(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粒子成長用金属塩水溶液に含まれる金属イオン中のコバルトイオン含有率を40mоl%以下に制御する、請求項1または2に記載のニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
前記板状一次粒子は、平均長径が0.3μm〜1.5μm、平均厚さが0.01μm〜0.50μmである、請求項4〜6のいずれかに記載のニッケルコバルト複合水酸化物粒子。
前記混合工程において、前記リチウム混合物を、該リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和と、リチウムの原子数との比が、1:0.95〜1.50となるように調製する、請求項8に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、前記酸化性雰囲気における酸素濃度を18容量%〜100容量%とする、請求項8〜10のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記混合工程前に、前記ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を、105℃〜750℃で熱処理する、熱処理工程をさらに備える、請求項8〜11のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項13〜15のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、上述の問題に鑑みて、非水電解質二次電池の正極材料として用いた場合に、高い単位質量当たりの電池容量、出力特性およびサイクル特性を達成しつつも、単位体積当たりの電池容量を改善可能な、非水電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)について鋭意検討を重ねた。この結果、正極活物質として、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、二次粒子内部の空隙率がきわめて小さい緻密なニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)を用いることが有効であるとの知見を得た。また、このような複合水酸化物粒子は、晶析反応を、核生成工程と粒子成長工程の2段階に分けて行うとともに、各工程における晶析条件を適切に制御することにより得ることができるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0032】
1.ニッケルコバルト複合水酸化物粒子
(1)ニッケルコバルト複合水酸化物粒子
本発明の複合水酸化物粒子は、一般式(A):Ni
xCo
yMn
zM
t(OH)
2+a(ただし、x+y+z+t=1、0.30≦x≦0.90、0.10≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦t≦0.10、
0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種の添加元素)で表され、板状一次粒子が複数凝集して形成された略球状の二次粒子からなる。特に、本発明の複合水酸化物粒子は、二次粒子の平均粒径が1.00μm〜5.00μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.65以下であり、空隙率が15.0%以下であり、かつ、中心部に高コバルト含有部を有することを特徴とする。
【0033】
(1−a)組成
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。ニッケルの添加量を示すxの値は、0.30以上0.90以下、好ましくは0.30以上0.85以下、より好ましくは0.30以上0.80以下、さらに好ましくは0.30以上0.40以下とする。xの値が0.30未満では、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池の単位体積当たりの電池容量を向上させることができない。一方、0.90を超えると、他の元素の含有量が減少し、その効果を十分に得ることができなくなる。
【0034】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、Coが適正量だけ含有されることにより、正極活物質が良好なサイクル特性を備えたものとなる。Coの含有量を示すyの値は、0.10以上0.40以下、好ましくは0.15以上0.40以下、より好ましくは0.20以上0.40以下とする。yの値が0.10未満では、その効果を得ることができない。一方、yの値が0.40を超えると、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期放電容量が大幅に低下してしまう。
【0035】
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する添加元素である。Mnの含有量を示すzの値は、0以上0.40以下、好ましくは0.05以上0.38以下、より好ましくは0.10上0.35以下とする。zの値が0.40を超えると、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が劣化してしまう。
【0036】
本発明の複合水酸化物粒子では、上述したニッケル、コバルトおよびマンガンに加えて、所定量の添加元素Mを含有させてもよい。これにより、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池の耐久性や出力特性などを向上させることができる。
【0037】
このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される少なくとも1種を用いることができる。これらの添加元素(M)は、得られる正極活物質が使用される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものである。
【0038】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0以上0.10以下、好ましくは0.02以上0.09以下とする。tの値が0.10を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0039】
なお、添加元素Mは、後述するように晶析工程において、ニッケルおよびコバルトとともに晶析させ、複合水酸化物粒子中に均一に分散させることもできるが、晶析工程後、複合水酸化物粒子の表面に添加元素Mを被覆させてもよい。また、混合工程において、添加元素Mを複合水酸化物粒子とともにリチウム化合物と混合することも可能であり、これらの方法を併用してもよい。いずれの方法による場合であっても、上述した一般式(A)の組成となるように、その含有量を制御することが必要となる。
【0040】
(1−b)粒子構造
本発明の複合水酸化物粒子は、
図1に例示されるように、板状一次粒子が複数凝集して形成された略球状の二次粒子からなる。このように、本発明の複合水酸化物粒子は、板状一次粒子が長さ方向のみならず、厚さ方向にも発達しており、厚さの平均値(平均厚さ)に対する長径の平均値(平均長径)の比(アスペクト比)が小さいため、薄い板状一次粒子が凝集して形成された二次粒子と比較すると、粒子内部の空隙率を低い値とすることができる。
【0041】
[空隙率]
複合水酸化物粒子の内部の空隙率は、15.0%以下、好ましくは14.5%以下、より好ましくは13.0%以下、さらに好ましくは12.5%以下であることが必要である。空隙率がこのような範囲にある複合水酸化物粒子は、焼成工程において、焼結による収縮が緩やかなものとなり、二次粒子全体が均一に収縮するため、得られる正極活物質を緻密性の高いものとすることができる。なお、複合水酸化物粒子の空隙率の下限は特に制限されることはないが、焼成工程において、リチウムの拡散を十分に行わせるためには、5.0%以上とすることが好ましく、6.0%以上とすることがより好ましい。
【0042】
また、複合水酸化物粒子の内部の空隙は、粒子全体に均一に分散していることが好ましい。これは、空隙が局所的に偏在した場合、たとえば、複合水酸化物粒子の外周部に比べて、中心部の空隙率が大きい場合、得られる正極活物質が中空化し、正極活物質の充填率を向上させることができなくなるからである。
【0043】
ここで、複合水酸化物粒子の内部の空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される画像(SEM像)を解析することにより求めることができる。たとえば、複数の複合水酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより断面観察が可能な状態でSEM像を撮影し、WinRoof 6.1.1(商品名)などの画像解析ソフトを用いて、空隙を黒色部として検出し、二次粒子の全体の断面積に対する黒色部の面積の割合を算出することにより求めることができる。
【0044】
