特許第6356661号(P6356661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝マテリアル株式会社の特許一覧

特許6356661光触媒体とそれを用いた光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜および製品
<>
  • 特許6356661-光触媒体とそれを用いた光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜および製品 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356661
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】光触媒体とそれを用いた光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜および製品
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20180702BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180702BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20180702BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B01J23/30 M
   B01J35/02 J
   B01J37/02 301C
   B01J23/652 M
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-505294(P2015-505294)
(86)(22)【出願日】2014年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2014001369
(87)【国際公開番号】WO2014141694
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-49315(P2013-49315)
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2012年9月13日「第73回応用物理学会学術講演会」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福士 大輔
(72)【発明者】
【氏名】日下 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】中野 佳代
(72)【発明者】
【氏名】新田 晃久
(72)【発明者】
【氏名】乾 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】大田 博康
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/096177(WO,A1)
【文献】 特開2009−131790(JP,A)
【文献】 特開2012−120967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンを5質量%以上100質量%以下の範囲で含有する酸化タングステン基微粒子を具備する光触媒体であって、
前記光触媒体のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、800cm−1以上810cm−1以下の範囲に観察されるピークの強度Yに対する920cm−1以上950cm−1以下の範囲に観察されるピークの強度Xの比(X/Y)が0.001以上0.035以下である光触媒体。
【請求項2】
前記酸化タングステン基微粒子は、タングステンを除く金属元素を0.001質量%以上50質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の光触媒体。
【請求項3】
前記金属元素は、チタン、ジルコニウム、マンガン、鉄、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、セリウム、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項2に記載の光触媒体。
【請求項4】
前記金属元素の含有量が0.005質量%以上10質量%以下の範囲である、請求項3に記載の光触媒体。
【請求項5】
前記酸化タングステン基微粒子は、酸化タングステンを除く金属酸化物を0.01質量%以上70質量%以下の範囲で含有する、請求項1に記載の光触媒体。
【請求項6】
前記金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、および酸化ルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項5に記載の光触媒体。
【請求項7】
前記酸化タングステン基微粒子は、1nm以上30μm以下の平均粒子径(D50)を有する、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光触媒体。
【請求項8】
分散媒と、前記分散媒中に0.001質量%以上50質量%以下の範囲で分散された、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の光触媒体とを具備する光触媒分散液。
【請求項9】
前記分散媒は水およびアルコールから選ばれる少なくとも1つである、請求項8に記載の光触媒分散液。
【請求項10】
前記光触媒分散液のpHが1以上9以下である、請求項9に記載の光触媒分散液。
【請求項11】
請求項8に記載の光触媒分散液と、無機バインダおよび有機バインダから選ばれる少なくとも1つのバインダ成分とを含有する光触媒塗料。
【請求項12】
請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の光触媒分散液を基材に塗布することにより形成された光触媒膜。
【請求項13】
請求項11に記載の光触媒塗料を基材に塗布することにより形成された光触媒膜。
【請求項14】
請求項12に記載の光触媒膜を具備する製品。
【請求項15】
請求項13に記載の光触媒膜を具備する製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光触媒体とそれを用いた光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜および製品に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚や消臭の用途に用いられる光触媒材料としては、酸化チタンが知られている。光触媒材料は屋外や屋内の建材、また照明装置、空気清浄機、エアコンのような家電機器、便器、洗面台、鏡、浴室等、様々な分野で用いられている。しかし、酸化チタンは励起が紫外光領域で起きるため、紫外光の少ない屋内では十分な光触媒性能が得られない。そこで、可視光下でも光触媒性能を示す可視光応答型光触媒の研究、開発が進められている。また、紫外光応答型の酸化チタンの可視光による光触媒性能を向上させるために、酸化チタンに窒素や硫黄をドープしたり、他の金属を担持させることが検討されている。
【0003】
可視光応答型光触媒としては、酸化タングステンが知られている。酸化タングステンを用いた光触媒膜は、例えば酸化タングステン微粒子を含有する分散液を、光触媒性能を付与する製品の基材表面に塗布することにより形成される。光触媒分散液としては、例えば平均一次粒子径(D50)が1〜400nmの範囲の酸化タングステン微粒子をpHが1.5〜6.5の範囲となるように水等に分散させた水系分散液が知られている。このような水系分散液によれば、酸化タングステン微粒子の分散性が高まり、また酸化タングステン微粒子を含む膜の形成性が向上する。従って、酸化タングステン微粒子の光触媒性能を安定して発揮させることが可能な光触媒膜を得ることができる。
