(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した第1実施形態を説明する。
(第1実施形態)
本実施形態の研磨用組成物は、二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子、及び塩基性化合物を水に混合して調製される。従って、研磨用組成物は、二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子、塩基性化合物、及び水を含有する。本実施形態の研磨用組成物は、例えばシリコン基板等の半導体基板を研磨対象物として、その半導体基板の両面を研磨する用途に用いられる。
【0013】
<二酸化ケイ素>
研磨用組成物中の二酸化ケイ素は、研磨対象となる面に対し、物理的な作用を与える働きを有し、研磨対象となる面を物理的に研磨する。
【0014】
使用される二酸化ケイ素としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、ゾルゲル法シリカ等が挙げられる。コロイダルシリカ又はフュームドシリカ、特にコロイダルシリカを使用した場合には、研磨により半導体基板の表面に発生するスクラッチが減少するので好ましい。これらの二酸化ケイ素は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
研磨用組成物中の二酸化ケイ素のBET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径は、40nm以上であり、好ましくは45nm以上であり、更に好ましくは70nm以上である。二酸化ケイ素のBET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が40nm以上であることで、表面粗さ又は段差を低減することが容易となる。
【0016】
また、研磨用組成物中の二酸化ケイ素のBET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径は100nm未満であることが好ましい。二酸化ケイ素のBET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が100nm未満であると、研磨用組成物の保存安定性がより保たれる。保存安定性とは、研磨用組成物を容器に一定期間保存した後の組成物自身の物性の安定性、及びその組成物を研磨に用いたときの研磨特性に関する安定性のことをいう。
【0017】
研磨用組成物中の二酸化ケイ素の長径/短径比は1.10以上であることが好ましく、より好ましくは1.15以上である。二酸化ケイ素の長径/短径比が1.10以上の場合には、高い研磨速度が得られ易くなるとともに、表面粗さ又は段差を低減する効果が高くなる。
【0018】
なお、二酸化ケイ素の長径/短径比は、走査型電子顕微鏡の視野範囲内にある複数の粒子について各々の粒子の画像に外接する最小の長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除したものの平均値であり、これは一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0019】
また、研磨用組成物中の二酸化ケイ素の長径/短径比は3.00未満であることが好ましく、より好ましくは2.00未満である。二酸化ケイ素の長径/短径比が3.00未満であると、研磨用組成物の保存安定性がより保たれる。
【0020】
研磨用組成物中の二酸化ケイ素の真比重は1.7以上であることが好ましく、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.1以上である。二酸化ケイ素の真比重が大きいほど、高い研磨速度がさらに得られ易くなるとともに、表面粗さ又は段差を低減する効果を高めることがさらに容易となる。
【0021】
なお、二酸化ケイ素の真比重は、二酸化ケイ素の粒子を乾燥させた際の重量とこの二酸化ケイ素の粒子に容量既知のエタノールを満たした際の重量とから算出される。
研磨用組成物中の二酸化ケイ素の含有量は0.6質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。二酸化ケイ素の含有量が多いほど、高い研磨速度が得られ易くなるとともに、表面粗さ又は段差を低減する効果が高くなる。
【0022】
また、研磨用組成物中の二酸化ケイ素の含有量は10質量%未満であることが好ましい。二酸化ケイ素の含有量が10質量%未満の場合、研磨用組成物の保存安定性がより保たれる上に経済的である。
【0023】
<含窒素水溶性高分子>
研磨用組成物中の含窒素水溶性高分子は、半導体基板の中央から端部の平坦性を維持する。
【0024】
