(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358150
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】インジウムメタルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 58/00 20060101AFI20180709BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20180709BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20180709BHJP
C25C 3/34 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
C22B58/00
C22B3/10
C22B3/46
C25C3/34 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-74688(P2015-74688)
(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公開番号】特開2016-194120(P2016-194120A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永澤 利文
(72)【発明者】
【氏名】南 千秋
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−248370(JP,A)
【文献】
特開2012−052215(JP,A)
【文献】
特開昭59−193230(JP,A)
【文献】
特開2006−348340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 58/00,
C25C 1/22,3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム含有原料に塩酸を添加し、インジウム含有の浸出液を得る浸出液製造工程と、
該浸出液に亜鉛を添加し置換反応によりインジウム置換析出物を得るセメンテーション工程と、
該インジウム置換析出物を熔解して粗インジウムを得る熔解工程と、
該粗インジウムを電解精製してインジウムメタルを得る電解精製工程と、を含むインジウムメタルの製造方法であって、
前記セメンテーション工程の後に、前記インジウム置換析出物を低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とに分別し、
前記熔解工程で、前記インジウム置換析出物の前記低亜鉛インジウム析出物を熔解し、
前記高亜鉛インジウム析出物を、塩酸により溶解し、
前記セメンテーション工程のセメンテーション始液に混合する、
ことを特徴とするインジウムメタルの製造方法。
【請求項2】
前記セメンテーション工程で亜鉛を添加する前の浸出液中に含まれるインジウムの重量から、前記セメンテーション工程で亜鉛を添加した後の浸出液中に含まれるインジウムの重量を引いた測定重量と、
前記セメンテーション工程で添加する亜鉛の重量から算出するインジウムの理論重量と、から導かれる比率により、
前記インジウム置換析出物を、前記低亜鉛インジウム析出物と、前記高亜鉛インジウム析出物とに分別する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインジウムメタルの製造方法。
【請求項3】
前記測定重量が前記理論重量の85%未満の比率である場合に、前記インジウム置換析出物を高亜鉛インジウム析出物とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のインジウムメタルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムメタルの製造方法に関し、より詳しくは、亜鉛品位の低くした粗インジウムを用いたインジウムメタルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の透明導電膜の材料などとして用いられるインジウムは、鉛や亜鉛鉱物に微量に含有されており、鉛や亜鉛を製錬する際の副産物として産出する。また、廃棄された電子機器や電子部品、またはこれらの製造工程で発生したスクラップなどから回収することも行われている。上記の副産物やスクラップなどのインジウム含有原料は、スズ、亜鉛その他の多種多様な不純物を含有しているので、不純物を分離して精製し、インジウムを濃縮することが必要である。
【0003】
