特許第6357978号(P6357978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357978遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質および非水系電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357978
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質および非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20180709BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180709BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180709BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/525
   H01M4/505
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-172806(P2014-172806)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-47780(P2016-47780A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸屋 広将
(72)【発明者】
【氏名】井之上 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−254889(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0068109(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00
C01G 49/10−99/00
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
晶析反応により、一般式(A):M1-aa(OH)b(ただし、0<a≦0.2、b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表される遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーを得る晶析工程と、
前記主要金属元素の平均価数を2.15以下に制御した状態で、前記遷移金属複合水酸化物粒子の洗浄を開始する洗浄工程と
を備えることを特徴とする、遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記晶析工程後洗浄工程前に、前記遷移金属複合水酸化物粒子を、前記主要金属元素の平均価数を2.15以下に制御した状態で保持する保持工程をさらに備える、請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記保持工程において、前記遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーを酸素分圧が1013Pa以下に制御された非酸化性雰囲気中で保持する、請求項2に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記保持工程において、前記遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーを大気雰囲気中で4時間以下保持する、請求項2に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記晶析工程において、前記遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーのpH値を、液温25℃基準で10.5〜13.0の範囲に保持する、請求項1〜4のいずれかに記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
般式(A):M1-aa(OH)b(ただし、0<a≦0.2、b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、かつ、前記主要金属元素Mの平気価数が2.15以下である、遷移金属複合水酸化物粒子。
【請求項7】
微細一次粒子によって構成される中心部と、該中心部の外側に、該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子によって構成される外殻部とからなる粒子構造を備える、請求項6に記載の遷移金属複合水酸化物粒子。
【請求項8】
請求項6または7に記載の遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする遷移金属複合酸化物粒子からなる、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法に関する。また、本発明は、この遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする非水系電解質二次電池用正極活物質、および、これを用いた非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高エネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池に対する要求が高まっている。また、ハイブリット自動車をはじめとする電気自動車の電源として、高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極および電解液などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
【0004】
リチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われているところであるが、その中でも、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギ密度を有する材料として実用化が進められている。
【0005】
このような正極活物質として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)粒子などのリチウム遷移金属複合酸化物粒子が提案されている。
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池が良好な性能、具体的には、高サイクル特性、低抵抗および高出力を得るためには、正極活物質として用いるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の平均粒径、粒度分布、比表面積および結晶子径などの粉体特性やその結晶性などを厳密に制御することが要求される。また、リチウム遷移金属複合酸化物粒子に、アルミニウムやタングステンなどの金属元素を微量添加することにより、このリチウム遷移金属複合水酸化物粒子を用いた二次電池の用途や要求される性能に応じた特性を付与することが試みられている。
