【文献】
Macromolecular Symposia,2010年,291-292,307-313,特に、要約、309頁右欄−312頁左欄を参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物≫
細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物(単に感光性樹脂組成物とも記載する。)は、(A)光重合性モノマーと、(B)光重合開始剤とを含む。そして、(A)光重合性モノマーは、(A)光重合性モノマーの質量に対して10質量%以上の3官能以上の(A1)多官能モノマーを含む。さらに、感光性樹脂組成物中の(B)光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物の質量に対して0.5〜5.0質量%である。
【0019】
本発明の細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物は、上記の特定の組成であるため、細胞毒性が低く、細胞を良好に培養できる細胞培養基材を形成することができる。また、本発明の細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物を用いると、光硬化によって細胞培養基材を形成できるため、射出成型や熱プレス成型のような、高価な設備を用いる方法を用いることなく、安価に細胞培養基材を形成することができる。
【0020】
感光性樹脂組成物を用いて形成される細胞培養基材の形状は特に限定されない。感光性樹脂組成物を用いて形成される細胞培養基材は、平滑な細胞培養面を備えるものでもよく、凹凸のパターンが形成された細胞培養面を備えるものでもよい。細胞培養基材に凹凸のパターンを形成する方法については後述する。
【0021】
凹凸のパターンを備える細胞培養基材を、射出成型や熱プレス成型のような方法で形成する場合、高温の成型条件に耐えうる金属材料からなり、精密に加工されている、高価な鋳型や金型が必要である。この場合、鋳型や金型が高価であることに起因して、小ロットでの細胞培養基材の生産が困難であったり、細胞培養基材表面のパターン形状が制限されたりする。
【0022】
しかし、本発明の細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物を用いる場合、光硬化によって細胞培養基材を形成できる。本発明の細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物を用いて細胞培養基材に凹凸のパターンを形成する場合、加工が容易で安価な光硬化性樹脂組成物のような有機材料を用いて形成された鋳型を用いることができる。このため、本発明の細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物を用いると、凹凸パターン形状を種々変更する場合でも多種の細胞培養基材を、低コスト且つ容易に製造することができる。
【0023】
以下、感光性樹脂組成物に含まれる成分と、感光性樹脂組成物の製造方法とについて順に説明する。なお、(A)光重合性モノマーの説明中、EOはエチレンオキシドを意味し、POはプロピレンオキシドを意味する。
【0024】
〔(A)光重合性モノマー〕
(A)光重合性モノマーは、光重合可能なものであれば特に限定されず、従来から感光性樹脂組成物に使用されている種々の光重合性化合物から選択することができる。(A)光重合性モノマーとしては、感光性樹脂組成物の保存安定性等の点から、エチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましい。エチレン性不飽和結合を有する化合物に含まれる光重合性の官能基の好適な例としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びアリル基等が挙げられる。エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、単官能、2官能、又は3官能以上の多官能の、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニル化合物、及びアリル化合物を用いることができる。
【0025】
(A)光重合性モノマーは、3官能以上の(A1)多官能モノマーを、(A)光重合性モノマーの質量に対して10質量%以上含有する。(A)光重合性モノマー中の(A1)多官能モノマーの含有量は、10〜30質量%がより好ましく、15〜25質量%以下が特に好ましい。このような量の(A1)多官能モノマーを含む(A)光重合性モノマーを用いることで、細胞を良好に培養できる細胞培養基材を形成できる感光性樹脂組成物が得られる。
【0026】
樹脂製の細胞培養基材の細胞毒性の一因は、細胞培養基材に含まれる微量のモノマーやオリゴマーであると推測される。感光性樹脂組成物が所定量の(A1)多官能モノマーを含む場合、(A1)多官能モノマーの多官能性に起因して、感光性樹脂組成物を露光により硬化させた後に、硬化した感光性樹脂組成物中のモノマーやオリゴマー量が低減されるため、(A1)多官能モノマーを含む(A)光重合性モノマーを用いることで、細胞を良好に培養できる細胞培養基材が形成されると考えられる。
