(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電気分解を行う工程において、前記非水溶液として、一種類以上のエーテル系溶媒を含むものを用いることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記電気分解を行う工程において、前記非水溶液として、少なくとも硝酸リチウムを含むものを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記電気分解を行う工程において、前記非水溶液の温度を80℃以上とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記電気分解を行う工程の前に、前記ケイ素化合物を含む電極を形成する工程を含み、該電極に含まれるケイ素化合物と前記対極の間に電位差を生じさせることにより、前記電気分解を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記電極を形成する工程において、粒子状の前記ケイ素化合物、又は、炭素材料と混合した粒子状の前記ケイ素化合物の少なくとも1種以上を結着剤と混合し、集電体に塗布することで前記電極を形成することを特徴とする請求項5に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記ケイ素化合物を作製する工程において、気相法を用いて、少なくとも表面に凹凸を有する集電体上に前記ケイ素化合物を直接担持させ、該集電体に担持させたケイ素化合物と前記対極の間に電位差を生じさせることにより、前記電気分解を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の製造方法で非水電解質二次電池用負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極を製造し、該製造した非水電解質二次電池用負極を用いて非水電解質二次電池を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化、及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えている。この負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から、電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上の要素として、負極活物質材として、ケイ素を用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上が期待できるからである。負極活物質としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。活物質形状は炭素材で標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質粒子が膨張収縮するため、主に負極活物質粒子の表層近傍が割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質粒子が割れやすくなる。負極活物質粒子の表層が割れることで新生面が生じ、負極活物質粒子の反応面積が増加する。この時、新生面において電解液の分解反応が生じるとともに、新生面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このため、電池のサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池の初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討が成されている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。更に、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO
2、M
yO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、初回充放電効率を改善するためにLi含有物を負極に添加し、負極電位が高いところでLiを分解しLiを正極に戻すプレドープを行っている(例えば特許文献6参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、SiOx(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合し高温焼成している(例えば特許文献7参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質と集電体との界面近傍における、ケイ素量に対する酸素量のモル比の最大値と最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば、特許文献8参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献9参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば、特許文献10参照)。
【0011】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば、特許文献11参照)。この場合、特許文献11では、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm
−1及び1580cm
−1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I
1330/I
1580が1.5<I
1330/I
1580<3である。
【0012】
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献12参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)と制御したケイ素酸化物を用いている(例えば、特許文献13参照)。
【0013】
また、高い電池容量、初回効率改善のため、合金系負極へ電気化学的手法でリチウムをプレドープしている(たとえば、特許文献14参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源である非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなる非水電解質二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いた非水電解質二次電池は炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
