(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356512
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】MEMS素子
(51)【国際特許分類】
B81B 3/00 20060101AFI20180702BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20180702BHJP
H04R 19/04 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
B81B3/00
H04R1/02 106
H04R19/04
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-146856(P2014-146856)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-22544(P2016-22544A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0141656(US,A1)
【文献】
特表2015−532038(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/104389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
H04R 19/04
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えた基板と、該基板上に、スペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置することでエアーギャップが形成されたMEMS素子において、
前記可動電極は、絶縁部材と前記スペーサーとの間に挟持され、
該絶縁部材は、一端を前記基板と前記スペーサーとで挟持され、他端を前記基板の端部から前記バックチャンバー内に突出し、前記可動電極を前記絶縁部材の前記他端と前記スペーサーとで挟持していることと、円形あるいは多角形のリング形状の絶縁部材、あるいは前記リング形状の内部に円柱または角柱状の前記基板の一部が残る絶縁部材からなることを特徴とするMEMS素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS素子に関し、特にマイクロフォン、各種センサ、スイッチ等として用いられる容量型のMEMS素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体プロセスを用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子は、半導体基板上に固定電極、犠牲層(絶縁膜)および可動電極を形成した後、犠牲層の一部を除去することで、スペーサーを介して固定された固定電極と可動電極との間にエアーギャップ(中空)構造が形成されている。
【0003】
例えば、MEMS素子であるコンデンサマイクロフォンでは、音圧を通過させる複数の貫通孔を備えた固定電極と、音圧を受けて振動する可動電極とを対向して配置し、音圧を受けて振動する可動電極の変位を電極間の容量変化として検出する構成となっている。
【0004】
一般的に、コンデンサマイクロフォンの感度を上げるためには、音圧により可動電極の変位を大きくする必要がある。そのため、可動電極のバネを柔らかくする方法や、バックチャンバーの容積を大きくする方法が採られている。
【0005】
図11は、バックチャンバーの容積を大きくした従来のMEMS素子の説明図である。
図11に示すようにシリコン基板1上に熱酸化膜2を介して可動電極3が形成されている。可動電極3上には、スペーサー4を介して固定電極5と窒化膜6が形成され、固定電極5には貫通孔7が形成されている。
【0006】
図11に示すMEMS素子では、シリコン基板1を階段状に除去することによりバックチャンバーの容積を大きくしている(特許文献1)。また段数を多くすることで、さらにバックチャンバーの容積を大きくすることも可能となる。
【0007】
ところで、このような階段状のバックチャンバーを形成する際には、エッチングマスクの形成とエッチング工程を複数回繰り返す必要がある。具体的な製造工程を
図12に示す。まず、シリコン基板1の表面側に、熱酸化膜2、可動電極3、固定電極5等を形成した後、シリコン基板1の裏面側にシリコン基板1をエッチングする際使用する第1のマスク膜9aと第2のマスク膜9bを積層形成する。この第1のマスク膜9aと第2のマスク膜9bは、選択除去ができる膜の組合せとなっている。具体的には、第1のマスク膜9aを金属膜とし、第2のマスク膜9bをフォトレジストとする。次に、第2のマスク膜9bをエッチングマスクとして使用して、露出するシリコン基板1表面をRIE法により異方性のエッチングを行う。その結果、
図12(a)に示すように第1の凹部10aが形成される。
【0008】
第2のマスク膜9bを選択的に除去し、第1のマスク膜9aを露出させる。第1のマスク膜9aは、第2のマスク膜9aより後退した位置に開口するようにパターニングされており、エッチングされずに残ったシリコン基板1の裏面側の一部が露出することになる(
図12b)。
【0009】
その後、第1のマスク膜9aをエッチングマスクとして使用し、露出するシリコン基板1表面をRIE法により異方性のエッチングを行い、熱酸化膜2を露出させる。その結果、
図12(c)に示すように第1の凹部10aと第2の凹部10bが形成され、階段状のバックチャンバーとなる。ここで、さらに段数の多いバックチャンバーを形成する場合は、エッチングマスクの形成とエッチングを繰り返すことになる。
