特許第6356492号(P6356492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6356492-抗炎症剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356492
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20180702BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   A61K36/18
   A61P29/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-110423(P2014-110423)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-224226(P2015-224226A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】斎 政彦
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−060404(JP,A)
【文献】 特開2007−302659(JP,A)
【文献】 Phytomedicine,2002年,Vol.9,p.734-738
【文献】 Acta Pharmaceutica Sinica,2000年,Vol.35, No.3,p.173-176
【文献】 Acta Pharmaceutica Sinica,2000年,Vol.35, No.5,p.335-338
【文献】 J. Ethnopharmacol.,2007年,Vol.109,p.281-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッションフルーツ種子エキスを有効成分として含有する、抗炎症剤(リンパ管機能の低下により生じる炎症に対するものを除く)
【請求項2】
パッションフルーツ種子エキスを有効成分として含有する、IL-8産生阻害剤。
【請求項3】
パッションフルーツ種子エキスを有効成分として含有する、TNF−α産生阻害剤。
【請求項4】
パッションフルーツ種子エキスを有効成分として含有する、抗炎症剤(リンパ管機能の低下により生じる慢性炎症に対するものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ピセアタンノールは、スチルベン類の化合物であって、例えば、トケイソウ科トケイソウ属(Passiflora)の果物であるパッションフルーツの種子に含まれており、シミ、ソバカス、日焼けなどによる色素沈着の原因となるメラニンの生成を抑制する効果があることが報告されている(特許文献1を参照)。
【0003】
このピセアタンノールは、強い抗炎症作用を有しており、ヒト末梢血単核球細胞などにおいて、LPS刺激に反応してTNF-alphaやIL-8の分泌を抑制する(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−102298号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Richard N et al. Mol Nutr Food Res. 2005 vol.49, pp.431-442.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗炎症剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、パッションフルーツの種子エキスの利用方法を開発しようと、鋭意努力した結果、パッションフルーツの種子エキスが強い抗炎症作用を有することを見出した。そして、ピセアタンノールの類縁体の一つであるイソラポンチゲニンも、同様に強い抗炎症作用を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明の一実施態様は、パッションフルーツ種子エキスまたはイソラポンチゲニンを有効成分として含有する、抗炎症剤、IL-8産生阻害剤、またはTNF−α産生阻害剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、新規な抗炎症剤を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の一実施例において、パッションフルーツ種子エキス存在下で、ヒト末梢血単核球細胞がLPSに反応して分泌したIL-8及びTNF−αの量を測定した結果を表すグラフである。
図1B】本発明の一実施例において、イソラポンチゲニン存在下で、ヒト末梢血単核球細胞がLPSに反応して分泌したIL-8及びTNF−αの量を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
(1)イソラポンチゲニン
イソラポンチゲニン(3,4',5-Trihydroxy-3'-methoxy-trans-stilbene;3,4',5-トリヒドロキシ-3'-メトキシ-trans-スチルベン)は、以下の構造式を有する化合物である。
【0013】
【化1】
イソラポンチゲニンは、化学合成した市販品もあり、容易に製造・入手可能であるが、インドネシア原産のメリンジョ(Gnetum gnemon)に多量に含まれており、こうした植物から天然のイソラポンチゲニンを単離してもよい。
【0014】
(2)パッションフルーツ種子エキスの製法
パッションフルーツ種子エキスの具体的な製造方法として、公知の方法を用いることができ、例えば、パッションフルーツ種子を、乾燥した後に、破砕、粉砕、または、切断などによって種子分解物を得、溶媒を用いて抽出し、残渣を除去することによって抽出液を得、さらに、抽出液から溶媒を除去することによって、抽出物を得ることができる。この段階のいずれのものも、本発明のパッションフルーツ種子エキスとして使用することができる。
【0015】
抽出に用いる溶媒の種類は、当業者であれば適切に選択することができるが、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、2−プロパノール、1,4−ジオキサン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒であっても良く、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒であることが好ましく、水、エタノール、または、水およびエタノールの混合溶媒であることがより好ましい。混合溶媒を用いる場合の、各溶媒の混合比は特に限定されないが、例えば水およびエタノールの混合溶媒を用いる場合には、水とエタノールとの体積比は、1:99〜99:1であっても良く、3:97〜80:20であることが好ましく、5:95〜50:50であることがより好ましく、10:90〜40:60であることが特に好ましい。
【0016】
溶媒として、水、または、水との混合溶媒を用いる場合には、熱水、または、熱水との混合溶媒であることが好ましい。水、または、水との混合溶媒は塩を含んでいても良く、塩を含む溶媒の例として、バッファー(緩衝液)であっても良い。バッファーのpHは、特に限定されず、酸性、中性、または、アルカリ性のいずれであっても良いが、酸性であることが好ましく、pH6以下の酸性であることがより好ましく、pH1〜pH5の酸性であることがさらに好ましい。バッファーに用いる塩の種類は特に限定されず、例として、クエン酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩、酢酸塩および炭酸塩などが挙げられる。
【0017】
