(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
滑剤(x)が、炭素原子数12〜18の脂肪族1価アルコールおよび炭素原子数16〜24の飽和脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも一つからなるものである請求項1〜6のいずれかひとつに記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る樹脂組成物は、共重合体(a)と、滑剤(x)とを含有してなるものである。
【0014】
共重合体(a)は、メタクリル酸脂環式炭化水素エステルに由来する構造単位とその他の単量体に由来する構造単位とからなるものである。
【0015】
本発明に用いられる共重合体(a)を構成するメタクリル酸脂環式炭化水素エステルは、式(I)で表わされる化合物である。
【0016】
【化1】
(式(I)中、Cyは脂環式炭化水素基を表す。)
【0017】
メタクリル酸脂環式炭化水素エステルとしては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロへキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロへプチル、メタクリル酸メンチルなどのメタクリル酸単環脂肪族炭化水素エステル;2−ノルボルニルメタクリレート、2−メチル−2−ノルボルニルメタクリレート、2−エチル−2−ノルボルニルメタクリレート、2−イソボルニルメタクリレート、2−メチル−2−イソボルニルメタクリレート、2−エチル−2−イソボルニルメタクリレート、8−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカニルメタクリレート、8−メチル−8−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカニルメタクリレート、8−エチル−8−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカニルメタクリレート、2−アダマンチルメタクリレート、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート、2−エチル−2−アダマンチルメタクリレート、1−アダマンチルメタクリレート、2−フェンチルメタクリレート、2−メチル−2−フェンチルメタクリレート、2−エチル−2−フェンチルメタクリレートなどのメタクリル酸多環脂肪族炭化水素エステル;を挙げることができる。これらのうち、メタクリル酸多環脂肪族炭化水素エステルが好ましく、8−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカニルメタクリレート(別名:メタクリル酸ジシクロペンタニル)がより好ましい。
【0018】
本発明に用いられる共重合体(a)は、メタクリル酸脂環式炭素水素エステルに由来する構造単位の含有率が、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは30〜40質量%である。前記範囲より少ないと、樹脂組成物の耐熱性が劣る場合がある。前記範囲より多いと、樹脂組成物の耐衝撃性が劣る場合がある。
【0019】
本発明に用いられる共重合体(a)を構成するその他の単量体は、メタクリル酸脂環式炭化水素エステルに共重合可能なものであれば、特に限定されない。かかる他の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。これらその他の単量体のうち、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを組み合わせてなるものが好ましく、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとを組み合わせてなるものが好ましい。
【0020】
本発明に好適に用いられる共重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有率が、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは50〜80質量%、さらに好ましくは60〜70質量%である。メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有率が前記範囲より少ないと樹脂組成物の透明性、耐擦傷性および耐候性が劣る場合がある。メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有率が前記範囲より多いと、樹脂組成物の耐熱性が劣る場合がある。
また、メタクリル酸脂環式炭化水素エステルおよびメタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位の含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0021】
本発明に用いられる共重合体(a)は、ガラス転移温度が、好ましくは115℃以上150℃以下、より好ましくは130℃以上150℃以下、さらに好ましくは140℃以上150℃以下である。共重合体(a)のガラス転移温度が前記範囲内にあると、樹脂組成物は耐熱性および耐衝撃性が良好にバランスし、例えば該樹脂組成物とポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂のシート状積層体(以下、積層シートということがある)の高温高湿下での反り発生が抑制される。
【0022】