[高コバルト含有部]
本発明の複合水酸化物粒子は、二次粒子の中心部に、コバルト濃度が高い(コバルト濃度が50%を超える)高コバルト含有部を有する。高コバルト含有部におけるコバルト濃度は、好ましくは70mоl%以上、より好ましくは80mоl%以上、さらに好ましくは90mоl%以上とする。このような高コバルト含有部は、焼成による収縮温度が高く、二次粒子の中心部の焼結による収縮を緩やかなものとすることができるため、得られる正極活物質の緻密性を高いものとすることが可能となる。なお、高コバルト含有部中のコバルトは、焼成時に拡散するため、得られる正極活物質では、高コバルト含有部は存在せず、粒子全体で均一な組成となる。
【0045】
高コバルト含有部は、後述する核生成工程において、核として析出する粒子によって形成されるものであり、その平均径は、2.00μm以下であることが好ましく、1.50μm以下であることがより好ましく、1.20μm以下であることがさらに好ましく、1.00μm以下であることが特に好ましい。高コバルト含有部の平均径が2.00μmを超えると、焼成時に、コバルトが十分に拡散することができず、得られる正極活物質を均一なものとすることができない場合がある。なお、複合水酸化物粒子中の高コバルト含有部は、断面観察時のSEM−EDX分析により確認することができる。また、高コバルト含有部の平均径は、断面観察時に中心部の微細な粒子径を測定することで確認することができる。
【0046】
[板状一次粒子]
a)平均長径
本発明の複合水酸化物粒子を構成する板状一次粒子は、平均長径が、0.3μm〜1.5μmであることが好ましく、0.4μm〜1.4μmであることがより好ましく、0.5μm〜1.0μmであることがさらに好ましい。平均長径が0.3μm未満では、複合水酸化物粒子(二次粒子)中の空隙率を十分に小さくすることができない場合がある。また、二次粒子の中心部に平均長径が0.3μm未満の微細粒子が凝集した核が存在すると、焼成時の収縮量が大きくなり、得られる正極活物質が中空構造となってしまうおそれがある。一方、平均長径が1.5μmを超えると、二次粒子の形状が不定形となり、その球状性(真球度)が損なわれる場合がある。
【0047】
なお、板状一次粒子の平均長径は、空隙率と同様に、SEM像を画像解析することにより測定することができる。この点については、次述する平均厚さについても同様である。
【0048】
b)平均厚さ
板状一次粒子の平均厚さは、0.01μm〜0.50μmであることが好ましく、0.05μm〜0.30μmであることがより好ましく、0.20μm〜0.25μmであることがさらに好ましい。平均厚さが0.01μm未満では、二次粒子の空隙率を十分に小さくすることができないばかりか、焼成時の収縮量が大きくなり、得られる正極活物質が中空構造となるおそれがある。一方、平均厚さが0.50μmを超えると、二次粒子の形状が不定形となり、球状性が損なわれる場合がある。
【0049】
c)アスペクト比
板状一次粒子は、上述した平均長径および平均厚さを有するとともに、アスペクト比が、好ましくは1.5〜4.5、より好ましくは2.0〜4.2、さらに好ましくは2.2〜3.0の範囲に制御される。アスペクト比をこのような範囲に制御することによって、二次粒子内部の空隙率を一層小さくすることができる。
【0050】
(1−c)二次粒子の平均粒径
本発明の複合水酸化物粒子は、二次粒子の平均粒径が、1.00μm以上、好ましくは1.50μm以上、より好ましくは1.80μm以上、さらに好ましくは2.40μm以上となるように制御される。また、5.00μm以下、好ましくは4.00μm以下、より好ましくは3.60μm以下、さらに好ましくは3.00μm以下となるように制御される。これにより、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の平均粒径を、容易に、所望の範囲(1.00μm〜5.00μm)に調整することができる。
【0051】
なお、本発明において、平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0052】
(1−d)粒度分布
本発明の複合水酸化物粒子は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.65以下、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下となるように調整されている。
【0053】
正極活物質の粒度分布は、その前駆体である複合水酸化物粒子の影響を強く受ける。このため、微細粒子や粗大粒子を多く含む複合水酸化物粒子を前駆体とした場合、正極活物質にも微細粒子や粗大粒子が多く含まれることとなり、これを用いた二次電池の安全性、サイクル特性および出力特性を十分に改善することができなくなる。これに対して、複合水酸化物粒子の段階で、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.65以下となるように調整しておけば、これを前駆体とする正極活物質の粒度分布を狭くすることができ、上述した問題を回避することが可能となる。ただし、工業規模の生産を前提とした場合、複合水酸化物粒子として、〔(d90−d10)/平均粒径〕が過度に小さいものを使用することは現実的ではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90−d10)/平均粒径〕の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。
【0054】
なお、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。d10およびd90は、平均粒径と同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0055】
(2)ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応を、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の2段階に分け、各工程におけるpH値や反応雰囲気などの晶析条件を厳密に制御することを特徴とする。特に、本発明においては、核生成工程でコバルトを高濃度で含有する原料水溶液(核生成工程用金属塩水溶液)を使用し、かつ、核生成工程における核の生成量を、粒子成長工程を通じて供給する原料水溶液(粒子成長用金属塩水溶液)の総量に対して、特定の範囲となるように制御することを特徴とする。
【0056】
(2−a)晶析反応
[核生成工程]
核生成工程では、はじめに、この工程における原料となる金属化合物を水に溶解し、金属イオン中のコバルトイオン含有率が70mоl%以上である原料水溶液(核生成用金属塩水溶液)を調製する。同時に、反応槽内に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液と、アンモニア水などのアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給および混合して、液温25℃基準で測定するpH値が12.0〜14.0で、アンモニウムイオンを含む反応前水溶液を調製する。また、反応槽内に、酸素や空気を導入することにより、反応雰囲気を、酸素濃度が10容量%以上の酸化性雰囲気とする。なお、反応前水溶液のpH値はpH計により、アンモニウムイオン濃度はイオンメータにより測定することができる。
【0057】
次に、この反応前水溶液を撹拌しながら、核生成用金属塩水溶液を供給する。これにより、反応槽内には、核生成工程における反応水溶液である核生成水溶液が形成される。この核生成水溶液のpH値は上述した範囲にあるので、核生成工程では、核はほとんど成長することなく、核生成が優先的に起こる。なお、核生成工程では、核生成に伴い、核生成水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、これらの値が特定範囲の一定値に維持されるように制御することが必要となる。
【0058】
このような核生成工程で生成する核は、コバルトを高濃度で含有するものであり、この核が単独で、または、複数凝集することにより、複合水酸化物粒子の高コバルト含有部が形成される。このため、核の平均粒径は、2.00μm以下であることが好ましく、1.50μm以下であることがより好ましく、1.20μm以下であることがさらに好ましく、1.00μm以下であることが特に好ましい。コバルトを高濃度で含有する核の平均粒径が2.00μmを超えると、焼成時に、コバルトが十分に拡散せず、得られる正極活物質の組成が均一なものとならない場合がある。
【0059】
また、核生成工程における核の生成量は、後述する粒子成長工程通じて供給する粒子成長用金属水溶液に含まれる金属元素の総量に対する割合(以下、「核生成率」という)で、4.0mоl%〜11.0mоl%、好ましくは4.0mоl%〜10.0mоl%、より好ましくは4.0mоl%〜8.0mоl%とする。核生成率が、4.0mоl%未満では、核を形成する一次粒子の数が減少するため、得られる複合水酸化物粒子の平均粒径が大きくなる。一方、核生成率が11.0mol%を超えると、生成した核が凝集するため、得られる複合水酸化物粒子の球状性が低下する。なお、核生成工程で生成する核の量は、反応水溶液に供給した粒子成長用金属塩水溶液に含まれる金属化合物の量によって判断することができる。
