特許第6357232号(P6357232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357232
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】高赤外線透過ガラスシート
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/10 20060101AFI20180702BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20180702BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20180702BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20180702BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20180702BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C03C4/10
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/087
   C03C3/091
   G06F3/041 460
   G06F3/041 495
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-528458(P2016-528458)
(86)(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公表番号】特表2016-525063(P2016-525063A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2014065485
(87)【国際公開番号】WO2015011041
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年4月4日
(31)【優先権主張番号】13177773.2
(32)【優先日】2013年7月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ランブリット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ドギモン, オドレイ
【審査官】 山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0098903(US,A1)
【文献】 特開2014−118313(JP,A)
【文献】 米国特許第04526872(US,A)
【文献】 特開2008−007398(JP,A)
【文献】 特開2006−036626(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/128180(WO,A1)
【文献】 特表2016−501818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの全重量のパーセントで表される含有量で、以下:
55≦SiO≦85%
18<Al≦30%
0≦B≦20%
0≦NaO≦25%
0≦CaO≦20%
0≦MgO≦15%
0≦KO≦20%
0≦BaO≦20
含んでなる組成物を有するガラスシートにおいて、前記組成物が、前記ガラスの全重量のパーセントで表される0.001%≦Cr≦0.06%のクロム含有量を有すること、および前記組成物が、前記ガラスの前記全重量に関して、0.002〜0.02重量%の全鉄(Feの形態で表される)の含有量を有することを特徴とするガラスシート。
【請求項2】
前記組成物が、0.002%≦Cr≦0.06%のクロム含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のガラスシート。
【請求項3】
前記組成物が、55≦SiO≦78%の前記ガラスの前記全重量のパーセントで表されるSiOの含有量を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のガラスシート。
【請求項4】
12.5m−1以下の波長1050nmにおける吸収係数を有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項5】
9m−1以下の波長1050nmにおける吸収係数を有することを特徴とする、請求項に記載のガラスシート。
【請求項6】
5m−1以下の波長1050nmにおける吸収係数を有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガラスシートを含んでなり、前記ガラスシートがタッチ感応性表面を画定する、スクリーンまたはパネルまたはパッド。
【請求項8】
