(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記研磨用組成物における前記弱酸塩の含有量X[モル/L]と、前記第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]と、前記シリカ粒子の含有量W[kg/L]との関係が、下記式(3):
0.5[モル/kg]≦(AX+Y)/W[モル/kg] (3);
を満たす、請求項1に記載の研磨用組成物。
前記シリカ粒子の含有量W[kg/L]に対する前記第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]の比が1.00[モル/kg]以上である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
前記シリカ粒子の含有量W[kg/L]に対する前記弱酸塩の含有量X[モル/L]の比が0.20[モル/kg]以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
前記第4級アンモニウム化合物として、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から6のいずれか一項
に記載の研磨用組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、砥粒としてコロイダルシリカを含む研磨用組成物を、弱酸と強塩基、強酸と弱塩基または弱酸と弱塩基の組合せで緩衝溶液として調製することにより、pH変化が少なくかつ研磨速度が高い研磨用組成物が形成され得ることが記載されている。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウムと重炭酸カリウム(KHCO
3)との組合せによる緩衝作用を利用した研磨用組成物が開示されている。
【0005】
ところで、シリコンウェーハには、識別等の目的で、該シリコンウェーハの表面にレーザー光を照射することによって、バーコード、数字、記号等のマーク(ハードレーザーマーク)が付されることがある。このようなハードレーザーマークの付与は、一般に、シリコンウェーハのラッピング工程を終えた後、ポリシング工程を開始する前に行われる。
【0006】
通常、ハードレーザーマークを付すためのレーザー光の照射によって、ハードレーザーマーク周縁のシリコンウェーハ表面には隆起(盛り上がり)が生じる。シリコンウェーハのうちハードレーザーマークの部分自体は最終製品には用いられないが、ハードレーザーマーク付与後のポリシング工程において上記隆起が適切に解消されないと、必要以上に歩留りが低下することがあり得る。しかし、上記隆起部分はレーザー光のエネルギーによりポリシリコン化等の変質を生じて硬くなっていることが多いため、従来の一般的なシリコンウェーハ用の研磨用組成物では上記隆起を効果的に解消することが困難であった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、ハードレーザーマーク周縁の隆起を解消する性能に優れた研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書によると、シリコンウェーハの研磨に使用するための研磨用組成物が提供される。その研磨用組成物は、BET平均粒子径が50nm以下のシリカ粒子と、弱酸塩と、第4級アンモニウム化合物とを含む。上記研磨用組成物における上記第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]は、下記式(1)を満たす。
0.80≦(Y/Y
0) (1)
ここで、Y
0[モル/L]は、
上記第4級アンモニウム化合物と上記弱酸塩との理論緩衝比Aと、
上記研磨用組成物における上記弱酸塩の含有量X[モル/L]と、
上記研磨用組成物に含まれる上記第4級アンモニウム化合物のうち上記シリカ粒子に吸着されている量B[モル/L]とに基づいて、次式(2)により定義される量である。
Y
0=AX+B (2)
【0009】
このような研磨用組成物によると、第4級アンモニウム化合物と弱酸塩との緩衝作用を効果的に利用することにより、研磨中における研磨用組成物のpH変動を好適に抑制し、良好な研磨能率を維持することができる。このことによって、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効率よく解消することができる。また、上記研磨用組成物は、上記シリカ粒子のBET平均粒子径が50nm以下であるので、分散安定性に優れる。
【0010】
なお、本明細書においてハードレーザーマーク周縁の隆起を解消するとは、シリコンウェーハのハードレーザーマーク周辺の基準面(基準平面)から上記隆起の最高点までの高さを小さくすることをいう。シリコンウェーハのハードレーザーマーク周辺の基準面から上記隆起の最高点までの高さは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
ここに開示される研磨用組成物は、該研磨用組成物における上記弱酸塩の含有量X[モル/L]と、上記第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]と、上記シリカ粒子の含有量W[kg/L]との関係が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
0.5[モル/kg]≦(AX+Y)/W[モル/kg] (3)
