(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゴムヘッダーは、前記上側部材の前記管路周囲を覆う部分の外形形状が、上方側へ突出した角部を有さずに、前記管路の両側から前記管路の中央部に向かってなだらかに厚みを増す形状となっている請求項1乃至3のいずれかに記載の軌道用融雪マット。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照して、本発明の第1実施形態による融雪マットの概略的な構造と敷設態様とについて説明する。
図1は、第1実施形態の融雪マット100の敷設態様例を概略的に示す平面図である。融雪マット100は、鉄道車両が通る道である軌道200に敷設される軌道用融雪マットであり、より具体的には、1対のレール201の間の、まくらぎ202の上側に、レール201の延在方向に沿って敷設される。
【0010】
融雪マット100は、典型的には、分岐器の手前に敷設され、通過列車が雪を落す場所として機能する。これにより、分岐器が列車持ち込み雪により切替不能になることが防止される。
【0011】
融雪マット100は、温水マット本体110と、ゴムヘッダー120と、取り付け金具130とにより構成されている。温水マット本体110は、レール201の延在方向に沿って配置される細長い形状を有し、温水マット本体110の長さ方向に流れる温水により加温され、温水マット本体110上の雪が、融かされる。
【0012】
ゴムヘッダー120は、温水マット本体110の両端部に設けられており、一方のゴムヘッダー120が、外部から温水マット本体110へ温水を給水するための給水管路を構成し、他方のゴムヘッダー120が、外部へ温水マット本体110から温水を排水するための排水管路を構成している。
【0013】
ボイラー等の熱源を有する温水供給装置150が、軌道200の側方に設置されている。温水供給装置150は、給水用配管151を介して給水側ゴムヘッダー120に接続されているとともに、排水用配管152を介して排水側ゴムヘッダー120に接続されている。温水供給装置150から、温水が、給水用配管151および給水側ゴムヘッダー120を介して、温水マット本体110の一端側へ供給される。温水マット本体110内を通って他端側へ達した温水が、排水側ゴムヘッダー120および排水用配管152を介して、温水供給装置150に回収される。
【0014】
取り付け金具130は、両端のゴムヘッダー120のそれぞれに設けられており、取り付け金具130を介して、各ゴムヘッダー120が、軌道200に取り付けられる。
【0015】
次に、
図2(A)および
図2(B)を参照して、第1実施形態による融雪マット100の、温水マット本体110、ゴムヘッダー120、および取り付け金具130について、さらに説明する。
図2(A)および
図2(B)は、それぞれ、第1実施形態の融雪マット100の一端近傍を示す概略的な平面図および断面図である。
図2(B)は、
図2(A)のAA線に沿った断面図である。
【0016】
以下、ゴムヘッダー120および取り付け金具130について、例示的に一端側の構造を説明するが、他端側の構造は、対称的に構成されており、同様である。説明の便宜のため、ゴムヘッダー120に形成された給水用または排水用の管路を、まとめて、給排水管路と呼ぶこともある。
【0017】
温水マット本体110は、ゴムマット111と、ゴムマット111の上面に貼り付けられた損傷防止布112とにより構成されている。ゴムマット111は、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)系ゴムで形成されている。損傷防止布112は、ゴムマット111よりも損傷しにくい材料、例えばアラミド繊維等で形成されており、厚さが例えば1mm程度である。
【0018】
温水マット本体110は、例えば、長さが7.5m程度、幅が60cm程度、厚さが1cm程度である。以下、温水マット本体110の長さ方向および幅方向を、それぞれ、マット長さ方向、マット幅方向と呼ぶこともある。
【0019】
温水マット本体110の内部に、マット長さ方向に延在し、温水を流すための本体管路113が、マット幅方向に並んで複数本設けられている。本体管路113は、直径が例えば5mm程度であり、本数が例えば90本程度である。なお、
図2(A)では、図示の煩雑さを避けるため、少数の(具体的には5本の)本体管路113を例示する。