インジウムの精製方法として、例えば特許文献1に示した方法がある。この方法は、亜鉛、カドミウムの精製工程において発生するインジウムとカドミウムを含む中間物に少量の水を加えてスラリー状とし、該スラリーを撹拌しつつ、これに塩酸を該スラリーのpHを1.2以下に保持しながら添加し、反応終了後少なくとも1時間撹拌したのち静置し、生成した沈殿を分離する第1工程と、第1工程で得られた沈殿に塩酸を加えて溶解し、不溶解残渣を分離した水溶液にアルカリを加えpH0.5〜1.2としたのち、該水溶液中のインジウムに対し0.9〜1.1当量の亜鉛・カドミウム合金の粉末または純度の良い亜鉛の粉末を加えて置換反応を行い、析出するインジウムを回収する第2工程とを有することを特徴とする亜鉛、カドミウム精製中間物よりインジウムを回収する方法である。
【0004】
また特許文献2には、インジウム亜鉛酸化物(IZO)含有スクラップから、電解精製に好適な純度を有する粗インジウムを効率よく、かつ経済的なコストで回収する方法が示されている。具体的には、粉状のインジウム亜鉛酸化物含有スクラップを塩酸で浸出し浸出液を得る工程と、前記浸出液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH調整する工程と、pH調整後の浸出液に、アルミニウム板を用いた置換剤を浸漬し、スポンジ状インジウムを置換析出させる工程と、前記スポンジ状インジウムに、水酸化ナトリウムを添加して融解し、粗インジウムを得る工程からなる方法である。
【0005】
また特許文献3には、インジウムスズ酸化物(ITO)ターゲットスクラップから、電解精製に好適な純度を有する粗インジウムを高収率で効率よく回収する方法が示されている。具体的には、粉砕したITOターゲットスクラップを塩酸で浸出し、次いで不溶解残渣を分離して浸出液を得る工程と、前記浸出液に、該浸出液中のスズに対し置換還元反応の化学量論量で2〜5当量にあたる亜鉛末を添加し、スポンジインジウム(1)と還元析出された、インジウムより貴な不純物金属固形分の懸濁液とを形成し、スポンジインジウム(1)を分離回収した後、塩化インジウム水溶液を得る工程と、前記塩化インジウム水溶液に、アルミニウムを接触させ、スポンジインジウム(2)を得る工程と、前記スポンジインジウム(1)とスポンジインジウム(2)に、水酸化ナトリウムを混合した後、加熱融解し、粗インジウムを得る工程からなるものである。
【0006】
上記の各方法を用いてインジウムを精製した場合、インジウム原料中に含まれている不純物の種類や物量によって、インジウムの回収が影響を受ける場合がある。例えば金属亜鉛粉末を用いた置換反応(セメンテーション反応)では、使用される金属亜鉛粉末の量を電気化学的に必要な理論量よりも過剰に添加しないとインジウムを十分に回収できない場合がある。
【0007】
しかし、過剰に添加された亜鉛は、反応せずに残留し、そのまま置換反応で析出したインジウム中に含有されるので、インジウムを全量回収するようにすると、亜鉛品位の高いインジウムスポンジとなる課題があった。
【0008】
得られたインジウムスポンジは水酸化ナトリウムを混合して加熱し、アルカリ溶融して亜鉛を含む不純物をソーダスラグとして分離することで粗インジウムを得、この粗インジウムをアノードとして電解精製し、カソード上にインジウムメタルを電着することで高純度なインジウムメタルを得る。
【0009】
しかしながら、高亜鉛インジウムスポンジを、上記のアルカリ溶融により、亜鉛を含む不純物をソーダスラグとして分離し、粗インジウムとすると、粗インジウム中に亜鉛が残る。亜鉛が残った粗インジウムをアノードとして電解精製すると、電着したインジウムに亜鉛が残り、電着したインジウムに水酸化ナトリウムを混合して、インジウムと共に亜鉛を、ソーダスラグとして除去するとインジウムの収率が低下するという課題がある。
【0010】
また、電解液中に粗インジウム中の亜鉛が蓄積されるため、電着したインジウム中の亜鉛品位が上昇し、更に収率が低下する。
【0011】
このため、粗インジウム中の亜鉛を3重量%、好ましくは1重量%以下の品位に抑制する必要がある。
【0012】
一方で、インジウムスポンジの品質低下を防ぐために亜鉛添加量を抑制するとセメンテーション反応が不十分となり、未回収で残留するインジウムが増加して収率が低下するなど好ましくない影響がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平4−75291号公報
【特許文献2】特開2008−214693号公報
【特許文献3】特開2009−191309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑み、インジウム置換析出物から製造される粗スポンジの亜鉛の品位を低減しながら、インジウムの高収率で回収することができるインジウムメタルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明のインジウムメタルの製造方法は、インジウム含有原料に塩酸を添加し、インジウム含有の浸出液を得る浸出液製造工程と、該浸出液に亜鉛を添加し置換反応によりインジウム置換析出物を得るセメンテーション工程と、該インジウム置換析出物を熔解して粗インジウムを得る熔解工程と、該粗インジウムを電解精製してインジウムメタルを得る電解精製工程と、を含むインジウムメタルの製造方法であって、セメンテーション工程の後に、インジウム置換析出物を低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とに分別し、熔解工程で、インジウム置換析出物の低亜鉛インジウム析出物を熔解