【0007】
このような正極活物質の製造方法として、さまざまな方法が提案されている。その中でも、晶析反応により得られる遷移金属複合水酸化物質粒子を正極活物質の前駆体として用いる方法は、晶析条件を適切に制御することにより、原子レベルで均一な組成を有し、かつ、粉体特性に優れた正極活物質を得ることができるという利点がある。一方、晶析反応により得られる遷移金属複合水酸化物粒子には、原料として用いた金属塩や中和剤として用いた水酸化ナトリウム水溶液などに起因する不純物が含まれる場合がある。このような不純物の存在は、この遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質に悪影響を及ぼすこととなる。このため、晶析工程で得られた遷移金属複合水酸化物粒子をスラリー化し、洗浄することにより、この遷移金属複合水酸化物粒子に含まれる不純物を除去ないしは低減することが一般的に行われている。
【0008】
たとえば、特開2012−252964号公報には、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を高アルカリ(pH値:13〜14.5)のスラリーにして保持した後、水洗することにより、このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子に含まれる硫酸基(SO4)を低減する方法が記載されている。
【0009】
また、特開2013−171743号公報および特開2013−171744号公報には、晶析反応によって得られたニッケルコバルト複合水酸化物粒子を、濾過した後または濾過する前に、遠心機や吸引濾過機などを用いて洗浄することにより、このニッケルコバルト複合水酸化物粒子に含まれる余剰の塩基やアンモニアを除去する方法が記載されている。
【0010】
さらに、特開2014−89848号公報には、晶析反応によって得られた共沈化合物(ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子)に対して、加圧濾過と蒸留水への分散を、蒸留水に分散させたときの上澄み液の伝導度が50mS/m以下となるまで繰り返すことにより、この共沈化合物を洗浄し、遊離アルカリなどの不純物イオンを除去する方法が記載されている。
【0011】
これらの方法によれば、上述した不純物を除去することができ、不純物含有量が少ない遷移金属複合水酸化物粒子およびこれを前駆体とする正極活物質が得られると考えられる。しかしながら、工業規模の量産において、遷移金属複合水酸化物粒子がニッケル、コバルトおよびマンガンなどの主要金属元素以外の添加元素を含む場合、上述した洗浄工程を行うことにより、この遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池において、充放電容量や出力特性などのばらつきが生じ、得られる二次電池の特性に大きな影響を及ぼすことが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−252964号公報
【特許文献2】特開2013−171743号公報
【特許文献3】特開2013−171744号公報
【特許文献4】特開2014−89848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、特に、工業規模の量産において、電池特性のばらつきが少ない非水系電解質二次電池を製造可能な遷移金属複合水酸化物粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応により、一般式(A):M1-aa(OH)b(ただし、0<a≦0.2、b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表される遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーを得る晶析工程と、前記主要金属元素の平均価数を2.20以下に制御した状態で、前記遷移金属複合水酸化物粒子を洗浄する洗浄工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
前記晶析工程終了後から前記洗浄工程を開始するまでに長時間を要する場合には、前記晶析工程後洗浄工程前に、前記主要金属元素の平均価数を2.20以下に制御した状態で、前記遷移金属複合水酸化物粒子を保持する保持工程をさらに備えることが好ましい。
【0016】
前記保持工程において、前記遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーを、酸素分圧が1013Pa以下に制御された非酸化性雰囲気中で保持することが好ましい。あるいは、前記保持工程において、前記遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーを大気雰囲気中で保持する場合には、この間の時間を6時間以下とすることが好ましい。
【0017】
前記晶析工程において、前記遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーのpH値を、液温25℃基準で10.5〜13.0の範囲に保持することが好ましい。
【0018】
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子は、前記製造方法により得られる遷移金属複合水酸化物粒子であって、一般式(A):M1-aa(OH)b(ただし、0<a≦0.2、b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなることを特徴とする。
【0019】
前記遷移金属複合水酸化物粒子は、微細一次粒子によって構成される中心部と、該中心部の外側に、該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子によって構成される外殻部とからなる粒子構造を備えることが好ましい。
【0020】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、前記遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする遷移金属複合酸化物粒子からなることを特徴とする。
【0021】
本発明の非水系電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、前記非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特に、工業規模の量産において、電池特性のばらつきが少ない非水系電解質二次電池を製造可能な遷移金属複合水酸化物粒子およびその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、このような遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。さらに、本発明は、この非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いた非水系電解質二次電池を提供することができる。このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例および比較例において、洗浄工程の開始時点における主要金属元素(Ni、Co、Mn)の平均価数と、最終的に得られた遷移金属複合水酸化物粒子の添加元素(W)品位との関係を示した図である。
