特許第6357051号(P6357051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357051無孔質シリカで被覆されたメソポーラスシリカ粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357051
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】無孔質シリカで被覆されたメソポーラスシリカ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 37/00 20060101AFI20180702BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20180702BHJP
   A61K 49/00 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   C01B37/00
   A61K47/04
   !A61K9/14
   !A61K49/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-168496(P2014-168496)
(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公開番号】特開2016-44091(P2016-44091A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】黒田 一幸
(72)【発明者】
【氏名】下嶋 敦
(72)【発明者】
【氏名】大西 健太
(72)【発明者】
【氏名】永田 皓也
(72)【発明者】
【氏名】高熊 紀之
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−196829(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024379(WO,A1)
【文献】 特開2002−173319(JP,A)
【文献】 特開平07−133105(JP,A)
【文献】 特開2012−171833(JP,A)
【文献】 特表2012−524014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
C01B 33/20−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤及びpH調整剤を含む水溶液にシリカ源(a)を添加して粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するシリカ粒子の分散液を作製した後、界面活性剤を除去する(A)工程、並びに
前記(A)工程で得られたメソ孔を有するシリカ粒子の分散液にpH調整剤を加えてpH8〜10に調整した後、シリカ源(b)を加え、撹拌下で20〜90℃、1〜48時間処理してメソ孔を有するシリカ粒子の外周部を3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆する(B)工程
を含む、粒子外周部が3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆され、30〜300nmの一次粒子径を有し、且つ粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するメソポーラスシリカ粒子が分散媒中に分散されたメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ源(a)及びシリカ源(b)が、式(I)で表される珪素アルコキシドである、請求項に記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法。
式(I) Si(OR14
[式(I)中、R1は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
【請求項3】
前記シリカ源(a)及びシリカ源(b)が、式(II)で表される珪素アルコキシド、又は式(I)及び式(III)で表される珪素アルコキシドの混合物である、請求項に記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法。
式(II) (R2O)3Si−R3−Si(OR43
[式(II)中、R2及びR4は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R3は炭素原子数1〜10の直鎖状若しくは分岐状の2価の飽和炭化水素基若しくは不飽和
炭化水素基、又は置換基を有していてもよい、炭素原子数6〜30のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表す。]
式(I) Si(OR14
[式(I)中、R1は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
式(III) R5Si(OR63
[式(III)中、R5は炭素原子数1〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は
置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基を表し、R6は炭素原子数1
〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
【請求項4】
前記(A)工程中の界面活性剤の除去が、純水、酢酸及びエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いた透析で行われる、請求項乃至請求項のいずれか一項に記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
界面活性剤及びpH調整剤を含む水溶液にシリカ源(a)を添加して粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するシリカ粒子の分散液を作製した後、界面活性剤を除去する(A)工程、
前記(A)工程で得られたメソ孔を有するシリカ粒子の分散液に有機化合物又はポリマーを加えて、当該メソ孔の少なくとも一部に有機化合物又はポリマーが充填した複合シリカ粒子の分散液を作製する(C)工程、並びに
前記(C)工程で得られた複合シリカ粒子の分散液にpH調整剤を加えてpH8〜10に調整した後、シリカ源(b)を加え、撹拌下で20〜90℃、1〜48時間処理して複合シリカ粒子の外周部を3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆する(D)工程
