特許第6357488号(P6357488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6357488-(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357488
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/02 20060101AFI20180702BHJP
   C08F 20/14 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C08F2/02
   C08F20/14
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-555039(P2015-555039)
(86)(22)【出願日】2014年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2014084496
(87)【国際公開番号】WO2015099118
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-273187(P2013-273187)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宙
(72)【発明者】
【氏名】北出 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 正二
【審査官】 岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第2752458(JP,B2)
【文献】 特開2009−256493(JP,A)
【文献】 特許第4323406(JP,B2)
【文献】 特開昭62−070402(JP,A)
【文献】 特開平06−312122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C08F 20/00−20/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル(1)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの量を制御してそれらを槽型反応器に連続的に供給する工程、
槽型反応器内で重合転化率40〜70質量%で塊状重合して反応生成物を得る工程、
反応生成物から、メタクリル酸メチル(1’)、および連鎖移動剤(3’)を含む混合物(A)を回収する工程、および
該混合物(A)を前記槽型反応器に連続的に供給する工程を有し、
槽型反応器へのメタクリル酸メチル(1)、および連鎖移動剤(3)の各供給量制御が、槽型反応器に供給する混合物(A)の量、並びに混合物(A)中のメタクリル酸メチル(1’)、および連鎖移動剤(3’)のそれぞれの割合を含む情報に基づいて、行われ、且つ
槽型反応器の完全混合時間(θM[hr])、槽型反応器内の温度におけるラジカル重合開始剤の半減期(τ1/2[hr])、槽型反応器の攪拌動力(PV[kW/m3])、槽型反応器における反応原料の平均滞留時間(θ[hr])および反応原料中のラジカル重合開始剤濃度(I[ppm])が
θM>τ1/2 、および PV×θ×I×τ1/2<4
を満足する、(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
槽型反応器に供給する、混合物(A)、メタクリル酸メチル(1)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの量を質量式流量計で測定し、
槽型反応器への連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)の各供給量制御において往復ポンプを使用する、
請求項1に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
アクリル酸アルキルエステル(2)の量を制御してそれを槽型反応器に連続的に供給する工程をさらに有し、
反応生成物から回収される混合物(A)は、アクリル酸エステル(2’)をさらに含み、
アクリル酸アルキルエステル(2)の供給量制御が、槽型反応器に供給する混合物(A)の量、並びに混合物(A)中のアクリル酸エステル(2’)の割合を含む情報に基づいて行われる、請求項1に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
槽型反応器に供給する混合物(A)、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの量を質量式流量計で測定し、
槽型反応器へのアクリル酸アルキルエステル(2)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)の各供給量制御において往復ポンプを使用する、
請求項3に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
槽型反応器内の温度が110〜160℃であり、
槽型反応器内の温度におけるラジカル重合開始剤(4)の半減期が0.5〜120秒である、
請求項1〜4のいずれかひとつに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
メタクリル酸メチルの槽型反応器への総供給量がMTmma[kg/hr]、混合物(A)中のメタクリル酸メチル(1’)の割合がXmma[質量%]、混合物(A)の供給量がMc[kg/hr]、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液の槽型反応器への供給量がMvinit[kg/hr]、およびラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液中のメタクリル酸メチル(1”)の割合がXImma[質量%]であるとき、槽型反応器へのメタクリル酸メチル(1)の供給量Mvmma[kg/hr]は、計算式: MTmma−0.01XImma×Mvinit−0.01Xmma×Mcで決定され
連鎖移動剤の槽型反応器への総供給量がMTtran[kg/hr]、混合物(A)中の連鎖移動剤(3’)の割合がXtran[質量%]、および混合物(A)の供給量がMc[kg/hr]であるとき、槽型反応器への連鎖移動剤(3)の供給量Mvtran[kg/hr]は、計算式: MTtran−0.01Xtran×Mcで決定される、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法に関する。より詳細に、本発明は、着色が殆んどない成形品を高い生産効率で得ることが可能な、熱安定性および成形性に優れた(メタ)アクリル樹脂組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル樹脂組成物からなる成形品は、透明性に優れ光学歪も少ないことからレンズ、プリズム、位相差フィルム、導光板、光拡散フィルム、偏光板保護フィルムなどの光学部材として広く用いられている。
【0003】
(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法として、例えば、特許文献1は、メチルメタクリレートを主成分とするモノマー混合物を、完全混合型反応器一基により、溶剤を用いないで連続的に塊状重合するに際し、不活性ガスを導入してモノマー混合物中の溶存酸素を1ppm以下にしたのち、重合温度での半減期が0.5〜120秒のラジカル開始剤を用い、反応液1m3当たり0.5〜20kWの撹拌消費動力を有する撹拌機で撹拌しながら、重合温度でのラジカル開始剤の半減期と平均滞留時間の比が1/200〜1/10000となるように平均滞留時間を設定し、130〜160℃においてモノマー転化率が45〜70%となるように重合する方法を開示している。