使用される含窒素水溶性高分子としては、単量体単位中に窒素原子を1個以上有するもの、又は、側鎖の一部に窒素原子を1個以上有するものであれば特に限定されないが、例えばアミン、イミン、アミド、イミド、カルボジイミド、ヒドラジド、ウレタン化合物等が用いれられ、鎖状、環状、1級、2級、3級のいずれでもよい。また、窒素原子をカチオンとして形成される塩の構造を有する含窒素水溶性高分子であってもよい。塩の構造を有する含窒素水溶性高分子としては、例えば、第四級アンモニウム塩が挙げられる。含窒素水溶性高分子としては、例えば、水溶性ナイロン等の重縮合系ポリアミド、水溶性ポリエステル等の重縮合系ポリエステル、重付加系ポリアミン、重付加系ポリイミン、重付加系(メタ)アクリルアミド、アルキル主鎖の少なくとも一部に窒素原子を有する水溶性高分子、側鎖の少なくとも一部に窒素原子を有する水溶性高分子等が挙げられる。なお、側鎖に窒素原子を有する水溶性高分子は、側鎖に第四級窒素を有する水溶性高分子も含む。
【0025】
重付加系の含窒素水溶性高分子の具体例としては、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン等が挙げられる。また、含窒素水溶性高分子は、ビニルアルコール構造、メタクリル酸構造、ビニルスルホン酸構造、ビニルアルコールカルボン酸エステル構造、オキシアルキレン構造等の親水性を有する構造を部分的に有するものであってもよい。また、これらのジブロック型やトリブロック型、ランダム型、交互型といった複数種の構造を有する重合体であってもよい。含窒素水溶性高分子は、分子中の一部または全部にカチオンを持つもの、アニオンを持つもの、アニオンとカチオンとの両方を持つもの、ノニオンを持つのものいずれであってもよい。これらの含窒素水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
含窒素水溶性高分子の中でも、端部の加工性を制御する働きが良好であると言う観点から、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンを構造の一部に含む共重合体、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルカプロラクタムを構造の一部に含む共重合体が好適である。これらの含窒素水溶性高分子の中でも最も好ましいのはポリビニルピロリドンである。
【0027】
研磨用組成物中の含窒素水溶性高分子の重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で1500000未満であることが好ましく、より好ましくは500000未満、更に好ましくは100000未満、一層好ましくは80000未満、最も好ましくは50000未満である。含窒素水溶性高分子の分子量が1500000未満の場合、研磨用組成物の保存安定性が維持され易くなる。
【0028】
また、研磨用組成物中の含窒素水溶性高分子の重量平均分子量は1000以上であることが好ましく、より好ましくは20000以上である。含窒素水溶性高分子の分子量が1000以上の場合、半導体基板の端部の形状がさらに維持され易くなる。
【0029】
研磨用組成物中の含窒素水溶性高分子化合物の含有量は0.0001質量%以上であることが好ましい。含窒素水溶性高分子化合物の含有量が0.0001質量%以上の場合、半導体基板の端部の形状がさらに維持され易くなる。
【0030】
また、研磨用組成物中の含窒素水溶性高分子の含有量は0.002質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%未満、さらに好ましくは0.0005質量%未満である。含窒素水溶性高分子の含有量が0.002質量%未満の場合、高い研磨速度がさらに得られ易くなる。
【0031】
<塩基性化合物>
塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働き、及び研磨用組成物の保存安定性を向上させる働きを有する。
【0032】
塩基性化合物の具体例としては、アルカリ金属の水酸化物又は塩、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。第四級アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0033】
水酸化第四級アンモニウム化合物としては、水酸化第四級アンモニウム又はその塩を含み、具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0034】
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン等が挙げられる。これらの塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
塩基性化合物の中でも、アンモニア、アンモニウム塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、及び水酸化第四級アンモニウム化合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0036】