し、高亜鉛インジウム析出物を、塩酸により溶解し、セメンテーション工程のセメンテーション始液に混合することを特徴とする。
第
2発明のインジウムメタルの製造方法は、第1発
明において、セメンテーション工程で亜鉛を添加する前の浸出液中に含まれるインジウムの重量から、セメンテーション工程で亜鉛を添加した後の浸出液中に含まれるインジウムの重量を引いた測定重量と、セメンテーション工程で添加する亜鉛の重量から算出するインジウムの理論重量と、から導かれる比率により、インジウム置換析出物を低亜鉛インジウム析出物と、高亜鉛インジウム析出物とに分別することを特徴とする。
第
3発明のインジウムメタルの製造方法は、第
2発明において、測定重量が理論重量の85%未満の比率である場合に、インジウム置換析出物を、高亜鉛インジウム析出物とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明によれば、セメンテーション工程で得られたインジウム置換析出物を、低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とに分別し、熔解工程でインジウム置換析出物の低亜鉛インジウム析出物を熔解することにより、低亜鉛インジウム析出物から亜鉛品位の低い粗インジウムを製造することができ、これを用いてインジウムメタルを製造するので、高効率に亜鉛品位の低いインジウムメタルを得ることができる。
また、高亜鉛インジウム析出物を、セメンテーション工程でセメンテーション始液に混合することにより、高亜鉛インジウム析出物に含まれるインジウムが繰り返して用いられ、インジウムの回収率を上げることができる。また、高亜鉛インジウム析出物を、塩酸により溶解することにより、未反応の亜鉛を溶解でき、亜鉛をそのまま置換反応の析出物に混在させることが防止できる。さらに固体を溶解して分析するのと比較すると、分析作業を比較的容易に、かつ迅速に行うことができる。
第
2発明によれば、セメンテーション工程での亜鉛添加前後において測定された、浸出液中のインジウム重量の差である測定重量と、添加される亜鉛の重量から算出されるインジウムの理論重量と、から導かれる比率により、インジウム置換析出物を、低亜鉛インジウム析出物と、高亜鉛インジウム析出物とに分別することにより、固体であるインジウム置換析出物を直接測定する場合と比較して、容易にインジウム置換析出物を低亜鉛インジウム析出物と、高亜鉛インジウム析出物とに分別することができる。これにより、低亜鉛インジウム析出物から亜鉛品位の低い粗インジウムを製造でき、これを用いてインジウムメタルを製造できるので、高効率に亜鉛品位の低いインジウムメタルを得ることができる。
第
3発明によれば、測定重量が、理論重量の85%未満の比率である場合に、インジウム置換析出物を高亜鉛インジウム析出物とすることにより、粗インジウムの亜鉛品位を低くすることができ、純度99.99重量%のインジウムメタルを高効率に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るインジウムメタルの製造方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施形態に係るインジウムメタルの製造法を図面に基づき説明する。
本発明は、浸出液製造工程と、セメンテーション工程と、熔解工程と、電解精製工程とを含むインジウムメタルの製造方法であって、セメンテーション工程で得られるインジウム置換析出物を低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とに分別し、熔解工程で、インジウム置換析出物の低亜鉛インジウム析出物を熔解する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るインジウムメタルの製造方法の流れ図である。本発明のインジウムの製造方法は、従来からの公知な方法と同様に、インジウムを含有する原料、例えばインジウムとスズの酸化物(ITO)やインジウムと亜鉛の酸化物(IZO)のスクラップ等、に塩酸溶液を加えて、溶解しインジウムを含有する浸出液を得る(浸出液製造工程)。
【0020】
このとき、浸出液中にスズが含まれる場合には、浸出液にインジウムメタルを添加し、置換反応を生じさせて、スズを析出し浸出液から分離する。
【0021】
次に浸出液に亜鉛粉末を添加することで、浸出液中ではインジウムと亜鉛との置換反応を進行させ、インジウムスポンジとしてインジウム置換析出物を得る。このインジウム置換析出物を、粉末状で回収する(セメンテーション工程)。