を含む、粒子外周部が3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆され、30〜300nmの一次粒子径を有し、且つ粒子内に2〜10nmのメソ孔を有する、機能性物質担持メソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子外周部が無孔質シリカによって被覆されたメソポーラスシリカ粒子、その分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカ粒子は、高い表面積や大きな細孔容積(粒子内部の空隙)を持つため、様々な応用が期待されている。例えば、薬剤のキャリアとしてのドラッグデリバリーや、色素導入によるバイオイメージングなどの医療分野での応用、また、樹脂と複合化することによる低反射率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率材料などへ
の応用が検討されている。これらの応用の多くでは、粒子表面に存在する開孔部の存在により、内包物の溶出や粒子内部への樹脂侵入(即ち、空隙率低下)による性能低下の恐れがあった。従って、粒子の内部空隙を残しつつ、粒子表面の孔を塞ぐ技術が重要視されてきた。
【0003】
ナノ粒子やポリマーなどを用いてメソ孔を塞ぐ以下の技術が報告されているが、効率的かつ確実に孔を塞ぐことは困難であった。
非特許文献1には、CdSなどのナノ粒子を用いて孔を塞ぐ技術が報告されているが、粒子表面の開孔部すべてを同時に塞ぐことは困難である。
非特許文献2には、粒子表面にポリマーをグラフトして孔を塞ぐ技術が報告されているが、合成に高度な技術を要し、また、粒子の表面状態が変わるために粒子が凝集する可能性がある。さらに、有機物で被覆するために耐熱性が低いという問題がある。
特許文献1には、大口径のメソポーラスシリカ粒子の表面をより小さな孔を有するメソポーラスシリカで被覆する技術が報告されているが、被覆層に存在する細孔のため外部からの樹脂の侵入や内包物の溶出を完全には抑制できない。また、特許文献1ではメソ孔を有する粒子の合成時に使用した界面活性剤を除去しないまま粒子外周部を被覆するため、界面活性剤を除去するために被覆層を多孔質とする必要があった。
【0004】
また、従来技術には、界面活性剤を除去したメソ孔を有する粒子の外周部を被覆しようとするとメソ孔自体が閉塞して空隙率が低下するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−171833号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.G.Trewyn rt al.,Acc.Chem.Res.,40,846(2007)
【非特許文献2】R.Liu et al.,J.Am.Chem.Soc.,130,14418(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メソポーラスシリカ粒子を凝集させることなく、粒子内細孔を残したまま粒子外周部の開孔部を被覆して閉孔したメソポーラスシリカ粒子、その分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、溶媒中で分散状態のメソポーラスシリカ粒子に含まれる、合成時に使用された界面活性剤を完全に除去した後、粒子外周部を被覆処理することで、粒子内部のメソ孔を保持したまま外周部のみを無孔質シリカで被覆されたメソポーラスシリカ粒子、及び分散液が得られること見出した。なお、本明細書では、機能性物質とは、メソ孔を有するシリカ粒子のメソ孔内に充填することが可能でメソ孔内でその機能を発現できる物質をいう。
【0009】
すなわち、本発明を達成する第1観点として、粒子外周部が3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆され、30〜300nmの一次粒子径を有し、且つ粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するメソポーラスシリカ粒子であり、
第2観点として、第1観点に記載のメソポーラスシリカ粒子が分散媒中に分散されたメソポーラスシリカ粒子分散液であり、
第3観点として、界面活性剤及びpH調整剤を含む水溶液にシリカ源(a)を添加して粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するシリカ粒子の分散液を作製した後、界面活性剤を除去する(A)工程、並びに
前記(A)工程で得られたメソ孔を有するシリカ粒子の分散液にpH調整剤を加えてpH8〜10に調整した後、シリカ源(b)を加え、撹拌下で20〜90℃、1〜48時間処理してメソ孔を有するシリカ粒子の外周部を3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆する(B)工程
を含む、第2観点に記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法であり、
第4観点として、前記シリカ源(a)及びシリカ源(b)が、式(I)で表される珪素アルコキシドである、第3観点に記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法
式(I) Si(OR14
[式(I)中、R1は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
であり、
第5観点として、前記シリカ源(a)及びシリカ源(b)が、式(II)で表される珪素アルコキシド、又は式(I)及び式(III)で表される珪素アルコキシドの混合物である、第3観点に記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法
式(II) (R2O)3Si−R3−Si(OR43
[式(II)中、R2及びR4は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R3は炭素原子数1〜10の直鎖状若しくは分岐状の2価の飽和炭化水素基若しくは不飽和
炭化水素基、又は置換基を有していてもよい、炭素原子数6〜30のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表す。]
式(I) Si(OR14
[式(I)中、R1は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
式(III) R5Si(OR63
[式(III)中、R5は炭素原子数1〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は