【0016】
そこで、特許文献14に開示されているように、電気分解によってLiを挿入され改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、電池のサイクル維持率、及び初回効率を改善してきた。しかし、特許文献14に記載の技術では、ハロゲン化リチウムをγ−ブチロラクトンから成る溶液で還流しながら電気分解を行い、Liの挿入を行っているが、効率よくLiの挿入を進行させるためには、電気分解に用いる溶液を高温(γ−ブチロラクトンの沸点である204℃付近)としながらの電解が必要であった。
【0017】
しかし、電気分解時に溶液を高温とする必要が有る場合、高温にするだけエネルギー消費が大きくなってしまうという問題がある。また、溶液を沸点付近の温度で取り扱うため溶液が多量に蒸発し、開放系の装置では取扱難くなり、装置が大掛かりになるという問題も有る。
【0018】
また、特許文献14に開示された技術では、ハロゲン化リチウムを用いるため、集電体の銅や活物質のケイ素と反応する塩素などのハロゲンが副生し、集電体やケイ素化合物にダメージを与えてしまう。そしてこのダメージによる電池特性の悪化を招くという問題があった。さらに、沸点付近で比較的溶解能の高いγ-ブチロラクトンを用いているため、バインダーとして用いられるPVdF、ポリイミド、ポリアクリル酸等を膨潤させ、強度を低下させるという問題があった。
【0019】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、非水電解質二次電池の電池容量を増加させ、サイクル特性、初回効率を向上させることが可能な非水電解質二次電池用負極活物質を、簡素な装置で、エネルギーの消費を低減して製造できる非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法及び非水電解質二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、リチウムを含むケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含む非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する工程と、前記ケイ素化合物及び対極を、少なくとも硝酸リチウム若しくは亜硝酸リチウム又はその両方を含む非水溶液中に浸漬し、前記ケイ素化合物と前記対極の間に電位差を生じさせて電気分解を行うことで、前記ケイ素化合物にリチウムを挿入する工程を含む非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【0021】
電気分解によってLiが挿入されたケイ素系活物質を用いた二次電池は、初回充放電時の負極でのLi消費が抑えられて初回効率が向上し、それに伴って正極から引き抜かれるLi量が抑えられ、正極の使用範囲が少なくなるため、電池維持率が向上する。さらに、電気分解に使用する非水溶液が、硝酸リチウムや、亜硝酸リチウムを含んでいる場合、比較的低温で、ケイ素化合物へのリチウムの挿入を実施できる。これは、硝酸リチウムや、亜硝酸リチウムは有機溶剤などの非水溶液への溶解度が高く、比較的低温の溶液中でも高濃度とできるためである。また、比較的低温でケイ素化合物へのリチウムの挿入を実施できるため、簡素な装置を使用でき、かつ、エネルギー消費も少なく済む。また、本発明のように、硝酸リチウムや、亜硝酸リチウムを用いる場合、電気分解時に副生するのはNO
xガス等であるため、集電体やケイ素化合物に与えるダメージを小さく抑えることができるとともに、電解部や配管に、金属材料を用いることも可能である。また、硝酸リチウム及び亜硝酸リチウムは安価であり使用しやすい。
【0022】
このとき、前記電気分解を行う工程において、前記非水溶液として、一種類以上のエーテル系溶媒を含むものを用いることが好ましい。
【0023】
エーテルは電位窓が広いため、電位の卑なケイ素化合物へのリチウム挿入反応の際に、副反応を起こり難くすることができる。
【0024】
またこのとき、前記電気分解を行う工程において、前記非水溶液として、少なくとも硝酸リチウムを含むものを用いることが好ましい。
【0025】
硝酸リチウムは、より安価で、より一般的に使用されている物質であるため、本発明に好適に用いることができる。
【0026】
このとき、前記電気分解を行う工程において、前記非水溶液の温度を80℃以上とすることが好ましい。
【0027】
本発明は、上記のように比較的低温域で電気分解によるケイ素化合物へのリチウムの挿入を行うことができるが、その低温域の中で、非水溶液の温度を80℃以上とすれば、非水溶液中でリチウム塩の飽和濃度が上がり、またイオンの動きが活発となり、イオン電導性が向上する。これにより、より効率よくリチウムの挿入が進行する。
【0028】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、前記電気分解を行う工程の前に、前記ケイ素化合物を含む電極を形成する工程を含み、該電極に含まれるケイ素化合物と前記対極の間に電位差を生じさせることにより、前記電気分解を行うことができる。
【0029】
本発明では、電気分解により、電極に含まれるケイ素化合物にリチウムを挿入してもよい。
【0030】
このとき、前記電極を形成する工程において、粒子状の前記ケイ素化合物、又は、炭素化合物と混合した粒子状の前記ケイ素化合物の少なくとも1種以上を結着剤と混合し、集電体に塗布することで前記電極を形成することができる。
【0031】
本発明では、ケイ素化合物を含む電極は上記のような塗布法により作製できる。
【0032】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、前記ケイ素化合物を作製する工程において、気相法を用いて、少なくとも表面に凹凸を有する集電体上に前記ケイ素化合物を直接担持させ、該集電体に担持させたケイ素化合物と前記対極の間に電位差を生じさせることにより、前記電気分解を行うことができる。
【0033】
気相法を用いて電極を作製する場合、塗布法よりもケイ素系活物質間(ケイ素化合物間)の空隙が少なく、結着剤等の物質を使用する必要が無いため、電池の単位体積当たりの電池容量を一層大きくすることができる。