塩基性化合物の中でも、アンモニア、カリウム化合物、水酸化ナトリウム、水酸化第四級アンモニウム化合物、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0037】
また、研磨用組成物には、塩基性化合物として、カリウム化合物及び水酸化第四級アンモニウム化合物を含むことが好ましい。カリウム化合物としては、カリウムの水酸化物又は塩が挙げられ、具体的には水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム等が挙げられる。研磨用組成物には、塩基性化合物として、水酸化カリウム、炭酸カリウム、及び水酸化テトラメチルアンモニウムを含むことが最も好ましい。
【0038】
研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量は0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上である。塩基性化合物の含有量を増加させることによって、高い研磨速度が得られ易くなる。
【0039】
また、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量は0.2質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%未満である。塩基性化合物の含有量を減少させることによって、半導体基板の端部の形状が維持され易くなる。
【0040】
研磨用組成物は、研磨用組成物1リットル中の二酸化ケイ素の個数をA、含窒素水溶性高分子の単量体単位数をB、及び、塩基性化合物の分子数をCとしたとき、以下の条件X1及び条件X2を満たす。
【0041】
条件X1:B/Aの値が1以上かつ7000未満
条件X2:C/Aの値が5000以上かつ1500000未満
条件X1として規定するB/Aの値は、物理的作用に対する保護作用の大きさを示す。保護作用の大きさを、研磨用組成物中の物理的作用に対して適切な範囲にすることで、研磨製品の品質、及び研磨速度のいずれも高めることが容易となる。
【0042】
研磨用組成物において、B/Aの値が1以上であることで、表面粗さ又は段差の低減効果と半導体基板の端部の形状維持効果とが高まる。この効果の観点から、B/Aの値は、10以上であることが好ましく、より好ましくは30以上、最も好ましくは100以上である。
【0043】
研磨用組成物において、B/Aの値が7000未満であることで、表面粗さ又は段差の低減効果と研磨速度向上効果とが高まる。この効果の観点から、B/Aの値は、4000未満であることが好ましく、より好ましくは1000未満、さらに好ましくは500未満、最も好ましくは200未満である。
【0044】
研磨用組成物1リットル中の二酸化ケイ素の個数であるA、含窒素水溶性高分子の単量体単位数であるBは、以下の式(1)及び式(2)で示される。
【0045】
【数1】
式(1)中、1.91×10
22は、二酸化ケイ素の体積を算出する式と単位の換算から決まる定数である。研磨用組成物中に二種以上の二酸化ケイ素を含有させる場合は、種類毎にAを算出し、その総和をAとする。
【0046】
【数2】
式(2)中、6.02×10
24は、アボガドロ定数と単位の換算から決まる定数である。研磨用組成物中に二種以上の含窒素水溶性高分子を含有させる場合は、種類毎にBを算出し、その総和をBとする。
【0047】
条件X2として規定するC/Aの値は物理的作用に対する化学的作用の大きさを示す。化学的作用の大きさを、研磨用組成物中の物理的作用に対して適切な範囲にすることで、研磨製品の品質、及び研磨速度のいずれも高めることが容易となる。
【0048】
研磨用組成物において、C/Aの値が5000以上であることで、表面粗さ又は段差の低減効果と研磨速度向上の効果とが高まる。この効果の観点から、C/Aの値は、10000以上であることが好ましく、より好ましくは20000以上、最も好ましくは40000以上である。
【0049】
研磨用組成物において、C/Aの値が1500000未満であることで、表面粗さ又は段差の低減効果と半導体基板の端部の形状維持効果とが高まる。この効果の観点から、C/Aの値は、600000未満であることが好ましく、より好ましくは300000未満、さらに好ましくは100000未満、最も好ましくは60000未満である。
【0050】
塩基性化合物の分子数であるCは、以下の式(3)で示される。
【0051】
【数3】
式(3)中、6.02×10
24は、アボガドロ定数と単位の換算から決まる定数である。研磨用組成物中に二種以上の塩基性化合物を含有させる場合は、種類毎にCを算出し、その総和をCとする。
【0052】
<キレート剤>
