【実施例】
【0040】
(導電性樹脂組成物の評価)
組成の異なる16種の導電性樹脂組成物の試料1〜16を形成し、体積抵抗率(Ohm・cm)、ムーニー粘度、ショアA硬度、及び低温(−30℃)下における弾性率(MPa)ついてそれぞれ評価した。その後、導電性樹脂組成物の試料1〜16を押出成形により芯線に被覆して電極線を形成し、電極線の外観である押出外観について評価した。
【0041】
ムーニー粘度は、JIS K6300−1に準拠した方法により180℃にて測定した。7分余熱、4分後の値(ML
7+4(180℃))をムーニー粘度とした。体積抵抗率は、シート状に成形した導電性樹脂組成物の試料1〜16に対して、JIS K7194に準拠する方法(四端子四探針法)により測定した。ショアA硬度は、シート状に成形した導電性樹脂組成物の試料1〜16に対して、ASTM D2240に準拠する方法により測定した。低温弾性率は、JIS K7244−4に準拠する方法により、周波数10Hz、−30℃にて測定した。
【0042】
押出外観の評価に用いた電極線は、26AWGの銀めっき軟銅線の撚り線である芯線を導電性樹脂組成物の試料1〜16からなる導電体で被覆した構造を有し、その外径は1.0mmである。
【0043】
以下の表1、2に、試料1〜16の導電性樹脂組成物の組成、及び試料1〜16についての各評価の結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1、2の上段は、各試料の導電性樹脂組成物に含まれるカーボン、結晶性ポリオレフィン、プロセスオイル、及びスチレン系熱可塑性エラストマの質量(kg)を表す。また、表1、2の中段は、各試料の導電性樹脂組成物中の材料の合計質量(kg)、カーボン濃度(質量%)、カーボンの質量に対する結晶性ポリオレフィンの質量の比、結晶性ポリオレフィンとカーボンの合計の濃度(質量%)、及びプロセスオイル濃度(質量%)を表す。
【0047】
カーボンとしてのケッチェンブラックEC600JDは、ケッチェンブラック・インターナショナル株式会社製のカーボンブラックである。結晶性ポリオレフィンとしてのウェルネックスRGF4VMは、日本ポリプロ株式会社製のリアクタブレンド型ポリプロピレンであり、密度が0.89g/cm
3、MFR(Melt Flow Rrate)が6.0g/10min、曲げ弾性率が280MPaである。結晶性ポリオレフィンとしてのPM580Xは、サンアロマー株式会社製のブロックポリプロピレンであり、密度が0.9g/cm
3、MFRが5.0g/10min、曲げ弾性率が1300MPaである。プロセスオイルとしてのルーカントHC−40は、三井化学株式会社製のエチレン−αオレフィン共重合オリゴマーであり、100℃における動粘度が40mm
2/sである。プロセスオイルとしてのPW−380は、出光興産株式会社製の鉱物油であり、ナフテン成分が27%、パラフィン成分が73%、動粘度が30mm
2/sである。スチレン系熱可塑性エラストマとしてのセプトン4055は、株式会社クラレ製のSEEPSであり、スチレン成分が30%、分子量が13万である。スチレン系熱可塑性エラストマとしてのセプトン4099は、株式会社クラレ製のSEEPSであり、スチレン成分が30%、分子量が32万である。酸化防止剤としてのイルガノックス1010は、BASF社製のペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であり、後述する感圧センサの加熱老化試験において酸化劣化による影響を排除するために添加される。
【0048】
各評価の目標値は、感圧センサの電極線の導電体の材料として求められる値である。押出外観の欄のマーク“○”は外観上凹凸がほとんど確認されなかったことを表し、マーク“△”は僅かに凹凸が確認されたことを表し、マーク“×”は実用が困難であるほどの凹凸が確認されたことを表す。
【0049】
試料1〜10は、体積抵抗率、ムーニー粘度、低温弾性率、押出外観の評価において良好な結果を示した試料である。一方、試料11〜16は、体積抵抗率、ムーニー粘度、低温弾性率、押出外観の評価のうちの少なくとも1つにおいて良好でない結果を示した試料である。
【0050】
試料3と試料7を比較すると、含有する結晶性ポリオレフィンの種類が異なり、試料3の方が低温弾性率において優れていた。これは、試料3がリアクタブレンド型のポリプロピレンを含んでおり、試料7がブロックポリプロピレンを含んでいることによると考えられる。
【0051】
試料3と試料8を比較すると、含有するスチレン系熱可塑性エラストマの種類が異なり、試料3により導電体を形成した電極線の方が押出外観において優れていた。これは、試料8に含まれるスチレン系熱可塑性エラストマの分子量が大きすぎたため、結晶性ポリオレフィンの分散性が低下したことによると考えられる。
【0052】
試料11〜14は、結晶性ポリオレフィンを含まないため、体積抵抗率が低い。表2は、試料11〜14について、カーボン濃度が増加するほど体積抵抗率が低くなることを示しているが、カーボン濃度が最も高い試料14でも、体積抵抗率が試料1〜9より高い。