【0034】
このとき、前記ケイ素化合物を粒子状のものとすることができる。
【0035】
本発明では、粒子状のケイ素化合物を使用しても良い。
【0036】
また、上記目的を達成するために、本発明は、上記のいずれかの製造方法で非水電解質二次電池用負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極を製造し、該製造した非水電解質二次電池用負極を用いて非水電解質二次電池を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法を提供する。
【0037】
このようにすれば、電池容量が大きく、サイクル特性、初回効率に優れた非水電解質二次電池を製造することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の負極活物質の製造方法及び負極の製造方法は、非水電解質二次電池に用いた際に、高容量で良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる負極活物質及び負極を、簡素な装置で、エネルギーの消費を低減して製造できる。
【0039】
また、本発明の製造方法により製造された負極活物質を含む二次電池においても同様の特性を得ることができる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
前述のように、非水電解質二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極を非水電解質二次電池の負極として用いることが検討されている。
【0043】
このケイ素材を用いた非水電解質二次電池は、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極材は提案されていなかった。また、特に酸素を含むケイ素化合物は、炭素材と比較し初回効率が低いため、その分電池容量の向上は限定的であった。
【0044】
そこで、Liの挿入により改質されたケイ素化合物を負極活物質として使用することで、電池のサイクル維持率、及び初回効率を改善してきた。しかしながら、ケイ素化合物を改質するための電気分解によって、集電体やケイ素化合物などにダメージを与えてしまい、そのような集電体やケイ素化合物を負極に使用した非水電解質二次電池はサイクル特性、初回効率などの電池特性が悪化してしまうという問題があった。また、高温での電気分解が必要な場合、エネルギー消費が大きく、かつ、大掛かりな装置が必要となるという問題点があった。
【0045】
そこで、発明者らは、非水電解質二次電池の負極に用いた際に、良好なサイクル特性及び初回効率が得られる負極活物質の製造方法について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0046】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法はケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する工程と、ケイ素化合物及び対極を、少なくとも硝酸リチウム若しくは亜硝酸リチウム又はその両方を含む非水溶液中に浸漬し、ケイ素化合物と対極の間に電位差を生じさせて電気分解を行うことで、ケイ素化合物にリチウムを挿入する工程とを含む。また、電気分解を行う工程の前に、ケイ素化合物を含む電極を作製してから、電極に含まれたケイ素化合物に対して電気分解を実施してケイ素化合物へのリチウムの挿入を行っても良い。
【0047】
本発明における製造方法で作成されたケイ素系活物質粒子は、ケイ素系活物質粒子が、Liを含むものであることで、初回充放電に際し、不可逆容量が低減されている。また、有機溶媒への溶解度が高い硝酸リチウムまたは亜硝酸リチウムを含む非水溶液を用いることで、比較的低温での電気分解による、エネルギー消費の少ない効率の良いリチウムの挿入が可能である。このように、比較的低温での電気分解が可能であれば、溶液の蒸発量を低減できるため、開放系の装置でも電気分解を実施でき、電気分解に使用する装置も簡素なもので済む。また、本発明におけるケイ素系活物質粒子は、ケイ素化合物を主体とする負極活物質であるので、電池容量を大きくすることができる。
【0048】
続いて、本発明の負極活物質の製造方法をより具体的に説明する。
【0049】
<1.負極活物質の製造方法>
まず、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する。このような、一般式SiO
x(但し、0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物は、例えば、以下のような手法により作製できる。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合物を使用でき、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0050】
ケイ素化合物の組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。また、本発明におけるケイ素材組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0051】
本発明では、このようして作製した粒子状のケイ素化合物に対して上記の電気分解を行うことにより、電極とする前の粒子状のケイ素化合物へのリチウムの挿入を行い、ケイ素化合物の改質を行っても良い。
【0052】
電極とする前の粒子状のケイ素化合物の改質は、例えば、
図1のような改質装置10を用いて行うことができる。
図1に示すように、改質装置10は、非水溶液13で満たされた浴槽17と、浴槽17内に配置され、電源16の一方に接続された対極11と、浴槽17内に配置され、電源16の他方に接続された粉末格納容器15と、対極11と粉末格納容器15との間に設けられたセパレータ14とを有している。
【0053】
非水溶液13は、少なくとも硝酸リチウム若しくは亜硝酸リチウム又はその両方を含む。これらの塩は有機溶媒への溶解度が高く、また安価である。特に、硝酸リチウムはより一般的なため好ましい。
【0054】
非水溶液13の溶媒としては、エーテル系溶媒を含むことが好ましい。これは、エーテル系溶媒の電位窓が広いため、電位の卑なケイ素化合物へのリチウム挿入反応の際に副反応が起こりにくいためである。これらの溶媒としては、例えば、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム)またはこれらの混合溶媒等を用いることができ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。また、溶媒には、エーテル系以外の溶媒を含んでもよい。
