特許第6359425号(P6359425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359425
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】多孔質窒化アルミニウム粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   C01B21/072 G
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-231627(P2014-231627)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-94315(P2016-94315A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】長見 知史
(72)【発明者】
【氏名】縄田 輝彦
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/097527(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/093488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム結晶が線状に連なった状態で焼結して複数の空孔を有する三次元の網目状構造を形成した粒子であって、該粒子は、粒子径が50μm以下であり、前記焼結体粒子の表面に占める空孔の面積の割合が10〜50%で、且つ、空孔の平均円相当径が0.1〜0.8μmであることを特徴とする多孔質窒化アルミニウム粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質窒化アルミニウム粒子を85質量%以上含有することを特徴とする窒化アルミニウム粉末。
【請求項3】
平均粒子径が10〜40μmである請求項2記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項4】
吸油量が50〜80g/100gである請求項2又は3記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項5】
細孔分布測定装置により測定される半径100〜1000nmの細孔容積が、0.05cc/g以上である請求項2〜4に記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項6】
アルミナ100質量部に対して、カーボンを36〜55質量部含む原料を窒素ガスと接触せしめて、上記アルミナを還元窒化した後、残存カーボンを酸化除去する方法において、原料アルミナとして、以下の(1)〜(3)に記載の特性を有するアルミナ粒子の焼結顆粒を使用すると共に、上記原料アルミナに対して過剰の窒素ガスを流通させながら、且つ、最高温度が1700℃以下となるように制御しながら、前記還元窒化を行うことを特徴とする請求項1記載の多孔質窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末の製造方法。
(1)比表面積が4m/gを超え、7m/g以下
(2)圧壊強度が50Mpa以上
(3)不純物金属を100〜2000ppm含み、該不純物金属が、前記焼結顆粒を構成するアルミナ粒子の粒界に存在する。
【請求項7】
還元窒化反応を、縦型炉を使用して行う、請求項6記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多孔質窒化アルミニウム粒子及び該多孔質窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末に関する。詳しくは、樹脂が粒子内部まで浸透可能な、比較的大きい空孔を粒子内部まで形成した骨格を有する窒化アルミニウム粒子及びそれを含む窒化アルミニウム粉末を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムやシリコーングリースに、アルミナや窒化ホウ素などのフィラーが充填されている放熱材料は、例えば、放熱シートや放熱グリースとして各種電子機器に広く利用されている。窒化アルミニウムは、電気絶縁性に優れており且つ高熱伝導性を有していることから、上記のような放熱材料のフィラーとして注目されている。