抽出液から溶媒を除去する方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、減圧留去、凍結乾燥、または、スプレードライ(噴霧乾燥)であっても良いが、凍結乾燥、または、スプレードライであることが好ましく、スプレードライであることがより好ましい。
【0018】
抽出物の形状は、特に限定されず、例えば粉体などの固体状、アモルファス状、または、オイル状であっても良い。
【0019】
(3)抗炎症剤及びIL-8産生阻害剤、またはTNF−α産生阻害剤
パッションフルーツ種子エキスまたはイソラポンチゲニンは、IL-8、またはTNF−α産生阻害効果を有するため、IL-8、またはTNF−α産生阻害剤や抗炎症剤などの薬剤として有効に利用することができる。パッションフルーツ種子エキスまたはイソラポンチゲニンの剤型化は公知の方法によって可能である。
【0020】
本発明に係る薬剤はまた、有効成分の他、必要に応じて、一般に用いられる各種成分をさらに含み得るものであり、例えば、1種以上の医薬的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤などを含み得る。
【0021】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。本発明に係る薬剤は、経口経路、非経口経路のいずれによっても投与できる。非経口経路としては、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。さらに、経粘膜投与または経皮投与を実施することができる。
【0022】
経口用固形製剤を調製する場合は、有効成分に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤などを加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などを製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などを、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどを、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などを、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどを、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などを例示できる。
【0023】
経口用液体製剤を調製する場合は、有効成分に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤などを加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などを製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウムなどが、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどを挙げることができる。
【0024】
注射剤を調製する場合は、有効成分にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを挙げることができる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、 エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などを挙げることができる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどを挙げることができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが例示できる。
【0025】
坐剤を調製する場合は、有効成分に当業界において公知の製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライドなどを、さらに必要に応じてツイーン(登録商標)のような界面活性剤などを加えた後、常法により製造することができる。
【0026】
軟膏剤を調製する場合は、有効成分に通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤などが必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどを挙げることができる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどを挙げることができる。
【0027】
貼付剤を製造する場合は、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペーストなどを常法により塗布すれば良い。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタンなどのフィルムあるいは発泡体シートが適当である。
【0028】
薬剤に含有される有効成分の量は、該有効成分の用量や投薬の回数などにより適宜決定できる。用量は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断など応じて適宜選択される。一日投与量は1日1回乃至数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0029】
ヒト末梢血単核球細胞(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)をFicollR gradientによりヒトから単離し、2mM L-glutamine, Penicillin/Streptomycin, 10%inactivated fetal calf serum を含んだRPMI培地で1時間培養後、各サンプル物質(ピセアタンノール、パッションフルーツ種子エキス、イソラポンチゲニン)(ピセアタンノール、イソラポンチゲニンは東京化成から入手)を所定濃度添加して、さらに1時間培養し、その後、パッションフルーツ種子エキスを添加した実験ではLPS(100ng/ml)で刺激し、イソラポンチゲニンを添加した実験ではLPS(100ng/ml)+IFNγ(20U/ml=1ng/ml)で刺激して、24時間後の培養液中のサイトカイン(IL-8、TNF−α)の産生量をELISAにより測定した。その結果を図1に示す(%阻害は100-(刺激から24時間後のサイトカインの産生量-無刺激時コントロール)/(サンプル処理時コントロール-無刺激時コントロール)×100であらわした。) ここで、パッションフルーツ種子エキスは、以下のようにして、抽出した。パッションフルーツ種子を焙煎して粉砕し、これに80%含水エタノール(80%(v/v)エタノール+20%(v/v)水)を加えて混合、攪拌した後、83meshフィルター(目開き180μm)で濾過することで固液分離した。得られた抽出液をエバポレータで濃縮して、スプレードライによって粉末化して得た。
【0030】
なお、パッションフルーツ種子の含水エタノール抽出物中には、9.49%(w/v)のピセアタンノールが含有しており、精製ピセアタンノールの添加量に対応するパッションフルーツ種子エキスを用いた。
【0031】
図1に示されるように、パッションフルーツ種子エキス及びイソラポンチゲニンは、IL-8産生阻害活性やTNF−α産生阻害活性を有していた。このように、パッションフルーツ種子エキス及びイソラポンチゲニンは、抗炎症剤、IL-8産生阻害剤及びTNF−α産生阻害剤として、顕著に有効である。
図1A
図1B