特許第6359369号(P6359369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359369
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20180709BHJP
【FI】
   A23L7/109 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-149435(P2014-149435)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2015-42169(P2015-42169A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2017年1月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-152930(P2013-152930)
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】米山 和克
(72)【発明者】
【氏名】鍛治尾 房樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洵
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜介
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−130979(JP,A)
【文献】 特開2004−222546(JP,A)
【文献】 特開平07−115926(JP,A)
【文献】 特開2007−289089(JP,A)
【文献】 特開2002−191306(JP,A)
【文献】 特開2009−045020(JP,A)
【文献】 特開昭61−111662(JP,A)
【文献】 特開平01−300862(JP,A)
【文献】 特表2007−526754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量12〜20に乾燥させた麺線を温度50〜100℃の雰囲気で10〜100時間熟成処理することを含む乾麺の製造方法であって、
熟成処理前の該乾燥させた麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sであり、
熟成処理後の麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が、当該熟成処理前の麺線の粉砕物を分散させた水の最高粘度に対して120〜180%であり、且つ
当該熟成処理前の麺線に対する当該熟成処理後の麺線の色差値(dE)が0.5〜6.0であり、
該乾麺が素麺、冷や麦、うどん、又は平めんである、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
水分含量12〜20に乾燥させた麺線を温度50〜100℃の雰囲気で10〜100時間熟成処理することを含む乾麺の品質向上方法であって、
熟成処理前の該乾燥させた麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sであり、
熟成処理後の麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が、当該熟成処理前の麺線の粉砕物を分散させた水の最高粘度に対して120〜180%であり、且つ
当該熟成処理前の麺線に対する当該熟成処理後の麺線の色差値(dE)が0.5〜6.0であり、
該乾麺が素麺、冷や麦、うどん、又は平めんである、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
熟成処理が、麺線からの水分蒸散による揮発がない環境下で行われる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
熟成処理される麺線が押出し麺帯生地から製造された麺線である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
熟成処理される麺線が、多層麺帯生地から製造された麺線である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
麺線が包装された状態で熟成処理される請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
熟成処理が以下のいずれかの条件下で行われる、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法:
熟成温度55℃〜70℃未満、かつ熟成温度(℃)と熟成時間(hr)の積が1800〜6000;
熟成温度70℃〜90℃未満、かつ熟成温度(℃)と熟成時間(hr)の積が700〜4500;