【0003】
放熱材料の熱伝導率を向上させるには、高熱伝導性を有したフィラーを高充填することが重要であると考えられていた。そのため、放熱材料のフィラーとしての窒化アルミニウム粉末を構成する粒子として、球状であること及び数10〜数100μm程度の幅広い粒径を有していることが求められていた。即ち、成形性(流動性)を損なわずにフィラーを樹脂等の媒体に高充填するためには、比較的大きな粒径の球状粒子と比較的小さな粒径の球状粒子とを含む粉末を使用し、大きな球状粒子の間に小さな球状粒子が分布しているような細密な充填構造を採ることが望ましいからである(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記フィラーとして使用される窒化アルミニウム粒子は、一般に、内部まで窒化アルミニウムが詰まった緻密な粒子(中実粒子)であり、前記細密な充填構造を採った場合、樹脂は粒子間にしか存在せず、成形体の強度が著しく低下することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願番号 WO2011/093488 A1 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、従来のフィラーとして使用される窒化アルミニウム粒子のような、内部まで窒化アルミニウムが緻密に詰まった中実粒子で問題となっていた、前記細密な充填構造を採った際の成形体の強度低下を改善することが可能な窒化アルミニウム粒子及びそれを含む窒化アルミニウム粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記中実粒子により形成される窒化アルミニウム粒子の前記課題に対して、多孔質窒化アルミニウム粒子、とりわけ、極めて大きい空孔を粒子内部まで形成した骨格を有する構造の粒子は、樹脂がその空孔内に浸透し易く、相互の粒子が接触する程度に高充填しても、樹脂量が確保でき、その結果、成形体の強度が維持でき、しかも、接触する粒子間の熱伝導は、粒子を構成する窒化アルミニウムの骨格が担うことにより、高い熱伝導率を発揮できると考えた。
【0008】
そして、上記骨格を有する多孔質窒化アルミニウム粒子を得るために検討を重ねた結果、特定のアルミナ粒子を特定の条件で還元窒化することにより、上記粒子を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、窒化アルミニウム結晶が線状に連なった状態で焼結して複数の空孔を有する三次元の網目状構造を形成した焼結体粒子であって、該焼結体粒子は、粒子径が50μm以下であり、前記焼結体粒子の表面に占める空孔の面積の割合が10〜50%で、且つ、空孔の平均円相当径が0.1〜0.8μmであることを特徴とする多孔質窒化アルミニウム粒子が提供される。
【0010】
尚、上記前記焼結体粒子の表面に占める空孔の面積の割合、空孔の平均円相当径は、10000倍の電子顕微鏡写真の画像において測定された値である。
【0011】
本発明において、前記多孔質窒化アルミニウム粒子を85質量%以上含有する窒化アルミニウム粉末であることが好ましい。
【0012】
更に、前記多孔質窒化アルミニウム粉末の平均粒径が10〜50μmの範囲にあり、且つ、吸油量が50〜80g/100gの範囲にあることが好ましい。
【0013】
前記多孔質窒化アルミニウム粉末は、細孔分布測定装置により測定される半径100〜1000nmの細孔容積が、0.05cc/g以上であることが好ましい。
【0014】
本発明は、前記多孔質窒化アルミニウム粒子を含む多孔質窒化アルミニウム粉末の製造方法をも提供する。即ち、本発明によれば、アルミナ100質量部に対して、カーボンを36〜55質量部含む原料を窒素ガスと接触せしめて、上記アルミナを還元窒化した後、残存カーボンを酸化除去する方法において、原料アルミナとして、(1)〜(3)に記載の特性を有するアルミナ粒子の焼結顆粒を使用すると共に、上記原料アルミナに対して過剰の窒素ガスを流通させながら、且つ、最高温度が1700℃以下となるように制御しながら、前記還元窒化を行うことを特徴とする請求項1記載の多孔質窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【0015】
(1)比表面積が4m/gを超え、7m/g以下
(2)圧壊強度が50Mpa以上
