特許第6358514号(P6358514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358514
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】感圧センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/20 20060101AFI20180709BHJP
   H01H 13/18 20060101ALN20180709BHJP
   H01B 7/10 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
   G01L1/20 A
   G01L1/20 C
   !H01H13/18 Z
   !H01B7/10
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-107277(P2017-107277)
(22)【出願日】2017年5月31日
(62)【分割の表示】特願2016-508381(P2016-508381)の分割
【原出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-198684(P2017-198684A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中山 明成
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−183247(JP,A)
【文献】 特開2000−231854(JP,A)
【文献】 特開昭58−126135(JP,A)
【文献】 特開平02−056872(JP,A)
【文献】 特開2002−338780(JP,A)
【文献】 米国特許第04971638(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/20
G01L 5/00
H01B 7/10
H01H 13/18
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋処理を必要としない材料の絶縁性樹脂組成物からなり、中空部を有する絶縁体と、
架橋処理を必要としない材料の導電性樹脂組成物からなり、前記絶縁体の前記中空部に面する内面に沿って、互いに離間して設けられた複数の導電体と、
を有し、
前記絶縁性樹脂組成物及び前記導電性樹脂組成物は、プロセスオイルを含み、
前記導電性樹脂組成物における前記プロセスオイルの質量パーセント濃度が、前記絶縁性樹脂組成物における前記プロセスオイルの質量パーセント濃度よりも高い、感圧センサ。
【請求項2】
前記導電性樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマ及びカーボンを含む、
請求項1に記載の感圧センサ。
【請求項3】
前記導電性樹脂組成物は、結晶性ポリオレフィンを含む、
請求項2に記載の感圧センサ。
【請求項4】
前記結晶性ポリオレフィンは、ポリプロピレンである、
請求項3に記載の感圧センサ。
【請求項5】
前記導電性樹脂組成物に含まれる前記ポリプロピレンの質量の、前記複数の導電体に含まれる前記カーボンの質量に対する比が、0.20以上かつ1.10以下である、
請求項4に記載の感圧センサ。
【請求項6】
前記ポリプロピレンは、リアクタブレンド型である、
請求項4又は5に記載の感圧センサ。
【請求項7】
前記導電性樹脂組成物の体積抵抗率が1.0Ohm・cm以下である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【請求項8】
前記導電性樹脂組成物における前記カーボンの質量パーセント濃度が18質量%以上である、
請求項2乃至6のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【請求項9】
前記プロセスオイルは、パラフィン系オイルである、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【請求項10】
前記プロセスオイルは、ナフテン成分を含まない、
請求項9に記載の感圧センサ。
【請求項11】
前記導電性樹脂組成物は、−30℃における弾性率が500MPa以下である、
請求項9又は10に記載の感圧センサ。
【請求項12】
前記カーボンは、粒子状である、
請求項2乃至6のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【請求項13】
前記カーボンは、粒子状であり、
前記カーボンの平均粒径が前記結晶性ポリオレフィンの平均粒径よりも小さい、
請求項3乃至6のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【請求項14】
前記絶縁体は、筒状であり、
前記複数の導電体は、前記絶縁体の前記内面に沿って、前記絶縁体の長手方向に螺旋状に延びる、
