特許第6356946号(P6356946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356946
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】チーズ類、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/064 20060101AFI20180702BHJP
   A23C 19/068 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   A23C19/064
   A23C19/068
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-66731(P2013-66731)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-187937(P2014-187937A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上辻 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大熊 明子
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 有哉
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 孝一郎
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06319526(US,B1)
【文献】 米国特許第05925398(US,A)
【文献】 特開2004−000118(JP,A)
【文献】 特開2004−105048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 19/00−19/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を凝固させる凝固工程と、
前記凝固工程後にホエーを分離してカードを調製するカード調製工程と、
前記カード調製工程で得られたカードを80〜100℃の温湯中へ投入し、加熱混練して餅状に変化させた後、前記餅状に変化させたカードを60℃以上の温度に保ったまま、前記餅状に変化させたカードに対して、0.05〜6.0重量%のクエン酸、ポリリン酸、ジリン酸、モノリン酸、ピロリン酸の塩から選択されるいずれか1種以上の溶融塩および0.5〜3.5重量%の塩とを同時または溶融塩を添加した後に塩を添加し、加熱しながら再度混練する加熱混練工程と、
前記加熱混練工程で得られたカードを成型する成型工程を有し、浸漬加塩する工程を有さないことを特徴とし、円柱プランジャーによる押し込み試験を、(1)最終製品であるチーズ類を60℃に加温したものをサンプルとし、レオナーの円柱プランジャー(直径16mm)を備えた検出器に対し、チーズ類のサンプルを乗せた試験台が1mm/秒速度で上昇し、チーズ類に円柱プランジャーが接触してから9mm貫入する、(2)円柱プランジャーがチーズ類に貫入した際の最大の荷重(gf)を測定し、チーズ類の最大荷重値としたとき、最大荷重値が30〜70gfであるチーズ類の製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩が、クエン酸である請求項1に記載のチーズ類の製造方法。


以 上
【請求項3】
前記溶融塩を前記カード調製工程で得られたカードに対して、2.5重量%配合することを特徴とする請求項1または2に記載のチーズ類の製造方法。
【請求項4】
前記塩を前記カード調製工程で得られたカードに対して、2重量%配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
【請求項5】
前記チーズ類がパスタフィラータ様チーズであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
【請求項6】
前記加熱混練工程における加熱方法が、間接蒸気、直接蒸気、ジュール加熱、温湯加熱から選択されるいずれか1種以上である請求項1〜5のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
【請求項7】
前記加熱混練工程において、さらに風味物質を添加する工程を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
以 上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ類、およびその製造方法に関する。本発明のチーズ類は、乳の凝固作用によって起こるカード形成直後の段階から溶融塩および塩を添加して加熱混練することで、チーズを塩水漬けにする必要が無く、パスタフィラータ様の弾力性を有することを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
一般にチーズ類のうち、プロセスチーズ類は、ナチュラルチーズを原料として粉砕し、溶融塩、および副原料を添加して、加熱、溶融、乳化の工程を経て製造され、加熱融解のプロセスを経ることで保存性を向上させることが大きな特長となっている。その際に、溶融塩や原料チーズの種類、熟成期間等を制御することにより、最終製品にナチュラルチーズ様の物性を持たせることができる。具体的には、プロセスチーズ類であっても加熱調理時に糸曳き性を有するチーズ(特許文献1)や、クリームチーズのような風味を有するプロセスチーズ(特許文献2)等が挙げられる。