図2図2は、実施例および比較例において、洗浄工程の開始時点における主要金属元素(Ni、Co、Mn)の平均価数と、最終的に得られた遷移金属複合水酸化物粒子の添加元素(W)の含有量(mol%)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、上述した問題に鑑みて、主要金属元素(Ni、Co、Mn)以外の添加元素を含む正極活物質を用いて二次電池を構成した場合に、その電池特性にばらつきが生じる原因について鋭意研究を重ねた。その結果、晶析工程で得られた遷移金属複合水酸化物粒子は、酸素が存在する雰囲気下では、晶析工程終了後洗浄工程を開始するまでの間に遷移金属複合オキシ水酸化物粒子に変化し、これに伴って、洗浄工程において結晶中から添加元素が溶出することを突き止めた。すなわち、この添加元素の溶出により、この遷移金属複合水酸化物粒子と遷移金属複合オキシ水酸化物粒子との混合物を前駆体とする正極活物質の添加元素品位が不安定となり、これによって、電池特性にばらつきが生じることを突き止めたのである。
【0025】
本発明者らは、この点についてさらに研究を重ねた結果、晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間における遷移金属複合水酸化物粒子から遷移金属複合オキシ水酸化物粒子への変化を抑制し、この遷移金属複合水酸化物粒子を構成する主要金属元素の平均価数を2.20以下に制御した状態で洗浄工程を行うことにより、添加元素の溶出などを抑制することができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0026】
1.遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)の製造方法は、(1)晶析反応により、一般式(A):M1-aa(OH)b(ただし、0<a≦0.2、b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表される複合水酸化物粒子を含むスラリーを得る晶析工程と、(2)この複合水酸化物粒子を、主要金属元素の平均価数を2.20以下に制御した状態で洗浄する洗浄工程とを備えることを特徴とする。以下、工程ごとに、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法を詳細に説明する。
【0027】
(1)晶析工程
晶析工程は、晶析反応により、上述した一般式(A)で表される複合水酸化物粒子を得る工程である。より具体的には、主要金属元素Mおよび添加元素Nを含む混合水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液およびアンモニア水などの錯化剤を供給することにより反応水溶液を形成し、一般式(A)で表される複合水酸化物粒子を晶析させ、この複合水酸化物粒子を含むスラリーを得る工程である。
【0028】
[晶析条件]
本発明において、晶析工程における条件は特に制限されることなく、目的とする複合水酸化物粒子の組成、粒子構造または粉体特性などに応じて適宜選択する必要がある。たとえば、一般式:(Ni1/3Co1/3Mn1/31-aa(OH)2(ただし、0<a≦0.2、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表され、微細一次粒子からなる中心部と、中心部の外側に、この微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部とからなる粒子構造を備えた複合水酸化物粒子を得ようとする場合、特開2012−254889号公報などに記載されるような晶析条件を選択する必要がある。
【0029】
ただし、晶析反応中の反応槽内の雰囲気(以下、「反応雰囲気」という)は、酸化性雰囲気を選択する必要がある場合を除き、非酸化性雰囲気とすることが好ましく、窒素雰囲気とすることがより好ましい。具体的には、反応雰囲気中の酸素分圧を1013Pa以下とすることが好ましく、1000Pa以下とすることがより好ましく、990Pa以下とすることがさらに好ましい。このような反応雰囲気で晶析工程を行うことにより、晶析した複合水酸化物粒子が酸化し、遷移金属複合オキシ水酸化物粒子(以下、「オキシ水酸化物粒子」という)に変化することを抑制することができるため、洗浄工程における添加元素の溶出量を低減することが可能となる。なお、反応雰囲気は、反応槽内に、窒素などの不活性ガスを流通させることにより調整することができる。
【0030】
[スラリーのpH値]
晶析工程で得られた複合水酸化物粒子は、これを含むスラリーのpH値が高いほど酸化が進行しやすくなる。このため、スラリーのpH値は、液温25℃基準で13.0以下とすることが好ましく、12.5以下とすることがより好ましく、12.0以下とすることがさらに好ましい。スラリーのpH値をこのような範囲に制御することにより、複合水酸化物粒子の酸化が抑制され、添加元素の溶出量を低減することができる。ただし、スラリーのpH値は、液温25℃基準で10.5以上とすることが好ましく、11.0以上とすることがより好ましい。スラリーのpH値の下限値をこのような範囲に制御することにより、スラリー中の複合水酸化物粒子の損傷を抑制することができる。
【0031】
(2)保持工程
晶析工程終了時点において、晶析した複合水酸化物粒子を構成する主要金属元素Mの平均価数は、概ね2.00〜2.15の範囲にあるが、酸素が存在する雰囲気中では、複合水酸化物粒子は容易に酸化するため、時間の経過とともに主要金属元素Mの平均価数が上昇する。この平均価数が2.20を超えると、複合水酸化物粒子はオキシ水酸化物粒子へと変化し、洗浄工程中に、この複合水酸化物粒子を構成する添加元素Nが溶出しやすくなるため、得られる複合水酸化物粒子およびこれを前駆体とする正極活物質の添加元素品位にばらつきが生じる。
【0032】
このため、晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでに長時間を要する場合には、この間において、主要金属元素Mの平均価数を2.20以下、好ましくは2.15以下、より好ましくは2.11以下に制御することが必要となる。これにより、工業規模の量産において、晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間に長時間を要するような場合であっても、スラリー中の複合水酸化物粒子の酸化を抑制し、主要金属元素Mの平均価数を2.20以下に制御した状態で複合水酸化物粒子を洗浄することができるため、洗浄工程中における添加元素Nの溶出を効果的に抑制することが可能となる。なお、本発明において、主要金属元素Mの平均価数とは、複合水酸化物粒子に含まれるニッケル、コバルトおよびマンガンの価数の算術平均値を意味し、たとえば、複合水酸化物粒子を塩酸に溶解した水溶液を酸化還元滴定することにより求めることができる。
【0033】
