(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1、第2および第3の作成部による処理は、前記第1、第2および第3の特定部による処理と並行して実行されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の逐次姿勢識別装置。
前記抽出部は、前記同じ姿勢および運動の連続的変化に対応する期間として、前記被験者が静止状態から運動状態に遷移した後再び静止状態に戻る期間であって、当該期間中被験者の姿勢が変化していない期間に対応する複数の心拍データを抽出し、
前記算出部は、前記運動状態の開始時点を同期させて前記複数の心拍データを同期加算し、心拍の上昇相の最大傾き、上昇後の平均心拍数および前記運動状態開始前と前記運動状態中の平均心拍数または平均心拍間隔の差のうち少なくとも一つを前記パラメータとして算出し、
前記自律神経機能評価部は、前記算出部が算出したパラメータから心拍数の増加がある場合には少なくとも交感神経系活性化を評価し、心拍数の減少がある場合には少なくとも副交感神経活性化を評価することを特徴とする請求項15に記載の自律神経機能情報取得装置。
前記抽出部は、前記同じ姿勢および運動の連続的変化に対応する期間として、前記被験者が静止状態から運動状態に遷移した後再び静止状態に戻る期間であって、当該期間中被験者の姿勢が変化していない期間に対応する複数の心拍データを抽出し、
前記算出部は、前記運動状態の終了時点を同期させて前記複数の心拍データを同期加算し、心拍の下降相の最大傾き、下降後の平均心拍数および前記運動状態中と前記運動状態終了後の平均心拍数または平均心拍間隔の差のうち少なくとも一つを前記パラメータとして算出し、
前記自律神経機能評価部は、前記算出部が算出したパラメータから心拍数の増加がある場合には少なくとも交感神経系活性化を評価し、心拍数の減少がある場合には少なくとも副交感神経活性化を評価することを特徴とする請求項15に記載の自律神経機能情報取得装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、開示する逐次姿勢識別装置、方法およびプログラムならびに自律神経機能情報取得装置、方法およびプログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各実施形態は適宜組み合わせることができる。
【0013】
まず、各実施形態の説明の前に、姿勢識別の意義と課題および姿勢識別と対応付けた自律神経機能評価の意義と課題について説明する。
【0014】
(姿勢識別の意義と課題)
超高齢化社会を迎えて、個人が健康を維持し疾病を予防して自立した生活を送ることができるようにするための調査研究が進められている。その中で、個人の生活習慣と疾病の因果関係に関する綿密かつ長期的な調査、特に、身体活動、姿勢および運動に関する情報の調査が重要と考えられている。
【0015】
これまで生活習慣の調査は、被験者自身が調査票等の質問に回答を記入する形式や、活動量計を用いた測定などによって実施されている。しかし、自己申告式では回答内容やその精度が一定しない。また、同じ種類の生活動作や運動であっても、そのときの個人の姿勢や行動パターンによって実際に身体にかかる負荷や循環動態には個人差がある。
【0016】
このため、日常生活における被験者の姿勢および運動を正確に把握することができる技術が求められる。
【0017】
さらに、身体にかかる負荷は、個人の年齢や性別、心肺機能、疾病の有無等によっても左右される。このため、姿勢および運動に関する情報と併せて、心拍数等の生体信号を計測することで、身体にかかる負荷をより正確に評価することができると考えられる。
【0018】
(自律神経機能の評価の意義と課題)
次に、高齢化社会において特に対策が急務となっている心臓循環器系疾患に関しては、これまでに心臓循環器系の自律神経機能と心臓病患者の死亡率との相関性が指摘されている。また、自律神経系の変調や調節機能の低下等の機能障害が心臓循環器系疾患の発症に関係すると考えられている。したがって、心臓循環器系の疾病の予防・抑制において自律神経機能のモニタリングや評価が重要と考えられる。
【0019】
現在病院等で実施されている自律神経検査、たとえばヘッドアップチルト試験では、被験者を仰臥位で検査台上に固定した上で、検査台の傾斜角度を他動的に変えて血圧・心拍数等を計測することで自律神経機能を検査する。被験者を固定して検査を行うのは、自律神経機能に身体の姿勢が影響を与えるためである。しかし、被験者が日常生活を送る中で、姿勢変化検知を行いつつ自律神経機能を検査できるような技術はこれまでに提案されていない。
【0020】
また、心拍変動を計測して自律神経機能の評価を行う手法として、心拍数の加速する部分(増加相)と心拍数の減速する部分(減速相)とを別個に抽出し、各相を選択的に定量化する手法が存在する。特に、減速相のみを定量化した指標は、副交感神経活動を示す指標として心筋梗塞後患者の死亡リスクの予測因子と考えられている。
【0021】
しかし、これまでの減速相抽出手法では、減速相すべてを一様に定量化している。すなわち、姿勢変化を伴わない場合に生じる呼吸性不整脈も、姿勢変化によって生じる自律神経反射も、同様に減速相として定量化される。つまり、定量化されたデータ中に原因や質が異なるデータが混在しており、精密な自律神経機能評価に至っていない。
【0022】
(第1の実施形態)
以上を踏まえ、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置、方法およびプログラムならびに自律神経機能情報取得装置、方法およびプログラムについて説明する。
【0023】
第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理においては、被験者から加速度情報および生体信号情報を計測し、両者を用いて逐次機械学習を行うことにより、被験者の姿勢を識別するための識別モデルを作成する。さらに、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理においては、作成した識別モデルを用いて被験者の姿勢や運動状態を「運動、静止」の2パターンに分類するとともに、どのような「運動」か、どのような「静止」か、を識別する。また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理においては、逐次機械学習を用いることで学習処理と並行して被験者の姿勢および運動を識別する識別処理が実行される。さらに、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理においては、識別された姿勢および運動と、被験者から計測した生体信号情報と、を対応づけることによって、被験者の健康状態を示す情報を生成する。
【0024】
このように、第1の実施形態においては、加速度情報に生体信号情報を加味して被験者の姿勢および運動を識別することで、姿勢および運動の正確な識別を実現することができる。また、第1の実施形態においては、被験者の姿勢および運動を、「運動、静止」の2パターンに加えて、複数の「運動」パターン、複数の「静止」パターンに分類し、複数の識別モデルに基づく姿勢および運動特定を並列的に実行して特定結果を統合する。このため、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理によれば、細かい分類に基づく姿勢および運動の識別を短時間で実行することができる。さらに、逐次機械学習を利用することにより、学習のためのデータを予め準備して一度に学習を行わせる処理とは異なり、学習を逐次的に実行して学習結果を更新していくことができる。このため、被験者の健康状態や姿勢等に基本的な変化が生じてデータのベースラインが変化した場合であっても、継続的に学習を行いつつ姿勢識別処理を実行することができる。さらに、生体信号情報と姿勢識別の結果とを対応づけることによって、たとえば、心拍数の変動と姿勢変動とを対応づけた情報を生成することができ、より正確な被験者の健康状態評価を実現できる。
【0025】
(第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別システムの構成の一例)
図1は、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別システム1の構成の一例を示す概略図である。
図1に示す逐次姿勢識別システム1は、ウェアラブル機器10と、逐次姿勢識別装置20と、を備える。ウェアラブル機器10と逐次姿勢識別装置20とはネットワークを介して通信可能に接続される。
【0026】
ウェアラブル機器10と逐次姿勢識別装置20とを接続するネットワークの種類は特に限定されず、有線ネットワークでも無線ネットワークでもよい。ただし、ウェアラブル機器10を装着する被験者の行動を妨げないためには、無線ネットワークはたとえば、Bluetooth(登録商標)で接続したスマートフォン等を利用したり、Wi−Fi等を利用することが好ましい。
【0027】
(ウェアラブル機器10の構成の一例)
ウェアラブル機器10は、被験者が装着して携帯することができる電子機器である。ウェアラブル機器10は、被験者の体幹の動きを計測することができるよう、少なくとも一部が被験者の体幹近傍に配置される形状であることが好ましい。具体的には、ウェアラブル機器10は、被験者がウェアラブル機器10を装着したときにウェアラブル機器10が備えるセンサ等の計測部によって被験者の体幹の動きを検知することができるような形状であればよい。
【0028】
図1の例では、ウェアラブル機器10は被験者が着脱できるシャツ形状である。ただしウェアラブル機器10の形状はシャツに限定されず、たとえばベルト形状等、被験者の体幹に装着することができれば任意の形状でよい。また、ウェアラブル機器10として、プロセッサやメモリを備えるウェアラブルコンピュータを用い、計測した情報を適宜ウェアラブル機器10内に記憶するように構成してもよい。
【0029】
ウェアラブル機器10は、加速度情報計測部101と、生体信号情報計測部102と、送受信部103と、入力部104と、を備える。
【0030】
加速度情報計測部101は、被験者の体の動きを検知、計測するセンシングデバイスである。加速度情報計測部101は、被験者の体の加速度情報を計測する。たとえば、加速度情報計測部101は、被験者の体幹近傍に配置される加速度センサたとえば3軸加速度センサで構成される。加速度情報計測部101は、前後軸、左右軸、上下軸の3軸にそった被験者の体の動きの加速度を計測する。以下、前後・左右・上下というときは、ウェアラブル機器10を被験者が装着して起立している場合に被験者の体が向く方向を基準とする。
【0031】
加速度情報計測部101は、ウェアラブル機器10を被験者が装着したときに、被験者の体幹近傍に配置されるよう、ウェアラブル機器10に配置される。特に、加速度情報計測部101は、ウェアラブル機器10を被験者が装着したときに被験者の胸部に位置されるように配置することが好ましい。このように加速度情報計測部101を配置することで、被験者の体幹の動きを正確に反映した加速度情報を取得することができる。
【0032】
生体信号情報計測部102は、被験者の体から取得することができる生体信号情報を計測する。生体信号情報計測部102は、たとえば心電位を計測するセンシングデバイスである。生体信号情報計測部102は、たとえば、被験者の心電位と心拍に関する情報とを計測する。具体的には、生体信号情報計測部102は、一定間隔で単誘導による心電位を計測する。また、生体信号情報計測部102は、たとえば心拍間隔すなわちRR間隔(RR interval)を計測する。このほか、光電脈波等の脈波、生体電気抵抗等の体内インピーダンス、生体微振動や生体圧力変動、血圧計等のカフ圧等の動脈圧等を生体信号として計測してもよい。また、このほか、生体電位、筋電、脳波、誘発電位等も利用できる。
【0033】
送受信部103は、加速度情報計測部101および生体信号情報計測部102が計測した加速度情報および生体信号情報をウェアラブル機器10の外部に送信する。また、送受信部103は、ウェアラブル機器10の外部から送信される信号を受信する。送受信部103は、加速度情報計測部101および生体信号情報計測部102が情報を取得するとその都度外部に当該情報を送信する。たとえば、送受信部103は、無線通信機能により情報を送信する。具体的には、送受信部103は、加速度情報および生体信号情報を逐次姿勢識別装置20に送信する。