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の感圧センサ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物及び感圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに離間して設けられた複数の導電体を内部に有する感圧センサが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。このような感圧センサは、外力を受けたときに、複数の導電体が接触して導通状態となることにより、スイッチとして機能する。
【0003】
特許文献1に記載された感圧センサは、筒状の絶縁体の内周面に沿って、4本の線状の電極線が空隙を介して互いに接触しないように螺旋状に設けられた構造を有し、それによって、全方向の外力を確実に検出することができる。これらの電極線は、錫めっき軟銅撚り線からなる電気導体と、その表面を被覆する導電ゴムから構成される。この導電ゴムは、カーボンブラックを含むことが開示されている。
【0004】
特許文献2に記載されたコードスイッチは、線状の感圧センサであり、筒状の絶縁体の外周を覆うゴムカバーの端末部をホットメルト樹脂によりシールした構造を有する。ホットメルト樹脂をシール剤として用いることにより、シール剤の硬化時間を短縮し、効率的にコードスイッチを製造することができる。このコードスイッチに設けられた複数の導電体は、芯線と、その表面を被覆する導電樹脂から構成される。この導電樹脂の詳細は開示されていない。
【0005】
また、感圧センサの導電体の材料として用いられる、加工性に優れた導電ゴム組成物が知られている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3に記載された導電ゴム組成物は、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が40以下のベースゴムに、エチレン−αオレフィン共重合体と、導電性付与剤であるカーボンが添加されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3275767号公報
【特許文献2】特開2005−149760号公報
【特許文献3】特開2011−162745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、感圧センサの導電体の材料に適した、低コストで製造することのできる導電性樹脂組成物、及びその導電性樹脂組成物を材料とする導電体を有する感圧センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、中空部を有する絶縁体と、前記絶縁体の前記中空部に面する内面に沿って、互いに離間して設けられた複数の導電体と、を有し、前記複数の導電体は、スチレン系熱可塑性エラストマ及びカーボンを含む導電性樹脂組成物からなる、感圧センサを提供する。
【0009】
また、本発明の他の態様は、スチレン系熱可塑性エラストマ及びカーボンを含む、導電性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、感圧センサの導電体の材料に適した、低コストで製造することのできる導電性樹脂組成物、及びその導電性樹脂組成物を材料とする導電体を有する感圧センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態に係る線状の感圧センサの径方向の断面図である。
図2A図2Aは、結晶性ポリオレフィンの融点よりも高い温度下における導電体の内部の状態を表す模式図である。
図2B図2Bは、結晶性ポリオレフィンの融点よりも低い温度下における導電体の内部の状態を表す模式図である。
図3図3は、実施例に係る導電性樹脂組成物における、結晶性ポリオレフィンを含む場合と含まない場合の、それぞれにおけるカーボン濃度(質量%)と体積抵抗率(Ohm・cm)との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施の形態〕
(感圧センサの構成)
図1は、実施の形態に係る線状の感圧センサ1の径方向の断面図である。
【0013】
感圧センサ1は、中空部13を有する絶縁体10と、絶縁体10の中空部13に面する内面に沿って、互いに離間して設けられた複数の導電体11と、を有する。導電体11は、芯線12を被覆しており、導電体11と芯線12は感圧センサ1の電極線14を構成する。感圧センサ1が外力を受けたときに、2つの導電体11が接触して導通状態となることにより、感圧センサ1がスイッチとして機能する。
【0014】
感圧センサ1は、線状の感圧センサであり、2つの電極線14が空隙を介して互いに接触しないように螺旋状に設けられている。ただし、感圧センサ1の構造はこのような構造に限定されない。例えば、導電体11の数は3本以上であってもよく、また、絶縁体10及び導電体11の形状は平板状等の線状以外の形状であってもよい。
【0015】
芯線12は、例えば、26〜30AWGの銀めっき軟銅線の撚り線である。
【0016】
