(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の浸出残渣スラリーの排出施設は、鉱石から有価金属を浸出処理した際に発生する浸出残渣を含む浸出残渣スラリーを貯留用池に排出する施設であって、貯留用池に対して供給された浸出残渣スラリーの沈殿物により形成された山を簡単に崩すことができるようにしたことに特徴を有している。
【0015】
本発明の浸出残渣スラリーの排出施設によって処理される浸出残渣スラリーは、鉱石から有価金属を浸出処理した際に発生する浸出残渣を含むスラリーであればよく、浸出処理する鉱石や浸出される有価金属はとくに限定されない。例えば、ニッケル酸化鉱石を酸とともに高温高圧下で浸出する処理を行って、ニッケルを浸出した際に発生する浸出残渣を含有する浸出残渣スラリーを挙げることができる。
【0016】
また、本発明の浸出残渣スラリーの排出施設から浸出残渣スラリーが排出される貯留用池(つまり浸出残渣スラリーが貯蔵される場所)は、供給される浸出残渣スラリーと同じだけの体積の水を貯留できる場所であればよい。例えば、一般的な鉱滓ダムや貯水池、埋立地等を挙げることができる。
【0017】
(本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1)
図1〜
図3において、符号Pは、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1から浸出残渣スラリーSが排出されて、浸出残渣スラリーSが貯留される貯留用池を示している。この貯留用池Pに浸出残渣スラリーSを貯留している間に、浸出残渣スラリーSの固形分が沈殿するので、水分を固形分から分離することができる。
図2のおよび
図3の水中のSAが、浸出残渣スラリーSの固形分(スラリー沈殿物SA)を示している。
【0018】
図2(A)および
図2(B)に示すように、貯留用池Pに浸出残渣スラリーSを供給すると、スラリー沈殿物SAが貯留用池Pの底に堆積して、貯留用池Pにスラリー沈殿物SAの山を形成する。しかし、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1は以下のような構造を有しているので、スラリー沈殿物SAの山を簡単に崩すことができる。すると、スラリー沈殿物SAの山を崩す作業時間を従来の方法と比べて非常に短くできるので、浸出残渣スラリーSの供給効率を向上させることができる。
また、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1では、スラリー沈殿物SAを貯留用池Pに対して均一に堆積させることができるので(
図3(C)参照)、貯留用池P全体をスラリー沈殿物SAの貯留に有効に利用することができる。
【0019】
図1において、符号3は、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1における供給部2の固定配管を示している。この固定配管3は、浸出残渣スラリーSが送液される配管であり、図示しない浸出残渣スラリーSを固定配管3に供給するスラリー圧送部に連通されている。
この固定配管3は、貯留用池Pの周囲に貯留用池Pを囲むように設置されている。そして、この固定配管3は、その軸方向に沿って、複数の流出部3hを備えている。複数の流出部3hはバルブを備えており、バルブを開くと固定配管3内の浸出残渣スラリーSを外部に排出できるようになっている。
【0020】
なお、本明細書中の貯留池の周囲とは、貯留用池Pの岸辺のほか、岸辺に周辺に連続した陸上も含む概念である。また、この陸上とは、貯留用池Pの水位が上昇した際に岸辺よりも内陸側に位置する場所に出現する水面と陸上との境界が位置する箇所を含む陸上を意味する。
【0021】
(接続配管4)
この複数の流出部3hの一つには、接続配管4の基端が連結されている。この接続配管4は、浸出残渣スラリーSが送液される配管であり、自由に曲がることができるフレキシブル配管によって形成されている。この接続配管4は、貯留用池Pの水面Fに浮かぶ複数のフロート部15を備えている。
【0022】
(フロート部15)
複数のフロート部15は、接続配管4の軸方向に沿って並ぶように取り付けられている。各フロート部15は、一般的なフロート等の浮力を有する部材で形成されている。このため、接続配管4において貯留用池Pの水面Fに配置された部分のほぼ全体が貯留用池Pの水面Fに浮いた状態となるように維持したり、接続配管4の一部が水面Fから若干沈んだ状態となるように維持したりすることができるようになっている。具体的には、固定配管3から供給される浸出残渣スラリーSが接続配管4内を通過している状態でも、接続配管4のほぼ全体が水面に浮いた状態に維持したり、接続配管4の一部が水面から若干沈んだ状態に維持したりすることができる程度の浮力が発生するようになっている。