このような研磨用組成物は、ハードレーザーマーク周縁の隆起の解消に適するように、機械的な研磨作用と化学的な研磨作用とのバランスが調整されている。かかる研磨用組成物によると、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効果的に解消することができる。
【0012】
ここに開示される研磨用組成物において、上記シリカ粒子の含有量W[kg/L]に対する上記第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]の比は、1.00[モル/kg]以上であることが好ましい。すなわち、Y/W[モル/kg]が1.00[モル/kg]以上である研磨用組成物が好ましい。このような研磨用組成物によると、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効果的に解消することができる。
【0013】
ここに開示される研磨用組成物において、上記シリカ粒子の含有量W[kg/L]に対する上記弱酸塩の含有量X[モル/L]の比は、0.20[モル/kg]以上であることが好ましい。すなわち、X/W[モル/kg]が0.20[モル/kg]以上である研磨用組成物が好ましい。このような研磨用組成物によると、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効果的に解消することができる。
【0014】
ここに開示される研磨用組成物は、上記弱酸塩として、酸解離定数(pKa)値の少なくとも一つが8.0〜11.8の範囲にある弱酸塩を含むことが好ましい。上記研磨用組成物は、典型的にはpHが8.0〜11.8程度のワーキングスラリーとしてシリコンウェーハの研磨に使用される。8.0〜11.8の範囲にpKa値を有する弱酸塩を含有することにより、このようなワーキングスラリーにおいて、該弱酸塩と上記第4級アンモニウム化合物との緩衝作用を効果的に発揮することができる。
【0015】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、上記弱酸塩として、炭酸塩およびジカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む。かかる弱酸塩と第4級アンモニウム化合物との緩衝作用を利用することにより、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効果的に解消することができる。
【0016】
好ましい他の一態様に係る研磨用組成物は、上記第4級アンモニウム化合物として、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む。かかる第4級アンモニウム化合物と弱酸塩との緩衝作用を利用することにより、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効果的に解消することができる。
【0017】
ここに開示される研磨用組成物において、上記シリカ粒子のBET平均粒子径は、25nm以上50nm未満であることが好ましい。このような研磨用組成物によると、ハードレーザーマーク周縁の隆起を効果的に解消することができる。
【0018】
ここに開示される研磨用組成物は、ハードレーザーマーク周縁の隆起を解消する性能(以下「隆起解消性」ともいう。)に優れたものとなり得る。したがって、ハードレーザーマークの付されたシリコンウェーハを研磨する用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は、それぞれ同義語として扱う。また、特記しない限り、操作や物性等の測定は、室温(20〜25℃)、相対湿度40〜50%の条件下で行うものとする。
【0020】
<シリカ粒子>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。これらのシリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な隆起解消性を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。例えば、イオン交換法により、水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカを好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大によって、隆起解消性が高くなる傾向にある。これらの観点から、真比重が2.0以上(例えば2.1以上)のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0022】
ここに開示される研磨用組成物に含まれるシリカ粒子のBET平均粒子径は50nm以下である。ここで、シリカ粒子のBET平均粒子径とは、BET法により測定される比表面積S(m
2/g)から、平均粒子径(nm)=2727/Sの式により算出される粒子径をいう。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0023】
シリカ粒子のBET平均粒子径の下限は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物に含まれるシリカ粒子のBET平均粒子径は、通常、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。より高い隆起解消性を得る観点から、シリカ粒子のBET粒子径は、25nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、BET平均粒子径が40nm以上のシリカ粒子を含む態様でも好ましく実施され得る。
【0024】