FTIRまたはPSD光技術を使用する、請求項に記載のスクリーンまたはパネルまたはパッド。
【請求項9】
ガラスの全重量のパーセントで表される含有量で、以下:
55≦SiO≦85%
18<Al≦30%
0≦B≦20%
0≦NaO≦25%
0≦CaO≦20%
0≦MgO≦15%
0≦KO≦20%
0≦BaO≦20
含んでなる組成物を有するガラスシートの、本質的に前記シートの内部を伝播する赤外線を使用するデバイスにおける使用であって、前記組成物が、前記ガラスの全重量のパーセントで表される0.001%≦Cr≦0.06%のクロム含有量を有すること、および前記組成物が、前記ガラスの前記全重量に関して、0.002〜0.02重量%の全鉄(Feの形態で表される)の含有量を有することを特徴とする使用。
【請求項10】
前記赤外線の前記伝播が全内部反射によって生じることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高赤外透過を有するガラスシートに関する。
【0002】
また本発明は、本質的に上記シートの内部を伝播する赤外線を使用するデバイスにおける、そのようなガラスシートの使用にも関する。
【0003】
その高赤外(IR)透過のため、本発明によるガラスシートは、実際に、上記シートの表面上での1つ以上の対象(例えば、指またはスタイラス)の位置を検出するために、例えば、平面散乱検出(planar scatter detection)(PSD)またはフラストレイテッド全内部反射(frustrated total internal reflection)(FTIR)と呼ばれる光技術(または高IR透過を必要とする他のいずれかの技術)を使用するタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッドにおいて有利に使用することができる。
【0004】
したがって、また本発明は、そのようなガラスシートを含んでなるタッチスクリーン、タッチパネルまたはタッチパッドにも関する。
【背景技術】
【0005】
PSDおよびFTIR技術によって、安価であり、かつ薄い厚さを有しながら、比較的有意なタッチ感応性表面(例えば、3〜100インチ)を有することができる複数の検出タッチスクリーン/パネルを得ることができる。
【0006】
これらの2つの技術には、
(i)例えば、1つまたはいくつかの端縁/側面からの赤外透過基板へのLEDによる赤外線(IR)の注入;
(ii)全内部反射の光学現象による(したがって、導波管として作用する)上記基板内部での赤外線の伝播(放射線は基板から「出ない」);
(iii)全方向における放射線の拡散による局所的外乱(local disturbance)を生じる、いずれかの対象(例えば、指またはスタイラス)との基板の表面の接触(逸脱した光線の一部は、したがって、基板から「出る」ことが可能である)
が関与する。
【0007】
FTIR技術では、逸脱した光線は、タッチ感応性表面の反対側の基板の内部表面で赤外光点を形成する。これらは、デバイスの下に位置する特別なカメラによって見られる。
【0008】
PSD技術自体には、ステップ(i)〜(iii)のリストへの2つの追加的なステップ:
(iv)検出器による基板の端縁のレベルにおける得られたIR放射線の分析;および
(v)検出される放射線からの表面と接触する対象の位置のアルゴリズムによる計算
が関与する。この技術は、米国特許出願公開第2013/021300A1号明細書に特に開示される。
【0009】
基本的に、ガラスは、その機械的特性、その耐久性、そのひっかき傷耐性、その光学的透明性のため、およびそれが化学的または熱的に強化可能であるため、タッチパネルのための選択材料である。
【0010】
非常に実質的な表面積、したがって比較的大きい長さ/幅で、PSDまたはFTIR技術のために使用されるガラスパネルの場合、注入されたIR放射線の光学距離は長い。この場合、ガラスの材料によるIR放射線の吸収は、したがって、タッチパネルの感度に対する有意な影響を有し、これは次いで、パネルの長さ/幅において望ましくなく減少する可能性がある。より小さい表面積、したがって、注入されたIR放射線のより短い光学距離で、PSDまたはFTIR技術のために使用されるガラスパネルの場合、ガラスの材料によるIR放射線の吸収は、特にガラスパネルが集積化されるデバイスのエネルギー消費にも影響を及ぼす。
【0011】
したがって、赤外線に高度に透明であるガラスシートは、この表面が実質的である場合、タッチ感応性表面全体において、損なわれてないか、または十分な感度を保証するために、これに関連して非常に役に立つ。特に、これらの技術で一般に使用される1050nmの波長で最も低い可能な吸収係数を有するガラスシートが望ましい。
【0012】
