特許第6358950号(P6358950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358950機能性成分を含有する糖衣層付き固形食品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358950
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】機能性成分を含有する糖衣層付き固形食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20180709BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20180709BHJP
   A23G 4/00 20060101ALI20180709BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20180709BHJP
【FI】
   A23L5/00 F
   A23G3/34 101
   A23G4/00
   A23L21/10
【請求項の数】21
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-520071(P2014-520071)
(86)(22)【出願日】2013年6月7日
(86)【国際出願番号】JP2013065857
(87)【国際公開番号】WO2013183767
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2016年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-131429(P2012-131429)
(32)【優先日】2012年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】常松 雅子
(72)【発明者】
【氏名】長岡 典子
(72)【発明者】
【氏名】上野 博久
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 千明
(72)【発明者】
【氏名】松田 利加子
(72)【発明者】
【氏名】▲くわ▼野 豊
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−182753(JP,A)
【文献】 特開平04−112825(JP,A)
【文献】 特開平1−218573(JP,A)
【文献】 特開2008−125482(JP,A)
【文献】 特開2010−051233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
機能性成分が、糖衣層に配合され、固形食品には配合されておらず、
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L−カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上であり、
糖衣層にビタミンCを含まない、前記糖衣食品。
【請求項2】
糖衣層に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上の機能性成分を配合してなる、請求項1に記載の糖衣食品。
【請求項3】
糖衣層に、2種以上の機能性成分を配合してなる、請求項1または2に記載の糖衣食品。
【請求項4】
糖衣層および/または固形食品中の糖質が、非還元糖である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項5】
形食品中にビタミンCを含まない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項6】
糖衣層に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸ナトリウム塩、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン塩酸塩、アルギニンおよびプロリンの全てからなる組成物を配合してなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項7】
糖衣層が、機能性成分を含む粉体を用いて形成されてなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項8】
固形食品が、グミ、キャンディ、キャラメル、チューイングガムからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項9】
糖衣食品を製造する方法であって、
加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品に対し、機能性成分を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程、および、固形食品には機能性成分を配合しないことを含み、
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L−カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記方法。
