特許第6359225号(P6359225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6359225-液晶性樹脂組成物 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359225
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】液晶性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20180709BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20180709BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C08L101/12
   C08K7/22
   C08K7/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-507052(P2018-507052)
(86)(22)【出願日】2017年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2017014287
(87)【国際公開番号】WO2017179474
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2018年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-82296(P2016-82296)
(32)【優先日】2016年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−201689(JP,A)
【文献】 特開2007−126578(JP,A)
【文献】 特開2004−027021(JP,A)
【文献】 特開平08−059965(JP,A)
【文献】 特開平11−1509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 7/00−7/28
C08K 3/00−3/49
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性樹脂と、(B)アスペクト比が1.15以上である中空フィラーと、を含有し、(B)成分がガラスバルーンである液晶性樹脂組成物であって、
前記アスペクト比は、動的画像解析法/粒子状態分析計を用いて、粒子投影面において最も長い部分の長さである最大長Lと、粒子投影面において最大長Lに対し垂直な方向で最も長い部分の長さである最大垂直長Sとを3000個の粒子について測定し、その測定を数回繰り返して、各粒子について計算された比L/Sの相加平均の値である液晶性樹脂組成物
【請求項2】
(A)成分の含有量が60質量%以上95質量%以下であり、(B)成分の含有量が5質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
更に、(C)板状充填剤を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(C)成分がマイカである請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
(A)成分の含有量が60質量%以上95質量%未満であり、(B)成分の含有量が5質量%以上20質量%以下であり、(C)成分の含有量が0質量%超20質量%以下である請求項3又は4に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。一方、近年、携帯電話;無線LAN;GPS、VICS(登録商標)、ETC等のITS技術等の情報通信分野において著しい技術発達がなされている。これに応じて、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において適用できる高性能な高周波対応電子部品のニーズが強くなっている。このような電子部品を構成する材料は、個々の電子部品の設計に応じて、適切な誘電特性を有することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル90〜45重量%、アスペクト比が2以下の無機球状中空体10〜40重量%、アスペクト比が4以上の無機充填剤0〜15重量%を配合した組成物を射出成形して得られる、比誘電率が3.0以下、誘電正接が0.04以下の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物成形体が、耐ハンダリフロー等の耐熱性を有し、誘電特性に優れ、マイクロ波、ミリ波等の高周波帯域で用いられる情報通信機器の送受信部品の固定あるいは保持部材に用いられる成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−27021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、無機球状中空体等の中空フィラーを含有する従来の液晶性樹脂組成物は、溶融粘度が著しく高く、流動性が不良であることが判明した。ここで、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の上昇は、当該液晶性樹脂組成物を構成する液晶性樹脂そのものの分子量の増加及び耐熱性の向上を意味するものではない。よって、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の上昇に合わせて成形温度を高く設定することは、液晶性樹脂の分解を引き起こしてしまい、当該液晶性樹脂組成物の成形性を向上させる方法としては好ましくない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、成形性の良好な低誘電率の液晶性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、アスペクト比が1.15以上である中空フィラーを用いることで、溶融粘度上昇及び流動性悪化が抑制され、成形性の良好な低誘電率の液晶性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) (A)液晶性樹脂と、(B)アスペクト比が1.15以上である中空フィラーと、を含有する液晶性樹脂組成物。
【0009】
(2) (B)成分がガラスバルーンである(1)に記載の組成物。
【0010】
(3) (A)成分の含有量が60質量%以上95質量%以下であり、(B)成分の含有量が5質量%以上20質量%以下である(1)又は(2)に記載の組成物。
【0011】