保持工程、すなわち、晶析反応終了後から洗浄工程を開始するまでの間の雰囲気(以下、「保持雰囲気」という)は、非酸化性雰囲気とすることが好ましく、窒素雰囲気とすることがより好ましい。より具体的には、保持雰囲気中の酸素分圧を1013Pa以下に制御することが好ましく、1000Pa以下に制御することがより好ましく、990Pa以下に制御することがさらに好ましい。このような保持雰囲気では、晶析反応終了後から洗浄工程を開始するまでの時間が長時間、たとえば、90時間以上となった場合であっても、主要金属元素Mの平均価数を2.20以下に維持し続けることができる。ただし、この時間は、可能な限り短いほうが好ましく、40時間以下とすることがより好ましく、10時間以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
なお、本発明においては、保持雰囲気として大気雰囲気(酸素分圧:21273Pa)を選択することもできるが、この場合には、晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの時間を6時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下とすることが必要となる。この点を考慮すると、工業規模の生産において複合水酸化物粒子を大量に生産する場合には、晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでに長時間を要する場合もあるため、保持雰囲気を非酸化性雰囲気とすることが有利である。
【0035】
保持工程中は、スラリー中の複合水酸化物粒子の凝集を抑制するため、晶析工程で得られたスラリーを別途用意した容器に分取し、一定の速度で撹拌することが好ましい。この際の撹拌速度は、複合水酸化物粒子が微粒化しない程度に適宜調整することが必要となる。
【0036】
(3)洗浄工程
上述したように、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子は、酸素が存在する雰囲気中では、直ちに酸化が進行し、オキシ水酸化物粒子に変化する。特に、酸素を高濃度で含有する雰囲気中や高温雰囲気中では、酸化速度が速く、オキシ水酸化物粒子の割合が急激に増加する。このため、晶析工程終了から洗浄工程を開始するまでに長時間を要する場合はもちろんのこと、晶析工程後、直ぐに洗浄工程を行う場合であっても、洗浄工程を開始する時点において、複合水酸化物粒子を構成する主要金属元素の平均価数を2.20以下、好ましくは2.15以下、より好ましくは2.11以下に制御することが重要となる。これにより、洗浄工程における添加元素Nの溶出を抑制しつつ、ナトリウムなどの不純物を除去することが可能となる。
【0037】
複合水酸化物粒子の洗浄方法は、特に制限されることはなく、たとえば、この複合水酸化物粒子を含むスラリーに適量の洗浄水を加え、撹拌する方法を採用することができる。この際、洗浄水としては、不純物の混入を防止する観点から、可能な限り不純物の含有量が少ないイオン交換水や蒸留水などを用いることが好ましい。また、洗浄は1回のみ行うよりも、複数回に分けて行うことが好ましい。このほか、フィルタープレスなどを用いて複合水酸化物粒子を洗浄することも可能である。いずれの方法を採用する場合も、使用する装置の特性や洗浄する複合水酸化物粒子の量などに応じて、洗浄条件を適宜調整することが必要となる。
【0038】
2.遷移金属複合水酸化物粒子
本発明の複合水酸化物粒子は、上述した製造方法により得られ、一般式(A):M1-aa(OH)b(ただし、0<a≦0.2、b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなることを特徴とする。なお、本発明の複合水酸化物粒子は、洗浄工程終了時点では、主要金属元素Mの平均価数が2.20以下の範囲にあるが、その後は、経時的に酸化が進行するため、必ずしも平均価数がこの範囲にあるわけではない。
【0039】
(1)組成
[主要金属元素]
本発明の複合水酸化物粒子は、主要金属元素Mとして、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)の群から選択される少なくとも1種を含む。本発明は、これらの主要金属元素Mの組成比は制限されることはなく、コバルト複合水酸化物粒子、ニッケル複合水酸化物粒子、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、マンガン複合水酸化物粒子、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子などの遷移金属複合水酸化物粒子に対して適用することが可能である。たとえば、本発明をニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子に対して適用する場合、主要金属元素Mの合計原子数(M=Ni+Co+Mn)に対する、各主要金属元素Mの原子数(Ni、Co、Mn)の比を以下のような範囲とすることが好ましい。
【0040】
ニッケルは、電池容量の向上に寄与する元素である。このため、主要金属元素Mの合計原子数に対するニッケルの原子数の比(Ni/M比)は、好ましくは0.30〜0.95、より好ましくは0.33〜0.90、さらに好ましくは0.33〜0.85とする。Ni/M比が0.30未満では、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池が高容量なものとならない。一方、Ni/M比が0.95を超えると、コバルトやマンガンの含有量が著しく減少してしまい、その添加効果を得ることができなくなる。
【0041】
コバルトは、サイクル特性の向上に寄与する元素である。このため、主要金属元素Mの合計原子数に対する、コバルトの原子数の比(Co/M比)は、好ましくは0.03〜0.98、より好ましくは0.03〜0.95、さらに好ましくは0.05〜0.92とする。Co/M比が0.03未満では、十分なサイクル特性を得ることができず、容量維持率が低下することとなる。一方、Co/M比が0.98を超えると、初期放電容量が大きく低下するおそれがある。
【0042】
マンガンは、熱安定性の向上に寄与する元素である。このため、主要金属元素Mの合計原子数に対する、マンガンの原子数の比(Mn/M比)は、好ましくは0.03〜0.98、より好ましくは0.03〜0.95、さらに好ましくは0.05〜0.90とする。Mn/M比が0.03未満では、熱安定性を十分に向上させることができない。一方、Mn/M比が0.98を超えると、高温作動時にマンガンの溶出量が増加し、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0043】
[添加元素]
本発明の複合水酸化物粒子は、上述した主要金属元素Mのほかに、添加元素Nを含有するように調整される。添加元素Nを含有することで、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池の充放電容量や出力特性などを向上させることができる。このような添加元素Nとしては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)の群から選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0044】