【請求項10】
糖衣層を形成する工程が、糖質を含む粉体を供給することをさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
機能性成分を含む粉体が、さらに糖質を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
糖衣層を形成する工程が、加熱工程を含まない、請求項9〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
固形食品を、ビタミンCを含まない糖衣層が覆う糖衣食品において、固形食品および/または機能性成分の性質に影響を与えることなく、機能性成分を配合する方法であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
糖衣層に機能性成分を配合すること、および、固形食品には機能性成分を配合しないことを含み、
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L−カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記方法。
【請求項14】
糖衣層を、機能性成分を含む粉体を用いて形成することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品であり、機能性成分が、オリゴ糖、ビタミンまたは酵素を含み、加熱により機能性成分が分解または減少することを回避するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品であり、機能性成分が、果汁を含み、加熱により加熱臭が生じることを回避するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
固形食品が、ゲル化を利用した固形食品であり、機能性成分が、ポリフェノールまたはミネラルを含み、ゲル強度の低下を回避するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項18】
固形食品が、ゲル化を利用した固形食品であり、機能性成分が、鉄化合物であるミネラルを含み、黒変が生じることを回避するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項19】
固形食品が、ゲル化を利用した固形食品であり、機能性成分が、食物繊維を含み、粘度が上昇し、ゲルの形成が困難になることを回避するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項20】
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ビタミンまたはミネラルを含み、固形食品の均質性の喪失を回避するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項21】
機能性成分が、アミノ酸および/またはペプチドを含み、メイラード反応を防止するための、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分を含有する食品に関する。
より詳細には、機能性成分を効率的に摂取できる固形状の糖衣食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アミノ酸やペプチドなどを栄養素として摂取することが注目され、とくにスポーツ・健康分野において研究が進展しており、すでに製品化もされている。それらの形状として、ゼリー状、錠剤、粉末などの形態も知られているが、主にスポーツやハイキング時などに用いられる飲料形態のものがほとんどである(特許文献1)。
【0003】
一方、機能性成分を含有する食品とは直接関係ないが、喫食時の楽しさ、食べやすさを主目的として、粒状やタブレット様の糖衣食品が、菓子類などとして種々開発され、(特許文献2)、製品化もされている。
また、ビタミンCが配合された菓子類として、グミ組成物に配合したものが製品化され、砂糖の層とビタミンCの層が交互に重なり合った糖衣層とした、糖衣した食品も提案されているが(特許文献3)、これは、糖衣した食品に、滑らかな舐め心地と、カリッとした食感を与えることを目的としており、機能性成分の効果的な摂取を目的とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−314260号公報
【特許文献2】特開平7−67554号公報
【特許文献3】特開2010−51233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機能性成分を含有する食品において、上記の形状には、それぞれ食べやすさ(飲みやすさ)の観点や容器の形状などにおいて一長一短があり、とくに飲料形態の食品では、運動中に飲み込みにくいとか、水分量が多くて携行するには重いなどの問題もある。
【0006】