【0004】
また、特許文献2では、連続的にアクリル樹脂組成物を安定的に製造する装置として、反応槽内の温度が、該反応槽内壁面の温度を調節するための温度調節手段と同じ温度になるように、原料モノマーおよび/または重合開始剤の供給量を制御する手段を備えた連続重合装置およびそれを用いた連続重合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2752458号公報
【特許文献2】特許第4323406号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本油脂株式会社技術資料「有機過酸化物の水素引抜き能と開始剤効率」(2003年4月作成)
【非特許文献2】化学工学協会編:化学工学便覧,改定3版,p1068(1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の製造方法は、反応槽に原料が供給された直後にラジカル重合反応が開始し進行するため、連続的に供給する単量体混合物の組成が変化した場合には、得られるポリマーの組成にばらつきが生じ、透明性を損なう懸念がある。特許文献2に記載の方法は、モノマーフィード量の制御によって反応槽以降の加熱器等での滞留時間が変わってしまうため、ダイマー、トリマーの生成量が変動しやすく、耐熱性や成形性などの品質が安定しない。
本発明の目的は、高い透明性を有する成形品を高い生産効率で得ることが可能な、熱安定性および成形性に優れた(メタ)アクリル樹脂組成物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する手段として、本発明は以下の態様を包含する。
〔1〕 メタクリル酸メチル(1)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの量を制御してそれらを槽型反応器に連続的に供給する工程、
槽型反応器内で重合転化率40〜70質量%で塊状重合して反応生成物を得る工程、
反応生成物から、メタクリル酸メチル(1’)、および連鎖移動剤(3’)を含む混合物(A)を回収する工程、および
該混合物(A)を前記槽型反応器に連続的に供給する工程を有し、

槽型反応器へのメタクリル酸メチル(1)、および連鎖移動剤(3)の各供給量制御が、槽型反応器に供給する混合物(A)の量、並びに混合物(A)中のメタクリル酸メチル(1’)、および連鎖移動剤(3’)のそれぞれの割合を含む情報に基づいて、行われ、且つ

槽型反応器の完全混合時間(θM[hr])、槽型反応器内の温度におけるラジカル重合開始剤の半減期(τ1/2[hr])、槽型反応器の攪拌動力(PV[kW/m3])、槽型反応器における反応原料の平均滞留時間(θ[hr])および反応原料中のラジカル重合開始剤濃度(I[ppm])が
θM>τ1/2 、および PV×θ×I×τ1/2<4
を満足する、(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【0009】
〔2〕 槽型反応器に供給する、混合物(A)、メタクリル酸メチル(1)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの量を質量式流量計で測定し、
槽型反応器への連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)の各供給量制御において往復ポンプを使用する、
〔1〕に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【0010】
〔3〕 アクリル酸アルキルエステル(2)の量を制御してそれを槽型反応器に連続的に供給する工程をさらに有し、
反応生成物から回収される混合物(A)は、アクリル酸エステル(2’)をさらに含み、
アクリル酸アルキルエステル(2)の供給量制御が、槽型反応器に供給する混合物(A)の量、並びに混合物(A)中のアクリル酸エステル(2’)の割合を含む情報に基づいて行われる、〔1〕に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【0011】
〔4〕 槽型反応器に供給する、混合物(A)、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの量を質量式流量計で測定し、
槽型反応器へのアクリル酸アルキルエステル(2)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)の各供給量制御において往復ポンプを使用する、
〔3〕に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【0012】
〔5〕 槽型反応器内の温度が110〜160℃であり、
槽型反応器内の温度におけるラジカル重合開始剤(4)の半減期が0.5〜120秒である、〔1〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、透明性が高く、ダイマーおよびトリマーが少なく、加熱減量が少なく、射出成形品のシルバー発生が少なく、且つ熱安定性が良好な(メタ)アクリル樹脂組成物を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る製造方法を実施するための装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法は、メタクリル酸メチル(1)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)ならびに任意成分であるアクリル酸アルキルエステル(2)のそれぞれの量を制御してそれらを槽型反応器に連続的に供給する工程、 槽型反応器内で重合転化率40〜70質量%で塊状重合して反応生成物を得る工程、 反応生成物から、メタクリル酸メチル(1’)、および連鎖移動剤(3’)ならびに任意成分であるアクリル酸アルキルエステル(2’)を含む混合物(A)を回収する工程、および 該混合物(A)を前記槽型反応器に連続的に供給する工程を有するものである。
【0016】
本発明に用いられる反応原料は、メタクリル酸メチル(1)、連鎖移動剤(3)、ラジカル重合開始剤(4)、および後述する反応生成物から回収される混合物(A)、ならびに任意成分であるアクリル酸アルキルエステル(2)およびその他の単量体(5)を含むものである。
【0017】
反応原料に含まれているメタクリル酸メチルは、重合反応に未だ供していないバージンのメタクリル酸メチル(1)、反応生成物から回収される混合物(A)に含まれているメタクリル酸メチル(1’)、および後述する重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液に含まれているメタクリル酸メチル(1”)である。
【0018】
メタクリル酸メチル(1)の供給量は、質量式流量計で測定することが好ましい。メタクリル酸メチル(1)の供給量の調整は、ポンプ、弁などにて行うことができる。メタクリル酸メチル(1)の供給用ポンプとしては、大容量の送液が可能なものが採用される。例えば、キャンドポンプなどの遠心式ポンプを挙げることができる。
【0019】
メタクリル酸メチル(1)とメタクリル酸メチル(1’)とメタクリル酸メチル(1”)の合計供給量は、重合に供される全ての重合性単量体100質量部のうち、好ましくは80〜100質量部、より好ましくは80〜99.9質量部、さらに好ましくは80〜96質量部である。よって、メタクリル酸メチル(1)の供給量は、混合物(A)の供給量と、混合物(A)中に含まれるメタクリル酸メチル(1’)の割合と、重合開始剤溶液の供給量と、重合開始剤溶液中に含まれているメタクリル酸メチル(1”)の割合とを含む情報に基づいて決定され、その決定値によって、弁の開度やポンプ吐出量が調整される。