【0027】
また、このような量の(A1)多官能モノマーを含む(A)光重合性モノマーを用いることで、感光性樹脂組成物を用いて形成された細胞培養基材を溶剤でリンスする際に、細胞培養基材のリンス液への溶解を抑制することができる。
【0028】
(A)光重合性モノマーがエチレン性不飽和結合を有する化合物である場合、(A1)多官能モノマーは、3つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物であって、本発明の目的を阻害しないものであれば特に限定されない。エチレン性不飽和結合を有する(A1)多官能モノマーが有するエチレン性不飽和結合の数は、3以上であり、3〜6が好ましい。
【0029】
エチレン性不飽和結合を有する(A1)多官能モノマーの好適な例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上のアクリレート;ポリイソシアネート化合物とヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートモノマーと、を反応させて得られる多官能ウレタン(メタ)アクリレート;多価アルコールとN−メチロール(メタ)アクリルアミドとの縮合物が挙げられる。これらの(A1)多官能モノマーは、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
(A)光重合性モノマーは、前述の3官能以上の(A1)多官能モノマーに加え、(A)光重合性モノマーの質量に対して20質量%以上の(A2)2官能モノマーを含むのが好ましい。(A)光重合性モノマー中の(A2)2官能モノマーの含有量は、40〜90質量%がより好ましく、50〜90質量%以下が特に好ましい。(A1)多官能モノマーがエチレン性不飽和結合を有する化合物である場合、(A2)2官能モノマーとしては、2つのエチレン性不飽和結合を有する化合物を用いる。
【0031】
例えば、(A)光重合性モノマーが、後述する(A3)単官能モノマーと(A1)多官能モノマーとからなる場合、感光性樹脂組成物を露光により硬化させた後に、硬化物中に(A3)単官能モノマーがやや残存しやすい場合がある。また、(A)光重合性モノマーが、90質量%を超えるような量の(A1)多官能モノマーを含む場合、感光性樹脂組成物を露光により硬化させる場合に、硬化物の架橋密度が上がりすぎるために、ラジカル重合がスムーズに進行しにくく、硬化物中に(A)光重合性モノマーがやや残留しやすい場合がある。
【0032】
しかし、(A)光重合性モノマーが、前述の量の(A1)多官能モノマーに加え、上記の量の(A2)2官能モノマーを含む場合、(A)光重合性モノマーのラジカル重合を良好に進行させることができ、感光性樹脂組成物を露光により硬化させた硬化物中の(A)光重合性モノマーの残留を抑制することができる。
【0033】
エチレン性不飽和結合を有する(A2)2官能モノマーの中では、下記式(1):
【化1】
(式(1)中、R
aはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Xは下記式(2):
−(C
2H
4O)
k−(C
3H
6O)
l−(Y)
j−(
OC2H4)
m−(
OC3H6)
n−・・・(2)
で表される2価の基であり、Yは下記式(Y1)〜(Y3):
【化2】
で表される2価の基から選択される基であり、k、l、m、及びnはそれぞれ0以上の整数であり、k、l、m、及びnの和は2〜6の整数であり、jは
1である。)
で表される化合物が好ましい。
【0034】
上記式(1)で表される(A2)2官能モノマーを用いることで、適度な柔軟性と機械的強度とを有する細胞培養基材を形成可能な感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0035】
また、(A2)2官能モノマーとしては、上記式(1)で表される化合物の他の化合物を用いることもできる。上記式(1)で表される化合物以外に使用することができる(A2)2官能モノマーの例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンポリトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、ウレタンモノマー、γ−クロロ−β−ヒドロキシプロピル−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチル−o−フタレート、β−ヒドロキシエチル−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチル−o−フタレート、及びβ−ヒドロキシプロピル−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチル−o−フタレート等が挙げられる。
【0036】