ここに開示される研磨用組成物に含まれるシリカ粒子のBET平均粒子径は、研磨用組成物の保存安定性(例えば、シリカ粒子の分散安定性)の観点から、50nm以下(典型的には50nm未満)であることが好ましく、48nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることがさらに好ましい。ここで保存安定性とは、研磨用組成物を保存した場合に、経時による該研磨用組成物の劣化が少ないことをいう。上記研磨用組成物の劣化は、例えば、シリカ粒子の沈降や凝集、研磨用組成物のpH変化、該研磨用組成物を研磨に用いた場合における研磨性能の低下(例えば、隆起解消性の低下)等であり得る。
【0025】
ここに開示される技術におけるシリカ粒子の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなすシリカ粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状をしたシリカ粒子を好ましく採用し得る。
【0026】
特に限定するものではないが、シリカ粒子の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い隆起解消性が実現され得る。また、シリカ粒子の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0027】
上記シリカ粒子の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0028】
ここに開示される研磨用組成物におけるシリカ粒子の含有量は特に制限されない。
後述するように、そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(典型的にはスラリー状の研磨液であり、ワーキングスラリーまたは研磨スラリーと称されることもある。)の場合、該研磨用組成物1リットル(L)当たりに含まれるシリカ粒子の量W[kg/L]は、0.0001kg/L以上であることが好ましく、0.0005kg/L以上であることがより好ましい。シリカ粒子の含有量の増大によって、より高い隆起解消性が得られる傾向にある。かかる観点から、シリカ粒子の含有量Wは、例えば0.001kg/L以上とすることができ、0.003kg/L以上としてもよく、さらに0.005kg/L以上としてもよい。また、スクラッチ防止等の観点から、シリカ粒子の含有量Wは、通常は0.1kg/L以下が適当であり、0.05kg/L以下が好ましく、0.01kg/L以下がより好ましい。シリカ粒子の含有量Wを小さくすることは、経済性の観点からも好ましい。かかる観点から、ワーキングスラリーにおけるシリカ粒子の含有量Wは、0.008kg/L以下であってもよく、さらに0.005kg/L以下であってもよい。ここに開示される研磨用組成物は、このような低いシリカ粒子含有量Wにおいても、実用上充分な隆起解消性を発揮するものとなり得る。
【0029】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、シリカ粒子の含有量W[kg/L]は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、0.5kg/L以下であることが適当であり、0.4kg/L以下であることが好ましく、0.3kg/L以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、シリカ粒子の含有量W[kg/L]は、好ましくは0.01kg/L以上、より好ましくは0.03kg/L以上、さらに好ましくは0.05kg/L以上である。
【0030】
<第4級アンモニウム化合物>
ここに開示される研磨用組成物は、第4級アンモニウム化合物を含む。第4級アンモニウム化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働き、および研磨用組成物の保存安定性を向上させる働きを有する。第4級アンモニウム化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
第4級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を好ましく用いることができる。かかる第4級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH
−、F
−、Cl
−、Br
−、I
−、ClO
4−、BH
4−等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOH
−である第4級アンモニウム塩、すなわち水酸化第4級アンモニウムが挙げられる。第4級アンモニウム塩におけるカチオン成分の好適例としては、テトラアルキルアンモニウムイオンおよびヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルアンモニウムイオンにおけるアルキル基の炭素原子数は、それぞれ独立に、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。また、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウムイオンにおけるヒドロキシアルキル基の炭素原子数およびアルキル基の炭素原子数は、それぞれ独立に、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。
【0032】
