特許第6360106号(P6360106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360106
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】液圧転写用フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 3/00 20060101AFI20180709BHJP
   B44C 1/175 20060101ALI20180709BHJP
   B26D 7/08 20060101ALI20180709BHJP
   B29C 47/90 20060101ALI20180709BHJP
   B29B 11/10 20060101ALI20180709BHJP
   B29C 37/00 20060101ALI20180709BHJP
   B29C 31/00 20060101ALI20180709BHJP
   B26D 1/02 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
   B26D3/00 601B
   B44C1/175 D
   B26D7/08 A
   B29C47/90
   B29B11/10
   B29C37/00
   B29C31/00
   !B26D1/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-127149(P2016-127149)
(22)【出願日】2016年6月28日
(62)【分割の表示】特願2012-186229(P2012-186229)の分割
【原出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-203374(P2016-203374A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2016年7月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯▲ざき▼ 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/142835(WO,A1)
【文献】 特開2010−058285(JP,A)
【文献】 特開平03−026497(JP,A)
【文献】 特開平4−372396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/00 − 11/00
B44C 1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムを切断する工程と、切断されたポリビニルアルコールフィルムをロール状に巻き取ってロールを得る工程と、該ロールからポリビニルアルコールフィルムを繰り出す工程と、繰り出されたポリビニルアルコールフィルムの表面に印刷を施す工程とを有する液圧転写用フィルムの製造方法であって;
切断に供されるポリビニルアルコールフィルムが、ポリビニルアルコール100質量部に対して1〜20質量部の可塑剤を含み、
切断に供されるポリビニルアルコールフィルムの厚みが10〜100μmであり、かつ
切断する工程において、刃物の位置を固定し、溝付ロールをポリビニルアルコールフィルムの裏側に配置し、該ポリビニルアルコールフィルムを屈曲させて移動させるとともに、前記刃物を周波数5kHz以上で振動させながらポリビニルアルコールフィルムを切断することを特徴とする液圧転写用フィルムの製造方法。
【請求項2】
切断に供されるポリビニルアルコールフィルムを構成するポリビニルアルコールのけん化度が80〜99モル%である、請求項1に記載の液圧転写用フィルムの製造方法。
【請求項3】
切断に供されるポリビニルアルコールフィルムを20℃の水に浸漬したときの溶解時間
(厚みを30μmとした際の換算値)が300秒以下である、請求項1又は2に記載の液圧転写用フィルムの製造方法。
【請求項4】
切断されたポリビニルアルコールフィルムの切断面の表面粗さをフィルムの厚み方向に測定したとき、算術平均粗さ(Ra)が2μm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液圧転写用フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって製造された液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして液面に浮かべる工程と、浮かべた液圧転写用フィルムの上方から被転写体を押し付ける工程とを有する液圧転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールから繰り出す際などに破断しにくいポリビニルアルコールフィルムロール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)用いた液圧転写用フィルムの製造方法;ならびに当該方法で製造された液圧転写用フィルムを用いた液圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に意匠性を付与したり表面物性を向上させたりするための印刷層を形成する手段として、水溶性または水膨潤性のフィルム表面に転写用の印刷層が形成された液圧転写用フィルムを用いる方法が知られている。例えば、特許文献1には液圧転写用フィルムの印刷面を上にして水に代表される液体の液面に浮かべた後、被転写体である各種の成形体をその上方から押し入れることで、液圧を利用して被転写体の表面に印刷層を転写する方法が記載されている。