【0053】
図3は、導電性樹脂組成物が結晶性ポリオレフィンを含む場合と含まない場合の、それぞれにおけるカーボン濃度(質量%)と体積抵抗率(Ohm・cm)との関係を表すグラフである。プロットマーク“◆”は、試料3、6、9、10の値であり、導電性樹脂組成物が結晶性ポリオレフィンを含む場合の関係を表す。プロットマーク“●”は、試料11〜14の値であり、導電性樹脂組成物が結晶性ポリオレフィンを含まない場合の関係を表す。
【0054】
また、試料11〜14の評価結果が示すように、導電性樹脂組成物のカーボン濃度を増加させると、ムーニー粘度が増加し、成形性が低下するために押出外観が悪くなる。一方、例えば、試料6は、ムーニー粘度が高いにもかかわらず、押出外観が優れている。これは、結晶性ポリオレフィンを含む導電性樹脂組成物においては、カーボン濃度を増加させても成形性が低下しにくいことによると考えられる。
【0055】
試料15は、結晶性ポリオレフィンを含み、目標とする体積抵抗率が得られているが、低温弾性率が目標値を超えている。これは、試料15におけるカーボンの質量に対する結晶性ポリオレフィンの質量の比が大きすぎることによると考えられる。試料15におけるカーボンの質量に対するポリプロピレンの質量の比が1.20であり、目標とする低温弾性率が得られた試料1〜8におけるカーボンの質量に対するポリプロピレンの質量の比が0.20以上かつ1.00以下であることから、導電性樹脂組成物中のカーボンの質量に対するポリプロピレンの質量の比は、0.20以上かつ1.10以下程度であることが好ましいと考えられる。
【0056】
試料16は、結晶性ポリオレフィンを含み、また、カーボンの質量に対する結晶性ポリオレフィンの質量の比も試料1と同じ0.20であるが、低温弾性率が目標値を超えている。これは、試料16に含まれるプロセスオイルがナフテン成分を含むことによると考えられる。
【0057】
(感圧センサの評価)
次に、電極線の導電体の導電性樹脂組成物の組成、及び絶縁体の絶縁性樹脂組成物の組成の異なる8種の感圧センサの試料A〜Hを形成し、ON抵抗(Ohm)、100℃、1000時間の加熱老化試験後のON抵抗(Ohm)、ON荷重(N)、低温(−30℃)下におけるON荷重(N)についてそれぞれ評価した。
【0058】
ここで、感圧センサの試料A〜Hは、
図1に示される感圧センサ1と同様に、中空部を有する絶縁体と、中空部の内面に沿って互いに離間して設けられた二重螺旋構造の2つの電極線を有する。なお、中空部の形状も
図1に示される感圧センサ1と同様である。電極線としては、上記の試料3、5、6、12、16を用いた。2本の電極線の間隔は1.8mmであり、絶縁体の外径は5.0mmである。
【0059】
ON抵抗の試験では、直径4mmの丸棒状の圧子を感圧センサの試料A〜H上にそれらとほぼ直角に交差させるように置いて20Nの荷重を加え、2つの電極線が導通する瞬間の電気抵抗を10回測定し、その平均値を求めた。この平均値が、表4のON抵抗の値である。加熱老化試験後のON抵抗の試験では、100℃、1000時間の加熱老化試験の後、同様のON試験を行った。
【0060】
ON荷重の試験は、直径が4mmの丸棒状の圧子を感圧センサの試料A〜H上にそれらとほぼ直角に交差させるように置いて徐々に荷重を加え、感圧センサの電気抵抗が100Ohmとなるときの荷重を測定した。低温条件下のON荷重の試験では、−30℃の温度下で、同様のON荷重試験を行った。
【0061】
以下の表3に、試料A〜Hの絶縁体に用いられる3種の絶縁性樹脂組成物の組成、及びプロセスオイルの濃度(質量%)を示す。
【0062】
【表3】
【0063】
スチレン系熱可塑性エラストマとしてのクレイトンRP6935は、株式会社クレイトン社製のSEBSであり、スチレン成分が58%、分子量が20万である。重質炭酸カルシウムとしてのソフトン1200は、備北粉化工業製の重質炭酸カルシウムであり、粒径が1.8μm、吸油量が36cc/100gである。
【0064】
以下の表4に、試料A〜Hの導電体の導電性樹脂組成物及び絶縁体の絶縁性樹脂組成物の種類、並びに試料A〜Hについての各評価の結果を示す。
【0065】
【表4】
【0066】
試料A〜Dは、4種の全ての評価において良好な結果を示した試料である。一方、試料E〜Hは、少なくとも1つの評価において良好でない結果を示した試料である。
【0067】
試料E、F、Hは、加熱老化後のON抵抗の値が目標値を超えている。これは、試料E、F、Hにおいては、導電性樹脂組成物に含まれるプロセスオイル濃度よりも絶縁性樹脂組成物に含まれるプロセスオイル濃度が高く、絶縁体から導電体へプロセスオイルが移行したことによると考えられる。
【0068】
試料Gは、導電体を構成する導電性樹脂組成物が、体積抵抗率の大きい試料12であるため、ON抵抗、加熱老化後のON抵抗のいずれの評価においても、良好でない結果を示している。
【0069】
(実施の形態のまとめ)
次に、前述の実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0070】