【0003】
一方、チーズ類のうち従来のナチュラルチーズであるパスタフィラータチーズは、一般に原料乳を凝固させてカードを得た後に、80〜100℃に温調した温湯へカードを投入しながら混練して餅状にし、成型して塩水に浸漬、容器に充填する工程からなる(非特許文献1)。チーズを塩水漬けにするのは、風味付けと保存性を向上させるために必須の工程であり、製造する上で大規模な設備を必要とすることや、塩水の管理など手間やコストがかかる問題点があった。またこのため、パスタフィラータチーズに胡椒やバジル等の様々な風味物質を添加する製品を作る場合に、風味物質により塩水が汚れてしまうことから実現が困難であった。また、塩水漬けによる加塩方法の他に、カードに乾塩をまぶす加塩方法が一般的に知られているが、乾塩をチーズに直接接触させて加塩する方法は、チーズ表面に過度な脱水を引き起こし、結果、歩留まりが悪くなること、脂肪味が無くなること、食感が悪くなること等の問題点があった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−115702号公報
【特許文献2】特開2012−187069号公報
【特許文献3】特許第4531161号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中澤勇二外編「新説チーズ科学」株式会社食品資材研究会 1989年9月1日、76頁図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、パスタフィラータチーズの製造に関するこれらの問題点を鑑み、鋭意検討を進めたところ、原料乳を凝固しただけのカードに対して乾塩をまぶすこと等で加塩し、かつ、同時かそれ以前に溶融塩を添加して温湯中などで加熱しながら混練することにより、乳脂肪の損失を防ぎつつパスタフィラータチーズのような餅状の物性を有するチーズ類が得られることを見出した。
したがって、本発明は、従来のパスタフィラータチーズの製造に用いられる成型したカードを浸漬加塩する工程や設備を必要とせず、弾力性を有するパスタフィラータチーズ特有の物性(以下、パスタフィラータ様、という)、またフレッシュでミルキーな風味を有するチーズ類およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、原料乳を凝固することで得られたカードに対し、溶融塩と塩とを同時または溶融塩を添加した後に塩を添加し、加熱しながら混練することで、オイルオフせずに餅状となるチーズ類を製造するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)原料乳を凝固させる凝固工程と、前記凝固工程後にホエーを分離してカードを調製するカード調製工程と、前記カード調製工程で得られたカードに溶融塩および塩を添加して加熱混練する加熱混練工程と、前記加熱混練工程で得られたカードを成型する成型工程を有することを特徴とするチーズ類の製造方法。
(2)前記溶融塩が、クエン酸、ポリリン酸、ジリン酸、モノリン酸、ピロリン酸の塩から選択されるいずれか1種以上である上記(1)に記載のチーズ類の製造方法。
(3)前記溶融塩を前記カード調製工程で得られたカードに対して、0.05〜6.0重量%配合することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のチーズ類の製造方法。
(4)前記塩を前記カード調製工程で得られたカードに対して、0.5〜3.5重量%配合することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
(5)前記チーズ類がパスタフィラータ様チーズであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
(6)前記加熱混練工程における加熱方法が、間接蒸気、直接蒸気、ジュール加熱、温湯加熱から選択されるいずれか1種以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
(7)前記加熱混練工程において、さらに風味物質を添加する工程を有することを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のチーズ類の製造方法。
(8)溶融塩を0.05〜6.0重量%、塩を0.5〜3.5重量%含有することを特徴とするパスタフィラータ様チーズ。
(9)さらに風味物質を添加した上記(8)に記載のパスタフィラータ様チーズ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のパスタフィラータチーズの製造に必須である成型したカードを浸漬加塩する工程や設備が必要とせず、良好な弾力性を有するパスタフィラータ様のチーズ類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、原料乳を凝固させる凝固工程と、前記凝固工程後にホエーを分離してカードを調製するカード調製工程と、前記カード調製工程で得られたカードに溶融塩および塩を添加して加熱混練する加熱混練工程と、前記加熱混練工程で得られたカードを成型する成型工程を有することによりチーズ類を製造する。
【0011】
以下、パスタフィラータ様チーズの製造方法を例に挙げて、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
[凝固工程]
本発明の方法においては、通常のナチュラルチーズと同様の凝固工程を用いることができる。