【0003】
ところで、液圧転写用フィルムの製造に使用される液圧転写用ベースフィルムとしてのPVAフィルムは、長尺のフィルムの形態に連続的に製膜され、その両端部分(耳部)が切断・除去されたり、さらには使用装置や使用形態などに合致した幅にするためにPVAフィルムの幅方向(TD)の中央部やその他の位置で長さ方向(MD)に切断された後に、ロール状に巻き取られ、ロールの形態で梱包されて二次加工メーカー等へ運搬され、その後、開梱されたロールは繰り出し装置に装着され、そこから繰り出されたPVAフィルムに印刷等の二次加工が施されて液圧転写用フィルムとされることが多い。
【0004】
このような場合、ロールからPVAフィルムを繰り出す際にPVAフィルムが破断することが問題となっている。この問題は、高速印刷が施される場合に特に顕著に生じる。連続方式の加工ラインでは、加工装置にPVAフィルムを導紙し直すために時間を要することから、PVAフィルムの破断は大きな生産ロスとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ロールから繰り出す際などに破断しにくいPVAフィルムロール用いた液圧転写用フィルムの製造方法;ならびに当該方法で製造された液圧転写用フィルムを用いた液圧転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、PVAフィルムの両端部分を超音波カッターを用いて切断すると、ロールから繰り出す際の破断の発生を大幅に低減することができることを見出した。本発明者らは当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]PVAフィルムを切断する工程と、切断されたPVAフィルムをロール状に巻き取ってロールを得る工程と、該ロールからポリビニルアルコールフィルムを繰り出す工程と、繰り出されたポリビニルアルコールフィルムの表面に印刷を施す工程とを有する液圧転写用フィルムの製造方法であって;
切断に供されるPVAフィルムが、PVA100質量部に対して1〜20質量部の可塑剤を含み、
切断に供されるPVAフィルムの厚みが10〜100μmであり、かつ
切断する工程において、刃物の位置を固定し、溝付ロールをポリビニルアルコールフィルムの裏側に配置し、該ポリビニルアルコールフィルムを屈曲させて移動させるとともに、前記刃物を周波数5kHz以上で振動させながらPVAフィルムを切断することを特徴とする液圧転写用フィルムの製造方法;
[2]切断に供されるPVAフィルムを構成するPVAのけん化度が80〜99モル%である、上記[1]の液圧転写用フィルムの製造方法;
[3]切断に供されるPVAフィルムを20℃の水に浸漬したときの溶解時間(厚みを30μmとした際の換算値)が300秒以下である、上記[1]又は[2]の液圧転写用フィルムの製造方法;
[4]切断されたPVAフィルムの切断面の表面粗さをフィルムの厚み方向に測定したとき、算術平均粗さ(Ra)が2μm以下である、上記[1]〜[3]のいずれか1つの液圧転写用フィルムの製造方法;
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法によって製造された液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして液面に浮かべる工程と、浮かべた液圧転写用フィルムの上方から被転写体を押し付ける工程とを有する液圧転写方法;
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロールから繰り出す際などに破断しにくいPVAフィルムロール用いた液圧転写用フィルムの製造方法;ならびに当該方法で製造された液圧転写用フィルムを用いた液圧転写方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の切断されたPVAフィルムの製造方法は、刃物を周波数5kHz以上で振動させながらPVAフィルムを切断する工程を有する。このような工程を有することにより、切断面の形状が制御され、ロールから繰り出す際などに破断しにくいPVAフィルムが得られる。
【0011】
本発明を何ら限定するものではないが、ロールから繰り出す際にPVAフィルムが破断する原因は、ロール端面の溶着にあると考えられる。すなわち、ロールの表面、特にロールの端面に水分が付着すると、水分がロールの端面から浸入して速やかにPVAフィルムの隙間に広がり、PVAフィルムの表面を膨潤・溶解させつつ、さらにPVAフィルム内部へ浸透しながら再び乾燥することによって、接触しているPVAフィルム間に局所的な溶着が生じると推測される。このように生じたPVAフィルム同士の溶着には強弱があるものの、特に破断を起こすような強い溶着は、切断面にあるひげ(切断時に端面が引き伸ばされた部分)が吸湿した後、膨潤・溶解し、そのひげが他の切断面と接触したときに発生すると推定される。したがって、破断を起こすような強い溶着を発生させないためには、ひげの発生を極力低減させることが重要であると考えられる。そして、刃物を周波数5kHz以上で振動させながらPVAフィルムを切断する工程を有する本発明の製造方法によれば、当該ひげの発生を低減することができ、それによってロールから繰り出す際などに破断しにくいPVAフィルムが得られるものと考えられる。
【0012】
