン−ニッケル−錫合金層20bが形成されることで、半導体素10と半田16との接合が強固となる。
【0022】
上記の構成によれば、電極として100nm以上のチタン膜12とその外側に100nm以上のニッケル膜13を成膜すると共に、このニッケル膜13の酸化防止のために金膜14を無酸素下で連続して成膜したパワー半導体素子を用い、半田16によってチタン層18の内部に50nm程度のチタン−ニッケル−錫合金層20bを形成することで、高温環境下でも、ニッケルと錫のカーケンダルボイドの発生をなくした上で、半導体素子10の電極と回路素子17を強固に接合することが可能となる。また、上述のように、チタン膜12及びニッケル膜13は100nm程度の厚みでよいため、従来のように、ニッケル層を必要以上に厚くする必要もない。
【0023】
また、実施例ではダイボンディング時の拡散の殆ど無いチタン層18の内部に強固な接合層を配置することから、半導体装置として、一般的な環境温度150度よりも高い環境化でも高い信頼性を得ることができる。
従来では、
図4に示したように、温度範囲が−65度〜+200度の1000サイクル実験において、数百サイクルで剥離・クラックが入ったが、実施例の半導体装置では、1000サイクルの後でも全く剥離・クラックが入らず、非常に高い信頼性が確認された。
【符号の説明】
【0024】
10…半導体素子、 12…チタン膜、
13…ニッケル膜、 14…金膜、
16…半田、 17…回路基板、
18…チタン層、 18G…純チタン層、
20…金属間化合物、
20a…チタン−ニッケル合金層、
20b…チタン−ニッケル−錫合金層
22…クラック、 23…モールド樹脂。