本発明に用いられる共重合体(a)は、重量平均分子量が、好ましくは40,000以上500,000以下、より好ましくは70,000以上300,000以下、さらに好ましくは100,000以上200,000以下である。共重合体(a)の重量平均分子量が前記範囲内にあると、樹脂組成物は成形加工性に優れ、得られる成形品は耐擦傷性および耐熱性のバランスに優れる。
【0023】
本発明に用いられる共重合体(a)は、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mnと表記することがある。)が、好ましくは1.7以上2.6以下、より好ましくは1.7以上2.3以下、さらに好ましくは1.7以上2.0以下である。
なお、重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。
また、共重合体(a)の重量平均分子量、数平均分子量およびMw/Mnは、後述する重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
【0024】
本発明に用いられる共重合体(a)を得るにあたり、重合に供される単量体混合物のイエロインデックスは、2以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましい。単量体混合物のイエロインデックスが小さければ、得られる樹脂組成物を成形した場合に、着色が殆んどない成形品が高い生産効率で得られやすい。なお、イエロインデックスは、日本電色工業株式会社製の測色色差計ZE−2000を用い、JIS Z8722に準拠して測定した値を元にJIS K7373に準拠して算出した黄色度の値である。
【0025】
上記した単量体混合物の溶存酸素量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、特に好ましくは3ppm以下である。このような範囲の溶存酸素量にすると重合反応がスムーズに進行し、シルバーや着色の無い成形品が得られやすくなる。
【0026】
本発明に用いられる共重合体(a)の製造は、重合方法によって特に制限されない。例えば、懸濁重合法、(連続)塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などを挙げることができる。該重合法は、ラジカル重合にて行うことが好ましい。かかる重合方法のうち、生産性および耐熱分解性の観点から、懸濁重合法または(連続)塊状重合法が好ましく、懸濁重合法がより好ましい。
重合反応は単量体混合物とともに添加した重合開始剤によって開始される。また、必要に応じて連鎖移動剤を単量体混合物に添加することによって、得られる共重合体(a)の重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布を調節できる。
【0027】
共重合体(a)の製造に用いられる重合開始剤は、反応性ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド 、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などを挙げることができる。中でも、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)が好ましい。
【0028】
かかる重合開始剤は、1時間半減期温度が、好ましくは60〜140℃、より好ましくは80〜120℃である。これら重合開始剤は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、重合開始剤の添加量や添加方法などは、目的に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。例えば、懸濁重合法に用いられる重合開始剤の量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.1質量部、より好ましくは0.001〜0.07質量部である。
【0029】
共重合体(a)の製造に用いられる連鎖移動剤は特に限定されない。例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレンなどを挙げることができる。これらのうちn−オクチルメルカプタン、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタンが好ましい。これら連鎖移動剤は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜1質量部、より好ましくは0.2〜0.8質量部、さらに好ましくは0.3〜0.6質量部である。
【0030】
共重合体(a)の製造に用いられる、各単量体、重合開始剤および連鎖移動剤は、それら全てを混合しその混合物を反応槽に供給してもよいし、それらを別々に反応槽に供給してもよい。本発明においては全てを混合しその混合物を反応槽に供給する方法が好ましい。
【0031】
滑剤は、減摩性、離型性を付与するために樹脂に添加される公知の添加剤である。滑剤としては、高級アルコール系滑剤、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪酸金属塩系滑剤、脂肪族アミド系滑剤、エステル系滑剤などが知られている。
これらのうち、本発明に用いられる滑剤(x)は、高級アルコール、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪族アミド、および1分子中に水酸基を2以上有しない脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一つからなるもの、好ましくは炭素原子数12〜18の脂肪族1価アルコールおよび炭素原子数16〜24の飽和脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも一つからなるもの、より好ましくは炭素原子数12〜18の脂肪族1価アルコールからなるものである。