刃物を振動させる際の周波数は5kHz以上であることが必要であり、10kHz以上であることが好ましく、15kHz以上であることがより好ましい。周波数が5kHz未満であると、切断面にひげが発生しやすくなってロールから繰り出す際などにPVAフィルムが破断しやすくなる。一方、周波数は50kHz以下であることが好ましく、45kHz以下であることがより好ましい。周波数が50kHzを超えると切断面にひげが発生しやすくなる傾向がある。
【0013】
上記の切断は、いわゆる超音波カッターとして市販されているカッターのように、刃物を振動させながら切断を行うことができるとともに刃物を振動させる際の周波数を5kHz以上とすることのできるカッターを用いて行うことができる。このようなカッターを用いてPVAフィルムを切断することにより、従来のシェアカット法やレザーカット法などのような刃物を振動させない方法を採用した場合と比較して、切断面のひげの発生を抑制することが可能となる。
【0014】
刃物の材質に特に制限はなく、例えば、ハイス鋼、ダイス鋼、ステンレス鋼、セラミックス、超硬合金等が挙げられる。また刃物の刃先角度は、例えば、10〜50°の範囲内にすることができる。
【0015】
PVAフィルムを切断する際の刃物の刃先とPVAフィルムのなす角度(刃先と平行な方向とPVAフィルム面のなす角度)は、切断面のひげの発生をより効果的に抑制することができることから、10〜60°の範囲内であることが好ましく、15〜55°の範囲内であることがより好ましい。また、PVAフィルムを切断する際には、溝付ロールを使用してPVAフィルムを屈曲させる方が切断面のひげの発生をより効果的に抑制することができ好ましい。
【0016】
PVAフィルムを切断する際の切断位置に特に制限はなく、例えば、製膜後の長尺のPVAフィルムの両端部分(耳部)を除去するように長さ方向(MD)に切断したり、特定の幅にするなどの目的のため長尺のPVAフィルムの幅方向(TD)の中央部やその他の位置で長さ方向(MD)に切断したりすることができる。両端部分を除去する場合には、例えば、切断に供されるPVAフィルムの両端より、内側にそれぞれ1〜20cmまでの範囲を両端部分とすることができる。上記のように長尺のPVAフィルムの長さ方向(MD)に切断することによって、ロールから繰り出す際に破断しにくいPVAフィルムが得られる。また、例えば、長尺のPVAフィルムの幅方向(TD)に切断して枚葉のPVAフィルムを得る際などにおいて、刃物を上記のような周波数で振動させながらPVAフィルムを切断すれば、幅方向(TD)の切断面での破断を抑制することが可能となる。
【0017】
PVAフィルムの切断は、刃物の位置を固定しPVAフィルムを移動(搬送)させながら行ってもよいし、PVAフィルムを固定し刃物の位置を移動させながら行ってもよいし、刃物の位置を移動させつつPVAフィルムも移動(搬送)させながら行ってもよいが、長尺のPVAフィルムの両端部分を除去するように切断する際などにおいては、連続的に安定してPVAフィルムを切断することができることから、刃物の位置を固定しPVAフィルムを移動(搬送)させながら切断するのが好ましい。その際のPVAフィルムの移動(搬送)速度としては、切断面のひげの発生をより効果的に抑制することができることから、20〜200m/分の範囲内であることが好ましく、40〜150m/分の範囲内であることがより好ましい。
【0018】
上記のように、刃物を周波数5kHz以上で振動させながらPVAフィルムを切断する工程を有する本発明の製造方法によれば、切断面におけるひげの発生を低減することができ、それによってロールから繰り出す際などに破断しにくいPVAフィルムが得られるものと考えられる。当該ひげの発生の程度は、切断されたPVAフィルムの切断面の表面粗さをフィルムの厚み方向に測定したときに得られる算術平均粗さ(Ra)によって表すことができる。本発明の切断されたPVAフィルムの製造方法によって製造されるPVAフィルムにおいては、当該算術平均粗さ(Ra)が2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。当該算術平均粗さ(Ra)が2μm以下であると、ロールから繰り出す際などの破断の発生がより効果的に低減される。なお、本明細書において算術平均粗さ(Ra)はJIS B 0601:2001で定義される。
【0019】
切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムを構成するPVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0020】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0021】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0022】
上記のポリビニルエステルに占める前記した他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、25モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。当該割合が25モル%を超えると、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合にPVAフィルムと印刷層との親和性が低下する傾向がある。
【0023】
上記のPVAは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。PVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、PVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0024】