本発明に使用することができる原料乳としては、従来のチーズ製造に用いられる乳を用いることができる。すなわち、生乳、脱脂乳、部分脱脂乳、これらの混合物、これらとクリーム等の混合物も使用することができる。また原料乳の由来は、牛、山羊、羊など通常のチーズ製造に用いられるものであれば特に限定されない。この原料乳からカードを作るには、チーズ製造におけるカード製造の常法に従って行うことができる。例えば、乳脂肪含量を0.5〜5.5%に調整した原料乳にレンネットやスターター乳酸菌を添加して適温に保持してカードを凝固させればよい。
【0013】
[カード調製工程]
カード調整工程では、凝固工程後にホエーを分離してカードを調製する。ホエーの分離方法については、ホエーセパレーター等を用いることが出来るが、従来のチーズ製造に用いられる方法であれば特に限定はされない。
【0014】
[加熱混練工程]
本発明では、カード調製工程で得られたカードに溶融塩および塩を添加して加熱混練する。たとえば、カード調製工程で得られたカードを80〜100℃の温湯中へ投入し、加熱混練して餅状に変化させた後、溶融塩および塩を添加し、再度混練する。この際に、カード温度は60℃以上の温度に保ったまま加熱混練工程に供すると、混練適性が高くなることが明らかとなっている。溶融塩および塩は、カードを加熱混練する前に添加することもできるし、加熱混練中に添加することもできる。また加熱方法は、温湯以外にも間接蒸気、直接蒸気、ジュール加熱、従来のチーズ製造に用いる方法であれば特に限定はされない。
【0015】
本発明で用いる溶融塩としては特に限定されず、プロセスチーズ類の製造に用いる一般的な溶融塩を用いることができるが、例えば、クエン酸、ポリリン酸、ジリン酸、モノリン酸、ピロリン酸等の塩を挙げることができるが特に限定されるものではない。添加する溶融塩量は、カード調製工程で得られたカードに対して、好ましくは0.05〜6.0重量%添加することができる。0.05重量%未満であると、乳化不安定となりオイルオフが発生し、6.0重量%超であるとカードが硬くなるなどの理由より好ましくない。
【0016】
本発明で用いる塩としては特に限定されず、チーズの製造に用いる一般的な塩を用いることができる。例えば、精製塩、特殊精製塩、食塩、並塩、原塩、粉砕塩、加工塩等を挙げることができるが特に限定されるものではない。また、塩味強化剤や食塩代替物も用いることができる。例えば、グアニル酸2ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができるが特に限定されるものではない。本発明では、塩をカード調製工程で得られたカードに対して、好ましくは0.5〜3.5重量%添加することができる。0.5重量%未満であると、塩味不足となり風味が悪く、3.5重量%超であると塩味が強すぎる理由より好ましくない。
【0017】
本発明では、溶融塩および塩を用いることにより、フレッシュでミルキーな風味を有し、かつ弾力性を有するパスタフィラータ様チーズを得ることができる。塩のみを用いた場合には、食塩を添加したカードがオイルオフを起こしてしまい、パサパサとした物性となってしまうが、溶融塩を合わせて用いることにより、オイルオフが発生せずにもちもちとした弾力性のある物性を有する。従来のように、成型したカードを浸漬加塩してチーズを調製した場合、食塩などの塩がチーズの内部まで浸透しないため、チーズの内部に比べてチーズの外側の塩味が強くなる。一方、本発明では、塩を直接カードに混練しているため、塩がチーズ類の内部や外側も含めて均一に含有されることにより、均一なフレッシュでミルキーな風味とすることができる。
【0018】
[成型工程]
加熱混練工程で得られたカードを一定の大きさにカットして成型する。たとえば、加熱混練したカードを熱水から取り出した後、押出孔を通して押出し延伸し、そのまま、あるいは適当に板状または棒状等に成型して切断して成型することができる。
【0019】
本発明の製造方法で得られたチーズ類は、弾力性、繊維性を有する。なお、風味物質として、油脂成分、こしょうや唐辛子等の香辛料、フレーバー、細片化したハムやサーモン等の固形食品や調味料などを配合して風味の変化を図ることもできる。これらの風味物質は加熱混練工程時に添加することにより、カードの内部や周りも含めて均一に含有される。なお、風味物質をカード調製工程で得られたカードに対して、好ましくは0.1〜1.0%添加できる。さらに、浸漬加塩工程を有さないため、浸漬の際に浸漬水に風味物質が流出して浸漬水の汚染を防止することもできる。なお、本発明では、風味物質をカードに直接混練しているため、風味物質がチーズ類の内部や外側も含めて均一に含有されることにより、均一な風味とすることができる。
【0020】
本発明は、溶融塩を0.05〜6.0重量%、塩を0.5〜3.5重量%含有するパスタフィラータ様チーズ、好ましくは、溶融塩を0.1〜5.0重量%、塩を1.0〜3.0重量%含有するパスタフィラータ様チーズも本発明の範囲内である。さらに上記パスタフィラータ様チーズに風味物質を添加したパスタフィラータ様チーズ、好ましくは、風味物質を0.1〜1.0%添加した上記パスタフィラータ様チーズも本発明の範囲内である。
【0021】
本発明のパスタフィラータ様チーズとは、ハードチーズのような歯にきしむような食感ではなく、モッツアレラ、プロヴォローネ、カッチョカヴァッロ、スカモルツァ、ストリングチーズ等のパスタフィラータチーズのように、弾力性を有するパスタフィラータチーズ特有の物性を有するチーズ類をいう。
【0022】