熟成温度90℃〜100℃、かつ熟成温度(℃)と熟成時間(hr)の積が900〜1200。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類を製造する方法に関する。より詳細には、熟成させた手延べ麺類のような良好な品質を有する麺類を簡便且つ短期間に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手延べ麺類は、滑らかな乳白色の外観と、良好な喉越し、及び弾力感があってしかも歯ごたえのある独特の食感を有することから、商品価値が高く、また消費者にも好まれる食品である。しかし、手延べ麺類を製造するためには、小麦粉を混捏した生地を、手作業により徐々に麺線に引き伸ばしていくという手間のかかる製麺工程を経なければならない。さらに手延べ麺類を製造するためには、製麺した麺を、通常数ヶ月程度の期間保管するいわゆる熟成処理を行わなければならない。この熟成処理を経なければ、手延べ麺類に独特の食感が付与されない。そのため、手延べ麺類の製造には、熟練した技術者を必要とし、しかも製造に非常に時間と手間がかかるうえ、少量ずつしか製造できないという問題がある。
【0003】
従って、大量生産が可能な機械製麺に、手延べ麺類に匹敵する外観や食感を付与することができれば望ましい。さらに、麺類の熟成に要する時間の短縮も求められている。
【0004】
手延べ麺類の熟成は通常、高温多湿の季節条件で長期間にわたり行われる。そのため、麺類をより高温下で熟成させることにより熟成時間を短縮できると考えられる。そこで従来、麺を高温下に置くことで短時間に熟成させる方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、機械製麺した麺類を、乾燥後、60〜100℃で1〜20時間熟成させることによる、手延べそうめんのような食感と食味を有する細物の麺類の製造方法が記載されている。特許文献2には、機械製麺した麺類を水分15質量%以下に乾燥させ、得られた乾麺を、遠赤外線照射下において、温度60〜70℃の雰囲気で24〜60時間熟成させることによる、手延べ麺類のような品質を有する乾麺類の製造方法が記載されている。特許文献3には、乾麺を、温度40〜60℃及び保持日数1〜40日間の範囲内で、且つ特定の温度及び保持日数の間保持することにより、機械製麺した乾麺類の品質を向上させることが記載されている。
【0006】
しかし、高温下で麺類を保管した場合、麺類が変色したり食感に好ましくない変化が起こるなど品質が低下するため、良好な品質の麺類を得ることは難しい。上記の従来の方法で得られる麺類も、食感と食味の点では未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−222546号公報
【特許文献2】特開2010−130979号公報
【特許文献3】特許第3560355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便に且つ短期間で、熟成させた手延べ麺類のような良好な外観と食感を有する麺類を得るための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々研究を重ねた結果、熟成に供する麺類の粘度を特定範囲に調整し、さらに熟成前後における麺類の粘度比及び色差が特定の範囲になるように熟成条件を調整することによって、麺類の熟成を良好に進行させることができ、麺類の外観と食感を向上させることができること、特に、機械製麺された麺類に手延べ麺類のような良好な外観と食感を付与することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、水分含量10〜38%の麺線を温度50〜100℃の雰囲気で10〜100時間熟成処理することを含む麺類の製造方法であって、
熟成処理前の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sであり、
熟成処理後の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が、当該熟成処理前の麺線の粉砕物を分散させた水の最高粘度に対して120〜180%であり、且つ
当該熟成処理前の麺線に対する当該熟成処理後の麺線の色差値(dE)が0.5〜6.0である、
ことを特徴とする方法を提供する。
【0011】
また本発明は、水分含量10〜38%の麺線を温度50〜100℃の雰囲気で10〜100時間熟成処理することを含む麺類の品質向上方法であって、
熟成処理前の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sであり、
熟成処理後の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が、当該熟成処理前の麺線の粉砕物を分散させた水の最高粘度に対して120〜180%であり、且つ
当該熟成処理前の麺線に対する当該熟成処理後の麺線の色差値(dE)が0.5〜6.0である、