そこで本発明者らは、簡便に使用することができるアミノ酸などの機能性成分入りの固形食品を作ることを試みたが、一般的に固形食品では、どうしても加熱工程を含むことが多く、そうすると、例えば、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などのアミノ基を有する機能性成分の場合には、これらが糖類と反応して、褐色物質に変化する、所謂、メイラード反応を惹起し、アミノ酸を適正に摂取させることができない、または商品価値を下げてしまうといった問題や、その他の機能性成分についても、加熱による成分自体の分解、加熱臭の発生、さらにはゲル化を利用した固形食品にあっては、ゲル化の阻害の問題のような様々な問題に直面したところ、機能性成分入りの固形食品の製造には、数々の問題を克服しなければならないという全く新たな課題を認識するに至った。
したがって、本発明の課題は、上記の問題点を合理的に解決し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を効率的に摂取できる、菓子類などの固形食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、固形食品に対し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合した糖衣層を被覆することにより、前記の問題を一挙に解決できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
[1]
固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、前記糖衣層に、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L−カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上の機能性成分を配合してなる、前記糖衣食品。
[2]
糖衣層に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上の機能性成分を配合してなる、[1]に記載の糖衣食品。
[3]
糖衣層に、2種以上の機能性成分を配合してなる、[1]または[2]に記載の糖衣食品。
[4]
糖衣層および/または固形食品中の糖質が、非還元糖である、[1]〜[3]のいずれかに記載の糖衣食品。
【0009】
[5]
固形食品には機能性成分を配合していない、[1]〜[4]のいずれかに記載の糖衣食品。
[6]
糖衣層および/または固形食品中にビタミンCを含まない、[1]〜[5]のいずれかに記載の糖衣食品。
[7]
糖衣層に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸ナトリウム塩、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン塩酸塩、アルギニンおよびプロリンの全てからなる組成物を配合してなる、[1]〜[6]のいずれかに記載の糖衣食品。
[8]
固形食品が、グミ、キャンディ、キャラメル、チューイングガムからなる群から選択される、[1]〜[7]のいずれかに記載の糖衣食品。
【0010】
[9]
糖衣食品を製造する方法であって、固形食品に対し、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L−カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される、1種または2種以上の機能性成分を含む粉体を供給して、糖衣層を形成する工程を含む、前記方法。
[10]
糖衣層を形成する工程が、糖質を含む粉体を供給することをさらに含む、[9]に記載の製造方法。
[11]
機能性成分を含む粉体が、さらに糖質を含む、[10]に記載の製造方法。
[12]
糖衣層を形成する工程が、加熱工程を含まない、[9]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアミノ酸、ペプチドなどの機能性成分を含有する糖衣食品は、特別な容器を必要としない簡便で摂取しやすい形状でありながら、アミノ酸、ペプチドなどの機能性成分を分解することなく確実に摂取せしめることができる。
すなわち、加熱工程を必要とし得る固形食品に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合するのではなく、加熱工程が不要であるか短時間ですむ糖衣層に、これらを配合し、これを固形食品に被覆することにより、以下のような様々な問題、すなわち、
― オリゴ糖は、低pHの場合に加熱によって分解する
― ビタミンは、熱を加えると反応して減少する
― 酵素は、熱を加えると失活したり、他成分と反応して減少する
― 果汁は、熱を加えると反応して加熱臭を生じる
などを回避することができる。
【0012】
また、グミのように、ゲル化を利用した固形食品では、以下のような問題、すなわち、
― ポリフェノールやミネラルは、ゲル化を阻害し、ゲル強度を低下させる
― ミネラルのうち鉄化合物は、ゼラチンと反応し黒変を生じる
― 難消化性デキストリンなどの食物繊維は、粘度を上昇させ、ゲルの成形を困難にする
なども回避することができる。
【0013】
さらにまた、
― アミノ酸、ペプチド、ビタミン、ミネラルなどの溶解性が低いものでは、固形食品の均質性を喪失させる
といった問題も回避することができる。