【0004】
酸化チタンの可視光応答性能を向上させた光触媒は、光触媒活性が光量に比例するため、屋内照明の照度(数lx〜3000lx程度)による光量では十分な光触媒性能を得ることができない。従って、光触媒の応用が期待される居住空間では、照明光源の近傍や直下といった場所でしか効果を得ることができない。従来の酸化タングステン微粒子を含む光触媒膜は、例えば可視光の照度が2000lx程度の環境下で5%以上のガス分解率を示す。しかしながら、光触媒膜の実用性を考慮すると、アセトアルデヒド等の有害ガスの分解性能は必ずしも十分ではないため、低照度下におけるガス分解性能の向上が求められている。また、従来の酸化タングステン微粒子を含む光触媒膜は、ガスの吸着力が弱いため、ガス濃度が低い環境下ではガス分解速度が遅くなるという課題を有している。このようなことから、可視光応答型光触媒によるガス分解能の高性能化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/117655号
【特許文献2】国際公開第2009/031317号
【特許文献3】国際公開第2009/110234号
【発明の概要】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、可視光の照度が低い環境下やガス濃度が低い環境下においても、良好なガス分解能等の光触媒性能を発揮させることを可能にした光触媒体とそれを用いた光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜および製品を提供することにある。
【0007】
実施形態の光触媒体は、酸化タングステンを5質量%以上100質量%以下の範囲で含有する酸化タングステン基微粒子を具備する。光触媒体のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、800cm−1以上810cm−1以下の範囲に観察されるピークの強度Yに対する920cm−1以上950cm−1以下の範囲に観察されるピークの強度Xの比(X/Y)が0.001以上0.035以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】酸化タングステン微粒子の作製例における試料A(比較例)、試料D(実施例)、試料F(比較例)のラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の光触媒体、光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜、製品を実施するための形態について説明する。
【0010】
(光触媒体)
実施形態の光触媒体は、酸化タングステンを5〜100質量%の範囲で含有する酸化タングステン基微粒子を具備している。光触媒体を構成する酸化タングステン基微粒子としては、酸化タングステンの単独微粒子、または酸化タングステンと他の金属元素との混合体や複合体等の微粒子が挙げられる。実施形態の光触媒体において、酸化タングステンの含有量は5〜100質量%の範囲である。酸化タングステンの含有量が5質量%未満であると、酸化タングステン微粒子に基づく可視光応答型光触媒性能を十分に得ることができない。酸化タングステンの含有量は45質量%以上であることが好ましい。
【0011】
実施形態の光触媒体は、タングステンを除く金属元素(以下、添加金属元素と記す)を含有することができる。光触媒体に含有させる金属元素としては、タングステンを除く遷移金属元素、亜鉛等の亜鉛族元素、アルミニウム等の土類金属元素が挙げられる。遷移金属元素とは、原子番号21〜29、39〜47、57〜79、89〜109の元素であり、これらのうちタングステン(原子番号74)を除く金属元素を光触媒体に含有させることができる。亜鉛族元素は原子番号30、48、80の元素であり、土類金属元素は原子番号13、31、49、81の元素である。これらの金属元素を光触媒体に含有させてもよい。金属元素を適量の範囲で光触媒体に含有させることによって、光触媒体の可視光応答型の光触媒性能を向上させることができる。
【0012】
光触媒体における添加金属元素の含有量は0.001〜50質量%の範囲であることが好ましい。添加金属元素の含有量が0.001質量%未満であると、光触媒性能の向上効果を十分に得ることができない。添加金属元素の含有量が50質量%を超えると、酸化タングステンの含有量が相対的に減少することで、酸化タングステンの微粒子に基づく光触媒性能が低下するおそれがある。添加金属元素の含有量は0.005〜10質量%の範囲であることがより好ましい。このような範囲で添加金属元素を光触媒体に含有させることによって、実施形態の光触媒体の光触媒性能を効果的に向上させることができる。
【0013】
光触媒体に含有させる金属元素(添加金属元素)は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、セリウム(Ce)、およびアルミニウム(Al)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属元素を光触媒体に0.005〜10質量%の範囲で含有させることによって、実施形態の光触媒体の光触媒性能をより効果的に向上させることができる。
【0014】
光触媒体における添加金属元素の存在形態の代表例としては、金属酸化物が挙げられる。光触媒体は、酸化タングステン以外に添加金属元素の酸化物を含有することが好ましい。光触媒体における添加金属元素の酸化物の含有量は0.01〜70質量%の範囲であることが好ましい。このような範囲で添加金属元素の酸化物を光触媒体に含有させることで、光触媒体の光触媒性能をより向上させることができる。添加金属元素の酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、および酸化ルテニウムから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。このような金属酸化物を光触媒体に含有させることによって、光触媒性能をより有効に向上させることができる。光触媒体における酸化タングステン以外の金属酸化物の含有量は0.02〜55質量%の範囲であることがより好ましい。
【0015】
実施形態の光触媒体において、添加金属元素は各種の形態で含有させることができる。光触媒体は、添加金属元素の単体、酸化物等の化合物、酸化タングステンとの複合化合物等として、添加金属元素を含有することができる。添加金属元素は2種類以上の金属元素により複合酸化物を形成していてもよい。さらに、添加金属元素の単体や化合物は、酸化タングステンに担持されていてもよい。あるいは、酸化タングステンが添加金属元素の化合物等に担持されていてもよい。
【0016】
添加金属元素を含有する酸化タングステン基微粒子の具体例としては、酸化タングステン微粒子と添加金属元素の単体微粒子(金属微粒子)や化合物微粒子等との混合物、酸化タングステンと添加金属元素の単体や化合物等との混合物微粒子、酸化タングステンと添加金属元素の単体や化合物等との合金微粒子、酸化タングステンと添加金属元素の単体や化合物等との複合化合物微粒子、酸化タングステンと添加金属元素の単体や化合物等との担持体微粒子等が挙げられる。これらの微粒子は酸化タングステン基微粒子の一例であり、実施形態の光触媒体はこれらに限定されるものではない。
【0017】