(3)不純物金属を100〜2000ppm含み、該不純物金属が、前記焼結顆粒を構成するアルミナ粒子の粒界に存在する。
【0016】
また、前記還元窒化反応は、竪型炉を使用して行うことが好適である。
【0017】
尚、本明細書において、多孔質窒化アルミニウム粒子の表面の空孔の占める割合、空孔の円相当径、ならびに、多孔質窒化アルミニウム粉末の平均粒子径、吸油量、細孔容積、および、原料アルミナの比表面積、平均細孔直径、空隙割合、圧壊強度、不純物量は、それぞれ、後述する実施例に示す方法によって測定した値である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム結晶が線状に連なった状態で焼結して複数の空孔を有する三次元の網目状構造を形成した焼結体粒子であり、樹脂が浸透可能な、比較的大きい空孔を粒子内部まで形成した骨格を有するため、樹脂がその空孔内に浸透し、相互の粒子が接触する程度に高充填しても、樹脂量が確保でき、その結果、成形体の強度が維持でき、しかも、接触する粒子間の熱伝導は、粒子を構成する窒化アルミニウムの骨格が担うことにより、高い熱伝導率を発揮することができる。
【0019】
また、殆どの空隙に樹脂が浸透かのうなため、空洞部が存在せず、得られる成形体において、高い絶縁耐圧を実現可能である。
【0020】
更に、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子を含む多孔質窒化アルミニウム粉末を樹脂に充填して得られる成形体において、樹脂がゴム状である場合、その柔軟性を損なうこともないという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1で得られた多孔質窒化アルミニウム粒子の構造を示すSEM写真である。
図2】実施例1で得られた多孔質窒化アルミニウム粒子の構造を示す断面SEM写真である。
図3】比較例1で得られた窒化アルミニウム粒子の構造を示すSEM写真である。
図4】比較例2で得られた窒化アルミニウム粒子の構造を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム結晶が線状に連なった状態で焼結して複数の空孔を有する三次元の網目状構造を形成した焼結体粒子であって、粒子径が50μm以下であり、10000倍の電子顕微鏡写真の画像において、前記焼結体粒子の表面に占める空孔の面積の割合が10〜50%、好ましくは、20〜40%で、且つ、空孔の平均円相当径が0.1〜0.8μm、好ましくは、0.2〜0.6μmであることに特徴を有する。
【0023】
上記窒化アルミニウム結晶が線状に連なった状態で焼結して複数の空孔を有する三次元構造を形成した網目状焼結体粒子の確認は、電子顕微鏡による観察により行うことができる。また、上記三次元構造を形成する物質が、窒化アルミニウム結晶であることの同定は、X線回折装置を用いた結晶相を同定する方法により行うことができる。
【0024】
従来、多孔質窒化アルミニウム粒子に関し、報告例はあるが、それらは窒化アルミニウム粒子表面に数〜数十nmオーダーの微細な凹凸や空隙を有するものであり、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子の空孔の大きさに比べて遙かに小さい。このような小さな孔を有する窒化アルミニウム粒子は、樹脂と混ぜ合わせると、窒化アルミニウム粒子の細孔内を埋める程、細孔内に樹脂が充填されることは無く、その結果、細孔内の空隙が多く残り、得られる樹脂組成物の絶縁耐性が低下する要因となる。
【0025】
これに対して、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム結晶により形成された網目状の三次元構造により孔が形成された構造を有するものであり、かかる構造は、今まで報告された例がなく、極めて特徴的な構造であるといえる。上記構造により、粒子表面を観察して確認される、表面に占める空孔の面積の割合が10〜50%と空隙が多く、しかも、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子は、上記三次元構造によって形成される空孔の径が、平均円相当径で0.1〜0.8μmと極めて大きく、粒子内部まで容易に樹脂等を浸透させることが可能である。そして、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子は、樹脂が空孔の内部まで浸透し、粒子内部が樹脂で満たされた状態で相互に接触することができ、且つ、粒子においては、網目状の三次元構造により熱が伝達されるため、使用する樹脂に対して少ない充填量で、高い熱伝導性を発揮することが可能となる。