このように、機能性成分を固形食品に配合しないことにより、固形食品の性質に影響を与えることなく、機能性成分を配合した固形食品を提供することができるため、糖衣層の材料を適宜変化させることにより、同一の固形食品を用いて、バリエーション豊かな製品の設計が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における「機能性成分」とは、健康によいとされる機能を有する成分を意味する。
機能性成分の例として、典型的には、筋肉の増加、疲労の抑制(抗疲労)、疲労の回復、持久力の向上などのように、スポーツに際して有利な効果を与える効果を奏するスポーツ栄養成分が挙げられる。
【0015】
機能性成分の具体例としては、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L−カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンが挙げられる。
【0016】
アミノ酸の具体例としては、必須アミノ酸(トリプトファン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン)、タンパク質を構成している、その他のアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、チロシン、システイン、プロリン)、その他の特定の用途のために摂取が望まれるアミノ酸、例えばγ‐アミノ酪酸、タウリン、シトルリン、オルニチン、クレアチン、テアニンなどが挙げられる。ここで、遊離アミノ酸のみならず、ナトリウム塩、塩酸塩、酢酸塩などの塩も用いることができる。
【0017】
ペプチドの具体例としては、ホエイペプチド、大豆ペプチド、コラーゲンペプチドなどが挙げられる。
補酵素の具体例としては、コエンザイムQ10、葉酸、ビタミンB群、パントテン酸などが挙げられ、アミノ糖の例としては、グルコサミンなどが挙げられる。
【0018】
本発明の一態様において、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖では、メイラード反応が生じるため、固形食品への配合量(含有量)を維持することが非常に困難であり、また、栄養価が高いため、機能性成分として、アミノ酸および/またはペプチドを配合することが好ましい。
また、本発明は、機能性成分を固形食品に配合するに際し、上述の通り、様々な問題点があるため、複数の種類の機能性成分を配合する場合には、特に有効である。
【0019】
本発明における「糖衣食品」とは、糖衣層で被覆された固形食品を意味し、典型的には、糖衣層を噴霧(スプレー)により被覆された固形食品や、回転釜により被覆された固形食品である。
本発明における「固形食品」とは、糖衣層で被覆され得る固形状の食品であれば、とくに限定されないが、典型的には、菓子類や、医療的効果も期待できる栄養補助食品などの加工食品、および果実や種実などの天然食材などが含まれる。
本発明は、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分の減衰を防止できることから、製造工程で高温になる加工食品をセンターとする固形食品に用いることがとくに有効である。
【0020】
本発明において、固形食品として手軽に摂取でき、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンなどの機能性成分の風味をマスキングしやすいため、固形食品がグミ、(ハードおよびソフト)キャンディ、キャラメル、チューイングガムなどの菓子類であること好ましい。
本発明の一態様において、固形食品として摂食に費やされる時間が比較的に短く、アミノ酸、ペプチドなどの機能性成分を簡便に摂取することができるため、固形食品がグミであることがとくに好ましい。
【0021】
本発明において、固形食品に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合してもよいが、メイラード反応を避ける必要がある場合には、かかる成分の配合を控えることが好ましい。
本発明の一態様において、固形食品に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合してもよく、メイラード反応が起こりにくくする場合には、機能性成分の種類を選定して限定することがとくに好ましい。
【0022】
固形食品は、食味や香味の中心的な存在なので、糖質、香料、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸など)を配合して、食味や香味を整えることが好ましい。また、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などを含有する糖衣層との接触面におけるメイラード反応を防止する観点から、果糖やビタミンCを含有する果汁を配合しないことが好ましい。さらに、固形食品(例えば、グミなど)において、ゼラチンやペクチンを配合することにより、糖衣層と異なる食感の固形食品(センター部分)を調製することができて好適である。
固形食品に用いられる糖質としては、とくに限定されないが、アミノ酸を含有する糖衣層との接触面におけるメイラード反応を防止する観点から、非還元糖を用いることが好ましい。
【0023】