【0020】
反応原料に含まれていてもよいアクリル酸アルキルエステルは、重合反応に未だ供していないバージンのアクリル酸アルキルエステル(2)、および反応生成物から回収される混合物(A)に含まれているアクリル酸アルキルエステル(2’)である。
【0021】
アクリル酸アルキルエステル(2)の供給量は、質量式流量計で測定することが好ましい。アクリル酸アルキル(2)の供給量の調整は、ポンプ、弁などにて行うことができる。アクリル酸アルキルエステル(2)の供給用ポンプとして、容積ポンプを採用することが好ましい。
【0022】
アクリル酸アルキルエステル(2)とアクリル酸アルキルエステル(2’)との合計供給量は、重合に供される全ての重合性単量体100質量部のうち、好ましくは0〜20質量部、より好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは4〜20質量部である。よって、アクリル酸アルキルエステル(2)の供給量は、混合物(A)の供給量と、混合物(A)中に含まれるアクリル酸アルキルエステル(2’)の割合とを含む情報に基づいて決定され、その決定値によって、弁の開度やポンプ吐出量が調整される。
【0023】
アクリル酸アルキルエステル(2)または(2’)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸メチルが好ましい。
【0024】
本発明に用いられる反応原料には、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸アルキルエステル以外の単量体が含まれていてもよい、係る他の単量体としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンなど芳香族ビニル単量体;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性アルケニル基を一つだけ有するビニル単量体が挙げられる。
【0025】
反応原料に含まれていてもよい他の単量体は、重合反応に未だ供していないバージンの単量体(5)、および反応生成物から回収される混合物(A)に含まれている単量体(5’)である。
単量体(5)の供給量は、質量式流量計で測定することが好ましい。単量体(5)の供給量の調整は、ポンプまたは弁にて行うことができる。単量体(5)の供給用ポンプとして、容積ポンプを採用することが好ましい。
【0026】
単量体(5)と単量体(5’)との合計供給量は、重合に供される全ての重合性単量体100質量部のうち、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。よって、係る単量体(5)の供給量は、混合物(A)の供給量と、混合物(A)中に含まれる単量体(5’)の割合とを含む情報に基づいて決定され、その決定値によって、弁の開度やポンプ吐出量が調整される。
【0027】
なお、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)、およびその他の単量体(5)は、b*が−1〜2であることが好ましく、−0.5〜1.5であることがより好ましい。該b*がこの範囲にあると、得られる(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した場合に、着色が殆んどない成形品を、高い生産効率で得る上で有利となる。なお、b*は国際照明委員会(CIE)規格(1976年)またはJIS Z−8722に準拠して測定した値である。
【0028】
反応原料に含まれている連鎖移動剤は、重合反応に未だ供していないバージンの連鎖移動剤(3)、および反応生成物から回収される混合物(A)に含まれている連鎖移動剤(3’)である。
連鎖移動剤(3)の供給量は、質量式流量計で測定することが好ましい。連鎖移動剤(3)の供給量の調整は、ポンプまたは弁にて行うことができる。連鎖移動剤(3)の供給用ポンプとして、容積ポンプを採用することが好ましい。
【0029】
連鎖移動剤(3)と連鎖移動剤(3’)との合計供給量は、重合反応によって生成する(メタ)アクリル樹脂に所望される分子量や分子量分布を実現することができる量である。一般に、連鎖移動剤(3)と連鎖移動剤(3’)との合計供給量は、重合に供される全ての重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.1〜1質量部、より好ましくは0.2〜0.8質量部、さらに好ましくは0.3〜0.6質量部である。よって、連鎖移動剤(3)の供給量は、混合物(A)の供給量と、混合物(A)中に含まれる連鎖移動剤(3’)の割合とを含む情報に基づいて決定され、その決定値によって、弁の開度やポンプ吐出量が調整される。
【0030】
本発明で用いられる連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレンなどが挙げられる。これらのうちn−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどの単官能アルキルメルカプタンが好ましい。これら連鎖移動剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本発明で用いられるメタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)、その他の単量体(5)および連鎖移動剤(3)は、溶存酸素量が、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、最も好ましくは3ppm以下である。このような範囲の溶存酸素量にすると重合反応がスムーズに進行し、シルバーや着色のない成形品が得られやすくなる。溶存酸素量の調整は、例えば、窒素によるパージで行うことができる。
【0032】
反応原料に含まれているラジカル重合開始剤は、重合反応に未だ供していないバージンのラジカル重合開始剤(4)である。半減期の非常に長いラジカル重合開始剤を用いた場合には反応生成物から回収される混合物(A)にラジカル重合開始剤(4’)が含まれていることもあるが、供給したラジカル重合開始剤(4)は、槽型反応器内において、そのすべてが、通常、使い尽くされることが重合反応の安定性を高める観点から好ましい。
【0033】
ラジカル重合開始剤(4)の供給量は、質量式流量計で測定することが好ましい。ラジカル重合開始剤(4)の供給量の調整は、ポンプまたは弁にて行うことができる。ラジカル重合開始剤(4)の供給用ポンプとして、容積ポンプを採用することが好ましい。ラジカル重合開始剤(4)の供給量は、重合に供される全ての重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.02質量部、より好ましくは0.001〜0.01質量部である。なお、本発明で使用するラジカル重合開始剤が固体の場合には、液媒体に溶解させて槽型反応器に供給することが好ましい。液媒体としては、メタクリル酸メチルなどの液状の単量体を用いることが好ましい。既に述べたとおり、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液の供給量、およびラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液中のメタクリル酸メチル(1”)の割合は、メタクリル酸メチル(1)の供給量を決定するための基礎データとして用いられる。
【0034】