上記グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物としては、例えば、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記ウレタンモノマーとしては、例えば、β位に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーとイソホロンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等との付加反応物、EO変性ウレタンジ(メタ)アクリレート、及びEO,PO変性ウレタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
(A2)2官能モノマー中の上記式(1)で表される化合物の含有量は特に限定されないが、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。
【0038】
(A)光重合性モノマーは(A3)単官能モノマーを含んでいてもよいが、細胞毒性の低い硬化物を形成しやすい点からは、(A)光重合性モノマーは(A3)単官能モノマーを含まないのが好ましい。(A)光重合性モノマー中の(A3)単官能モノマーの含有量は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。(A1)多官能モノマーがエチレン性不飽和結合を有する化合物である場合、(A3)単官能モノマーとしては、1つのエチレン性不飽和結合を有する化合物を用いる。
【0039】
(A3)単官能モノマーとして好適に使用できるエチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、スチレン類等が挙げられる。これらの化合物は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノールのEO付加物の(メタ)アクリレート、フェノールのPO付加物の(メタ)アクリレート、フェノールのEO/PO共付加物の(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、EO/PO共重合体のモノ(メタ)アクリレート、及びEO/PO共重合体のモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−アリール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−アリール(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0042】
アリル化合物としては、酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリル等のアリルエステル類;アリルオキシエタノール;等が挙げられる。
【0043】
ビニルエーテル類としては、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;ビニルフェニルエーテル、ビニルトリルエーテル、ビニルクロルフェニルエーテル、ビニル−2,4−ジクロルフェニルエーテル、ビニルナフチルエーテル、ビニルアントラニルエーテル等のビニルアリールエーテル;等が挙げられる。
【0044】
ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロルアセテート、ビニルジクロルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルフエニルアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロル安息香酸ビニル、テトラクロル安息香酸ビニル、ナフトエ酸ビニル等が挙げられる。
【0045】
スチレン類としては、スチレン;メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、デシルスチレン、ベンジルスチレン、クロルメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン等のアルキルスチレン;メトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレン等のアルコキシスチレン;クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、テトラクロロスチレン、ペンタクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、トリフルオロスチレン、2−ブロモ−4−トリフルオロメチルスチレン、4−フルオロ−3−トリフルオロメチルスチレン等のハロスチレン;等が挙げられる。
【0046】
(A)光重合性モノマーは、以上説明したモノマーのうち(A1)多官能モノマーと(A2)2官能モノマーとからなるのが好ましい。(A)光重合性モノマーが(A1)多官能モノマーと(A2)2官能モノマーとからなる場合、(A1)多官能モノマーの質量の(A2)2官能モノマーの質量に対する比率((A1)多官能モノマーの質量/(A2)2官能モノマーの質量)は、10/90〜80/20が好ましく、15/85〜70〜30がより好ましい。
【0047】
〔(B)光重合開始剤〕