【0023】
つまり、複数のフロート部15は、接続配管4と浸出残渣スラリーSの両方の重さが加わっても、接続配管4を水面に上記のごとく浮かせておくことができる程度の浮力が発生するようになっている。
【0024】
なお、複数のフロート部15は、貯留用池Pを上方から見た際、接続配管4の貯留用池Pの水面F上に位置する部分にだけ取り付けてもよい。しかし、貯留用池Pの水位は年とともに上がり、岸辺より陸側にも将来は水面Fが出現するのが一般的である。そこで、
図1に示すように、接続配管4のほぼ全体に複数のフロート部15を取り付けておけば、陸側に水面Fが出現しても接続配管4の大部分を貯留用池Pの水面またはその近傍に位置するように配設することができる。しかも、流出部3h近傍に位置する接続配管4も貯留用池Pの水面またはその近傍に位置するように配設できるので、流出部3hの位置も分かりやすくなる。このため、固定配管3や接続配管4の監視や修繕が容易となる。
【0025】
(連結機構16)
複数のフロート部15は、接続配管4に取り付けられた状態において、連結機構16によって、隣接するフロート部15同士を接近離間させることができるようになっている。具体的には、連結機構16のフロート移動手段17によって、隣接するフロート部15同士を接近させて両者が連結した状態(連結姿勢)となるまで移動することができるようになっている(
図4〜
図6参照)。そして、連結姿勢まで移動された隣接するフロート部15同士は、両者の対向する端部同士が連結機構16のフロート固定手段18により連結固定されるようになっている(
図4〜
図6参照)。具体的には、隣接するフロート部15同士は、連結姿勢では、フロート固定手段18によって接続配管4の半径方向への相対的な移動が固定されている。
【0026】
(吐出部10)
図1〜
図3に示すように、接続配管4の先端には、吐出部10が設けられている。
この吐出部10は、貯留用池Pの水面Fに浮かぶ浮遊体11と、この浮遊体11上に設けられた排出管12を備えている。この排出管12は、その基端が接続配管4の先端に連通されており、接続配管4から供給される浸出残渣スラリーSを、その先端の排出口12hから排出できるようになっている。
浮遊体11は、一般的なフロートやブイ等によって形成されており、排出管12が貯留用池Pの水面Fに浮いた状態を維持することができるようになっている。具体的には、接続配管4から供給される浸出残渣スラリーSが排出管12の先端の排出口12hから排出されている状態でも、排出管12の先端の排出口12hを貯留用池Pの水面F上に維持できる程度の浮力が発生するようになっている。つまり、排出管12と排出管12内の浸出残渣スラリーSの両方の重さが加わっても、排出管12を浮かせておくことができる程度の浮力が発生するようになっている。
【0027】
(排出施設1の使用方法)
以上のごとき構成であるので、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1では、以下のようにして貯留用池Pに形成されたスラリー沈殿物SAの山を崩しながら貯留用池Pに浸出残渣スラリーSを適切に供給することができるようになっている。
【0028】
まず、
図2(A)および
図2(B)に示すように、貯留用池Pの岸辺周辺から貯留用池Pに対して浸出残渣スラリーSを供給する。そして、スラリー沈殿物SAの山の山頂部が水面Fより高くなった段階で、
図2(C)および
図2(D)に示すように、吐出部10をスラリー沈殿物SAの山をよけながら貯留用池Pの中央よりに配置する。このとき、
図2(C)に示すように、吐出部10と接続配管4の基端部を結んだ線分を直径とする円内に上記スラリー沈殿物SAの山が位置するように吐出部10を移動させる。なお、吐出部10を移動する際には、浸出残渣スラリーSの供給を必要に応じて中断すればよい。
【0029】
ついで、
図3(A)に示すように、フロート移動手段17によって、隣接するフロート部15同士が接近させて、隣接するフロート部15同士の対向する端部同士をフロート固定手段18によって連結させる。この連結姿勢では、全てのフロート部15の接続配管4の軸方向への移動が固定され、隣接するフロート部15間では接続配管4の半径方向への相対的な移動がそれぞれ固定される。かかる状態となると、接続配管4に取り付けられた複数のフロート部15は、あたかも一本の棒のような状態になる。