導電体11は、スチレン系熱可塑性エラストマ及びカーボンを含む導電性樹脂組成物からなる。スチレン系熱可塑性エラストマは、成形の際に架橋の必要がない。このため、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等の成形の際に架橋を必要とする材料を用いる場合よりも、導電体11の製造工程を簡略化し、製造コストを低減することができる。
【0017】
スチレン系熱可塑性エラストマとは、分子の両端にスチレンブロックを有する熱可塑性エラストマである。スチレン系熱可塑性エラストマとしては、例えば、EB(エチレン−ブチレン)の両端にスチレンブロックを有するSEBS、EP(エチレン−プロピレン)の両端にスチレンブロックを有するSEPS、又はEEP(エチレン−エチレン−プロピレン)の両端にスチレンブロックを有するSEEPSが挙げられる。
【0018】
スチレン系熱可塑性エラストマの分子量は、10万〜20万程度であることが好ましい。分子量が20万を超えると、押出成形後の導電体11の表面に凹凸が生じる場合がある。これは、スチレン系熱可塑性エラストマの分子量が大きすぎると、混練時に分子鎖が絡み合い難く、後述する結晶性ポリオレフィン等の分散性が悪くなることによると考えられる。
【0019】
また、導電体11を構成する導電性樹脂組成物は、結晶性ポリオレフィンを含むことが好ましい。結晶性ポリオレフィンの融点よりも高い温度下で導電体11の材料を押出機で混練することにより、結晶性ポリオレフィンが液状である状態で導電体の材料を混練することができる。そして、導電体11を成形した後、常温(25℃)下の導電体11中で結晶性ポリオレフィンは結晶化する。
【0020】
図2Aは、結晶性ポリオレフィンの融点よりも高い温度下における導電体11の内部の状態を表す模式図である。図2A中の点線で囲まれた領域は、スチレン系熱可塑性エラストマ20中の液状の結晶性ポリオレフィン21aを表す。図2Aに示されるように、結晶性ポリオレフィンの融点よりも高い温度下では、カーボン22がスチレン系熱可塑性エラストマ20と液状の結晶性ポリオレフィン21aの中に含まれる。
【0021】
図2Bは、結晶性ポリオレフィンの融点よりも低い温度下における導電体11の内部の状態を表す模式図である。図2Bに示される結晶化した結晶性ポリオレフィン21bは、温度の低下により液状の結晶性ポリオレフィン21aが結晶化したものである。結晶性ポリオレフィンが結晶化することにより、液状の結晶性ポリオレフィン21aに含まれていたカーボン22がスチレン系熱可塑性エラストマ20中に押し出される。これにより、カーボン22がより密集して導電パスが多く形成され、導電体11の導電性が向上する。また、結晶性ポリオレフィンを用いない場合よりも少ない量のカーボン22で導電性を得ることができるため、カーボン22の量を減らし、導電体11の製造コストを低減することもできる。
【0022】
通常、押出機での混練は180〜230℃程度の温度下で行われるため、180℃以下、かつ常温である25℃以上の融点を有する結晶性ポリオレフィンを用いることが好ましい。このような結晶性ポリオレフィンとしては、例えば、融点が約140〜160℃のポリプロピレン、融点が約100〜140℃のポリエチレン、融点が約80℃のEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)を用いることができる。特に、スチレン系熱可塑性エラストマとなじみやすく、分散性がよいために、結晶化後の粒径が大きくなり過ぎないポリプロピレンを結晶性ポリオレフィンとして用いることが好ましい。
【0023】
ポリプロピレンを結晶性ポリオレフィンとして用いる場合、導電体11に含まれるポリプロピレンの質量の、導電体11に含まれるカーボンの質量に対する比が、0.20以上かつ1.10以下であることが好ましい。この比が0.20以上のときに導電体11の導電性を効果的に向上させることができる。一方、この比が1.10を超えると、導電体11の低温弾性率が望ましい値を超えてしまう。
【0024】
また、ポリプロピレンは、リアクタブレンド型であることが好ましい。例えば、ブロック型のポリプロピレンを用いる場合は、導電体11の低温弾性率が望ましい値を超える傾向がある。
【0025】
導電体11を構成する導電性樹脂組成物中のカーボンは、導電体11に導電性を付与するために添加される。カーボンは、カーボンブラック等の粒子状のカーボンであることが好ましい。粒子状以外の形状、例えば線状や面状のカーボンを用いた場合、導電体11の電気抵抗の大きさが方向によって変化し、感圧センサ1の動作に悪影響を与えるおそれがある。ここで、カーボンブラックは、油やガスを不完全燃焼させること等により得られる直径3〜500nm程度の炭素の微粒子である。特に、カーボン一次粒子が連結したストラクチャーと呼ばれる構造が発達した導電性カーボンブラックが好ましい。
【0026】