本発明で用いられるラジカル重合開始剤は、槽型反応器内の温度、すなわち槽型反応器内にある液の温度における半減期が、好ましくは0.5〜120秒、より好ましくは2〜60秒である。また、本発明で用いられるラジカル重合開始剤は、水素引抜き能が、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。
本発明で用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド 、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)が好ましく; t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などが挙げられる。これらラジカル重合開始剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
なお、水素引抜き能は、重合開始剤製造業者の技術資料(例えば、日本油脂株式会社技術資料「有機過酸化物の水素引抜き能と開始剤効率」(2003年4月作成))などによって知ることができる。また、α−メチルスチレンダイマーを使用したラジカルトラッピング法、即ちα−メチルスチレンダイマートラッピング法によって測定することができる。当該測定は、一般に、次のようにして行われる。まず、ラジカルトラッピング剤としてのα−メチルスチレンダイマーの共存下で重合開始剤を開裂させてラジカル断片を生成させる。生成したラジカル断片のうち、水素引抜き能が低いラジカル断片はα−メチルスチレンダイマーの二重結合に付加して捕捉される。一方、水素引抜き能が高いラジカル断片はシクロヘキサンから水素を引き抜き、シクロヘキシルラジカルを発生させ、該シクロヘキシルラジカルがα−メチルスチレンダイマーの二重結合に付加して捕捉され、シクロヘキサン捕捉生成物を生成する。そこで、シクロヘキサン、またはシクロヘキサン補足生成物を定量することで求められる、理論的なラジカル断片発生量に対する水素引抜き能が高いラジカル断片の割合(モル分率)を水素引抜き能とする。
【0036】
アクリル酸アルキルエステル、連鎖移動剤、およびラジカル重合開始剤の供給において好適な容積ポンプとしては、回転ポンプ、往復ポンプなどが挙げられる。容積ポンプは定量性に優れている。往復ポンプとしては、ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、アキシャル・ピストン・ポンプ、プランジャーポンプ、ロータリー式プランジャーポンプ、ユニフローポンプ、ウォシントンポンプなどが挙げられる。回転ポンプとしては、ギヤポンプ、スクリューポンプ、ベーンポンプなどが挙げられる。往復ポンプは脈動が生じるので、それを少なくするために、複筒式往復ポンプを用いることもできる。本発明においては、これらのうち、往復ポンプが好ましく、プランジャーポンプがより好ましい。
【0037】
反応原料に含まれている混合物(A)は、反応生成物から回収されたものである。反応生成物から回収された混合物(A)の槽型反応器への供給量は、質量式流量計で測定することが好ましい。反応生成物から回収された混合物(A)の供給量の調整は、ポンプおよび弁にて行うことができる。反応生成物から回収された混合物(A)の供給用ポンプとしては、大容量の送液が可能なものが採用される。例えば、キャンドポンプなどの遠心式ポンプを挙げることができる。
【0038】
混合物(A)は、回収時などに加えられる熱によって、b*が高くなっていることがある。そのような場合には、適切な方法で精製して、b*を好ましくは−1〜2に、より好ましくは−0.5〜1.5にすることができる。該b*がこの範囲にあると、得られる(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した場合に、着色が殆んどない成形品を、高い生産効率で得る上で有利となる。なお、b*は国際照明委員会(CIE)規格(1976年)またはJIS Z−8722に準拠して測定した値である。
【0039】
塊状重合においては溶媒を原則使用しないが、反応液の粘度を調整するなどの必要がある場合には、溶媒を反応原料に含めることができる。溶媒としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素が好ましい。これらの溶媒は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる溶媒の使用量は、重合に供される全ての重合性単量体100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0040】
槽型反応器に供給する、混合物(A)、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)のそれぞれの流量の測定に用いられる質量式流量計は、通常、測定データを連続的にまたは離散的に出力することができる。
槽型反応器に供給する混合物(A)中のメタクリル酸メチル(1’)、アクリル酸アルキルエステル(2’)、および連鎖移動剤(3’)の含有割合は、分析機器などにて測定することができる。分析機器などによる測定は、連続的に行ってもよいし、離散的に、例えば、1日3回8時間毎に行ってもよい。分析機器としてはガスクロマトグラフィが好ましく用いられる。
以上のようにして測定された連続データまたは離散データを所定の制御アルゴリズムに従って計算し、その計算結果に基づいて弁の開度やポンプの吐出量などを制御することができる。
【0041】
本発明においては、槽型反応器へのメタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)および連鎖移動剤(3)の各供給量制御が、槽型反応器に供給する混合物(A)の量、並びに混合物(A)中のメタクリル酸メチル(1’)、アクリル酸アルキルエステル(2’)および連鎖移動剤(3’)のそれぞれの割合を含む情報に基づいて行われる。この供給量制御は、槽型反応器に供給されるメタクリル酸メチル、アクリル酸アルキルエステルおよび連鎖移動剤のそれぞれの総供給量が既に述べた所望の質量部数になるように行われる。
【0042】
具体的に例えば次のようにして行われる。
メタクリル酸メチルの槽型反応器への総供給量をMTmma[kg/hr]としたい場合、混合物(A)中のメタクリル酸メチル(1’)の割合がXmma[質量%]、混合物(A)の供給量がMc[kg/hr]、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液の槽型反応器への供給量がMvinit[kg/hr]、およびラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液中のメタクリル酸メチル(1”)の割合がXImma[質量%]であるとき、メタクリル酸メチル(1)の供給量Mvmma[kg/hr]は、計算式: MTmma−0.01XImma×Mvinit−0.01Xmma×Mcで決定される。そして、その決定された供給量Mvmma[kg/hr]に成るように流量計と弁やポンプとの組み合わせでフィードバック制御などがなされる。
【0043】
アクリル酸アルキルエステルの槽型反応器への総供給量をMTma[kg/hr]としたい場合、混合物(A)中のアクリル酸アルキルエステル(2’)の割合がXma[質量%]、および混合物(A)の供給量がMc[kg/hr]であるとき、アクリル酸アルキルエステル(2)の供給量Mvma[kg/hr]は、計算式: MTma−0.01Xma×Mcで決定される。そして、その決定された供給量Mvma[kg/hr]に成るように流量計と弁やポンプとの組み合わせでフィードバック制御などがなされる。他の重合体(5)の供給量もこれと同様にして決定し、該決定された供給量に成るようにこれと同様にしてフィードバック制御などがなされる。
【0044】