添加元素Nの含有量を示すaの値は、0を超えて0.20以下、好ましくは0を超えて0.15以下、より好ましくは0を超えて0.10以下とすることが必要となる。aの値が0.20を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下してしまう。
【0045】
[水酸基]
本発明の複合水酸化物粒子に含まれる水酸基(OH)の含有量を示すbの値は、主要金属元素Mおよび添加元素Nの平均価数によって制御され、下記の式によって求めることができる。
b=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)
【0046】
なお、添加元素Nの平均価数とは、複合水酸化物粒子に含まれる添加元素Nの価数の算術平均を意味し、主要金属元素Mと同様に、複合水酸化物粒子を塩酸に溶解した水溶液を酸化還元滴定することにより求めることができる。
【0047】
[オキシ水酸化物粒子]
本発明の複合水酸化物粒子を上述した製造方法で製造した場合であっても、その一部は、一般式(B):Mab(OOH)c(ただし、0<a≦0.2、c=(1−a)×(Mの平均価数)+a×(Nの平均価数)/3、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表されるオキシ水酸化物粒子に変化していると考えらえる。しかしながら、後述するように、複合水酸化物粒子の平均価数を2.20以下に制御することにより、オキシ水酸化物粒子への変化を抑制し、添加元素Nの溶出量を低減することができる。
【0048】
(2)粒子構造
本発明の複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される限り、その粒子構造が制限されることはない。しかしながら、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池の出力特性をより向上させるためには、複合水酸化物粒子が、微細一次粒子によって構成される中心部と、中心部の外側に、この微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子によって構成される外殻部とからなる粒子構造を備えることが好ましい。すなわち、このような粒子構造を備えた複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質は中空構造を備えたものとなり、二次電池を構成した場合に電解液との接触面積を十分に確保することができるため、その出力特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0049】
(3)粉体特性
複合水酸化物粒子の粉体特性は、上述した晶析工程における条件によって調整することができる。また、粉体特性は、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質に引き継がれることとなる。すなわち、複合水酸化物粒子の粉体特性は、目的とする正極活物質に要求される粉体特性に応じて、晶析工程における条件を調整することにより制御することが必要となる。たとえば、平均粒径が3μm〜20μmの正極活物質を得ようとする場合、その前駆体である複合水酸化物粒子では、平均粒径を3μm〜20μmに制御することが好ましく、3μm〜15μmに制御することがより好ましい。これにより、平均粒径が上述した範囲にある正極活物質を容易に得ることができる。なお、本発明において平均粒径とは、体積基準による平均粒径を意味し、たとえば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0050】
3.非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)の製造方法は、前駆体として、上述した複合水酸化物粒子を用いること以外、従来技術と同様である。すなわち、本発明の非水系電解質二次電池は、上述した複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合した後(混合工程)、得られたリチウム混合物を焼成することにより得られる(焼成工程)。なお、このような正極活物質の製造方法において、上記工程のほかに、必要に応じて、熱処理工程、仮焼工程および解砕工程などを適宜行うことも可能である。
【0051】
[熱処理工程]
熱処理工程は、上述のようにして得られた複合水酸化物粒子を、酸化性雰囲気中、105℃〜750℃で加熱することで複合水酸化物粒子に含まれる水分を除去し、熱処理粒子とする工程である。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分を除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程によって転換された遷移金属複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」という)、または、これらの混合物も含まれる。
【0052】
このような熱処理工程を行うことにより、粒子中に、焼成工程まで残留する水分を一定量まで減少させることができるため、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じることを防止することができる。
【0053】
なお、熱処理工程では、正極活物質中の各金属成分の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分を除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はない。しかしながら、各金属成分の原子数やリチウムの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、複合水酸化物粒子の分解条件以上に加熱して、すべての複合水酸化物粒子を、複合酸化物粒子に転換することが好ましい。
【0054】
このような熱処理に用いられる設備は、特に制限されることはなく、複合水酸化物粒子を非還元性雰囲気中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0055】
[混合工程]
混合工程は、複合水酸化物粒子または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合し、リチウム混合物を得る工程である。
【0056】
複合水酸化物粒子または熱処理粒子に加えるリチウム化合物の量は、複合水酸化物粒子または熱処理粒子の組成、特に主要金属元素Mの組成比により適宜調整することが必要となる。たとえば、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中のニッケル、コバルトおよびマンガンの組成比が、これらの原子数の比で、Ni:Co:Mn=1:1:1である場合、これらの主要金属元素Mおよび添加元素Nの合計原子数(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の原子数の比(Li/Me)が0.95〜1.50、好ましくは1.00〜1.35、より好ましくは1.00〜1.20となるようにリチウム化合物を混合することが必要となる。なお、焼成工程前後でLi/Meは変化しないため、この混合工程によって得られるリチウム混合物のLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなる。