また、粒子状のカーボンの平均粒径が、結晶化後の結晶性ポリオレフィンの平均粒径よりも小さいことが好ましい。この場合、図2A、2Bに示されるような、結晶性ポリオレフィンの結晶化に伴う液状の結晶性ポリオレフィン中からスチレン系熱可塑性エラストマ中へのカーボンの移動が生じやすく、導電体11の導電性を効果的に向上させることができる。例えば、ポリプロピレンの結晶化後の平均粒径は0.1〜1.0μm程度である。このため、例えば、カーボンと結晶性ポリオレフィンとして、それぞれカーボンブラックとポリプロピレンを用いることにより、導電体11の導電性を効果的に向上させることができる。
【0027】
導電体11を構成する導電性樹脂組成物におけるカーボンの質量パーセント濃度は、18質量%以上であることが好ましい。これにより、導電体11の体積抵抗率が十分に小さくなる。カーボンの質量パーセント濃度は、カーボンの質量を導電性樹脂組成物全体の質量(導電体11の質量)で除した値に100を乗ずることにより算出される。
【0028】
絶縁体10を構成する絶縁性樹脂組成物は、導電体11を構成する導電性樹脂組成物と同様に、スチレン系熱可塑性エラストマを含むことが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマは、成形の際に架橋の必要がないため、絶縁体10の製造工程を簡略化し、製造コストを低減することができる。
【0029】
絶縁体10を構成する絶縁性樹脂組成物及び導電体11を構成する導電性樹脂組成物は、プロセスオイルを含み、導電体11を構成する導電性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度が、絶縁体10を構成する絶縁性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度よりも高いことが好ましい。ここで、プロセスオイルは、絶縁体10及び導電体11に加えることにより、可塑性を高めたり、硬度を下げたりすることができるオイルである。また、導電体11中のカーボンの媒体として機能する。
【0030】
プロセスオイルは、その濃度の高い領域から低い領域へ移動する性質を有するため、導電体11を構成する導電性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度が、絶縁体10を構成する絶縁性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度よりも低い場合は、絶縁体10中のプロセスオイルが導電体11中へ移行する。これにより、導電体11中のカーボンの粒子間距離が広がり、導電体11の導電性が低下する。そこで、導電体11を構成する導電性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度を、絶縁体10を構成する絶縁性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度よりも高くすることにより、このような問題を抑制することができる。
【0031】
このプロセスオイルは、パラフィン系オイルであることが好ましい。線状の分子からなるパラフィン系オイルを用いる場合、例えば、面状の分子からなるナフテン系オイルやアロマ系オイルを用いる場合よりも、絶縁体10及び導電体11の低温弾性率が望ましい値を超える傾向がある。これは、線状の分子からなるオイルは、面状の分子からなるオイルよりも、分子間の相互作用が弱く、低温下でも流動性が失われにくいことによると考えられる。
【0032】
(感圧センサの製造方法)
以下に、感圧センサ1の製造方法の一例について説明する。
【0033】
まず、押出機による押出成形により、芯線12の表面に導電体11を被覆し、2本の電極線14を形成する。ここで、導電体11は架橋処理の必要な材料を含まないため、架橋工程を行わない。
【0034】
次に、中空部13の中心部分を形成するための線状の第1のスペーサと、中空部13の周辺部分を形成するための線状の第2のスペーサをする。
【0035】
次に、第1のスペーサの周囲に、4本の第2のスペーサと2本の電極線14を交互に配置して撚り合わせる。
【0036】
次に、押出成形により、第1のスペーサの周囲に撚り合わされた4本の第2のスペーサと2本の電極線14の周囲を絶縁体10で被覆する。
【0037】
次に、第1のスペーサ及び第2のスペーサを引き抜くことにより、中空部13を形成する。以上の工程により、感圧センサ1が形成される。
【0038】
なお、基本的には、本実施の形態の感圧センサ1の製造工程として、特許第3275767号公報に開示される感圧センサの製造工程を用いることができる。ただし、導電体11、又は導電体11及び絶縁体10の成型時の架橋処理は行わない。
【0039】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、感圧センサの導電体の材料に適した、低コストで製造することのできる導電性樹脂組成物を用いて導電体を形成することにより、低コストで感圧センサを得ることができる。
【実施例】
【0040】
(導電性樹脂組成物の評価)
組成の異なる16種の導電性樹脂組成物の試料1〜16を形成し、体積抵抗率(Ohm・cm)、ムーニー粘度、ショアA硬度、及び低温(−30℃)下における弾性率(MPa)ついてそれぞれ評価した。その後、導電性樹脂組成物の試料1〜16を押出成形により芯線に被覆して電極線を形成し、電極線の外観である押出外観について評価した。