本発明のチーズ類の弾力性は、例えば、円柱プランジャーによる押し込み試験にて、最大荷重値が10〜120gf、好ましくは30〜97gf、より好ましくは60〜70gfを有する。円柱プランジャーによる押し込み試験方法は、(1)最終製品であるチーズ類を60℃に加温したものをサンプルとし、レオナー(山電社製RE-33005)の円柱プランジャー(直径16mm)を備えた検出器に対し、チーズ類のサンプルを乗せた試験台が1mm/秒速度で上昇し、チーズ類に円柱プランジャーが接触してから9mm貫入する、(2)円柱プランジャーがチーズ類に貫入した際の最大の荷重(gf)を測定し、チーズ類の最大荷重値とする。チーズ類が弾力性を有する(大きい)ほど、最大荷重値の値が大きくなる。
【0023】
以下に実施例、参考例及び試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
以下の実施例、参考例で得られた実施例品、参考例品について、官能評価試験を行った。評価項目は、オイルオフ(カードからオイルが滲出しているかどうか)、弾力性(餅状の物性を有するかどうか)、風味、保存性の4項目とした。官能評価は訓練を積んだ専門パネラー5人によって絶対評価3点法で行った。その結果は、次の評価基準に基づいて評価した。
オイルオフ 1:カードからオイルが滲出している。
2:カードからオイルがやや滲出している。
3:カードからオイルが滲出していない。
弾力性 1:餅状の弾力性がない。
2:餅状の弾力性をやや有する。
3:餅状の弾力性を有する。
風味 1:塩味の強弱が強く、風味が悪い。
2:塩味の強弱がやや強いが、風味が良い。
3:塩味が適度であり、風味が良い。
保存性 1:保存性がなく、品質の劣化が起こりやすい。
2:やや保存性を有する。品質の劣化がやや起こりにくい。
3:保存性を有する。品質の劣化が起こりにくい。
【0025】
[参考例1](塩のみの例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩を2.0%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズ(参考例品1)を得た。
【0026】
[参考例2](溶融塩のみの例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、クエン酸塩を2.5%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズ(参考例品2)を得た。
【0027】
[参考例3](塩+カゼインの例)
溶融塩の代わりに乳化力のあるカゼインを用いて試験を行った。乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩を2.0%、カゼインNaを1.0%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズ(参考例品3)を得た。
【0028】
[実施例1](塩+溶融塩の例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩を2.0%、クエン酸塩を2.5%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズ(実施例品1)を得た。
【0029】
【表1】
【0030】
表1より、参考例品1(塩のみ)では加熱混練の工程でオイルオフが発生し、結果としてカードが硬くなり弾力性も悪く、脂肪がロスし風味も悪くなった。また保存による劣化が早かった。また参考例品2(溶融塩のみ)は、オイルオフは起こらず弾力性も良好であったが塩味が弱く感じられた。また、保存性も悪かった。参考例品3(塩+カゼイン)はオイルオフがやや起こり、塩味も弱かった。
これに対し、実施例品1(塩+溶融塩)においては加熱混練の工程でオイルオフは起こらず、カードは弾力性に富み、なおかつ塩味が適度であり脂肪感の感じられる良好なフレッシュでミルキーな風味を有していた。また、塩がチーズの内部や外側も含めて均一に含有され、均一な風味を有していた。さらに、保存性も良好であった。なお、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有していた。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は60gfであった。
【0031】
[実施例2](塩の濃度を振った例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩を各水準ごとに0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%と、クエン酸塩2.5%とを添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズ(実施例品2〜8)を得た。
【0032】
【表2】
【0033】
表2より、いずれの実施例品もオイルオフ、弾力性は良好であった。しかし、食塩濃度0.5%の実施例品では塩味がやや弱く感じられた。また3.5%とした実施例品では塩味がやや強く感じられた。これに対し、特に、実施例品3〜7(食塩濃度1.0%〜3.0%)は適度な塩味を有しており良好であった。また実施例品の保存性は、食塩濃度0.5%のものは早期に品質が劣化したが、食塩濃度1.0%以上の実施例品は充分な保存性を有していた。なお、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有しており、さらに、塩がチーズの内部や外側も含めて均一に含有され、均一な風味を有していた。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は60gfであった。
【0034】