ここに開示される研磨用組成物において好ましい第4級アンモニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。これらのうち水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましく、なかでも水酸化テトラメチルアンモニウムが好ましい。
【0033】
<弱酸塩>
ここに開示される技術における弱酸塩としては、シリカ粒子を用いる研磨に使用可能であって、第4級アンモニウム化合物との組合せで所望の緩衝作用を発揮し得るものを適宜選択することができる。弱酸塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
例えば、弱酸塩を構成するアニオン成分として、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ホウ酸イオン、リン酸イオン、フェノールイオン、モノカルボン酸イオン(例えば酢酸イオン)、ジカルボン酸イオン(例えばシュウ酸イオン、マレイン酸イオン)およびトリカルボン酸イオン(例えばクエン酸イオン)等が挙げられる。また、塩を構成するカチオン成分の例としては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;マンガンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン等の遷移金属イオン;テトラアルキルアンモニウムイオン等のアンモニウムイオン;テトラアルキルホスホニウムイオン等のホスホニウムイオン;等が挙げられる。弱酸塩の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト等が挙げられる。
【0034】
シリカ粒子を用いた研磨(例えば、シリコンウェーハの研磨)に適したpH域において良好な緩衝作用を示す研磨用組成物を得る観点から、酸解離定数(pKa)値の少なくとも一つが8.0〜11.8(例えば、8.0〜11.5)の範囲にある弱酸塩が有利である。好適例として、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、リン酸塩およびフェノール塩が挙げられる。なかでも、アニオン成分が炭酸イオンまたは炭酸水素イオンである弱酸塩が好ましく、アニオン成分が炭酸イオンである弱酸塩が特に好ましい。また、カチオン成分としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンが好適である。特に好ましい弱酸塩として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムが挙げられる。なかでも炭酸カリウム(K
2CO
3)が好ましい。pKaの値としては、公知資料に記載された25℃における酸解離定数の値を採用することができる。
【0035】
<第4級アンモニウム化合物の含有量>
ここに開示される研磨用組成物1リットル(L)当たりに含まれる第4級アンモニウム化合物の量Y[モル/L]は、下記式(1)を満たす。
0.80≦(Y/Y
0) (1)
ここで、Y
0[モル/L]は、
上記第4級アンモニウム化合物と上記弱酸塩との理論緩衝比Aと、
上記研磨用組成物における上記弱酸塩の含有量X[モル/L]と、
上記研磨用組成物に含まれる上記第4級アンモニウム化合物のうち上記シリカ粒子に吸着されている量B[モル/L]とに基づいて、次式(2):
Y
0=AX+B (2);
により定義される量である。
【0036】
上記理論緩衝比Aは、ここに開示される研磨用組成物がシリコンウェーハの研磨に使用され得るpH域(典型的にはpH8.0〜11.8の範囲)において上記弱酸塩が解離し得る段数を、該弱酸塩との関係で緩衝作用を発揮する強塩基の価数で割った値として把握され得る。ここで、第4級アンモニウム化合物の価数は1である。したがって、例えば弱酸塩として炭酸塩を使用する場合、炭酸の二段目の解離に係る酸解離定数(pKa2)は約10.25であるため、理論緩衝比Aは2となる。
【0037】
研磨用組成物中のシリカ粒子は、アルカリ成分の作用によりそのシラノール基「−OH」から「H」が引き抜かれて「−O
−」となる。研磨用組成物中の第4級アンモニウム化合物に由来するカチオンは、その一部の量が「−O
−」のカウンターカチオンとしてシリカ粒子に吸着されている。すなわち、研磨用組成物中の第4級アンモニウム化合物に由来するカチオン(第4級アンモニウムイオン)は、その全量が水相中に遊離しているわけではなく、一部の量はシリカ粒子に吸着された状態となっている。水相中に遊離している第4級アンモニウムイオンの量は、該研磨用組成物に含まれる第4級アンモニウム化合物の量Yからシリカ粒子への吸着量Bを除いた量、すなわちY−Bとなる。
上記式(2)で表される第4級アンモニウム化合物の量Y
0は、シリカ粒子に吸着される量Bを考慮して、研磨用組成物の水相において理論緩衝比Aを実現するために該研磨用組成物に含有させることが望ましい第4級アンモニウム化合物の量を示すものとして把握することができる。以下、式(2)により定義される第4級アンモニウム化合物の量Y
0[モル/L]を「目標含有量Y
0」と表記することがある。
【0038】
第4級アンモニウム化合物のシリカ粒子への吸着量Bは、通常、BET法に基づくシリカ粒子の表面積に比例する。シリカ粒子の表面積当たりの第4級アンモニウム化合物の吸着量は、例えば以下のようにして把握することができる。すなわち、既知の表面積のシリカ粒子を含む分散液に既知量の第4級アンモニウム化合物を加えて攪拌混合した後、遠心分離によりシリカ粒子を沈降させる。その上澄み液に含まれる全有機炭素量(TOC)を分析して該上澄み液中に含まれる第4級アンモニウムイオンの量を求め、その量が第4級アンモニウム化合物の仕込み量からどれだけ減ったかを算出する。これにより、シリカ粒子に吸着して該シリカ粒子とともに沈降した第4級アンモニウムイオンの量を見積もることができる。そして、シリカ粒子とともに沈降した第4級アンモニウムイオンの量を該シリカ粒子の表面積で割ることにより、シリカ粒子の表面積当たりの第4級アンモニウム化合物の吸着量を求めることができる。