【0057】
複合水酸化物粒子または熱処理粒子と混合するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手のしやすさを考慮すると、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を好適に使用することができる。これらの中でも、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を使用することが好ましい。
【0058】
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が不十分だと、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない場合がある。
【0059】
また、混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサなどを用いることができる。いずれの混合機を使用する場合も、複合水酸化物粒子または熱処理粒子の形状が破壊されない程度に、複合水酸化物粒子または熱処理粒子と、リチウム化合物とを十分に混合すればよい。
【0060】
[仮焼工程]
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後焼成工程前に、リチウム混合物を、焼成温度より低く、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜780℃、すなわち、水酸化リチウムや炭酸リチウムと複合酸化物粒子との反応温度(仮焼温度)で仮焼してもよい。これにより、複合水酸化物粒子内へのリチウムの拡散が促進され、より均一なリチウム複合酸化物粒子を得ることができる。
【0061】
なお、このような仮焼工程を設けなくても、後述する焼成工程において、焼成温度に到達するまでの昇温速度を遅くすることで、実質的に、仮焼した場合と同様の効果を得ることができる。この場合、仮焼温度付近で保持することで、複合酸化物粒子内へのリチウムの拡散を十分に進行させることができる。
【0062】
[焼成工程]
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を、所定温度で焼成し、リチウム遷移金属複合酸化物粒子(以下、「リチウム複合酸化物粒子」という)からなる正極活物質を合成する工程である。
【0063】
焼成工程における雰囲気は酸化性雰囲気とするが、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気、すなわち、大気〜酸素気流中で行うことが好ましく、コスト面を考慮すると、空気気流中で行うことがより好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、酸化反応が十分に進行せず、正極活物質の結晶性が十分なものとならない場合がある。
【0064】
一方、焼成温度は、リチウム混合物中の複合水酸化物粒子または熱処理粒子の組成、特に主要金属元素Mの組成比により適宜調整することが必要となる。たとえば、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中のニッケル、コバルトおよびマンガンの組成比が、これらの原子数の比で、Ni:Co:Mn=1:1:1である場合、焼成温度は、800℃〜1100℃とすることが好ましい。また、このような焼成温度での焼成時間は、3時間以上とすることが好ましい。このような焼成温度および焼成時間でリチウム混合物を混合することにより、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物とを過不足なく反応させることができ、結晶性の高い正極活物質を得ることができる。
【0065】
[解砕工程]
焼成工程後の正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、正極活物質の凝集体または焼結体を解砕することが好ましく、これにより、正極活物質の平均粒径や粒度分布などを好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0066】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0067】
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、一般式(C):Liu1-aa2またはLiu1-aa4(ただし、0.95≦u≦1.50、0≦a≦0.2、Mは主要金属元素であり、Ni、CoおよびMnの群から選択される少なくとも1種を含み、Nは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種を含む)で表されるリチウム複合酸化物粒子からなる。
【0068】
この正極活物質は、本発明の複合水酸化物粒子を前駆体とするものであり、かつ、上述した正極活物質の製造方法によれば、熱処理工程から解砕工程までの間において、添加元素Mが外部に溶出することはない。すなわち、本発明の正極活物質は、洗浄工程後の複合水酸化物粒子の添加元素品位が概ね維持されるため、添加元素品位のばらつきが少ないと評価することができる。
【0069】
[組成]
上述した一般式(C)において、リチウム(Li)の含有量を示すuの値は、0.95〜1.50、好ましくは1.00〜1.35、より好ましくは1.00〜1.20の範囲に制御される。uの値が0.95未満では、この正極活物質を用いた二次電池の正極抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、uの値が1.50を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が低下してしまう。
【0070】
なお、本発明の正極活物質において、主要金属元素Mおよび添加元素Nの組成範囲およびその臨界的意義は、上述した複合水酸化物粒子の場合と同様なので、ここでの説明は省略する。
【0071】
[粒子構造]
本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される限り、その粒子構造が制限されることはない。ただし、優れた出力特性を備える二次電池を得ようとする場合、正極活物質の粒子構造を中空構造とすることが好ましい。
【0072】
[粉体特性]
本発明の正極活物質の粉体特性は、目的とする二次電池の用途や要求される性能に応じて調整されるべきものであり、特に制限されることはない。たとえば、高容量の二次電池を得ようとする場合、正極活物質の平均粒径を、3μm〜20μmに調整することが好ましく、3μm〜15μmに調整することが好ましい。これによって、正極活物質の充填性を高めることができ、高容量の二次電池が実現される。
【0073】
4.非水液電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下に説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0074】