【0034】
入力部104は、被験者等がウェアラブル機器10に入力する情報を受け付ける。たとえば、入力部104は、被験者等が入力するラベル(後述)を受け付ける。受け付けられたラベルは送受信部103に送られ、逐次姿勢識別装置20に送信される。逐次姿勢識別装置20は、予め定められた処理手順に基づき、ラベルとその後受信する加速度情報および生体信号情報とを対応づける。なお、ラベルの詳細については後述する。また、ラベルは、入力部104からではなく逐次姿勢識別装置20が備える入力部211(後述)から入力するものとしてもよい。また、ウェアラブル機器10は入力部104を備えない構成としてもよい。また、入力部104は、被験者等が後述する学習モードまたは識別モードを選択するためにも用いることができる。
【0035】
(逐次姿勢識別装置20の構成の一例)
逐次姿勢識別装置20は、送受信部201、特徴量抽出部202、第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205、第1の特定部206、第2の特定部207、第3の特定部208、識別部209、生成部210および入力部211を備える。
【0036】
送受信部201は、ウェアラブル機器10の送受信部103から送信される加速度情報および生体信号情報を受信する。送受信部201は、送受信部103が逐次送信する加速度情報および生体信号情報を受信して特徴量抽出部202に送る。
【0037】
特徴量抽出部202は、加速度情報および生体信号情報から、姿勢識別に用いる特徴量を抽出する。抽出された特徴量は、第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205に送られ、被験者の姿勢および運動のベースライン情報を取得する学習処理に用いられる。抽出された特徴量はまた、第1の特定部206、第2の特定部207、第3の特定部208に送られ、被験者の姿勢および運動を識別する識別処理に用いられる。特徴量抽出部202が実行する特徴量抽出処理の詳細については後述する。なお、特徴量抽出部202は独立した構成部とせず、第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205、第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208各々に特徴量抽出部202の処理を組み入れてもよい。
【0038】
第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205は、特徴量を用いて逐次機械学習を行う学習処理を実行する。第1の作成部203は、被験者の運動状態と静止状態とを識別するための運動・静止識別モデルを作成する。第2の作成部204は、被験者が運動状態にある場合に当該運動の種類を識別するための運動識別モデルを作成する。第3の作成部205は、被験者が静止状態にある場合に当該静止の種類を識別するための静止識別モデルを作成する。学習処理によって作成される運動・静止識別モデル、運動識別モデルおよび静止識別モデルは、被験者の姿勢および運動のベースライン情報となる。学習処理は、かかる識別モデルを作成する処理、すなわちベースライン情報を取得する処理である。学習処理の詳細については後述する。
【0039】
第1の特定部206、第2の特定部207、第3の特定部208は各々、第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205が作成した識別モデルと特徴量抽出部202が抽出した特徴量とを用いて被験者の姿勢および運動を特定する。
【0040】
第1の特定部206は、第1の作成部203が作成した運動・静止識別モデルを用いて、被験者が運動状態にあるか静止状態にあるかを特定する。第2の特定部207は、第2の作成部204が作成した運動識別モデルを用いて、被験者が運動状態にある場合どのような運動をしているのか運動の種類を特定する。第3の特定部208は、第3の作成部205が作成した静止識別モデルを用いて、被験者が静止状態にある場合どのような静止であるのか静止の種類を特定する。第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208による姿勢特定処理の詳細については後述する。
【0041】
識別部209は、第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208による姿勢特定処理の結果を統合して被験者の姿勢および運動を識別する。識別部209の識別処理の結果、被験者の姿勢および運動の識別結果が得られる。たとえば、被験者が「運動」しており「歩行」中である等の識別結果が得られる。識別処理の詳細についても後述する。
【0042】
生成部210は、識別部209の識別結果と、ウェアラブル機器10から受信される生体信号情報と、を時系列的に対応付けた情報を生成する。生成部210は所定の期間中に取得される加速度情報および生体信号情報に基づいて識別される被験者の姿勢および運動と、同じ期間中に取得された生体信号情報と、を対応付けた対応情報を生成する。たとえば、生成部210は、時刻T1からT5の間の被験者の姿勢および運動と、時刻T1からT5の間の当該被験者の心拍数とを対応付けて対応情報を生成する。生成部210が生成する情報の詳細についても後述する。
【0043】
入力部211は、逐次姿勢識別装置20の外部からの情報入力を受け付ける。入力部211はたとえば、キーボードやタッチパッド等の入力デバイスであってよい。入力部211は、ウェアラブル機器10の入力部104と同様、被験者等が後述するラベルを入力するために用いることができる。また、入力部211は、被験者等が学習モードまたは識別モードを選択するために用いることができる。
【0044】
(逐次姿勢識別処理の概括的な流れの一例)
図2は、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理の流れの一例を示すフローチャートである。処理が開始すると、逐次姿勢識別装置20はモードの選択を受け付ける(ステップS201)。具体的には、学習モードまたは識別モードの選択を受け付ける。ここで、学習モードとは、逐次姿勢識別装置20が学習処理を実行する動作態様である。また、識別モードとは、逐次姿勢識別装置20が識別処理(姿勢特定処理を含む)を実行する動作態様である。なお、
図2では説明の便宜上、学習モードまたは識別モードのいずれかを選択する構成としたが、学習処理と識別処理を並行して行うモードをさらに設けて実行できるようにしてもよい。
【0045】
次に逐次姿勢識別装置20は、学習モードが選択されたか否かを判定する(ステップS202)。学習モードが選択されている場合(ステップS202、YES)、逐次姿勢識別装置20は、被験者等が入力するラベルを受信する。ラベルとは、被験者の「姿勢」および「運動」を特定する情報である。たとえば、ラベルは、「姿勢」として「立位」「座位」「臥位」、「運動」として「運動状態」または「静止状態」の情報を含む。また、「運動」として、「歩行」「跳躍」「足踏み」「ウォーキング」等のラベルも作成できる。ここで、「歩行」は単に日常的な歩行を、「ウォーキング」は積極的に運動として歩いている場合を指す。逐次姿勢識別装置20は、身体の運動状態としては類似する運動について運動強度も判定することによって、日常的な「歩行」と運動としての「ウォーキング」を識別することができる。このように、逐次姿勢識別装置20は、類似する運動であっても強度が異なる運動各々に異なるラベルを付して識別することが可能である。学習処理時には、学習させる情報がどのような「姿勢、運動」の情報であるかを逐次姿勢識別装置20に記憶させるため、特徴量と「姿勢、運動」の二つの情報を含むラベルとを対応づけて処理する。
【0046】
そして、逐次姿勢識別装置20は、ウェアラブル装置10から受信する加速度情報および生体信号情報から特徴量を抽出する。受信したラベルと抽出した特徴量とは、第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205に入力される(ステップS203)。各作成部203,204,205は、ラベルが「運動状態」を示すか否かを判定する(ステップS204)。ラベルが「運動状態」を示すと判定した場合(ステップS204、YES)、第1の作成部203は特徴量に基づく機械学習を行い、運動・静止識別モデルを作成または更新する(ステップS205)。また、第2の作成部204は、特徴量に基づく機械学習を行い、運動識別モデルを作成または更新する(ステップS205)。ラベルが「運動状態」を示すと判定した場合(ステップS204、YES)、第3の作成部205は機械学習を実行しない。
【0047】
ラベルが「静止状態」を示すと判定した場合(ステップS204、NO)、第1の作成部203は特徴量に基づく機械学習を行い、運動・静止識別モデルを作成または更新する(ステップS206)。また、第2の作成部204は、機械学習を実行しない。第3の作成部205は、特徴量に基づく機械学習を行い、静止識別モデルを作成または更新する(ステップS206)。学習モードでの処理はこれで終了する。
【0048】
他方、ステップS202で学習モードが選択されていない、すなわち、識別モードが選択されていると判定されたとする(ステップS202、NO)。この場合、逐次姿勢識別装置20は、ウェアラブル機器10から受信する加速度情報および生体信号情報から特徴量を抽出する(ステップS207)。そして、逐次姿勢識別装置20は特徴量を第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208に送る。第1の特定部206は、特徴量と既に作成されている運動・静止識別モデルに基づき、被験者が運動状態か静止状態かを特定する(ステップS208)。第2の特定部207は、特徴量と既に作成されている運動識別モデルに基づき、どのような運動状態であるかを特定する(ステップS209)。第3の特定部208は、特徴量と既に作成されている静止識別モデルに基づき、どのような静止状態であるかを特定する(ステップS210)。
【0049】
第1の特定部206、第2の特定部207、第3の特定部208の特定結果は識別部209に送られ、識別部209は特定結果に基づき、被験者の姿勢、運動を識別する(ステップS211)。たとえば、識別部209は、その時点の被験者の姿勢および運動は「立位、運動状態」であると識別する。そして、逐次姿勢識別装置20は、識別結果と、識別結果に対応する生体信号情報とを時系列に対応付けた情報を生成する(ステップS212)。これで、識別処理が終了する。
【0050】
次に、逐次姿勢識別処理に含まれる特徴量抽出処理、学習処理および識別処理(姿勢特定処理含む)の各々についてさらに説明する。
【0051】
(特徴量抽出処理の一例)
第1の実施形態の逐次姿勢識別装置20では、特徴量抽出部202は、所定の期間において計測された加速度情報および生体信号情報をウェアラブル機器10から受信し、当該所定の期間を重なり合う複数の異なる長さの期間に分割する。そして特徴量抽出部202は、各期間について特徴量を算出する。学習処理および姿勢特定処理においてはこれら複数の特徴量が使用される。なお、第1の作成部203で用いる特徴量およびその抽出サイクル(下記T1〜T4)は、第1の特定部206で用いる特徴量およびその抽出サイクルと同じである。また、第2の作成部204で用いる特徴量およびその抽出サイクルは、第2の作成部204で用いる特徴量およびその抽出サイクルと同じである。また、第3の作成部205で用いる特徴量およびその抽出サイクルは、第3の特定部208で用いる特徴量およびその抽出サイクルと同じである。ただし、第1の作成部203が用いる特徴量およびその抽出サイクルと、第2の作成部204が用いる特徴量およびその抽出サイクルと、第3の作成部205が用いる特徴量およびその抽出サイクルは相互に異なってもよい。
【0052】
(第1の特徴量)