【0032】
高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどを挙げることができる。本発明に用いられる高級アルコールは、減摩性が高く且つ金型汚れやロール汚れが少ないという観点から、脂肪族1価アルコールが好ましく、炭素原子数12〜18の脂肪族1価アルコールがより好ましく、炭素原子数12〜18の飽和脂肪族1価アルコールがさらに好ましく、炭素原子数16〜18の飽和脂肪族1価アルコールがさらにより好ましい。
【0033】
炭化水素としては、減摩性、離型性が高いという観点から、炭素原子数12以上の脂肪族炭化水素が好ましい。また、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリオレフィンワックスなどの脂肪族炭化水素;脂肪族炭化水素の部分酸化物;脂肪族炭化水素のハロゲン化物など市販のものを用いることができる。これら市販の混合物の場合でもあっても、含まれる脂肪族炭化水素は平均炭素原子数が12以上であることが好ましい。
【0034】
脂肪酸としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エルカ酸、アラキドン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などを挙げることができる。本発明に用いられる脂肪酸は、減摩性が高く且つ金型汚れやロール汚れが少ないという観点から、炭素原子数10以上の脂肪酸が好ましく、炭素原子数16〜24の脂肪酸がより好ましく、炭素原子数16〜24の飽和脂肪酸がさらに好ましい。
【0035】
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸カドミウム、ラウリン酸カドミウム、リシノール酸カドミウム、ナフテン酸カドミウム、2−エチルヘキソイン酸カドミウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ナフテン酸バリウム、2−エチルヘキソイン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、2−エチルヘキソイン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛、ステアリン酸錫、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどを挙げることができる。
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、減摩性が高く且つ金型汚れやロール汚れが少ないという観点から、炭素原子数10以上の脂肪酸が好ましく、炭素原子数16〜24の脂肪酸がより好ましく、炭素原子数16〜24の飽和脂肪酸がさらに好ましい。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、安定性、減摩性の観点から、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉛、錫、鉄、カドミウム、アルミニウム、バリウム、コバルト、ニッケル、マンガン、ストロンチウム、チタン、バナジウム、および銅からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含むことが好ましく、カルシウム、マグネシウム、亜鉛および鉛からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含むことがより好ましい。
【0036】
脂肪族アミドとしては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エイコセン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどを挙げることができる。本発明に用いられる脂肪族アミドは、減摩性が高く且つ金型汚れやロール汚れが少ないという観点から、炭素原子数12以上の脂肪酸アミドが好ましく、炭素原子数16〜22の脂肪酸アミドがより好ましく、炭素原子数16〜22の不飽和脂肪酸アミドがさらに好ましい。
【0037】
1分子中に水酸基を2以上有しない脂肪酸エステルとしては、例えば、1価アルコールの脂肪酸エステル、2価アルコールの脂肪酸エステルなどを挙げることができ、具体的には、ジグリセライド、トリグリセライド、アセチル化モノグリセライド、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ブチル、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレートなどを挙げることができる。本発明に用いられる1分子中に水酸基を2以上有しない脂肪酸エステルは、減摩性が高く且つ金型汚れやロール汚れが少ないという観点から、脂肪酸エステル中の脂肪酸の炭素原子数が、好ましくは10以上、より好ましくは16〜24である。
【0038】
滑剤(x)の量は、共重合体(a)100質量部に対して、0.001質量部以上2質量部以下、好ましくは0.005質量部以上1質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上0.5質量部以下である。0.001質量部より少ないと上記滑剤(x)の効果が不十分となり、2質量部より多くても上記滑剤(x)のさらなる効果が得られないばかりか、成形品からこれら滑剤がブリードアウトして成形品の表面がべたつくなどの恐れがある。滑剤(x)は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。滑剤(x)として、融点の差が5℃以上ある複数の滑剤(x)を使用するとより広い温度範囲で減摩性などの効果を発揮できるため好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物において必要に応じて用いられる滑剤(y1)は、炭素原子数10〜24の飽和脂肪酸のモノグリセライドからなるものである。炭素原子数10〜24の飽和脂肪酸のモノグリセライドとしては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネートなどのモノグリセライドを挙げることができる。
【0040】
本発明の別の一実施形態に係る樹脂組成物において必要に応じて用いられる滑剤(y2)は、1分子中に水酸基を2以上有する脂肪酸エステルからなるものである。1分子中に水酸基を2以上有する脂肪酸エステルとしては多価アルコール脂肪酸部分エステルを挙げることができ、具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネートなどのモノグリセライド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレートなどのペンタエリスリトールモノ/ジエステル、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテートなどのソルビタンモノ/ジエステルなどを挙げることができる。1分子中に水酸基を2以上有する脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素原子数が、好ましくは10〜40、より好ましくは10〜24、さらに好ましくは14〜24である。また、該脂肪酸は不飽和脂肪酸であっても、飽和脂肪酸であってもよい。
【0041】
滑剤(y1)または(y2)の量は、共重合体(a)100質量部に対して、0.1質量部以下、好ましくは0.05質量部以下、より好ましくは0.03質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以下である。滑剤(y1)または(y2)の量が多すぎると、樹脂組成物を溶融成形した時にゲルが生成し、成形品に異物欠点や外観不良を引き起こす、傾向がある。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、その他必要に応じて各種の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、無機充填剤、無機繊維または有機繊維、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、着色剤、艶消し剤、光拡散剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体、粘着剤、粘着付与剤、可塑剤、発泡剤などを挙げることができる。これら添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。例えば、本発明の樹脂組成物100質量部において、酸化防止剤の含有量は0.01〜1.0質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01〜3.0質量部、染顔料の含有量は0.00001〜0.01質量部とすることが好ましい。
【0043】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合体(a)以外の他の重合体と混合して用いることができる。かかる他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メタクリル酸メチル−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどを挙げることができる。これら他の重合体は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物中における、これら他の重合体の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明に係る樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、共重合体(a)を軟化点以上の温度で練り、そこに滑剤(x)と、必要に応じて配合される滑剤(y1)若しくは滑剤(y2)と、必要に応じて配合される添加剤と他の重合体とを添加し、混練することによって得ることができ、または、共重合体(a)と、滑剤(x)と、必要に応じて配合される滑剤(y1)若しくは滑剤(y2)と、必要に応じて配合される添加剤と他の重合体とを溶媒に溶解させ、その溶液から溶媒を除去することによって得ることができる。
【0045】
本発明に係る樹脂組成物は、ガラス転移温度が、好ましくは115℃以上150℃以下、より好ましくは130℃以上150℃以下、さらに好ましくは140℃以上150℃以下である。樹脂組成物のガラス転移温度が前記範囲内にあると、樹脂組成物は耐熱性および耐衝撃性が良好にバランスし、例えば該樹脂組成物とポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂の積層シートの高温高湿下での反り発生が抑制される。
【0046】
また、本発明に係る樹脂組成物は、23℃の水中における飽和吸水率が、好ましくは0.3〜1.8質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%である。飽和吸水率が前記範囲内にあると、吸湿に起因する積層体の反りが抑制できる。なお、飽和吸水率は3日間以上真空乾燥した成形品の質量に対する、該成形品を23℃の蒸留水中に浸漬し、経時的に質量を測定し、平衡に達した時点における質量の増加率として測定した値である。