感光性樹脂組成物は、感光性樹脂組成物の質量に対して0.5〜5.0質量%、好ましくは1.0〜4.0質量%の(B)光重合開始剤を含む。感光性樹脂がこのような量の(B)光重合開始剤を含むことで、感光性樹脂組成物を露光により硬化させて得られる硬化物の、残留モノマーと、(B)光重合開始剤とに起因する細胞毒性を低減することができる。
【0048】
(B)光重合開始剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、(A)光重合性モノマーの種類に応じて従来使用される光重合開始剤から適宜選択される。エチレン性不飽和結合を有する(A)光重合性モノマーを用いる場合の好適な(B)光重合性化合物の例としては、としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾル−3−イル],1−(o−アセチルオキシム)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、4−ベンゾイル−4’−メチルジメチルスルフィド、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ−2−エチルヘキシル安息香酸、4−ジメチルアミノ−2−イソアミル安息香酸、ベンジル−β−メトキシエチルアセタール、ベンジルジメチルケタール、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテン、2−メチルチオキサンテン、2−イソプロピルチオキサンテン、2−エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、クメンパーオキシド、2−メルカプトベンゾイミダール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)−イミダゾリル二量体、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジベンゾスベロン、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス−(9−アクリジニル)ヘプタン、1,5−ビス−(9−アクリジニル)ペンタン、1,3−ビス−(9−アクリジニル)プロパン、p−メトキシトリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(5−メチルフラン−2−イル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(フラン−2−イル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−エトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−n−ブトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(3−ブロモ−4−メトキシ)フェニル−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(2−ブロモ−4−メトキシ)フェニル−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(3−ブロモ−4−メトキシ)スチリルフェニル−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(2−ブロモ−4−メトキシ)スチリルフェニル−s−トリアジン等が挙げられる。これらの中でも、感光性樹脂組成物を用いて形成される細胞培養基材の細胞毒性が低い点で、α−アミノアルキルフェノン系光重合開始剤、及びオキシムエステル系光重合開始剤から選択される光重合開始剤が好ましい。これらの(B)光重合開始剤は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
〔(C)その他の成分〕
感光性樹脂組成物は、(A)光重合性モノマー及び(B)光重合開始剤の他に、必要に応じて、溶剤、界面活性剤、密着性向上剤、熱重合禁止剤、消泡剤等の添加剤を含有させることができる。いずれの添加剤も、従来公知のものを用いることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の化合物が挙げられ、密着性向上剤としては、従来公知のシランカップリング剤が挙げられ、熱重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノエチルエーテル等が挙げられ、消泡剤としては、シリコーン系、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0050】
細胞培養基材を作成するためにフォトレジスト組成物を用いて基板上に形成された鋳型を用いる場合、感光性樹脂組成物が、例えば、プロピレングリコール−1−メチルエーテルアセテート(PGMEA)のような、鋳型を構成する樹脂材料に対する良溶剤を多量に含むと、鋳型となる基板が溶剤によるダメージを受ける場合がある。この場合、感光性樹脂組成物は溶剤を含まないものが好ましい。感光性樹脂組成物が溶剤として鋳型を構成する樹脂材料に対する良溶剤を含有する場合、感光性樹脂組成物中の溶剤の含有量は感光性樹脂組成物の質量に対して5質量%以下が好ましい。感光性樹脂組成物に配合することができる溶剤の好適な例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサンのような脂肪族炭化水素;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、及び1−ブタノールのようなアルコール類が挙げられる。