連鎖移動剤の槽型反応器への総供給量をMTtran[kg/hr]としたい場合、混合物(A)中の連鎖移動剤(3’)の割合がXtran[質量%]、および混合物(A)の供給量がMc[kg/hr]であるとき、連鎖移動剤(3)の供給量Mvtran[kg/hr]は、計算式: MTtran−0.01Xtran×Mcで決定される。そして、その決定された供給量Mvtran[kg/hr]に成るように流量計と弁やポンプとの組み合わせでフィードバック制御などがなされる。
【0045】
ラジカル重合開始剤の槽型反応器への総供給量をMTinit[kg/hr]としたい場合、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液中のラジカル重合開始剤(4)の割合がXIinit[質量%]であるとき、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液の供給量Mvinit[kg/hr]は、計算式: MTinit/0.01XIinitで決定される。そして、その決定された供給量Mvinit[kg/hr]に成るように流量計と弁やポンプとの組み合わせでフィードバック制御などがなされる。
【0046】
なお、MTmma[kg/hr]、MTma[kg/hr]、MTtran[kg/hr]、およびMTinit[kg/hr]は、製造したいメタクリル樹脂の量F[kg/hr]、メタクリル樹脂を構成する単量体単位の比率、メタクリル樹脂の分子量や分子量分布、重合転化率X[質量%]などに基づいて設計される。
【0047】
本発明の方法に用いられる槽型反応器は、通常、槽型反応器内の液を撹拌するための撹拌手段、反応原料を槽型反応器に供給するための供給口、および槽型反応器から反応生成物を抜き出すための抜出口を有する。本発明においては、槽型反応器に供給する反応原料の量と槽型反応器から抜き出す反応生成物の量とをバランスさせて、槽型反応器内の液量がほぼ一定になるようにする。槽型反応器内の液量は、槽型反応器の容積に対して、好ましくは1/4以上、より好ましくは1/4〜3/4、さらに好ましくは1/3〜2/3である。
【0048】
本発明に用いられる槽型反応器は、反応原料を槽型反応器に供給するための供給口が、槽型反応器の天面に設置されていてもよいし、槽型反応器の側面に設置されていてもよいし、槽型反応器の底面に設置されていてもよい。供給口の高さは、槽型反応器内の液面よりも高い位置にあってもよいし、槽型反応器内の液面よりも低い位置にあってもよい。供給口の形状は、円管の切り口そのものの形状であってもよいし、反応原料が槽型反応器内の液面に広く散布されるような形状であってもよい。
【0049】
撹拌手段としては、マックスブレンド式撹拌装置、格子翼式撹拌装置、プロペラ式撹拌装置、スクリュー式撹拌装置、ヘリカルリボン式撹拌装置、パドル式撹拌装置などが挙げられる。これらのうちでマックスブレンド式撹拌装置が均一混合性の点から好ましい。
【0050】
槽型反応器内の温度、すなわち槽型反応器内にある液の温度は、好ましくは100〜170℃、より好ましくは110〜160℃、さらに好ましくは115〜150℃である。液温は、ジャケットや伝熱管などの外部熱交換式調節法、反応原料または反応生成物の流れる管を槽型反応器内に配して成る自己熱交換式調節法などで制御することができる。
【0051】
混合物(A)、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸アルキルエステル(2)、連鎖移動剤(3)、およびラジカル重合開始剤(4)は、槽型反応器の供給口の直前までに混ぜ合わせることが好ましい。また、ラジカル重合開始剤以外の反応原料は窒素ガスなどの不活性雰囲気中で扱うことが好ましい。連続流通式の操業を円滑に行うために、反応原料の各構成成分を貯留するタンクからそれぞれを管を介して、槽型反応器の前段に設けた混合器に連続的に供給しつつ、混合し、得られた混合物を槽型反応器に連続的に供給することが好ましい。該混合器は動的撹拌機または静的攪拌機を備えたものであることができる。
【0052】
本発明の製造方法においては、槽型反応器の完全混合時間(θM[hr])が、槽型反応器内の温度におけるラジカル重合開始剤の半減期(τ1/2[hr])の数値よりも大きい数値の時間、好ましくは半減期の1.2倍の数値より大きい数値の時間である。すなわち、θM>τ1/2の関係、好ましくはθM>1.2×τ1/2の関係を満足する。完全混合時間は、槽型反応器の混合特性を表す指標の一つである。n・θM(無次元混合数〔nは撹拌翼の回転数[1/sec]〕)とRe(レイノルズ数:液の乱れ状態を表す指標)との関係を示す「n・θM−Re曲線」から求められる。完全混合時間およびn・θM−Re曲線については、例えば、非特許文献2、特開昭61−200842号公報、特開平6−312122号公報などに記載されている。
【0053】
槽型反応器の攪拌動力(PV)は、好ましくは0.2〜7kW/m3、より好ましくは0.3〜6kW/m3、さらに好ましくは0.4〜5kW/m3である。撹拌動力は攪拌翼の形状および回転数;槽型反応器内の液の粘度および密度によって調整することができる。
また、槽型反応器における反応原料の平均滞留時間(θ)は、好ましくは0.5〜6時間、より好ましくは1〜5時間、さらに好ましくは2〜4時間である。平均滞留時間が短すぎると重合開始剤の必要量が増える。また重合開始剤の増量により重合反応の制御が難しくなるとともに、分子量の制御が困難になる傾向がある。一方、平均滞留時間が長すぎると反応が定常状態になるまでに時間を要し、生産性が低下する傾向がある。平均滞留時間は槽型反応器の容量と反応原料の供給量によって調整することができる。
【0054】
さらに、槽型反応器の攪拌動力(PV[kW/m3])、および槽型反応器中における平均滞留時間(θ[hr])は、反応原料中のラジカル重合開始剤濃度(I[ppm])および槽型反応器内の温度におけるラジカル重合開始剤の半減期(τ1/2[hr])との関係が、PV×θ×I×τ1/2<4を満たすように、好ましくはPV×θ×I×τ1/2<3を満たすように、より好ましくはPV×θ×I×τ1/2<2を満たすようにする。なお、塊状重合は窒素ガスなど不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
この関係式の意味を以下の例によって説明する。
例1:θが一定で、開始剤種が同じで、攪拌回転数を高めてPv値を高めて運転する場合には、上記関係式の範囲内で開始剤濃度を低くすることができる。
例2:θが一定で、開始剤濃度が一定で、攪拌回転数を低くした場合には上記関係式の範囲内でτ1/2の長いラジカル重合開始剤を使用できる。

上記関係式の範囲外で運転する場合、以下に示す不具合が生じ易くなる。
例3:Pvが高い場合はランニングコストが高くなる、
例4:θが高い場合は装置が大型となり初期コストが高くなる。
例5:Iが高い場合は得られた(メタ)アクリル樹脂組成物の熱安定性が劣る。
例6:τ1/2が高い場合は緊急時に槽型反応器への反応原料を停止しても槽型反応器内で重合が進行してしまうため反応制御が困難となる。
【0055】
槽型反応器においては塊状重合を、重合転化率が40〜70質量%となるまで、好ましくは35〜65質量%となるまで行うことが好ましい。
【0056】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法において、槽型反応器内の反応液中の水分は、1000ppm以下であることが好ましく、700ppm以下であることがより好ましく、280ppm以下であることがさらに好ましい。該水分を1000ppm以下とすることにより、数μm〜数十μmの樹脂異物が重合反応中に生成するのを抑制でき、得られた(メタ)アクリル樹脂組成物を溶融成形によってフィルムまたはシートにしたときに該樹脂異物を核とする外径数十μmの欠点の発生を大幅に低減することができる。