【0026】
本発明において、前記多孔質窒化アルミニウム粒子の特性を十分発揮するためには、これを含む窒化アルミニウム粉末(以下、多孔質窒化アルミニウム粉末とも云う。)において、該多孔質窒化アルミニウム粒子が、85質量%以上含有されたものであることが好ましく、特に90質量%以上含有するものであることがより好ましい。後述する製造方法においては、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子を90質量%以上含む多孔質窒化アルミニウム粉末を得ることができる。
【0027】
本発明において、前記多孔質窒化アルミニウム粉末は、平均粒子径が10〜50μmの範囲であることが好適であり、より好ましくは15〜30μmの範囲であることである。また、平均粒子径が上記の範囲であり、その吸油量が50〜80g/100gであることが好適である。
【0028】
また、多孔質窒化アルミニウム粉末は、前記多孔質窒化アルミニウム粒子の構造により、50〜80g/100g、特に、55〜60g/100gという高い吸油量を有し、また、細孔分布測定装置により計測される半径100〜1000nmの細孔容積も0.05cc/g以上、特に、0.1〜0.15cc/gという高い値を示す。
【0029】
本発明の多孔質窒化アルミニウム粉末の製造方法は特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、アルミナ100質量部に対して、カーボンを36〜55質量部、好ましくは、40〜50質量部含む原料を窒素ガスと接触せしめて、上記アルミナを還元窒化した後、残存カーボンを酸化除去する方法において、原料アルミナとして、以下の(1)〜(3)に記載の特性を有するアルミナ粒子の焼結顆粒を使用すると共に、上記原料アルミナに対して過剰の窒素ガスを流通させながら、且つ、最高温度が1700℃以下となるように制御しながら、前記還元窒化を行うことを特徴とする製造方法が挙げられる。
(1)比表面積が4m/gを超え、7m/g以下、
(2)圧壊強度が50Mpa以上、
(3)不純物金属を100〜2000ppm含み、該不純物金属が、前記焼結顆粒を構成するアルミナ粒子の粒界に存在する。
【0030】
〔出発原料〕
本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子の製造方法において、出発原料としては、アルミナ粒子の焼結顆粒が使用される。上記焼結顆粒は、アルミナ粒子またはアルミナ水和物粒子の造粒体を焼成して得ることができる。ここで、上記アルミナ水和物粒子としては、α、γ、θ、δ、η、κ、χ等の結晶構造を持つアルミナやベーマイトやダイアスポア、ギブサイト、バイヤライト、トーダイト等、加熱により脱水転移して最終的にα−アルミナに転移し得る材質が全て利用可能であるが、ベーマイトが特に好適である。
【0031】
また、アルミナ粒子の焼結顆粒は、上記材質の単独或いは種類の異なるものが混合された状態でも良いが、特に反応性が高く、且つ、反応の制御が容易なα−アルミナ、γ−アルミナが好適に用いられる。
【0032】
本発明において、アルミナ粒子の焼結顆粒は、多孔質の構造を有するものであり、4〜7m/gの範囲の比表面積を有するものが好ましい。また、圧壊強度は50Mpa以上であることが好ましい。
【0033】
また、上記のアルミナ粒子の焼結顆粒は、アルミナ粒子が焼結して構成され、チタンを代表とする不純物金属を100〜2000ppm含み、且つ、該不純物金属が主としてアルミナ粒子の粒界に存在するものが、原料として好適である。更に好ましくは、不純物金属を500〜1200ppmの範囲で、焼結粉末を構成するアルミナ粒界に存在することである。この不純物金属が焼結顆粒を構成するアルミナ粒子の粒界に存在することにより、該粒界において還元窒化反応が優先的に起こり、窒化アルミニウムの結晶粒子が連なって網目状の構造を形成するものと推定される。
【0034】
それ故、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子における空孔の平均円相当径は、上記焼結顆粒を構成するアルミナ粒子の大きさにより調整することが可能である。