本発明において「非還元糖」とは、分子中にアルデヒド基(−CHO)やケトン基(−CO−)などの還元性のある基を持たない糖類、糖アルコール、還元水飴などを例示することができる。非還元性の糖類としては、蔗糖(グラニュー糖、粉糖)が挙げられる。
本発明において、糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノースなどが挙げられる。還元水飴としては、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴、低糖化還元水飴のいずれも用いることができる。固形食品においては、甘味度や粘度を考慮すると、中糖化還元水飴を用いることが好ましい。そして、糖アルコール、還元水飴、グラニュー糖などの非還元糖の、2種または3種以上をバランスよく組み合わせて使用し、甘味や食味を整えることが好ましい。
【0024】
糖アルコールや還元水飴の摂取量が過剰とならないために、個々の糖質の緩下作用を考慮した添加量とすることが望ましい。また、酸化劣化防止剤のアスコルビン酸や、各種成分の混和性をよくするため、混和性助剤となる乳化剤のショ糖脂肪酸エステルなどを配合することも好ましい。
【0025】
<糖衣層の製造方法>
本発明において「糖衣層」とは、糖質を含む被覆であれば、とくに限定されないが、典型的には、糖質および酸味料などにより形成された層をいう。
一般的な糖衣層の調製方法は、
A)センターとなる固形食品を回転容器内に投入し、
B)投入した固形食品を回転させながら、これに糖衣層の被覆用のガム液を供給して、固形食品の表面全体に行き渡らせ、
C)ついで、送風および/またはグラニュー糖などの粉体の投入により、乾燥した糖衣層を形成、
D)上記B)、C)の工程を複数回繰り返して、固形食品の全体を確実に覆う多層の糖衣層を形成、
というものである。
【0026】
本発明のように、糖衣層に機能性成分を配合する場合には、機能性成分の散逸やメイラード反応などによる変化を確実に避けるため、糖衣層の形成において、加熱工程を含まないことが好ましい。したがって、糖衣層を常温よりも低温の送風や、粉体の投入により乾燥させることが好ましい。したがって、糖衣層の形成において、糖質を粉体形状で供給することが好ましい。
【0027】
また、粉体形態で機能性成分を投入することにより、液体を投入して、乾燥させる工程を含む、糖衣形成方法(ハード掛け)と比較して、より多量の機能性成分を被覆・配合することができる。
さらに、糖衣層の形成において、機能性成分の粉体と、糖質の粉体とを混合した粉体を用いることにより、微量成分も含めて水溶性成分と脂溶性成分をほぼ均等に被覆・配合することができる。
さらに必要に応じ、糖衣層の形成の後に、ワックスをかけたり、高融点油脂から調製された粉末油脂のパウダーを投入し、糖衣層付き固形食品の表面全体に行き渡らせて、なめらかで極薄い油脂表面層を形成することもできる。
【0028】
<糖衣層の形成用のガム液>
本発明において、糖衣層の形成用のガム液は、糖衣を形成できるものであれば、とくに限定されないが、典型的には、糖質の一部として食用ガム質を含む液体である。
本発明において、食用ガム質としては、アラビアガム、プルラン、キサンタンガム、グアーガムなどが挙げられ、好ましくは、アラビアガム、プルランである。食用ガム質の配合量は、ガム液の粘度や固形食品(センター部)の材質、目標の糖衣層の設計内容などに応じて適宜調整することができる。典型的には、ガム液の全体に対して、0.1〜10重量%、好ましくは1〜8重量%で配合される。
【0029】
ガム液はアミノ酸と接触するものであるから、ガム液に配合する糖質には、メイラード反応を起こさない糖質、すなわち非還元糖を用いることが好ましい。
本発明において、糖衣層に配合される非還元糖としては、蔗糖(グラニュー糖、粉糖)などの非還元性の糖類、糖アルコール、還元水飴のいずれも好ましい。糖質の配合量は、ガム液の粘度や固形食品(センター部)の材質、目標の糖衣層の設計内容などに応じて適宜調整することができる。典型的には、ガム液の全体に対して、50〜90重量%、好ましくは60〜80重量%で配合される。
【0030】
水の配合量は、ガム液の粘度や固形食品(センター部)の材質、目標の糖衣層の設計内容などに応じて適宜調整することができる。典型的には、ガム液の全体に対して、10〜50重量%、好ましくは20〜30重量%で配合される。
糖衣層は、食品の喫食で、最初に食味や香味を感じさせる部分であるから、一般的に、香料、色素、酸味料などを配合することもできる。
【0031】
<糖衣層の形成用の粉体>
糖衣層の形成用の粉体は、典型的には、糖質を含む粉体である。
本発明において、糖衣層の形成用の粉体原料に配合する糖質は、非還元糖、とくに蔗糖(グラニュー糖、粉糖)が好ましい。
また、ビタミンCであるアスコルビン酸は、還元糖と性質が類似しているため、アミノ酸と反応したり、酸化されると、褐変しやすい物質に変化するため、アスコルビン酸を糖衣層(粉体および/またはガム液)に配合しないことが好ましい。
【0032】
<糖衣層への機能性成分の配合>
糖衣層への機能性成分の配合の方法は、とくに限定されないが、ガム液の投入後の乾燥工程で投入する粉体に、機能性成分の粉末を混ぜて配合すれば、作業性がよくて好ましい。糖衣層の形成に用いられる、すべての粉体に機能性成分を配合することも可能であるが、機能性成分を安定に保持する観点から、糖衣中間層の形成時に、粉体に機能性成分の粉末を加えることが好ましい。