上記のPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また上記のPVAは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0025】
上記のPVAの重合度は500〜3000の範囲内であることが好ましく、700〜2800の範囲内であることがより好ましく、1000〜2500の範囲内であることがさらに好ましい。PVAの重合度が500未満の場合には、得られるPVAフィルムの機械的強度が不足し破断が起きやすくなる傾向がある。一方、PVAの重合度が3000を超えると、PVAフィルムを製造する際の生産効率が低下する場合があり、また、PVAフィルム、ひいてはそれを用いてなる液圧転写用フィルムの水溶性が低下し経済的な工程速度で液圧転写を行うのが困難になる場合がある。なお、本明細書でいうPVAの重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0026】
上記のPVAのけん化度は80〜99モル%の範囲内であることが好ましく、83〜96モル%の範囲内であることがより好ましく、85〜90モル%の範囲内であることがさらに好ましい。PVAのけん化度が80モル%未満の場合には、切断されたPVAフィルム、ひいてはそれを用いてなる液圧転写用フィルムの水溶性が低下し、経済的な工程速度で液圧転写を行うのが困難になる場合があり、また、切断に供されるPVAフィルムが柔らかくなりすぎて切断面における上記した算術平均粗さ(Ra)の値が大きくなりやすい。一方、PVAのけん化度が99モル%を超えた場合にも、切断されたPVAフィルムや液圧転写用フィルムの水溶性が低下し、経済的な工程速度で液圧転写を行うのが困難になる場合があり、また、切断に供されるPVAフィルムが硬くなりすぎて切断面における上記した算術平均粗さ(Ra)の値が大きくなりやすい。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0027】
PVAフィルムに可塑剤を含有させることで柔軟性を付与することができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができる。PVAフィルムにおける可塑剤の含有量はPVA100質量部に対して1〜20質量部の範囲内であるのが好ましく、2〜15質量部の範囲内であるのがより好ましい。可塑剤の含有量が1質量部以上であることにより、切断に供されるPVAフィルムが硬くなりすぎて切断面における上記した算術平均粗さ(Ra)の値が大きくなるのを抑制することができる。また、可塑剤の含有量が20質量部以下であることにより、切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムのブロッキングの発生を抑制することができる。
【0028】
また、PVAフィルムに澱粉および/またはPVA以外の水溶性高分子を含有させることで、PVAフィルムに印刷層を形成する際などにおいて必要な機械的強度を付与し、PVAフィルムを取り扱う際の耐湿性を維持し、あるいは印刷層が形成された液圧転写用フィルムを液面に浮かべた際の液体の吸収による柔軟化の速度、液面での延展性、液体中での拡散に要する時間、液圧転写工程における変形の程度等を調節することができる。
【0029】
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類;エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工等が施された加工澱粉類などを挙げることができ、特に加工澱粉類が好ましい。切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムにおける澱粉の含有量はPVA100質量部に対して15質量部以下であるのが好ましく、10質量部以下であるのがより好ましい。澱粉の含有量が15質量部以下であることにより、PVAフィルムや液圧転写用フィルムの耐衝撃性が低下して工程通過性が低下するのを抑制することができる。
【0030】
PVA以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムにおけるPVA以外の水溶性高分子の含有量はPVA100質量部に対して15質量部以下であるのが好ましく、10質量部以下であるのがより好ましい。PVA以外の水溶性高分子の含有量が15質量部以下であることにより、液圧転写時にPVAフィルムの溶解性および分散性が低下するのを抑制することができる。
【0031】
また、PVAフィルムにホウ素系化合物および/または界面活性剤を含有させることで、印刷層が形成された液圧転写用フィルムを液面に浮かべた際の液体の吸収による柔軟化の速度、液面での延展性、液体中への拡散に要する時間、液圧転写工程における変形の程度等を調節することができる。
【0032】
ホウ素系化合物としては、ホウ酸や硼砂が好ましい。切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムにおけるホウ素系化合物の含有量はPVA100質量部に対して5質量部以下であるのが好ましく、3質量部以下であるのがより好ましい。ホウ素系化合物の含有量が5質量部以下であることにより、PVAフィルムや液圧転写用フィルムの水溶性が低下して液圧転写の工程速度が低下するのを抑制することができる。
【0033】