【0051】
〔感光性樹脂組成物の製造方法〕
感光性樹脂組成物は、上記各成分を3本ロールミル、ボールミル、サンドミル等の撹拌機で混合(分散・混練)し、必要に応じて5μmメンブランフィルタ等のフィルタで濾過して調製することができる。
【0052】
≪細胞培養基材≫
細胞培養基材は、上述の感光性樹脂組成物を用いて形成されたものであれば、形状、サイズ等は特に限定されない。
【0053】
細胞培養基材は、そのガラス転移温度(Tg)が37℃より高いのが好ましい。細胞培養基材のTgが37℃より高い温度であると、細胞培養時の細胞培養基材の変形や劣化を抑制することができる。細胞培養基材のTgは、細胞培養基材を構成する材料の架橋度や分子量を上げることで高めることができる。具体的には、感光性樹脂組成物中の(A1)多官能モノマーや、(A2)2官能モノマーの含有量を増やしたり、感光性樹脂組成物を露光により硬化させる際の露光量を上げたりすることで細胞培養基材のTgを上げることができる。また、感光性樹脂組成物中の(A)光重合性モノマーについて、エチレン性不飽和二重結合が同じ数のモノマーの場合、分子量当たりに占める芳香族基の割合が多いモノマーの含有量を増やすと、細胞培養基材のTgが上昇する傾向がある。
【0054】
また、前述の通り、細胞培養基材は、凹凸のパターンが形成された細胞培養面を備えていてもよい。
【0055】
≪細胞培養基材の製造方法≫
細胞培養基材の製造方法は、上述の感光性樹脂組成物を露光して硬化させ、所望する形状の細胞培養基材を形成できる方法であれば特に限定されない。好適な細胞培養基材の製造方法としては、
基板上に、細胞培養基材形成用の感光性樹脂組成物を塗布して塗布膜を形成する、塗布工程と、
基板上の塗布膜を露光して硬化させる、露光工程と、を含む方法が挙げられる。
上記の細胞培養基材の製造方法は、必要に応じて、基板上の塗布膜を露光して硬化させた後に、露光された塗布膜を基板から剥離させる、剥離工程を含んでいてもよい。
【0056】
塗布工程において、感光性樹脂組成物が塗布される基板は、細胞培養基材を製造する過程で変形や劣化が生じないものであれば特に限定されない。前述の通り、細胞培養基材は凹凸のパターンが形成された面を備えていてもよい。感光性樹脂組成物が塗布される表面に、細胞培養基材が備える凹凸のパターンに対応する鋳型となる凹凸のパターンを備える基板を用いることで、凹凸のパターンを有する面を備える細胞培養基材を形成することができる。
【0057】
この方法では、感光性樹脂組成物が3官能以上の(A1)多官能モノマーを所定量含む(A)光重合性モノマーを含有することで、基板が備える鋳型となる凹凸のパターンが感光性樹脂組成物の塗布膜に正確に転写され、所望する形状の凹凸のパターンを有する面を備える細胞培養基材を形成することができる。
【0058】
細胞培養基材が備える凹凸のパターンの形状は、細胞を良好に培養できる限り特に限定されない。細胞培養基材が備えてもよい凹凸のパターンの例としては、凸部であるラインと凹部であるスペースとから構成されるラインアンドスペースパターンや、凹部として複数のホールを備えるホールパターンや、複数の円柱状や角柱状の凸部を備えるドットパターン等が挙げられる。基板表面のこのようなパターンは、例えば、基板を形成するための基材にフォトレジスト組成物を塗布して塗布膜を形成した後、所望のパターンのマスクを介して塗布膜を露光し、次いで、露光された塗布膜を現像することで形成することができる。
【0059】
凹凸のパターンにおける、凹部や凸部のサイズは細胞を良好に培養できる限り特に限定されない。例えば、ラインアンドスペースパターンでは、ラインの幅とスペースの幅とは、それぞれ、5〜5000nmの範囲内であるのが好ましい。また、ラインアンドスペースパターンでは、スペースの深さは5〜5000nmの範囲内であるのが好ましい。
【0060】
細胞培養基材の厚さは、10nm〜100μmが好ましい。細胞培養基材の厚さがこのような範囲内である場合、特に細胞培養基材の自家蛍光を抑制しやすい。このため、このような範囲内の厚さの細胞培養基材を用いると、培養された細胞の蛍光顕微鏡による観察が容易である。なお、細胞培養基材が細胞培養表面に凹凸のパターンを有する場合、細胞培養基材の厚さとは、細胞培養基材の細胞培養表面と反対の表面から、凹凸パターンの凸部の表面までの距離をいう。
【0061】
基板上に塗布膜を形成する方法は特に限定されず、所定量の感光性樹脂組成物を基板上に滴下する方法や、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置を用いる方法や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコータ等の非接触型塗布装置を用いる方法が挙げられる。