実施形態の光触媒体に添加金属元素を含有させる場合において、酸化タングステンと添加金属元素との複合方法は、特に限定されるものではない。酸化タングステンと添加金属元素とを混合または複合するにあたって、酸化タングステン粉末と添加金属元素の単体粉末(金属粉末)や化合物粉末(例えば金属酸化物粉末)とを混合する方法、少なくとも一方を溶液、分散液、ゾル等として混合する方法、含浸法、担持法等の種々の混合法または複合法を適用することができる。例えば、添加する金属酸化物が酸化ジルコニウムの場合、酸化ジルコニウムは種々の形状のものを適用できるが、一次粒子が棒状であることが好ましい。棒状の一次粒子が凝集した粒子を有する酸化ジルコニウムのゾルを、酸化タングステン微粒子やそれを水等に分散させた分散液と混合することが好ましい。
【0018】
実施形態の光触媒体は、微量の不純物として金属元素等を含有していてもよい。不純物元素としての金属元素の含有量は2質量%以下であることが好ましい。不純物金属元素としては、タングステン鉱石中に一般的に含まれる元素や、原料として使用するタングステン化合物を製造する際に混入する汚染元素等が挙げられる。不純物金属元素としては、Fe、Mo、Mn、Cu、Ti、Al、Ca、Ni、Cr、Mg等が例示される。ただし、これらの元素を添加金属元素として用いる場合には、この限りではない。
【0019】
実施形態の光触媒体は、その結晶性や表面状態等の微細構造をラマン分光法で分析したときに以下の特徴を有する。光触媒体のラマン分光法による測定結果としてのラマンスペクトルにおいて、800〜810cm−1の範囲に観察されるピークの強度Yに対して、920〜950cm−1の範囲に観察されるピークの強度Xの比(X/Y)が、0<X/Y≦0.04の範囲である。このようなラマンピークの強度比(X/Y)を光触媒体が有する場合に、酸化タングステン微粒子をベースとする光触媒体のガス分解能等の光触媒性能を向上させることができる。具体的には、可視光の照度が低い環境下やガス濃度が低い環境下においても、良好なガス分解能等の光触媒性能を得ることが可能になる。
【0020】
すなわち、酸化タングステン微粒子は可視光の照射下でガス分解能等の光触媒性能を発揮する。しかし、可視光の照度が低い環境下においては、酸化タングステンの光触媒性能を十分に発揮させることができない。さらに、酸化タングステンはガス濃度が初期濃度から低下するにつれてガスの分解速度が遅くなる。これは、ガスの分解時に生成する中間物質に対する酸化タングステンの分解性能が低く、またガスの低濃度環境下では酸化タングステンのガス吸着力が低いためと考えられる。本発明者等は、低照度の可視光の照射下における酸化タングステンのガス分解能、さらに酸化タングステンの中間物質の分解性能や低濃度下におけるガスの吸着力を向上させるにあたって、ラマンスペクトルのピーク強度比(X/Y)を0<X/Y≦0.04の範囲にすることが有効であることを見出した。
【0021】
ラマンスペクトルにおけるピーク強度比(X/Y)は、酸化タングステン基微粒子の結晶性や表面の欠損状態等を表している。ピーク強度比(X/Y)を0を超えて0.04以下の範囲に制御することによって、光触媒体(酸化タングステン基微粒子)の光触媒活性を効果的に高めることができる。ピーク強度比(X/Y)が零であると、酸化タングステン微粒子の結晶性が向上するものの、酸化タングステン微粒子の表面に酸素欠陥等がほとんどない状態になると考えられる。このような状態では高いガス分解能を得ることができない。ピークの強度比(X/Y)は0.001以上であることがより好ましい。ピーク強度比(X/Y)が0.04を超えると、酸素欠陥等の表面欠陥の量が増えすぎて光触媒活性が逆に低下するため、高いガス分解性能を得ることができない。ピークの強度比(X/Y)は0.03以下であることがより好ましい。
【0022】
光触媒体のラマンピークの強度比(X/Y)が0を超えて0.04以下の範囲である場合に、酸化タングステン基微粒子の結晶状態や表面状態(表面欠陥の存在程度等)を光触媒に適した状態に制御することができる。このため、低照度の可視光下における酸化タングステン基微粒子のガス分解性能を高めることができる。さらに、ガス濃度が低い状態での酸化タングステン基微粒子による中間物質の分解性能やガス吸着力を高めることができる。実施形態の光触媒体によれば、可視光の照度が低い環境下やガス濃度が低い環境下においても高いガス分解性能を発揮させることができる。加えて、実施形態の光触媒体は紫外光の照射環境下においてもガス分解性能を発揮する。実施形態の光触媒体によれば、従来の光触媒体より幅広い条件下でガス分解性能を発揮させることができる。これらによって、実用性を向上させた光触媒体を提供することが可能になる。
【0023】
上述した光触媒体のラマンピークの強度比(X/Y)は、酸化タングステン基微粒子を作製した後に実施する熱処理条件、例えば熱処理雰囲気や熱処理温度等を制御することにより得ることができる。さらに、酸化タングステン基微粒子の表面状態等は、保管状態における環境温度等によっても変化するため、これらの条件を調整することでラマンピークの強度比(X/Y)が適切な範囲に維持される。後に詳述するように、酸化タングステン基微粒子の作製後に実施する熱処理の温度は200〜800℃の範囲とすることが好ましい。さらに、酸化タングステン基微粒子の結晶性や表面状態を適切な状態に調整するためには、熱処理時における昇温速度や降温速度を制御することが好ましい。
【0024】
酸化タングステンの結晶性に関しては、結晶性が高いほど光触媒性能を向上させることができる。ただし、酸化タングステンの結晶性を過度に高めるような条件下で熱処理を実施すると、酸化タングステンが粒成長して微粒子の比表面積が小さくなる。さらに、酸化タングステンの結晶性を高めすぎると、微粒子表面の酸素欠損等の表面欠陥がほとんどない状態となる。これらは、光触媒体の光触媒性能を低下させる要因となる。このような点を考慮した場合においても、光触媒体のラマンピークの強度比(X/Y)を、0を超えて0.04以下の範囲に制御することによって、酸化タングステンの結晶性、微粒子の表面状態や粒径等が適度な状態に調整される。従って、ガス分解能等の光触媒性能に優れ、実用性をより一層向上させた光触媒体を提供することが可能になる。
【0025】
実施形態の光触媒体を構成する酸化タングステン基微粒子において、ラマンスペクトルのピーク強度比(X/Y)が0を超えて0.04以下の範囲であることに加えて、光触媒体のラマンスペクトルが268〜274cm−1の範囲内に存在する第1ピーク(ピーク強度比が最も大きいピーク)、630〜720cm−1の範囲内に存在する第2ピーク(ピーク強度比が2番目に大きいピーク)、および800〜810cm−1の範囲内に存在する第3ピーク(ピーク強度比が3番目に大きいピーク)を有することが好ましい。
【0026】
さらに、第1ピークの半値幅は8〜25cm−1の範囲内であることが好ましい。第2ピークの半値幅は15〜75cm−1の範囲内であることが好ましい、第3ピークの半値幅は15〜50cm−1の範囲内であることが好ましい。これらのラマンピークは、酸化タングステンの結晶が単斜晶、三斜晶、および斜方晶から選ばれる少なくとも1つを含む結晶構造を有することを示し、それらの中でも特に可視光応答型の光触媒に適した結晶構造であることを示している。このような結晶構造を有する酸化タングステン基微粒子によれば、優れた光触媒性能を安定して発揮させることができる。
【0027】
実施形態におけるラマンスペクトルは、波長が514.5nmのArイオンレーザを用い、温度20〜30℃、湿度30〜70%の条件下で測定するものとする。ラマンスペクトルのピーク強度について、ピーク強度Xは波数が900cm−1のスペクトル値と1000cm−1のスペクトル値に引いた直線を零点とし、ピーク強度Yは波数が1000cm−1のスペクトル値を零点とし、それらからピークの頂点までの強度とする。具体的には、920〜950cm−1の範囲に存在する最大ピークの頂点までの強度Xと、800〜810cm−1の範囲に存在する最大ピークの頂点までの強度Yとを測定し、これら強度Xと強度Yとからピーク強度比(X/Y)を求める。