【0047】
本発明の樹脂組成物を、共押出成形法、Tダイラミネート成形法、押出被覆法などの押出成形法;インサート射出成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションブレス成形法などの射出成形法;ブロー成形法;カレンダー成形法;プレス成形法;スラッシュ成形法などの方法で加熱溶融成形することによって各種成形品を得ることができる。本発明の樹脂組成物は、高温度で溶融成形してもゲルが生成し難いので、高温度成形条件を要する成形品の製造にも適する。本発明の樹脂組成物は、シート、フィルム、板などのような薄く広い成形品の製造に好適である。
【0048】
本発明の積層体は、本発明の樹脂組成物(以下、樹脂組成物[a]ということがある。)からなる少なくとも1層と、他の材料からなる少なくとも1層とを有するものである。本発明の積層体に用いられる他の材料は、特に限定されない。例えば、樹脂などの有機材料;金属単体、金属酸化物などの無機材料が挙げられる。
【0049】
本発明の一実施形態に係る積層体は、樹脂組成物[a]からなる少なくとも1層と、樹脂組成物[b]からなる少なくとも1層とを有するものである。
【0050】
樹脂組成物[b]に含有される樹脂は特に限定されない。該樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;エネルギー線硬化性樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は1種単独でまたは2種以上を組みわせて用いることができる。これらのうち、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネートがより好ましい。
【0051】
樹脂としてポリカーボネートを採用した場合、樹脂組成物[b]に含有されるポリカーボネートの量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。係るポリカーボネートの重量平均分子量は、好ましくは20,000以上100,000以下である。ポリカーボネートの重量平均分子量が前記範囲内にあると、樹脂組成物[b]の耐熱性および耐衝撃性が向上し、且つ樹脂組成物[a]と樹脂組成物[b]とからなる積層シートを優れた成形加工性と高い生産性にて製造することができる。また、前記ポリカーボネートは、Mw/Mnが、好ましくは1.7〜2.6、より好ましくは1.7〜2.3、さらに好ましくは1.7〜2.0である。なお、重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0052】
本発明に用いられる樹脂組成物[b]は、ガラス転移温度が130℃以上160℃以下であることが好ましい。また、樹脂組成物[b]は、そのガラス転移温度が、樹脂組成物[a]のガラス転移温度と同程度であることが好ましい。具体的に、樹脂組成物[b]のガラス転移温度と樹脂組成物[a]のガラス転移温度との差ΔTgは、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下である。両者のガラス転移温度が同程度であると、積層シートの高温高湿下での反りの発生を抑制する効果がより高くなる。
【0053】
本発明に用いられる樹脂組成物[b]には、耐熱分解性、耐熱変色性、耐光性などを向上させるために、公知の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などを挙げることができる。
【0054】
本発明の別の一実施形態に係る積層体は、樹脂組成物[a]からなる少なくとも1層と、樹脂組成物[b]からなる少なくとも1層と、少なくとも一つの機能性付与層[c]とを有するものである。機能性付与層[c]は、特に限定されない。例えば、ハードコート層、帯電防止層、防汚層、摩擦低減層、防眩層、反射防止層、粘着層、衝撃強度付与層などが挙げられる。機能性付与層[c]は、公知の方法で形成することができる。例えば、ハードコート層は、ハードコート用の樹脂溶液を塗布し、乾燥、硬化させることによって得ることができる。反射防止層は、低屈折率膜と高屈折率膜とを蒸着などで積層することによって得ることができる。機能性付与層[c]のうち、例えばハードコート層、帯電防止層、防汚層、摩擦低減層、防眩層、反射防止層などは、一般に、積層体の最も外側に設けられる。機能性層[c]は、1種だけを設けてもよいし、複数種を設けてもよい。
【0055】
本発明の積層体における層構成は特に制限されない。本発明の積層体の積層順序としては、樹脂組成物[a]からなる層を[a]層、樹脂組成物[b]からなる層を[b]層、機能性付与層[c]を「c」層と表記すると、例えば、[a]層/[b]層、[a]層/[b]層/[a]層、[b]層/[a]層/[b]層、[a]層/[b]層/[a]層/[b]層/[a]層、[a]層/[b]層/[c]層、[c]層/[a]層/[b]層、[c]層/[a]層/[b]層/[c]層、[c]層/[a]層/[b]層/[a]層/[c]層、[a]層/[b]層/[c]層/[b]層/[a]層、などを挙げることができる。例えば、[c]層がハードコート層である場合、[c]層/[a]層/[b]層、[c]層/[a]層/[b]層/[c]層、[c]層/[a]層/[b]層/[a]層/[c]層が好ましい。
【0056】
本発明は、シート、薄板、フィルムなどのような形状の積層シートにおいて有用である。本発明に係る積層シートを保護カバーとして用いる場合、保護される面(被保護面)から見て樹脂組成物[a]層が最も外側に位置するように配置することが好ましい。例えば、[a]層/[b]層の層構成からなる積層シートを、[a]層/[b]層/被保護面の順に配置したり、[a]層/[b]層/[a]層の層構成からなる積層シートを、[a]層/[b]層/[a]層/被保護面の順に配置したりすることが好ましい。