【0035】
尚、上記アルミナ粒子の焼結顆粒は、アルミナの一次粒子が凝集した二次粒子を形成し、これを焼結して得られるものであり、また、前記不純物金属は、その殆どが上記二次粒子の粒界に存在することが確認された。従って、本発明において、アルミナ粒子の粒界は、焼結顆粒を形成する二次粒子の粒界であり、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子における空孔の平均円相当径は、かかる二次粒子の大きさに支配される。
【0036】
上記アルミナ粒子の焼結顆粒は、前記アルミナ粉末又はアルミナ水和物粉末を造粒により凝集させた造粒体を焼成することにより製造することができる。上記造粒体は、公知の造粒方法によって得ることができる。具体的には、アルミナ粉末を噴霧乾燥による造粒、転動造粒などが挙げられるが、多孔質体を得るためには、噴霧乾燥による造粒が好適である。また、造粒に際し、必要に応じて、分散剤やバインダ樹脂、潤滑材、或いは還元窒化反応の促進材、焼結助剤としてアルカリ土類元素を含む複合化合物等をアルミナ粉末と混合して配合することができる。これらの添加材の使用量は、公知の添加範囲で適宜決定すればよい。
【0037】
本発明においては、目的とする多孔質窒化アルミニウム粒子として、後述するように網目状多孔質のものを得る目的において、前記噴霧乾燥造粒による造粒は、アルミナ粒子の焼結顆粒を効率よく得ることが可能であり、工業的に有利である。
【0038】
〔還元窒化工程〕
本発明において、還元窒化工程は、アルミナ粒子の焼結顆粒を還元剤の存在下に窒化して多孔質アルミニウム顆粒を製造する工程である。
【0039】
上記還元剤は、公知のもの特に制限なく用いられるが、カーボンや還元性のガスが一般的に用いられる。該カーボンとしては、カーボンブラック、黒鉛および高温、反応ガス雰囲気中においてカーボン源となり得るカーボン前駆体が何ら制限なく使用できる。そのうち、カーボンブラックが重量当たりの炭素量、物性の安定性から好適である。前記カーボンの粒径は任意であるが、0.01〜20μmのものを用いるのが好ましい。また、原料の飛散防止に流動パラフィンなど液状のカーボン源を併用してもよい。
【0040】
また、還元性ガスを用いる場合は、還元性を示すガスであれば制限なく使用できる。具体的には、水素、一酸化炭素、アンモニア、炭化水素系ガスなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、上記カーボンやカーボン前駆体としてもよい。
【0041】
本発明において、還元剤としてカーボンを用いる場合、アルミナ粒子の焼結顆粒とカーボンを混合し、アルミナ粒子の焼結顆粒間にカーボンが存在する状態で使用することが、還元窒化において顆粒同士の凝集を防止する上で好ましい。
【0042】
また、前記混合方法としては、アルミナ粒子の焼結顆粒とカーボンとを均一に混合可能な方法であればいずれの方法でも良いが、通常混合手段はブレンダー、ミキサー、ボールミルによる混合が好適である。
【0043】
本発明において、アルミナ粒子の焼結顆粒とカーボンの比率は、当量比以上ならば如何なる配合比率で配合してもよいが、前記顆粒同士の凝集体を防止し、また、反応性を高めるために、アルミナ粒子の焼結顆粒100重量部に対し、カーボンを炭素換算で、36〜55重量部含む原料が良い。
【0044】
本発明において、上記アルミナ粒子の焼結顆粒とカーボンとの混合物は、そのまま還元窒化工程に供給することができるが、必要に応じて、公知の結合剤を更に配合して造粒し、造粒体の形態で供給してもよい。例えば、後述するように、竪型炉に供給して反応を行う場合、上記造粒体での供給が推奨される。造粒体の大きさは特に制限されないが、還元窒化における反応性、取扱における流動性などを勘案すれば、3〜30mm、特に、5〜20mmが好ましい。
【0045】
また、還元剤として、還元性のガスを使用する場合は、後述の反応において、理論量以上のガスをアルミナ粒子の焼結顆粒と接触させる方法が一般的である。
【0046】
本発明において、還元窒化の反応は、アルミナ粒子の焼結顆粒を、過剰の量の窒素を流通下、カーボンおよび/または還元性ガスの存在下、特定の温度で焼成することにより行われる。
【0047】