置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基を表し、R6は炭素原子数1
〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
であり、
第6観点として、前記(A)工程中の界面活性剤の除去が、純水、酢酸及びエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いた透析で行われる、第3観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のメソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法であり、
第7観点として、界面活性剤及びpH調整剤を含む水溶液にシリカ源(a)を添加して粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するシリカ粒子の分散液を作製した後、界面活性剤を除去する(A)工程、
前記(A)工程で得られたメソ孔を有するシリカ粒子の分散液に有機化合物又はポリマーを加えて、当該メソ孔の少なくとも一部に有機化合物又はポリマーが充填した複合シリカ粒子の分散液を作製する(C)工程、並びに
前記(C)工程で得られた複合シリカ粒子の分散液にpH調整剤を加えてpH8〜10
に調整した後、シリカ源(b)を加え、撹拌下で20〜90℃、1〜48時間処理して複合シリカ粒子の外周部を3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆する(D)工程
を含む、粒子外周部が3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆され、30〜300nmの一次粒子径を有し、且つ粒子内に2〜10nmのメソ孔を有する、機能性物質担持メソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法
である。
なお、本明細書では、機能性物質とは、メソ孔を有するシリカ粒子のメソ孔内に充填することが可能でメソ孔内でその機能を発現できる物質をいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メソポーラスシリカ粒子を凝集させることなく、粒子内細孔を残したまま粒子外周部の開孔部を被覆して閉孔することができる。また、分散媒中に分散したメソポーラスシリカ粒子に対して、珪素アルコキシドを所定のpH条件下で添加することによって、表面の開孔部を塞ぐことが可能である。そして、開孔部の被覆工程を行ってもメソポーラスシリカ粒子の良好な分散性を保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(コア粒子分散液)
本発明のメソポーラスシリカ粒子は、メソ孔を有するコア粒子と粒子外周部を被覆する無孔質シリカで構成される。メソ孔を有するコア粒子は、公知技術によって作製される開孔部を有するメソポーラスシリカ粒子を用いることができる。
【0012】
メソ孔を有するコア粒子は窒素吸着法(BET法)比表面積が400〜1500m2
gであり、2〜10nmのメソ孔を有し、細孔容積が0.5〜3.0ml/gであることが好ましい。また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定したメソポーラスシリカ粒子の1次粒子径は30〜300nmであり、動的光散乱法によって測定される分散粒子径は30〜300nmであることが好ましい。
【0013】
メソ孔を有するコア粒子は、例えば、H.Yamada et al.,Chem.Mater.,24,1462(2012)を参考に作製することができる。同文献によれば、鋳型となる界面活性剤を含有した純水中にテトラプロポキシシランを添加し、80℃で所定時間攪拌を行った後、鋳型の界面活性剤を透析により除去することによりメソ孔を有する多孔質シリカ粒子の分散液を得ることができる。
【0014】
本発明において、前記のメソポーラスシリカ粒子が分散媒中に分散されたメソポーラスシリカ粒子分散液は、次の(A)工程及び(B)工程を含む方法により製造することができる。
(A)工程:界面活性剤及びpH調整剤を含む水溶液にシリカ源(a)を添加して粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するシリカ粒子の分散液を作製した後、界面活性剤を除去する工程、
(B)工程:前記(A)工程で得られたメソ孔を有するシリカ粒子の分散液にpH調整剤を加えてpH8〜10に調整した後、シリカ源(b)を加え、撹拌下で20〜90℃、1〜48時間処理してメソ孔を有するシリカ粒子の外周部を3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆する工程。
【0015】
(界面活性剤の除去)
本発明で実施される界面活性剤の除去操作は、透析、溶媒抽出、酸処理等の公知の方法を用いることができるが、透析により行うことが好ましい。
【0016】
透析は、既存の透析膜を用いることができる。例えば、鋳型となる界面活性剤を含有し
たメソポーラスシリカ粒子分散液に対して、体積比で10〜100倍の抽出溶媒を用いて実施される。また、抽出溶媒には、純水、酢酸及びエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。抽出溶媒としては、これらの混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0017】
透析は、鋳型である界面活性剤を完全に除去するために複数回実施することが好ましく、異なる抽出溶媒を組み合わせて複数回実施することがより好ましい。透析によって界面活性剤が除去されたことは、CHN分析によって炭素原子が検出限界以下であることを確認することにより確かめることができる。
【0018】
(粒子外周部の被覆)
本発明でメソ孔を有するコア粒子を無孔質シリカで被覆する際は、まず水又は親水性の有機溶媒にメソ孔を有するコア粒子が分散されたものを用意し、次いでこの分散液のpHを8〜10に調整する。この時、該分散液のpH調整剤としては、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、アンモニア及び水酸化ナトリウムなどの塩基を用いることができる。続いて、無孔質シリカのシリカ源として、珪素アルコキシドを該分散液に添加して、無孔質シリカでメソ孔を有するコア粒子を被覆する。
【0019】
被覆に使用される珪素アルコキシドとしては、下記の式(I)で表される珪素アルコキシドであることが好ましい。
式(I) Si(OR14