【0057】
本発明に係る積層シートは、総厚さが、好ましくは0.2〜2mm、より好ましくは0.5〜1.5mmである。薄すぎると剛性が不十分となる傾向がある。厚すぎると液晶表示装置などの軽量化の妨げになる傾向がある。
【0058】
本発明に係る積層シートにおける樹脂組成物[a]からなる層の厚さは0.02〜0.5mmの範囲であることが好ましく、0.03mm〜0.3mmの範囲であることがより好ましく、0.05〜0.1mmの範囲であることがさらに好ましい。かかる厚さが0.01mm未満であると耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。また0.5mmを超えると耐衝撃性が不足する場合がある。
【0059】
高温高湿下における反りの発生を抑制する観点から、本発明に係る積層シートは厚さ方向に対称となるような積層順序とすることが好ましく、さらに各層の厚さも対称となっていることがより好ましい。
【0060】
本発明に係る積層シートは、その製造方法によって特に制限はなく、例えば、多層押出し成形、多層ブロー成形、多層プレス成形、多色射出成形、インサート射出成形などの多層成形法によって製造することができる。これら多層成形法のうち、生産性の観点から、樹脂組成物[a]と樹脂組成物[b]との多層押出し成形が好ましい。
多層押出し成形の方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂の多層積層シートの製造に用いられる公知の多層押出し成形法が採用され、例えば、フラットなTダイと表面が鏡面仕上げされたポリシングロールを備えた装置によって成形される。Tダイの方式としては、加熱溶融状態の樹脂組成物[a]および樹脂組成物[b]がTダイ流入前に積層されるフィードブロック方式、あるいは樹脂組成物[a]および樹脂組成物[b]がTダイ内部で積層されるマルチマニホールド方式などを採用できる。積層シートを構成する各層間の界面の平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
【0061】
樹脂組成物[a]および樹脂組成物[b]は、多層成形する前に、フィルターにより溶融濾過することが好ましい。溶融濾過した各樹脂組成物を用いて多層成形させることにより、異物やゲル等に由来する欠点の少ない積層シートが得られる。溶融濾過に使用されるフィルターは、特に限定されない。該フィルターは、使用温度、粘度、求められる濾過精度などの観点で公知のものの中から適宜選択される。フィルターの具体例としては、ポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレーヨン、グラスファイバー等からなる不織布;フェノール樹脂含浸セルロースフィルム;金属繊維不織布焼結フィルム;金属粉末焼結フィルム;金網;あるいはこれらを組み合わせてなるものを挙げることができる。中でも耐熱性、耐久性および耐圧力性の観点から金属繊維不織布焼結フィルムを複数枚積層して用いることが好ましい。
前記フィルターの濾過精度に特に制限はないが、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明に係る成形品、積層体または積層シートの用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機ディスプレイカバーなどの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどを挙げることができる。
【0063】
本発明の成形品を各種ディスプレイの前面板として用いることができる。係る前面板は、樹脂組成物を加熱溶融させ押出成形、射出成形、などの一般的な成形方法により得ることができる。
前記前面板が用いられるディスプレイ装置は、特に限定されず、例えば、大画面テレビや広告用ディスプレイなどの大型ディスプレイ装置;携帯電話やスマートフォンのような中小型ディスプレイ装置などが挙げられる。
前記前面板は、平面状に限られず曲面形状を有しても良い。前記曲面形状は一方向に湾曲した形状であってもよいし、複数の方向に湾曲した形状であっても良い。前記前面板を曲面形状とするために、前記板状成形体は、フレキシブル特性を有してもよいし、予め所望の曲面形状に成形されていてもよい。
【0064】
また、本発明の成形品は、表面にスプレーコートやディップコートなどの方法でハードコートした状態で前記した種々の用途に用いてもよい。ハードコートすることで表面の鉛筆硬度が高くなり傷つき難くなる。またハードコート以外に、アンチグレア層やアンチリフレクション層、電磁波や紫外線や近赤外線等をカットする層等の機能層を設けてもよい。
本発明の成形品は、他の機能フィルムや機能シートと接着層や粘着層を介して積層してもよく、フィルムインサート成形により積層してもよい。前記機能フィルムや機能シートとしては、導光板や拡散板、飛散防止フィルム、透明導電フィルムなどが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
製造例、実施例1a〜4aおよび比較例1a〜3aで得られたメタクリル樹脂およびメタクリル樹脂組成物の物性を以下の方法で測定した。
【0067】
<ガラス転移温度(Tg)>
JIS K7121に準拠して、メタクリル樹脂またはメタクリル樹脂組成物を、室温から200℃まで20℃/分で昇温し、10分間保持し、室温まで冷却し、次いで室温から200℃までを10℃/分で昇温させる温度条件において示差走査熱量(DSC)分析を行った。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度として採用した。測定装置として島津製作所製DSC−50を用いた。