【0055】
また、非水溶液の温度を80℃以上とすることが好ましい。本発明は、上記のように比較的低温域で電気分解によるケイ素化合物へのリチウムの挿入を行うことができるが、その低温域の中で、非水溶液の温度を80℃以上とすれば、非水溶液中でリチウム塩の飽和濃度が上がり、またイオンの動きが活発となり、イオン電導性が向上する。これにより、より効率よくリチウムの挿入が進行する。
【0056】
また、対極11には、例えば、炭素電極を用いることができる。粉末格納容器15には、粒子状のケイ素化合物12が格納される。
【0057】
そして、粉末格納容器15には、ケイ素化合物を格納し、電源によりケイ素化合物を格納した粉末格納容器15と対極11に電圧をかける。これにより、ケイ素化合物12と対極11の間に電位差を生じさせて電気分解を行い、ケイ素化合物12にリチウムを挿入できる。また、リチウムの挿入時と逆向きの電場を掛ければ、ケイ素化合物12からリチウムを脱離することもできる。また、電場の向きの順と逆の切り替えを複数回行ってもよい。
【0058】
このように、電気分解による改質により、ケイ素化合物の内部に生成するSiO
2成分の一部を、Li化合物へ選択的に改質し、リチウムを含むケイ素化合物を作製することができる。なお、Li化合物はケイ素化合物の表面、内部、又はその両方に含まれる。選択的改質は、電気分解時に、電位制御を行うことによって達成可能である。電位制御により、電気分解時にLiが挿入されるサイトを選択することができ、それによって活性なLi化合物の生成を抑制し、電極の大気下での取り扱い性が向上する。
【0059】
また、粒子状のケイ素化合物の改質を行う前に、ケイ素化合物の表面に炭素被膜を形成しておいても良い。炭素被膜を生成する手法としては、熱CVDが望ましい。熱CVDは炉内にセットした酸化ケイ素粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましく、より望ましいのは950℃以下である。これは、ケイ素化合物の意図しない不均化を抑制することが可能であるからである。
【0060】
熱CVDによって炭素被膜を生成する場合、例えば、炉内の圧力、温度を調節することによって、炭素被膜の被覆率や厚さを調節しながら炭素被膜を粉末材料の表層に形成することができる。
【0061】
熱分解CVDで使用する炭化水素ガスは特に限定することはないが、C
nH
m組成のうち3≧nが望ましい。製造コストを低くすることができ、分解生成物の物性が良いからである。
【0062】
また、本発明では、電気分解を行う工程の前に、ケイ素化合物を含む電極を形成する工程を含んでいても良い。この場合、電極に含まれるケイ素化合物と対極の間に電位差を生じさせることにより、電気分解を行うことができる。
【0063】
電極は、例えば、
図2に示すような構成とすることができる。
図2に示すように、電極20は、集電体21の上に活物質層22を有する構成になっている。この活物質層22は集電体21の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。また、活物質層22にはケイ素化合物が含まれている。
【0064】
[集電体]
集電体21は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。集電体21に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)、鉄(Fe)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0065】
集電体21は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。集電体21の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張するケイ素化合物を含む活物質層22を有する場合、集電体21が上記の元素を含んでいれば、集電体21を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0066】
集電体21の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。粗化されている集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などが使用できる。粗化されていない集電体は、例えば、圧延金属箔などが使用できる。
【0067】
[活物質層]
活物質層22は、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)に加えて電池設計上、さらに結着剤、導電助剤、及び炭素系活物質など、他の材料を含んでいても良い。また、ケイ素化合物の表面は炭素被膜で被覆されていても良い。ケイ素化合物の表面に炭素被膜を被覆するためには、上述の熱CVDを使用すればよい。
【0068】
結着剤としては、例えば、ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等を使用できる。
【0069】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛等の黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどのうちいずれか1種以上があげられる。これらの導電助剤は、ケイ素化合物の粒子よりもメディアン径の小さい粒子状のものであることが好ましい。
【0070】
炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを用いることができる。炭素系活物質を含むことにより、活物質層22の電気抵抗を低下させるとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。
【0071】
電極20は、粒子状のケイ素化合物、又は、炭素材料と混合した粒子状のケイ素化合物の少なくとも1種以上を結着剤と混合し、集電体に塗布することで電極を形成することができる(この方法を、以下、塗布法と呼称する。)。塗布法では、ケイ素化合物の粒子と結着剤など、また必要に応じて上記の導電助剤、炭素系活物質を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布することができる。例えば、以下の手順により電極20を作製できる。