上記窒素は、線速度100〜3000m/h、特に、250〜2500m/h、でアルミナ粒子の焼結顆粒と接触するように供給することが、還元窒化反応と窒化アルミニウム結晶の成長を適度に調整し、本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子の網目状の構造を確実に得るために好ましい。ここで、上記の線速度は、供給した窒素量を炉内の反応領域における温度での量に換算し、炉内の原料充填量に基づいて算出した値である。
【0048】
前記窒素ガスの線速度と供給量をともに満足するために好適な態様として、管に充填された前記造粒体の間隙に窒素ガスを効率良く供給することが可能な、竪型炉等の構造を有する炉を使用する態様が特に好ましい。
【0049】
上記の焼成は、1400〜1700℃の温度で行われ、好ましくは、1450℃〜1650℃の範囲で焼成することが好適である。上記焼成温度が1400℃未満では窒化反応が充分進行せず、また、1700℃を超える場合は、熱伝導率が低い酸窒化物(AlON)が生成する恐れがある。また、あまり高温で還元窒化すると生成すると生成する窒化アルミニウムの結晶成長が進み易くなり、目的とする網目状の多孔質窒化アルミニウム粒子を得ることが困難となる。
【0050】
また、焼成における窒素ガス流量は、採用条件によって異なり一概には決定することはできないが、窒素が過剰であることが必要である。即ち、高温下で窒素が充分にアルミナ粒子の焼結顆粒と接触していない場合、還元窒化反応が充分に促進されず、生成する窒化アルミニウム粒子の結晶成長が進み易くなり、目的とする網目状の多孔質窒化アルミニウム粒子を得ることが困難となる。
【0051】
本発明の還元窒化工程において、反応時間は、採用する条件により異なり一概に決定することは出来ないが、一般に1〜10時間、好ましくは2〜6時間が好適である。
【0052】
上記還元窒化反応は、公知の反応装置によって行うことが可能である。具体的には、マッフル炉等の静置式反応装置、竪型炉、流動床等の流動式反応装置、ロータリーキルン等の回転式反応装置が挙げられる。
【0053】
上述した還元窒化工程において、前記アルミナ粒子の焼結顆粒を使用することにより、多孔質の状態で内部までしっかりと窒化された、多孔質の窒化アルミニウム粒子を得ることができる。ここで、上記の窒化の程度を示す窒化率は、熱伝導率の観点から、高いほど好ましく、実施例において定義される窒化アルミニウム転化率で、60%以上、特に80%以上、更に90%以上が好ましい。本発明の方法においては、上記理由より、100%転化率が可能である。
【0054】
〔酸化処理〕
本発明において、還元窒化工程において、カーボンを使用する場合、得られる多孔質窒化アルミニウム粒子にはカーボンが残存するため、酸化処理を行いカーボンを除去することが好ましい。酸化処理を行う際の、酸化性ガスとしては、空気、酸素など炭素を除去できるガスならば何等制限無く採用できるが、経済性や得られる多孔質窒化アルミニウムの酸素含有率を考慮して空気が好適である。また、処理温度は一般に500〜900℃がよく、脱炭素の効率と多孔質窒化アルミニウム表面の過剰酸素を考慮して、600〜750℃が好適である。また酸化処理の時間は、残存するカーボンの量に応じて適宜決定すればよいが、一般に1〜12時間、好ましくは2〜5時間が好適である。
【0055】
〔用途〕
本発明の多孔質窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウムの特徴を生かした種々の用途、特に放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤、熱伝導性樹脂などの放熱材料用フィラーとして広く用いることができる。
【0056】
ここで、放熱材料のマトリックスとなる樹脂、グリースはエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファルド等の熱可塑性樹脂、またシリコーンゴム、EPR、SBR等のゴム類、シリコーンオイル等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
尚、実施例及び比較例における各物性は、下記の方法により測定した。
【0059】
(1)多孔質窒化アルミニウム粒子の表面の空孔の占める割合
10000倍の電子顕微鏡写真像から、任意の粒子100個を選んで、その粒子表面の空孔の占める割合を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング製、A像くん)により算出した。