【0068】
<飽和吸水率>
射出成形機(住友重機械工業株式会社製、SE−180DU−HP)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度75℃および成形サイクル1分の条件でメタクリル樹脂組成物を射出成形して、厚さ2mm、一辺50mmの正方形の試験片を得た。温度80℃、5mmHgの条件下において試験片を24時間真空乾燥させた。次いで、試験片をデシケータ中で放冷した。デシケータから試験片を取り出して直ぐに質量(初期質量)を測定した。
次いで該試験片を23℃の蒸留水に浸漬した。試験片を水から取り出し、表面に付着した水を拭き取って質量を測定した。該試験片を蒸留水に浸漬し、上記と同様にして質量を測定した。質量変化がなくなるまで蒸留水への浸漬、質量測定を繰り返した。質量変化がなくなったときの質量(吸水質量)と、初期質量とから、下式によって飽和吸水率を算出した。
飽和吸水率(%)=[(吸水質量−初期質量)/初期質量]×100
【0069】
<製造例1>
オートクレーブに、63質量部のメタクリル酸メチル、35質量部のメタクリル酸トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−ニル、2質量部のアクリル酸メチル、0.06質量部のアゾビスイソブチロニトリル、0.01質量部の1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサン、0.47質量部のペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、250質量部の水、0.09質量部の分散剤および1.07質量部のpH調整剤を入れた。
【0070】
オートクレーブ内を攪拌しながら、液温を室温から70℃に上げ、70℃で120分間保持し、その後120℃で60分間保持して、重合反応させた。液温を室温まで下げ、重合反応液をオートクレーブから抜き出した。重合反応液から固形分を濾過で取り出し、水で洗浄し、80℃にて24時間熱風乾燥させた。得られた固形分を2軸押出機のホッパーに供給し、シリンダ温度230℃で溶融混練した。その後、溶融樹脂を押し出して、ガラス転移温度123℃のペレット状のメタクリル樹脂[A]を得た。
【0071】
<製造例2>
オートクレーブに、96.5質量部のメタクリル酸メチル、2.5質量部のアクリル酸メチル、0.06質量部のアゾビスイソブチロニトリル、0.25質量部のn−オクチルメルカプタン、250質量部の水、0.09質量部の分散剤および1.07質量部のpH調整剤を入れた。
オートクレーブ内を攪拌しながら、液温を室温から70℃に上げ、70℃で120分間保持して、重合反応を行った。液温を室温まで下げ、重合反応液をオートクレーブから抜き出した。重合反応液から固形分を濾過で取り出し、水で洗浄し、80℃にて24時間熱風乾燥させた。得られた固形分を2軸押出機のホッパーに供給し、シリンダ温度230℃で溶融混練した。その後、溶融樹脂を押し出して、ガラス転移温度110℃のペレット状のメタクリル樹脂[B]を得た。
【0072】
<実施例1a>
メタクリル樹脂[A]100質量部および滑剤としてセタノール0.15質量部を2軸混練機にてシリンダ温度230℃で溶融混練した。その後、溶融樹脂を押し出して、ペレット状のメタクリル樹脂組成物[x1]を得た。メタクリル樹脂組成物[x1]の組成および物性を表1に示す。
【0073】
<実施例2a>
滑剤としてステアリン酸モノグリセライド0.04質量部をさらに加えた以外は、実施例1aと同じ手法にてメタクリル樹脂組成物[x2]を得た。メタクリル樹脂組成物[x2]の組成および物性を表1に示す。
【0074】
<実施例3a>
滑剤としてステアリン酸モノグリセライド0.1質量部をさらに加えた以外は、、実施例1aと同じ手法にてメタクリル樹脂組成物[x3]を得た。メタクリル樹脂組成物[x3]の組成および物性を表1に示す。
【0075】
<実施例4a>
セタノールの量を0.3質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にてメタクリル樹脂組成物[x4]を得た。メタクリル樹脂組成物[x4]の組成および物性を表1に示す。
【0076】
<比較例1a>
セタノール0.15質量部をステアリン酸モノグリセライド0.15質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にてメタクリル樹脂組成物[x5]を得た。メタクリル樹脂組成物[x5]の組成および物性を表1に示す。
【0077】
<比較例2a>
滑剤としてセタノール0.15質量部をさらに加えた以外は、比較例1aと同じ手法にてメタクリル樹脂組成物[x6]を得た。メタクリル樹脂組成物[x6]の組成および物性を表1に示す。
【0078】
<比較例3a>
メタクリル樹脂[A]をメタクリル樹脂[B]に変えた以外は、比較例1aと同じ方法にてペレット状のメタクリル樹脂組成物[x7]を得た。メタクリル樹脂組成物[x7]の組成および物性を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
以上の結果が示すとおり、本発明に係る樹脂組成物(実施例1a〜4a)は、高いガラス転移温度と低吸水性を有している。
【0081】
実施例1b〜4bおよび比較例1b〜4bで得られた積層シートを以下の方法で評価した。
【0082】
<外観>
積層シートのメタクリル樹脂側表面を目視観察して異物欠点の数を数えた。
1m
2の面積内において、欠点の数が1個以下であったものを◎、2個であったものを○、3個であったものを△、4個以上であったものを×とした。
【0083】
<成形性>
積層シートのメタクリル樹脂側表面を目視観察して押出流れ方向に直交する段差状欠点(離型マーク)の有無を検査した。