【0060】
[粒子成長工程]
核生成工程終了後、一旦、すべての水溶液の供給を停止するとともに、反応槽内の核生成水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.5〜12.0に調整する。この際、pH値は、核生成水溶液に、原料となる金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、たとえば、原料として硫酸塩を使用する場合には、硫酸を供給することで調整することができる。また、反応槽内に、窒素などの不活性ガスを導入し、反応雰囲気を、酸素濃度が0.5容量%以下の弱酸化性雰囲気ないしは不活性雰囲気に切り替える。同時に、粒子成長工程における原料となる金属化合物を水に溶解し、少なくともニッケルとコバルトを含有する原料水溶液(粒子成長用金属塩水溶液)を調製する。
【0061】
次に、反応槽内の水溶液を撹拌しながら、粒子成長用金属塩水溶液を供給する。これにより、反応槽内には、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長水溶液が形成される。この粒子成長水溶液のpH値は上述した範囲にあるので、粒子成長工程では、新たな核はほとんど生成せず、核(粒子)の成長が優先的に起こる。なお、粒子成長工程でも、粒子の成長に伴い、粒子成長水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、これらの値が特定範囲の一定値に維持されるように制御することが必要となる。
【0062】
粒子成長工程は、複合水酸化物粒子の粒径が目的とする粒径に達した時点で、各水溶液の供給を停止することにより終了する。粒子成長工程における複合水酸化物粒子の粒径は、予め、核生成工程と粒子成長工程における反応水溶液への金属化合物の添加量と得られる粒子の大きさとの関係を求めておくことで、金属化合物の添加量から容易に判断することができる。
【0063】
このようにして晶析した複合水酸化物粒子を、固液分離し、残留するアルカリカチオンなどの不純物を洗浄除去した後、100℃以上の温度で乾燥することにより、粉末状の複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0064】
(2−b)供給水溶液
[原料水溶液]
原料水溶液(核生成用金属塩水溶液、粒子成長用金属塩水溶液)を調製するための、ニッケル化合物、コバルト化合物およびマンガン化合物は、特に制限されることはないが、取扱いの容易性から、水溶性の硝酸塩、硫酸塩および塩酸塩などを用いることが好ましい。コストやハロゲンの混入を防止する観点から、硫酸塩を好適に用いることが特に好ましい。
【0065】
また、複合水酸化物粒子中に添加元素M(Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種の添加元素)を含有させる場合、添加元素Mを供給するための化合物としては、同様に水溶性の化合物が好ましく、たとえば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。
【0066】
原料水溶液の濃度は、核生成用金属塩水溶液および粒子成長用金属塩水溶液のいずれの場合においても、原料水溶液に含まれる金属化合物の合計で、好ましくは1.0mol/L〜2.2mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.0mol/Lとする。原料水溶液の濃度が1.0mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度が2.2mol/Lを超えると、反応温度が低下した際に、飽和濃度を超え、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
【0067】
ただし、核生成工程における原料水溶液である核生成用金属塩水溶液では、この水溶液に含まれる金属イオン中のコバルトイオン含有率を70mоl%以上、好ましくは80mоl%以上、より好ましくは90mоl%以上とすることが必要となる。コバルトイオン含有率が70mоl%未満では、得られる複合水酸化物粒子の中心部に、コバルト濃度が70mоl%以上の高コバルト含有部を形成することができない。また、核を構成する一次粒子を平均長径が0.3μm以上の板状一次粒子とすることができず、微細一次粒子が凝集した核を生成してしまう。
【0068】
一方、粒子成長工程における原料水溶液である粒子成長用金属塩水溶液では、この水溶液に含まれる金属イオン中のコバルトイオン含有率を、好ましくは40mоl%以下、より好ましくは38mоl%以下、さらに好ましくは35mоl%以下とする。粒子成長用金属塩水溶液に含まれる金属イオン中のコバルトイオン含有率をこのような範囲とすることにより、二次粒子全体における組成を調整できるとともに、板状一次粒子の成長を促進することができ、より空隙率の小さい複合水酸化物粒子を得ることが可能となる。なお、コバルトイオン含有率の下限は、特に制限されることはなく、二次粒子全体の組成との関係で決定される。
【0069】
上述した金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
【0070】
また、原料水溶液の供給量は、粒子成長工程の終了時点で、粒子成長水溶液中の生成物の濃度が、好ましくは30g/L〜200g/L、より好ましくは50g/L〜150g/Lとなるようにする。生成物の濃度が30g/L未満では、一次粒子の凝集が不十分になる場合がある。一方、生成物の濃度が200g/Lを超えると、反応槽内に、核生成用金属塩水溶液または粒子成長用金属塩水溶液が十分に拡散せず、粒子成長に偏りが生じる場合がある。
【0071】
[アルカリ水溶液]
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、20質量%〜50質量%とすることが好ましく、20質量%〜30質量%とすることがより好ましい。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に規制することにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を効率的に得ることができる。
【0072】
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはなく、たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給すればよい。
【0073】
[アンモニウムイオン供給体を含む水溶液]
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液も、特に制限されることはなく、たとえば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。
【0074】
アンモニウムイオン供給体として、アンモニア水を使用する場合、その濃度は、好ましくは20質量%〜30質量%、より好ましくは22質量%〜28質量%とする。アンモニア水の濃度をこのような範囲に規制することにより、揮発などによるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることができる。
【0075】
なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
【0076】
(2−c)反応条件
[pH値]
核生成工程においては、反応水溶液(核生成水溶液)のpH値を、液温25℃基準で、12.0〜14.0、好ましくは12.3〜14.0、より好ましくは12.3〜13.5の範囲に制御することが必要となる。これにより、核の成長を抑制し、核生成を優先させることができるため、この工程で生成する核を均質かつ粒度分布の狭いものとすることが可能となる。これに対して、pH値が12.0未満では、核生成とともに核の成長(粒子成長)が進行するため、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。一方、pH値が14.0を超えると、生成する核が微細になりすぎるため、反応水溶液がゲル化するという問題が生じる。
【0077】
これに対して、粒子成長工程においては、反応水溶液(粒子成長水溶液)のpH値を、液温25℃基準で、10.5〜12.0、好ましくは10.7〜12.0、より好ましくは10.7〜11.8の範囲に制御することが必要となる。これにより、新たな核の生成が抑制され、粒子成長を優先させることができるため、得られる複合水酸化物粒子を均質かつ粒度分布が狭いものとすることが可能となる。これに対して、pH値が10.5未満では、アンモニウムイオン濃度が上昇し、金属イオンの溶解度が高くなるため、晶析反応の速度が遅くなるばかりでなく、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、生産性が悪化する。一方、pH値が12.0を超えると、粒子成長工程中における核の生成量が増加し、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。