[式(I)中、R1は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
また、被覆に使用される珪素アルコキシドとしては、下記の式(II)で表される珪素アルコキシドであることが好ましい。
式(II) (R2O)3Si−R3−Si(OR43
[式(II)中、R2及びR4は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R3は炭素原子数1〜10の直鎖状若しくは分岐状の2価の飽和炭化水素基若しくは不飽和
炭化水素基、又は置換基を有していてもよい、炭素原子数6〜30のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表す。]
【0020】
又は、被覆に使用される珪素アルコキシドとしては、上記の式(I)及び下記の式(III)で表される珪素アルコキシドの混合物であることが好ましい。
式(III) R5Si(OR63
[式(III)中、R5は炭素原子数1〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は
置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基を表し、R6は炭素原子数1
〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。]
【0021】
本発明に使用される珪素アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等を挙げることができ、中でもテトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0022】
前記無孔質シリカによる被覆工程において、例えば100〜150nmの大きさのコア粒子の外周部を効率的、かつ確実に開孔部を被覆するには、被覆層の厚さによって変動するが、珪素アルコキシドは分散液中のメソ孔を有するコア粒子のSiO2成分に対してS
iO2換算で30〜100mol%加えられる。また、この際の反応温度は20〜90℃
であり、好ましくは25〜60℃である。また、この際の反応時間は1〜48時間であり、好ましくは6〜24時間である。本発明によれば、被覆工程において珪素アルコキシドの添加量及び反応条件を制御することで、内部のメソ孔を保持したまま、コア粒子の外周部を無孔質シリカによって被覆できる。
【0023】
本発明のメソポーラスシリカ粒子分散液は、粒子外周部が3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆され、30〜300nmの一次粒子径を有し、且つ粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するメソポーラスシリカ粒子が分散媒に分散されたものである。分散媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類及びカルボン酸アミド類等が挙げられる。
【0024】
前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、プリピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、1,5−ペンタンジオール及びジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0025】
前記ケトン類としては、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン及びシクロヘキサノン等が挙げられる。
【0026】
前記エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0027】
前記エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0028】
前記炭化水素類としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン及びソルベントナフサ等が挙げられる。
【0029】
前記ハロゲン化炭化水素類としては、四塩化炭素、ジクロロエタン及びクロロベンゼン等が挙げられる。
【0030】
前記カルボン酸アミドとしては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0031】
また、分散媒としては、重合性モノマーを挙げることができる。重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸及びフタル酸等の不飽和カルボン酸化合物が挙げられる。また、これらの不飽和カルボン酸化合物とアルコール化合物若しくはアミン化合物とから誘導される不飽和カルボン酸エステル化合物又は不飽和カルボン酸アミド化合物を挙げることができる。例えば、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、フタル酸アミド化合物等である。より具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等である。
【0032】
また、重合性モノマーとしてはエポキシ環を有する重合性化合物を使用することができる。エポキシ環を有する重合性化合物は、例えばジオール化合物、トリオール化合物、ジカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物等の2個以上のヒドロキシ基又はカルボキシル基を有する化合物と、エピクロルヒドリン等のグリシジル化合物から製造することができる、2個以上のグリシジルエーテル構造又はグリシジルエステル構造を有する化合物を挙げることができる。
【0033】
エポキシ環を有する重合性化合物の具体例としては、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−4−(エポキシエチル)シクロヘキサン、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル及び2,6−ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0034】
この他、オキセタン環を有する重合性化合物として、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン等、ビニルエーテル構造を有する重合性化合物として、ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−ノルマルブチルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0035】