【0030】
すると、
図3(A)に示すように、吐出部10をスラリー沈殿物SAの山が存在する方向に向かって移動させれば、吐出部10に連結された接続配管4とともに、複数のフロート部15が基端側を支点として棒が扇形を描いて揺動するように移動する。しかも、隣接するフロート部15同士は、フロート固定手段18によって、横方向からの力に抗する程度にしっかりと連結固定されている。このため、複数のフロート部15に対してその横方向からの力が加わっても、隣接するフロート部15同士の連結を維持することができる。言い換えれば、接続配管4を移動させても、フロート部15は棒状の状態を維持することができる。
【0031】
したがって、
図3(A)に示すように、接続配管4をスラリー沈殿物SAの山に向かって移動(
図3(A)では下方向の矢印に向かって移動)させれば、フロート部15によってスラリー沈殿物SAの山を薙ぎ倒しながら崩すことができる。そして、かかる操作を複数回行えば、
図3(C)に示すように、フロート部15の下端よりも上方に位置するスラリー沈殿物SAの山を均一に崩すことができる。
【0032】
そして、以上のごとき操作をスラリー沈殿物SAの山が形成されるごとに行えば、スラリー沈殿物SAを貯留用池Pに対して均一に堆積させることができるので、貯留用池P全体をスラリー沈殿物SAの貯留により有効に利用することができる。
【0033】
(連結機構16の詳細な説明)
つぎに、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1の連結機構16について詳細に説明する。
上述したように接続配管4に取り付けられたフロート部15は、連結機構16によって、連結分離自在となるように取り付けられている。具体的には、連結機構16は、隣接するフロート部15同士において、分離した状態のフロート部15同士を接近させて、一のフロート部15の端部と、かかるフロート部15の端部に対向する他のフロート部15の他端部とが互いに連結した状態に維持する機構である。
この連結機構16は、上述したようにフロート部15を接近離間させるフロート移動手段17と、接近したフロート部15同士を連結固定するフロート固定手段18とを備えている。
【0034】
(フロート移動手段17)
まず、連結機構16のフロート移動手段17について説明する。
連結機構16のフロート移動手段17は、フロート部15を接近離間させることができる機能を有するものであれば、とくに限定されない。例えば、接続配管4の基端部に取り付けられたフロート部15(
図1では、流出部3hの最近傍に位置するフロート部15)を接続配管4の軸方向に沿って先端に向かって移動させることができる機能を有するものや、その逆に、接続配管4の最先端に取り付けられたフロート部15を接続配管5の軸方向に沿って基端に向かって移動させることができる機能を有するものなどを採用することができる。
【0035】
なお、前者の場合、接続配管4の先端部に位置するフロート部15(
図1では、吐出部10近傍に位置するフロート部15)が、接続配管4に固定されており、後者の場合には、その逆に接続配管4の基端部に位置するフロート部15が接続配管4に固定されている。
【0036】
以下では、連結機構16のフロート移動手段17として、前者の場合を代表として説明する。つまり、接続配管4の基端部に取り付けられたフロート部15を接続配管4の軸方向に沿って移動させる場合を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1および
図4に示すように、接続配管4の基端部には、本実施形態の浸出残渣スラリーSの排出施設1の連結機構16のフロート移動手段17が設けられている。具体的には、基端が流出部3hに連結しており、先端がフロート部15に連結しており、かかるフロート部15を接続配管4の軸方向に沿って移動させることができるフロート移動手段17が設けられている。
【0038】
(可動部17b)
このフロート移動手段17は、上記フロート部15を接続配管4の軸方向に沿って移動させることができる可動部17bを備えている。この可動部17bは、取付部17a、17cによって固定配管3やフロート15に連結されており、取付部17a、17cの間で伸縮できるようになっている。例えば、可動部17bには、公知の油圧シリンダやエアシリンダなどのシリンダ機構や電磁石等を採用することができる。なお、可動部17bは、電気的に接続された図示しない制御部によって作動が制御されていてもよいし、手動で制御してもよい。
【0039】