【0078】
なお、いずれの工程においても、晶析反応中のpH値の変動幅は、±0.2以内とすることが好ましい。pH値の変動幅が大きい場合、核の生成量と粒子成長の割合が一定とならず、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。
【0079】
また、pH値が12.0の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程または粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。すなわち、核生成工程のpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程のpH値を12.0とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、粒子成長が優先して起こり、粒径分布が狭い複合水酸化物粒子を得ることができる。一方、核生成工程のpH値を12.0とすると、反応水溶液中に成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12.0より小さくすることで、生成した核が成長して良好な複合水酸化物粒子を得ることができる。いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0080】
[反応雰囲気]
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、各工程における反応雰囲気の制御も重要である。すなわち、核生成工程では、反応雰囲気を酸化性雰囲気とし、粒子成長工程では、反応雰囲気を、弱酸化性雰囲気ないしは不活性雰囲気とすることが必要となる。各工程における反応雰囲気をこのようなに制御することで、小粒径かつ粒度分布が狭く、かつ、空隙の少ない構造を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0081】
より具体的には、核生成工程では、反応雰囲気を、酸素濃度が10容量%以上の酸化性雰囲気とすることが必要である。核生成工程における反応雰囲気を、このような酸化性雰囲気とすることで、この工程で生成する核の平均粒径を2.00μm以下とすることができる。これに対して、酸素濃度が10容量%未満では、核の平均粒径が2.00μmを超えてしまい、板状一次粒子からなる核を形成することが困難となる。なお、核生成工程における反応雰囲気中の酸素濃度の上限は、特に制限されることはなく、純酸素雰囲気(酸素濃度:100容量%)とすることも可能である。ただし、酸素濃度の制御のしやすさやコストを考慮すると、反応雰囲気として、大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)を採用することが好ましい。
【0082】
一方、粒子成長工程では、反応雰囲気を、酸素濃度が0.5容量%以下の弱酸化性雰囲気ないしは非酸化性雰囲気とすることが必要である。粒子成長工程における反応雰囲気を、このような雰囲気とすることで、粒子成長水溶液中に存在する一次粒子(核)の成長を促して、平均粒径が1.00μm〜5.00μmで、粒度分布が狭く、かつ、空隙率の小さい二次粒子(複合水酸化物粒子)を得ることができる。なお、このような効果を確実に得るためには、粒子成長工程における反応雰囲気中の酸素濃度を、0.3容量%以下とすることがより好ましく、測定下限以下(測定値において0容量%)の非酸化性雰囲気とすることがさらに好ましい。
【0083】
核生成工程における酸化性雰囲気から、粒子成長工程における弱酸化性雰囲気ないしは非酸化性雰囲気への切り替えは、反応槽内に、窒素などの不活性ガスを流通させること、さらには、反応水溶液を不活性ガスによりバブリングすることにより行うことができる。
【0084】
[アンモニウムイオン濃度]
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3g/L〜25g/L、より好ましくは5g/L〜25g/L、さらに好ましくは5g/L〜15g/Lの範囲内で一定値に保持する。
【0085】
反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が3g/L未満では、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、また、反応水溶液がゲル化しやすくなり、形状や粒径の整った複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。一方、アンモニウムイオン濃度が25g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となる。
【0086】
なお、晶析反応中にアンモニウムイオン濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な複合水酸化物粒子が形成されなくなる。このため、核生成工程と粒子成長工程を通じて、アンモニウムイオン濃度の変動幅を一定の範囲に制御することが好ましく、具体的には、±5g/Lの変動幅に制御することが好ましい。
【0087】
[反応温度]
反応水溶液の温度(反応温度)は、核生成工程と粒子成長工程を通じて、好ましくは20℃以上、より好ましくは20℃〜60℃の範囲に制御することが必要となる。反応温度が20℃未満の場合、反応水溶液の溶解度が低くなることに起因して、核生成が起こりやすくなり、得られる複合水酸化物粒子の平均粒径や粒度分布の制御が困難となる。なお、反応温度の上限は、特に制限されることはないが、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進され、反応水溶液中のアンモニウムイオンを一定範囲に制御するために供給するアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の量が増加し、生産コストが増加してしまう。
【0088】
(2−d)製造設備
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置、たとえば、バッチ反応槽を用いることが好ましい。このような装置であれば、オーバーフロー方式によって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されることがないため、粒度分布が狭い複合水酸化物粒子を効率的に得ることができる。
【0089】
また、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、晶析反応中の反応雰囲気を制御することが必要であるため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を使用することが好ましい。このような装置であれば、核生成工程や粒子成長工程における反応雰囲気を適切に制御することができるため、上述した粒子構造を有し、かつ、粒度分布が狭い複合水酸化物粒子を容易に得ることができる。
【0090】
2.非水電解質二次電池用正極活物質
(1)非水電解質二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、一般式(B):Li
1+uNi
xCo
yMn
zM
tO
2(ただし、−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.30≦x≦0.90、0.10≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦t≦0.10、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子からなる。特に、本発明の正極活物質は平均粒径が1.00μm〜5.00μmであり、粒度分布の広がりを示す〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、かつ、空隙率が2.0%以下であることを特徴とする。
【0091】
(1−a)組成
リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、−0.05以上0.50以下、好ましく0以上0.50以下、より好ましくは0.1以上0.35以下とする。uの値を上記範囲に規制することにより、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および単位体積当たりの電池容量を向上させることができる。これに対して、uの値が−0.05未満では、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない。一方、0.50を超えると、初期放電容量が低下するばかりでなく、正極抵抗も大きくなってしまう。
【0092】
なお、本発明の正極活物質において、ニッケルの含有量を示すxの値、コバルトの含有量を示すyの値、マンガンの含有量を示すzの値および添加元素Mの含有量を示すtの値の範囲およびその臨界的意義は、上述した複合水酸化物粒子と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0093】