ことを特徴とする方法を提供する。
【0012】
さらに本発明は、水分含量10〜38%、かつ熟成処理前の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sである麺線を、温度50〜100℃の雰囲気で10〜100時間熟成処理することを含む、麺類の製造方法を提供する。
【0013】
さらに本発明は、水分含量10〜38%、かつ熟成処理前の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sである麺線を、温度50〜100℃の雰囲気で10〜100時間熟成処理することを含む、麺類の品質向上方法を提供する。
【0014】
さらに本発明は、麺類の熟成条件の評価方法であって、
水分含量10〜38%で、かつ熟成処理前の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度が1000〜4550mPa・sである麺線を、所定の温度及び時間で熟成させること、
熟成処理後の麺線の粉砕物を14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度を測定すること、
当該熟成処理後の麺線の粉砕物を分散させた水の最高粘度が、当該熟成処理前の麺線の粉砕物を分散させた水の最高粘度に対して120〜180%であり、且つ当該熟成処理前の麺線に対する当該熟成処理後の麺線の色差値(dE)が0.5〜6.0である場合に、当該熟成の温度及び時間を、当該麺線の熟成条件として採用すること
を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便に且つ短期間で、熟成させた手延べ麺類のような良好な外観と食感を有する麺類を得ることができる。特に、本発明によれば、機械製麺された麺類に手延べ麺類のような良好な外観と食感を付与することができる。また、本発明によれば、高品質な麺類を製造することができる好適な熟成条件を、熟成処理前後での麺線の粘度の比と色差を基準に決定することができる。すなわち、本発明によれば、従来は実際に調理して確認する必要のあった麺線の熟成条件の決定手順を簡便化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明により製造され得る麺類としては、乾麺が好ましく、乾麺の種類としては、例えば素麺、冷や麦、うどん、平めん、中華そば、日本そば、パスタ等が挙げられ、好ましくは、素麺、冷や麦、うどん又は平めんであり得る。
【0017】
本発明においては、麺線を高温熟成処理にかける際に、熟成処理前の当該麺線の粘度を特定の範囲に調整し、さらに熟成処理前後での当該麺線の粘度比及び色差を特定の範囲に調整することによって、良好な外観と食感とを有する品質の向上した麺類を製造する。
【0018】
すなわち、本発明において熟成処理に供される麺線は、製麺した麺線を乾燥させて得た乾麺を粉砕して得られた粉砕物、好ましくは当該乾麺を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を、14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度として、1000〜4550mPa・s、好ましくは2300〜3500mPa・sとなる粘度を有するものである。当該粘度が1000mPa・s未満又は4550mPa・sを超えると、本発明の熟成処理を行っても、好ましい口当たりや食感が得られない。
【0019】
本発明において、最高粘度とは、迅速粘度測定装置を用いて得られる最高粘度である。測定装置としては、市販の機械を用いることができ、例えば、FOSS社のラビットビスコアナライザー4500(RVA−4500)が挙げられる。
【0020】
本発明において熟成処理に供される麺線の原料としては、小麦粉(薄力小麦粉、中力小麦粉、準強力小麦粉、強力小麦粉、デュラムセモリナ粉、デュラム小麦粉)、そば粉、米粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘薯澱粉、及びそれらの化工澱粉等の澱粉類;ならびに食塩、かん水(かん粉)、山芋粉、大豆粉、酵素、乳化剤、増粘剤、防腐剤、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、油脂類、調味料、香辛料、着色料等のその他の原料が挙げられる。これらの原料と水を混合し、混捏することによって麺生地を調製することができる。水の添加量は、上記原料100質量部に対して、好ましくは28〜45質量部、より好ましくは33〜40質量部であり得る。
【0021】
本発明において熟成処理に供される麺線の粘度は、前記麺線の原料の組合せ、配合量等を調整することによって、上述の範囲に調整することができる。例えば、麺線の粘度を増加させたい場合は、増粘多糖類やゲル化剤等の増粘剤や、澱粉類を添加すればよく、逆に粘度を低下させたい場合は、α−アミラーゼ等の酵素類を添加すればよい。