【0028】
光触媒体を構成する酸化タングステンは、主にWO(三酸化タングステン)からなることが好ましい。酸化タングステンは実質的にWOからなることが好ましいが、ラマンスペクトルのピーク強度比(X/Y)を満足していれば、他のタングステン酸化物(WO、WO、W、W、W11等)を含んでいてもよい。酸化タングステン基微粒子の平均粒子径(D50)は1nm以上30μm以下であることが好ましい。酸化タングステン基微粒子の平均粒子径(D50)は50nm以上1μm以下であることがより好ましい。酸化タングステン基微粒子の粒度分布において、D90径は0.05〜10μmであることが好ましい。酸化タングステン基微粒子のBET比表面積は4.1〜820m/gであることが好ましく、さらに好ましくは10〜300m/gである。
【0029】
光触媒分散液は、後述するように酸化タングステン基微粒子を水系分散媒と混合し、これを超音波分散機、湿式ジェットミル、ビーズミル等で分散処理することにより作製される。このようにして得られる光触媒分散液において、酸化タングステン基微粒子を具備する光触媒体は、一次粒子が凝集した凝集粒子を含んでいる。凝集粒子も含めて湿式のレーザ回折式粒度分布計等により粒度分布を測定し、体積基準の積算径におけるD50径が1nm以上30μm以下の場合に、良好な分散状態と均一で安定な膜形成性とを得ることができ、その結果として高い光触媒性能を得ることができる。
【0030】
酸化タングステン基微粒子のD50径が30μmを超えると、光触媒分散液として十分な特性を得ることができない。酸化タングステン基微粒子のD50径が1nmより小さい場合には、粒子が小さすぎて光触媒体の取扱い性が劣り、光触媒体とそれを用いた分散液の実用性が低下する。さらに、酸化タングステン基微粒子のD90径が0.05μm未満の場合には、酸化タングステン基微粒子の分散性が低下する。このため、均一な分散液や塗料が得られにくくなる。D90径が10μmを超えると、分散液や塗料を用いて均一で安定な膜を形成することが困難になり、光触媒性能を十分に発揮させることができない。さらに、光触媒体を膜化した際の光触媒性能を高めるためには、分散液を作製するときの分散処理で微粒子に歪を与えすぎないようにすることが好ましい。
【0031】
実施形態の光触媒体は、その色をL*a*b*表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系)で表したとき、a*が10以下、b*が−5以上、L*が50以上の体色を有することが好ましい。L*a*b*表色系は物体色を表すのに用いられる方法であり、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本ではJIS Z−8729で規定されている。このような色を有する光触媒体およびそれを水系分散媒に分散させた分散液を使用して光触媒膜を形成することによって、良好な光触媒性能が得られるだけでなく、基材の色調を損なうことがない。従って、光触媒膜を有する製品本来の特性や品質に加えて、光触媒膜に基づく光触媒性能を安定して発揮させることが可能になる。
【0032】
実施形態の光触媒体を主として構成する酸化タングステン微粒子は、以下に示す方法で作製することが好ましい。ただし、酸化タングステン基微粒子の作製方法は、特に限定されるものではない。酸化タングステン基微粒子は昇華工程を適用して作製することが好ましい。さらに、昇華工程に熱処理工程を組合せることが好ましい。このような方法で作製した酸化タングステン基微粒子によれば、上述したラマンピークの強度比(X/Y)やそれに基づく結晶状態、結晶構造、平均粒子径等を安定して実現することができる。
【0033】
まず、昇華工程について述べる。昇華工程は、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、酸化タングステン微粒子を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、昇華させながら酸化させることによって、微粒子状態の酸化タングステンを得ることができる。
【0034】
昇華工程の原料(タングステン原料)には、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液のいずれを使用してもよい。原料として使用するタングステン化合物としては、例えば三酸化タングステン(WO)、二酸化タングステン(WO)、低級酸化物等の酸化タングステン、炭化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸等が挙げられる。
【0035】
上述したようなタングステン原料の昇華工程を酸素雰囲気中で行うことで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を瞬時に固相から気相とし、さらに気相となった金属タングステン蒸気を酸化することによって、酸化タングステン微粒子が得られる。溶液を使用した場合でも、タングステン酸化物あるいは化合物を経て気相となる。このように、気相での酸化反応を利用することによって、酸化タングステン微粒子を得ることができる。さらに、酸化タングステン微粒子の結晶構造等を制御することができる。
【0036】
昇華工程の原料としては、酸素雰囲気中で昇華して得られる酸化タングステン微粒子に不純物が含まれにくいことから、金属タングステン粉末、酸化タングステン粉末、炭化タングステン粉末、およびタングステン酸アンモニウム粉末から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。金属タングステン粉末や酸化タングステン粉末は、昇華工程で形成される副生成物(酸化タングステン以外の物質)として有害なものが含まれないことから、特に昇華工程の原料として好ましい。
【0037】
原料に用いるタングステン化合物としては、その構成元素としてタングステン(W)と酸素(O)を含む化合物が好ましい。構成成分としてWおよびOを含んでいると、昇華工程で後述する誘導結合型プラズマ処理等を適用した際に瞬時に昇華されやすくなる。このようなタングステン化合物としては、WO、W2058、W1849、WO等が挙げられる。また、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムの溶液あるいは塩等も有効である。
【0038】
酸化タングステンと添加金属元素の単体や化合物等との複合体微粒子を作製する場合には、タングステン原料に加えて、遷移金属元素や土類金属元素等の金属元素を、金属、酸化物を含む化合物、複合化合物等の形態で混ぜてもよい。酸化タングステンを他の金属元素と同時に処理することによって、酸化タングステンと他の金属元素との複合酸化物等の複合化合物微粒子を得ることができる。複合体微粒子は、酸化タングステン微粒子を他の金属元素の単体粒子や化合物粒子と混合、担持させることによっても得ることができる。酸化タングステンと他の金属元素との複合方法は特に限定されるものではなく、各種公知の方法を適用することが可能である。
【0039】
タングステン原料としての金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は0.1〜100μmの範囲の平均粒子径を有することが好ましい。タングステン原料の平均粒子径は0.3μm〜10μmの範囲がより好ましくは、さらに好ましくは0.3μm〜3μmの範囲、望ましくは0.3μm〜1.5μmの範囲である。上記範囲内の平均粒子径を有する金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると、昇華が生じやすい。タングステン原料の平均粒子径が0.1μm未満の場合には原料粉が微細すぎるため、原料粉の事前調整が必要になったり、取扱い性が低下することに加えて、高価になるために工業的に好ましくない。タングステン原料の平均粒子径が100μmを超えると均一な昇華反応が起きにくくなる。平均粒子径が大きくても大きなエネルギー量で処理すれば均一な昇華反応を生じさせることができるが、工業的には好ましくない。