(4) 更に、(C)板状充填剤を含有する(1)又は(2)に記載の組成物。
【0012】
(5) (C)成分がマイカである(4)に記載の組成物。
【0013】
(6) (A)成分の含有量が60質量%以上95質量%未満であり、(B)成分の含有量が5質量%以上20質量%以下であり、(C)成分の含有量が0質量%超20質量%以下である(4)又は(5)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形性の良好な低誘電率の液晶性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)〜(c)は、それぞれ、後述のガラスバルーン1〜3の個々の粒子について計算した比L/S(ここで、Lは、粒子投影面において最も長い部分の長さである最大長を示し、Sは、粒子投影面において最大長Lに対し垂直な方向で最も長い部分の長さである最大垂直長Sを示す。)の度数分布及び累積度数分布を示すヒストグラムである。
図2図2は、実施例及び比較例で用いた比誘電率測定用試験片の切り出し位置を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
<液晶性樹脂組成物>
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂と、(B)アスペクト比が1.15以上である中空フィラーと、を含有する。
【0018】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0019】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0020】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0021】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0022】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン、4−アセトキシアミノフェノール等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C〜C)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO−、−S−、及び−CO−より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:−(CH−(n=1〜4)及び−O(CHO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0023】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法やスラリー重合法等が用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、2酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BFの如きルイス酸塩等があげられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001〜1質量%、特に約0.01〜0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0024】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec−1で10MPa以上600MPa以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0025】
(A)成分の含有量は、本発明に係る液晶性樹脂組成物において、好ましくは60質量%以上95質量%以下、より好ましくは64質量%以上93質量%以下、更により好ましくは69質量%以上90質量%以下である。特に、本発明に係る液晶性樹脂組成物が(C)板状充填剤を含有する場合、(A)成分の含有量は、本発明に係る液晶性樹脂組成物において、好ましくは60質量%以上95質量%未満、より好ましくは64質量%以上93質量%以下、更により好ましくは69質量%以上90質量%以下である。(A)成分の含有量が60質量%以上であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすい。(A)成分の含有量が95質量%以下又は95質量%未満であると、(B)成分の含有量が十分となるため、得られる液晶性樹脂組成物は低誘電率となりやすい。
【0026】
[(B)アスペクト比が1.15以上である中空フィラー]
(B)中空フィラーは、一般にバルーンと呼ばれているものであり、中空球体の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ガラス等の無機材料;尿素樹脂、フェノール樹脂、等の有機材料;が挙げられる。中でも、耐熱性や強度の観点からガラスが好ましい。即ち、中空フィラーとしては、ガラスバルーンが好適に用いられる。(B)成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(B)中空フィラーは、アスペクト比が1.15以上であるため、アスペクト比が1.15未満の中空フィラーと比較して、異方性がより大きい。よって、(B)中空フィラーを含有する組成物においては、液晶性樹脂の良好な流動性を発揮させている高い分子配向性が乱されにくいため、溶融粘度上昇及び流動性悪化が抑制されやすいと推測される。
【0028】
(B)中空フィラーのアスペクト比は、溶融粘度上昇及び流動性悪化の抑制並びに成形性等の観点から、1.15以上であり、好ましくは1.20以上2.00以下であり、より好ましくは1.22以上1.50以下であり、更により好ましくは1.25以上1.30未満である。
【0029】
本明細書において、アスペクト比としては、動的画像解析法/粒子状態分析計を用いて、粒子投影面において最も長い部分の長さである最大長Lと、粒子投影面において最大長Lに対し垂直な方向で最も長い部分の長さである最大垂直長Sとを3000個の粒子について測定し、その測定を数回繰り返して、各粒子について計算された比L/Sの平均の値を採用する。
【0030】
(B)成分の平均粒子径は、成形性の観点から、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、(B)成分の破壊抑制や成形性の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更により好ましくは50μm以下である。なお、本明細書において、(B)成分の平均粒子径としては、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した値(D50)を採用する。