第1の特徴量として、特徴量抽出部202は、T1秒間における各軸の加速度情報の時系列集合における基本統計量を算出する。たとえば、最大値、最小値、平均値および分散値のうち少なくとも一つを算出する。たとえば、T1=0.4秒として、0.4秒間に各軸について10個の加速度情報が計測されるとする。この場合、特徴量抽出部202は、各軸についての10個の情報の基本統計量を各軸の特徴量として抽出する。
【0053】
(第2の特徴量)
第2の特徴量として、特徴量抽出部202は、T2秒間(ただし、T1<T2)における各軸の加速度情報の時系列集合における基本統計量を算出する。たとえば、最大値、最小値、平均値および分散値のうち少なくとも一つを算出する。たとえば、T2=2秒とする。
【0054】
(第3の特徴量)
第3の特徴量として、特徴量抽出部202は、T3秒間(ただし、T2<T3)における各軸の揺れ数、全体の揺れ数の平均値および分散値、または生体信号情報から抽出される心拍間隔の平均値および分散値のうち少なくとも一つを算出する。揺れ数とは、被験者の体の振動数に対応する特徴量である。揺れ数の検出手法については以下に詳述する。
【0055】
(第4の特徴量)
第4の特徴量として、特徴量抽出部202は、T4秒間(ただし、T3<T4)における各軸の揺れ数、全体の揺れ数の基本統計量、または生体信号情報から抽出される心拍間隔の基本統計量のうち少なくとも一つを算出する。基本統計量としては、たとえば、最大値、最小値、平均値および分散値が挙げられる。
【0056】
なお、心拍間隔から算出される特徴量は、心拍間隔の平均値や分散値に限定されない。たとえば、心拍数の基本統計量を特徴量として算出してもよい。また、第1、第2、第3および第4の特徴量としては、上述した特徴量のうちすべてを使用せずともよく、識別する姿勢および運動に依存して、一部の特徴量のみを使用する。
【0057】
(揺れ数の検出手法)
次に、揺れ数の検出手法につき説明する。ここで、「揺れ数」とは、体の上下方向ならば歩数やジャンプ回数など体の振動数と同様の意味を持つ回数である。揺れ数を姿勢識別のための特徴量として用いることで、被験者の身体の傾きの程度や振動すなわち揺れを考慮した識別モデルを作成して詳細な姿勢および運動の識別を実現することができる。
【0058】
揺れ数を特徴量として用いる場合、加速度情報計測部101は、ウェアラブル機器10を装着する被験者の身体の揺れを計測するため、少なくとも3軸加速度センサ等の加速度センサを備える。たとえば3軸加速度センサを用いる場合、X,Y,Z軸の3軸(
図3参照)において加速度センサが受ける加速度を測定することができる。
【0059】
図3は、逐次姿勢識別処理において用いる特徴量のうち揺れ数の検出手法について説明するための図である。被験者が姿勢を変えたり運動したりして加速度センサが傾くと、加速度センサが検知する重力加速度が変化する。これによって加速度センサの傾きすなわち被験者の身体の傾きを検知することができる。また、加速度センサが検知するX,Y,Z軸各々における加速度の合成加速度が変化することで、加速度センサすなわち被験者の身体の揺れの程度を検知することができる。たとえば、
図3は、被験者が歩行中に加速度センサによって検知される3軸加速度および合成加速度の計測値の一例を示すグラフである。
【0060】
上記のように加速度センサによって得られる計測値を用いて揺れ数を検出する。揺れ数検出の手法の一例を以下に説明する。
【0061】
まず、以下の式(1)に基づき合成加速度Arを算出する。
【数1】
【0062】
式(1)で定義する合成加速度Arによれば、各軸方向に対しての揺れが等しく検知でき、センサの回転等の動きがあった場合には合成加速度がほぼ変わらない。
図4は、センサを回転させた場合の加速度と合成加速度の一例を示すグラフである。
図4の例では、Z軸方向の回転運動が生じているが、合成加速度はほぼZ軸の計測値に追従する。
【0063】
次に、合成加速度A
rが所定の下限閾値θ
btmを下回るとき、その時の合成加速度A
btmを記録する。そして、下限閾値θ
btmを下回る合成加速度A
btmが記録されてから所定の上限時間t
w内に、合成加速度A
rが所定の上限閾値θ
topを上回るとき、その時の合成加速度A
topを記録する。この処理によって短時間内に合成加速度の値が大きく変化している期間を検出する。
【0064】
次に記録したA
btmとA
topとの差が所定の揺れ検知閾値θ
ampより大きいか否かを判定する。差が揺れ検知閾値θ
ampより大きい場合、揺れ数1とカウントする。そして、A
btmとA
topをリセットする。また、所定の上限期間t
w内に揺れ数がカウントされなかった場合もA
btmおよびA
topをリセットする。
【0065】
以上の処理によって、長時間一定方向に強い加速度がかかっている場合は揺れ数としてカウントされず、加速度の方向が急に変化する身体の揺れを正確に検出できる。
【0066】
なお、揺れ数の検出手法としては、(1)回転や長期的な変化は揺れとして検出されず、(2)一定の量加速度が変化しなければ揺れとして検出されず、(3)どの軸方向でも同様のアルゴリズムで検知でき、(4)取得される加速度や角速度情報等から検知可能であれば、特に限定なく任意の手法を用いることができる。このように、揺れ数は、合成加速度特定の動作によらず前後方向や左右方向にいずれの方向であっても区別なく算出する。第1の実施形態にかかる特徴量抽出部202は、T3を数分割した小フレームに区切って各小フレーム内の揺れ数に基づいて分散値や平均値を算出する。
【0067】
また、「各軸の揺れ数」とは、揺れ数を検知したときに最もその揺れに影響を及ぼした軸のみをカウントして得られる数である。たとえば、上記の手法によって揺れ数がカウントされた時の合成加速度を構成している成分のうち最も大きい加速度が計測された軸を検出する。そして、この軸における揺れ数を1とカウントする。たとえば、揺れ数1がカウントされた時の各軸の加速度のうち最も大きい加速度がZ軸から検出されている場合、Z軸の揺れ数1とカウントする。Z軸の揺れは、たとえば被験者が歩行しているときの揺れや、被験者がジャンプした場合などに検出される。このため、Z軸の揺れ数に基づいて「歩行」等の運動を検出することができる。
【0068】
なお、第1の実施形態に係る逐次姿勢識別装置20は、機械学習モデルを採用しているため、各特徴量に対する重みづけは自動的に行う。
【0069】
(学習処理の流れの一例)
図5は、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置20による逐次姿勢識別処理のうち学習処理の流れの一例を示す概略図である。
図5を用いて、具体的な学習処理の例を説明する。
【0070】
逐次姿勢識別装置20において最初に機械学習を実行する際および追加で機械学習を実行する際は、ユーザが学習モードを選択する等して学習処理の実行開始を逐次姿勢識別装置20に指示する(ステップS300)。そして、ユーザは姿勢の登録を行う。すなわち、ユーザはラベルを入力する。つまり、ユーザは、機械学習させる動作を識別する情報(「姿勢Aの名前」)と、当該動作の「姿勢」と、当該動作が「運動状態」と「静止状態」のいずれに該当するかの情報と、を逐次姿勢識別装置20に入力する(「姿勢Aの登録準備」、ステップS301)。たとえば
図5の例では、「姿勢Aの名前」として「座る」を入力する。座っている状態は「静止状態」であるので「止まっている」という運動状態を示す情報を併せて入力する。
図5の例では、これによって「座る」という姿勢を識別する。さらに細かな状態を識別する場合は、ラベルが示す姿勢および運動状態の分類を調整して対応する。たとえば、「座る」という名前に対応して、「姿勢:座位」「運動状態:静止」という情報を入力してもよい。また、「跳躍」という名前に対応して、「姿勢:立位」「運動状態:上下躍動」等としてもよい。入力はウェアラブル機器10の入力部104から行うようにしても入力部211から行うようにしてもよい。ラベルは、機械学習を行わせる動作の各々について入力し逐次姿勢識別装置20に取得させ記憶させる(ステップS302)。
【0071】
ラベルの入力後、ユーザは入力したラベルに対応する動作の機械学習開始を逐次姿勢識別装置20に指示する(「姿勢A 開始」、ステップS303)。そして、ユーザは、入力したラベルに対応する動作を開始する。ユーザの指示入力によって、逐次姿勢識別装置20において学習モードが起動する(ステップS304)。そして、逐次姿勢識別装置20の特徴量抽出部202は特徴量抽出処理を実行する(ステップS305)。特徴量抽出処理は上述したように各特徴量について予め定められた期間(T1〜T4)ごとに繰り返される。
【0072】
特徴量が抽出されると、第1の作成部203、第2の作成部204、第3の作成部205に特徴量が送られる。そして、第1の作成部203は、入力されたラベル(たとえば「座る:止まっている」)に基づき、ラベルで指定された「運動状態」または「静止状態」のデータとして(たとえばラベルが「座る:止まっている」であれば「静止状態」)、入力される特徴量の機械学習を行う(ステップS306)。
図5の例では、機械学習は特徴量が抽出される時間T1秒ごとに実行される。なお、T1秒より短い抽出サイクルで抽出される特徴量はスライド入力されることになる。機械学習の実行サイクルは、加速度情報計測部101および生体信号情報計測部102の計測サイクルに応じて設定すればよい。
【0073】
第2の作成部204も同様に、入力されたラベル(たとえば「座る:止まっている」)に基づき、処理を実行する。
図5の例においては、入力されたラベルが「座る:止まっている」すなわち「静止状態」であるため、動作状態の識別モデルを作成する構成要素である第2の作成部204は機械学習は行わず待機する(ステップS307)。
【0074】
第3の作成部205も同様に、入力されたラベル(たとえば「座る:止まっている」)に基づき、処理を実行する。
図5の例においては、入力されたラベルが「座る:止まっている」すなわち「静止状態」であるため、第3の作成部205は、「静止状態」の種類の一つとして、入力される特徴量の機械学習を行う(ステップS308)。
【0075】
ユーザ側ではラベルで指定した動作が完了すると、当該動作の機械学習の終了を逐次姿勢識別装置20に指示する(「姿勢A 終了」、ステップS309)。ユーザの指示に応じて、逐次姿勢識別装置20は学習モードを停止する(ステップS310)。そして、ユーザは次に機械学習させる姿勢Bの登録の準備を開始する(ステップS311)。以上が逐次姿勢識別処理における学習処理の一例の流れである。
【0076】
学習処理において使用するラベルは、識別の対象とする動作の姿勢および運動状態を示すものであり、たとえば「歩く」「ジャンプする」「座る」「立つ」「うつ伏せになる」「仰向けになる」等と、それが運動状態であるか静止状態であるかの表示を含む。
【0077】
(識別処理の流れの一例)
図6は、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置20による逐次姿勢識別処理のうち識別処理(姿勢特定処理含む)の流れの一例を示す概略図である。次に、
図6を参照しつつ、姿勢特定処理および識別処理について具体的な一例を説明する。なお、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置20は、
図6に示す姿勢特定処理および識別処理を実行中であっても、並行して
図5の学習処理を実行し、適宜識別モデルを更新していくことができる。
【0078】
識別処理を開始するときは、ユーザがまず逐次姿勢識別装置20に対して識別処理を開始する旨の指示を入力する(ステップS401)。たとえば、ユーザは、識別モードを選択する旨の入力を行う。ユーザの入力に応じて、逐次姿勢識別装置20は、識別モードを起動する(ステップS402)。識別モード起動時には、特徴量抽出部202が抽出する特徴量が第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208に入力される。そして、ユーザは学習モード時とは異なり、ラベルの指定入力はおこなわず直ちに任意の動作を開始する(「姿勢A 開始」、ステップS403)。たとえば、ユーザは「座っている」という動作を開始する。ユーザが装着するウェアラブル機器10はユーザの加速度情報と生体信号情報とを計測して逐次姿勢識別装置20に送信する。そして、逐次姿勢識別装置20は、受信した加速度情報と生体信号情報とに基づき特徴量を抽出する(ステップS404)。特徴量抽出処理は前述のとおり、各特徴量について予め決められた期間ごとに実行される。抽出された特徴量は第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208に入力される。