【0022】
上記麺線は、上記穀粉類、澱粉類又はその他の原料と水とを混合して得られた麺生地を、圧延、押出し、麺線切出しなどの一連の工程にかけることで製造され得る。当該麺線の製造は、従来公知の麺線の製造方法に従って行えばよい。
【0023】
上記麺線は、手作業で製麺されたいわゆる手打ち麺又は手延べ麺であっても、機械で製麺されたものであっても、又は手作業と機械の両方により製麺されたものであってもよい。手順の簡便さや効率の観点、及び熟成させた手延べ麺類のような良好な外観と食感を付与することができるという点からは、機械製麺された麺線が好ましい。
【0024】
機械製麺された麺線は、麺帯機、複合機、圧延ロール、押出機等の通常の製麺機を用いて得ることができる。押出し麺帯生地から製造された麺線や、ロール圧延麺帯生地から製造された麺線が好ましい。また好ましくは、多層に重ねた麺帯を圧延して得られる多層麺帯生地から製造された麺線、例えば、特開2010−130980号公報に記載の三層麺を採用してもよい。当該三層麺は、内層用麺帯を2枚の外層用麺帯で挟んで複合圧延して三層麺帯を製造し、該三層麺帯を麺線に切り出すことにより製造される麺である。以下に、三層麺の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
上記三層麺の外層用麺帯としては、押出し麺帯を用いる。押出し麺帯は、製麺原料に加水して調製した麺生地を押出機で押し出して製造されたものである。必要により、当該押し出し麺帯をさらにロール等で圧延して、厚みの調整をしてもよい。押出機としては、押出製麺法で通常用いられている押出機を用いることができ、たとえば、スパゲティ、マカロニ製造用の一軸押出機や二軸押出機等が用いられる。麺生地の押出し条件は、常圧下でも良いが、減圧下で行うことが好ましく、より好ましくは、減圧度−0.08〜−0.10MPaの条件下で行う。
【0026】
外層用麺帯は、比重が1.3〜1.6g/cm3であることが好ましく、比重が1.5〜1.6g/cm3であることがより好ましい。外層用麺帯の比重が低過ぎると、麺帯組織が緻密にならず、麺に滑らかな食感や、光沢・透明感のある外観等を十分に付与できないことがあり、また外層用麺帯の比重が高過ぎると、麺帯組織が緻密になり過ぎ、麺の食感が硬くなり過ぎるか、又はその後の圧延等の工程が困難になることがある。外層用麺帯の比重の調整は、押出しノズル・ダイスの形状や、ミキシング・押出し時の真空度等により行うことができる。
【0027】
上記三層麺の内層用麺帯としては、ロール圧延麺帯を用いる。ロール圧延麺帯とは、製麺原料に加水して調製した麺生地をロール圧延して製造されたものである。ロール圧延では、急激な圧延を避けるのが好ましく、より好ましくは、圧延比を30〜50%とする。なお、ここでいう圧延比は次式から算出する値である。
圧延比(%)=(圧延前厚み−圧延後厚み)/(圧延前厚み)。
【0028】
内層用麺帯は、比重が1.0〜1.3g/cm3であることが好ましく、比重が1.1〜1.2g/cm3であることがより好ましい。内層用麺帯の比重が低過ぎると、麺帯組織が脆くなって製麺が困難になることがあり、また内層用麺帯の比重が高過ぎると、外層用麺帯との組織の差が小さくなるため、麺が硬く、歯切れの悪い食感となることがある。内層用麺帯の比重の調整は、麺帯複合時のロール間隙やロール圧力等により行うことができる。
【0029】
上記内層用麺帯(ロール圧延麺帯)を、2枚の上記外層用麺帯(押出し麺帯)で挟んで複合圧延し、三層麺帯を製造する。複合圧延は、常法により行うことができ、内層用麺帯の圧延同様、急激な圧延を避けるのが好ましい。
【0030】
上記三層麺帯は、三層麺帯全体の厚みに対して、内層の厚みが30〜95%、2つの外層の合計厚みが5〜70%であるのが好ましく、内層の厚みが50〜90%、2つの外層の合計厚みが10〜50%であるのがより好ましい。2つの外層の厚みは、異なっていてもよいが、同程度の厚みであるのが好ましい。外層の厚みが厚過ぎると、麺が硬く、歯切れの悪い食感となることがあり、また外層の厚みが薄過ぎると、麺に滑らかな食感や、光沢・透明感のある外観が付与されないことがある。
【0031】
上記三層麺帯を切り出して麺線にすることにより三層麺を得る。切り出しは、常法により行うことができる。
【0032】
上記のようにして得られた麺線を、乾燥工程に付すことにより、水分含量10〜38%、好ましくは水分含量12〜20%まで乾燥させる。麺線を予め乾燥させて水分含量を調整することにより、変形等が少なく、品質面に優れた麺類を得ることができる。
【0033】
次いで、上記乾燥させた麺線を熟成処理にかける。熟成処理に供する麺線は、上述したとおりの所定の粘度を有するものである。当該熟成処理は、麺線からの水分蒸散による揮発がない環境下で行うことが好ましい。例えば、当該熟成処理に供する麺線は、包装されたものでも未包装の状態のものでもよいが、包装されている方が好ましい。さらに麺線を熟成処理前に包装することにより、変形を防いでより品質面に優れた麺類を得ることができる。