【0031】
(B)成分の含有量は、本発明に係る液晶性樹脂組成物において、好ましくは5質量%以上20質量%以下、より好ましくは7質量%以上18質量%以下、更により好ましくは10質量%以上15質量%以下である。(B)成分の含有量が5質量%以上であると、得られる液晶性樹脂組成物は低誘電率となりやすい。(B)成分の含有量が20質量%以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすい。
【0032】
[(C)板状充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、任意に(C)板状充填剤を含有してもよい。(C)板状充填剤は、液晶性樹脂組成物の成形品において、反り抑制充填剤として作用する。(C)成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明者らの検討によれば、中空フィラーを含有する従来の液晶性樹脂組成物は、反りの大きい成形品を与えること、及び、反りを小さくするために、板状充填剤等の反り抑制充填剤を更に上記従来の液晶性樹脂組成物に添加すると、まずます流動性が悪化してしまうことが判明した。しかし、本発明に係る液晶性樹脂組成物では、(B)アスペクト比が1.15以上である中空フィラーを用いることにより、(C)板状充填剤を添加した場合であっても、良好な流動性を確保したまま、成形体の反りを小さくすることができ、寸法安定性に優れる。
【0034】
(C)板状充填剤は、平均粒子径が15〜50μmであることが好ましい。上記平均粒子径が15μm以上であると、必要な機械強度が確保されやすく、成形体の反り抑制効果が高くなりやすい。上記平均粒子径が50μm以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすい。好ましい上記平均粒子径は20〜30μmである。なお、本明細書において、(C)成分の平均粒子径としては、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した値(MV)を採用する。
【0035】
(C)板状充填剤としては、特に限定されず、例えば、マイカ、タルク、ガラスフレーク、黒鉛、各種の金属箔(例えば、アルミ箔、鉄箔、銅箔)等が挙げられる。本発明においては(C)成分として、マイカを使用することが好ましい。
【0036】
(C)成分の含有量は、本発明に係る液晶性樹脂組成物において、好ましくは0質量%超20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上18質量%以下、更により好ましくは10質量%以上16質量%以下である。(C)成分の含有量が0質量%超であると、必要な機械強度が確保されやすく、成形体の反り抑制効果が高くなりやすい。(C)成分の含有量が20質量%以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすい。
【0037】
[その他の成分]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0038】
その他の重合体としては、例えば、エポキシ基含有共重合体が挙げられる。その他の充填剤とは、(B)中空フィラー及び(C)板状充填剤以外の充填剤をいい、例えば、ガラス繊維等の繊維状充填剤;シリカ等の粒状充填剤;カーボンブラックが挙げられる。
【0039】
[液晶性樹脂組成物の調製]
本発明に係る液晶性樹脂組成物の調製は特に限定されない。例えば、(A)成分、(B)成分、任意に(C)成分、及び任意にその他の成分を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0040】
[液晶性樹脂組成物]
【0041】
上記のようにして得られた本発明に係る液晶性樹脂組成物は、溶融粘度が好ましくは45Pa・sec未満、より好ましくは42Pa・sec以下、更により好ましくは40Pa・sec以下である。溶融時の流動性が高く、成形性に優れる点は、本発明に係る液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10〜30℃高いシリンダー温度、せん断速度1000sec−1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0042】
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、比誘電率が好ましくは3.2以下、より好ましくは3.1以下、更により好ましくは3.0以下である。低誘電率である点も、本発明に係る液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は334℃、350℃における溶融粘度は19.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
(I)4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);188.4g(60モル%)
(II)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);21.4g(5モル%)
(III)テレフタル酸(TA);66.8g(17.7モル%)
(IV)4,4’−ジヒドロキシビフェニル(BP);52.2g(12.3モル%)
(V)4−アセトキシアミノフェノール(APAP);17.2g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);15mg
アシル化剤(無水酢酸);226.2g
【0045】
・液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから30分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で8時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は352℃、380℃における溶融粘度は27.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
(I)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);166g(48モル%)
(II)テレフタル酸(TA);76g(25モル%)
(III)4,4’−ジヒドロキシビフェニル(BP);86g(25モル%)