(1−b)粒子構造
本発明の正極活物質は、
図4に例示するように、二次粒子内部の空隙率が
0.2%以上であって、2.0%以下、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下であることを特徴とする。このような緻密な中実構造を有する正極活物質を用いて二次電池を構成した場合、正極全体としての正極活物質の充填密度を向上させることができるため、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積当たりの電池容量を飛躍的に向上させることができる。また、このような正極活物質は強度が高く、充放電サイクルの繰り返しによる粒子の破壊が抑制されるため、二次電池のサイクル特性を向上させることも可能となる。
【0094】
なお、空隙率の求め方は、上述した複合水酸化物粒子と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0095】
(1−c)平均粒径
本発明の正極活物質は、平均粒径が、1.00μm以上、好ましくは1.70μm以上、より好ましくは1.80μm以上、さらに好ましくは1.90μm以上に調整される。また
、4.00μm以下
、好ましくは3.50μm以下、
より好ましくは2.60μm以下に調整される。正極活物質の平均粒径がこのような範囲にあれば、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積当たりの電池容量を改善することができるばかりなく、安全性や出力特性などの電池特性を向上させることもできる。これに対して、正極活物質の平均粒径が1.00μm未満では、粒子の形状が不定形となり、正極活物質の充填性が低下するため、単位体積当たりの電池容量を改善することができない。また、安全性が低下するといった問題も生じる。一方、正極活物質の平均粒径が
4.00μmを超えると、電解液との反応面積が減少するため、出力特性を改善することが困難となる。
【0096】
なお、正極活物質の平均粒径とは、上述した複合水酸化物粒子と同様に、体積基準平均粒径(MV)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0097】
(1−d)粒度分布
本発明の正極活物質は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下、好ましくは0.57以下、より好ましくは0.50以下であり、きわめて粒度分布が狭いリチウム複合酸物粒子により構成される。このような正極活物質は、微細粒子や粗大粒子の割合が少なく、これを用いた二次電池は、安全性、サイクル特性および出力特性が優れたものとなる。これに対して、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60を超えると、正極活物質中の微細粒子や粗大粒子の割合が増加する。たとえば、微細粒子の割合が多い正極活物質を用いた二次電池は、微細粒子の局所的な反応に起因して、発熱し、安全性が低下するばかりでなく、微細粒子が選択的に劣化するため、サイクル特性が劣ったものとなる。また、粗大粒子の割合が多い正極活物質を用いた二次電池は、電解液と正極活物質の反応面積を十分に確保することができず、出力特性が劣ったものとなる。
【0098】
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕におけるd10およびd90の意味、ならびに、これらの求め方は、上述した複合水酸化物粒子と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0099】
(1−e)比表面積
本発明の正極活物質は、比表面積が、1.00m
2/g〜5.00m
2/gであることが好ましく、1.00m
2/g〜4.00m
2/gであることがより好ましく、1.40m
2/g〜2.00m
2/gであることがさらに好ましい。比表面積がこのような範囲にある正極活物質は、電解液との反応面積が大きく、これを用いた二次電池の出力特性を改善することができる。これに対して、正極活物質の比表面積が1.00m
2/g未満では、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積を確保することができず、出力特性を十分に向上させることができない場合がある。一方、正極活物質の比表面積が5.00m
2/gを超えると、電解液との副反応によって被膜が形成され、抵抗が増加する場合がある。なお、正極活物質の比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0100】
(2)非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上述した組成、粒子構造、平均粒径および粒度分布を実現できる限り、特に制限されることはない。しかしながら、工業規模の生産を前提とした場合、上述した複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合し、リチウム混合物を得る混合工程と、得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、800℃〜1000℃で焼成する焼成工程とを備える製造方法によって正極活物質を合成することが好ましい。なお、必要に応じて、熱処理工程や仮焼工程などの工程を追加してもよい。
【0101】
(2−a)熱処理工程
本発明の正極活物質の製造方法においては、任意的に、混合工程の前に熱処理工程を設けて、複合水酸化物粒子を熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分を除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換されたニッケルコバルト複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」という)、または、これらの混合物も含まれる。
【0102】
熱処理工程は、複合水酸化物粒子を105℃〜750℃に加熱して熱処理することにより、複合水酸化物粒子に含有される余剰水分を除去する工程である。これにより、焼成工程後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。
【0103】
熱処理工程では、正極活物質中の各金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はない。しかしながら、各金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、複合水酸化物粒子の分解温度以上に加熱して、すべての複合水酸化物粒子を、複合酸化物粒子に転換することが好ましい。
【0104】
熱処理工程における加熱温度は105℃〜750℃、好ましくは120℃〜750℃とする。加熱温度が105℃未満では、複合水酸化物粒子中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができない場合がある。一方、加熱温度が750℃を超えても、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。
【0105】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
【0106】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、複合水酸化物粒子中の余剰水分を十分に除去する観点から、1時間以上とすることが好ましく、5時間〜15時間とすることがより好ましい。
【0107】
(2−b)混合工程
混合工程は、上述した複合水酸化物粒子または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0108】
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mとの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.50、好ましくは1.00〜1.50、より好ましくは1.10〜1.35となるように、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meは変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。
【0109】
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、たとえば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物が、入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0110】
複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサやレーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0111】