【0062】
塗布膜を形成した後は、塗布膜を備える基板を減圧条件下におき、塗布膜を脱気するのが好ましい。
【0063】
露光工程において、塗布膜を露光する方法は、塗布膜の硬化が良好に進行する限り特に限定されない。露光には、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯等の紫外線を発する光源を用いることができる。塗布膜を露光する際の露光量は、感光性樹脂組成物の組成や、塗布膜の膜厚等を考慮して適宜定められる。典型的には、塗布膜を露光する際の露光量は、10〜100000mJ/cm
2が好ましく、100〜50000mJ/cm
2がより好ましい。
【0064】
塗布膜を露光する方法は特に限定されないが、最初に大気中で塗布膜を露光して部分的に塗布膜の硬化を進行させるのが好ましい。そうすることで、露光工程において、感光性樹脂組成物が基板上からはみ出すことを防いだり、後に、塗布膜を水中で露光することが可能となったりする。大気中での露光を行わずに、塗布膜を水中で露光すると、塗布膜が水に溶解する場合がある。大気中で塗布膜を露光した後に、水中で塗布膜を露光すると、酸素によるラジカル重合阻害を低減することが出来、良好な硬化膜を得ることができる。
【0065】
また、露光工程は、真空中での塗布膜の露光を含むのが好ましい。真空中での塗布膜の露光を行うと、感光性樹脂組成物の塗布膜を基板に密着させた状態で硬化させることができ、所望する形状の細胞培養基材を形成しやすい。また、真空中での塗布膜の露光を行う場合、基板上面より塗布膜に対して圧力を印加しながら露光を行うのも好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の塗布膜をより基板に密着させた状態で硬化させることができる。露光工程が、真空中での露光や、圧力を印加しながらの真空中での露光を含むと、特に、鋳型である凹凸のパターンを有する基板を用いて細胞培養基材を形成する場合に、鋳型の凹凸パターンを細胞培養基材に正確に転写することができる。このような条件下で塗布膜の露光を行うことによって、感光性樹脂組成物が硬化する際の収縮が抑制されるため、鋳型の凹凸パターンを細胞培養基材に正確に転写することができると考えられる。
【0066】
塗布膜を真空中で露光する方法としては、例えば、塗布膜の表面を、例えばPETフィルムのようなフィルムで被覆した後に、少なくともフィルムと塗布膜との間を真空にした状態で塗布膜を露光する方法が挙げられる。塗布膜に圧力を印加しながら露光を行う場合に、塗布膜に圧力を印加する方法としては、負圧露光等の方法が挙げられる。
【0067】
上記のような方法で露光されて硬化した塗布膜は、必要に応じて基板から剥離させた後、細胞培養基材として使用される。
【0068】
また、露光されて硬化した塗布膜は、プラズマ処理されるのが好ましい。硬化した塗布膜に対して、プラズマ処理することにより、細胞が接着しやすい細胞培養基材を形成することができる。プラズマ処理に用いるプラズマは所望する効果が得られる限り特に限定されないが、O
2プラズマ、N
2プラズマ、及びCF
4プラズマ等が好ましい。プラズマ処理を行うタイミングは特に限定されず、硬化した塗布膜を基板から剥離させる前後のいずれのタイミングでプラズマ処理を行ってもよい。
【0069】
さらに、基板から剥離された細胞培養基材は、リンス液によるリンスされるのが好ましい。細胞培養基材がリンス液によりリンスされることで、未反応の(A)光重合性モノマーや(B)光重合開始剤のような細胞毒性の原因となりうる化合物が細胞培養基材の表面から除去される。好適なリンス液としては、プロピレングリコール−1−メチルエーテルアセテート(PGMEA)、イソプロピルアルコール(IPA)、及びアセトン等の有機溶剤、水等が挙げられる。
【0070】
前述の通り、細胞培養基材の厚さは、10nm〜100μmが好ましい。細胞培養基材の厚さがこのような範囲内である場合、基板から剥離された状態の細胞培養基材の強度が不十分である場合がある。その場合、細胞培養基材の細胞培養表面と反対側の表面にディスク又はフィルムである支持体を接触させて細胞培養基材を支持することで、細胞培養基材の強度を補うことができる。支持体の材質としては、培養された細胞を蛍光顕微鏡により観察しやすいことから、透明な低自家蛍光物質が好ましい。透明な低自家蛍光性物質の好適な例としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン、及びポリスチレンが挙げられる。
【0071】
細胞培養基材の形成に用いた基板が、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン、又はポリスチレンから選択される基板である場合、細胞培養基材を基板から剥離させずに当該基板を細胞培養基材の支持体として用いることで、細胞培養基材を、支持体により支持された細胞培養基材として使用することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例3〜5は参考例と読み替えるものとする。
【0073】
[実施例1〜7及び比較例1〜4]
実施例及び比較例では、以下の(A1)多官能モノマーと、(A2)2官能モノマーと、(A3)単官能モノマーとを用いた。