かかる構造とすれば、可動部17bを伸長することによって、フロート部15を接続配管4の先端方向に向かって移動させた状態で保持することができる。このとき、隣接するフロート部15同士は、両者の端部同士が連結した状態で、接続配管4の先端方向に向かって付勢された状態となる。つまり、可動部17bを伸長させてその状態を保持すれば、フロート部15同士を連結状態で強固に保持しておくことができる。
【0040】
すると、フロート部15は、接続配管4の横方向からの力に対してより抗することができるようになるので、密度の高い浸出残渣スラリーSによって形成されたスラリー沈殿物SAの山であっても崩すことが容易となる。
【0041】
なお、連結状態を解除する場合には、可動部17bを収縮させるだけでよい。つまり、可動部17を伸縮させるだけで、複数のフロート部15を連結状態と分離状態との間で切替えることが可能となるので、複数のフロート部15の操作性を向上させることができる。しかも、可動部17を伸縮させるだけで、フロート部15を離間した状態にできるので、貯留用池Pの水面F上において、所望のフロート部15を俯瞰しながら位置を調節して修繕などをすることもできるようになる。
【0042】
また、可動部17bは、接続配管4の長さや、接続配管4に取り付けられたフロート部15の数や大きさ等に応じて適宜その数や取り付け位置を調整すればよい。例えば、
図4では、接続配管4を挟んで反対側の位置にさらに他の可動部17bを設けてもよいし、流出部3hと上記フロート部15の上部同士(
図4では紙面手前側の位置)を接続するように他の可動部17bを設けてもよい。
【0043】
また、可動部17bが、ボールジョイントを介して取付部17a、17cと連結されていてもよい。この場合、接続配管4の揺動に追従して可動部17bを揺動させることができる。すると、接続配管4が流出部3hに対してある程度の角度で曲がった状態でもフロート部15を接近状態にすることができる。とくに、上述したように流出部3hとフロート部15とを繋ぐように可動部17bを設けた場合には上記構造とすれば、接続配管4の揺動範囲をより広くすることができるので、より広範囲に存在するスラリー沈殿物SAの山を崩すことができるようになる。
【0044】
さらに、フロート移動手段17は、隣接するフロート部15同士を繋ぐ離間防止部材を備えていてもよい。この離間防止部材は、紐状の部材であり、自由に曲げることができる部材で形成することができる。この離間防止部材を隣接するフロート部15同士間に設けておけば、離間状態において、所定の間隔を開けた状態でフロート部15を配置できる。すると、貯留用池Pにおいて、接続配管4をある程度水平となるように浮かせておくことができるので、固定配管3から供給された浸出残渣スラリーSをスムースに接続配管4内を通過させることができる。
【0045】
(フロート固定手段18)
フロート固定手段18は、接近したフロート部15同士を連結固定するものであり、隣接するフロート部15同士を接近させた状態において、接続配管4の半径方向の移動を固定する機能を有するものであれば、その構造はとくに限定されない。
【0046】
例えば、接近した状態において、両者が互いに嵌め合い構造を有するものが望ましい。かかる構造とすれば、両者間に隙間が形成されにくくなるので、フロート部15同士を連結した際に接続配管4の半径方向の移動をより強固に固定することができるようになる。このような構造を有するフロート固定手段18としては、隣接するフロート部15において、一のフロート部15の端部に設けられた凸部18aと、他のフロート部15の他端部に設けられ凹み部18bとからなる構造を採用することができる。つまり、
図5(A)に示すように、フロート部15の接続配管4の軸方向に沿った両端部には、フロート固定手段18の凸部18aと、フロート固定手段18の凹み部18bがそれぞれ設けられているのである。
【0047】
フロート固定手段18の凸部18aと凹み部18bは、互いに嵌め合わせることができるように形成されていれば、その形状や位置はとくに限定されない。具体的には、隣接するフロート部15の端部同士が接近した状態において、一のフロート部15の端部には、他のフロート部15の他端部に設けられた凸部18a(例えば、
図5(B)では一番左側のフロート部15の凸部18a)が接する位置に凹み部18b(例えば、
図5(B)では真ん中のフロート部15の凹み部18b)が形成されている。
【0048】
この凹み部18bには、凸部18aを嵌め込むための収容部18bhが形成されている。