【0034】
本発明における麺類の熟成処理では、熟成処理の前後での麺線の粘度比及び麺線の色差が後述する特定の範囲となるように調整する。これにより、本発明の方法では、良好な外観と食感とを有する品質の向上した麺類を製造することができる。
【0035】
すなわち、本発明による熟成処理前の麺線の粘度(熟成処理前の乾燥させた麺線を粉砕して得られた粉砕物、好ましくは当該麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を、14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度)の値に対する、当該熟成処理後の麺線の粘度(熟成処理後の麺線を粉砕して得られた粉砕物、好ましくは当該麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を、14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度)の値の比は、120〜180%、好ましくは140〜175%であり得る。熟成処理後の値の比が120%未満であると、熟成した手延べ麺のような良好な品質の麺類が得られず、逆に180%を超えると、熟成後の麺類の食感が硬くなる。
【0036】
さらに、本発明による熟成処理の前後での麺線の色差値(dE)は、0.5〜6.0、好ましくは2.0〜6.0、より好ましくは2.0〜5.0であり得る。dEが0.5未満であると、熟成した手延べ麺のような良好な品質の麺類が得られず、逆に6.0を超えると、熟成後の麺類の外観が悪くなる。
【0037】
本明細書において、色差値(dE)とは、麺線の色調をCIELAB色空間で表したときのL*、a*、b*を用いて、下記(I)式によって算出した値を指す。
【0038】
【数1】
【0039】
L*、a*、b*は、例えばコニカミノルタ社のCR410や日本電色工業社のXE6000等の通常の測色計を使用して測定することができる。
【0040】
熟成処理の前後での麺線の粘度比及び麺線の色差は、麺線の原料、熟成処理を行う際の麺の水分含量、熟成の温湿度又は時間等に影響を受けるが、簡便には、熟成の温度や時間を調整することによって所望の値に設定することができる。例えば、上記熟成処理において麺線の粘度比及び色差を上述した所定範囲にするためには、上述した所定の範囲の熟成処理前の粘度の値を有する麺線を、温度50〜100℃、より好ましくは55〜90℃、さらに好ましくは60〜80℃の雰囲気に10〜100時間おき、熟成させるとよい。
【0041】
熟成処理において、熟成温度が50℃未満であると、麺の食感の改善や、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれの良さなどの効果を得るために長い熟成時間を要し、他方、熟成温度が100℃を超えると、熟成後の麺類の食感が硬くなり、また麺線の変色等が起こり熟成後の麺類の外観が劣化することがある。また、熟成温度が比較的低い温度帯(55℃以下程度)では、熟成が進みにくいため麺線の粘度比が高まらない傾向があり、また熟成温度が比較的高い温度帯(80℃以上程度)では、麺線の変質が起こりやすくなり、短時間の間に麺線が固くなったり麺線の色差が大きくなりすぎる傾向がある。さらに、熟成時間が10時間未満であると、麺の食感の改善や、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれの点において十分な効果が得られず、他方、熟成時間が100時間を超えると、熟成後の麺類の食感が硬くなり、また麺線の褐変化が進行して熟成後の麺類の外観が劣化することがある。
【0042】
好適には、本発明の方法における麺類の熟成処理では、上記所定の熟成処理前の粘度を有する麺線を、好ましくは温度55℃〜70℃未満、より好ましくは60〜70℃未満で、かつ熟成温度(℃)と熟成時間(hr)の積が1800〜6000、好ましくは3000〜4500になる条件下におき、熟成させればよい。
また好適には、上記所定の熟成処理前の粘度を有する麺線を、温度70℃〜90℃未満、好ましくは70℃〜80℃で、かつ熟成温度(℃)と熟成時間(hr)の積が700〜4500、好ましくは2000〜3500になる条件下におき、熟成させればよい。
また好適には、上記所定の熟成処理前の粘度を有する麺線を、温度90℃〜100℃で、かつ熟成温度(℃)と熟成時間(hr)の積が900〜1200になる条件下におき、熟成させればよい。
【0043】
以上のとおり、熟成処理前後での麺の粘度比及び色差を指標にすれば、良好な外観と食感とを有する品質の向上した麺類を製造することができる。したがって、本発明はまた、麺類の熟成条件の評価方法を提供する。当該方法においては、評価対象の麺類を所定の温度及び時間の条件で熟成処理にかけ、次いで、熟成前後における麺類の粘度比及び色差を調べる。該粘度比及び色差が所定の範囲内であれば、上記熟成処理の条件を該麺類に対して好適な熟成条件として採用する。当該本発明の評価方法によれば、原料や成形工程が異なる様々な麺類について、熟成後の麺線を実際に調理して官能評価する必要がなく、簡便な手順で好適な熟成条件を決定することができる。