高赤外透過(可視においても透過)を得るために、(当該技術分野における標準的実施に従って、Feに関して表される)ガラス中の全鉄含有量を低下させ、低鉄ガラスを得ることが既知である。使用される多くの原材料中の不純物(特に、砂)として存在するため、シリケート系ガラスは常に鉄を含有する。鉄は、ガラスの構造において、第2鉄イオンFe3+および第1鉄イオンFe2+の形態で存在する。第2鉄イオンFe3+の存在によって、低波長可視光のわずかな吸収および近紫外線(380nmを中心とする吸収帯)におけるより高い吸収がガラスに与えられるが、第1鉄イオンFe2+(酸化物FeOとして表される時もある)の存在は、近赤外線(1050nm中心とする吸収帯)において高吸収を生じる。したがって、(その2つの形態における)全鉄含有量の増加は、可視および赤外線における吸収を強調する。さらに、高濃度の第1鉄イオンFe2+は、赤外線(特に近赤外線)における透過の低下を生じる。しかしながら、単に全鉄含有量に作用することのみによって、タッチ感応性用途のために十分低い波長1050nmにおける吸収係数を得るためには、全鉄含有量のそのような有意な低下は、(i)非常に純粋な原材料を必要とすることの結果として、非常に高い生産コストを被ること(それは時には十分純粋な状態でも存在しない)、または(ii)生産課題(特に、炉の早期摩耗および/または炉においてガラスを加熱することに関する困難)を提起することのいずれかを必要とするであろう。
【0013】
さらにガラスの透過を増加させるために、ガラス中に存在する鉄を酸化すること、すなわち、第2鉄イオンの含有量に有利に第1鉄イオンの含有量を低下させることが既知である。ガラスの酸化度は、ガラス中に存在する鉄原子の全重量に対するFe2+の原子重量比、Fe2+/全Feとして定義されるその酸化還元によって与えられる。
【0014】
ガラスの酸化還元を低下させるために、原材料のバッチに酸化成分を添加することが既知である。しかしながら、既知の酸化剤(硫酸塩、硝酸塩など)の大部分は、FTIRまたはPSD技術を使用するタッチパネルへの用途に求められるIR透過値を得るために十分高い酸化力を有さず、あるいはコスト、着色、製造工程の不適合性などの副次的な不都合を伴って、非常に高い量において添加されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、高赤外透過を有するガラスシートを提供することである。特に、本発明の対象は、近赤外線に対して高透過を有するガラスシートを提供することである。
【0016】
本発明の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、本質的に上記シートの内部を伝播する赤外線を使用するデバイスにおいて特に有利である、高赤外透過を有するガラスシートを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、大きい寸法のタッチスクリーン、タッチパネルまたはタッチパッドにおいてタッチ感応性表面として使用される場合、タッチ感応性機能の感度のいかなる損失も生じないか、または生じたとしても非常にわずかであるガラスシートを提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、より中程度の寸法のタッチスクリーン、タッチパネルまたはタッチパッドにおいてタッチ感応性表面として使用される場合、デバイスのエネルギー消費に有利であるガラスシートを提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、高赤外透過を有し、かつ選択された用途のために容認できる美的外観を有するガラスシートを提供することである。
【0020】
最終的に、本発明の目的は、製造のために安価である高赤外透過を有するガラスシートを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、ガラスの全重量のパーセントで表される含有量で、
55≦SiO≦85%
18<Al≦30%
0≦B≦20%
0≦NaO≦25%
0≦CaO≦20%
0≦MgO≦15%
0≦KO≦20%
0≦BaO≦20%
0.002≦全鉄(Feの形態で表される)≦0.06%
を含んでなる組成物を有するガラスシートに関する。
【0022】
特定の実施形態に従って、上記組成物は、ガラスの全重量のパーセントで表される0.0001%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を追加的に含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
したがって、本発明は、提起された技術的問題が解決されるのを可能にするため、完全に新規であり、かつ創意に富んだアプローチに基づいている。実際に、本発明者らは、驚くべきことに、特定の含有量範囲で、いわゆる「選択的」着色ガラスにおいて強力な着色剤として特に既知の鉄およびクロムの低含有量をガラス組成物に組み込むことによって、その美的外観、その色にあまりマイナスの影響を及ぼさずに、高度IR透過ガラスシートを得ることが可能であったことを示した。
【0024】
