(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357445
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】農村における畦畔法面での二重ネット工法によるシバ植栽方法
(51)【国際特許分類】
A01G 20/00 20180101AFI20180702BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
A01G1/00 301C
E02D17/20 102C
A01G1/12 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-106144(P2015-106144)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-214201(P2016-214201A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年8月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)農研機構生物系特定産業技術研究支援センター、攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業「中山間地等条件不利地の集落営農法人における軽労・効率的作業管理技術を核とする水田作の実証」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】591085042
【氏名又は名称】ゾイシアンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】伏見 昭秀
(72)【発明者】
【氏名】橘 雅明
(72)【発明者】
【氏名】長沼 和夫
【審査官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−166374(JP,A)
【文献】
特開平7−224432(JP,A)
【文献】
特開2008−148639(JP,A)
【文献】
特開平3−164111(JP,A)
【文献】
特開昭63−105615(JP,A)
【文献】
特開2004−225408(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0217168(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 20/00
A01G 22/22
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の手順からなる農村における畦畔法面での二重ネット工法によるシバ植栽方法。
1.畦畔の頂上平面及び低い田側の法面に対して、薬剤による除草処理を行う。
2.高い田側の畔塗り範囲を除く頂上平面および、低い田側の法面に対して、真砂土を5cmの厚さに敷き均して床土を盛り上げる。
3.ほぐし芝を帯状二重のネットの間に挟んだロールの端部を、頂上平面の高い水田側にアンカーを用いて仮止めし、ロールを法面に沿って下方へ転がしながら、ネットを広げて展開する。下端まで達したら、ネットの端部を切り離なす。この作業を繰り返して、法面全体にネットを展開する。
4.ネットを展開した後は時間を空けずにネット上に床土と同じ真砂土を目土としてかける。頂上平面、低い田側の法面に展開されたネットの上に2cmの厚さで真砂土をひろげ、圧接して上下の真砂土が一体となるようにする。
5.散水する。
【請求項2】
請求項1において、前記ネット上に目土をかけて広げ、圧接した後に前記仮止めに用いたアンカーを抜き取ることを特徴とする農村における畦畔法面での二重ネット工法によるシバ植栽方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほぐし芝を柔軟な二重ネットに挟んで植栽するシバ植栽方法に関し、特に、傾斜地において水田を耕作する農家らの負担を軽減した農村における畦畔法面での二重ネット工法によるシバ植栽方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平坦地における畦畔は、水田の中の水漏れを防ぐために水田と水田の境に泥土を盛って形成されている。一方、日本の国土の73%を占める中山間地域においても水田は数多く有り、畦畔は高低差のある水田を仕切る堤防の役割を果たして、頂上から下側に位置する水田にかけて広い法面を有している。