【0040】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選ばれる少なくとも1種の処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理ではレーザまたは電子線を照射して昇華工程を行う。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒子径や供給量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0041】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる。また、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガスバーナー処理は生産性の点で劣るものである。なお、ガスバーナー処理は昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではない。プロパンガスバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0042】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合、通常アルゴンガスや酸素ガスを用いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法としては、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散させた分散液を吹き込む方法等が挙げられる。
【0043】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をプラズマ中に吹き込む場合に用いられるキャリアガスとしては、例えば空気、酸素、酸素を含有した不活性ガス等が挙げられる。これらのうち、空気は低コストであるために好ましく用いられる。キャリアガスの他に酸素を含む反応ガスを流入する場合や、タングステン化合物粉末が酸化タングステンの場合等、反応場中に酸素が十分に含まれているときには、キャリアガスとしてアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。反応ガスには酸素や酸素を含む不活性ガス等を用いることが好ましい。酸素を含む不活性ガスを用いる場合、酸化反応に必要な酸素量を十分に供給することが可能なように、酸素量を設定することが好ましい。
【0044】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法を適用すると共に、ガス流量や反応容器内の圧力等を調整することによって、酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種(単斜晶、三斜晶、または単斜晶と三斜晶との混晶)、あるいはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する酸化タングステン微粒子が得られやすい。酸化タングステン微粒子の結晶構造は、単斜晶と三斜晶とが混在する結晶構造、単斜晶と斜方晶とが混在する結晶構造、三斜晶と斜方晶とが混在する結晶構造、単斜晶と三斜晶と斜方晶とが混在する結晶構造のいずれかであることが好ましい。
【0045】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末の分散液の作製に用いられる分散媒としては、分子中に酸素原子を有する液状分散媒が挙げられる。分散液を用いると原料粉の取扱いが容易になる。分子中に酸素原子を有する液状分散媒としては、例えば水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を20容量%以上含むものが用いられる。液状分散媒として用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。水やアルコールはプラズマの熱で容易に揮発しやすいため、原料粉の昇華反応や酸化反応を妨害することはなく、分子中に酸素を含有していることから酸化反応を促進しやすい。
【0046】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散媒に分散させて分散液を作製する場合、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は分散液中に10〜95質量%の範囲で含ませることが好ましく、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲である。このような範囲で分散液中の分散させることで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液中に均一に分散させることができる。均一に分散していると原料粉の昇華反応が均一に生じやすい。分散液中の含有量が10質量%未満では原料粉の量が少なすぎて効率よく製造ができない。95質量%を超えると分散液が少なく、原料粉の粘性が増大することで、容器にこびりつき易くなるために取扱い性が低下する。
【0047】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液にしてプラズマ中に吹き込む方法を適用することによって、酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種、またはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する酸化タングステン微粒子が得られやすい。さらに、タングステン化合物溶液を原料として用いることによっても、昇華反応を均一に行うことができ、さらに酸化タングステン微粒子の結晶構造の制御性が向上する。上記したような分散液を用いる方法は、アーク放電処理にも適用することが可能である。
【0048】
レーザや電子線を照射して昇華工程を実施する場合は、金属タングステンやタングステン化合物をペレット状にしたものを原料として使用することが好ましい。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末を用いると供給が困難になるが、ペレット状にした金属タングステンやタングステン化合物を用いることで効率よく昇華させることができる。レーザは金属タングステンやタングステン化合物を昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではないが、CO2レーザが高エネルギーであるために好ましい。
【0049】
レーザや電子線をペレットに照射する際に、レーザ光や電子線の照射源またはペレットの少なくとも一方を移動させると、ある程度の大きさを有するペレットの全面を有効に昇華することができる。これによって、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種に斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン粉末が得られやくなる。上記したようなペレットは誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理にも適用可能である。
【0050】