【0079】
第1の特定部206は、入力された特徴量と第1の作成部203により作成済の運動・静止識別モデルに基づき、現在の特徴量が運動状態と静止状態のいずれに該当するかを特定する。
図6の例では、第1の特定部206は、入力された特徴量に対応する状態は「静止状態」(すなわち「止まっている」)であると特定する(ステップS405)。
【0080】
第2の特定部207は、入力された特徴量と第2の作成部204により作成済の運動識別モデルに基づき、現在の特徴量は運動状態のうち、「歩いている」に該当すると特定する(ステップS406)。
【0081】
第3の特定部208は、入力された特徴量と第3の作成部205により作成済の静止識別モデルに基づき、現在の特徴量は静止状態のうち、「座っている」に該当すると特定する(ステップS407)。
図6の例では、T1秒ごとに姿勢特定処理が繰り返し実行される。
【0082】
第1の特定部206、第2の特定部207および第3の特定部208による姿勢特定処理が完了すると、各特定結果が識別部209に送られる。そして、識別部209は、3つの特定結果を統合して最終的な識別結果を出力する。具体的には、識別部209はまず、第1の特定部206による特定結果を参照する(第1段目、ステップS408)。そして第1の特定部206による特定結果が「止まっている」すなわち「静止状態」であるため、静止識別モデルによる特定を実行する第3の特定部208の特定結果「座っている」を採用(第2段目、ステップS408)し、ユーザは「止まっている:座っている」と識別する。
【0083】
このように識別処理においては、識別部209は、第1段階として特徴量が「運動状態」と「静止状態」のいずれに該当するか(第1の特定部206の特定結果)をチェックしたのち、第1段階の結果に応じて第2段階として「運動状態」または「静止状態」の特定結果を選択する。
【0084】
ユーザは別の動作に移行するときは特に逐次姿勢識別装置20に対する入力は行わず、異なる動作に移行する(「姿勢A終了、姿勢B開始」、ステップS409)。ユーザの動作変化に応じて、逐次姿勢識別装置20に送信される加速度情報および生体信号情報が変動し、特徴量が変動する。これによって、逐次姿勢識別装置20がT1ごとに実行する識別処理(姿勢特定処理含む)の結果に姿勢変動が反映されていく。
【0085】
(自律神経機能評価の一例)
このように、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置20は、被験者の姿勢や運動状態を識別する。さらに、逐次姿勢識別装置20の生成部210は、識別した姿勢や運動状態と、生体信号情報の変動を対応づけることで、被験者の健康状態の判断に利用できる情報を生成する。次に、生成部210が生成する情報の一例として、姿勢変動と自律神経機能とを対応付けた情報について説明する。
【0086】
図7は、被験者の姿勢変化と自律神経機能評価との対応付けを概略的に示す表である。
図7の例では、自律神経機能評価の指標として心拍数を利用する。心拍変動から自律神経機能を評価するための指標として、呼吸変動に対応する高周波変動成分(HF成分)と血圧変動に対応する低周波変動成分(LF成分)が一般に利用されている。
図7の例でも、心拍数、HF成分、LF成分を利用して自律神経の状態を評価している。
【0087】
たとえば、被験者が「立位」から「座位」へ姿勢遷移したときに、心拍数が減少したとする。この場合、自律神経の副交感神経活動が活発化していると考えられる。また、被験者が「立位」から「座位」へ姿勢遷移したときに、心拍数が増加したとする。この場合、静脈環流量の増加による自律神経の交感神経活動が過渡的に活性化していると考えられる。また、被験者が「座位」から「臥位」へ遷移した場合、姿勢変化がなく静止状態である場合も同様に考えられる。
【0088】
他方、被験者が「座位」から「立位」へ姿勢遷移したときに、心拍数が減少したとする。この場合、静脈環流量の減少等の循環動態の変動に伴う、過渡的な副交感神経活動の亢進状態であると考えられる。また、被験者が「立位」から「座位」へ姿勢遷移したときに、心拍数が増加したとする。この場合、静脈環流量の増加等の循環動態の変動に伴う、過渡的な交感神経活動の亢進状態であると考えられる。また、被験者が「臥位」から「座位」へ遷移した場合、「臥位」から「立位」へ姿勢遷移した場合も同様に考えられる。
【0089】
なお、被験者に姿勢の遷移がない期間、または静止状態または運動状態のままで変化がない期間に心拍数が変動した場合には、HF成分やLF/HF比に基づく評価が可能である。たとえば、HF成分に基づいて副交感神経系の活動状態を評価することができる。また、LF/HF比に基づいて交感神経系の活動状態を評価することができる。さらに、心拍数の下降相に基づいて、副交感神経活動成分(呼吸性不整脈による心拍数の抑制等)を識別することができる。
【0090】
同様に、姿勢や状態の変化がない期間において、LF/HF比やLF成分の増加、HF成分の抑制から、交感神経活動を評価することができる。また、心拍数の上昇相に基づいて、交感神経活動を識別することができる。なお、
図7の例は姿勢遷移と自律神経機能評価との関係を簡略化して示している。
【0091】
そして、
図7に示すような評価に基づき、生成部210は、姿勢変化と自律神経の応答量とを対応付けて自律神経を評価した情報を生成する。たとえば、
図8は、自律神経機能評価の手法の一例を説明するための図である。
図8に示す例では、まず、第1の特定部206が、特徴量に基づいて、被験者が「運動、静止」のいずれの状態であるかの特定を行っている(「姿勢推定:第1段階のみ」)。続いて、第1段階での結果に基づき、第2の特定部207または第3の特定部208がどのような運動状態または静止状態であるかの特定を行う(「姿勢推定:第2段階」)。これによって各時点における「姿勢、運動」の状態が識別される。次に、生成部210は、識別結果に基づき、姿勢変化が生じた時点を特定する(「姿勢変化検知」)。そして、生成部210は、特定した時点に対応する生体信号情報たとえば心拍数の情報(「自律神経応答量」)から、自律神経機能の評価を行う(「自律神経機能評価」)。
【0092】
なお、
図7に示す自律神経機能評価においては、心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)の周波数成分のHF成分およびLF成分を自律神経機能評価に用いる特徴量とした。しかし、これに限定されず、自律神経機能評価においては他の特徴量を用いることができる。たとえば、心拍間隔の変動量等を特徴量とすることができる。
【0093】
(第1の実施形態の効果)
このように、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、ウェアラブル機器に設けられ、ウェアラブル機器を装着する被験者の動作の加速度情報を計測する加速度情報計測部を備える。また、逐次姿勢識別装置は、ウェアラブル機器に設けられ、被験者の生体信号情報を計測する生体信号情報計測部を備える。また、逐次姿勢識別装置は、加速度情報および生体信号情報から第1の所定期間に対応する第1の特徴量および第2の所定期間に対応する第2の特徴量を抽出する特徴量抽出部を備える。また、逐次姿勢識別装置は、第1の特徴量に基づく機械学習により、被験者が運動しているか静止しているかを識別する運動・静止識別モデルを作成する第1の作成部を備える。逐次姿勢識別装置は、第1の特徴量に基づく機械学習により、複数の運動パターンを識別する運動識別モデルを作成する第2の作成部を備える。また、逐次姿勢識別装置は、第1の特徴量に基づく機械学習により、複数の静止パターンを識別する静止識別モデルを作成する第3の作成部を備える。逐次姿勢識別装置は、運動・静止識別モデルと第2の特徴量とに基づき、第2の所定期間において被験者が運動しているか静止しているかを特定する第1の特定部を備える。逐次姿勢識別装置は、運動識別モデルと第2の特徴量とに基づき、第2の所定期間における被験者の1の運動パターンを特定する第2の特定部を備える。逐次姿勢識別装置は、静止識別モデルと第2の特徴量とに基づき、第2の所定期間における被験者の1の静止パターンを特定する第3の特定部を備える。逐次姿勢識別装置は、第1、第2および第3の特定部による特定結果を統合することにより、第2の所定期間における被験者の姿勢および運動を識別する識別部を備える。逐次姿勢識別装置は、識別部が識別した姿勢および運動と、第2の所定期間の被験者の生体信号情報とを対応づけた対応情報を生成する生成部を備える。
【0094】
このため、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、順次ウェアラブル機器から送信される加速度情報と生体信号情報の逐次機械学習を行って、被験者の姿勢および運動を迅速に識別することができる。また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、識別した姿勢および運動を生体信号情報と対応づけた対応情報を生成するため、健康管理や疾病予防を可能とすることができる。
【0095】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、「運動・静止」を識別する第1段階と、どのような運動か、どのような静止かを識別する第2段階に分けて逐次姿勢識別処理を実行している。生体信号情報および加速度情報においては、コントラストが高い識別対象と、コントラストが低い識別対象と、が混在している。たとえば、「立つ」「座る」等はコントラストが低く、「歩く」「座る」などはコントラストが高くなる。しかし、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別処理では、識別の上位層として「運動・静止」という区分も設けて学習モデルを構築して、2段階で姿勢を識別する。このため、コントラストが低いラベル(姿勢、運動)間の識別に、コントラストが高いラベルの識別が影響を与えない。また、2段階の識別とすることで、ラベルを増減しても他の段階の識別に影響がなく、ラベルの増減が容易となっている。
【0096】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、識別した姿勢および運動と生体信号情報とを対応づけて対応情報を生成する。このため、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置によれば、日常生活の中で被験者の姿勢や運動の変化を継続的に検出するとともに、生体信号情報を検出して、異なる姿勢変化に伴って生じる心拍数上昇相と心拍数下降相とを分離して評価することができる。たとえば、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置によれば、姿勢および運動を識別することによって、起床や起立などの姿勢変化と着席や臥床などの姿勢変化を区別することができる。このため、起床や起立などの姿勢変化に伴う自律神経反射を介した交感神経機能を反映した心拍数上昇相と、着席や臥床などの姿勢変化による迷走神経機能を反映した心拍数下降相とを分離して評価することができる。
【0097】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、個人の体型や姿勢のくせなども吸収したユーザ依存性の高い識別モデルを作成することができ、識別処理の精度を向上させることができる。
【0098】
第1の実施形態に係る逐次姿勢識別装置においては、第1の作成部、第2の作成部、第3の作成部は、逐次生成される特徴量の入力を受けて逐次学習を行う。すなわち、ユーザがある姿勢について機械学習を開始した後に当該姿勢の機械学習を中断して終了してしまったとしても、逐次姿勢識別装置がそれまでに学習した姿勢や運動状態に基づく姿勢判別を実行できる。また、逐次姿勢識別装置は、機械学習モデルを利用するため、各特徴量に対する重みづけは自動的に実行する。このため、逐次姿勢識別装置は、被験者によって同じラベルの姿勢や運動状態について入力される特徴量にずれがあっても、個人に合わせた識別モデルを容易に構築することができる。また、逐次学習をおこなって逐次的に識別モデルを更新していくため、ユーザが自由なタイミングで学習の中断、再開を行うことができる。