この凹み部18bの収容部18bhは、凸部18aを嵌め込むことができるように形成されていれば、その形状や大きさはとくに限定されない。例えば、収容部18bhの内周縁の形状が凸部18aの断面形状と略相似形であり、その大きさが凸部18aと同じか若干小さくなるように形成することができる(例えば、
図5では断面形状が略円形、
図6では断面形状が略四角)。
【0049】
また、収容部18bhの深さも凸部18aの一部または全部を嵌め込むことができるように形成されていれば、とくに限定されない。例えば、凸部18aの先端から基端までの距離とほぼ同じか若干長くなるように形成することができる(
図3(C)参照)。かかる構造とすれば、凸部18aの外面と凹み部18bの収容部18bhの内面との隙間をできるだけ少なくでき、かつ接触面積を増加させることができるので、両者間の連結強度をより向上させることができる。
【0050】
フロート固定手段18が、以上のごとき互いに嵌め合い可能な構造であるので、隣接するフロート部15同士を接近させれば、一のフロート部15の端部に設けられた凸部18aを他のフロート部15の他端部に設けられた凹み部18bに隙間が形成されにくい状態で嵌合させることができる。
このため、隣接するフロート部15同士の接続配管4の半径方向における移動、つまり、接続配管4の横方向の移動を強固に固定することができる。
すると、
図3(A)に示すように接続配管4を揺動させた際に接続配管4に対して加わる横方向からの力を、棒状に連結したフロート部15で支持することができるので、接続配管4を揺動させた際に接続配管4が変形等して破損するのを防止することができる。
【0051】
(フロート部15)
フロート部15は、上述したようにフロート等の浮力を有する部材で形成されており、接続配管4に、その軸方向に沿って取り付けることができる構造を有するものであれば、その構造はとくに限定されない。
【0052】
(円柱状のフロート部15)
例えば、
図5に示すように、フロート部15は、円筒状の部材であり、両端間を連通する連通孔15hが形成されたものを採用することができる。この連通孔15hは、接続配管4を挿通するための孔である。かかる構造のフロート部15を採用した場合、以下のような利点が得られる。
【0053】
図5に示すように、隣接するフロート部15同士を接近状態にすれば、接続配管4の表面がフロート部15によって覆われた状態とすることができる。そして、
図3(B)に示すように、かかる状態のまま接続配管4の基端を支点として吐出部10を移動させて、接続配管4をスラリー沈殿物SAの山へ向かって揺動させた場合、フロート部15によって接続配管4の表面が覆われているので、スラリー沈殿物SAに起因する接続配管4への損傷(例えば、スラリー沈殿物SA中の鋭利な固形物による損傷など)を防止することができる。
【0054】
(矩形状のフロート部15A)
上記例では、フロート部が円柱状の場合について説明したが、かかる構造に限定されないのは言うまでもない。例えば、
図6に示すような構造のフロート部15Aを採用してもよい。
【0055】
図6に示すように、このフロート部15Aは、矩形状の本体部15Aaと、接続配管4に取り付けるための配管取付部15Abとを備えている。この本体部15Aaは、その幅方向(
図6(B)では上下方向)の距離が接続配管4の外径よりも長くなるように形成されている。例えば、接続配管4の外径よりの3〜5倍の長さとなるように形成することができる。そして、この本体部15Aaの上面略中央部には、配管取付部5Abが設けられている。
【0056】
このため、フロート部15Aを接続配管4に取り付けた状態において、本体部15Aaの側面部が接続配管4の軸方向に略直交する方向にある程度突出した状態となる(
図6(B)参照)。すると、上述した円柱状のフロート部15の場合と同様に隣接するフロート部15A同士を接近状態にして接続配管4をスラリー沈殿物SAの山へ向かって揺動させた場合、スラリー沈殿物SAが接続配管4に接触する前にフロート部15Aの本体部15Aaの側面部でスラリー沈殿物SAの山を崩すことができるので、スラリー沈殿物に起因する接続配管への損傷を抑制することができる。
【0057】
しかも、フロート部15Aは、配管取付部15Abによって接続配管4に取り付けられているだけであるので、接続配管4からの取り外し作業を簡単に行うことができるから、フロート部15Aの交換作業を容易に行うことができるという利点も得られる。しかも、フロート部15の修理や交換は、接続配管4に浸出残渣スラリーSを流したまま行うことができるという利点も得られる。さらに、フロート部15がスラリー沈殿物SAに固着した場合には、フロート部15を削るか切り離すかすれば接続配管4を容易に移動させることができる。