【0072】
まず、上記と同様にケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する工程を行う。次に、作製したケイ素化合物の粒子を導電助剤、結着剤、及び溶媒などと混合し、スラリーを得る。このとき、必要に応じて、炭素系活物質も混合して良い。導電助剤は、ケイ素化合物の粒子よりメディアン径の小さい炭素系材料を導電助剤として添加することができる。その場合、例えば、アセチレンブラックを選択して添加することができる。次に、スラリーを集電体21の表面に塗布し、乾燥させて活物質層22を形成する。以上のようにして、塗布法により電極を作製できる。
【0073】
また、本発明では、ケイ素化合物を作製する工程において、気相法を用いて、少なくとも表面に凹凸を有する集電体上にケイ素化合物を直接担持させても良い。気相法とは、原料を気化させ、気化した原料を集電体21上へ直接堆積する方法である。
【0074】
より具体的には、電極は気相法を用いて以下のように作製することができる。まず、金属珪素粉末及び二酸化珪素粉末を混合モル比で混合した蒸着材を、炭素坩堝に入れる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。また、炭素坩堝の上方などに集電体を配設する。その後、誘導加熱、又は抵抗加熱法を用いて、蒸着材を加熱することで一酸化ケイ素ガスを発生させる。この際、反応炉中の真空度は10
−2Pa以下とできる。このようにして、集電体上に直接ケイ素化合物を堆積させることができる。
【0075】
気相法で用いる集電体は、その表面に凹凸を有するものを用いることが好ましい。表面が粗化された集電体としては、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などが使用できる。集電体は、例えば、表面粗度Ra値が0.2μm以上であるのことが好ましい。なお、本明細書における表面粗さRa値とは、JIS B0601で規定されている中心線平均粗さRaのことである。集電体としては、フィルム状の電解銅箔などが好適に使用される。以上のようにして、気相法により電極を作製できる。
【0076】
続いて、
図3に示すように、塗布法や気相法で作製した電極31を、ロール35に設置し、対極32と対向させ、所定の温度とした、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、又はこれら両方を含む非水溶液33に浸漬する。対極32は例えば炭素電極とすることができる。
【0077】
そして、ロール35で電極31を一方向に送りながら、電源34によって、電極31に含まれるケイ素化合物と対極32の間に電位差を生じさせて電気分解を行い、ケイ素化合物12にリチウムを挿入できる。また、リチウムの挿入時と逆向きの電場を掛ければ、ケイ素化合物12からリチウムを脱離することもできる。また、電場の向きの順と逆の切り替えを複数回行ってもよい。
【0078】
以上のようにして作製したリチウムを含むケイ素化合物を用いて、非水電解質二次電池用負極活物質を製造する。
【0079】
<2.リチウムイオン二次電池>
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、上記の負極活物質の製造方法で非水電解質二次電池用負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極を製造し、該製造した非水電解質二次電池用負極を用いて非水電解質二次電池を製造する。以下、本発明の非水電解質二次電池の製造方法について、ラミネートフィルム型二次電池を作製する場合を例にして説明する。
【0080】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図4に示すラミネートフィルム型二次電池40は、主にシート状の外装部材45の内部に巻回電極体41が収納されたものである。この巻回電極体41は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード42が取り付けられ、負極に負極リード43が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0081】
正負極リードは、例えば外装部材45の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード42は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード43は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0082】
外装部材45は、例えば融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が巻回電極体41と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0083】
外装部材45と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム44が挿入されている。この材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0084】
[正極]
正極は、例えば、
図2の電極20と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0085】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0086】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0087】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0088】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0089】
[負極]
負極は、上記した
図2の電極20と同様の構成を有し、例えば、負極集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池として充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これは、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0090】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0091】