【0099】
また、閾値や決定木を用いるルールベース、ニューラルネットワークやSVM(Support Vector Machine)を利用する学習ベースなどでの姿勢推定手法とは異なり、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、新たに得られるデータを逐次利用して学習精度を上げて識別結果の精度を向上させることができる。また、学習に必要なデータをすべて取得してから学習を開始する必要がなく、取得されているデータが少量であっても学習を開始することができる。
【0100】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、加速度情報に加えて生体信号情報から得られる特徴量を用いて、被験者の姿勢および運動を識別するため、識別結果の精度を向上させることができる。
【0101】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、特徴量抽出部は、第1の所定期間から、重なりあう複数の異なる長さの期間を抽出し抽出した各期間について第1の特徴量を抽出する。つまり、異なる長さの期間についてそれぞれ特徴量を抽出して機械学習に利用するため、精度の高い姿勢識別を実現することができる。
【0102】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、特徴量抽出部は、重なりあう複数の異なる長さの期間のうち第1の期間における加速度情報の時系列集合における最大値、最小値、平均値および分散値のうち少なくとも一つと、重なりあう複数の異なる長さの期間のうち第2の期間における心拍間隔の最大値、最小値、平均値および分散値のうち少なくとも一つと、に基づき第1および第2の特徴量を抽出する。
【0103】
このように、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、加速度情報だけでなく生体信号情報から特徴量を抽出して姿勢および運動の識別に使用する。このため、加速度情報のみを用いた場合と異なり、姿勢および運動の識別の精度を向上させることができる。また、生体信号情報を用いることで、識別可能な姿勢および運動の種類を増やすことができる。
【0104】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、特徴量抽出部はさらに、第2の期間において測定される加速度の各軸に沿った振動数、振動数の平均値および分散値のうち少なくとも一つに基づき第1および第2の特徴量を抽出する。このように、加速度の各軸について細かく特徴量を抽出することで、姿勢および運動の識別の精度を向上させることができる。
【0105】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、第2の期間は第1の期間よりも長い。つまり、生体信号情報を利用した特徴量の抽出サイクルと加速度情報を利用した特徴量の抽出サイクルとを変えて、姿勢および運動識別に適した長さに設定している。このため、姿勢および運動の識別の精度を向上させることができる。
【0106】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、第1、第2および第3の作成部による処理は、第1、第2および第3の特定部による処理と並行して実行される。このため、学習処理と識別処理とを並行して実行することができ、処理の速度向上に資する。また、被検体の異常の迅速な検出にも資することができる。
【0107】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、特定する静止パターンは少なくとも、立位、座位および臥位である。このため、静止パターンすなわち立位、座位および臥位等と、運動、静止の2パターンの特定とあわせて被検体の身体の動き方向を特定することができ、生体信号情報と対応づけて被検体の健康管理や疾病予防を可能とすることができる。
【0108】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置において、特定する運動パターンは少なくとも、歩行、跳躍および足踏みである。このため、静止パターンすなわち立位、座位および臥位等と、運動、静止の2パターンの特定とあわせて被検体の身体の動き方向を特定することができ、生体信号情報と対応づけて被検体の健康管理や疾病予防を可能とすることができる。また、運動の種類を細かく分類して識別することが可能となり、たとえば単に日常生活のなかで歩いているだけの歩行と積極的な運動としてのウォーキングとを区別したりすることが可能となる。
【0109】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、日常生活の中での被験者の姿勢や運動の変化と生体信号情報の変化とを対応付けた情報を生成することができる。特に、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、心拍変動等の生体信号と姿勢や動作の変動とを対応づけることができる。このため、たとえば、姿勢と動作の変化を伴わない場合の心拍変動を抽出して、解析することができる。姿勢と動作の変化を伴わない場合、心拍変動の主たる成因は、呼吸性不整脈などの自律的な自律神経ゆらぎである。そこで、姿勢と動作の変化を伴わない場合の心拍変動のみを独立して抽出し、心拍上昇相と下降相とを分離して解析することで、呼吸性不整脈に限定した自律神経機能評価を行うことができる。
【0110】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、逐次機械学習を用いて学習処理と識別処理を並列的に実行することができる。このため、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、同一の「姿勢、運動」条件下における心拍変動等の生体信号の異常値を、略リアルタイムで、少なくとも数秒程度の遅延時間内で検出することができる。
【0111】
また、第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置は、逐次機械学習を用いて学習したデータと、新たに得られるデータとを比較することによって、早期に異常を検知することができる。たとえば、逐次姿勢識別装置は、失神発作や急激な血圧変化等の発作の予兆を検出したり、発作の早期に異常を検出することにより、転倒回避を行ったり、効果的な薬剤投与等の処理を迅速にとることを可能とする。
【0112】
(第2の実施形態)
次に、生体信号情報として自律神経機能評価のために心拍を計測しモニタリングして、識別される姿勢等と対応付ける技術について第2の実施形態として説明する。なお、第2の実施形態においても、逐次姿勢識別処理は第1の実施形態にかかる逐次姿勢識別装置20と同様に実行するため、以下の説明では、逐次姿勢識別処理の詳細は省略する。
【0113】
(心拍変動解析と姿勢との対応付けの意義)
まず前提として、心拍解析における課題について説明する。
【0114】
心拍解析(心拍変動解析:HRV解析)は、自律神経機能測定法として広く用いられている。心拍解析では、100以上の多数のデータを用いて解析を行うのが一般的である。しかし、安静時心拍数や心拍変動は比較的個人差が大きく、多数のデータを用いて解析を行った場合でも、著しい自律神経障害でなければ検出が困難である。心拍数および心拍変動のデータに影響する揺らぎ成分としては、呼吸性不整脈による高周波(HF)や血圧変動のMayer波の心拍への反映等がある。このような揺らぎ成分を個人差を捨象して一律に閾値等によって正規化することは困難である。
【0115】
しかし、個人差を反映するために一人の被験者から大量の心拍データを取得してから解析を行うのでは急な発作や異常に対応することはできず、現実的でない。したがって、一人の被験者から得られる少数データを用いて迅速に個人差を反映した解析を行うことができる技術の確立が望ましい。
【0116】
また、心拍数(平均心拍数等)および心拍変動量は、姿勢や身体活動の有無等の条件の変化によって変動する。したがって、心拍および心拍変動量の変動と、姿勢および運動等の条件とを対応付けて、条件別にデータ解析を行うことが望ましい。
【0117】
一例として、心拍には様々な過渡的な反応が生じる。たとえば、動脈血圧の一時的な低下が生じると、大動脈弓や頸動脈洞の圧受容器反射が生じる。この場合、一過性の心拍数上昇(初期応答)が生じた後、心拍数が穏やかに減少して(後期応答)から心拍数が安定する。逆に、心拍数の減少とそれに続く緩やかな心拍数の増加を経て心拍数が周期的な心拍変動に移行する場合もある。かかる過渡的反応の原因は様々である。たとえば、姿勢変化、運動、精神的影響等様々な原因によって心拍の過渡的反応が生じる。また、過渡的反応の強度や応答時間は原因によって異なる。
【0118】
またたとえば、
図9は、異なる姿勢、運動状態において、生体信号情報に同様の変化が生じる場合について説明するための図である。
図9に示すように、姿勢変化が伴わない立位時の緊張による心拍変動の減少も、動作変化が伴う運動負荷による心拍変動の減少も同じ減速相として現れる。
【0119】
しかし、従来は、心拍変動のデータを一括して平均化したり、合算したりする手法が一般的であった。このため、異なる原因によって生じる過渡的反応等の心拍変動を、原因ごとに区別して各々の特徴を抽出することが困難であった。また、同一の原因による心拍変動に生じる生体特有の揺らぎや観測ノイズを考慮して正確な解析を行うことも困難であった。
【0120】
(第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理)
上記を踏まえ、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理においては、逐次姿勢識別処理によって姿勢および運動を識別した後、姿勢および運動の各条件に対応する心拍データを分類しグループ化する。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理においては、グループ化した各条件に対応する心拍データ同士に対してノイズ等を除去する処理を加えた上でつなぎ合わせる。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理においては、グループ化してつなぎ合わせた各条件に対応する心拍データに基づき、各条件における自律神経機能評価のパラメータを算出する。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理においては、逐次得られる生体信号情報(心拍データ)に対して機械学習を実行することで被験者の自律神経機能の状態を評価するためのベースラインとなる情報を取得する。そして、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理においては、ベースラインとなる情報をもとに、新たに逐次得られる生体信号情報を解析することで、被験者の異常を迅速に検知する。
【0121】
(第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得システムの構成の一例)
図10は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得システム2の構成の一例を示す概略図である。
図10において、ウェアラブル機器10および逐次姿勢識別装置20Aの構成および機能は、第1の実施形態のウェアラブル機器10および逐次姿勢識別装置20の構成および機能と同様である。ただし、
図10に示す逐次姿勢識別装置20Aは、
図1に示す逐次姿勢識別装置20の生成部210は備えないものとする。
【0122】
図10に示すように、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得システム2は、ウェアラブル機器10と、自律神経機能情報取得装置30とを備える。ウェアラブル機器10と自律神経機能情報取得装置30とは、ネットワークにより通信可能に接続される。