本文全体において、範囲が示される場合、数値的な範囲の全体および部分的領域の値は全て、明示的に示されたかのように明白に含まれる。同様に、本文全体において、明示的に記載されない限り、パーセント含有量値はガラスの全重量に対して表される重量値である。
【0025】
本発明の他の特徴および効果は、以下の記載を読み取ることにより明確となる。
【0026】
本発明の意味において、ガラスは、完全に非晶質である材料を意味することが理解され、したがって、部分的であっても、いずれの結晶質材料(例えば、ビトロクリスタリン(vitrocrystalline)またはガラスセラミック材料など)も排除される。
【0027】
本発明によるガラスシートは、フロート、引抜きまたはラミネートプロセス、あるいは溶融ガラス組成物からガラスシートを製造するための他のいずれかの既知のプロセスによって得られるガラスシートであることができる。
【0028】
本発明によると、クロムを含有する異なる原材料を、クロムをガラス組成物に導入するために使用することができる。特に、酸化クロム、CrO、Cr、CrOまたはCrOは、可能かつ比較的純粋なクロム供給源である。クロムが豊富である他の物質としては、クロム酸塩、クロム鉄鉱および他のいずれかのクロムをベースとする化合物などを使用することもできる。しかしながら、6+型のクロムを含有する化合物は、安全上の理由で好ましくない。
【0029】
本発明によるガラスシートは、様々な比較的有意な寸法を有することができる。例えば、3.21m×6m、もしくは3.21m×5.50m、もしくは3.21m×5.10m、もしくは3.21m×4.50m(PLFガラスシートと呼ばれる)、または例えば、3.21m×2.55m、もしくは3.21m×2.25m(DLFガラスシートと呼ばれる)の範囲の寸法を有することができる。
【0030】
本発明によるガラスシートは、0.05〜25mmの範囲の厚さを有することができる。有利には、タッチパネル用途の場合、本発明によるガラスシートは、0.1〜6mmで変動する厚さを有することができる。タッチパネル用途の場合、重量の理由のため、本発明によるガラスシートの厚さは、好ましくは0.1〜2.2mmである。
【0031】
本発明によると、本発明の組成物は、0.002≦全鉄(Feの形態で表される)≦0.06%などの全鉄の含有量を有する。0.06重量%以下の全鉄(Feの形態で表される)の含有量は、ガラスシートのIR透過をさらに増加させることを可能にする。その最小値は、そのような低い鉄値が、しばしば、費用が高い非常に純粋な原材料または原材料の精製を必要とするため、ガラスの費用があまり不利とならないであろうことを意味する。組成物は、好ましくは、ガラスの全重量に関して、0.002〜0.04重量%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)の含有量を有する。特に好ましくは、組成物は、ガラスの全重量に関して、0.002〜0.02重量%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)の含有量を有する。
【0032】
本発明の特に有利な実施形態によると、組成物は、0.0005%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を有する。特に好ましくは、本発明の組成物は、0.001%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を有する。さらにより好ましくは、本発明の組成物は、0.002%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を有する。クロム含有量のそのような最小値は、IRのさらなる改善された透過が得られることを可能にする。
【0033】
本発明の有利な実施形態によると、組成物は、0.0001%≦Cr≦0.03%など、またはさらにより良好には、0.001%≦Cr≦0.03%など、好ましくは、0.002%≦Cr≦0.03%などのクロム含有量(Crの形態で表される)を有する。クロム含有量のそのような範囲は、ガラスシートの美的外観に悪影響をあまり及ぼすことなく、IRの有意な透過が得られることを可能にする。さらにより好ましくは、本発明の組成物は、0.0001%≦Cr≦0.02%など、またはさらにより良好には、0.001%≦Cr≦0.02%など、好ましくは、0.002%≦Cr≦0.02%などのクロム含有量を有する。
【0034】
本発明の別の実施形態によると、組成物は、55≦SiO≦78%などのガラスの全重量のパーセントとして表されるSiOの含有量を有する。
【0035】
本発明によると、ガラスシートは、高いIR透過を有する。より正確には、本発明のガラスシートは、近赤外線における放射線の高い透過を有する。赤外範囲におけるガラスの高い透過を定量化するために、波長1050nmにおける吸収係数は、したがって、高い透過を得るために可能な限り低くなければならず、本明細書で使用される。吸収係数は、吸光度と、所与の媒体における電磁放射によって適用される光学距離の長さとの関係によって定義される。これは、m−1で表される。これは、したがって、材料の厚さから独立しているが、吸収される放射線の波長および材料の化学的性質に依存する。