実施形態の光触媒体は、上述した昇華工程で得た酸化タングステン基微粒子を熱処理することにより再現性よく得ることができる。熱処理工程においては、昇華工程で得られた酸化タングステン基微粒子を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱処理する。熱処理工程は、空気中や酸素含有ガス中で実施することが好ましい。酸素含有ガスとは、酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は200〜800℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは340〜650℃の範囲である。熱処理時間は10分〜5時間の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜2時間の範囲である。熱処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、酸化タングステン基微粒子の結晶性や表面欠陥の存在量等が光触媒に適した状態となる。
【0051】
熱処理温度が200℃未満の場合には、昇華工程で三酸化タングステンにならなかった粉末を三酸化タングステンにするための酸化効果を十分に得ることができないおそれがある。さらに、昇華工程で得た三酸化タングステンの結晶性を十分に高めることができない。熱処理温度が800℃を超えると酸化タングステンの結晶性が過度に高まり、微粒子表面の酸素欠損等の表面欠陥がほとんどない状態になりやすい。いずれの場合にも、酸化タングステン基微粒子の光触媒活性を十分に高めることができない。さらに、熱処理時における昇温速度や降温速度を適切な範囲に調整することによって、酸化タングステン基微粒子の結晶性や表面状態を再現性よく光触媒に適した状態に制御することができる。熱処理工程は、設定温度まで昇温した炉中に酸化タングステン粉末を入れ、所定時間経過した後に、酸化タングステン粉末を炉から取り出して、室温にて降温させることが好ましい。熱処理時の昇温速度は80〜800℃/分の範囲とすることが好ましく、降温速度は−800〜−13℃/分の範囲とすることが好ましい。
【0052】
(光触媒分散液、光触媒塗料、光触媒膜、および製品)
次に、実施形態の光触媒分散液および光触媒塗料、さらにそれらを用いて形成した光触媒膜および光触媒膜を具備する製品について説明する。実施形態の光触媒分散液は、水系分散媒中に実施形態の光触媒体を粒子濃度が0.001〜50質量%の範囲となるように分散させたものである。粒子濃度が0.001質量%未満であると光触媒体の含有量が不足し、所望の性能を得ることができない。粒子濃度が50質量%を超えると、膜化した際に光触媒体の微粒子が近接しすぎた状態で存在し、光触媒性能を十分に発揮させるための表面積を得ることができない。このため、十分な性能を発揮させることができないだけでなく、必要以上に光触媒体を含有するためにコストの増加を招くことになる。光触媒体の濃度は0.01〜20質量%の範囲であることがより好ましい。
【0053】
実施形態の光触媒分散液において、分散液のpHは1〜9の範囲であることが好ましい。光触媒分散液のpHを1〜9の範囲にすることで、ゼータ電位がマイナスとなるため、光触媒体の分散状態を高めることができる。このような分散液やそれを用いた塗料によれば、基材に薄くむらなく塗布することができる。光触媒分散液のpHが1より小さいと、ゼータ電位が零に近づくために分散性が低下する。光触媒分散液のpHが9より大きいと、酸化タングステンが溶解しやすくなる。光触媒分散液のpHを調整するために、必要に応じて塩酸、硫酸、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、アンモニア、水酸化ナトリウム等の酸やアルカリ水溶液を添加してもよい。
【0054】
光触媒分散液のpHは2.5〜7.5の範囲であることがより好ましい。これによって、分散液や塗料を用いて形成した膜の光触媒性能(ガス分解性能)をより高めることができる。pHが2.5〜7.5の範囲の光触媒分散液を塗布して乾燥させた後に、FT−IR(フーリエ変換赤外吸収分光法)で粒子の表面状態を観察すると3700cm−1付近に水酸基の吸収が見られる。このような膜を光触媒膜として用いることによって、優れた有機ガス分解性能を得ることができる。pHを8に調整した光触媒分散液を塗布して乾燥させた場合、水酸基の吸収が減少し、ガス分解性能も低下しやすくなる。光触媒分散液のpHを1.5に調整した場合、水酸基は存在するものの、ゼータ電位が0に近づくことで分散性が若干低下し、ガス分解性能も若干低下する。
【0055】
実施形態の光触媒分散液は、水系分散媒中に実施形態の光触媒体を分散させることにより得られる。水系分散媒中に分散させる光触媒体は、前述したように酸化タングステンの単独微粒子に限らず、酸化タングステンと他の金属元素との混合体や複合体等の微粒子であってもよい。酸化タングステンと他の金属元素とは、予め混合もくしは複合した状態で水系分散媒中に分散させてもよいし、水系分散媒中で混合体もくしは複合体としてもよい。タングステン以外の金属元素の種類や形態等は前述した通りである。
【0056】
酸化タングステンと他の金属元素とを分散媒中で混合もくしは複合する方法は、特に限定されるものではない。代表的な複合法を以下に記載する。ルテニウムを複合する方法としては、酸化タングステン微粒子を分散させた水系分散液に塩化ルテニウムの水溶液を添加する方法が挙げられる。白金を複合する方法としては、酸化タングステン微粒子を含有する水系分散液に白金粉末を混合する方法が挙げられる。さらに、硝酸銅や硫酸銅の水溶液やエタノール溶液を用いた銅の複合方法、塩化鉄水溶液を用いた鉄の複合方法、塩化銀水溶液を用いた銀の複合方法、塩化白金酸水溶液を用いた白金の複合方法、塩化パラジウム水溶液を用いたパラジウムの複合方法等も有効である。また、酸化チタンゾルやアルミナゾル等の酸化物ゾルを用いて、酸化タングステンと金属元素(酸化物)とを複合させてもよい。これら以外にも各種の複合方法の適用が可能である。
【0057】
実施形態の光触媒分散液には、水系分散媒が用いられる。水系分散媒の代表例としては水が挙げられる。水系分散媒は水以外にアルコールを50質量%未満の範囲で含有していてもよい。アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が用いられる。アルコールの含有量が20質量%を超えると、光触媒体によっては凝集するおそれがあるため、アルコールの含有量は20質量%以下とすることがより好ましい。アルコールの含有量は10質量%以下とすることがさらに好ましい。実施形態の光触媒体は、活性炭やゼオライト等の吸着性能を有する材料と混合、担持、含浸させた状態で、水やアルコール等の水系分散媒中に分散させてもよい。光触媒分散液は、このような状態の光触媒体を含有していてもよい。
【0058】
実施形態の光触媒分散液は、そのままの状態で膜形成材料として用いることができる。光触媒分散液はバインダ成分と混合して塗料を作製し、この塗料を膜形成材料として用いてもよい。塗料は水系分散液と無機バインダおよび有機バインダから選ばれる少なくとも1種のバインダ成分を含有する。バインダ成分の含有量は5〜95質量%の範囲とすることが好ましい。バインダ成分の含有量が95質量%を超えると、所望の光触媒性能を得ることができないおそれがある。バインダ成分の含有量が5質量%未満の場合には十分な結合力が得られず、膜特性が低下するおそれがある。このような塗料を塗布することによって、膜の強度、硬さ、基材への密着力等を所望の状態に調整することができる。
【0059】
無機バインダとしては、例えばアルキルシリケート、ハロゲン化ケイ素、およびこれらの部分加水分解物等の加水分解性ケイ素化合物を分解して得られる生成物、有機ポリシロキサン化合物とその重縮合物、シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ素化合物、リン酸亜鉛等のリン酸塩、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、重リン酸塩、セメント、石膏、石灰、ほうろう用フリット等が用いられる。有機バインダとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等が用いられる。