糖衣層は多層で形成されれば、きれいで丈夫であり、機能性成分を散逸させず、確実に保持して、糖衣層付き固形食品の全体のアミノ酸量を、製品の流通、製品の保存中などに、ほとんど減衰しないように調整することができる。
【0033】
<配合される機能性成分の種類など>
配合される機能性成分の種類は、食品または食品添加物として使用が許可されている機能性成分であれば、とくに限定されず、適宜、選択・使用できる。このとき、機能性成分を単独で、または2種または3種以上を組み合わせて、機能性成分組成物として配合することができる。複数種類の機能性成分を組み合わせた組成物とすることにより、機能性などの相乗効果が期待できて好ましい。
【0034】
機能性成分の配合量は、とくに限定されないが、実際に用いられる機能性成分の効果・作用を考慮して適宜調整することができる。典型的には、糖衣層付き固形食品の1パッケージ(例えば、40g)当たり、500〜4000mg、好ましくは1000〜2000mgである。したがって、糖衣食品全量に対して、1.25〜10重量%、好ましくは2.5〜5重量%、糖衣層全量に対して、3.7〜30重量%、好ましくは7.4〜15重量%である。
例えば、アミノ酸を2種または3種以上を組み合わせて、アミノ酸組成物として配合することができる。
【0035】
本発明は、機能性成分を粉体形状のままで利用することができるため、飲料などの形状では、高配合が困難だったり、溶解度が低かったりする機能性成分であっても、好適に用いることができる。溶解度が低い機能性成分としては、例えば、グルタミン酸、チロシン、トリプトファンなどのアミノ酸、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどの脂溶性のビタミンが挙げられる。しがたって、本発明の一態様において、これらのアミノ酸の1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
本発明は、固形食品の風味によって、機能性成分の風味をマスキングすることができるため、苦味や硫黄臭などの好ましくない風味を有するメチオニン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシン、アルギニンなどのアミノ酸、苦味を有する(塩化)カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛などのミネラル、ビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB12など)などであっても、好適に用いることができる。とくに、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファンの風味は、一般の食品として非常に不快な風味であるにも拘らず、本発明のマスキング効果は顕著に表れる。しがたって、本発明の一態様において、これらの機能性成分の1種または2種以上を用いることができる。
【0037】
本発明は、メイラード反応を抑制・防止することができるので、メイラード反応を起こしやすいアミノ酸、例えば、リシン、ヒスチジン、アルギニンであっても、好適に用いることができる。さらに、メイラード反応を起こしやすい還元末端を持つジペプチド、トリペプチドなどのペプチド、グルコサミンなどのアミノ糖などであっても、好適に用いることができる。しがたって、本発明の一態様において、これらのアミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
本発明は、固形食品に機能性成分を配合する必要がないため、ゲル化を阻害するような成分、例えば、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維などであっても、好適に用いることができる。
【0039】
本発明の一態様において、アミノ酸組成物としては、筋肉のエネルギー源として重要である、バリン、ロイシン、イソロイシンを含む組成物が好ましい。
【0040】
本発明の一態様において、アミノ酸組成物としては、スポーツ科学や運動生理学の研究成果から推奨されるアミノ酸の混合系が好ましく、代表的には、表1の17種の混合系が挙げられる。この配合組成は、スズメバチの幼虫が分泌液として成虫に供与する栄養成分を分析して見出されたもので、スズメバチ成虫の高い運動能力や持久力を支えている栄養素であることが、理化学研究所などの研究によって解明されている。
【0041】
【表1】
【0042】
アミノ酸の配合量は、とくに限定されないが、実際に用いられるアミノ酸の効果・作用を考慮して適宜調整することができる。典型的には、糖衣層付き固形食品の1パッケージ(例えば、40g)当たり、500〜4000mg、好ましくは1000〜2000mgである。したがって、糖衣食品全量に対して、1.25〜10重量%、好ましくは2.5〜5重量%、糖衣層全量に対して、3.7〜30重量%、好ましくは7.4〜15重量%である。
アミノ酸組成物には、カルニチン、コエンザイムQ10などの他の機能性成分を添加することにより、脂質の代謝、持久運動能力の向上、筋肉損傷の回復などの効果が期待できて好ましい。このように複数の種類の機能性成分を配合する場合であっても、本発明は、これらを糖衣層に配合するため、上述のような様々な問題を回避することができる。