【0003】
畦畔の雑草が繁茂すると、病害虫の発生、日照や通風の確保が困難になる。特に、雑草に繁殖するカメムシは、稲の吸汁害の被害を引き起こすため、畦畔の草刈りは欠かせない。刈払機等による畦畔法面の草刈り作業は多労である。なかでも、中山間地域の水田は、小区画のものが多く、畦畔が占める面積割合が大きく、また、小規模な個人農家により営農されている場合がほとんどである。このような、高低差の大きい法面での作業は足場が斜面となることから滑落等の危険性が高く、足腰への労働負担も大きい。草刈り作業は、機械化が遅れ、労働強度が大きいことから、農家にとって大きな負担となっている。
【0004】
シバを主体とする畦畔は低草高であり、刈り払い時に足もとの確認が容易なため作業し易い、除草回数が減るなどの利点が大きいことが報告されている。植生をシバに転換する方法は、既存植生の中にシバが存在する場合は、シバに選択性のある除草剤を用いて雑草の競合を抑制する方法、およびシバの存在の有無にかかわらず、一旦、既存植生を裸地化して、シバを新たに植栽する方法に分けられる。
【0005】
河川堤防などの法面にシバを植生する技術として、特許文献1及びこれに関連した日本植生株式会社の張芝体が従来技術として存在するが、これは植生マットをジオテキスタイルネットに絡みつけたものであり、重量が重く農家には扱いにくいものである。また、幅の狭い畦畔に植生しようとすると、畦畔の形にあわせてぴったり曲げたりするのは困難で、特に法肩では角の付近に空間ができてしまう。また、植生マットの下層に位置する不織布は、一部において粗密を設けて上下の流通を可能にしているが、基本的には植生マットの下に残存する既存植生を覆うことを前提としており、法面に対してアンカーによって固定することが前提である。
【0006】
一方、ゴルフ場や庭園などに芝を植生するものとして、特許文献2及びゾイシアンジャパン株式会社の商品名「GO−LAWN」(登録商標第2517188号)がある。これは、芝を植生する二重ネット工法と呼ばれるものである。本願発明者らによる非特許文献1では、「GO−LAWN」由来の製品について専ら法面に対してシバが生育出来るかの観点において研究がなされ、畦畔を管理する上で農家の負担を軽減したうえで、法面における良好な生育を実現し、かつ維持することができる可能性を示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】農村畦畔における二重ネット工法によるシバ在来品種「朝駆」植栽の検討」2014年3月芝草研究第42巻第2号別刷 PP.130−136 伏見 昭秀、橘 雅明、長沼 和夫
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363990号公報
【特許文献2】実登第3030216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高齢化が深刻でありかつ畦畔率の高い中山間地域においては、畦畔管理における草刈り作業の安全性の確保と省力化が不可欠である。解決策のひとつとして、低草高で管理し易いシバを主体とする芝生畦畔への植生転換が望ましい。通常の雑草畦畔では年4回の草刈りを、芝生畦畔では年3回へ、夏期の草刈りを1回削減できるからである。さらに、芝生畦畔では見通しが良く、滑りにくいことから、草刈作業の安全性の向上に繋がる。
【0010】
特許文献1、2に示される張芝工法は規模の大きい緑化工事を対象としたものであり、農村畦畔における利用が想定されていない。特に特許文献1の張芝工法では、張芝体が重たいものであり、斜度30°から40°の畦畔法面に持ち上げて展開し、かつ法面に固定することは農家にとっては草刈り作業以上の重労働である。また、実際の畦畔は単に法面のみで構成されるのではなく、幅が狭く、頂上から法面にかけて形状変化の急峻であり、特許文献1の張芝体では、畦畔の形状に倣うことができず、地面との間に隙間が生じてしまう。
【0011】
一方、非特許文献1では、畦畔への使用を想定し、特許文献2の二重ネット工法による法面における良好な生育が確認されたが、安定的に畦畔に貼り付ける技術については未検討であった。
本発明の目的は、急傾斜の畦畔法面においても農家らで植栽が容易な二重ネット工法を活用して、速やかに芝生畦畔への植生転換を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、中山間地域の水田における畦畔に対して以下の手順にて植生を行うものとする。