(2−c)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、350℃〜950℃、好ましくは400℃〜900℃で仮焼する、仮焼工程を行ってもよい。これにより、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム複合酸化物粒子を得ることができる。
【0112】
なお、上記温度での保持時間は、特に制限されるものではないが、1時間〜24時間とすることが好ましく、2時間〜15時間とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
【0113】
(2−d)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定条件で焼成し、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中にリチウムを拡散させて、リチウム複合酸化物粒子を得る工程である。
【0114】
本発明の正極活物質の製造方法では、この焼成工程において、複合水酸化物粒子または熱処理粒子の高コバルト含有部中のコバルトは粒子全体に拡散しつつ、緩やかに収縮することとなる。この結果、均一な組成を有し、空隙の少ない緻密な正極活物質が合成される。
【0115】
なお、焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程および仮焼工程に用いる炉についても同様である。
【0116】
[焼成温度]
焼成温度は、800℃〜1000℃、好ましくは800℃〜980℃、より好ましくは900℃〜950℃とする。焼成温度が800℃未満では、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物粒子または熱処理粒子が残存したり、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなる。一方、焼成温度が1000℃を超えると、リチウム複合酸化物粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。
【0117】
なお、焼成工程における昇温速度は、3℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、4℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。また、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは2時間〜4時間保持することが好ましい。これにより、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
【0118】
[焼成時間]
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、2時間以上とすることが好ましく、4時間〜24時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物粒子または熱処理粒子が残存したり、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0119】
なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、3℃/分〜8℃/分とすることがより好ましい。冷却速度をこのような範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することを防止することができる。
【0120】
[焼成雰囲気]
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、リチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0121】
(2−e)解砕工程
焼成工程によって得られたリチウム複合酸化物粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、このリチウム複合酸化物粒子の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0122】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0123】
3.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水電解液などの、一般の非水電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0124】
(1)非水電解質二次電池の構成
(1―a)正極
本発明により得られた非水電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水電解質二次電池の正極を作製する。
【0125】
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることが望ましい。
【0126】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることはなく、他の方法を利用してもよい。
【0127】
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0128】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
【0129】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0130】
(1−b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0131】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0132】
(1−c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0133】
(1−d)非水電解液
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0134】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0135】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0136】
さらに、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0137】
(2)非水電解質二次電池
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水電解液で構成される本発明の非水電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0138】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水電解質二次電池を完成させる。
【0139】
(3)特性
本発明の正極活物質は、上述したように、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、粒子内部の空隙率が小さい緻密な構造を備える。このため、本発明の正極活物質を用いた二次電池は、単位体積当たりの電池容量に優れるという評価することができる。具体的には、本発明の正極活物質を用いて正極を構成した場合、単位体積当たりの電池容量と相関する電極密度を、1.320g/m
3以上、好ましくは1.335g/m
3以上、より好ましくは1.340g/m
3以上とすることができる。
【0140】
また、本発明の正極活物質を用いた二次電池は、単位質量当たりの電池用容量、サイクル特性および出力特性にも優れていると評価することができる。たとえば、本発明の正極活物質を用いて、
図9に示すような2032型コイン電池を構成した場合、上記範囲の電極密度とともに、161mAh/g以上、好ましくは163mAh以上の初期放電容量と、1.24Ω以下、好ましくは1.22Ω以下の正極抵抗と、80%以上、好ましくは83%以上の500サイクル容量維持率とを同時に達成することができる。
【実施例】
【0141】
(実施例1)
[複合水酸化物粒子の製造]
複合水酸化物粒子を、以下のようにして作製した。なお、複合水酸化物粒子、正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。また、核生成工程および粒子成長工程を通じて、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(株式会社日伸理化製、NPH−690D)により測定した。この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、核生成工程および粒子成長工程中におけるpH値の変動幅を±0.2の範囲に制御した。
【0142】
a)核生成工程