なお、水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカでは、該コロイダルシリカの表面積[m
2]当たりのテトラメチルアンモニウムイオンの吸着量[モル]は8.0×10
−6[モル/m
2]である。
【0039】
上記式(1)を満たすということは、上述した第4級アンモニウム化合物の目標含有量Y
0[モル/L]に対して、実際に研磨用組成物に含まれている第4級アンモニウム化合物の量Y[モル/L]がその0.80倍以上であることを意味している。この式(1)を満たす量の第4級アンモニウム化合物および弱酸塩を含む研磨用組成物によると、該第4級アンモニウム化合物と該弱酸塩との緩衝作用が効果的に発揮され得る。このような研磨用組成物は、研磨中における研磨用組成物のpH変動が少なく、研磨能率の維持性に優れたものとなり得る。したがって、砥粒としてBET平均粒子径が50nm以下のシリカ粒子を用いる研磨用組成物においても、良好な隆起解消性を実現することができる。
【0040】
第4級アンモニウム化合物および弱酸塩による緩衝作用をより効率よく発揮する観点から、Y/Y
0(以下、「Y/Y
0」を「α」と表記することがある。)の値は、0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましく、0.95以上であることがさらに好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、αが1.00以上となる態様で好ましく実施され得る。
【0041】
ここに開示される研磨用組成物は、水相において理論緩衝比Aが実現される量よりも第4級アンモニウム化合物を多く含む組成であってもよい。すなわち、αが1.00より大きくてもよい。このような研磨用組成物によると、第4級アンモニウム化合物による化学的な研磨作用がよりよく発揮され得る。このことによって、より良好な隆起解消性が実現され得る。かかる観点から、αの値は、例えば1.20以上とすることができ、1.40以上であってもよく、さらには1.50以上であってもよい。
【0042】
ここに開示される研磨用組成物において、αの上限は特に限定されない。pHが過剰に高くなることを回避し、かつ良好な隆起解消性が得られやすいという観点から、通常は、αを5.00以下とすることが適当であり、4.00以下とすることが好ましく、3.50以下(例えば3.00以下)とすることがより好ましい。
【0043】
ここに開示される研磨用組成物における弱酸塩の含有量(濃度)は特に限定されない。弱酸塩の含有量は、第4級アンモニウム化合物の含有量およびそのシリカ粒子への吸着量等を考慮して、上記式(1)が満たされるように設定することができる。
【0044】
好ましい一態様において、研磨用組成物1リットル(L)当たりの弱酸塩の含有量X[モル/L]は、該研磨用組成物のpH維持性の観点から、0.0001モル/L以上とすることが適当であり、0.0003モル/L以上が好ましい。より良好な隆起解消性を得る観点から、弱酸塩の含有量Xは、好ましくは0.0005モル/L以上、より好ましくは0.001モル/L以上、さらに好ましくは0.0015モル/L以上である。好ましい一態様において、弱酸塩の含有量Xを0.002モル/L以上としてもよい。また、研磨用組成物の分散安定性等の観点から、研磨用組成物1リットルあたりに含まれる弱酸塩の含有量としては、通常、1.0モル/L以下が適当である。そのまま研磨液として用いられる研磨用組成物では、該組成物1リットル当たりに含まれる弱酸塩の含有量Xは、0.1モル/L以下とすることが好ましく、好ましくは0.05/Lモル以下、さらに好ましくは0.02モル/L以下である。
【0045】
研磨用組成物に含まれるシリカ粒子1kg当たりの弱酸塩の含有量X/W[モル/kg]は、該研磨用組成物のpH維持性の観点から、例えば0.10モル/kg以上とすることができ、通常は0.20モル/kg以上が適当であり、0.40モル/kg以上が好ましい。より良好な隆起解消性を得る観点から、シリカ粒子1kg当たりの弱酸塩の含有量を0.50モル/kg以上とすることができ、0.80モル/kg以上としてもよく、1.00以上としてもよく、さらに1.50モル/kg以上としてもよい。シリカ粒子1kg当たりの弱酸塩の含有量X/Wの上限は特に限定されないが、通常は、5.00モル/kg以下が適当であり、3.00モル/kg以下が好ましく、1.00モル/kg以下がより好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、X/Wが0.20〜0.60モル/kgの範囲となる態様で好ましく実施され得る。
【0046】
ここに開示される研磨用組成物における第4級アンモニウム化合物の含有量(濃度)は特に限定されない。弱酸塩の含有量等を考慮して、上記式(1)が満たされるように設定することができる。
【0047】