1.畦畔の頂上平面及び低い田側の法面に対して、薬剤による除草処理を行う。
2.高い田側の畔塗り範囲を除く頂上平面および、低い田側の法面に対して、真砂土を5cmの厚さに敷き均して床土を盛り上げる。
3.ほぐし芝を帯状二重のネットの間に挟んだロールの端部を、頂上平面の高い水田側にアンカーを用いて仮止めし、ロールを法面に沿って下方へ転がしながら、ネットを広げて展開する。下端まで達したら、ネットの端部を鋏などで切り離なす。この作業を繰り返して、法面全体にネットを展開する。
4.芝苗が乾くと芝の発芽が悪くなるので、ネットを展開した後は時間を空けずにネット上に床土と同じ真砂土をかける。頂上平面、低い田側の法面に展開されたネットの上に2cmの厚さで目土をひろげ、軽く圧接して上下の真砂土が一体となるようにする。
5.仮止めしたアンカーは抜き取る。
6.散水する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、
1.ほぐし芝を帯状二重ネットの間に挟んだロールは柔軟で有り、高い田側の畔塗り範囲を除く頂上平面から法面に掛けて載せられているので、畦畔の様々な形状に倣いやすい。
2.床土は法面の凸凹をならすとともに、目土はネットを介して床土に到るが、挟まれているシバのほぐし苗と馴染むとともに、床土と目土は同じ真砂土のため、填圧、散水によりより一体化して、床土、目土、ほぐし苗は密着状態になる。
3.ロールは、高い田側の畔塗り範囲を除く頂上平面から法面にかけて載せられていることにより、ネットの重量は頂上平面および法面に分散され、植生の初期にズレ落ちてしまうことはない。
4.シバのほふく茎を用いるため、シバの品種を考慮した植栽が可能になり、特に畦畔法面という雑草の多いところでのシバの雑草耐性並び農村景観を鑑みた植栽が可能である。
という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施例に用いるほぐし芝を帯状二重ネットの間に挟んだロール10について
図1を用いて説明する。
ロール10は、10−20mmの格子状メッシュからなる幅1.15m、長さ50.0mの帯状の木綿のネット1,2に、ほぐし芝aを挟み、巻芯3に巻き取ったものである。ほぐし芝aは、ほふく茎の伸長性に優れる飼料用および土壌保全用シバ在来品種「朝駆」(Zoysia japonica 'Asagake'(品種登録番号10487))の切芝を引き延ばしてほぐし、ほふく茎の長さで18cmから9cmのほぐし芝aに分解して土壌を洗い落としたものである。ネット1、2のメッシュ間隔として、土砂は通過するがほぐし芝は通過させない間隔であれば良い。ロール10は、ほぐし芝aを木綿のネット1、2で挟んだものであって、土壌の付着もないため、軽量であり、塩化ビニルパイプの巻芯を含めても17−19kgである。
図1Bは、ネット1、2の格子状のメッシュに対してほぐし芝aが挟まれている様子を示している。ネット1、2は、格子のピッチが同じであり、かつ格子状のメッシュ開口は、ほぼ同一の位置に存在している。
図1Cは、巻芯3の中空にロールの延転に用いる引き手を装着した様子を示している。
【0016】
「朝駆」を用いる理由としては、例えば「高麗芝」「野芝」「ベントグラス」等の出穂するシバを畦畔に植生すると、稲の吸汁害の被害を引き起こすカメムシが、稲の出穂前に芝の穂に集合して繁殖し、稲の出穂後に稲に移ることになり被害が拡大する。これに対して、「朝駆」は春も秋も出穂しない品種として知られており、カメムシを集めることはない。
【0017】
図2は、農村における畦畔Dの断面を示している。畦畔の頂上平面AD及び低い水田F2側の法面に対して、事前処理として、2月中旬の野焼きおよび5月上旬における非選択性除草剤のグリホサートカリウム塩(48.0%)液剤(10mL/L )による前処理によって、既存植生を除去している。
【0018】
高い田側の畔塗り範囲BCを除く頂上平面ADおよび、低い水田F2側の法面Sに対して、真砂土を5cmの厚さに敷き均して床土5を盛り上げる。床土5には,雑草種子をほとんど含まない真砂土(pH(H
20)6.1、硝酸態窒素0.70mg/100 g、有効態リン酸1.4mg/100g、 交換性カリ5.0 mg/100g、燐酸吸収係数119)を客土として用いる(
図2A)。
【0019】