【0010】
その後、貫通孔7からスペーサー膜4aの一部を除去することにより
図11に示すMEMS素子を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008―17395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来提案されている方法は、バックチャンバーを形成する際、開口径の異なるエッチングが同時に進行するため、エッチング深さの制御が難しくなるという問題があった。また、2回目のエッチングにおいて、1回目のエッチングの際に第1の凹部10aの側壁に堆積したポリマーが除去されずに残ってしまうという問題があった。本発明はこのような問題を解消するため、簡便にバックチャンバーの容積を大きくすることができるMEMS素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、バックチャンバーを備えた基板と、該基板上に、スペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置することでエアーギャップが形成されたMEMS素子において、前記可動電極は、絶縁部材と前記スペーサーとの間に挟持され、該絶縁部材は、一端を前記基板と前記スペーサーとで挟持され、他端を前記基板の端部から前記バックチャンバー内に突出し、前記可動電極を前記絶縁部材の前記他端と前記スペーサーとで挟持していること
と、円形あるいは多角形のリング形状の絶縁部材、あるいは前記リング形状の内部に円柱または角柱状の前記基板の一部が残る絶縁部材からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMEMS素子は、可動電極を絶縁部材によって挟持する構成とすることで、基板を従来より広く除去することが可能となり、一般的なバックチャンバーよりその容積が大きくなり、MEMS素子の感度向上を図ることができる。
【0016】
また本発明のMEMS素子は、複数の分割された基板の一部が残る構造として可動電極を挟持する構成とすることも可能で、挟持部における絶縁部材と可動電極との間の応力緩和を図ることが可能となる。
【0017】
さらに本発明のMEMS素子は、絶縁部材を形成する工程が通常のMEMS素子の製造工程に溝部を形成する工程と、溝部を平坦化する工程のみを追加すればよく、非常に制御性がよく、また基板表面を加工するだけで良いため、非常に簡便で、制御性の良い方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図2】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図3】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図4】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図5】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図6】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図7】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【
図9】本発明の別のMEMS素子を説明する図である。
【
図10】本発明の別のMEMS素子の絶縁部材の構成を説明する図である。
【
図11】従来のこの種のMEMS素子の説明図である。
【
図12】従来のこの種のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るMEMS素子は、可動電極を支持するため、可動電極の端部を基板とスペーサーとで挟持する代わりに、絶縁部材とスペーサーとで挟持し、さらに絶縁部材を基板とスペーサーとで挟持する構造とすることで、従来より基板を後退させ、バックチャンバーの容積を大きくする構成としている。以下、実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の第1の実施例について、可動電極を挟持する絶縁部材を円形あるいは多角形のリング状に形成する場合を例にとり、製造工程に従い説明する。まず、結晶方位(100)面の厚さ420μmのシリコン基板1上に、厚さ1μm程度の熱酸化膜2(SiO
2)を形成し、通常のフォトリソグラフ法により熱酸化膜2の一部をエッチング除去し、露出するシリコン基板1表面をエッチング除去し、リング状の溝部11を形成する(
図1)。この溝部11は、その内部に所望の材料を充填することで、後述する可動電極を挟持する絶縁部材を形成する。そのためその形状をリング状とした場合には、リングの内側の端部に可動電極が積層形成され、リングの外側の端部は、バックチャンバーが形成された後、シリコン基板が残り、シリコン基板中に入り込んだ形状とする必要がある。従って、このような条件を満たせば、円形に限らず、多角形とすることが可能である。
【0021】
次に、溝部11表面に露出するシリコン基板1を熱酸化し、表面を熱酸化膜2で被覆する(
図2)。この熱酸化膜2は、後述するバックチャンバー形成の際、エッチングストッパーとなる。
【0022】
全面にLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.2μmの窒化膜12と、ポリシリコン膜13を積層形成し、平坦化する(