好ましい一態様において、研磨用組成物1リットル(L)当たりの第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]は、該研磨用組成物のpH維持性の観点から、0.0002モル/L以上とすることが適当であり、0.0005モル/L以上が好ましい。初期研磨能率を向上させてより良好な隆起解消性を得る観点から、第4級アンモニウム化合物の含有量Yは、好ましくは0.001モル/L以上、より好ましくは0.003モル/L以上、さらに好ましくは0.005モル/L以上である。好ましい一態様において、第4級アンモニウム化合物の含有量Yを0.01モル/L以上としてもよい。また、研磨用組成物の分散安定性等の観点から、研磨用組成物1リットルあたりに含まれる第4級アンモニウム化合物の含有量としては、通常、2.0モル/L以下が適当である。そのまま研磨液として用いられる研磨用組成物では、該組成物1リットル当たりに含まれる第4級アンモニウム化合物の含有量Yは、0.2モル/L以下とすることが好ましく、好ましくは0.1/Lモル以下、さらに好ましくは0.05モル/L以下である。
【0048】
研磨用組成物に含まれるシリカ粒子1kg当たりの第4級アンモニウム化合物の含有量Y/W[モル/kg]は、該研磨用組成物のpH維持性の観点から、例えば0.30モル/kg以上とすることができ、通常は0.50モル/kg以上が適当であり、1.00モル/kg以上が好ましい。初期研磨能率を向上させてより良好な隆起解消性を得る観点から、シリカ粒子1kg当たりの第4級アンモニウム化合物の含有量Y/Wを1.20モル/kg以上とすることができ、1.40モル/kg以上としてもよく、さらに1.50モル/kg以上としてもよい。シリカ粒子1kg当たりの第4級アンモニウム化合物の含有量Y/W[モル/kg]の上限は特に限定されないが、通常は、10.00モル/kg以下が適当であり、8.00モル/kg以下が好ましく、5.00モル/kg以下(例えば3.00モル/kg以下)がより好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、Y/Wが1.20〜2.50モル/kgの範囲となる態様で好ましく実施され得る。
【0049】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様において、弱酸塩の含有量X[モル/L]、理論緩衝比Aおよび第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]から算出される「AX+Y[モル/L]」の値は、0.005モル/L以上であることが適当であり、0.008モル/L以上であることが好ましく、0.010モル/L以上であることがより好ましく、0.013モル/L以上であることがさらに好ましい。AX+Yの値が大きくなると、当該研磨用組成物の化学的研磨作用が大きくなり、研磨開始初期における研磨能率(初期研磨能率)が向上する傾向にある。さらに、上記式(1)を満たすことにより、初期における高い研磨能率を好適に維持することができる。このことによって良好な隆起解消性が実現され得る。また、AX+Yの値が大きすぎると、研磨用組成物のpHが高くなりすぎることがあり得る。このため、AX+Yの値は、通常は3モル/L以下が好ましく、1モル/L以下がより好ましい。
【0050】
ここに開示される研磨用組成物は、弱酸塩の含有量X[モル/L]、理論緩衝比A、第4級アンモニウム化合物の含有量Y[モル/L]およびシリカ粒子の含有量W[kg/L]から算出される「(AX+Y)/W[モル/kg]」の値が所定の範囲内にあることが好ましい。以下、「(AX+Y)/W」を「β」と表記することがある。β[モル/kg]の値は、0.5モル/kg以上であることが適当であり、0.8モル/kg以上であることが好ましく、1.0モル/kg以上であることがより好ましく、1.5モル/kg以上であることがさらに好ましい。また、β[モル/kg]の値は、通常、10.0[モル/kg]以下であることが適当であり、7.0[モル/kg]以下であることが好ましく、5.0[モル/kg]以下であることがより好ましく、2.5[モル/kg]以下であることがさらに好ましい。
(AX+Y)/W(=β)の値は、機械的な研磨作用の寄与に対する化学的な研磨作用の寄与の比を表すものとして把握され得る。βの値が大きくなると、機械的研磨作用の寄与に対して化学的研磨作用の寄与がより大きくなる傾向にある。ここに開示される研磨用組成物において、βの値を所定の数値範囲内とすることにより、βの値が大きすぎるかまたは小さすぎる場合に比べて、機械的研磨作用と化学的研磨作用とのバランスが隆起の解消に適したものとなる。このことによって、50nm以下のシリカ粒子を用いても良好な隆起解消性を示す研磨用組成物が実現され得る。
【0051】
<水>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0052】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、水溶性高分子、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0053】
水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0056】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、第4級アンモニウム化合物以外の塩基を必要に応じて含有することができる。そのような任意成分としての塩基の例として、アルカリ金属水酸化物、水酸化第4級ホスホニウム、アミン、アンモニア等が挙げられる。任意成分としての塩基を含む場合、その含有量[モル/L]は、第4級アンモニウム化合物の1/2以下とすることが適当であり、1/4以下とすることが好ましい。組成の単純化や性能安定性の観点から、ここに開示される研磨用組成物は、任意成分としての塩基(水酸化カリウム、ピペラジン等)を実質的に含有しない態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に含有しない」とは、少なくとも意図的には研磨用組成物中に含有させないことをいう。