【0058】
(吐出部10)
以下、吐出部10についてより具体的に説明する。
吐出部10は、上述したように接続配管4の先端に連結されており、浮遊体11と、この浮遊体11上に設けられた排出管12とを備えている。そして、この吐出部10は、浮いた状態で、接続配管4から供給された浸出残渣スラリーSを、その排出管12の先端から排出できるようになっている。このため、浸出残渣スラリーSを貯留したい位置に吐出部10を配置して、接続配管4を通して固定配管3から吐出部10の排出管12に浸出残渣スラリーSを供給すれば、浸出残渣スラリーSを排出管12の排出口12hから貯留用池Pに排出することができる。
【0059】
吐出部10が上記のような構造になっているので、貯留用池Pの貯水量が増水または減水したことにより水面高さが上下したとしても、吐出部10は貯留用池Pの水面Fの高さに追従して移動する。すると、排出管12の先端の排出口12hは、常に、貯留用池Pの水面Fよりも上方に維持される。
【0060】
しかも、接続配管4がフロート部15を有するフレキシブル配管で形成されているので、吐出部10だけでなく接続配管4も貯留用池Pの水面Fの高さに追従して移動するので、接続配管4から吐出部10に安定的に浸出残渣スラリーSを供給できる。
【0061】
なお、排出管12は、その基端を支点として、先端が上下または左右に自由に揺動可能に設けられていることが望ましい。排出管12をかかる構成とすれば、排出口12hの向きを自由に変更できるので、吐出部10の位置を変更しなくても、貯留用池Pにおいて浸出残渣スラリーSが排出される位置を変更できる。すると、吐出部10の位置を頻繁に変更しなくても、浸出残渣スラリーSを堆積させる領域を広くできるので、浸出残渣スラリーSが1か所に堆積することを抑制できる。
【0062】
また、排出管12は複数設けてもよい。この場合、各排出管12は、その排出口12hの軸方向の向きが非平行に配置されていることが望ましい。すると、複数の排出管12の排出口12hから異なる場所に浸出残渣スラリーSを排出できるので、浸出残渣スラリーSが1か所に急激に堆積することを抑制できる。例えば、
図1に示すように、複数の排出管12を、その基端を中心として放射状に配置すれば、吐出部10の周囲の広い範囲に浸出残渣スラリーSを排出することができる。
【0063】
さらに、排出管12を複数設けずに、排出口12hだけを複数設けてもよい。この場合も、排出口12hの軸方向(つまり排出口12hの開口面に対して垂直方向)の向きを非平行に配置する。すると、吐出部10の複数の排出口12hから異なる場所に浸出残渣スラリーSを排出できるので、浸出残渣スラリーSが1か所に急激に堆積することを抑制できる。例えば、排出管12に代えて、箱状や円板状の排出ボックスを設けて、この排出ボックスの側面に複数の排出口12hを設けてもよい。この場合でも、複数の排出口12hから浸出残渣スラリーSを排出すれば、吐出部10の周囲に浸出残渣スラリーSを排出することができる。
【0064】
さらになお、排出管12の先端の排出口12hは、必ずしもを貯留用池Pの水面F上に維持されていなくてもよい。つまり、排出管12の先端の排出口12hは水中に水没するようになってもよい。しかし、排出管12の排出口12hが貯留用池Pの水面F上に維持されるようになっていれば、排出管12の排出口12hを通した浸出残渣スラリーSの排出状況を確認できるので、好ましい。なお、排出管12の排出口12hを貯留用池Pの水面F上に維持する方法として、排出管12の先端部(つまり排出口12h近傍)にフロートを設けてもよい。
【0065】
一方、排出管12の排出口12hが水中に水没しても、水圧よりも浸出残渣スラリーSの吐出圧の方が大きければ、浸出残渣スラリーSの排出は可能である。また、吐出部10が浸出残渣スラリーSを逃がすバイパス流路を有していてもよい。この場合、浸出残渣スラリーSの吐出圧よりも水圧が高くなった場合には、バイパス流路を通って浸出残渣スラリーSを排出できるので、浸出残渣スラリーSによる排出管12や接続配管4の閉塞を防止できる。バイパス流路のスラリー排出口を設ける位置はとくに限定されないが、貯留用池Pの水面Fよりも上方に設けておくことが望ましい。すると、スラリー排出口から浸出残渣スラリーSが排出している状態を確認することによって、排出管12等の詰まりを発見できるという利点が得られる。
【0066】
さらに、吐出部10は、一つに限られず、複数設けてもよい。つまり、固定配管3に設けられている複数の流出部3hに、複数本の接続配管4を介して複数の吐出部10が接続されていてもよい。この場合、貯留用池Pのある程度距離が離れた複数の場所に、同時に、複数の吐出部10から浸出残渣スラリーSを排出することも可能となる。すると、貯留用池Pへの浸出残渣スラリーSの供給を均一化しやすくなる。