(1)構成材料
[正極]
本発明の正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0075】
まず、本発明により得られる粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部、導電材の含有量を1質量部〜20質量部、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることが望ましい。
【0076】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、このような方法に制限されることはなく、他の方法によってもよい。
【0077】
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0078】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
【0079】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0080】
[負極]
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0081】
負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0082】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0083】
[非水電解液]
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0084】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0085】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0086】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0087】
(2)非水系電解質二次電池
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0088】
このようにして得られる本発明の非水系電解質二次電池は、正極材料を構成する正極活物質の添加元素品位のばらつきが少ないため、充放電容量や出力特性などの電池特性のばらつきが少ないという特徴を有する。
【実施例】
【0089】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、この実施形態により限定されることない。
【0090】
(実施例1)
はじめに、反応槽(60L)に、その容積の1/3の量の水を供給した後、槽内温度を50℃まで加温した。この状態で、反応槽内に窒素を流通し、酸素分圧を988Paに調整した。同時に、イオン交換水に、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、これら含まれるニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数比が、Ni:Co:Mn=1:1:1となるように溶解し、2.0mоl/Lの混合水溶液を作製した。また、別のイオン交換水に、タングステン酸ナトリウムを溶解し、0.3mоl/Lのタングステン水溶液を作製した。
【0091】
次に、反応槽内の水を撹拌しながら、反応槽内に、上述した混合水溶液およびタングステン水溶液と、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液と、25質量%のアンモニア水の供給することで反応水溶液を形成し、複合水酸化物粒子を晶析させた。この際、反応水溶液のタングステン濃度が0.42mоl%、液温25℃基準におけるpH値が11.8、アンモニア濃度が10g/Lに維持されるように、各水溶液の供給量を調整した。なお、本実施例では、晶析反応を通じて、反応雰囲気を酸素分圧が988Paの不活性雰囲気に、反応水溶液の温度を50℃に保持した。
【0092】
晶析反応終了時点において、得られた複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置(セイコーインスツル株式会社、Plasma Spectrometer SPS3000)を用いた分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、この複合水酸化物粒子を塩酸で溶解した水溶液に対して酸化還元滴定を行ったところ、主要金属元素Mの平均価数は2.11であることが確認された。
【0093】
上述のようにして得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーを、大気雰囲気(酸素分圧:21273Pa)中で、別途用意した容器に分取した後、保持することなく洗浄した。具体的には、複合水酸化物粒子を含むスラリーを、5C定量濾紙を用いてイオン交換水で洗浄しながら固液分離する操作を2回繰り返した。このようにして洗浄および固液分離した複合水酸化物粒子を150℃で12時間加熱することにより乾燥し、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。ICP発光分光分析装置を用いた分析の結果、この複合水酸化物粒子は、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであり、タングステン品位が0.82質量%であることが確認された。以上の結果を表1、図1および図2に示す。
【0094】
(実施例2)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを、大気雰囲気(酸素分圧:21273Pa)中で2時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0095】
なお、実施例2では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.11であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0096】
(実施例3)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを4時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。この結果を表1、図1および図2に示す。
【0097】
なお、実施例3では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.15であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0098】
(実施例4)
晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーを、窒素雰囲気(酸素分圧:988Pa)中で、別途用意した容器に分取した後、保持することなく洗浄したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0099】