【0041】
ムーニー粘度は、JIS K6300−1に準拠した方法により180℃にて測定した。7分余熱、4分後の値(ML7+4(180℃))をムーニー粘度とした。体積抵抗率は、シート状に成形した導電性樹脂組成物の試料1〜16に対して、JIS K7194に準拠する方法(四端子四探針法)により測定した。ショアA硬度は、シート状に成形した導電性樹脂組成物の試料1〜16に対して、ASTM D2240に準拠する方法により測定した。低温弾性率は、JIS K7244−4に準拠する方法により、周波数10Hz、−30℃にて測定した。
【0042】
押出外観の評価に用いた電極線は、26AWGの銀めっき軟銅線の撚り線である芯線を導電性樹脂組成物の試料1〜16からなる導電体で被覆した構造を有し、その外径は1.0mmである。
【0043】
以下の表1、2に、試料1〜16の導電性樹脂組成物の組成、及び試料1〜16についての各評価の結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1、2の上段は、各試料の導電性樹脂組成物に含まれるカーボン、結晶性ポリオレフィン、プロセスオイル、及びスチレン系熱可塑性エラストマの質量(kg)を表す。また、表1、2の中段は、各試料の導電性樹脂組成物中の材料の合計質量(kg)、カーボン濃度(質量%)、カーボンの質量に対する結晶性ポリオレフィンの質量の比、結晶性ポリオレフィンとカーボンの合計の濃度(質量%)、及びプロセスオイル濃度(質量%)を表す。
【0047】
カーボンとしてのケッチェンブラックEC600JDは、ケッチェンブラック・インターナショナル株式会社製のカーボンブラックである。結晶性ポリオレフィンとしてのウェルネックスRGF4VMは、日本ポリプロ株式会社製のリアクタブレンド型ポリプロピレンであり、密度が0.89g/cm3、MFR(Melt Flow Rrate)が6.0g/10min、曲げ弾性率が280MPaである。結晶性ポリオレフィンとしてのPM580Xは、サンアロマー株式会社製のブロックポリプロピレンであり、密度が0.9g/cm3、MFRが5.0g/10min、曲げ弾性率が1300MPaである。プロセスオイルとしてのルーカントHC−40は、三井化学株式会社製のエチレン−αオレフィン共重合オリゴマーであり、100℃における動粘度が40mm2/sである。プロセスオイルとしてのPW−380は、出光興産株式会社製の鉱物油であり、ナフテン成分が27%、パラフィン成分が73%、動粘度が30mm2/sである。スチレン系熱可塑性エラストマとしてのセプトン4055は、株式会社クラレ製のSEEPSであり、スチレン成分が30%、分子量が13万である。スチレン系熱可塑性エラストマとしてのセプトン4099は、株式会社クラレ製のSEEPSであり、スチレン成分が30%、分子量が32万である。酸化防止剤としてのイルガノックス1010は、BASF社製のペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であり、後述する感圧センサの加熱老化試験において酸化劣化による影響を排除するために添加される。
【0048】
各評価の目標値は、感圧センサの電極線の導電体の材料として求められる値である。押出外観の欄のマーク“○”は外観上凹凸がほとんど確認されなかったことを表し、マーク“△”は僅かに凹凸が確認されたことを表し、マーク“×”は実用が困難であるほどの凹凸が確認されたことを表す。
【0049】
試料1〜10は、体積抵抗率、ムーニー粘度、低温弾性率、押出外観の評価において良好な結果を示した試料である。一方、試料11〜16は、体積抵抗率、ムーニー粘度、低温弾性率、押出外観の評価のうちの少なくとも1つにおいて良好でない結果を示した試料である。
【0050】
試料3と試料7を比較すると、含有する結晶性ポリオレフィンの種類が異なり、試料3の方が低温弾性率において優れていた。これは、試料3がリアクタブレンド型のポリプロピレンを含んでおり、試料7がブロックポリプロピレンを含んでいることによると考えられる。
【0051】
試料3と試料8を比較すると、含有するスチレン系熱可塑性エラストマの種類が異なり、試料3により導電体を形成した電極線の方が押出外観において優れていた。これは、試料8に含まれるスチレン系熱可塑性エラストマの分子量が大きすぎたため、結晶性ポリオレフィンの分散性が低下したことによると考えられる。
【0052】
試料11〜14は、結晶性ポリオレフィンを含まないため、体積抵抗率が低い。表2は、試料11〜14について、カーボン濃度が増加するほど体積抵抗率が低くなることを示しているが、カーボン濃度が最も高い試料14でも、体積抵抗率が試料1〜9より高い。
【0053】
図3は、導電性樹脂組成物が結晶性ポリオレフィンを含む場合と含まない場合の、それぞれにおけるカーボン濃度(質量%)と体積抵抗率(Ohm・cm)との関係を表すグラフである。プロットマーク“◆”は、試料3、6、9、10の値であり、導電性樹脂組成物が結晶性ポリオレフィンを含む場合の関係を表す。プロットマーク“●”は、試料11〜14の値であり、導電性樹脂組成物が結晶性ポリオレフィンを含まない場合の関係を表す。