【0060】
上述した光触媒分散液や光触媒塗料を基材に塗布することによって、光触媒体を含有する膜を安定かつ均一に形成することができる。光触媒膜を形成する基材としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、アクリル等の樹脂、紙、繊維、金属、木材等が用いられる。膜厚は2〜1000nmの範囲であることが好ましい。膜厚が2nm未満であると、酸化タングステン基微粒子を均一に存在させた状態が得られないおそれがある。膜厚が1000nmを超えると、光触媒膜の基材に対する密着力が低下する。膜厚は2〜400nmの範囲であることがより好ましい。
【0061】
実施形態の光触媒膜は、可視光のみならず紫外光の照射下においても光触媒性能を発揮する。一般に、可視光とは波長が380〜830nmの領域の光であり、太陽光、あるいは白色蛍光灯、白色LED、電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の一般照明や、青色発光ダイオード、青色レーザ等を光源として照射される光である。紫外光とは波長が10〜400nmの領域の光であり、太陽や水銀灯等から照射される光に含まれている。実施形態の光触媒膜は、通常の屋内環境下で光触媒性能を発揮するのみならず、紫外光の照射下においても光触媒性能を発揮する。光触媒性能とは、光を吸収して光子1個に対し一対の電子と正孔が励起され、励起された電子と正孔が表面にある水酸基や酸を酸化還元により活性化し、その活性化で発生した活性酸素種によって、有機ガス等を酸化分解する作用であり、さらに親水性や抗菌・除菌性能等を発揮する作用である。
【0062】
実施形態の製品は、上述した光触媒分散液や光触媒塗料を用いて形成した膜を具備するものである。具体的には、製品を構成する基材の表面に光触媒分散液や光触媒塗料を塗布して膜を形成したものである。基材表面に形成する膜は、ゼオライト、活性炭、多孔質セラミックス等を含有していてもよい。光触媒膜やそれを具備する製品は、可視光の照射下におけるアセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の有機ガスの分解性能に優れ、特に低照度においても高活性を示す。また、従来の可視光応答型光触媒よりも、紫外光の照射下においても高い光触媒性能を有し、使用環境を広げることができる。実施形態の光触媒膜は水の接触角測定で親水性を示す。さらに、黄色ブドウ球菌や大腸菌に対する可視光の照射下での抗菌性評価において、高い抗菌作用を発揮するものである。
【0063】
実施形態の光触媒膜を具備する製品の具体例としては、エアコン、空気清浄機、扇風機、冷蔵庫、電子レンジ、食器洗浄乾燥機、炊飯器、ポット、鍋蓋、IHヒータ、洗濯機、掃除機、照明器具(ランプ、器具本体、シェード等)、衛生用品、便器、洗面台、鏡、浴室(壁、天井、床等)、建材(室内壁、天井材、床、外壁等)、インテリア用品(カーテン、絨毯、テーブル、椅子、ソファ、棚、ベッド、寝具等)、ガラス、サッシ、手すり、ドア、ノブ、衣服、家電製品等に使用されるフィルタ、文房具、台所用品、自動車の室内空間で用いられる部材等が挙げられる。実施形態の光触媒膜を具備することで、製品に光触媒効果を付与することができる。適用する基材としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、アクリル等の樹脂、紙、繊維、金属、木材等が挙げられる。
【0064】
基材に繊維を用いる場合、繊維材料としてはポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿、羊毛、絹等の天然繊維、それらの混繊、交織、混紡品等が用いられる。繊維材料はバラ毛状であってもよい。繊維は織物、編物、不織布等のいかなる形態を有していてもよく、通常の染色加工やプリントが施されているものであってもよい。光触媒分散液を繊維材料に適用する場合、実施形態による光触媒体を樹脂バインダと併用し、これを繊維材料に固定する方法が便利である。
【0065】
樹脂バインダとしては、水溶解型、水分散型、溶剤可溶型の樹脂を使用することができる。具体的には、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等が用いられるが、これらに限定されるものではない。実施形態の光触媒分散液を用いて光触媒体を繊維材料に固定する場合、例えば光触媒分散液を水分散性や水溶解性の樹脂バインダと混合して樹脂液を作製し、この樹脂液に繊維材料を含浸した後、マングルロール等で絞って乾燥させる。樹脂液を増粘することによって、繊維材料の片面にナイフコーター等の公知の装置でコートすることができる。グラビヤロールを用いて繊維材料の片面もしくは両面に光触媒体を付着させることも可能である。
【0066】
光触媒分散液を用いて光触媒体を繊維表面に付着させる場合において、付着量が少なすぎると酸化タングステンが有するガス分解性能や抗菌性能といった光触媒性能を十分に発揮させることができない。付着量が多すぎる場合には、酸化タングステンが有する性能は発揮されるものの、繊維材料としての風合いが低下する場合がある。このため、材質や用途に応じて適正な付着量を選択することが好ましい。光触媒分散液に含有される光触媒体を表面に付着させた繊維を用いた衣類やインテリア用品は、室内環境における可視光の照射下で優れた消臭効果や抗菌効果を発揮させることができる。また紫外光が照射した場合においても光触媒性能を発揮する。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお、以下の実施例では粉末の製造方法として、昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用した方法を使用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1、比較例1)
原料粉末として平均粒子径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとしてアルゴンを40L/min、酸素を40L/minの流量で流した。このようにして、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を経て、酸化タングステン粉末を作製した。熱処理していない酸化タングステン粉末を試料A(比較例)とした。上記した酸化タングステン粉末を、大気中にて300℃、500℃、575℃、600℃の各温度で熱処理することによって、試料B〜E(実施例)を調製した。また、同一の酸化タングステン粉末を、大気中にて1000℃の温度で熱処理することによって、試料F(比較例)を調製した。熱処理時間はそれぞれ1時間とした。また、試料B〜Eを作製するにあたって、熱処理時の昇温は所定温度に急熱し、1時間経過後に炉から取り出して室温で降温させた。
【0069】
試料A〜F(酸化タングステン粉末)の平均一次粒子径(D50)とBET比表面積を測定した。平均一次粒子径はTEM写真の画像解析によって測定した。TEM観察には日立社製H−7100FAを使用し、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求めてD50径を算出した。BET比表面積の測定はマウンテック社製の比表面積測定装置・Macsorb1201(商品名)を用いて行った。前処理は窒素中にて200℃×20分の条件で実施した。試料A〜Fの平均一次粒子径(D50径)とBET比表面積の測定結果を表1に示す。
【0070】
