特許第6359322号(P6359322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359322
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/147 20060101AFI20180709BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20180709BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C04B7/147
   C04B28/08
   C04B22/06 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-85734(P2014-85734)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2015-71526(P2015-71526A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2017年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-184678(P2013-184678)
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】古賀 博章
(72)【発明者】
【氏名】新見 龍男
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−143348(JP,A)
【文献】 特開平04−040298(JP,A)
【文献】 特開平04−238847(JP,A)
【文献】 特開2005−139060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントクリンカー、高炉スラグ、水酸化カルシウムおよびセッコウからなり、
ポルトランドセメントクリンカー70〜40質量部、高炉スラグ30〜60質量部(但し、ポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグの合計を100質量部とする。)水酸化カルシウム1〜3質量部、セッコウ全組成物あたりSO換算で、1〜1.1質量%である水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルトランドクリンカー、高炉スラグおよび水酸化カルシウム、さらにセッコウを含む水硬性組成物に関する。詳しくは、高炉スラグを含有する水硬性組成物の凝結性状および長期強度発現を向上させる水硬性組成物に関する。さらに詳しくは、高炉スラグを含有する水硬性組成物を水酸化カルシウムを利用することにより、凝結性状および長期強度発現を向上させる水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題と関連して、廃棄物、副産物等の有効利用は重要な課題となっている。セメント産業、セメント製造設備の特徴を生かし、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行うことは、安全かつ大量処分が可能という観点から有効とされている。
【0003】
大量生産・大量消費型産業であるセメント産業は、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行い、省資源・省エネルギーで効率よくセメントを製造することが重要とされている。
【0004】
一方、地球温暖化の観点からすると、セメント産業はCO排出量の多い産業位置づけられている。セメント産業で排出されるCOは、セメント製造段階での、クリンカー原料となる石灰石の脱炭酸による。セメント産業でのCO低減については、クリンカー量を少なくした混合セメントが有効とされる。このような混合セメントの混合成分の一つとしては、高炉スラグを混合した高炉セメントがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら高炉スラグは、セメント用混和材として利用した場合した場合、汎用性セメント(普通ポルトランドセメント)に比べて凝結が遅延するなどの課題があった。
【0006】
従って本発明は、高炉スラグを含有するセメントにおいても、汎用性セメントと同等の凝結性状を示す水硬性組成物を提供するものである。またさらに、長期強度の増進を付加し得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった。そして、水酸化カルシウムが、セメントの凝結促進作用を有することと、高炉スラグの潜在水硬性を引出す刺激剤として作用することに着目した。そして、ポルトランドセメントと高炉スラグおよび水酸化カルシウムの組合せを適切なものとすることで、高炉スラグを含有したセメントの性能を向上できるのではないかと考え、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、ポルトランドセメントクリンカー、高炉スラグ、水酸化カルシウムおよびセッコウからなり、
ポルトランドセメントクリンカー70〜40質量部、高炉スラグ30〜60質量部(但し、ポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグの合計を100質量部とする。)水酸化カルシウム1〜3質量部、セッコウ全組成物あたりSO換算で、1〜1.1質量%である水硬性組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高炉スラグを含有するセメントとしても汎用性セメントと同等の凝結性状が得られるとともに長期強度発現性の向上が得られる。
【0010】
なお、水酸化カルシウムの添加量が多くなりすぎても効果が得られなくなる。水酸化カルシウムは凝結促進に作用することは知られているが、凝結促進されるといえども、必ずしも強度発現が増進されるとは限らない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用するポルトランドセメントクリンカーは、セメントとした際に汎用性性状を示す公知のクリンカーを採用することが可能であり、具体的には、普通ポルトランドセメント用クリンカーや早強ポルトランドセメント用クリンカー等が該当する。ポルトランドセメントクリンカーの粉末度は、汎用的に使用される範囲のものであれば良く、3000〜5000cm/gに調整されていることが好ましく、セッコウを添加して調整されても良い。
【0012】
本発明で使用する上記セメントクリンカーを製造する方法は特に限定されることがなく、公知のセメント(クリンカー)原料を、所望の各鉱物比率及び係数となるように所定の割合で調製混合し、公知の方法(例えば、SPキルンやNSPキルン等)で焼成することにより容易に得ることができる。
【0013】
当該セメント原料の調製混合方法も公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、事前に廃棄物、副産物およびその他の原料(石灰石、生石灰、消石灰等のCaO源、珪石等のSiO源、粘土等のAl源、鉄源等のFe源など)の組成を測定し、これら原料中の各成分割合から上記範囲になるように各原料の調合割合を計算し、その割合で原料を調合すればよい。