【0057】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、希釈(典型的には、水により希釈)して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜50倍程度が適当である。
【0058】
研磨用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。研磨液のpHが高くなると隆起解消性が向上する傾向にある。一方、砥粒としてのシリカ粒子の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨液のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F−23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨液用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0059】
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0060】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含むワーキングスラリーを用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0061】
上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。また、上記研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。
【0062】
上記研磨用組成物は、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様(いわゆる「かけ流し」)で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨用組成物を循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。研磨用組成物を循環使用する場合には、かけ流しで使用する場合に比べて、廃液として処理される使用済みの研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷を低減できる。また、研磨用組成物の使用量が減ることによりコストを抑えることができる。ここに開示される研磨用組成物は、pH維持性に優れることから、このように循環使用される使用態様に好適である。かかる使用態様によると、本発明の構成を採用することの意義が特によく発揮され得る。
【0063】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、ハードレーザーマーク周縁の隆起を解消する性能(隆起解消性)に優れる。かかる特長を活かして、上記研磨用組成物は、ハードレーザーマークの付された表面を含む研磨対象面の研磨に好ましく適用することができる。例えば、ハードレーザーマークの付されたシリコンウェーハの予備ポリシング工程において用いられる研磨用組成物として好適である。ハードレーザーマーク周縁の隆起は、ポリシング工程の初期に解消しておくことが望ましい。このため、ここに開示される研磨用組成物は、ハードレーザーマーク付与後の最初のポリシング工程(1次研磨工程)において特に好ましく使用され得る。上記最初のポリシング工程は、典型的には、シリコンウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨工程として実施される。ここに開示される研磨用組成物は、このような両面研磨工程において好ましく使用され得る。
【0064】
ここに開示される研磨用組成物は、また、ハードレーザーマークを有しない研磨対象面の研磨にも使用され得る。例えば、ハードレーザーマークの有無に拘らず、ラッピングを終えたシリコンウェーハの予備ポリシングに好ましく適用することができる。予備ポリシング工程では、ファイナルポリシング工程に比べて要求される研磨速度が大きいため、削り取られたシリコンが研磨用組成物中に溶解する量が多い。したがって研磨用組成物にケイ酸イオンが多く含まれる傾向にある。このことは研磨用組成物のpHを下げる方向に作用する。研磨用組成物を循環使用する場合には、上記の作用が特に強く働く。ここに開示される研磨用組成物は、このような状況下でもpHの変動が少ない(pH維持性の高い)ものとなり得るので好ましい。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1〜5)
コロイダルシリカ、炭酸カリウム(K
2CO
3)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)およびイオン交換水を室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。コロイダルシリカとしては、実施例1〜4ではBET平均粒子径が40.0nmのものを、実施例5ではBET平均粒子径が50.0nmのものを使用した。なお、実施例1〜5に係る研磨用組成物は、K
2CO
3とTMAHとの緩衝系を構成している。この緩衝系における理論緩衝比Aは2である。
【0067】
(比較例1〜3)