研磨用組成物中にはキレート剤を含有させることができる。研磨用組成物中のキレート剤は、研磨系中の金属不純物を捕捉して錯体を作ることで、半導体基板への金属不純物の残留を抑制する。
【0053】
キレート剤としては、例えば、アミノカルボン酸系キレート剤及び有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
有機ホスホン酸系キレート剤の具体例としては、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、トリエチレンテトラミンヘキサ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等が挙げられる。これらのキレート剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
キレート剤の中でも、有機ホスホン酸系キレートが好ましく、より好ましくはエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)である。
研磨用組成物中のキレート剤の含有量は0.0001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.0005質量%以上である。キレート剤の含有量を増加させることによって、半導体基板の残留金属不純物を抑制する効果が高まる。
【0056】
また、研磨用組成物中のキレート剤の含有量は0.01質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.005質量%未満である。キレート剤の含有量を減少させることによって、研磨用組成物の保存安定性がより保たれる。
【0057】
<水>
研磨用組成物中の水は他の成分を溶解または分散させる働きを有する。水は、他の成分の働きを阻害されることを極力回避するため、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下とされることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルターによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。具体的には、例えば、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。
【0058】
研磨用組成物のpHは8〜12の範囲が好ましく、より好ましくは9〜11の範囲である。
上述した研磨用組成物の調製には、例えば翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いることができる。研磨用組成物の各原料は、同時に混合されてもよいし、混合順序を適宜設定されてもよい。
【0059】
次に、研磨用組成物を用いた半導体基板の研磨方法について、研磨組成物の作用とともに説明する。
研磨用組成物を用いて半導体基板の表面を研磨するときには、半導体基板の表面に研磨用組成物を供給しながら、半導体基板の表面に研磨パッドを押し付けて半導体基板及び研磨パッドを回転させる。研磨装置としては、半導体基板の両面を同時に研磨する両面研磨装置が用いられる。
【0060】
本実施形態の研磨用組成物は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が40nm以上の二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子、及び塩基性化合物を含有し、条件X1及び条件X2を満たしている。これにより、半導体基板の表面に対して、物理的作用、及びその物理的作用から保護する保護作用が好適に発現されるとともに、物理的作用と化学的作用とが好適に発現されるようになる。これにより、半導体基板の表面粗さ又は段差を低減することが容易となる。例えば、研磨に供される半導体基板には、レーザーマーカによる刻印部分を有することがある。本実施形態の研磨用組成物は、半導体基板の有する刻印部分の表面粗さ又は段差を低減する用途に適している。さらに、半導体基板の端部の加工性が制御される。すなわち、半導体基板の端部が過剰に研磨されることが抑制されるため、半導体基板の端部の形状が維持され易くなる。例えば、研磨に供される半導体基板のエッジロールオフを低減させることが容易となる。加えて、高い研磨速度が容易に得られる。