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
アミノ酸含有の糖衣層付き固形食品の調製事例として、糖衣層にアミノ酸を添加した「ソフト糖衣掛けグミ」を製造した。
1粒あたりの重量を約1gとし、糖衣層とセンター固形食品の重量比率は、糖衣層を3割、センター固形食品を7割で配分することとした。
1袋当たり40粒、全体重量の40gを1つの製品パッケージと想定し、アミノ酸の配合量については、40粒の全体重量の40gで、1500mgのアミノ酸を摂取できるように設計した。
まずは、表2の配合組成により、固形食品としてセンターとなるグミを調製した。
【0045】
【表2】
【0046】
ゼラチンをゼラチンの1.3倍量の温水(約80℃)に分散させ、ゆっくりと撹拌しながらゼラチンを溶解した。グラニュー糖、還元水飴、D−ソルビトールの水溶液を123℃に加温した後、380mmHgに減圧して、糖度が88%になるまで煮詰め、ゼラチン溶解液および50重量%クエン酸溶液と同時に、せん断ミキサーに連続的に送液し、色素と香料を混合した後、充填機に生地を連続的に送液し、コーンスターチに型押ししたスターチモールドに1粒あたり0.73gになるように流し込み、水分減少の後、1粒あたり0.70gのセンターとなるグミを得た。
次いで、表3の配合組成により、糖衣層の形成用のガム液を調製した。
【0047】
【表3】
【0048】
糖衣掛けには、φ900mmの回転釜を使用し、1釜あたりセンター部(固形食品)を約56kg投入して、表3に記載のガム液を掛けた後、クエン酸を投入し、次にグラニュー糖を投入した。グラニュー糖に分散させた表4のアミノ酸組成物を掛け、これを数回で繰り返した。その後、ガム液を掛けてから、グラニュー糖を含む粉体を掛け、これを最終重量まで、数回繰り返し、最後に粉糖を投入した。糖衣掛けグミの重量が1g/粒、すなわち1釜あたり80kgになるように糖衣掛けを実施した。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
これら得られたグミは、喫食すると直ちに糖衣層のアミノ酸のかすかな風味(苦み)を感じるものの、すぐに、センター部(固形食品)の風味により、マスキングされるので、グレープフルーツの外観に合致した、違和感のない食味、風味であり、おいしいと評価した。また、糖衣層とセンター部で食感(テクスチャー)が異なるので、歯触りや噛みごたえの変化も楽しめると評価した。
【0052】
〔実施例2〕
実施例1で製造したグミを40粒毎に透明スタンディングパウチに投入し、封じてから、紙箱で個別包装して、製品形態とした。
〔保存試験1〕
常温(23℃)に6ヶ月間保存し、外観を評価した。
製造直後と比較して、やや固さが増したが、アミノ酸の褐変臭は感じられず、良好な風味を維持していた。また、製品の表面がやや白っぽくなったものの、ブロッキングは見られず、良好な品質を維持していると判断した。
さらに、常温(23℃)に7.5ヶ月保存し、合計13.5ヶ月保存した後も、ブロッキングは見られなかった。
【0053】
〔保存試験2〕
37℃に1週間保存し、変形の有無を確認したところ、ブロッキング(双子)はあるが、簡単に手でほぐすことができ、糖衣のはがれや、つぶれなどは見られなかった。
〔保存試験3〕
さらに夏場の流通を想定し、42℃に2時間保管し、外観を確認したところ、べたつき、ブロッキング、ひび割れなどは認められなかった。
【0054】
〔保存試験4〕
23℃に1,3,6,9,13.5ヶ月間保存した後、各アミノ酸の含量を測定した結果を表6に示す。いずれのアミノ酸も、その含有量が大幅に減衰していないことが確認された。
【0055】
【表6】
【0056】
〔保存試験5〕
30℃(湿度80%)に2週間、1,2,3,4.5ヶ月保存した後、各アミノ酸の含量を測定した結果を表7に示す。いずれのアミノ酸も、その含有量が大幅に減衰していないことが確認された。
【0057】
【表7】
【0058】
〔比較例1〕
固形食品にアミノ酸を混合した態様(単層グミ)
表8の配合組成により、実施例1におけるセンターとなるグミと同様に、グミを調製した。
【0059】
【表8】
【0060】
得られたグミを、80℃に2時間保存した後、23℃で1月、6月、13.5月保存した後の各アミノ酸含有量の測定結果を表9に示す。ほとんどのアミノ酸の含有量が大幅に減衰していることが確認された。
【0061】
【表9】
【0062】
また、グミに配合する糖質を、非還元糖に変更した場合も、アミノ酸の含有量が減衰することも確認された。
【0063】
〔比較例2〕
固形食品にアミノ酸を混合した態様(二層グミ)
表10の配合組成により、実施例1におけるセンターとなるグミと同様に、グミ組成物を2種類を調製し、シェル:2g、センター:3gの比率で二層のグミを得た。
【0064】
【表10】
【0065】
得られたグミにおけるアミノ酸含有量測定の結果、製造中にアミノ酸の含有量が減衰すること、すなわち、初期充填品と、最終充填品とで、アミノ酸の含有量が異なることが確認された。
【0066】
これらの結果から、アミノ酸を糖衣層に含有させることにより、アミノ酸の減衰を抑制することができることが示された。