非対向領域、即ち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0092】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0093】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又はセパレータには液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0094】
溶媒は、例えば非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランが挙げられる。
【0095】
この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせるとより優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0096】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどがあげられる。
【0097】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0098】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0099】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、次の材料があげられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0100】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0101】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロールまたはダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱を行っても良い。また、圧縮、加熱を複数回繰り返しても良い。
【0102】
次に、上記した電極20の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。なお、本発明では、負極を形成する前にケイ素化合物の改質を実施しても良いし、負極の形成後、負極に含まれるケイ素化合物の改質を行っても良い。
【0103】
また、正極集電体及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成することができる。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図2を参照)。
【0104】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード42を取り付けると共に、負極集電体に負極リード43を取り付ける(
図4を参照)。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体を作成し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材45の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ開放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード42、及び負極リード43と外装部材45の間に密着フィルム44を挿入する。開放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、開放部を真空熱融着法により接着させる。
【0105】
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池40を製造することができる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0107】
(実施例1)
最初に、以下のように、気相法により、ケイ素化合物(ケイ素系活物質)を含む電極を作製した。まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料(気化出発材とも称する)をるつぼに設置し、抵抗加熱または誘導加熱によって加温しながら、10
−2Paの真空で粗化された集電体上にケイ素化合物を堆積し、これを両面に行い、約7μmの厚さの負極活物質層を有する負極を得た。このとき、SiOxのxの値は1であった。
【0108】
次に、電気分解を行った。まず、上記作製したケイ素化合物(ケイ素系活物質)を含む電極を陰極とし、その長さ方向の一部分に陽極として炭素板を対向させ、ロールによって電極を送りながら、120℃に加温した2mol/L硝酸リチウム/ジグリム溶液へ含浸し、連続的に電気分解をおこなった。この際、副生する陽極ガスを除くため、溶媒をガス除去装置へ接続し、ガス除去装置内に置いて超音波を用いてガスを除きながら循環させた。得られた負極をジグリム溶液でリンスした後、100℃で真空乾燥した。
【0109】
続いて、ケイ素化合物を含む電極と対極リチウムから成る試験セルを作製し、初回充放電特性を調べた。この試験セルは2032型コインセルを用いた。
【0110】
試験セルの電解液は以下のように作製した。溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。
【0111】
試験セルにおける、ケイ素化合物を含む電極に対する対極としては、厚さ0.5mmの金属リチウム箔を使用した。また、セパレータとして、厚さ20μmのポリエチレンを用いた。
【0112】
続いて、2032型コイン電池の底ブタ、リチウム箔、セパレータを重ねて、電解液150mLを注液し、続けて負極、スペーサ(厚さ1.0mm)を重ねて、電解液150mLを注液し、続けてスプリング、コイン電池の上ブタの順にくみ上げ、自動コインセルカシメ機でかしめることで、2032型コイン電池を作製した。
【0113】
続いて、作製した2032型コイン電池を、0.0Vに達するまで定電流密度、0.2mA/cm
2で充電し、電圧が0.0Vに達した段階で0.0V定電圧で電流密度が0.02mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.2mA/cm