【0020】
ゴムヘッダー120は、温水マット本体110の端部に、マット幅方向について一端から他端に亘るように延在して、配置されている。ゴムヘッダー120は、上側部材121と下側部材122とにより構成され、それぞれ溝の形成された上側部材121と下側部材122とが対向するように重ね合わされることで、マット幅方向に延在する給排水管路123を構成している。
【0021】
本体管路113が、給排水管路123に連通することにより、ゴムヘッダー120を介した給排水が可能となっている。以下、給排水管路123に対し、温水マット本体110側をマット内側あるいは単に内側と呼び、その反対側をマット外側あるいは単に外側と呼ぶこともある。
【0022】
上側部材121は、上側ゴム部材124と、上側ゴム部材124の上面に貼り付けられた損傷防止布125とにより構成されている。上側ゴム部材124は、例えばEPDM系ゴムで形成されている。損傷防止布125は、上側ゴム部材124よりも損傷しにくい材料、例えばアラミド繊維等で形成されており、厚さが例えば1mm程度である。下側部材122は、単体のゴム部材であり、例えばEPDM系ゴムで形成されている。
【0023】
ゴムヘッダー120は、給排水管路123を形成するための溝が形成され相対的に厚くなっている中央部126と、中央部126に対しマット内側に配置された縁部であって、中央部126よりも相対的に薄くなっている内側縁部127と、中央部126に対しマット外側に配置された縁部であって、中央部126よりも相対的に薄くなっている外側縁部128とに、概ね区画される。
【0024】
中央部126は、例えば、幅(マット長さ方向の寸法。以下、内側縁部127と外側縁部128の説明でも同様。)が5cm程度で、厚さが4cm程度である。中央部126内部に形成された給排水管路123の直径は、例えば2.5cm程度である。
【0025】
内側縁部127は、例えば、幅が5cm程度で、厚さが2cm程度である。なお、
図2(B)では、内側縁部127の厚さが、マット内側に向けて薄くなる構造を例示している。外側縁部128は、例えば、幅が2cm程度で、厚さが1cm程度である。
【0026】
上側部材121の内側縁部127(上側部材121の給排水管路123に対しマット内側に配置された縁部)と、下側部材122の内側縁部127(下側部材122の給排水管路123に対しマット内側に配置された縁部)とが、温水マット本体110の端部を挟んで接着されていることにより、給排水管路123のマット内側側面と本体管路113とが連通し、隣接する本体管路113同士の間で給排水管路123のマット内側側面が閉じた管路構造が形成されるとともに、ゴムヘッダー120が温水マット本体110に固定されている。
【0027】
取り付け金具130は、マット幅方向に延在する根元部131と、根元部131からマット外側に突出する取り付け部(櫛歯部)132とを有する。取り付け部(櫛歯部)132は、根元部131から櫛歯状に突出しており、取り付け金具130は、櫛歯形状となっている。まくらぎ202に、軌道側の取り付け金具203が固定されている。取り付け金具203に取り付けられたボルト204を、櫛歯部132に形成された貫通孔133を貫通させることにより、融雪マット側の取り付け金具130が、軌道側の取り付け金具203に取り付けられる。このようにして、ゴムヘッダー120が、軌道に取り付けられる。取り付け金具130は、ゴムヘッダー120を上側から覆わないように配置されている。
【0028】
上側部材121の外側縁部128(上側部材121の給排水管路123に対しマット外側に配置された縁部)と、下側部材122の外側縁部128(下側部材122の給排水管路123に対しマット外側に配置された縁部)とが、根元部131を挟んで接着されていることにより、給排水管路123のマット外側側面が閉じるとともに、取り付け金具130がゴムヘッダー120に固定されている。つまり、取り付け金具130の一部は、ゴムヘッダー120の上側部材121と下側部材122とに挟まれて覆われている。
【0029】
取り付け金具130は、例えばステンレスで形成され、厚さが例えば2.5mm程度である。根元部131は、例えば、長さ(マット幅方向の寸法)が64.0cm程度で、幅(マット長さ方向の寸法)が6.7cm程度である。櫛歯部132は、例えば、各櫛歯部132の長さ(マット長さ方向の寸法)が3.8cm程度で、幅(マット幅方向の寸法)が3.0cm程度であり、例えば24.5cm間隔で3本程度配置される。