【0057】
この樹脂異物の生成抑制機構は明確ではないが、単量体混合物(A)の重合時に、槽型反応器の気相部において生成する高分子量の(メタ)アクリル樹脂が樹脂異物として混入し、それが溶融成形時に未溶融物として欠点の核になると推定している。
【0058】
上記反応液中の水分を低減する方法としては、原料液を予め吸着脱水塔などで処理する方法や槽型反応器の気相部に不活性ガスを導入し、蒸気の一部を不活性ガスに同伴させてブライン冷却の凝縮器によって凝縮させて系外に抜き出す方法等が挙げられる。
【0059】
槽型反応器の後段には、別の反応器が繋がっていてもよい。後段に繋ぐことができる反応器は槽型反応器であっても管型反応器であってもよい。後段に繋いだ反応器において、塊状重合をさらに進め、重合転化率をさらに高めることができる。
【0060】
上記のような塊状重合によって得られる反応生成物を槽型反応器(後段に別の反応器を繋いでいる場合は、後段の反応器)から抜き出す。反応生成物の抜出量は反応原料の供給量とバランスさせ、槽型反応器内の液量が一定になるようにすることが好ましい。
【0061】
反応生成物には、(メタ)アクリル樹脂、メタクリル酸メチル(1’)、アクリル酸アルキルエステル(2’)、および連鎖移動剤(3’)が含まれている。
反応生成物中の(メタ)アクリル樹脂の含有率は、好ましくは40〜70質量%、より好ましくは35〜65質量%である。(メタ)アクリル樹脂の含有率が高すぎると粘度上昇のために大きな攪拌動力が必要となる傾向がある。(メタ)アクリル樹脂の含有率が低すぎると、反応生成物中の混合物(A)を除去する工程における混合物(A)等の除去が不十分となり、得られる(メタ)アクリル樹脂組成物を成形した場合に、成形品にシルバーなどの外観不良を起こす傾向がある。
【0062】
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(以下、Mwと略称することがある。)は、好ましくは3.5万〜20万、より好ましくは4万〜15万、さらに好ましくは4.5万〜13万である。Mwが小さすぎると(メタ)アクリル樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性や靭性が低下する傾向になる。Mwが大きすぎると(メタ)アクリル樹脂組成物の流動性が低下し成形加工性が低下する傾向となる。
【0063】
(メタ)アクリル樹脂は、重量平均分子量/数平均分子量の比(以下、この比を分子量分布と表記することがある。)が、好ましくは1.5〜2.6、より好ましくは1.6〜2.3、特に好ましくは1.7〜2.0である。分子量分布が小さいと(メタ)アクリル樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向がある。分子量分布が大きいと(メタ)アクリル樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低下し、脆くなる傾向がある。
なお、重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。なお、また、(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量や分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
【0064】
反応生成物に含まれているメタクリル酸メチル(1’)、アクリル酸アルキルエステル(2’)、および連鎖移動剤(3’)は、混合物(A)として回収する。
混合物(A)の回収は、公知の化学工学的手段によって行うことができる。例えば、加熱脱揮による方法が好ましいものとして挙げられる。加熱脱揮法としては、平衡フラッシュ蒸発法や断熱フラッシュ蒸発法が挙げられるが、断熱フラッシュ蒸発法が好ましい。断熱フラッシュ蒸発法を実施する温度は、好ましくは200〜300℃、より好ましくは220〜270℃である。断熱フラッシュ蒸発法を実施する温度が、200℃未満では、脱揮に時間を要し、脱揮不十分になり、成形品にシルバーなどの外観不良を起こすことがある。一方、断熱フラッシュ蒸発法を実施する温度が、300℃を超えると、酸化、焼けなどによって(メタ)アクリル樹脂組成物が着色する傾向がある。断熱フラッシュ蒸発法を多段で行ってもよい。
フラッシュ蒸発させられた混合物(A)の蒸気で伝熱管を流れる反応生成物を加熱し、加熱された反応生成物を低圧のフラッシュタンク内に供給してフラッシュ蒸発させることができる。また、反応生成物はポンプなどによって加圧することができる。
【0065】
脱揮法で回収されたばかりの混合物(A)には、メタクリル酸メチル(1’)、アクリル酸アルキルエステル(2’)、および連鎖移動剤(3’)に加え、二量体または三量体が含まれている。二量体または三量体は、(メタ)アクリル樹脂の特性に影響を与えるおそれがあるので、混合物(A)から除去することが好ましい。二量体または三量体の除去の際に連鎖移動剤(3’)の一部や溶媒も除去されることがある。
二量体または三量体の除去は、公知の化学工学的手段によって行うことができる。例えば、蒸留による方法が好ましいものとして挙げられる。本発明において用いられる蒸留塔は、特に制限されないが、段数が6〜20段程度、還流比が0.4〜2.0程度の多段式蒸留塔であることが好ましい。
【0066】
反応生成物からの混合物(A)の回収によって、残部には本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物が得られる。得られた(メタ)アクリル樹脂組成物は、成形材料としての扱い易さを容易にするために、公知の方法に従って、ペレットや粉粒にすることができる。本発明で得られる(メタ)アクリル樹脂組成物中に残る重合性単量体の量は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
本発明の製造方法で得られる(メタ)アクリル樹脂組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。該添加剤の配合量は、(メタ)アクリル樹脂組成物に対して、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。添加剤の配合量が多すぎると、成形品にシルバーなどの外観不良を起こすことがある。
添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などが挙げられる。
【0068】
酸化防止剤は、酸素存在下において単体で樹脂の酸化劣化防止効果を奏するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、その割合は特に制限されないが、リン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤の質量比で、好ましくは1/5〜2/1、より好ましくは1/2〜1/1である。
【0069】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(旭電化社製;商品名:アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;商品名:IRGAFOS168)などが好ましい。
【0070】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0071】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