【0074】
〔(A1)多官能モノマー〕
P1:トリメチロールプロパントリアクリレート
P2:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
P3:ペンタエリスリトールトリアクリレートとトルエンジイソシアネートとの反応物
【0075】
〔(A2)2官能モノマー〕
B1:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(EO付加量:2.6モル)
B2:テトラエチレングリコールジアクリレート
【0076】
〔(A3)単官能モノマー〕
M1:フェノールのEO付加物のアクリレート(EO付加量:2.0モル)
【0077】
また、実施例及び比較例では、以下の(B)光重合開始剤を用いた。
PI1:α−アミノアルキルフェノン系光重合開始剤、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン
PI2:オキシムエステル系光重合開始剤、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾル−3−イル],1−(o−アセチルオキシム)
【0078】
下表1に記載の種類及び量の(A)光重合性モノマーと、(B)光重合開始剤とを均一に混合して、実施例1〜7及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物を得た。
【0079】
(細胞毒性試験)
実施例1〜7及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物を用いて、以下の方法に従って、平滑な細胞培養表面を備える細胞培養基材を作成した。得られた細胞培養基材を用いて、以下の方法に従って細胞培養試験を行い、各基板の細胞毒性について評価した。実施例1〜7及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物について、細胞毒性試験の評価結果を表1に記す。
【0080】
[細胞培養基材の作成]
ArFレジスト(TArF−6619(東京応化工業株式会社製))を用いて形成された膜を硬化させた基板を、細胞培養基材形成用の基板として用いた。3cm×3cmにカットされた前述の基板の平滑な表面に、各実施例及び比較例の感光性樹脂組成物を0.5mlずつスポイトを用いて滴下して、基板上に感光性樹脂組成物の塗布膜を形成した。次いで、感光性樹脂組成物の塗布膜を備える基板を、100Paの減圧条件下に30分置いて塗布膜を脱気した。脱気後の塗布膜に対して、大気中で紫外線照射装置(HMW−532D、ORC社製)を用いて999J/m
2の露光量で露光を行った。その後、真空中で、紫外線照射装置(HMW−532D、ORC社製)を用いて999J/m
2の露光量での露光を5回繰り返して塗布膜を硬化させた。硬化した塗布膜を基板から剥離した後、硬化した塗布膜をPGMEAに10分間浸漬してリンスした後、窒素ガスを硬化した塗布膜に吹き付けて乾燥させた。乾燥された硬化した塗布膜に対して、圧力40Pa、温度40℃、出力50W、処理時間20秒、酸素流量200ml/分の条件で、プラズマ処理装置(TCA−3822、東京応化工業株式会社製)を用いてO
2プラズマ処理を行って、細胞培養基材を得た。
【0081】
実施例及び比較例で得られた細胞培養基材を8mm×8mmにカットした切片を、24穴の細胞培養用プレートのウェル内に置いた。次いで、細胞培養基材の切片が載置されたプレートを、エチレンオキシドガス(EOG)により40℃で22.5時間処理した。EOGによる処理後、プレートを真空下(100torr)に24時間置いた。次いで、マウス骨芽細胞様細胞MC3T3−E1を、800μlのMEMα培地(和光純薬工業株式会社製)とともに、一穴当たりの細胞数が2×10
4となるように播種した。細胞の播種後、37℃で72時間インキュベーションを行った。次いで、ウェル内をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)1mlで2回洗浄した後、生細胞数測定試薬(Cell Count Reagent SF(ナカライテスク株式会社製))を用いて細胞毒性試験を行った。
一穴当たり、300μlののMEMα培地と15μlのCell Count Reagent SFとを入れた後、37℃で1時間インキュベーションを行った。次いで、細胞培養プレートの各ウェルから、Cell Count Reagentを含むMEMα培地を100μlずつ採取した。採取された試料を、それぞれ、マイクロプレートリーダーに対応した96穴のマイクロプレートのウェル内に注入した。
次いで、各試料がウェル内に注入されたマイクロプレートを、マイクロプレートリーダー(VersaMax(Molecular Devices社製))を用いて処理し、各試料の波長450nmにおける吸光度(ABS)を測定した。
また、ポリスチレン製の細胞培養基材(IWAKIサイテック社製)を用いて、各実施例及び比較例と同様にして、MEMα培地を用いた培養と、Cell Count Reagentを含むMEMα培地を用いた培養とを行って得た、Cell Count Reagentを含むMEMα培地の試料について、波長450nmにおける吸光度(ABS