本発明のメソポーラスシリカ粒子分散液の固形分濃度は、SiO2として0.01〜3
0質量%であり、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0036】
また本発明は、次の(A)工程、(C)工程及び(D)工程を含む粒子外周部が3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆され、30〜300nmの一次粒子径を有し、且つ粒子内に2〜10nmのメソ孔を有する、機能性物質担持メソポーラスシリカ粒子分散液の製造方法である。
(A)工程:界面活性剤及びpH調整剤を含む水溶液にシリカ源(a)を添加して粒子内に2〜10nmのメソ孔を有するシリカ粒子の分散液を作製した後、界面活性剤を除去する工程、
(C)工程:前記(A)工程で得られたメソ孔を有するシリカ粒子の分散液に有機化合物又はポリマーを加えて、当該メソ孔の少なくとも一部に有機化合物又はポリマーが充填した複合シリカ粒子の分散液を作製する工程、並びに
(D)工程:前記(C)工程で得られた複合シリカ粒子の分散液にpH調整剤を加えてpH8〜10に調整した後、シリカ源(b)を加え、撹拌下で20〜90℃、1〜48時間処理して複合シリカ粒子の外周部を3〜30nmの厚さの無孔質シリカで被覆する工程。
【0037】
メソ孔内に充填される有機化合物又はポリマーとしては、2〜10nmのメソ孔に充填可能なものであれば特に制限はなく、色素導入によるバイオイメージングの観点から紫外線、及び可視光に吸収を持つ化合物、例えばベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、クァテルフェニル、ベンゾフェノン、フルオレン、アントラキノン、ナフタレン、アセナフテン、カルバゾール、トリフェニレン、フェナントレン、アクリジン、アクリドン、アズレン、クリセン、ピレン、アントラセン、ペリレン、ビアセチル、ベンジル、フルオレセイン、エオシン、ローダミンB、及びこれらの誘導体を挙げることができる。ポリマーとしては、タンパク質、核酸、脂質等の生体高分子、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂等の合成高分子などを挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
物性測定には以下の装置を使用した。
・BET測定装置:Quantachrome Instruments Autosorb-1
・窒素吸脱測定装置:Quantachrome Instruments Autosorb-1
・透過型電子顕微鏡(TEM):日本電子JEM-2010
・動的光散乱法粒子径測定装置:HORIBA Nano Partica SZ-100-S
【0040】
〔実施例1〕
(コア粒子分散液の作製)
鋳型となる界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド5.5mmolを含む水溶液240mL中にテトラプロポキシシランを0.011mol添加し、撹拌下にて80℃、12時間保持してメソポーラスシリカ粒子(i)分散液を合成した。
【0041】
メソポーラスシリカ粒子(i)分散液50mLを透析膜(日本メディカルサイエンス社製 ヴィスキングチューブ(セルロース製))を有する装置に入れ、酢酸:エタノール=
1:1(体積比)の混合溶媒250mL中で25℃、24時間、撹拌下で保持してセチルトリメチルアンモニウムブロミドを抽出した。同様の操作を5回繰り返した後、純水250mL中で25℃、24時間、撹拌下で保持する操作を4回繰り返して、メソポーラスシリカ粒子(ii)分散液を合成した。この分散液の動的光散乱法(DLS)で測定されるメソポーラスシリカ粒子の分散粒子径は148nmであった。上記のメソポーラスシリカ粒子(ii)分散液を乾燥して得られたメソポーラスシリカ粒子(ii)のBET比表面積は約740m2/g、BJH法により算出した細孔径は平均3.2nmであり、細孔容
積は1.7ml/gであった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察から測定したメソポーラスシリカ粒子(ii)の1次粒子径は140nmであった。透析によって界面活性剤が除去されたことは、CHN分析(Perkin-Elmer 2400 Series II)によって確認した
【0042】
(粒子外周部の被覆)
メソポーラスシリカ粒子(ii)分散液240mLにトリエタノールアミンを添加してpH8.8に調整した後、テトラエトキシシラン4.4mmol加え、60℃、12時間、撹拌下で保持して粒子外周部が無孔質シリカで被覆されたメソポーラスシリカ粒子(iii)を合成した。この時、外周部の無孔質シリカ量はメソ孔を有するシリカ粒子のSiO2量に対して40mol%であった。得られたメソポーラスシリカ粒子(iii)のB
ET比表面積は約120m2/gであり、窒素分子が充填可能なメソ孔は存在しなかった
。また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察から測定したシリカ粒子の1次粒子径は150nmであり、新たなシリカ粒子の形成は見られなかった。この分散液の動的光散乱法によって測定される分散粒子径は160nmであった。
【0043】
〔実施例2〕
実施例1で得られたメソポーラスシリカ粒子(ii)分散液5mLをローダミンB0.1gを含む水溶液30mL中に添加して得られた複合シリカ粒子の分散液を、実施例1に記載のシリカ粒子外周部の被覆方法と同様に処理して、内部にメソ孔を有する複合シリカ粒子(iv)分散液を合成した。この分散液を実施例1に記載の透析操作と同様に処理したところ、ローダミンB由来の赤色が残存しており、ローダミンBがシリカ粒子内に封入されていることを確認した。
【0044】
〔比較例〕
実施例1の粒子外周部の被覆方法において、テトラエトキシシランの添加量を2.2mmolに減らした結果、DLSで測定した粒径は144nm、TEMで測定した粒径は143nmとなった。この時、外周部の無孔質シリカ量はメソ孔を有するシリカ粒子のSiO2量に対して20mol%であった。また、BET比表面積は380m2/gであり、メソ孔への窒素分子の吸着が見られたことから、閉塞が不完全であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のメソポーラスシリカ粒子は、その高い表面積、大きな細孔容積(粒子内部の空隙)を活用して、薬剤のキャリアとしてドラッグデリバリーや、色素導入によるバイオイメージングなどの医療材料への応用に適している。また、樹脂と複合化することによる低反射率(Low−n)、低誘電率(Low−k)、低熱伝導率材料などへ応用することが
できる。