【0123】
自律神経機能情報取得装置30は、逐次姿勢識別装置20Aを備える。
図10では、逐次姿勢識別装置20Aを自律神経機能情報取得装置30の一部として図示しているが、逐次姿勢識別装置20Aを自律神経機能情報取得装置30とは別体の装置として構成してもよい。この場合、逐次姿勢識別装置20Aと自律神経機能情報取得装置30とをネットワークにより通信可能に接続すればよい。接続の態様は特に限定されない。
【0124】
ウェアラブル機器10は加速度情報と生体信号情報とを自律神経機能情報取得装置30に送信する。ウェアラブル機器10の構成および機能は、第1の実施形態のウェアラブル機器10と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0125】
そして、自律神経機能情報取得装置30が備える逐次姿勢識別装置20Aは、受信する加速度情報と生体信号情報とからウェアラブル機器10を装着する被験者の姿勢および運動を識別する。姿勢および運動の識別手法は、第1の実施形態の説明に詳述したため、ここでは省略する。ただし、被験者の姿勢および運動をほぼリアルタイムで識別できれば他の手法を用いて取得した姿勢および運動の情報を用いてもよい。
【0126】
自律神経機能情報取得装置30は、ウェアラブル機器10から送信される生体信号情報のうち、心拍データを抽出して解析する。自律神経機能情報取得装置30は、心拍データのうち被験者が同じ姿勢および運動をしていた時期に対応する心拍データを抽出する。心拍データとは、たとえば、心拍数等の情報である。心拍データとは、当該データに基づき、平均心拍数、心拍間隔、心拍間隔平均、心拍間隔標準偏差、心拍間隔変動係数、HF成分、LF成分等の自律神経機能評価の指標を算出することができる情報である。
【0127】
そして、自律神経機能情報取得装置30は、抽出した心拍データ同士をつなぎ合わせる。このとき、自律神経機能情報取得装置30は、心拍データ中のノイズ等の調整をおこなってもよい。これによって、自律神経機能情報取得装置30は、被験者が同じ姿勢および運動をしているときの心拍の状態のベースラインとなる情報を取得する。そして、自律神経機能情報取得装置30はベースラインとなる情報から自律神経機能評価の指標となるパラメータを算出する。算出したパラメータは同じ姿勢および運動時の心拍データに基づく自律神経機能評価に用いることができる。
【0128】
また、自律神経機能情報取得装置30は、心拍データに対して逐次機械学習をおこなって、新たにウェアラブル機器10から受信される心拍データとを比較する。これによって、自律神経機能情報取得装置30は、新たに受信される心拍データの異常を迅速に検知する。
【0129】
また、自律神経機能情報取得装置30は、同じ姿勢および運動の連続的な変化があった時期に対応する心拍データを同期加算して、特定の変化があったときの心拍の状態を解析する。たとえば、自律神経機能情報取得装置30は、被験者が走行中(立位、運動状態)にいったん止まって座り込み(座位、静止状態)、再び走り出す(立位、運動状態)等の一連の姿勢変化に対応する心拍データを選択的に収集し同期加算して解析することができる。
【0130】
(第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置30の構成の一例)
図10を参照し、自律神経機能情報取得装置30の構成の一例につき説明する。自律神経機能情報取得装置30は、逐次姿勢識別装置20Aを備える。また、自律神経機能情報取得装置30は、分類抽出部301、データ接続処理部302、学習部303、異常判定部304、同期加算部305、自律神経機能評価部306および記憶部307を備える。
【0131】
分類抽出部301は、ウェアラブル機器10から送信される生体信号情報すなわち心拍データと、逐次姿勢識別装置20Aから送られる識別結果とを対応付けて、被験者が同じ姿勢および運動状態にあるときの心拍データを抽出する。ここで、分類抽出部301は時系列に取得される生体信号情報から所定の姿勢および運動に対応する部分を抽出する。このため、抽出される心拍データ相互間に不連続が生じる。また、分類抽出部301が抽出した心拍データに異常値やノイズが含まれている場合もある。そこで、心拍データの不連続やノイズを調整するために、抽出された心拍データをデータ接続処理部302に送る。なお、分類抽出部301による処理の詳細は後述する。
【0132】
データ接続処理部302は、分類抽出部301が抽出した心拍データと当該心拍データに対応する姿勢および運動の情報を取得する。そして、データ接続処理部302は、同じ姿勢および運動状態に対応する心拍データを相互に接続する。この際、データ接続処理部302は、接続する心拍データの値が連続しない不連続部分や心拍データ中のノイズを調整するデータ接続処理を実行する。データ接続処理の詳細は後述する。データ接続処理によって、同じ姿勢および運動状態に対応する複数の心拍データが相互に接続される。データ接続処理後の心拍データはデータ接続処理部302から学習部303に送られる。また、データ接続処理後の心拍データは、データ接続処理部302から記憶部307に送られて記憶される。新しい心拍データが生成されるごとに、記憶部307に格納されるデータは更新される。データ接続処理部302はまた、データ接続処理後の心拍データから各条件における心拍間隔の平均値、分散値、重心等の統計値を逐次算出して記憶し更新する。算出した値は自律神経機能評価のパラメータとして用いられる。
【0133】
学習部303は、データ接続処理部302から送られる心拍データの機械学習を実行する。機械学習は、オンライン学習等の逐次機械学習とする。
【0134】
異常判定部304は、機械学習の結果を利用して、新たに取得される心拍データの異常を検知する。
【0135】
同期加算部305は、一連の姿勢や運動状態の変化に対応する複数の心拍データを抽出して、所定の時点を同期させて複数の心拍データを同期加算する。また、同期加算部305は、同期加算後の心拍データに基づいて、自律神経機能評価のパラメータとする数値を算出する。
【0136】
自律神経機能評価部306は、データ接続処理後の各条件に対応する心拍データから得られる心拍間隔の平均値、分散値、重心等の統計値を通知する自律神経機能評価情報を生成する。また、自律神経機能評価部306は、同期加算部305が算出した自律神経機能評価のパラメータを通知するための自律神経機能評価情報を生成する。また、自律神経機能評価部306は、異常判定部304が異常を検知した場合に異常を通知するための自律神経機能評価情報を生成する。また、自律神経機能評価部306は、第1の実施形態に係る逐次姿勢識別装置20が備える生成部210と同様に、姿勢および運動の状態と、生体信号情報とを時系列的に対応づけた自律神経機能評価情報を生成する。
【0137】
記憶部307は、自律神経機能情報取得装置30の処理に用いる情報や処理の結果生成される情報を記憶する。記憶部307は、たとえばウェアラブル機器10から受信される加速度情報および生体信号情報を記憶する。また、記憶部307は、分類抽出部301が抽出した、各条件に対応する複数の心拍データのセグメントを当該心拍データが計測された日時を示すタイムスタンプとともに記憶する。また、記憶部307は、データ接続処理部302によりデータ接続処理された心拍データを算出したパラメータとともに各条件に対応づけて記憶する。また、記憶部307は、同期加算部305が同期加算した心拍データを算出したパラメータとともに各条件に対応づけて記憶する。このほか、記憶部307は、自律神経機能評価部306が生成した自律神経機能評価情報を適宜記憶するものとしてよい。
【0138】
(第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理の流れの一例)
図11は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図11に示すように、第2の実施形態の自律神経機能情報取得装置30は、まず、逐次姿勢識別装置20Aによる逐次姿勢識別処理を実行する(ステップS601)。次に、分類抽出部301は、姿勢識別処理の結果得られる姿勢および運動の情報と対応づけて、同じ姿勢および運動のときの心拍データを分類抽出する(ステップS602)。そして、抽出された心拍データの不連続やノイズに対処して、データ接続処理部302はデータ接続処理を実行する(ステップS603)。学習部303は、データ接続処理後の心拍データの機械学習を行う(ステップS604)。そして、異常判定部304は、学習結果に基づき、新たに得られる心拍データの異常検出を実行する(ステップS605)。同期加算部305は、同じ姿勢および動作の連続的変化に対応する複数の心拍データを所定時点を同期させて加算し、自律神経機能評価のパラメータを算出する(ステップS606)。自律神経機能評価部306は、たとえば異常判定部304が検出した異常を通知する自律神経機能評価情報等、種々の自律神経機能評価情報を生成する(ステップS607)。これによって自律神経機能情報取得処理の一例が終了する。
【0139】
図11に示す例では、異常判定部304の判定結果を自律神経機能評価情報として生成している。しかし、これに限らず、自律神経機能評価部306は、同期加算部305により生成された自律神経機能評価のパラメータ等を自律神経機能評価情報として出力してもよい。どの情報を自律神経機能評価情報として生成出力するかについては、ユーザの指示入力に応じて選択されるものとすればよい。
【0140】
また、
図11では、ステップS603からステップS606の処理を順次実行するものとして説明した。しかし、実際の装置においては、任意の処理をユーザの指示入力があったときだけ実行するものとして構成してもよい。たとえば、ステップS606の同期加算は、ユーザから指示入力があったときのみ実行してもよい。また、同期加算処理の対象とする姿勢、動作の連続的変化を予め装置に記憶させておき、対応する連続的変化を検知するごとに同期加算処理を実行して記憶部307に記憶する情報を更新するものとしてもよい。
【0141】
(分類抽出処理)
次に、分類抽出部301が実行する分類抽出処理について説明する。
図12は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理における生体信号情報(心拍データ)の分類(グループ化)について説明するための図である。
図12中(1)は、被験者が就寝中(すなわち、「姿勢、運動」が「臥位、静止」)のときの心拍間隔の分布を示す。
図12中(2)は、被験者が立ったままでじっとしているとき(すなわち、「姿勢、運動」が「立位、静止」)の心拍間隔の分布を示す。また、
図12中(3)は、被験者が立って運動しているとき(すなわち、「姿勢、運動」が「立位、運動」)の心拍間隔の分布を示す。なお、
図12中、点線は各時点において計測される心拍間隔の計測値を示し、実線は計測された心拍間隔の値の分布を示す。
【0142】
図12の(2)、(3)に示されるように、被験者が同じ「姿勢」「運動」の状態にあるとき、心拍間隔の分布は近似する。
図12の(2)では、時間の経過に伴う心拍間隔の変動は右のグラフと左のグラフとで異なっているものの、データの分布は近似している。
図12の(3)でも同様である。
【0143】
分類抽出部301は、同一の「姿勢」「運動」の状態にあるときの心拍データを抽出する。そこで分類抽出部301は、被験者の姿勢および運動について、逐次姿勢識別装置20Aから少なくとも「立位」「座位」「臥位」の3種類の「姿勢」の情報と、「静止」「運動」の2種類の「運動」の情報を取得する。そして、分類抽出部301は、各姿勢が安定保持状態(すなわち、姿勢の遷移が発生していない)にある期間や、姿勢の遷移が発生している場合はその遷移の種類、安定保持状態の開始時間等を特定する。そして、分類抽出部301は、特定した内容に応じて、姿勢および運動の時系列的な遷移を分類する。
【0144】
たとえば、
図12を例にとれば、分類抽出部301は、「立位、静止」に対応する心拍間隔のデータを「立位、静止」という分類に対応付けて累積する。同様に、分類抽出部301は、「立位、運動」に対応する心拍間隔のデータを「立位、運動」という分類に対応づけて累積する。なお、心拍間隔のデータには、当該データがいつの被験者の状態を示すものかわかるように、タイムスタンプを付して記憶する。