【0054】
また、試料11〜14の評価結果が示すように、導電性樹脂組成物のカーボン濃度を増加させると、ムーニー粘度が増加し、成形性が低下するために押出外観が悪くなる。一方、例えば、試料6は、ムーニー粘度が高いにもかかわらず、押出外観が優れている。これは、結晶性ポリオレフィンを含む導電性樹脂組成物においては、カーボン濃度を増加させても成形性が低下しにくいことによると考えられる。
【0055】
試料15は、結晶性ポリオレフィンを含み、目標とする体積抵抗率が得られているが、低温弾性率が目標値を超えている。これは、試料15におけるカーボンの質量に対する結晶性ポリオレフィンの質量の比が大きすぎることによると考えられる。試料15におけるカーボンの質量に対するポリプロピレンの質量の比が1.20であり、目標とする低温弾性率が得られた試料1〜8におけるカーボンの質量に対するポリプロピレンの質量の比が0.20以上かつ1.00以下であることから、導電性樹脂組成物中のカーボンの質量に対するポリプロピレンの質量の比は、0.20以上かつ1.10以下程度であることが好ましいと考えられる。
【0056】
試料16は、結晶性ポリオレフィンを含み、また、カーボンの質量に対する結晶性ポリオレフィンの質量の比も試料1と同じ0.20であるが、低温弾性率が目標値を超えている。これは、試料16に含まれるプロセスオイルがナフテン成分を含むことによると考えられる。
【0057】
(感圧センサの評価)
次に、電極線の導電体の導電性樹脂組成物の組成、及び絶縁体の絶縁性樹脂組成物の組成の異なる8種の感圧センサの試料A〜Hを形成し、ON抵抗(Ohm)、100℃、1000時間の加熱老化試験後のON抵抗(Ohm)、ON荷重(N)、低温(−30℃)下におけるON荷重(N)についてそれぞれ評価した。
【0058】
ここで、感圧センサの試料A〜Hは、図1に示される感圧センサ1と同様に、中空部を有する絶縁体と、中空部の内面に沿って互いに離間して設けられた二重螺旋構造の2つの電極線を有する。なお、中空部の形状も図1に示される感圧センサ1と同様である。電極線としては、上記の試料3、5、6、12、16を用いた。2本の電極線の間隔は1.8mmであり、絶縁体の外径は5.0mmである。
【0059】
ON抵抗の試験では、直径4mmの丸棒状の圧子を感圧センサの試料A〜H上にそれらとほぼ直角に交差させるように置いて20Nの荷重を加え、2つの電極線が導通する瞬間の電気抵抗を10回測定し、その平均値を求めた。この平均値が、表4のON抵抗の値である。加熱老化試験後のON抵抗の試験では、100℃、1000時間の加熱老化試験の後、同様のON試験を行った。
【0060】
ON荷重の試験は、直径が4mmの丸棒状の圧子を感圧センサの試料A〜H上にそれらとほぼ直角に交差させるように置いて徐々に荷重を加え、感圧センサの電気抵抗が100Ohmとなるときの荷重を測定した。低温条件下のON荷重の試験では、−30℃の温度下で、同様のON荷重試験を行った。
【0061】
以下の表3に、試料A〜Hの絶縁体に用いられる3種の絶縁性樹脂組成物の組成、及びプロセスオイルの濃度(質量%)を示す。
【0062】
【表3】
【0063】
スチレン系熱可塑性エラストマとしてのクレイトンRP6935は、株式会社クレイトン社製のSEBSであり、スチレン成分が58%、分子量が20万である。重質炭酸カルシウムとしてのソフトン1200は、備北粉化工業製の重質炭酸カルシウムであり、粒径が1.8μm、吸油量が36cc/100gである。
【0064】
以下の表4に、試料A〜Hの導電体の導電性樹脂組成物及び絶縁体の絶縁性樹脂組成物の種類、並びに試料A〜Hについての各評価の結果を示す。
【0065】
【表4】
【0066】
試料A〜Dは、4種の全ての評価において良好な結果を示した試料である。一方、試料E〜Hは、少なくとも1つの評価において良好でない結果を示した試料である。
【0067】
試料E、F、Hは、加熱老化後のON抵抗の値が目標値を超えている。これは、試料E、F、Hにおいては、導電性樹脂組成物に含まれるプロセスオイル濃度よりも絶縁性樹脂組成物に含まれるプロセスオイル濃度が高く、絶縁体から導電体へプロセスオイルが移行したことによると考えられる。
【0068】
試料Gは、導電体を構成する導電性樹脂組成物が、体積抵抗率の大きい試料12であるため、ON抵抗、加熱老化後のON抵抗のいずれの評価においても、良好でない結果を示している。
【0069】
(実施の形態のまとめ)
次に、前述の実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0070】
[1]中空部(13)を有する絶縁体(10)と、絶縁体(10)の中空部(13)に面する内面に沿って、互いに離間して設けられた複数の導電体(11)と、を有し、複数の導電体(11)は、スチレン系熱可塑性エラストマ及びカーボンを含む導電性樹脂組成物からなる、感圧センサ(1)。
【0071】
[2]導電性樹脂組成物は、結晶性ポリオレフィンを含む、[1]に記載の感圧センサ(1)。