該熱劣化防止剤としては、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4−ジ−t−アミル−6−(3’,5’−ジ−t−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0072】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、または波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0073】
ベンゾトリアゾール類は、紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、(メタ)アクリル樹脂組成物を上記のような特性が要求される用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。
【0074】
ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(2−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;商品名TINUVIN234)などが好ましい。
【0075】
また、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3
mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、得られる成形品の黄色味を抑制できる。
【0076】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmaxは、次のようにして測定する。シク
ロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用いて、波長380〜450nmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(Mw)と、測定された吸光度の最大値(Amax)とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmaxを算出する。
εmax=[Amax/(10×10-3)]×Mw
【0077】
波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などが挙げられる。
これら紫外線吸収剤の中、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0078】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。
【0079】
離型剤は、成形品の金型からの離型を容易にする機能を有する化合物である。離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類/グリセリン脂肪酸モノエステルの質量比が、好ましくは2.5/1〜3.5/1、より好ましくは2.8/1〜3.2/1である。
【0080】
高分子加工助剤は、(メタ)アクリル樹脂組成物を成形する際、厚さ精度および薄膜化に効果を発揮する化合物である。高分子加工助剤は、通常、乳化重合法によって製造することができる、0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子である。
該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。
【0081】
高分子加工助剤は、極限粘度が3〜6dl/gであることが好ましい。
極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い。極限粘度が大きすぎると(メタ)アクリル樹脂組成物の溶融流動性の低下を招きやすい。
【0082】
(メタ)アクリル樹脂組成物には、耐衝撃性改質剤を配合してもよい。耐衝撃性改質剤としては、アクリルゴムもしくはジエンゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤;ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。
【0083】
有機色素としては、樹脂に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
蛍光体として、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0084】
これらの添加剤は、反応原料の段階で添加してもよいし、反応生成物の段階で添加してもよいし、脱揮後に得られる(メタ)アクリル樹脂組成物の段階で添加してもよい。
【0085】
本発明の製造方法によって得られる(メタ)アクリル樹脂組成物を、射出成形、圧縮成形、押出成形、真空成形などの従来より知られる成形方法で成形(溶融加熱成形)することによって各種成形品を得ることができる。当該(メタ)アクリル樹脂組成物からなる成形品としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機などの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどが挙げられる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。また、本発明は、以上までに述べた、特性値、形態、製法、用途などの技術的特徴を表す事項を、任意に組み合わせて成るすべての態様を包含している。
【0087】
実施例および比較例における物性値の測定等は以下の方法によって実施した。
(粘度測定)
サンプリングした液を小型の圧力容器(オートクレーブ)に仕込み、所定温度(140℃)まで昇温し、攪拌した時の攪拌トルクを測定し、粘度が既知のシリコンオイルを用いて事前に作成しておいた検量線により算出した。
【0088】
(重合転化率)
ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製、GC−14A)に、カラム(GLC−G−230 Sciences Inc.製、INERT CAP 1(df=0.4μm、I.D.0.25mm、長さ60m))を繋ぎ、injection温度180℃、detector温度180℃、カラム温度を昇温速度10℃/分で60℃から200℃に昇温する条件にて分析した。
【0089】
(ダイマーおよびトリマーの含有量)
ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製、GC−14A)に、カラム(GLC−G−230 Sciences Inc.製 INERT CAP 1(df=1.0μm、I.D.1.2mm、長さ40m))を繋ぎ、injection温度270℃、detector温度270℃、カラム温度を昇温速度10℃/分で70℃から270℃に昇温する条件にて分析した。
【0090】
(混合物(A)の組成分析)
ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製、C−R8A)に、カラム(島津製作所製 ステンレスカラム(5.0m×3.0mm)、充填剤(Shimalite 60/80 NAW)を繋ぎ、injection温度150℃、detector温度170℃、カラム温度を90℃で分析した。
測定する混合物(A)の採取箇所は、混合物(A)がキャンドポンプで輸送され、質量流量計を通過し、反応原料と合流する直前の箇所で行った。
【0091】
(加熱減量)
熱天秤(島津TGA-50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で300℃にし60分間保持したときの、加熱減量を測定した。
【0092】
(射出成形性)
射出成形機((株)名機製作所製、M−100−DM)を使用し、ペレット状の(メタ)アクリル樹脂組成物をシリンダ温度300℃、金型温度50℃、成形サイクル15分で射出成形して、長さ200mm、幅60mm、厚さ0.6mmの平板を製造し、得られた平板を肉眼で観察し、気泡(シルバ−)発生の有無を調べ、以下の基準で評価した。