【0022】
ここで亜鉛は、理論量よりも少ない量が添加され、得られたインジウム析出物を除去した後、更に金属亜鉛粉末を添加し段階的操作を繰り返して、インジウムを徐々に回収する。
【0023】
添加する亜鉛と、インジウムスポンジ中の亜鉛品位については、浸出液中に含まれる不純物、攪拌や添加する亜鉛の粒径などによる影響もあるものの、亜鉛を添加し始めた当初に析出したインジウムスポンジ中の亜鉛品位は低く、インジウムを析出し終わるのに必要な当量の亜鉛を添加し終わる頃に析出したインジウムスポンジ中の亜鉛品位は高い傾向がある。
【0024】
本発明では、得られたインジウムスポンジ、すなわちインジウム置換析出物を亜鉛品位の高低で2種類に分別し、低い亜鉛品位と判断されるインジウムスポンジ(本明細書で「低亜鉛インジウム析出物」と称する)は、後述する次の熔解工程で使用する。そして高い亜鉛品位と判断されるインジウムスポンジ(本明細書で「高亜鉛インジウム析出物」と称する)は塩酸を加えて溶解し、得られた浸出液を、上述の亜鉛を添加する置換反応を生じるセメンテーション工程に繰り返して添加する。前述したように純度99.99重量%のインジウムメタルを効率的に得るようにするためには、粗インジウムの亜鉛品位を3重量%以下、好ましくは1重量%以下とすることが必要であるので、低亜鉛インジウム析出物と、高亜鉛インジウム析出物との分別は、セメンテーション工程での亜鉛添加前後の浸出液中に含まれるインジウムの重量の差である測定重量と、セメンテーション工程で添加された亜鉛の重量から算出されるインジウムの理論重量と、から導かれる比率により行われる。この比率は測定重量が理論重量の85%とする。
【0025】
得られた高亜鉛インジウム析出物は、固体のままで置換工程に直接繰り返せばいいようにも思われる。しかしながら、固体のままで繰り返した場合、亜鉛粉末の表面にはインジウムが析出しており、亜鉛の反応性が著しく低下している。その結果繰り返された高亜鉛インジウム析出物が置換反応に十分作用せず、すなわち亜鉛を含有したまま、未反応のまま再度インジウムとともに沈殿してしまうなど、好ましくない。
【0026】
本実施形態では、塩酸で完全に再溶解した溶解液として添加することで未反応の亜鉛が溶解され、亜鉛がそのまま置換反応の析出物に混在されることが防止できる。また、工程管理で液体を分析する作業は、固体を溶解して分析するのと比較すると、容易かつ迅速に行われ、連続化や自動化を容易に行うことができる。このため、液体とされた場合は、工程管理で分析値を待つことで工程を止めることがなく、生産効率の低下が防止できると共に高品質なインジウム置換析出物を確実に得ることができるという利点がある。
【0027】
セメンテーション工程のインジウム置換析出物の亜鉛品位は、析出したインジウム置換析出物の一部を用い、それを酸溶解してICPによる化学分析により測定するのが直接的な方法である。しかし、この方法においては、スポンジメタルを酸に溶解するのに時間がかかるため、工程管理で分析結果を待つために工程を止めることとなり、生産効率が低下する。そこで本発明では、置換処理に伴う浸出液のインジウム濃度の減少程度から、析出するインジウムスポンジの亜鉛品位を推定し、これに基づいてインジウム置換析出物を分別する方法が用いられている。
【0028】
具体的には、セメンテーション工程で亜鉛を添加する前の浸出液中に含まれるインジウムの重量を測定し、次いで同工程で亜鉛を添加した後の浸出液中に含まれるインジウムの重量を測定する。そして添加する前のインジウムの重量から添加した後のインジウムの重量を引き、その値を測定重量とする。
【0029】
次に、溶液中に存在するインジウムイオンに亜鉛メタルを添加してインジウムを置換析出する数1に示す関係から、添加した亜鉛の重量を元にしてインジウム置換析出物の理論重量を算出する。
【0030】
[数1]
3Zn
0+2In
3+ → 3Zn
2++2In
【0031】
理想的には、測定重量と理論重量は等しくなる。すなわち算出された理論重量に相当するだけのインジウムが、浸出液(セメンテーション始液)から減少する。しかし亜鉛との反応効率の低下などの原因により必ずしも添加した亜鉛が、全て反応に関与できるとは限らない。このため添加した亜鉛のうち、反応しなかった亜鉛は、固体のまま沈殿してインジウムスポンジと混在し、その結果、インジウムスポンジでの不純物となる。
【0032】
本発明者は、測定重量が、理論重量の85%以上の場合、すなわち理論重量の85%以上となるのに相当するだけ、浸出液中のインジウム濃度が減少した場合には、得られたインジウムスポンジ中の亜鉛品位は3重量%未満と充分に低くなり、インジウムメタルの品質への影響は問題とならないことを見出した。
【0033】
同時に、測定重量が、理論重量の85%未満となる程度しか浸出液のインジウム濃度が減少しなかった場合は、得られたインジウムスポンジ中の亜鉛品位は3重量%以上となって、インジウムメタルの品質への影響が懸念される状態となることを見出した。
【0034】