【0061】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)半導体基板の両面研磨、及び片面研磨のうち、両面研磨は、研磨効率が優先されることが多い。こうした両面研磨には高い研磨速度が要求されるため、半導体基板の端部の形状維持(又は端部の形状のコントロール)が困難である。本実施形態の研磨用組成物は、半導体基板の両面研磨に用いられるものであり、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が40nm以上の二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子、及び塩基性化合物を含有し、条件X1及び条件X2を満たしている。この構成により、半導体基板の端部の形状を維持するとともに、表面粗さ又は段差を低減することが容易であり、かつ高い研磨速度を得ることが容易となる。すなわち、本実施形態の研磨用組成物は、研磨速度が優先される両面研磨であっても、半導体基板の端部の形状を維持することが容易となり、さらに半導体基板の表面粗さ又は段差を低減することが容易となるという優れた効果を発揮する。
【0062】
(2)含窒素水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1500000未満であることで、研磨用組成物の保存安定性が維持され易くなる。
(3)二酸化ケイ素の真比重が1.7以上であることで、高い研磨速度がさらに得られ易くなるとともに、表面粗さ又は段差を低減する効果を高めることがさらに容易となる。
【0063】
(4)半導体基板の製造方法において、上記(1)で述べた研磨用組成物を用いることで、研磨対象物の端部の形状を維持するとともに、表面粗さ又は段差を低減することが容易であり、かつ高い研磨速度を得ることが容易となる。
【0064】
(第2実施形態)
本発明を具体化した第2実施形態について第1実施形態と異なる点を中心に説明する。この実施形態では、半導体基板の両面を研磨する用途に限らず、半導体基板の片面を研磨する用途にも用いられる点、及びC/Aの値の範囲が第1実施形態と異なっている。
【0065】
本実施形態の研磨用組成物は、半導体基板の両面又は片面を研磨する用途で好適に使用されるが、エッジ研磨等の研磨工程に使用することもできる。
本実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物1リットル中の二酸化ケイ素の個数をA、含窒素水溶性高分子の単量体単位数をB、及び、塩基性化合物の分子数をCとしたとき、以下の条件Y1及び条件Y2を満たす。
【0066】
条件Y1:B/Aの値が1以上かつ7000未満
条件Y2:C/Aの値が5000以上かつ100000未満
本実施形態の研磨用組成物は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が40nm以上の二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子、及び塩基性化合物を含有し、条件Y1及び条件Y2を満たしている。この構成により、研磨対象物の端部の形状を維持するとともに、表面粗さ又は段差を低減することが容易であり、かつ高い研磨速度を得ることが容易となる。特に、本実施形態では、C/Aの値が100000未満であることで、表面粗さ又は段差の低減効果と半導体基板の端部の形状維持効果とをさらに高めることが容易となる。また、本実施形態の研磨用組成物においても、第1実施形態の(2)〜(4)に記載した効果を得ることができる。
【0067】
ここで、半導体基板の両面又は片面を研磨する研磨工程は、最初の研磨工程である第一研磨工程、その研磨工程の次に行われる第二研磨工程、及び最終の仕上げとして行われる最終研磨工程を含む複数の段階を有している。このような研磨工程の中でも、第二研磨工程以降の研磨工程では、半導体基板の片面を研磨する片面研磨が行われることが多い。こうした片面研磨には、半導体基板の端部の形状を維持し、表面粗さ又は段差を低減させることが一層要求される場合があるため、高い研磨速度を得ることが困難となる。この点、本実施形態の研磨用組成物は、研磨後の半導体基板の品質の向上及び研磨工程の効率の向上の観点から、片面研磨に用いられること、例えば第二研磨工程以降の研磨工程に用いられることが好適である。
【0068】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・前記研磨用組成物に、防腐剤、防カビ剤等の公知の添加剤を必要に応じて含有させてもよい。防腐剤及び防カビ剤の具体例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0069】
・前記研磨用組成物に、ナトリウムの水酸化物、塩化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等を必要に応じてさらに含有させてもよい。
・前記研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤以上から構成する多剤型であってもよい。
【0070】
・前記研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。例えば、研磨用組成物の原液を保管又は輸送した後に、使用時に希釈して研磨用組成物を調製することができる。
【0071】