2の定電流密度で電圧が1.2Vに達するまで放電した。そして、この初回充放電における初回充放電特性を調べた。
【0114】
また、本発明の負極活物質の製造方法により製造した負極活物質を用いた非水電解質二次電池のサイクル特性を評価するために、
図4に示したようなラミネートフィルム型の二次電池40を作製した。
【0115】
最初にラミネートフィルム型の二次電池に使用する正極を作製した。正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoO
2を95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0116】
負極としては、上記の試験セルのケイ素化合物を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。
【0117】
電解液としては、上記の試験セルの電解液と同様の手順で作製したものを使用した。
【0118】
次に、以下のようにしてラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0119】
このようにして作製したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(維持率%)を調べた。
【0120】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り(%表示のため×100)、容量維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0121】
(実施例2〜10、比較例1〜3)
電気分解をする工程で用いる非水溶液の組成と電解温度を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に試験セル及びラミネートフィルム型の二次電池を作製し、初回充放電特性及びサイクル特性を評価した。なお、比較例1では、電気分解をする工程を実施しなかった。
【0122】
実施例1〜10、比較例1〜3の試験セルの初回効率及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0123】
【表1】
【0124】
表1からわかるように、電気分解によってケイ素化合物にリチウムを挿入することで、初回効率および電池維持率が向上する。これは負極に含まれるケイ素化合物にLiが挿入された状態で電池を作製することで、初回充放電時の負極でのLi消費が抑えられて初回効率が向上し、それに伴って正極から引き抜かれるLi量が抑えられ、正極の使用範囲が少なくなるため、電池維持率が向上するためである。
【0125】
また、電気分解に硝酸リチウムまたは亜硝酸リチウムを含む非水溶液を用いる方が、塩化リチウムなどを含む溶液を用いる場合よりも電池特性が向上する。これは、硝酸リチウム及び亜硝酸リチウムは比較的低温の非水溶媒に対しても溶解度が高く、効率よくリチウムの挿入を実施できるうえ、集電体の銅や活物質のケイ素と反応する塩素などのハロゲンが副生する場合(比較例2、3)より、NO
xガスが副生する硝酸塩の方が、電極へのダメージが少ないためである。
【0126】
また、溶液濃度は濃い方が好ましく、1mol/L以上が好ましい。溶液濃度が濃い方が溶液中のイオン濃度が高くなるため、溶液のイオン電導性が向上するためである。また、溶液温度は100℃以上が好ましく、120℃付近が好ましい。これも溶液のイオン電導性が向上するためである。さらに、本発明では、比較的低温の120℃で電気分解を行ってもケイ素化合物を十分に改質でき、比較例2のような204℃で行った電気分解に比べて、エネルギー消費を小さく抑えることができた。また、ここで溶媒として使用したジグリムの沸点は162℃であるため、溶媒の沸点よりも約40℃低い温度で電気分解を行うことができた。すなわち、本発明では、溶媒の蒸発量を低減できるため、開放系の簡素な装置を使用可能であることが確認された。また、溶媒としてはエーテル系溶媒が好ましく、ジグリムやテトラグリムなど3つ以上のエーテル結合を分子内に含む溶媒が好ましい。このような溶媒は極性が高く、溶液中の溶質の濃度をより一層上げられるためである。
【0127】
(実施例11、12)
電極の作製方法を塗布法に変更したこと以外は、実施例1と同様に試験セル及びラミネートフィルム型の二次電池を作製し、初回充放電特性及びサイクル特性を評価した。実施例11では、活物質としてケイ素化合物を用い、電極作製時の結着剤としてポリイミドを用いた。実施例12では、活物質としてケイ素化合物と黒鉛を質量比10:90で用い、電極作製時の結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。また、実施例11、12では、負極の単位体積当たりの容量を調べ、実施例12を基準とした負極の単位体積当たりの容量の相対値である相対体積容量を算出した。
【0128】
(比較例4、5)
電極の作製方法を塗布法に変更したこと以外は、電気分解をする工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様に試験セル及びラミネートフィルム型の二次電池を作製し、初回充放電特性及びサイクル特性を評価した。比較例4では、活物質としてケイ素化合物を用い、電極作製時の結着剤としてポリイミドを用いた。比較例5では、活物質としてケイ素化合物と黒鉛を質量比10:90で用い、電極作製時の結着剤としてCMCとSBRを用いた。また、実施例11、12と同様に、負極の単位体積当たりの容量を調べ、実施例12を基準とした負極の単位体積当たりの容量の相対値を算出した。
【0129】
実施例11、12、比較例4、5の試験セルの初回効率、ラミネートフィルム型二次電池の容量維持率、及び負極の単位体積当たりの容量の相対値を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
表2からわかるように、気相法で作成した活物質がSiOの電極は、電池維持率、電池初回効率、負極の相対体積容量ともに好ましい。これは塗付法と比較し活物質間の空隙が少なく、かつ結着材等の物質が不要なためである。また、塗付法で作成したSiO/黒鉛(10/90質量%)の電極は、電池維持率、電池初回効率で他の実施例に勝るものの、負極の相対体積容量が劣る。これは活物質として黒鉛を多く含んでいるためである。電解工程を経ていない比較例1、4〜5は電池初回効率が低い。
【0132】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。