核生成工程では、はじめに、硫酸コバルトを純水に溶解し、濃度が2.0mоl/L、金属イオン中のコバルトイオン含有率が100mol%である、核生成用金属塩水溶液を調製した。同時に、反応槽(6L)内に純水を900ml入れて、950rpmで撹拌しながら、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と、25質量%のアンモニア水をそれぞれ適量加えて、液温25℃基準におけるpH値が13.0、アンモニウムイオン濃度が10g/Lに調整し、反応前水溶液を調整した。この際、反応槽内の温度を40℃に加温するとともに、空気を5L/minで流通させて、反応槽内を大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)に調整した。
【0143】
次に、反応前水溶液を撹拌しながら、核生成用金属塩水溶液を40ml/minで供給することで、核生成水溶液を形成し、核生成を行った。この際、核生成水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度が維持されるように、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給した。
【0144】
なお、核生成工程は4分間継続し、この工程を通じて160mlの核生成用金属塩水溶液を供給した。これにより、核生成工程における核の生成量が、後述する粒子成長工程を通じて供給する粒子成長用金属塩水溶液に含まれる金属元素の総量に対する割合(核生成率)で、6.7mol%となるように制御した。
【0145】
また、核生成工程で生成した核の一部を採取し、その平均粒径を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した。この結果、核の平均粒径は0.92μmであることが確認された。
【0146】
b)粒子成長工程
核生成工程終了後、一旦、すべての水溶液の供給を停止するとともに、反応槽内に、35質量%の硫酸を供給して、液温25℃基準におけるpHが11.6となるように調整するとともに、窒素ガスを5L/minで流通させて、反応槽内の雰囲気を、酸素濃度が0.4容量%の弱酸化性雰囲気ないしは非酸化性雰囲気に切り替えた。同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、各金属元素のモル比で、Ni:Co:Mn=1:1:1となるように純水に溶解して、濃度が2.0mоl/L、金属イオン中のコバルトイオン含有率が33mol%である、粒子成長用金属塩水溶液を調製した。
【0147】
次に、反応槽内の水溶液を撹拌しながら、粒子成長用金属塩水溶液を10ml/minで供給することで、粒子成長水溶液を形成し、核生成工程で得られた核を成長させた。この際、粒子成長成水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度が維持されるように、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給した。なお、粒子成長工程は240分間継続し、この工程を通じて2400mlの粒子成長用金属塩水溶液を供給した。
【0148】
粒子成長工程終了後、反応槽内に、25質量%のアンモニア水を1ml/minで供給し、晶析反応後の水溶液のアンモニウムイオン濃度を10g/Lに調整した。これにより得られた生成物を水洗、ろ過および乾燥させて、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
【0149】
[複合水酸化物粒子の評価]
得られた複合水酸化物粒子を無機酸により溶解し、ICP発光分光分析法により化学分析を行ったところ、この複合水酸化物粒子は、一般式:Ni
0.31Co
0.38Mn
0.31(OH)
2+a(0≦a≦0.5)で表されるものであることが確認された。また、この複合水酸化物粒子の平均粒径および粒度分布の広がりを示す〔(d90−d10)/平均粒径〕を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出した。この結果、平均粒径は2.49μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕は0.43であることが確認された。
【0150】
次に、この複合水酸化物粒子を、SEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S−4700)を用いて観察(倍率:5000倍)した。この結果、この複合水酸化物粒子は、全体的に板状一次粒子が複数凝集して形成された略球状の二次粒子であり、その粒径は、ほぼ均一に揃っていることが確認された。このSEM観察の結果を
図1に示す。
【0151】
また、この複合水酸化物粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工し、その断面をSEM観察(倍率:10000倍)した。これにより、得られた複合水酸化物粒子を構成する板状の一次粒子は、平均長径が0.7μm、平均厚さが0.23μmであり、空隙率が14.4%であることが確認された。このSEM観察の結果を
図2に示す。
【0152】
[正極活物質の製造]
上述の複合水酸化物粒子に対して、大気乾燥機(ADVANTEC社製、FC−410)を用いて、大気中(酸素濃度:21容量%)、120℃で12時間の熱処理を行うことにより、熱処理粒子を得た(熱処理工程)。
【0153】
この熱処理粒子に、Li/Me=1.14となるように秤量した炭酸リチウムを加えて、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて混合し、リチウム混合物を得た(混合工程)。
【0154】
次に、このリチウム混合物を、焼成炉(ADVANTEC社製、FUM373)を用いて、大気中(酸素濃度:21容量%)、900℃で6時間仮焼した後、950℃で5時間焼成した(仮焼工程、焼成工程)。
【0155】
最後に、室温まで冷却した後、ハンマーミル(IKA社製、MF−10)により解砕し、正極活物質を得た(解砕工程)。
【0156】
[正極活物質の評価]
得られた正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO)を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、この正極活物質は、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケルコバルト複合酸化物単相からなることが確認された。また、得られた正極活物質を無機酸により溶解し、ICP発光分光分析法により化学分析を行ったところ、この正極活物質は、一般式:Li
1.14Ni
0.31Co
0.38Mn
0.31O
2で表されるものであることが確認された。さらに、この正極活物質の平均粒径および粒度分布の広がりを示す〔(d90−d10)/平均粒径〕を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した体積積算値から算出した。この結果、平均粒径は2.58μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕は0.43であることが確認された。
【0157】
次に、この正極活物質をSEM観察(倍率:5000倍)したところ、この正極活物質は、板状一次粒子が複数凝集して形成された略球状の二次粒子であり、その粒径は、ほぼ均一に揃っていることが確認された。このSEM観察の結果を
図3に示す。
【0158】
また、この正極活物質を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工し、その断面をSEM観察(倍率:10000倍)した。この結果、この正極活物質の内部の空隙率は0.9%であることが確認された。このSEM観察の結果を
図4に示す。
【0159】
最後に、この正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製マルチソーブ)を用いて比表面積を求めたところ、1.40m
2/gであることが確認された。以上の結果を表3に示す。
【0160】
(実施例2)
核生成工程における核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で240mlとし、核生成率が10.0mоl%となるように制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0161】
(実施例3)
核生成工程における核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で100mlとし、核生成率が4.2mоl%となるように制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0162】
(実施例4)
核生成工程において、核生成用金属塩水溶液として、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、各金属元素のモル比で、Ni:Co:Mn=2:7:1となるように純水に溶解した、濃度が2.0mоl/L、金属イオン中のコバルトイオン含有率が70mol%である水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0163】