[1]中空部(13)を有する絶縁体(10)と、絶縁体(10)の中空部(13)に面する内面に沿って、互いに離間して設けられた複数の導電体(11)と、を有し、複数の導電体(11)は、スチレン系熱可塑性エラストマ及びカーボンを含む導電性樹脂組成物からなる、感圧センサ(1)。
【0071】
[2]導電性樹脂組成物は、結晶性ポリオレフィンを含む、[1]に記載の感圧センサ(1)。
【0072】
[3]結晶性ポリオレフィンは、25℃以上かつ180℃以下の融点を有する、[2]に記載の感圧センサ(1)。
【0073】
[4]結晶性ポリオレフィンは、ポリプロピレンである、[3]に記載の感圧センサ(1)。
【0074】
[5]導電性樹脂組成物に含まれるポリプロピレンの質量の、複数の導電体(11)に含まれるカーボンの質量に対する比が、0.20以上かつ1.10以下である、[4]に記載の感圧センサ(1)。
【0075】
[6]前記導電性樹脂組成物の体積抵抗率が1.0Ohm・cm以下である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【0076】
[7]導電性樹脂組成物におけるカーボンの質量パーセント濃度が18質量%以上である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0077】
[8]絶縁体(10)は、スチレン系熱可塑性エラストマを含む絶縁性樹脂組成物からなる、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0078】
[9]絶縁性樹脂組成物及び導電性樹脂組成物は、プロセスオイルを含み、導電性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度が、絶縁性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度よりも高い、[8]に記載の感圧センサ(1)。
【0079】
[10]プロセスオイルは、パラフィン系オイルである、[9]に記載の感圧センサ(1)。
【0080】
[11]カーボンは、粒子状である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0081】
[12]カーボンの平均粒径が結晶性ポリオレフィンの平均粒径よりも小さい、[2]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0082】
[13]絶縁体(10)は、筒状であり、複数の導電体(11)は、絶縁体(10)の内面に沿って、絶縁体(10)の長手方向に螺旋状に延びる、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0083】
[14]スチレン系熱可塑性エラストマ、カーボン、及び結晶性ポリオレフィンを含む、導電性樹脂組成物。
【0084】
[15]結晶性ポリオレフィンは、25℃以上かつ180℃以下の融点を有する、[14]に記載の導電性樹脂組成物。
【0085】
[16]結晶性ポリオレフィンは、ポリプロピレンである、[15]に記載の導電性樹脂組成物。
【0086】
[17]ポリプロピレンの質量の、カーボンの質量に対する比が、0.20以上かつ1.10以下である、[16]に記載の導電性樹脂組成物。
【0087】
[18]体積抵抗率が1.0Ohm・cm以下である、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0088】
[19]カーボンの質量パーセント濃度が18質量%以上である、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0089】
[20]パラフィン系オイルを含む、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0090】
[21]カーボンは、粒子状である、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0091】
[22]カーボンの平均粒径が結晶性ポリオレフィンの平均粒径よりも小さい、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0092】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、本発明は導電体を構成する導電性樹脂組成物の組成に特徴を有するため、あらゆる構成の感圧センサに適用することができる。
【0093】
また、前記導電体又は絶縁体に用いられる樹脂組成物には、前記[1]〜[20]の要件を逸脱しない範囲で、酸化防止剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、金属キレータ、難燃剤、着色剤、発泡剤、滑剤、安定剤、充填剤、相溶化剤、補強剤を適宜添加することができる。
【0094】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。