【0072】
[3]結晶性ポリオレフィンは、25℃以上かつ180℃以下の融点を有する、[2]に記載の感圧センサ(1)。
【0073】
[4]結晶性ポリオレフィンは、ポリプロピレンである、[3]に記載の感圧センサ(1)。
【0074】
[5]導電性樹脂組成物に含まれるポリプロピレンの質量の、複数の導電体(11)に含まれるカーボンの質量に対する比が、0.20以上かつ1.10以下である、[4]に記載の感圧センサ(1)。
【0075】
[6]前記導電性樹脂組成物の体積抵抗率が1.0Ohm・cm以下である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ。
【0076】
[7]導電性樹脂組成物におけるカーボンの質量パーセント濃度が18質量%以上である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0077】
[8]絶縁体(10)は、スチレン系熱可塑性エラストマを含む絶縁性樹脂組成物からなる、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0078】
[9]絶縁性樹脂組成物及び導電性樹脂組成物は、プロセスオイルを含み、導電性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度が、絶縁性樹脂組成物におけるプロセスオイルの質量パーセント濃度よりも高い、[8]に記載の感圧センサ(1)。
【0079】
[10]プロセスオイルは、パラフィン系オイルである、[9]に記載の感圧センサ(1)。
【0080】
[11]カーボンは、粒子状である、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0081】
[12]カーボンの平均粒径が結晶性ポリオレフィンの平均粒径よりも小さい、[2]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0082】
[13]絶縁体(10)は、筒状であり、複数の導電体(11)は、絶縁体(10)の内面に沿って、絶縁体(10)の長手方向に螺旋状に延びる、[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の感圧センサ(1)。
【0083】
[14]スチレン系熱可塑性エラストマ、カーボン、及び結晶性ポリオレフィンを含む、導電性樹脂組成物。
【0084】
[15]結晶性ポリオレフィンは、25℃以上かつ180℃以下の融点を有する、[14]に記載の導電性樹脂組成物。
【0085】
[16]結晶性ポリオレフィンは、ポリプロピレンである、[15]に記載の導電性樹脂組成物。
【0086】
[17]ポリプロピレンの質量の、カーボンの質量に対する比が、0.20以上かつ1.10以下である、[16]に記載の導電性樹脂組成物。
【0087】
[18]体積抵抗率が1.0Ohm・cm以下である、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0088】
[19]カーボンの質量パーセント濃度が18質量%以上である、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0089】
[20]パラフィン系オイルを含む、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0090】
[21]カーボンは、粒子状である、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0091】
[22]カーボンの平均粒径が結晶性ポリオレフィンの平均粒径よりも小さい、[14]乃至[17]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
【0092】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、本発明は導電体を構成する導電性樹脂組成物の組成に特徴を有するため、あらゆる構成の感圧センサに適用することができる。
【0093】
また、前記導電体又は絶縁体に用いられる樹脂組成物には、前記[1]〜[20]の要件を逸脱しない範囲で、酸化防止剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、金属キレータ、難燃剤、着色剤、発泡剤、滑剤、安定剤、充填剤、相溶化剤、補強剤を適宜添加することができる。
【0094】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
感圧センサの導電体の材料に適した、低コストで製造することのできる導電性樹脂組成物、及びその導電性樹脂組成物を材料とする導電体を有する感圧センサを提供する。
【符号の説明】
【0096】
1…感圧センサ
10…絶縁体
11…導電体
12…芯線
13…中空部
14…電極線
20…スチレン系熱可塑性エラストマ
21a、21b…結晶性ポリオレフィン
22…カーボン
図1
図2A
図2B
図3