・前記研磨用組成物は、一度研磨に使用された後に再度研磨に使用されてもよい。使用済みの研磨用組成物を再度研磨に使用する際には、その研磨用組成物に不足する成分を添加されてもよい。
【0072】
・前記研磨用組成物を用いた研磨で使用される研磨パッドは、特に限定されないが、ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもののいずれを用いてもよい。
【0073】
・前記第2実施形態の研磨用組成物は、シリコン基板、酸化シリコン基板等の半導体基板に限らず、例えばプラスチック基板、ガラス基板、石英基板等の研磨製品を得るために用いてもよい。
【実施例】
【0074】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(A.半導体基板の両面研磨)
二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子化合物、及び塩基性化合物をイオン交換水に混合して実施例A1〜
A3,A7〜A10,A12,A13及び比較例A1〜A9の研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物の詳細を表1に示す。
【0075】
表1中の“BET粒子径”は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定した比表面積(BET法)から算出した平均一次粒子径を示し、“A”は研磨用組成物1リットル中の二酸化ケイ素の個数を示す。表1中の“水溶性高分子”欄内の“PVP”はポリビニルピロリドンを示し、“PVCL”はポリビニルカプロラクタムを示し、“PAA”はポリアクリル酸を示し、“PVA”はポリビニルアルコールを示し、“PEG”はポリエチレングリコールを示す。表1中の“B”は研磨用組成物1リットル中の含窒素水溶性高分子化合物の単量体単位数、又は、研磨用組成物1リットル中の水溶性高分子化合物の単量体単位数を示す。表1中の“塩基性化合物”欄内の“KOH”は水酸化カリウムを示し、“K2CO3”は炭酸カリウムを示し、“TMAH”は水酸化テトラメチルアンモニウムを示す。表1中の“塩基性化合物”欄内の“C”は研磨用組成物1リットル中の塩基性化合物の分子数を示す。
【0076】
次に、各例の研磨用組成物を用いて、シリコン基板を表2に記載の研磨条件1で研磨した。シリコン基板は、直径が300mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満である。
【0077】
<研磨速度>
研磨条件1でシリコン基板を研磨したときのシリコン基板の厚みを黒田精工株式会社製のナノメトロ300TTを使って測定し、研磨前後の厚みの差を研磨時間で除して研磨速度を算出した。表1の“研磨速度”欄に示した“◎”は研磨速度が0.40μm/分以上、“○”は0.35μm/分以上0.40μm/分未満、“△”は0.30μm/分以上0.35μm/分未満、“×”は0.30μm/分未満であることを表す。
【0078】
<表面粗さ又は段差>
研磨条件1で研磨したシリコン基板の表面粗さを示す“Ra”をザイゴ社製の“ZYGO New View 5010”を使って測定した。なお、“Ra”は、粗さ曲線の高さ方向の振幅の平均を示すパラメータであって、一定視野内でのシリコン基板表面の高さの算術平均を示す。表1の“表面粗さRa”欄に示した“◎”は、Raが7.0Å未満、“○”は7.0Å以上8.0Å未満、“△”は8.0Å以上10.0Å未満、“×”は10.0Å以上であることを表す。
【0079】
研磨条件1で研磨したシリコン基板の表面粗さを示す“Rt”をケーエルエー・テンコール社製のHRP340を使って測定した。なお、“Rt”は、粗さ曲線の最大断面高さを示すパラメータであって、一定視野内でのシリコン基板表面の高さの最も高い部分と最も低い部分の高さの差分を示す。表1の“表面粗さRt”欄に示した“◎”は、Rtが300Å未満、“○”は300Å以上700Å未満、“△”は700Å以上1500Å未満、“×”は1500Å以上であることを表す。
【0080】
<端部形状A1>
研磨条件1でシリコン基板を研磨したとき、シリコン基板を25mm×25mmの正方形に区切った際のSFQR(平坦性)を黒田精工株式会社製のナノメトロ300TTを使って測定し、基板の外周部のノッチ部を除いた30点の研磨前後のSFQRの差の平均値を求め、研磨後の基板の端部形状を算出した。表1の“端部形状A1”欄に示した“◎”は、この値が1.0μm未満、“○”は1.0μm以上1.5μm未満、“△”は1.5μm以上2.0μm未満、“×”は2.0μm以上であることを表す。
【0081】
<端部形状A2>
実施例1,2,12及び比較例8の研磨用組成物を用いて、シリコン基板を表3に記載の研磨条件2で研磨した。シリコン基板は、直径が300mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満である。