セメンテーション工程で得られたインジウム置換析出物を、低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とに分別して、熔解工程でインジウム置換析出物の低亜鉛インジウム析出物を熔解することにより、亜鉛品位の低いインジウムスポンジを利用してインジウムメタルを製造するので、高効率に亜鉛品位の低いインジウムメタルを得ることができる。
【0035】
亜鉛品位が3重量%以上を超えた高亜鉛インジウム析出物は、一括して溶解され繰り返しても良いが、亜鉛品位別に更に2以上の段階に分別し、亜鉛品位の高いインジウムスポンジから先に溶解し、繰り返す方法を用いてもよい。
【0036】
亜鉛品位が3重量%未満の低亜鉛インジウム析出物は、水酸化ナトリウムを加えて加熱することで熔解する。そして熔解した状態で不純物がソーダスラグとして除去して粗インジウムを得る(熔解工程)。さらに得られた粗インジウムをアノードにして電解精製することで、カソード上に高純度インジウムを析出させる(電解精製工程)。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
図1に示すフローに従い、インジウムスズ酸化物(ITO)ターゲットのスクラップを原料とし、この原料を塩酸で溶解し、得られた浸出液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH調整した後、インジウム板を浸漬した。これにより銅、タングステン、鉛、スズなどの不純物を分離した。この時点の溶液のインジウム濃度は107g/Lだった。この溶液はセメンテーション始液とされて、段階的に亜鉛粉末を添加し置換反応(セメンテーション反応)に付され、前期に置換析出した低亜鉛インジウム析出物と、後期に置換析出した高亜鉛インジウム析出物とを得た。
【0038】
なお、低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とは、亜鉛を断続的に添加する中で逐次析出物を回収することにより得た。得られたインジウム置換析出物を、セメンテーション工程で添加される亜鉛の重量から算出されるインジウムの理論重量の85%を閾値として区分した。
【0039】
前期に測定された測定重量は、添加した亜鉛重量から求められたインジウムの理論重量の92.2〜97.4%であり、これは低亜鉛インジウム析出物とした。一方、後期に測定された測定重量は、添加した亜鉛重量から求められたインジウムの理論重量の57.0%であり、これは高亜鉛インジウム析出物とした。
【0040】
得られたインジウム置換析出物には、各々固体状の水酸化ナトリウムを添加し、加熱、熔解し、浮上したソーダスラグは不純物として除去し、粗インジウムを得た。
【0041】
前期に置換析出した低亜鉛インジウム析出物から得た粗インジウム中には亜鉛が0.01重量%以下、後期に置換析出した高亜鉛インジウム析出物から得た粗インジウム中には亜鉛が3.7重量%含まれていた。
【0042】
高亜鉛インジウム析出物を塩酸で溶解し、得られた溶解液はセメンテーション工程のセメンテーション始液と混合し、置換反応に供した。
【0043】
低亜鉛インジウム析出物から得た、亜鉛品位が0.01重量%以下であった粗インジウムはアノードとして電解槽に装入し、チタン板をカソードとし、公知の方法を用いて通電し電解精製してカソード上にインジウムメタルを電析させた。通電終了後、カソードを引き揚げ、電着物を剥ぎ取り、洗浄、乾燥した。これを、分析すると99.8重量%の純度の電着インジウムメタルであることが確認された。この電着インジウムに水酸化ナトリウム固体を添加、加熱し、浮上したソーダスラグを不純物として除去した精製インジウムメタルを得た。この精製インジウムメタルを回収して分析すると純度99.99重量%のインジウムメタルであった。
【0044】
(比較例1)
上記実施例1の高亜鉛インジウム析出物から得られた粗インジウムをアノードとして、電解精製しカソード上にインジウムメタルを得た。このインジウムメタルを回収して分析すると純度は97.5重量%であった。この電着インジウムに水酸化ナトリウム固体を添加、加熱し浮上したソーダスラグを不純物として除去した精製インジウムメタルを得た。この精製インジウムメタルを回収して分析すると、純度は99.99重量%を越えることがなく、電子材料用途に用いるための要件が満たされないことが分かった。
【0045】
以上のように、インジウムメタルの製造方法において、セメンテーション工程で得られたインジウム置換析出物を、低亜鉛インジウム析出物と高亜鉛インジウム析出物とに分別し、熔解工程でインジウム置換析出物の低亜鉛インジウム析出物を熔解することにより、亜鉛品位の低いインジウムスポンジを利用してインジウムメタルを製造できるので、高効率に亜鉛品位の低いインジウムメタルが得られることが確かめられ、ひいては電子材料に用いることができる99.99重量%の純度を持つ高純度インジウムメタルを得ることが出来ることが確かめられた。