st)を測定した。
ポリスチレン製の細胞培養基材の細胞毒性を標準として、各実施例及び比較例の細胞培養基材の細胞毒性を評価した。具体的には、各実施例及び比較例の細胞培養基材の細胞毒性を、ABS/ABS
stの値に基づいて下記基準で評価した。なお、ABS
stの値は、0.35であった。
○(低細胞毒性):ABS/ABS
stの値が0.5以上である。
×(高細胞毒性):ABS/ABS
stの値が0.5未満である。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1〜7によれば、3官能以上の(A1)多官能モノマーを10質量%以上含む(A)光重合性モノマーと、所定の範囲の量の(B)光重合開始剤とを含む感光性樹脂組成物を用いると、良好に細胞を培養できる細胞培養基材が得られることが分かる。
【0084】
比較例1及び3によれば、(A)光重合性モノマーが3官能以上の(A1)多官能モノマーを含まない場合、良好に細胞を培養できる細胞培養基材を得にくいことが分かる。
【0085】
比較例2及び4によれば、感光性樹脂組成物中の(B)光重合開始剤の含有量が過少であったり過多であったりすると、良好に細胞を培養できる細胞培養基材を得にくいことが分かる。
【0086】
(パターン転写特性試験)
細胞培養基材形成用の基板を、表面にパターン深さ60μm、幅30μmのラインアンドスペースパターンを備える基板に変更することの他は、細胞毒性試験用の細胞培養基材と同様にして、実施例1〜6、及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物を用いて細胞培養基材を作成した。得られた細胞培養基材の断面を走査型電子顕微鏡(SEM SU−8000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により観察し、パターン転写特性を評価した。基板表面のパターン形状が細胞培養基材に正確に転写されている場合を○と判定し、基板表面のパターン形状が細胞培養基材に正確に転写されていない場合を×と判定した。実施例1〜6及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物について、パターン転写特性の評価結果を表2に記す。なお、実施例7の感光性樹脂組成物のパターン転写特性については、後述する実施例9−1〜9−8において評価した。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例1〜6によれば、3官能以上の(A1)多官能モノマーを10質量%以上含む(A)光重合性モノマーと、所定の範囲の量の(B)光重合開始剤とを含む感光性樹脂組成物を用いることで、微細な凹凸のパターンが形成された面を備える細胞培養基材を容易に形成できることが分かる。
【0089】
比較例1及び3によれば、(A)光重合性モノマーが3官能以上の(A1)多官能モノマーを含まない場合、微細な凹凸のパターンが形成された面を備える細胞培養基材の形成が困難であることが分かる。
【0090】
なお、実施例1〜6の感光性樹脂組成物と、表面にパターン深さ150nm、幅75nmのラインアンドスペースパターンを備える基板とを用いて細胞培養基材を製造したが、基板上のパターンは、問題なく細胞培養基材に転写された。
【0091】
[実施例8]
露光条件を、大気中での露光量999mJ/cm
2での露光の5回繰り返し露光に変更することの他は実施例1と同様にして、実施例1の感光性樹脂組成物を用いて、細胞毒性試験用の細胞培養基材と、パターン転写特性試験用の細胞培養基材とを形成した。得られた細胞培養基材について、上記の方法で、細胞毒性と、パターン転写特性とを評価した。細胞毒性試験の結果を表3に記し、パターン転写特性試験の結果を表4に記す。
【0092】
[実施例9−1〜9−8]
大気中での露光量999mJ/cm
2での露光に次いで、水中で表2に記載の露光量で露光を行った後、真空下で表2に記載の露光量で露光を行うことと、実施例7の感光性樹脂組成物を用いることとの他は、実施例1と同様にして、細胞毒性試験用の細胞培養基材と、パターン転写特性試験用の細胞培養基材とを形成した。得られた細胞培養基材について、上記の方法で、細胞毒性と、パターン転写特性とを評価した。細胞毒性試験の結果を表3に記し、パターン転写特性試験の結果を表4に記す。
【0093】
【表3】
【0094】
実施例8及び実施例9−1〜9−8によれば、3官能以上の(A1)多官能モノマーを10質量%以上含む(A)光重合性モノマーと、所定の範囲の量の(B)光重合開始剤とを含む感光性樹脂組成物を用いると、露光方法によらず、細胞を良好に培養できる細胞培養基材が得られることが分かる。
【0095】
【表4】
【0096】
実施例9−1〜9−7によれば、露光工程が真空中での露光を含む場合、水中での露光は、パターンの転写特性に影響を与えないことが分かる。他方、実施例8及び実施例9−8によれば、大気中又は水中で十分な露光量で露光を行っても、真空中での露光を行わない場合、基板の備える鋳型となるパターンを細胞培養基材に正確に転写しにくいことが分かる。