次に、試料A〜F(酸化タングステン粉末)のラマン分光分析を行った。各試料のラマンスペクトルを、フォトンデザイン社製のスペクトログラフ・PDP−320(商品名)を用いて、温度25℃、湿度50%の環境下で測定した。測定条件は、測定モードを顕微ラマンとし、測定倍率を100倍、ビーム径を1μm以下、光源を波長514.5nmのArレーザ、管でのレーザーパワーを0.5mW、回折格子をシングル600gr/mm、クロススリットを100μm、スリットを100μmとし、検出器を日本ローパー社製の1340チャンネルのCCDとした。ラマンシフトの測定範囲は100〜1500cm−1とした。試料A、試料D、および試料Fの測定結果であるラマンスペクトルを図1に示す。各試料のラマンスペクトルにおいて、268〜274cm−1の範囲内に存在する第1ピーク、630〜720cm−1の範囲内に存在する第2ピーク、800〜810cm−1の範囲内に存在する第3ピークの各波数を調べた。さらに、ピークの強度Yに対する920cm−1以上950cm−1以下の範囲内に存在するピークの強度Xの比(X/Y)をそれぞれ算出した。これらの結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
次に、試料A〜Fの酸化タングステン粉末を、粒子濃度が10質量%となるように水中に分散させることによって、それぞれ光触媒分散液を作製した。得られた光触媒分散液を後述する特性評価に供した。
【0073】
(実施例2、比較例2)
実施例1および比較例1と同一の試料A〜Fの酸化タングステン粉末を用いて、以下のように光触媒分散液を作製した。まず、酸化タングステン粉末をその濃度が10質量%となるように水中に分散させた。酸化タングステン粉末を水中に分散させた分散液と、平均一次粒子径(D50)が70nmの酸化ジルコニウム粉末を水中に分散させた水系分散液とを、酸化タングステンと酸化ジルコニウムとの合計量に対する酸化ジルコニウムの割合が33質量%となるように混合した。混合分散液のpHが6.5〜5.5の範囲となるように、混合分散液を塩酸とアンモニアで調整した。分散処理はビーズミルを用いて実施した。このようにして得た光触媒分散液の粒子濃度は10質量%であった。
【0074】
(実施例3、比較例3)
実施例1および比較例1と同一の試料A〜Fの酸化タングステン粉末を用いて、以下のように光触媒分散液を作製した。酸化タングステン粉末をその濃度が10質量%となるように水中に分散させた。酸化タングステン粉末を水中に分散させた分散液と、塩化ルテニウム溶液とを、酸化タングステンと酸化ルテニウムとの合計量に対する酸化ルテニウムの割合が0.02質量%となるように混合した。混合液にアンモニアを滴下してpHを7に調整した。さらに、混合液に平均粒子径(D50)が70nmの酸化ジルコニウム粉末を水中に分散させた水系分散液を滴下して、pHを6.5〜5.5の範囲に調整した。分散液における酸化タングステンと酸化ルテニウムと酸化ジルコニウムとの混合比は、これらの合計量に対して酸化ルテニウムの割合が約0.017質量%、酸化ジルコニウムの割合が約33質量%である。得られた得た光触媒分散液の粒子濃度は13質量%であった。
【0075】
(実施例4、比較例4)
実施例1および比較例1と同一の試料A〜Fの酸化タングステン粉末を用いて、以下のように光触媒分散液を作製した。酸化タングステン粉末をその濃度が10質量%となるように水中に分散させた。酸化タングステン粉末を水中に分散させた分散液に、平均粒子径が2nmの白金粒子を、酸化タングステンと白金との合計量に対する白金の割合が0.02質量%となるように混合して光触媒分散液を作製した。
【0076】
次に、実施例1〜4および比較例1〜4で作製した光触媒分散液を用いて、ガラス表面に光触媒膜を形成した。光触媒膜の可視光の照射下における光触媒性能を評価した。光触媒性能はアセトアルデヒドガスの分解率を測定することにより評価した。具体的には、JIS−R−1701−1(2004)の窒素酸化物の除去性能(分解能力)評価と同様の流通式の装置を用いて、以下に示す条件でガス分解率を測定した。
【0077】
アセトアルデヒドガスの分解試験は以下のようにして実施した。アセトアルデヒドの初期濃度は10ppm、ガス流量は140mL/min、試料量は0.2gとする。試料の調整は5×10cmのガラス板に塗布して乾燥させる。前処理はブラックライトで12時間照射する。光源に白色蛍光灯(東芝ライテック社製FL20SS・W/18)を使用し、紫外線カットフィルタ(日東樹脂工業社製クラレックスN−169)を用い、380nm未満の波長をカットする。照度は1000lxに調整する。初めに光を照射せずに、ガス吸着がなくなり安定するまで待つ。安定した後に光照射を開始する。
【0078】
このような条件下で光を照射し、15分後のガス濃度を測定してガス分解率を求める。ただし、15分経過後もガス濃度が安定しない場合には、安定するまで継続して濃度を測定する。光照射前のガス濃度をA、光照射から15分以上経過し、かつ安定したときのガス濃度をBとし、これらガス濃度Aとガス濃度Bから[式:(A−B)/A×100]に基づいて算出した値をガス分解率(%)とする。ガス分析装置としてはINOVA社製マルチガスモニタ1412を使用した。ガス分解率の測定結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示すように、実施例1〜4の光触媒分散液を用いて形成した光触媒膜は、アセトアルデヒドの分解速度が速く、また完全分解していることが確認された。これは、ラマンピークの強度比(X/Y)が0を超えて0.04以下の範囲であり、酸化タングステン微粒子の結晶状態や表面状態等が光触媒に適した状態になっているためであると考えられる。従って、可視光の照度が低く、かつガスの濃度が低い環境下においても、光触媒膜のガス分解性能を高めることができる。さらに、酸化ジルコニウムがガスを吸着することで、光触媒膜のガス分解性能がさらに向上する。
【0081】
次に、実施例1〜4および比較例1〜4の光触媒分散液をアクリル樹脂系の樹脂液に混合し、この混合液(塗料)に目付150g/mのポリエステルからなる平織物を含浸させることによって、可視光応答型の光触媒体を付着させたポリエステル繊維を作製した。それぞれの繊維から5×10cmの試料を切り取り、それぞれ前述と同様の方法で可視光の照射下における光触媒性能を評価した。その結果、実施例1〜4の光触媒体を付着させたポリエステル繊維は、比較例1〜4で作製した光触媒分散液を用いた塗料を含浸させた繊維よりも、アセトアルデヒドガスの分解率が高いことが確認された。さらに、同様に作製したサンプルを10個準備し、性能のばらつきを評価したところ、実施例の分散液は優れた分散性を有するため、繊維への光触媒体の付着量が安定していることが確認された。また、ポリエステル繊維は均一な風合いを保っていることが確認された。
【0082】
上述した実施例の光触媒分散液は優れた分散性を有するため、均一な光触媒膜を得ることができる。そして、光触媒膜の光触媒性能に基づいて、アセトアルデヒド等の有機ガスの分解性能を安定して得ることができ、さらに視覚的に色ムラ等の問題も生じにくい。このため、自動車の室内空間で使用される部材、工場、商店、学校、公共施設、病院、福祉施設、宿泊施設、住宅等で使用される建材、内装材、家電等に好適に用いられる。また、実施例の光触媒体は、可視光の照度が低い環境下、可視光に加えて紫外光が照射される環境下、さらにガス濃度が低い環境下においても、高いガス分解性能を発揮する。このような光触媒体を含有する分散液や塗料を用いて、室内の内装材やインテリア等に光触媒膜を形成することによって、優れた防臭、脱臭効果を得ることが可能となる。このような膜や製品は実施例の光触媒体が有する特性を活かして各種用途に適用することができる。
【0083】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1