【0044】
上記本発明の評価方法における評価対象の麺類としては、水分含量10〜38%、好ましくは水分含量12〜20%まで乾燥させた麺線であって、かつ熟成前の粘度(当該乾燥麺線を粉砕して得られた粉砕物、好ましくは当該乾燥麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を、14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度)が1000〜4550mPa・s、好ましくは2300〜3500mPa・sであるものである。評価対象の麺類の種類としては、素麺、冷や麦、うどん、平めん、中華そば、日本そば、パスタ等が挙げられる。
【0045】
上記乾燥麺線の熟成処理のための好ましい環境は、本発明の麺類の製造方法に関して上述した熟成処理の環境と同様である。熟成の温度及び時間の条件には、評価したい条件を任意に設定することができる。
【0046】
上記熟成処理に続いて、熟成処理後の麺線の粘度(熟成処理後の麺線を粉砕して得られた粉砕物、好ましくは当該麺線を粉砕した後500μmの目開きの篩を通過させて得られた粉砕物を、14質量%の濃度で分散させた水の最高粘度)を測定し、該熟成前の麺線の粘度と比較する。また、熟成処理の前後での麺線の色差値(dE)を測定する。該熟成処理後の粘度が、該熟成処理前の粘度に対して120〜180%、好ましくは140〜175%であり、かつ色差が0.5〜6.0、好ましくは2.0〜6.0、より好ましくは2.0〜5.0であれば、上記熟成処理における温度及び時間の条件を、当該麺線にとって好適な条件であると評価し、当該麺類の熟成条件として採用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0048】
(参考例)
強力小麦粉(カメリヤ;日清製粉製)100質量部に10%食塩水36質量部を加え、ミキサーでよく攪拌混合し、麺生地を調製した。この麺生地を常法に従ってロール圧延し、厚さ1mmの麺帯とした。この麺帯を切刃(28番丸刃)を用いて切り出し、麺線を製造した。この麺線を、温和な乾燥条件にて、水分含量15%まで乾燥後、100gずつ小分けした。
小分けした麺線をピンミルで粉砕した後、目開き500μmの篩を通過した粉砕物を採取した。この粉砕物を14質量%で水に分散させ、得られた分散液の最高粘度を粘度計(RVA−4500;FOSS社製)を用いて測定し、麺線の粘度として記録した。熟成処理前の麺線の粘度は、平均2745mPa・sであった(N=3)。
別途、小分けした麺線の色調を、色差計(CR−410;コミカミノルタ製)を用いて測定した。その結果、平均でL*値は78.15、a*値は0.54、b*値は25.31であった(N=3)。
【0049】
(試験例1)
参考例の小分けした麺線を、表1及び表2の条件で熟成処理を行った(製造例1〜31、各製造例につきN=3)。熟成処理後の麺線について、上記参考例と同様の手順で麺線の粘度と色調の平均値を測定した。測定された平均値に基づいて、熟成処理前の麺線の粘度に対する熟成処理後の麺線の粘度の比(%)、及び熟成処理前後での麺線の色差(dE)を求めた。
さらに、熟成処理後の麺線を、2分30秒熱湯で茹で、冷水で冷却後、10名のパネルにより表3の評価基準で食感を評価し、平均点を求めた。
【0050】
熟成処理前後での麺線の粘度の比と色差、及び食感の評価結果を表1及び表2に示す。熟成の温度又は時間を変更することにより、麺の粘度比及び色差値を調整することができ、また得られた麺の粘度比及び色差値のいずれかが所定の範囲にある場合、麺の品質が向上した(表1〜2)。したがって、熟成処理前後での粘度比と色差が所定の値になるように麺を熟成処理することにより、高品質な麺類を製造することができる。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
(試験例2)
参考例と同様の手順で、但し、表4記載の粘度を有するように麺線を製造した。得られた各麺線について粘度と色調を測定するとともに、製造例14と同様に表4記載の条件で熟成処理を行った(製造例32〜37)。熟成処理後の麺線について、上記参考例と同様の手順で麺線の粘度と色調を測定し、熟成処理前の麺線の粘度に対する熟成処理後の麺線の粘度の比(%)、及び熟成処理前後での麺線の色差(dE)を求めた。さらに試験例1と同様の手順で麺線を調理し、食感を評価した。結果を表4に示す。なお、表4に製造例14の結果を再掲する。
表4に示すとおり、熟成温度と熟成時間が同じ場合であっても、熟成前の麺線の粘度条件によって熟成前後の麺線の粘度比及び色差が異なり、また熟成後の麺の品質に差が生じた。一方で、熟成前後での粘度比及び色差が所定の値となった麺線は、いずれも良好な品質を有していた。
【0055】
【表4】