【0036】
ガラスの場合、選択された波長λにおける吸収係数(μ)は、透過(T)、ならびに材料(thick=厚さ)の屈折率nの測定から計算することができる。n、ρおよびTの値は、選択された波長λの関数である。
【数1】
式中、ρ=(n−1)/(n+1)である。
【0037】
有利には、本発明によるガラスシートは、波長1050nmで12.5m−1以下の吸収係数を有する。好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長1050nmで9m−1以下の吸収係数を有する。特に好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長1050nmで5m−1以下の吸収係数を有する。なおより好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長1050nmで2m−1以下の吸収係数を有する。
【0038】
有利には、本発明によるガラスシートは、波長950nmで12.5m−1以下の吸収係数を有する。好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長950nmで9m−1以下の吸収係数を有する。特に好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長950nmで5m−1以下の吸収係数を有する。なおより好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長950nmで2m−1以下の吸収係数を有する。
【0039】
有利には、本発明によるガラスシートは、波長850nmで12.5m−1以下の吸収係数を有する。好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長850nmで9m−1以下の吸収係数を有する。特に好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長850nmで5m−1以下の吸収係数を有する。なおより好ましくは、本発明によるガラスシートは、波長850nmで2m−1以下の吸収係数を有する。
【0040】
本発明の実施形態によって、原材料で特に含有される不純物に加えて、ガラスシートの組成物は、少量の添加剤(例えば、ガラスの溶解または精製を促進する薬剤)、または溶融炉を形成する耐火性材料の溶解に由来する要素を含んでなることができる。
【0041】
本発明の実施形態によって、ガラスシートの組成物は、求められる効果の作用として調節される量の1つ以上の着色剤を追加的に含んでなることができる。この着色剤は、例えば、クロムの存在によって発生した色を「中和する」ために役立つことができ、したがって、本発明のガラスの着色を、より淡く、無色にさせる。あるいは、この着色剤は、クロムの存在によって発生した色以外の所望の色を得るために役立つことができる。
【0042】
上記実施形態と組み合わされてもよい本発明の別の有利な実施形態によって、ガラスシートは、クロムの存在によって発生する可能性のある色を変更または中和することが可能な層またはフィルム(例えば、着色PVBのフィルム)でコーティングされることが可能である。
【0043】
本発明によるガラスシートは、有利には化学的に、または熱的に強化することができる。
【0044】
本発明の実施形態によると、ガラスシートは、少なくとも1つの導電性透明薄層でコーティングされることができる。本発明による導電性透明薄層は、例えば、SnO:F、SnO:SbまたはITO(酸化インジウムスズ)、ZnO:AlまたはZnO:Gaをベースとする層であることができる。
【0045】
本発明の別の有利な実施形態によると、ガラスシートは、少なくとも1つの反射防止(または反射よけ)層でコーティングされる。この実施形態は、本発明のガラスシートがスクリーンの前面として使用される場合、明らかに有利である。本発明による反射防止層は、例えば、低屈折率を有する多孔性シリカをベースとする層であることができるか、またはいくつかの層(スタック)、特に、低屈折率および高屈折率の層を交互にして、低屈折率の層で終了する誘電体物質の層のスタックから形成することができる。
【0046】
別の実施形態によると、ガラスシートは、指紋が示されることを低下/防止するために少なくとも1つの耐指紋性層でコーティングされる。この実施形態も、本発明のガラスシートがタッチスクリーンの前面として使用される場合、有利である。そのような層は、対向する表面に析出された導電性透明薄層と組み合わせることができる。そのような層は、同一面上に析出された反射防止層と組み合わせることができ、耐指紋性層はスタックの外部にあり、したがって、反射防止層を被覆する。
【0047】