ほぐし芝aを帯状二重のネット1、2の間に挟んだロール10の端部を、頂上平面ADの高い水田F1側にアンカー7を用いて仮止めし、ロール10を法面に沿って下方へ転がしながら、ネット1、2を展開する。下端まで達したら、ネット1、2の端部を鋏などで切り離なす。法面Sにネット1、2を展開している最中には、アンカーを用いて仮止めをする必要は無い。高い水田F1側の畔塗り範囲BCを除く頂上平面ADから法面Sにかけて載せられていることにより、ネット1、2の重量は頂上平面ADにも分散され、かつ頂上平面ADの高い水田F1側においてアンカー7により止められているため、植生の初期にズレ落ちてしまうこともない。この作業を繰り返して、法面S全体にネット展開する。
【0020】
芝の苗は乾くと芝の出芽が悪くなるので、ネット1、2を展開した後は時間を空けずにネット1、2上に目土6として、床土5と同じ真砂土をかける。頂上平面AD、法面Sに展開されたネット1、2の上に2cmの厚さで真砂土をひろげ、軽く圧接して上下の真さ土が一体となるようにする。ネット1、2のメッシュは、真砂土の粒に対して極めて大きく、また、格子状のメッシュ開口は、ほぼ同一の位置に存在しているため、真砂土はネット1、2の格子状メッシュを容易に通過して床土5に到り、挟まれているほぐし芝aと馴染む。
【0021】
床土5と目土6は同じ真砂土であって、圧接により一体化するため、もはやアンカー7の仮止めは必要がないので、抜き取る。アンカーは、頂上平面ADにのみ存在するため、後のアンカー7の回収は頂上平面ADを徒歩で移動するだけで行うことが出来る。尚、アンカー7として竹串を用いると、植生の初期に草刈り機にて草刈り作業するときに、切断或いは跳ね飛ばすことができる。そして竹串は時間を経て自然分解するため、抜き取らずに放置しても良い。
【0022】
散水する。散水により、床土5と目土6との一体化はさらに強化され、床土5、目土6、ほぐし苗aは密着状態になる。人工的な散水は、このときの植栽の直後に1回のみが必要であり、それ以降は自然降雨のみで良い。ネット1、2は木綿であり、時間を経て自然分解する。
【0023】
図3は、畦畔Dに植栽している状況を示している。領域Pは既存植生を除去した範囲であり、領域Qは高い水田F1側の畔塗り範囲BCを除く頂上平面ADおよび、法面Sに対して真砂土を5cmの厚さに敷き均して床土5を盛り上げている。
【0024】
領域Rでは、ロール10を床土5上に、頂上平面の高い水田F1側にアンカー7を用いて仮止めし、ロール10を法面Sに沿って下方へ転がしながら、ネット1、2を展開している。ロール10の幅だけ畦畔を横にずれながら、頂上平面ADから下側の水田F2に向けて展開してゆく。
【0025】
領域Tは、頂上平面AD、法面Sに展開されたネット1、2の上に2cmの厚さで目土6をひろげた領域である。
図3Bは、2cmの厚さで広げた目土6が、ネット1、2の格子状のメッシュ開口を通して、床土の上に落下したため、一部のネット1、2が表面に露出している様子を示している。その後、アンカー7を除去し、散水するのである。
【0026】
本実施例によれば、ほぐし芝aを帯状二重のネット1、2の間に挟んだロール10であり、高い水田F1側の畔塗り範囲BCを除く頂上平面ADから法面Sにかけて載せられているので、畦畔の急峻な形状に倣いやすく、また、目土6はネット1、2を介して床土5に到るが、床土5と目土6は同じ真砂土であるので、圧接すると互いに融合しあい、かつ水を散水することにより一体化して密着状態になる。また、ロール10は、高い水田F1側の畔塗り範囲BCを除く頂上平面ADから法面Sにかけて載せられていることにより、ネット1、2の重量は頂上平面ADにも分散され、植栽の初期にズレ落ちてしまうこともない。また、ネット1、2を設置した後は、仮止めに使ったアンカー7は撤去するため、畦畔管理上の草刈において障害にはならない。
【0027】
農村の畦畔Dの法面Sは25〜45°の斜度が多く、従来の張芝工法では,切芝(縦37cm、横30cm、重さ1.5〜2.0 kg/枚)の運搬や配置が難しく、とくに30°以上の斜度では、切芝の固定に目串を打ち込むなど、作業に熟練を要する。一方、本実施例では、斜度にかかわらず、ほぐし芝を挟んだロール10を施工地で延展するだけであって、高齢化が深刻な中山間地域の農村部にとって、草刈り作業の安全性の確保と省力化が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 上ネット
2 下ネット
3 巻芯
4 引き手
5 床土
6 目土
7 アンカー