(IV)4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);5g(2モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);22.5mg
アシル化剤(無水酢酸);191g
【0046】
<液晶性樹脂以外の材料>
・ガラスバルーン1:Y12000((株)セイシン企業製、アスペクト比(平均)1.264、平均粒子径(D50)35μm)
・ガラスバルーン2:S60HS(住友3M(株)製、アスペクト比(平均)1.091、平均粒子径(D50)24μm)
・ガラスバルーン3:im30K(住友3M(株)製、アスペクト比(平均)1.072、平均粒子径(D50)18μm)
・板状充填剤:AB−25S((株)ヤマグチマイカ製、マイカ、平均粒子径(MV)24μm)
・繊維状充填剤:ECS03T−786H(日本電気硝子(株)製、ガラス繊維、繊維径10μm、長さ3mmのチョプドストランド)
【0047】
<液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、下記のシリンダー温度で溶融混練し、液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
〔製造条件〕
シリンダー温度:
350℃:液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
370℃:液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
【0048】
<ガラスバルーンのアスペクト比測定>
3000個のガラスバルーン粒子について、セイシン企業製の動的画像解析法/粒子状態分析計「PITA−3」を用いて、当該分析計に装備されている倍率4倍の光学レンズを用いて測定した粒子投影面において最も長い部分の長さである最大長Lと、粒子投影面において最大長Lに対し垂直な方向で最も長い部分の長さである最大垂直長Sとを測定した。この測定を数回繰り返して、各粒子について計算された比L/Sの度数分布をヒストグラムに示し、比L/Sの平均の値を算出して、ガラスバルーンのアスペクト比として採用した。測定にあたり、適量の界面活性剤を含む希釈用水溶液にてガラスバルーンを希釈して、ガラスバルーンの濃度を3.3mg/mLに調整し、超音波洗浄にて上記水溶液中にガラスバルーンを分散させてガラスバルーン分散液を得、このガラスバルーン分散液を測定試料として用いた。なお、図1(a)〜(c)は、それぞれ、上記ガラスバルーン1〜3の個々の粒子について計算した比L/Sの度数分布及び累積度数分布を示すヒストグラムである。
【0049】
<溶融粘度>
実施例及び比較例の液晶性樹脂組成物の溶融粘度を、上記ペレットを用いて測定した。具体的には、キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製作所製、キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、液晶性樹脂の融点よりも10〜30℃高い温度で、せん断速度1000sec−1の条件での見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。なお、具体的な測定温度は、液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)を含有する液晶性樹脂組成物については350℃、液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)を含有する液晶性樹脂組成物については380℃であった。結果を表1に示す。
【0050】
<平面度>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を5枚作製した。1枚目の平板状試験片を水平面に静置し、(株)ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404−PRO1F)を用いて、上記平板状試験片上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。高さを測定した位置は、平板状試験片の主平面上に、この主平面の各辺からの距離が3mmとなるように、一辺が74mmの正方形を置いたときに、この正方形の各頂点、この正方形の各辺の中点、及びこの正方形の2本の対角線の交点に該当する位置である。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さの中から、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状試験片についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、平面度の値とした。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度:
350℃:液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
370℃:液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 60MPa
【0051】
<比誘電率>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を作製した。図2に示す通り、平板状試験片の中央から流動直角方向に80mm×1mm×1mmの試験片を切り出し、これを比誘電率測定用試験片とした。この試験片について、(株)関東電子応用開発製の以下の構成の空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用いて、1GHzでの比誘電率を測定した。
スカラーネットワークアナライザー:アジレントテクノロジー8757D
周波数シンセサイザー:アジレントテクノロジー 83650LスイープCWジェネレータ
固定減衰器:アジレントテクノロジー85025Dディテクター
空洞共振器:関東電子応用開発CP431
測定プログラム:関東電子応用開発CPMA−S2/V2
〔成形条件〕
シリンダー温度:
350℃:液晶性ポリエステルアミド樹脂(LCP1)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
370℃:液晶性ポリエステル樹脂(LCP2)を含有する液晶性樹脂組成物の場合
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 60MPa
【0052】
【表1】
【0053】
表1に記載の結果から明らかなように、実施例の液晶性樹脂組成物は、成形性が良好であり、低誘電率であった。また、実施例の液晶性樹脂組成物は、マイカを添加しても、良好な成形性を維持した。
図1
図2