図3)。窒化膜12は、後述するスペーサー4形成の際のエッチングストッパーとするため形成され、ポリシリコン膜13は、比較的深い溝部11内に充填し、平坦化するために選択された。なお、ポリシリコン膜13は、ノンドープシリコンを用いれば絶縁性材料となるが、ドープドポリシリコンであっても後述するように表面を絶縁化し、可動電極と分離する構造とすることができれば、何ら問題はない。
【0023】
その後、エッチバックすることにより少なくともシリコン基板1表面のポリシリコン膜13をエッチング除去し、溝部11内にポリシリコン膜13を充填する。ここで、溝部以外の表面に窒化膜12が残る場合には、溝部で囲まれた領域であって可動電極形成予定領域の窒化膜12は除去し、熱酸化膜2を露出させておく。その後、絶縁のためポリシリコン膜13表面を熱酸化し、溝部11内に充填されたポリシリコン膜13の表面を熱酸化膜14で被覆する(
図4)。ここで熱酸化膜14を形成するのは、溝部11に充填される材料の表面を絶縁性にするためである。従って、ポリシリコン膜13が絶縁性ポリシリコンの場合や、別の絶縁性材料を使用する場合は、熱酸化膜14を形成する必要はない。
【0024】
全面に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.2〜1.0μmの導電性ポリシリコン膜を積層形成する。次に通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、可動電極3を形成する(
図5)。
【0025】
さらに全面に、厚さ2.0〜4.0μm程度のUSG(Undoped Silicate Glass)膜からなる犠牲層4aを積層形成し、さらに犠牲層4a上に、厚さ0.1〜1.0μm程度の導電性ポリシリコン膜を積層形成する。次に通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、固定電極5を形成し、固定電極5上に窒化膜6を積層形成する。その後、窒化膜6および固定電極5の一部をエッチング除去して貫通孔7を形成し、犠牲層4aの一部を露出させる(
図6)。
【0026】
その後、シリコン基板1の裏面側から熱酸化膜2が露出するまでシリコン基板1を除去し、バックチャンバー8を形成する(
図7)。熱酸化膜2はエッチングストッパーとなる。ここで、除去されるシリコン基板1は、可動電極5の大きさを越えて除去することが可能となる。つまり従来はシリコン基板1は可動電極5を支持する必要があったために、可動電極5の端部に位置するシリコン基板1は残さなければならなかった。これに対し本発明では、溝部11内に充填されたポリシリコン膜13等によって可動電極5の端部が支持されているので、溝部11の底部を露出するように大きく除去することが可能となった。
【0027】
その後、貫通孔7を通して犠牲層4aの一部を除去してスペーサー4を形成することで、可動電極3と固定電極5が対向する構造となる。この犠牲層4aの除去と同時にバックチャンバー8内の露出する熱酸化膜2の一部も除去され、MEMS素子が完成する(
図8)。
【0028】
図8に示すように本発明のMEMS素子は、可動電極5は、溝部11内に充填されている熱酸化膜14、ポリシリコン膜13および窒化膜12(これらを絶縁部材という)とスペーサー4によって挟持され、支持されている。また絶縁部材は、バックチャンバーの側壁を形成するシリコン基板1とスペーサー4によって挟持され、支持されているので、機械的強度は十分に保つことができる。
【0029】
以上説明したように本発明によれば、バックチャンバー内に突出した絶縁部材により可動電極を挟持、支持する構造とすることで、従来より大きくシリコン基板を除去することができ、バックチャンバーの容積を大きくすることができ、MEMS素子の感度向上を図ることが可能となる。
【実施例2】
【0030】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では、絶縁部材を形成する際に円形あるいは多角形のリング状の溝部を形成し、ポリシリコン膜等を充填して形成する構造について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば
図9に示すように、溝部11を多重構造とし、その間にシリコン基板1の一部を残す形状とすることも可能である。ここで、シリコン基板1は、隣接する溝部11の寸法が小さくなると、第1の実施例と同一の製造工程とした場合でも、バックチャンバー8を形成する際のエッチングの際に溝部11間のシリコン基板1のエッチングレートが遅くなり、エッチングされずに残るものである。従って、後述するハニカム構造の溝部のように、十分な強度を保つことができれば、シリコン基板1が残らない形状であっても何ら問題ない。
【0031】
溝部を多重構造とする例は、例えば
図10(a)に示すように、円形のリング状の溝部11を重ねて配置する方法や、
図10(b)に示すようにハニカム状に溝部11を形成する(六角形の基板が複数残る)方法により形成することができる。さらに
図10(b)のように六角形の集合体の代わりに、複数の円形の基板が残る構造や、複数のその他の多角形の基板が残る構造としたり、規則的に集合する代わりに不規則な集合とすることも可能である。
【0032】
いずれの形状とする場合であっても、可動電極を挟持することができ、可動電極の変位を妨げない形状とする必要があることは言うまでもない。なお、
図10に示す溝部の形状は模式的に示したもので、
図9に示すMEMS素子の断面形状と寸法は一致していない。
【符号の説明】
【0033】
1:シリコン基板、2:熱酸化膜、3:可動電極、4a:犠牲層、4:スペーサー、5:固定電極、6:窒化膜、7:貫通孔、8:バックチャンバー、9:第1のマスク膜、10:第2のマスク膜、11:溝部、12:窒化膜、13:ポリシリコン膜、14:熱酸化膜