【0145】
なお、第1の実施形態で説明したように、逐次姿勢識別処理においては、姿勢と運動の識別は逐次実行される。そして、姿勢が安定保持状態にあるか否かの判定は迅速に実行される。たとえば、被験者がその姿勢になってから数秒以内に安定保持状態になったか否かの判定が実行される。また、被験者の姿勢が変化した場合も、逐次姿勢識別装置20Aは、加速度情報の変曲点に基づいて変化を検知できるため、実際に姿勢が変化し始めてから数秒以内という短時間で姿勢の変化開始時間が識別される。したがって、各姿勢が安定保持状態にあるか否か、識別された「運動」「静止」等の分類、姿勢の遷移の開始時間等は、実際のイベント発生から数秒の短時間内に特定され、心拍データが分類されて蓄積される。
【0146】
分類抽出部301が上述のような分類抽出処理を継続的に実行していくことで、記憶される心拍データが随時蓄積され更新される。分類抽出部301が抽出する心拍データは逐次、記憶部307に格納される。
【0147】
(データ接続処理)
次に、データ接続処理部302が実行するデータ接続処理について説明する。
図13は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理におけるデータ接続処理について説明するための図である。
【0148】
(データの非連続)
図13では、時刻t−16から時刻tまでの間にウェアラブル機器10において計測した生体信号情報である心拍間隔データを、データ接続処理の対象とする。なお、時刻tにおいて得られる心拍間隔データをytと表す。ここで、逐次姿勢識別装置20Aが、時刻t−16から時刻tまでの間の被験者の姿勢と運動とを識別した結果、時刻t−14から時刻t−13の間に姿勢S1(たとえば臥位)から姿勢S2(たとえば立位)への遷移が生じていたとする。また、時刻t−6から時刻t−5の間に姿勢S2から姿勢S1への遷移が生じていたとする。
【0149】
さらに、時刻t−16の時点では被験者は運動状態P(「静止」)であり、時刻t−15および時刻t−7において、運動状態P(「静止」)から運動状態A(「運動」)への遷移が生じたとする。また、時刻t−12および時刻t−3において、運動状態A(「運動」)から運動状態P(「静止」)への遷移が生じたとする。
【0150】
この場合に、姿勢および運動に対応付けて心拍データを分類すると、「臥位、運動」(S1,A)に対応する期間は、時刻t−15から時刻t−14と、時刻t−5から時刻t−3である。そこで、時刻t−15から時刻t−14までの心拍間隔連続データyt−15,yt−14と、時刻t−5から時刻t−3までの心拍間隔連続データyt−5,yt−4,yt−3を抽出する。この二つの心拍間隔連続データを接続しようとすると、両者の間に非連続が生じる。
【0151】
(データの欠損)
また、同一の条件下で取得された心拍間隔データに欠損が生じる場合も考えられる。
図14は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理におけるデータ接続処理について説明するための他の図である。
図14は、同一条件すなわち、被験者が「立位、静止」の条件下で取得された心拍間隔データに欠損がある場合を示している。たとえば、自律神経の過渡的な反応による不安定区間においてデータの欠損が続くことが考えられる。データに欠損が多数生じるとデータ数が不足して適切な学習や識別を行うことができない。
【0152】
そこで、第2の実施形態では、データの非連続部分や欠損を補って、全体として時系列連続データとみなして使用する。たとえば、
図15は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理におけるデータ接続処理において閾値を用いる処理について説明するための図である。
図16は、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得方法におけるデータ接続処理においてベイズの定理を用いる処理について説明するための図である。
【0153】
図15に示す処理では、分類抽出部301が、「立位、静止」分類に対応して抽出した二つのデータの結合部分にデータの欠損が生じるとともに、値のずれが生じている。
図15に示す手法では、「立位、静止」時の心拍間隔データについて予め閾値を設定しておく。
図15中、設定した閾値の範囲を太線の枠で示している。そして、設定した閾値を超える値が結合部位に現れた場合、閾値を超える値の部分は結合せずに削除する。
【0154】
設定された閾値を超えて逸脱する値は、計測時のノイズの混入や期外収縮などの不整脈、過渡的反応による不安定区間によるものと考えられる。つまり、設定された閾値を超える値は異常値またはノイズである可能性が高い。そのため、かかる値は自律神経機能評価に用いる、記憶させるデータからは削除する。かかる値を、そのまま自律神経機能評価に用いるデータに含めた場合、適切な評価パラメータを取得できなくなると考えられるからである。
【0155】
なお、上記では、データ接続処理において閾値を用いたが、上記のように固定的閾値を用いるほか、他の統計的な手法を用いてもよい。たとえば、近傍法(Nearest Neighbor)や、分布を仮定する方法、検定を繰り返す方法、1クラス識別器を用いる方法などを利用できる。
【0156】
図16に示す例では、分類抽出部301が抽出した二つのデータの結合部分に値のずれが生じているものの、観測された値は設定した閾値の範囲内の値である。この場合は、ベイズの定理を適用して正しい値を推定する。つまり、それまでに蓄積されているデータから事前分布と事前確率を求める。そして、新たに結合するデータに基づいて事後分布を求める。そして、推定される値により観測値を補正して二つのデータを結合する。
【0157】
なお、
図16の例では、ベイズの定理を用いるものとしたが、推定値算出の具体的な手法は特に限定されず、ベイズ更新、カルマンフィルタ、パーティクルフィルタ等ベイズの定理を用いた種々の手法を用いることができる。その他、各種の推定による波形補完を用いることができる。また、多重代入法やスプライン補間法等を用いてもよい。
【0158】
また、正常値をベイズの定理を用いて推定する処理は、ここではデータの結合部分について実行するものとしたが、同一分類に含まれるすべての時系列データに対して連続的に推定処理を実行してもよい。また、逐次取得され追加されていく心拍間隔データと姿勢識別結果に対して正しい値の推定処理を実行した上で、格納するデータを追加したりデータを更新したりしてもよい。
【0159】
(学習処理・異常判定処理)
分類抽出部301およびデータ接続処理部302の処理により各条件に対応づけて心拍データが蓄積される。そこで、ベースラインとしての心拍データが取得され蓄積されると同時に、学習部303が機械学習を行う。そして、異常判定部304が、学習結果に基づいて新たに取得されるデータとの対比を行い異常を検出する。たとえば、学習部303として高速度な機械学習器(線形および非線形分類器)を用いる。たとえば、線形関数や非線形関数を用いた識別機を用いる。また、近傍探索やクラスタリング等の手法を用いてもよい。これにより、心拍間隔データの取得と同時または取得から短時間内に、迅速な異常検知を実現することができる。機械学習については、第1の実施形態で用いたオンライン学習のような逐次機械学習を利用できる。これによって大量のデータを準備する必要なく、一定の学習期間後に、同一の姿勢、運動状態についての異常判定を実現することができる。
【0160】
(同期加算処理)
同期加算部305は、データ接続処理部302、学習部303、異常判定部304の処理とは別に同期加算処理を実行する。たとえば、同期加算部305は、逐次姿勢識別装置20Aが識別した「姿勢、運動」の分類に基づいて姿勢および運動の連続的変化のまとまりを作成する。そして、同期加算部305は、身体の角度変化から姿勢変更の開始時間を算出し、姿勢遷移に伴う心拍変動を分類ごとに同期加算する。たとえば、同期加算部305は、被験者が寝ているときに寝返りを打った結果心拍間隔に変動が生じたような場合に対応するデータのみを複数抽出して、寝返りを打った時点に相当する時点を同期の始点として設定する。そして、同期加算部305は、複数のデータを同期加算して、同様の姿勢変化が生じたときの自律神経評価の指標となるパラメータを算出する。
【0161】
たとえば、
図17は、被験者の姿勢変化による血圧低下後の心拍の過渡的反応について説明するための図である。
図17に示すように、被験者が就寝中に寝返りをうち、そのまま眠り続けたような場合、「姿勢、運動」状態は、「臥位、静止」から「臥位、運動」に遷移し、その後再び「臥位、静止」に遷移する。この場合に被験者から計測される心拍データ(心拍間隔)は、
図17に示すように、安定した状態から急な低下と増加を経て変化する。同様の条件下で計測される心拍データを加算することで、同じ姿勢変化の場合のベースラインとしての心拍データを得ることができる。
【0162】
図18は、第2の実施形態において、被験者の姿勢変化による血圧低下後の心拍の過渡的反応についてのデータを同期加算する手法について説明するための図である。まず、逐次姿勢識別装置が識別した姿勢、運動の分類に基づき、姿勢の変化、姿勢変化の開始時、姿勢変化の前後において身体が動いていないと識別される区間の心拍データを抽出する。そして、動作すなわち姿勢変化時点を起点として、同じ姿勢変化が生じたときの心拍データを同期加算する。すなわち、複数回の姿勢変化に対応するそれぞれの心拍間隔の変動データを同期加算する。そして、自律神経評価のパラメータとして、動作前後の平均心拍間隔の差や、初期応答時の心拍間隔の最大傾き、後期応答時の心拍間隔の最大傾き等を算出する。
【0163】
図17および
図18の例では、姿勢変化により生体信号情報に変化が生じる例を説明した。
図19および
図20の例では、運動によって生体信号情報に変化が生じる例を説明する。
図19は、被験者の身体活動(運動)による血圧上昇後の心拍の過渡的反応について説明するための図である。
【0164】
図19に示す例では、被験者は「静止」状態から「運動」状態に遷移しその後「静止」状態に遷移している。そして、被験者は運動状態が遷移していく期間を通じて同一姿勢を維持している。たとえば、「立位、静止」の状態から「立位、運動」たとえば走行状態に遷移し、再び「立位、静止」の状態に戻ったような場合が
図19の例に相当する。この場合も
図17の例と同様、運動によって血圧が上昇して心拍間隔に過渡的反応が生じている。
【0165】
図20は、第2の実施形態において、被験者の身体活動(運動)による血圧上昇後の心拍の過渡的反応についてのデータを同期加算する手法について説明するための図である。
図20の場合も、
図18の場合と同様に、同じ運動状態の遷移に対応する心拍変動データを複数抽出して同期加算する。すなわち、姿勢に変化がなく、運動状態が「静止」「運動」「静止」の順に遷移する期間に対応する心拍変動を抽出する。そして、「運動」状態の期間の開始時点と終了時点とを特定する。そして、「運動」状態の開始時点を起点として複数の心拍変動データを同期加算する。また、「運動」状態の終了時点を起点として複数の心拍変動データを同期加算する。こうして得られるデータに基づき、運動による自律神経機能評価のパラメータを取得して、自律神経機能評価を行うことができる。
【0166】
ここで、開始時点と終了時点のそれぞれを起点として同期加算を行うのは、「運動」状態の継続時間は一定ではないため、上昇相と下降相を同期させて加算を実行するためである。
【0167】
この場合の自律神経機能のパラメータとしては、開始時点を起点とする場合は、上昇相の最大傾き、上昇後の平均心拍数、動作前と動作中の平均心拍数の差または動作前と動作中の平均心拍間隔の差を用いることができる。また、終了時点を起点とする場合は、下降相の最大傾き、下降後の平均心拍数、動作中と動作終了後の平均心拍数の差または動作中と動作終了後の平均心拍間隔の差を用いることができる。
【0168】
(第2の実施形態の効果)