【0014】
なお、本発明で使用するセメントクリンカーの製造に用いる原料は、従来セメントクリンカーの製造において使用される原料と同様なものが特に制限なく使用される。廃棄物、副産物等を利用することも、無論可能である。
【0015】
本発明で使用するセメントクリンカーの製造において、廃棄物、副産物等から一種以上を使用することは、廃棄物、副産物等の有効利用を促進する観点から好ましいことである。使用可能な廃棄物・副産物をより具体的に例示すると、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄鉱滓、石炭灰、下水汚泥、浄水汚泥、製紙スラッジ、建設発生土、鋳物砂、ばいじん、焼却飛灰、溶融飛灰、塩素バイパスダスト、木屑、廃白土、ボタ、廃タイヤ、貝殻、都市ごみやその焼却灰等が挙げられる(なお、これらの中には、セメント原料になるとともに熱エネルギー源となるものもある)。
【0016】
本発明の水硬性組成物は、上記ポルトランドセメントクリンカーに加えて、高炉スラグ水酸化カルシウムおよびセッコウを必須成分として含む。
【0017】
本発明の水硬性組成物に用いる高炉スラグは、セメント混合材として公知の高炉スラグを用いることができる。具体的には、製鉄所より副産物として副生する高炉スラグを粉砕したものであれば制限なく使用することができる。高炉スラグの粉末度は、汎用的に使用される範囲のものであれば良く、3000〜8000cm/gに調整されていることが好ましい。該粉末度は、セッコウを添加してから調整されても良い。
【0018】
本発明における高炉スラグの使用量は30〜60質量部(但し、ポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグの合計を100質量部とする。)である。高炉スラグの混合量を減らすことにより初期強度発現は向上するが、混合量が30%未満となると下記の水酸化カルシウムによる長期強度の増進効果が得られない。一方、60質量部を超えると、水酸化カルシウムの添加によっても十分な凝結促進効果を得ることが難しくなる。
【0019】
上記高炉スラグを混合すると、凝結が遅延するなどの影響がでる。そこで本発明では、この影響をなくすため水酸化カルシウムを加える。
【0020】
使用する水酸化カルシウムについては、乾式の粉末状のものでも湿式のスラリー状のものでもよく、限定されることなく使用できる。粉末度は、見かけ上の平均粒子径が10μm以下であれば良く、さらに小さい粒子が二次粒子を形成しているような場合でも、見かけ上の平均粒子径が10μm以下であれば良い。好ましくは、一次粒子として1μm以下のものである。
【0021】
水酸化カルシウムの混合量は、上記のポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグの合計を100質量部に対して1〜5質量部である。1質量部未満では十分な効果が得られない。5質量部を超えると、むしろ凝結促進効果が得られず、さらには強度発現が低下する傾向が再度でてくる。さらに好ましくは1〜3質量部であり、この範囲では長期強度発現性が特に良好なものとなる。
【0022】
使用するセッコウについては、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ等のセメント製造原料として公知のセッコウが特に制限なく使用できる。具体的には、排煙脱硫セッコウ、リン酸セッコウ等の副産二水セッコウや天然の二水セッコウ、半水セッコウ、II型無水セッコウ等が挙げられる。石膏の添加量は、全組成物あたりSO換算で、1〜5質量%となるように添加する。1〜3質量%となるような添加量がより好ましい。
【0023】
本発明の水硬性組成物を構成するポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグおよびセッコウの粉末度を調製するための粉砕方法については、公知の技術が特に制限なく使用でき、各成分を個別に粉砕後、混合しても良いし、混合後に粉砕してもよい。粉砕機としてはボールミル、竪型ミル等が使用できる。水酸化カルシウムは、別途混合することが好ましい。
【0024】
本発明の水硬性組成物は、混合セメントと同等として使用することができる。また、土壌固化材等の固化材の構成成分として使用することも可能である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
普通ポルトランドセメントクリンカーにSO換算で2%となるようにセッコウを添加し、Blaine法による比表面積が3500cm/gとなるように混合粉砕した。高炉スラグは、Blaine法による比表面積が4000cm/gとなるように粉砕し、一部の高炉スラグにはセッコウを2%添加して最終的な組成物のSO量を調整した。水酸化カルシウムは、0.1μm以下の一次粒子が凝集した二次粒子として存在し、見かけの平均粒径が7.5μm程度のものを用いた。上記のセッコウを含むポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグおよび水酸化カルシウムを用いて各水硬性組成物を製造した。得られた水硬性組成物の凝結時間、モルタル圧縮強さを測定した。
【0027】
なお、各種測定方法は以下の方法による。
(1)凝結時間の測定:JIS R 5201に準拠する方法により測定した。
(2)モルタル圧縮強さの測定:JIS R 5201に準拠する方法により測定した。
【0028】
各実施例の混合材添加量、モルタル圧縮強さ、凝結時間の結果を表1に示す。なお高炉スラグ量は、ポルトランドセメントクリンカーとの合計が100質量部となる量である。また水酸化カルシウムの量はポルトランドセメントクリンカーと高炉スラグの合計量を100質量部としたときの量、セッコウ(SO)量は全組成物当たりの量である。
【0029】
【表1】
【0030】
参考例及び比較例1、4より高炉スラグの添加量の増加により、凝結の遅延傾向が見られる。比較例4、実施例1、比較例8および比較例5は全組成物あたりSO換算で1.1%のセッコウを含み、高炉スラグ含有量が45質量部のものに対して、水酸化カルシウムの添加量を変化させた実験結果であり、比較例6、比較例9、10および比較例7は、全組成物あたりSO換算で2.0%のセッコウを含み、高炉スラグ含有量45質量部のものに対して、水酸化カルシウムの添加量を変化させた実験結果である。水酸化カルシウムの添加量が1〜5%の範囲では、長期強度発現が普通ポルトランドセメント(参考例)より高く、や水酸化カルシウムを添加しない例(比較例4)に対して同等以上の値を示すが、水酸化カルシウムの添加量が8%になると逆に強度低下をもたらしている。特に実施例1では、参考例や比較例4以上の長期強度を示している。また、凝結の促進効果も1〜5%の範囲で得られているが、多すぎるとまたその効果を失うことが分かる(比較例5、比較例7)。
【0031】
比較例1〜3は、全組成物あたりSO換算で1.6%のセッコウを含み、高炉スラグ含有量20質量部のものに水酸化カルシウムを添加したものである。水酸化カルシウムによる凝結促進効果は得られるものの、長期強度の増進効果を得ることはできず、水酸化カルシウム量の増加とともに強度は低下する。