(実施例5)
核生成工程における核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で140mlとし、核生成率が5.8mоl%となるように制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0164】
(実施例6)
核生成工程において、核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で250mlとし、核生成率が10.4mоl%とすることにより、生成する核の平均粒径を1.20μmに制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0165】
(実施例7)
核生成工程において、反応槽内の雰囲気を、酸素濃度が10容量%の酸化性雰囲気に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0166】
(比較例1)
核生成工程における核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で300mlとし、核生成率が12.5mоl%となるように制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0167】
(比較例2)
核生成工程における核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で40mlとし、核生成率が1.7mоl%となるように制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0168】
(比較例3)
核生成工程において、核生成用金属塩水溶液として、粒子成長用金属塩水溶液と同様の組成を有する水溶液を使用したこと、核生成工程における核生成用金属塩水溶液の供給量を合計で80mlとし、核生成率が3.3mоl%となるように制御したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2、
図5および
図6に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3、
図7および
図8に示す。
【0169】
(比較例4)
核生成工程において、核生成用金属塩水溶液として、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、各金属元素のモル比で、Ni:Co:Mn=2:6:2となるように純水に溶解した、濃度が2.0mоl/L、金属イオン中のコバルトイオン含有率が60mol%である水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0170】
(比較例5)
核生成工程において、反応槽内の雰囲気を、酸素濃度が8容量%の酸化性雰囲気に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0171】
(比較例6)
核生成工程において、核生成用金属塩水溶液として、粒子成長用金属塩水溶液と同様の組成を有する水溶液を使用したこと、および、核生成工程および粒子成長工程の反応雰囲気を、いずれも酸素濃度が2.0容量%の酸化性雰囲気としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得て、その評価を行った。この結果を表2に示す。また、この複合水酸化物粒子を前駆体とし、実施例1と同様にして、正極活物質を得て、その評価を行った。この結果を表3に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
【表3】
【0175】
(実施例8、比較例7)
実施例1〜7および比較例1〜6で得られた正極活物質を用いた二次電池について、以下のa)〜d)の特性を評価した。
【0176】
a)単位体積当たりの電池容量
単位体積当たりの電池容量は、上述したように正極活物質の充填密度、すなわち、正極の電極密度と相関するため、この値を測定することにより評価した。
【0177】
はじめに、正極活物質:20gと、アセチレンブラック:2.353gと、PVDF溶液4mlとNMP:5mlを混合し、混練機(株式会社シンキー製、あわとり練太郎 ARE−310)により粗混合物を作製した後、さらにPVDFとNMPを添加し、粘度が6000PS〜8000PSの正極合材ペーストを作製した。
【0178】
この正極合材ペーストを、塗工機(TQC社製、自動フィルムアプリケータ KT−AB3125)により、アルミニウム箔製の集電体の表面に66mm幅で塗布した後、溶剤を乾燥除去した。この際、乾燥後の電極の単位面積当たりの質量が15±0.2mg/cm
2となるように調整した。その後、ロールプレス機(テスター産業株式会社製、SA−602)を用いて3tで加圧することによってシート状に加工し、電極打抜き機を用いて所定形状に打抜いた。最後に、再度120℃で乾燥することにより、正極を得た。
【0179】
この正極の厚さをダイヤルゲージにより測定し、測定値から集電体の厚さを差し引くことにより正極合材層の厚さを算出した。また、正極合材層の面積および質量(正極の全重量から集電体の質量を差し引いたもの)を測定し、これらの値から正極(正極合材層)の電極密度を求めた。
【0180】
b)単位質量当たりの電池容量
単位体積当たりの電池容量については、実施例1〜7および比較例1〜6で得られた正極活物質を用いて、
図9に示すような2032型コイン電池を作製し、その初期放電容量を測定することにより評価した。
【0181】
はじめに、正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTFE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極(1)を作製した。
【0182】
次に、この正極(1)を用いて2032型コイン電池(B)を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池の負極(2)には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータ(3)には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお、2032型コイン電池(B)は、ガスケット(4)を有し、正極缶(5)と負極缶(6)とでコイン状の電池に組み立てられたものである。
【0183】
2032型コイン電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。この際、充放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0184】
c)出力特性
出力特性は、充電電位4.1Vで充電した2032型コイン電池を用いて、交流インピーダンス法により抵抗値を測定することにより評価した。なお、測定には、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製)を使用した。この測定により、
図10に示すナイキストプロットを得た。このプロットは、溶液抵抗、負極抵抗と容量および正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表されており、等価回路を用いてフィッティング計算することにより、正極抵抗の値を算出した。
【0185】
d)サイクル特性
サイクル特性は、上述した充放電試験を繰り返し行い、初期放電容量に対する500回目の放電容量を測定し、500サイクル容量維持率を算出することにより評価した。これらの結果を表4に示す。
【0186】
【表4】
【0187】
(評価)
表1〜3より、本発明の技術的範囲に属する実施例1〜7の複合水酸化物粒子および正極活物質は、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、二次粒子内部の空隙率が小さい緻密な構造を有していることが理解される。また、表4より、このような正極活物質を正極材料として用いた2032型コイン電池では、電極密度、初期放電容量、正極抵抗および500サイクル容量維持率のいずれも良好な値を示していることが理解される。
【0188】
これに対して、比較例1〜6は、核生成率、核生成用金属塩水溶液に含まれる金属イオン中のコバルトイオン含有率および反応雰囲気のうち少なくとも1つが、本発明に規定する範囲から外れる例である。このため、比較例1〜6で得られた複合水酸化物粒子または正極活物質は、平均粒径、粒度分布の広がりを示す〔(d90−d10)/平均粒径〕および空隙率のうち少なくとも1つは、本発明に規定する範囲から外れていることが理解される。また、これらの比較例の2032型コイン電池では、電極密度、初期放電容量、正極抵抗および500サイクル容量維持率の少なくとも1つが好ましい範囲から外れており、これらの特性のすべてを、同時に改善できないことが理解される。