界面活性剤としては特に制限はなく、公知のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などを用いることができる。切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムにおける界面活性剤の含有量はPVA100質量部に対して5質量部以下であるのが好ましく、1質量部以下であるのがより好ましい。界面活性剤の含有量が5質量部以下であることにより、PVAフィルムが密着しやすくなって取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0034】
PVAフィルムには、上記した成分以外にも、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー等の他の成分を含有させることができる。切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムにおけるこれらの他の成分の含有量は、その種類にもよるが、通常、PVA100質量部に対して10質量部以下であるのが好ましく、5質量部以下であるのがより好ましい。他の成分の含有量が10質量部以下であることにより、PVAフィルムの耐衝撃性が悪化するのを抑制することができる。
【0035】
切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムの水分率は、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。水分率が1質量%以上であることにより、PVAフィルムの耐衝撃性が低下して裂けやすくなるのを抑制することができる。また、静電気によってPVAフィルムに埃やゴミが付着するのを抑制することができ、例えば、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合に、PVAフィルムの表面に印刷を施した際の印刷抜けを抑制することができる。一方、上記水分率は6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。水分率が6質量%以下であることにより、例えば、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合に、PVAフィルムのロールからPVAフィルムを繰り出すときにPVAフィルムが伸びやすくなることによってPVAフィルムの表面に印刷を施した際に印刷パターンがぼやけたり、多色印刷を施したときには印刷ずれが起きたりするのを抑制することができる。
【0036】
切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムの厚みは、用途に応じて適宜選択すればよいが、通常、10〜100μmの範囲内、好ましくは20〜80μmの範囲内、より好ましくは30〜50μmの範囲内であるのがよい。厚みが10μm以下であることにより、PVAフィルムや液圧転写用フィルムの強度不足による工程通過性の低下を抑制することができる。一方、厚みが100μm以下であることにより、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合に、液圧転写用ベースフィルムや液圧転写用フィルムの水溶性が低下して液圧転写の工程速度が低下するのを抑制することができる。
【0037】
切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムの形状に特に制限はないが、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合における印刷のしやすさなどの観点から長尺のフィルムであることが好ましい。長尺のフィルムの長さは1m以上であるのが好ましく、100m以上であるのがより好ましく、1000m以上であるのがさらに好ましい。長尺のフィルムの長さの上限としては、例えば、40000mが挙げられる。また、長尺のフィルムの幅は、切断後において、50cm以上であるのが好ましく、80cm以上であるのがより好ましく、100cm以上であるのがさらに好ましい。当該幅が50cm以上であることにより、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合における印刷が施しやすくなるなどの利点がある。長尺のフィルムの幅は、均一な厚みを有するPVAフィルムの生産が容易であることなどから、4m以下であるのが好ましく、3m以下であるのがより好ましい。
【0038】
切断に供されるPVAフィルムは、流延法、押出法、溶融法、インフレーション法等により製膜することができる。製膜後のPVAフィルムは無延伸フィルムであってもよいし、用途に合わせて機械的特性を改善する目的で、1軸延伸または2軸延伸されたフィルムであってもよい。
【0039】
また、切断されたPVAフィルムを液圧転写用ベースフィルムとして使用する場合におけるPVAフィルムの印刷適性を向上させたり、PVAフィルム表面のスリップ性を向上させたりするために、PVAフィルムの表面にマット処理が施されていることが好ましい。マット処理の方法としては、製膜時にロールまたはベルト上のマット表面をフィルムに転写させるオンラインマット処理法、製膜されたフィルムを一旦ロール状に巻き取った後にエンボス処理を施す方法などが挙げられる。マット処理が施された面の算術平均粗さ(Ra)は、印刷適性の向上やスリップ性の向上の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。算術平均粗さ(Ra)の上限としては、例えば、10μmが挙げられる。また、マット処理が施された面の最大高さ粗さ(Rz)は、印刷適性の向上やスリップ性の向上の観点から、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。最大高さ粗さ(Rz)の上限としては、例えば、20μmが挙げられる。なお、本明細書において最大高さ粗さ(Rz)はJIS B 0601:2001で定義される。