【0060】
(2)多孔質窒化アルミニウム粒子の空孔の円相当径
10000倍の電子顕微鏡写真像から、任意の粒子100個を選んで、その粒子表面の空孔の円相当径を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング製、A像くん)により算出した。
【0061】
(3)多孔質窒化アルミニウム粒子の平均粒子径
試料をホモジナイザーにて5%ピロリン酸ソーダ水溶液中に分散させ、レーザー回折粒度分布装置(日機装株式会社製、MICROTRAC HRA)にて平均粒子径(D50)を測定した。
【0062】
(4)窒化アルミニウム転化率
X線回折装置(BRUKER社製、D2 PHASER)を用いて、結晶相の同定およびリートベルト法を用いて結晶相の定量を行い、窒化アルミニウム転化率を求めた。
【0063】
(5)窒化アルミニウム粉末の吸油量
JIS K−5101−13−1に準じて測定した。
【0064】
(6)窒化アルミニウム粉末の細孔容積
細孔分布測定装置(Thermo ELECTRON社製、Pascal440)による水銀圧入法を用いて、窒化アルミニウム粉末の細孔容積を求めた。
【0065】
(7)原料アルミナの比表面積
細孔分布測定装置(日本ベル製、BELSORP−max12N)によるガス吸着法を用いてアルミナの比表面積を測定した。
【0066】
(8)原料アルミナの圧壊強度
微小圧縮試験機(島津製作所製、MZCT−W510−J)を用いて、アルミナの圧壊強度を測定した。
【0067】
(9)原料アルミナの不純物量
ICP発光分析装置(島津製作所製、ICPS−7510)を用いて、アルミナ中の不純物金属量を測定した。
【0068】
<実施例1>
出発原料として、以下の物性を有するアルミナ粉末(SASOL社製のAPA/B30)とカーボンブラックとを使用した。
【0069】
アルミナ粉末の物性;
・アルミナ粒子の焼結顆粒
・比表面積:4.3m/g
・圧壊強度:110MPa
・不純物金属量(Ti):1020ppm
上記不純物は、主としてアルミナ粒子(二次粒子)の粒界に存在することを確認した。
【0070】
上記のアルミナ粉末1200gとカーボンブラック600gを混合し、次いで、得られた混合粉末に、バインダとしてのPVA(ポリビニルアルコール)と水を加えて混合、押出し成形することで造粒体を成形した。続いて、上記造粒体をカーボン製容器に充填し、線速度300m/hとなるように窒素ガスを流通下、1600℃の温度で3時間還元窒化反応させた後、空気流通下680℃で5時間酸化処理を行って多孔質窒化アルミニウム粒子を99.1質量%含む窒化アルミニウム粉末を得た。
【0071】
得られた窒化アルミニウム粉末の多孔質窒化アルミニウム粒子について、表面の空孔の占める割合、空孔の円相当径、多孔質窒化アルミニウム粒子の平均粒子径、窒化アルミニウム転化率、吸油量、細孔容積を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
また、得られた窒化アルミニウム粉末のSEM写真を図1に、窒化アルミニウムをエポキシ樹脂に充填した後、切断した断面のSEM写真を図2に示す。
【0073】
<比較例1>
窒化条件を1750℃とした以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を得た。
【0074】
得られた窒化アルミニウム粉末について、前述の方法で、窒化アルミニウム粒子の表面の空孔の占める割合、空孔の円相当径、窒化アルミニウム粒子の平均粒子径、窒化アルミニウム転化率を、窒化アルミニウム粉末について、吸油量、細孔容積を測定した。結果を表1に示す。得られた窒化アルミニウム粒子のSEM写真を図3に示す。
【0075】
<比較例2>
下記の粒子特性を有するアルミナ粉末を用意した。
アルミナ粉末;
比表面積:5.2m/g
圧壊強度:6MPa
不純物金属量(Ti):50ppm
上記のアルミナ粉末1200gとカーボンブラック600gを混合した。混合粉末にPVAと水を加えて混合、押出し成形することで造粒体を成形した。次いで、造粒体をカーボン製容器に充填し、実施例1と同様の条件で還元窒化反応を行い、また、酸化処理を行って窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粒子の特性を表1に示す。また、SEM写真を図4に示す。
【0076】
【表1】
図1
図2
図3
図4