なお、実施例4では、晶析工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.11であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0100】
(実施例5)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを、窒素雰囲気(酸素分圧:988Pa)中で4時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0101】
なお、実施例5では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.08であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0102】
(実施例6)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを24時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例5と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0103】
なお、実施例6では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.07であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0104】
(実施例7)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを32時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例5と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0105】
なお、実施例7では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.08であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0106】
(実施例8)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを96時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例5と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0107】
なお、実施例8では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99580.0042(OH)2.1263で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.08であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0108】
(比較例1)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを、大気雰囲気(酸素分圧:21273Pa)中で8時間、撹拌しながら保持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0109】
なお、比較例1では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99590.0041(OH)2.2355で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.22であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0110】
(比較例2)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを24時間、撹拌しながら保持したこと以外は比較例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0111】
なお、比較例2では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99600.0040(OH)2.4542で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.44であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0112】
(比較例3)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを32時間、撹拌しながら保持したこと以外は比較例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0113】
なお、比較例3では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99600.0040(OH)2.5240で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.51であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0114】
(比較例4)
晶析工程終了後から洗浄工程を開始するまでの間において、複合水酸化物粒子を含むスラリーを96時間、撹拌しながら保持したこと以外は比較例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得るとともに、その組成およびタングステン品位を評価した。
【0115】
なお、比較例4では、保持工程の終了(洗浄工程の開始)時点において、複合水酸化物粒子の組成を、ICP発光分光分析装置を用いて分析した結果、一般式:(Ni0.33Co0.34Mn0.330.99610.0039(OH)2.6730で表されるものであることが確認された。また、酸化還元滴定の結果、主要金属元素Mの平均価数は2.66であることが確認された。これらの結果を表1、図1および図2に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
(総合評価)
表1、図1および図2より、洗浄工程の開始時点における複合水酸化物粒子を構成する主要金属元素Mの平均価数が大きくなるほど、最終的に得られる複合水酸化物粒子の添加元素品位および添加元素の含有量が、直線的に低下することが確認される。特に、平均価数が2.20を超えると、添加元素品位が0.81質量%を下回るようになることが確認される。
【0118】
したがって、洗浄工程の開始時点において、主要金属元素Mの平均価数を2.20以下に制御した状態で複合水酸化物粒子を洗浄することにより、添加元素Nの溶出を抑制することができることが理解される。このため、本発明によれば、添加品位元素のばらつきが少ない複合水酸化物粒子およびこれを前駆体とする正極活物質が得られること、および、この正極活物質を正極材料として用いることで、電池特性のばらつきの少ない二次電池を得ることができることが理解される。
図1
図2