コロイダルシリカ、TMAHおよびイオン交換水を室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。コロイダルシリカとしては、BET平均粒子径が40.0nmのものを使用した。
【0068】
(比較例4,5)
コロイダルシリカ、K
2CO
3、TMAHおよびイオン交換水を室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。コロイダルシリカとしては、BET平均粒子径が40.0nmのものを使用した。
【0069】
実施例1〜5および比較例1〜5の各研磨用組成物について、それぞれの研磨用組成物におけるコロイダルシリカの含有量W[kg/L]、K
2CO
3の含有量X[モル/L]およびTMAHの含有量Y[モル/L]と、該研磨用組成物に含まれるTMAHのうちコロイダルシリカに吸着されている量B[モル/L]とから、Y
0(=2X+B)[モル/L]、Y/Y
0(=α)および(2X+Y)/W(=β)[モル/kg]を算出した。その結果を表1に示す。表1には、後述するシリコンウェーハの研磨に使用する直前に測定した研磨用組成物のpHを併せて示している。
なお、該研磨用組成物に含まれるTMAHのうちコロイダルシリカに吸着されている量B[モル/L]は、コロイダルシリカの表面積[m
2]当たりのTMAH吸着量[モル]および研磨用組成物1L当たりに含まれるコロイダルシリカの表面積[m
2/L]から算出した。コロイダルシリカの表面積[m
2]当たりのTMAH吸着量[モル]は、上述した方法により測定したところ、いずれの研磨用組成物についても8.0×10
−6[モル/m
2]であった。
【0070】
<シリコンウェーハの研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、研磨対象物(試験片)の表面を下記の条件で研磨した。試験片としては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコンウェーハ(厚み:798μm、伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を使用した。本ウェーハには、SEMI M1(T7)規格に基づく裏面ハードレーザーマークが刻印されている。
【0071】
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨装置、型式「DSM20B−5P−4D」
研磨圧力:15.0kPa
上定盤回転数:−13回転/分
下定盤回転数:35回転/分(上定盤とは逆の回転方向)
インターナルギア回転数:7回転/分
サンギア回転数:25回転/分
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「MH S−15A」
研磨液:総量100Lの研磨液を4.5L/分の速度で循環使用
研磨環境の温度:20℃
研磨時間:60分
【0072】
<洗浄>
研磨後のシリコンウェーハを、NH
3(29%):H
2O
2(31%):脱イオン水=1:1:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC−1洗浄)。より具体的には、周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分、その後25℃の超純水と超音波によるリンス槽を経て、第2の洗浄槽に6分、それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。
【0073】
<隆起解消性評価>
洗浄後のシリコンウェーハについて、ハードレーザーマークを含むサイトの表面形状を測定し、隆起解消性を評価した。測定は、KLA Tencor社製の「WaferSight2」を用いて、SFQD(Site Front least-sQuares site Deviation)を求めることにより行った。ここで、SFQDとは、26mm×8mmのサイズ(評価精度向上のため、エッジから内周方向に1mmまでの部分は評価範囲から除外する。)で設定した各サイト内において、最小二乗法にて算出した基準平面からの+側厚みおよび該基準平面からの−側厚みのうち、絶対値が大きい方の数値のことである。上記「+側」とは、シリコンウェーハの表面を上に向けて水平に置いた場合の上側をいう。上記「−側」とは、シリコンウェーハの表面を上に向けて水平に置いた場合の下側をいう。得られたSQRDの値(単位:nm)を表1の「隆起解消性」の欄に示した。
以上の測定または試験により得られた結果を表1に示した。
【0075】
表1に示されるように、αが0.80以上である実施例1〜5の研磨用組成物は、いずれも良好な隆起解消性を示した。BET平均粒子径が40.0nmのシリカ粒子を用いた実施例1〜4の研磨用組成物のうち、αが1.00より大きい実施例2〜4の研磨用組成物によると、より高い隆起解消性が得られた。βが1.0モル/kg以上5モル/kg以下である実施例2,3では特に優れた隆起解消性が得られた。
一方、比較例2の研磨用組成物は、βの値は実施例1よりも大きいにもかかわらず、実施例1に比べて隆起解消性に劣るものであった。これは、比較例2の研磨用組成物ではTMAHと弱酸塩との緩衝作用を利用できず、実施例1の研磨用組成物に比べて研磨能率の維持性が低かったためと考えられる。弱酸塩を含まずかつ比較例2に比べてβの値が小さい比較例1,3の研磨用組成物は、さらに隆起解消性が低かった。また、比較例4,5の研磨用組成物は、αが小さすぎるため充分な緩衝作用が得られず、隆起解消性の点で実施襟1〜5に及ばないものであった。
【0076】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。