【0067】
また、吐出部10は、浮遊体11によって貯留用池Pの水面Fに浮かんでいるので、風などによって移動してしまう可能性がある。すると、浸出残渣スラリーSを所定の位置に排出できなくなる可能性があり、貯留用池Pに偏りが生じないように浸出残渣スラリーSを堆積させることが難しくなる可能性がある。
【0068】
そこで、
図1に示すように、吐出部10を岸などに固定する固定手段20を設けることが望ましい。固定手段20は、例えば、一端が吐出部10に連結されたロープ21と、このロープ21の他端に連結された固定器具22と、で構成することができる。かかる固定手段20を設ければ、吐出部10が所定の位置に配置されたのち、固定器具22を岸や固定配管3などに固定すれば、吐出部10の移動をある程度制限できる。また、吐出部10の移動をよりしっかりと固定する上では、
図1に示すように、ロープ21を2本以上設けて、2か所以上で吐出部10の移動を制限してもよい。
【0069】
また、上記のような固定手段20を設けた場合には、固定手段20を吐出部10を移動させる手段として使用することができる。例えば、ロープ21の他端を保持して岸に沿って移動すれば、ロープ21を介して吐出部10を引っ張ることができるので、吐出部10を移動させることができる。
【0070】
なお、吐出部10を移動させる手段は上記のような方法でもよいし、リモートコントロール可能な駆動手段(スクリューと舵などを有する装置等)を作動させて吐出部10を移動させるようにしてもよく、とくに限定されない。
【0071】
(固定配管3)
上述したように、固定配管3を貯留用池Pの周囲を囲むように設けて、複数の流出部3hを設ければ、吐出部10を配置する位置の自由度を高くできるという利点が得られる。つまり、接続配管4を接続する流出部3hを変化させれば、接続配管4の長さが同じでも、より広い範囲に吐出部10を配置できる。例えば、接続配管4の長さを、複数の流出部3hのどの流出部3hに接続しても、吐出部10を貯留用池Pの中央に配置できる程度の長さとしておく。すると、接続配管4の長さをそれほど長くしなくても、貯留用池Pの全域に吐出部10を配置させることが可能となる。
【0072】
(接続配管4)
上記例では、接続配管4として、フレキシブル配管を採用した場合について説明したが、接続配管4がある程度自由に曲げることができるものであれば、かかる配管に限定されない。例えば、複数の変形しにくい(つまり可塑性が低い)配管同士を複数のフレキシブルジョイントで連結したものや、流出部3hと可塑性の低い接続配管4との接続部にフレキシブルジョイントを備えた構造としてもよい。この場合、フレキシブル配管に比べて自由度がやや低下するものの、ジョイント以外の部分をより強度の高い素材で形成することができるので、堅牢性および耐久性を向上させることができるという利点が得られる。
また、流出部3hと接続配管4との接続部にフレキシブルジョイントを備えた場合には、可塑性が低いが剛直の性質を有する接続配管4の揺動角度を所望の角度に簡単に調整することができるという利点が得られる。
【0073】
(フロート部15、接続配管4の素材)
なお、フロート部15は、その素材はとくに限定されないが、浮きやすいものが好ましい。例えば、発泡スチロールなどの高分子系樹脂やバルサ材をフロート部15の材料とすることができる。とくに、フロート部15の浸出残渣スラリーSに触れる部分には、ある程度の強度を有するポリプロピレン、塩化ビニルなどの高分子樹脂を採用するのが好ましい。
また、フロート部15が脱落しても廃棄が容易となるように、セルロース、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックなどの素材で形成してもよい。
【0074】
接続配管4の素材もとくに限定されない。例えば、ポリプロピレン、塩化ビニルなど浸出残渣スラリーSより密度が小さいものを採用するのが好ましい。このような素材で接続配管4を形成すれば、浸出残渣スラリーを送液する際、接続配管4の内部を通過する浸出残渣スラリーSによって接続配管4が沈むのを抑制することが可能となる。
【0075】
また、接続配管4の一部が水面下に位置するように配置する場合には、接続配管4は、水面下に位置する部分を耐水性の高い素材で形成する一方、水上に位置する部分では紫外線や酸素などに対して耐性を有する素材で形成されたものを採用してもよい。この場合、接続配管4の経年劣化を抑制することが可能となる。