本発明によるガラスシートは、その主要表面の少なくとも1つにおいて、例えば、抗指紋特性、またはアンチグレアもしくはアンチスパークリング特性を生じるため、例えば、酸または塩基つや消しプロセスを使用して、処理することもできる。これは、本発明のガラスシートが、タッチ感応性表面/スクリーンとして使用される場合も、特に有利である。
【0048】
所望の用途および/または特性次第で、他の層/他の処理を、本発明によるガラスシートの1つの表面および/または他の表面上で堆積/実行することができる。
【0049】
加えて、本発明は、本発明による少なくとも1つのガラスシートを含んでなり、上記ガラスシートがタッチ感応性表面を画定するスクリーンまたはパネルまたはパッドにも関する。タッチスクリーンまたはパネルまたはパッドは、好ましくはFTIRまたはPSD光技術を使用する。特に、ガラスシートは、ディスプレイ表面上に有利に取り付けられる。
【0050】
最終的に、本発明は、ガラスの全重量のパーセントで表される含有量で、以下:
55≦SiO≦85%
18<Al≦30%
0≦B≦20%
0≦NaO≦25%
0≦CaO≦20%
0≦MgO≦15%
0≦KO≦20%
0≦BaO≦20%
0.002≦全鉄(Feの形態で表される)≦0.06%
0.0001%≦Cr≦0.06%
を含んでなる組成物を有するガラスシートの、本質的に上記シートの内部を伝播する赤外線を使用するデバイスにおける使用にも関する。本質的にシートの内部を伝播する赤外線という用語は、シートの2つの主要表面間でガラスシートのバルク内を移動する放射線を意味するように理解される。
【0051】
有利には、本発明の使用の実施形態によると、赤外線の伝播は全反射によって生じる。この実施形態によると、赤外線は、上記シートの1つ以上の側面からガラスシートに注入されることができる。シートの側面は、シートの厚さによって画定され、かつシートの2つの主要表面に実質的に垂直である4つの表面のそれぞれを意味するものとして理解される。あるいは、さらにこの実施形態によると、赤外線は、特定の角度で主要表面の一方または両方からガラスシートに注入されることができる。
【0052】
本発明の使用の特に有利な実施形態によると、組成物は、0.0005%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を有する。特に好ましくは、組成物は、0.001%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を有する。さらにより好ましくは、本発明の組成物は、0.002%≦Cr≦0.06%などのクロム含有量を有する。
【0053】
本発明の使用の有利な実施形態によると、組成物は、0.0001%≦Cr≦0.03%など、またはさらにより良好には、0.001%≦Cr≦0.03%など、なおより好ましくは、0.002%≦Cr≦0.03%などのクロム含有量(Crの形態で表される)を有する。クロム含有量のそのような範囲は、ガラスシートの美的外観に悪影響をあまり及ぼすことなく、IRの有意な透過が得られることを可能にする。さらにより好ましくは、本発明の組成物は、0.0001%≦Cr≦0.02%など、またはさらにより良好には、0.001%≦Cr≦0.02%など、好ましくは、0.002%≦Cr≦0.02%などのクロム含有量を有する。
【0054】
本発明による使用の別の実施形態によると、組成物は、55≦SiO≦78%などのガラスの全重量のパーセントとして表されるSiOの含有量を有する。
【0055】
本発明による使用の別の実施形態によると、組成物は、有利には、ガラスの全重量に関して、0.002〜0.04重量%の全鉄(Feの形態で表される)の含有量、好ましくは、ガラスの全重量に関して、0.002〜0.02重量%の全鉄(Feの形で表される)の含有量を有する。
【0056】
以下の実施例は、決してその範囲を限定することを意図せず、本発明を例示する。
【実施例】
【0057】
原材料は、下記の表中で特定化される組成に従って、粉末の形態で混合され、るつぼに配置された。
【0058】
【表1】
【0059】
シート形態の本発明によるガラス試料の光学特性を決定し、そして特に波長1050nmにおける吸収係数を、直径150mmの積分球を取り付けたPerkin Elmer lambda 950分光光度計における透過測定によって、試料を測定用球面の吸気口に配置して決定した。これらの同一測定は、クロムを添加せずに同一ベース組成の参照(比較)試料上でも実行した。
【0060】
下記の表は、本発明によるクロムを有する試料および参照のための試料に関して得られた波長1050nmにおける吸収係数を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
これらの結果は、本発明による含有量の範囲におけるクロムの添加によって、波長1050nmにおける吸収係数が実質的に減少することが可能となり、したがって、一般に、近赤外における放射線の吸収の減少が可能となることを示す。