押出流れ方向に30cmの範囲において、段差状欠点が全く視認できなかったものを◎、ほとんど視認できなかったものを○、わずかに視認できたものを△、明瞭に視認できたものを×とした。
【0084】
<反り変化量>
積層シートから、押出流れ方向に対して垂直な方向が短辺、押出流れ方向に対して平行な方向が長辺となるように、短辺30mm、長辺150mmの長方形試験片を切り出した。試験片の短辺を摘み吊り、温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中に、72時間放置した。試験片を23℃に放冷した。試験片は弓状に反った。弓状に反った試験片を、定盤の上に該試験片を端部が定盤に接するように(すなわち、試験片が山形になるように)置き、定盤と試験片との隙間の最大距離(通常、試験片の長辺中央部付近が最大となる。)を、隙間ゲージを用いて測定した。この値を初期反り量とした。
続いて、弓状に反った試験片の短辺を摘み吊り、温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に、24時間放置した。試験片を23℃に放冷した。上記と同じ方法で定盤と試験片との隙間の最大距離を測定した。この測定値と初期反り量との差を「反り変化量」と定義した。反り変化量が1mm以下のものを◎、反り変化量が1mm超のものを×とした。
【0085】
<実施例1b>
シリンダ温度280℃、吐出量30kg/時に設定された、軸径50mmの単軸押出機[I]にポリカーボネート(住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「SDポリカ(登録商標)PCX」。以下同じ)のペレットを連続的に投入した。
シリンダ温度220℃、吐出量2kg/時に設定された、軸径30mmの単軸押出機[II]にメタクリル樹脂組成物[x1]のペレットを連続的に投入した。
押出機[I]および押出機[II]から同時にポリカーボネートとメタクリル樹脂組成物[x1]とを押出して、ジャンクションブロックに導入し、次いで温度250℃のマルチマニホールドダイでポリカーボネートとメタクリル樹脂組成物[x1]とを共押出成形してシート状にした。このシートを、横4本ロールの1,2番ロール間にてバンク成形し、4本ロールにて鏡面を転写しながら冷却し、厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x1]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0086】
<実施例2b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂組成物[x2]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x2]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0087】
<実施例3b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂組成物[x3]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x3]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0088】
<実施例4b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂組成物[x4]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x4]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0089】
<比較例1b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂組成物[x5]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x5]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0090】
<比較例2b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂組成物[x6]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x6]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0091】
<比較例3b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂組成物[x7]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂組成物[x7]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0092】
<比較例4b>
メタクリル樹脂組成物[x1]をメタクリル樹脂[A]に変えた以外は、実施例1bと同じ方法にて厚さ60μmのメタクリル樹脂[A]からなる層と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層シートを得た。積層シートの評価結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
以上の結果が示すとおり、本発明に係る積層体(実施例1b〜4b)は、溶融成形時に生成することがあるゲルなどに起因する異物欠点が少なく、且つ離型マークが少ない。さらに本発明に係る積層体は、高温高湿下に放置しておいても反りが少ない。