このように、第2の実施形態にかかる自律神経機能評価装置は、ウェアラブル機器に設けられ、ウェアラブル機器を装着する被験者の動作の加速度情報を計測する加速度情報計測部を備える。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能評価装置は、ウェアラブル機器に設けられ、被験者の生体信号情報を計測する生体信号情報計測部を備える。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能評価装置は、第1の所定期間における加速度情報および生体信号情報に対して逐次機械学習を実行することにより第2の所定期間における被験者の姿勢および運動を識別する識別部とを備える。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能評価装置は、識別部が識別した同じ姿勢および運動の組み合わせに対応する生体信号情報を抽出する抽出部を備える。また、第2の実施形態にかかる自律神経機能評価装置は、抽出部が抽出した同じ姿勢および運動の組み合わせに対応する生体信号情報から自律神経機能評価のパラメータを算出する算出部を備える。
【0169】
このように、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、姿勢および運動の条件に対応した心拍データを分類した上でパラメータを抽出することができる。このため、異なる原因によって生じる心拍変動を区別して解析することができる。
【0170】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置において、生体信号情報計測部は、生体信号情報として被験者の心拍データを計測し、抽出部は、同じ姿勢および運動の組み合わせに対応する心拍データを抽出し、算出部は、抽出部が抽出した心拍データの平均値、分散値および重心のうち少なくとも一つをパラメータとして算出する。
【0171】
このため、自律神経機能の評価において一般的に利用される心拍の情報を姿勢および運動の状態と対応づけて解析して、評価パラメータを設定することができる。このため、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、各被験者から取得した個人のくせや生理的特徴を反映したデータに基づき自律神経機能を評価することができる。
【0172】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置は、抽出部が抽出した同じ姿勢および運動の組み合わせに対応する心拍データを接続してひとまとまりのデータとする接続部をさらに備え、接続部は、接続する心拍データの接続部分の値のずれが所定の閾値より小さい場合、ずれを修正する推定値を統計的に算出し、当該推定値による修正後の心拍データを接続する。
【0173】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置は、抽出部が抽出した同じ姿勢および運動の組み合わせに対応する心拍データを接続してひとまとまりのデータとする接続部をさらに備え、接続部は、接続する心拍データの接続部分の値のずれが所定の閾値以上の場合、当該所定の閾値を超える値を削除して心拍データを接続する。
【0174】
このため、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、被験者から得られる心拍データが少ない場合であっても、同じ条件下で得られる心拍データ同士を接続して解析することができる。このため、少数のデータを用いて正確な解析を実現することができる。
【0175】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置において、生体信号情報計測部は、生体信号情報として被験者の心拍データを計測し、抽出部は、同じ姿勢および運動の連続的変化に対応する期間に対応する複数の心拍データを抽出し、算出部は、抽出部が抽出した複数の心拍データ中、姿勢または運動の変化の開始時点または終了時点を同期させて複数の心拍データを同期加算し、同期加算したデータからパラメータを算出する。このため、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、姿勢および運動の変化に伴う心拍の変動を解析することができる。また、特定の姿勢と運動の組み合わせや遷移に対応する心拍データを分離して解析することができる。このため、被験者の状態にあわせた精密な自律神経機能評価を実現することができる。
【0176】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置において、抽出部は、同じ姿勢および運動の連続的変化に対応する期間として、被験者が姿勢を変えた期間であって姿勢を変えた時点の前後は被験者の身体が静止している期間に対応する複数の心拍データを抽出し、算出部は、姿勢を変えた時点の前後の平均心拍間隔の差、初期応答における心拍間隔の最大傾きおよび後期応答における心拍間隔の最大傾きのうち少なくとも一つをパラメータとして算出する。このため、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、姿勢および運動の変化に伴う心拍の変動を解析することができる。また、特定の姿勢と運動の組み合わせや遷移に対応する心拍データを分離して解析することができる。このため、被験者の状態にあわせた精密な自律神経機能評価を実現することができる。
【0177】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置において、抽出部は、同じ姿勢および運動の連続的変化に対応する期間として、被験者が静止状態から運動状態に遷移した後再び静止状態に戻る期間であって、当該期間中被験者の姿勢が変化していない期間に対応する複数の心拍データを抽出し、算出部は、運動状態の開始時点を同期させて複数の心拍データを同期加算し、心拍の上昇相の最大傾き、上昇後の平均心拍数および運動状態開始前と運動状態中の平均心拍数または平均心拍間隔の差のうち少なくとも一つをパラメータとして算出する。このため、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、姿勢および運動の変化に伴う心拍の変動を解析することができる。また、特定の姿勢と運動の組み合わせや遷移に対応する心拍データを分離して解析することができる。このため、被験者の状態にあわせた精密な自律神経機能評価を実現することができる。
【0178】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置において、抽出部は、同じ姿勢および運動の連続的変化に対応する期間として、被験者が静止状態から運動状態に遷移した後再び静止状態に戻る期間であって、当該期間中被験者の姿勢が変化していない期間に対応する複数の心拍データを抽出し、算出部は、運動状態の終了時点を同期させて複数の心拍データを同期加算し、心拍の下降相の最大傾き、下降後の平均心拍数および運動状態中と運動状態終了後の平均心拍数または平均心拍間隔の差のうち少なくとも一つをパラメータとして算出する。このため、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得処理によれば、姿勢および運動の変化に伴う心拍の変動を解析することができる。また、特定の姿勢と運動の組み合わせや遷移に対応する心拍データを分離して解析することができる。このため、被験者の状態にあわせた精密な自律神経機能評価を実現することができる。
【0179】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能評価情報取得装置は、識別部が識別した姿勢および運動と生体信号情報との対応付けに基づく機械学習を実行する学習部と、学習部の機械学習結果に基づき、加速度情報計測部および生体信号情報計測部により計測される加速度情報および生体信号情報から被検体の異常を検知する異常検知部と、をさらに備える。
【0180】
このため、データ取得と同時にまたは短時間内に、蓄積データとの対比による迅速な(逐次または数秒の遅延内に)異常の検知を行うことができる。また、一定の学習時間を経れば、特に同一の姿勢で静止状態において精度の高い異常判定を実現できる。
【0181】
また、第2の実施形態にかかる自律神経機能情報取得装置において、第1の所定期間と第2の所定期間とは少なくとも一部が重なりあう。すなわち、学習処理と識別処理とを並行して実行することができ、継続的な被験者のモニタリングと機械学習とを並行して実現することができる。
【0182】
(プログラム)
図21は、開示の技術に係る逐次姿勢識別プログラムおよび自律神経機能情報取得プログラムによる情報処理がコンピュータを用いて具体的に実現されることを示す図である。
図21に例示するように、コンピュータ1000は、例えば、メモリ1010と、CPU(Central Processing Unit)1020と、ハードディスクドライブ1080と、ネットワークインタフェース1070とを有する。コンピュータ1000の各部はバス1100によって接続される。
【0183】
メモリ1010は、
図21に例示するように、ROM(Read Only Memory)1011およびRAM(Random Access Memory)1012を含む。ROM1011は、例えば、BIOS(Basic Input Output System)等のブートプログラムを記憶する。
【0184】
ここで、
図21に例示するように、ハードディスクドライブ1080は、例えば、OS1081、アプリケーションプログラム1082、プログラムモジュール1083、プログラムデータ1084を記憶する。すなわち、開示の実施の形態に係る逐次姿勢識別プログラムおよび自律神経機能情報取得プログラムは、コンピュータによって実行される指令が記述されたプログラムモジュール1083として、例えばハードディスクドライブ1080に記憶される。例えば、制御部100の各部と同様の情報処理を実行する手順各々が記述されたプログラムモジュール1083が、ハードディスクドライブ1080に記憶される。
【0185】
また、記憶部307に記憶されるデータのように、逐次姿勢識別プログラムおよび自律神経機能情報取得プログラムによる情報処理に用いられるデータは、プログラムデータ1084として、例えばハードディスクドライブ1080に記憶される。そして、CPU1020が、ハードディスクドライブ1080に記憶されたプログラムモジュール1083やプログラムデータ1084を必要に応じてRAM1012に読み出し、各種の手順を実行する。
【0186】
なお、逐次姿勢識別プログラムおよび自律神経機能情報取得プログラムに係るプログラムモジュール1083やプログラムデータ1084は、ハードディスクドライブ1080に記憶される場合に限られない。例えば、プログラムモジュール1083やプログラムデータ1084は、着脱可能な記憶媒体に記憶されてもよい。この場合、CPU1020は、ディスクドライブなどの着脱可能な記憶媒体を介してデータを読み出す。また、同様に、逐次姿勢識別プログラムおよび自律神経機能情報取得プログラムに係るプログラムモジュール1083やプログラムデータ1084は、ネットワーク(LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等)を介して接続された他のコンピュータに記憶されてもよい。この場合、CPU1020は、ネットワークインタフェース1070を介して他のコンピュータにアクセスすることで各種データを読み出す。
【0187】
[その他]
なお、本実施形態で説明した逐次姿勢識別プログラムおよび自律神経機能情報取得プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、ファイル監視周期算出プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読取可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0188】
なお、本実施形態において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0189】
上記の実施形態やその変形は、本願が開示する技術に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。