○;シルバー無
×;シルバー有
C;全面発泡
【0093】
(成形品の透過率)
射出成形機((株)名機製作所製、M−100−DM)を使用し、ペレット状の(メタ)アクリル樹脂組成物をシリンダ温度260℃、金型温度65℃、成形サイクル2分で射出成形して、長さ200mm、幅60mm、厚さ6mmの平板を製造した。得られた平板の長手方向(200mm)の透過率を島津製作所製PC-2200分光光度計にて測定した。波長450nmの透過率を測定し以下の基準で評価した。
○;透過率が83%以上
×;透過率が83%未満
【0094】
(重合反応装置)
メタクリル酸メチル(MMA)及び混合液(A)の送液にはキャンドポンプを使用し、それらの下流側にそれぞれ流量調節弁を設置した。アクリル酸メチル、n−オクチルメルカプタン(連鎖移動剤)、及び2,2’−アゾビス2−メチルプロピオニトリル(重合開始剤)のMMA溶解液の送液には往復ポンプを使用した。また、各ポンプの吐出側には、質量式流量計を設置した。メタクリル酸メチル、混合液(A)、アクリル酸メチル及びn−オクチルメルカプタンの各原料は、槽型反応器の手前で合流させ、合流後のラインに溶存酸素除去のための窒素混合器を設けた。該窒素混合器を通過後のラインに、槽型反応器の手前で、2,2’−アゾビス2−メチルプロピオニトリルのMMA溶液を合流させる設計とした。流量計で測定された流量データは自動制御装置に送り、設定された流量になるように自動制御装置が指令信号を弁やポンプに送り、弁の開度やポンプの吐出圧を調節した。
【0095】
実施例1
ブライン冷却凝縮器を備えた連続流通式槽型反応器(容量0.1m3、槽径500mm、マックスブレンド翼、翼径260mm、回転数200rpm)に、メタクリル酸メチル73.6kg、アクリル酸メチル6.4kgを仕込み、n−オクチルメルカプタン360gを仕込み、窒素置換後、140℃に昇温した。
【0096】
所定温度になったところで、メタクリル酸メチル92質量部、アクリル酸メチル(MA)8質量部、n−オクチルメルカプタン0.45質量部、及び2,2’−アゾビス2−メチルプロピオニトリル(AIBN)0.0065質量部の割合で、平均滞留時間が2.5時間となる量の送液を開始した。同時に窒素混合機に窒素を通気し、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル及びn−オクチルメルカプタンの各原料の酸素を除去した。
【0097】
送液開始と同時に、槽型反応器の槽底より重合液の抜き出しを行い、槽型反応器の重合液面を一定水位に維持した。
【0098】
反応器から排出される液を加熱器に供給し、230℃に加温した。その後、250℃に制御された二軸押出機に一定流量で供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分が分離除去され、一方で樹脂成分がストランド状に押し出された。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状の(メタ)アクリル樹脂組成物を得た。
【0099】
脱揮押出機で分離された単量体蒸気を、熱交換器で冷却し、蒸留塔へ送液した。蒸留塔はボトム温度125℃、還流比1に設定した。塔頂から混合物(A)を回収した。塔底の高沸液は連続的に抜き出した。回収した混合物(A)をキャンドポンプで槽型反応器に供給した。混合物(A)の流量は質量流量計で測定した。
【0100】
連続運転開始から8時間ごとに混合物(A)に含まれるメタクリル酸メチル(1’)、アクリル酸メチル(2’)、および連鎖移動剤(3’)の割合をガスクロマトグラフィで測定した。
【0101】
測定された、混合物(A)の供給量Mcと、混合物(A)に含まれるメタクリル酸メチル(1’)の割合Xmma、アクリル酸メチル(2’)の割合Xma、および連鎖移動剤(3’)の割合Xtranと、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液の供給量Mvinitと、ラジカル重合開始剤(4)のメタクリル酸メチル溶液中のラジカル重合開始剤(4)の割合XIinitとから、槽型反応器へ供給する各原料の量を決定した。そして決定した供給量に成るように流量計と弁およびポンプの組み合わせからなる制御システムで、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸メチル(2)、連鎖移動剤(3)の供給量を調整した。本実施例では制御システムとして分散型制御システム(DCS)を用いた。
【0102】
運転開始から3日経過した時に、槽型反応器採取管から反応生成液を分取し分析した。反応生成液は、粘度が1.08Pa・s、密度が1000kg/m3、(メタ)アクリル樹脂の含有量(重合転化率)が52質量%であった。完全混合時間は45秒、撹拌動力は2.6kW/m3、レイノルズ数は209、動力数は6、無次元混合数は150であった。PV×θ×I×τ1/2は0.5であった。
運転開始から3日経過した時に得られた(メタ)アクリル樹脂組成物の、加熱減量と、ダイマーおよびトリマーの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
また、運転開始から3日経過した時に得られた(メタ)アクリル樹脂組成物と運転開始から6日経過した時に得られた(メタ)アクリル樹脂組成物とを質量比1:1でドライブレンドし、そのブレンド物を射出成形して成形品を得た。該成形品の評価結果を表1に示す。
【0103】
比較例1
DCSによる制御を行わず、メタクリル酸メチル(1)、アクリル酸メチル(2)、連鎖移動剤(3)の供給量を重合開始から終了まで一定に維持した以外は実施例1と同じ方法にて(メタ)アクリル樹脂組成物の製造を行った。実施例1と同じ方法で、(メタ)アクリル樹脂組成物の、加熱減量と、ダイマーおよびトリマーの含有量を測定し、さらに成形品の評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
比較例2
AIBN0.0065質量部をジ−t−ブチルパーオキサイド(PB−D)0.0020質量部に変え、槽型反応器の平均滞留時間を4時間に変更した以外は実施例1と同じ方法にて(メタ)アクリル樹脂組成物の製造を行った。
運転開始から3日経過時の反応生成液は、粘度が3.50Pa・s、密度が1000kg/m3、(メタ)アクリル樹脂の含有量(重合転化率)が60質量%であった。また、完全混合時間は60秒、撹拌動力は2.2kW/m3、レイノルズ数は64、動力数は5、無次元混合数は200であった。PV×θ×I×τ1/2は190.7であった。実施例1と同じ方法で、(メタ)アクリル樹脂組成物の、加熱減量と、ダイマーおよびトリマーの含有量を測定し、さらに成形品の評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表1に示すように、本発明に従って、混合液(A)の組成および供給量に基づいて、バージン原料の量を制御して槽型反応器に連続的に供給し、θM>τ1/2、およびPV×θ×I×τ1/2<4を満足する条件にて塊状重合すると、ダイマーおよびトリマーが少なく、加熱減量が少なく、射出成形板のシルバー発生が少ない、すなわち熱安定性が良好な(メタ)アクリル樹脂組成物を製造することができる。
これに対して、バージン原料を重合開始から終了まで一定量にて槽型反応器に連続的に供給して塊状重合すると、光線透過率が低い(メタ)アクリル樹脂組成物が得られる。また、θM>τ1/2、およびPV×θ×I×τ1/2<4を満足しない条件にて塊状重合すると、ダイマーおよびトリマーが多く、加熱減量が多い、すなわち熱安定性が劣る(メタ)アクリル樹脂組成物が得られる。
図1