[実施例3](溶融塩の濃度を振った例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩2.0%とクエン酸塩を各水準ごとに0.05%、0.1%、1.0%、2.5%、5.0%、6.0%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズ(実施例品9〜14)を得た。
【0035】
【表3】
【0036】
表3より、溶融塩が0.05%の実施例品ではややオイルオフが発生し、溶融塩が6.0%の実施例品ではややカードが硬くなったが、実施例品9〜14は餅状の弾力性、充分な保存性を有していた。特に、実施例品10〜13(溶融塩濃度0.1%〜5.0%)においては、オイルオフが抑えられた上、弾力性も風味も良好であった。なお、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有しており、さらに、塩がチーズの内部や外側も含めて均一に含有され、均一な風味を有していた。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は70gfであった。
【0037】
[実施例4](溶融塩の種類を変えた例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩2.0%と、溶融塩は各水準ごとにクエン酸、ポリリン酸、ジリン酸、モノリン酸、ピロリン酸の塩をそれぞれ2.5%ずつ添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズを得た。いずれの実施例品も若干の溶融塩の種類による差異はあるものの、オイルオフが抑えられ、かつ餅状の弾力性を有し、塩味が適度で風味も良好であった。なお、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有しており、さらに、塩がチーズの内部や外側も含めて均一に含有され、均一な風味を有していた。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は60gfであった。
【0038】
[実施例5](こしょうなど風味物質を添加した例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩2.0%およびクエン酸塩2.5%、およびその他風味物質(黒胡椒、粉末バジル、粉末トウガラシ、細片化したハム、細片化したサーモン、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム)をそれぞれ0.4%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、風味物質が練りこまれたパスタフィラータ様チーズを得た。いずれの風味物質を添加した実施例品もオイルオフが抑えられ、かつ餅状の弾力性を有し、塩味が適度で風味も良好であった。なお、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有しており、さらに、塩や風味物質がチーズの内部や外側も含めて均一に含有され、均一な風味を有していた。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は70gfであった。
【0039】
[実施例6](ストリング、フレッシュモッツアレラの例)
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、食塩2.0%およびクエン酸塩2.5%を添加し、加熱混練した。さらに、得られたカードを一方向へ延伸し、適度な大きさに切断することによって良好な繊維性、糸曳き性を有するストリングチーズが得られた。また、このパスタフィラータ様チーズを小さくちぎり取り、丸く成型することによって良好な弾力性を有するフレッシュモザレラチーズが得られた。このパスタフィラータ様チーズの加熱混練工程において、風味物質を加えた上で成型することで、風味物質がチーズ内部や外側も含めて均一に練りこまれたストリングチーズやフレッシュモザレラチーズを得ることができた。また、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有していた。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は、ストリングが70gf、フレッシュモッツアレラが30gfであった。
【0040】
[実施例7]
乳脂肪を2.5%に調整した原料乳に対し、殺菌を行い、レンネットとスターター乳酸菌を加えて凝固反応させた。発酵が終わった後、ホエーセパレーターによってホエーを分離、除去した。得られたカードを冷却することなく、塩化カリウムを2.0%、クエン酸塩を2.5%添加して加熱混練し、一定の大きさで成型、切断し、パスタフィラータ様チーズを得た。得られたチーズは、加熱混練の工程でオイルオフは起こらず、カードは弾力性に富み、なおかつ塩味が適度であり脂肪感の感じられる良好な風味を有していた。なお、従来の浸漬加塩工程により製造したチーズと同等の弾力性を有しており、さらに、塩がチーズの内部や外側も含めて均一に含有され、均一な風味を有していた。また、保存性も良好であった。実施例品の円柱プランジャーによる押し込み試験の最大荷重値は60gfであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、良好な弾力性を有するパスタフィラータチーズ特有の物性、またフレッシュでミルキーな風味を有するチーズ類を提供できる。また、風味物質として、油脂成分、こしょうや唐辛子等の香辛料、フレーバー、細片化したハムやサーモン等の固形食品や調味料などを配合して風味の変化を図ることもできる。