【0082】
研磨したシリコン基板の外周から1mm内側の点の基板の厚さを黒田精工株式会社製のナノメトロ300TTを使って測定し、研磨前後の差を求め、研磨後の基板の端部形状を算出した。表1の“端部形状A2”欄に示した“◎”は、この値が0.02μm未満、“○”は0.02μm以上0.04μm未満、“△”は0.04μm以上0.06μm未満、“×”は0.06μm以上であることを表す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
表1に示すように、各実施例では、研磨速度、表面粗さRa、表面粗さRt、及び端部形状A1の評価結果が“◎”、“○”又は“△”であった。これに対して、各比較例では、研磨速度、表面粗さRa、表面粗さRt、又は端部形状A1おいて“×”の評価結果となった。この結果から、研磨用組成物に、二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子化合物、及び塩基性化合物を含有し、B/Aの値及びC/Aの値を設定することで、研磨対象物の端部の形状を維持するとともに、表面粗さ又は段差を低減することが容易であり、かつ高い研磨速度を得ることが容易となることが分かる。
【0086】
なお、端部形状A2は、端部形状A1とは異なる評価方法であるが、端部形状A1の結果と同様の傾向が得られていることが分かる。
(B.半導体基板の片面研磨)
二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子化合物、及び塩基性化合物をイオン交換水に混合して
参考例B1〜B10及び比較例B1〜B12の研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物の詳細を表4に示す。なお、表4中の略号は、表1と同様である。
【0087】
次に、各例の研磨用組成物を用いて、シリコン基板を表5に記載の研磨条件3で研磨した。シリコン基板は、直径が300mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満である。
【0088】
<研磨速度>
研磨条件3でシリコン基板を研磨したときのシリコン基板の厚みを黒田精工株式会社製のナノメトロ300TTを使って測定し、研磨前後の厚みの差を研磨時間で除して研磨速度を算出した。表4の“研磨速度”欄に示した“◎”は研磨速度が0.30μm/分以上、“○”は0.25μm/分以上0.30μm/分未満、“△”は0.20μm/分以上0.25μm/分未満、“×”は0.20μm/分未満であることを表す。
【0089】
<表面粗さ又は段差>
研磨条件3で研磨したシリコン基板の表面粗さを示す“Ra”をザイゴ社製の“ZYGO New View 5010”を使って測定した。なお、“Ra”は、粗さ曲線の高さ方向の振幅の平均を示すパラメータであって、一定視野内でのシリコン基板表面の高さの算術平均を示す。表4の“表面粗さRa”欄に示した“◎”は、Raが6.0Å未満、“○”は6.0Å以上7.0Å未満、“△”は7.0Å以上8.0Å未満、“×”は8.0Å以上であることを表す。
【0090】
研磨条件3で研磨したシリコン基板の表面粗さを示す“Rt”をケーエルエー・テンコール社製のHRP340を使って測定した。なお、“Rt”は、粗さ曲線の最大断面高さを示すパラメータであって、一定視野内でのシリコン基板表面の高さの最も高い部分と最も低い部分の高さの差分を示す。表4の“表面粗さRt”欄に示した“◎”は、Rtが300Å未満、“○”は300Å以上700Å未満、“△”は700Å以上1500Å未満、“×”は1500Å以上であることを表す。
【0091】
<端部形状B1>
研磨条件3でシリコン基板を研磨したとき、シリコン基板を25mm×25mmの正方形に区切った際のSFQR(平坦性)を黒田精工株式会社製のナノメトロ300TTを使って測定し、基板の外周部のノッチ部を除いた30点の研磨前後のSFQRの差の平均値を求め、研磨後の基板の端部形状を算出した。表4の“端部形状B1”欄に示した“◎”は、この値が0.2μm未満、“○”は0.2μm以上0.3μm未満、“△”は0.3μm以上0.4μm未満、“×”は0.5μm以上であることを表す。
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
表4に示すように、各
参考例では、研磨速度、表面粗さRa、表面粗さRt、及び端部形状B1の評価結果が“◎”、“○”又は“△”であった。これに対して、各比較例では、研磨速度、表面粗さRa、表面粗さRt、又は端部形状B1おいて“×”の評価結果となった。この結果から、研磨用組成物に、二酸化ケイ素、含窒素水溶性高分子化合物、及び塩基性化合物を含有し、B/Aの値及びC/Aの値を設定することで、研磨対象物の端部の形状を維持するとともに、表面粗さ又は段差を低減することが容易であり、かつ高い研磨速度を得ることが容易となることが分かる。