【0030】
次に、第1実施形態による融雪マット100の製造方法について説明する。まず、温水マット本体110の端部を、ゴムヘッダー120の上側部材121の内側縁部127と、下側部材122の内側縁部127とで挟んだ状態で、金型を用いて加硫接着する(第1の加硫接着工程)。
【0031】
第1の加硫接着工程において加えられる熱での変形により、本体管路113や給排水管路123が潰れたり塞がれたりしないように、第1の加硫接着工程において、本体管路113や給排水管路123には、各管路の太さに対応した円筒形状で例えば金属製の詰め物が挿入される。第1の加硫接着工程の完了後、これらの詰め物が取り除かれる。
【0032】
第1の加硫接着工程が完了した段階では、上側部材121および下側部材122の、マット外側の縁部128同士は接着されておらず、ゴムヘッダー120のマット外側端部は開いている。この開口から、本体管路113に挿入されていた詰め物を取り除くことができる。
【0033】
次に、取り付け金具130の接着部となる根元部131をブラスト処理し、根元部131に、接着剤を塗布する。この接着剤としては、例えば、ロード社のケムロック205、ケムロック220(ケムロックは登録商標)等を用いることができる。接着剤乾燥後、根元部131に、密着ゴム層を貼り付ける(圧着する)。密着ゴム層としては、例えば、厚さ0.3mm〜1.0mm程度のEPDM系ゴムを用いることができる。
【0034】
一方、ゴムヘッダー120の接着部となる、上側部材121および下側部材122の外側縁部128の内面を、サンドペーパー等で荒らしておく。そして、密着ゴム層を貼り付けた取り付け金具130を、上側部材121の外側縁部128と、下側部材122の外側縁部128との間に挿入した状態で、金型を用いて加硫接着する(第2の加硫接着工程)。
【0035】
第2の加硫接着工程により、ゴムヘッダー120のマット外側端部が閉じられるとともに、ゴムヘッダー120に取り付け金具130が固定される。このようにして、実施形態による融雪マット100が作製される。
【0036】
次に、
図4(A)および
図4(B)を参照して、比較形態による融雪マット300と、比較形態において生じる課題について説明する。
図4(A)および
図4(B)は、それぞれ、比較形態による融雪マット300の一端近傍を示す概略的な平面図および断面図である。
図4(B)は、
図4(A)のAA線に沿った断面図である。
【0037】
比較形態による融雪マット300の温水マット本体310は、第1実施形態による温水マット本体110と同様なものである。主として取り付け金具330に関する構造が、比較形態と第1実施形態とで異なっている。
【0038】
比較形態の取り付け金具330は、ゴムヘッダー320の上側部材321の中央部326を上側から覆い外側縁部328上まで延在し、さらにマット外側に突出し、全体がマット幅方向の一端から他端に亘って延在して露出する形状となっている。取り付け金具330は、突出部331で軌道に取り付けられる。また、取り付け金具(上側金具)330の下側に、ゴムヘッダー320の下側部材322の中央部326を下側から覆い外側縁部328下まで延在する下側金具332が設けられている。
【0039】
比較形態のゴムヘッダー320は、外側縁部328において、上側部材321と下側部材322とが接着されていない。上側部材321の外側縁部328と下側部材322の外側縁部328とが、取り付け金具(上側金具)330と下側金具332とを介しボルトとナットで圧着されることにより、給排水管路323のマット外側側面が閉じられている。また、この圧着構造により、取り付け金具330および下側金具332が、ゴムヘッダー320に固定されている。
【0040】
なお、比較形態のゴムヘッダー320では、上側部材321の上面に、損傷防止布が設けられていない。
【0041】
比較形態による融雪マット300では、列車がゴムヘッダー320上を通過する際に、列車持ち込み雪の塊が列車と取り付け金具330との間に挟まれることにより、取り付け金具330が変形することがある。取り付け金具330の変形は、塑性的であり持続的なものであるので、その下のゴムヘッダー320の変形も、持続的なものとなる。この変形により、上側部材321と下側部材322との圧着が不良となって給排水管路323が損傷し、温水の漏れが発生することがある。
【0042】
また、比較形態による融雪マット300において、取り付け金具330が、全体がマット幅方向の一端から他端に亘って延在して露出する形状となっていることは、軌道短絡防止の観点から見て、望ましいとはいえない。
【0043】
次に、第1実施形態の融雪マット100により得られる効果について例示的に説明する。本実施形態の融雪マット100では、弾性部材で形成されたゴムヘッダー120が、取り付け金具130に覆われずに、そのまま露出している。このため、列車持ち込み雪の塊が列車とゴムヘッダー120との間に挟まれ、ゴムヘッダー120が変形することがあっても、一時的な弾性変形であるので、元の形状に戻る。
【0044】
また、ゴムヘッダー120の上側部材121と下側部材122の外側縁部128同士が接着されていることにより、給排水管路123が強固に形成されている。このようにして、給排水管路123の損傷が抑制され、温水の漏れが抑制されている。
【0045】
さらに、第1実施形態の融雪マット100では、取り付け金具130の、マット幅方向に延在する根元部131が、ゴムヘッダー120の上側部材121の外側縁部128と、下側部材122の外側縁部128とに挟まれて、覆われている。軌道に取り付けられる部分であり、露出している取り付け部(櫛歯部)132は、マット幅方向に沿って部分的、離散的に配置されている。このような、マット幅方向の一端から他端に亘って延在する金属部材が露出しない構造により、軌道短絡が抑制されている。
【0046】
その他、さらに、第1実施形態の融雪マット100では、ゴムヘッダー120の、上側部材121の上面に、損傷防止布125が設けられている。これにより、ゴムヘッダー120の損傷が抑制されている。
【0047】
次に、
図3を参照して、第2実施形態による融雪マットについて説明する。なお、説明の便宜のため、第1実施形態と対応する部材や構造について、同一の参照符号を流用する。
図3は、第2実施形態の融雪マット100の一端近傍を示す概略的な断面図である。第2実施形態の融雪マットの敷設態様や、概略的な平面構造や、製造方法は、第1実施形態の融雪マットについて説明したものと同様である。第2実施形態では、ゴムヘッダー120の(少なくとも上側部材121の)中央部126の断面形状が、第1実施形態のそれと異なっている。その他の構造は、第1実施形態と同様である。
【0048】
図2(B)に示したように、第1実施形態による上側部材121の中央部126は、外側縁部128側から急激に厚みが増して、中央部126と外側縁部128との境界部に上方側へ突出した角部129を有する形状であり、また、内側縁部127側から急激に厚みが増して、中央部126と内側縁部127との境界部に上方側へ突出した角部129を有する形状である。
【0049】
一方、
図3に示すように、第2実施形態による上側部材121の中央部126は、外側縁部128側からも内側縁部127側からもなだらかに厚みが増して、上方側へ突出した角部を有さない形状である。つまり、第2実施形態のゴムヘッダー120は、上側部材121の給排水管路123周囲を覆う部分の外形形状が、上方側へ突出した角部を有さずに、給排水管路123の両側から給排水管路123の中央部に向かってなだらかに厚みを増す形状となっている。
【0050】
第2実施形態の融雪マット100では、第1実施形態の融雪マットについて説明した効果と同様な効果が得られるとともに、さらに、以下のような効果も得られる。
【0051】
第1実施形態のゴムヘッダー120は、弾性部材が露出する構造となっているものの、持ち込み雪との接触時に、角部129に応力が集中する可能性がある。第2実施形態のゴムヘッダー120は、上述のような曲面的な形状により、持ち込み雪の塊から受ける圧力を分散してゴムヘッダー全体で吸収しやすい。このため、第2実施形態では、融雪マット端部に設けられたヘッダー構造の損傷が、第1実施形態よりもさらに抑制されている。
【0052】
また、第2実施形態のゴムヘッダー120においては、上側部材121が上側に突出した角部を有さない形状であるので、上側部材121の上面に設けられる損傷防止布125を、上側ゴム部材124と一体化するように貼り付けやすい。このため、損傷防止布125をより剥がれにくくできる。
【0053】
以上、実施形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。