【0040】
本発明の切断されたPVAフィルムの製造方法によって製造されたPVAフィルムはロール状に巻き取ってロールにすることが好ましい。ロールにすることにより、PVAフィルムの輸送や保管などが容易になる。
【0041】
本発明の切断されたPVAフィルムの製造方法によって製造されたPVAフィルムの用途に特に制限はなく、例えば、当該PVAフィルムを、偏光フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムを製造するための原反フィルムの用途に使用したり、あるいは、水溶性フィルムの用途に使用することができる。当該水溶性フィルムとしては、例えば、液圧転写用ベースフィルム、薬剤包装用フィルム、種子包装用フィルム、離型用フィルムなどが挙げられる。このうち、従来、PVAフィルムを切断する際に切断面の形状の制御が難しく、またロールから繰り出す際に破断しやすい水溶性フィルムの用途に使用する場合に本発明の効果がより顕著に奏されることから好ましい。
【0042】
PVAフィルムを水溶性フィルムの用途に使用する場合などにおける切断に供されるPVAフィルムひいては切断されたPVAフィルムの水溶性について、PVAフィルムを20℃の水に浸漬したときの溶解時間(厚みを30μmとした際の換算値)が300秒以下であるのが好ましく、200秒以下であるのがより好ましく、100秒以下であるのがさらに好ましい。一方、当該溶解時間があまりに短いとPVAフィルムの取り扱い性が低下する場合があることから、当該溶解時間は3秒以上であることが好ましい。なお、当該溶解時間は実施例において後述する方法により測定することができる。
【0043】
PVAフィルムの溶解時間を制御する方法に特に制限はないが、使用するPVAの種類(重合度、けん化度、変性の種類や変性量など)、フィルムの厚み、可塑剤などの含有成分の種類と量、製膜方法やその条件などを適宜調整することによって容易に上記範囲とすることができる。具体的には、例えば、使用するPVAにおいて、重合度を下げる;けん化度を88モル%付近に近づける;変性種(上記したビニルエステルと共重合可能な他の単量体やグラフト共重合可能な単量体など)としてより親水性のものを採用する;その変性量を多くするなどすることによって、あるいは、PVAフィルムの厚みを薄くする;可塑剤の含有量を増やすなどすることによって、上記の溶解時間を短くすることができる。
【0044】
本発明の液圧転写用フィルムは、上記した切断されたPVAフィルムの製造方法によって製造されたPVAフィルムの表面に印刷を施してなる。当該印刷を施すにあたり、上記のロールを用いて当該ロールからPVAフィルムを繰り出し、繰り出されたPVAフィルムの表面に印刷を施すことが、ロールから繰り出す際のPVAフィルムの破断を抑制することのできる本発明において好ましい。PVAフィルムの表面に印刷を施す際の印刷方法に特に制限はなく、公知の印刷方式を採用することによって印刷層を形成することができ、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、ロールコート等を採用することができる。当該印刷は、PVAフィルムに印刷インクによって直接行ってもよいし、印刷層を他のフィルム上に一旦形成した後で、それをPVAフィルムに転写することによって行ってもよい。前者のようにPVAフィルムに印刷インクによって直接印刷を行う場合には印刷インクの組成の制限や乾燥工程の問題、多色印刷の際の色ずれの問題などが発生する場合があるため、後者のように印刷層を他のフィルム上に一旦形成した後で、それをPVAフィルムに転写することによって印刷を行うのが好ましい。印刷に使用される印刷インクとしては従来公知のものを用いることができる。
【0045】
上記の液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして水等の液体に浮かべ、その上方から各種成形体などの被転写体を押し付けることにより液圧転写を行うことができる。より詳細な液圧転写方法としては、例えば、液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして液面に浮かべると共にインク活性剤を吹き付けるなどして印刷層を活性化させる第1工程、液面に浮かべた液圧転写用フィルムの上方から被転写体を被転写面が下方になるようにして降下させて押し付ける第2工程、液圧転写用フィルムの印刷層が被転写体の表面に十分に固着した後で該液圧転写用フィルムにおけるPVAフィルム部分を除去する第3工程、被転写面に印刷層が転写させた被転写体を十分に乾燥させる第4工程の各工程からなる液圧転写方法が挙げられる。
【0046】
被転写体の種類に特に制限はなく、例えば、木、合板、パーティクルボード等の木質基材;各種プラスチック類;石膏ボード;パルプセメント板、スレート板、石綿セメント板等の繊維セメント板;珪酸カルシウム板;珪酸マグネシウム板;ガラス繊維補強セメント;コンクリート;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属の板;これらの複合物などが挙げられる。被転写体は、その表面の形状が平坦であっても、粗面であっても、凹凸形状を有していても、いずれでもよいが、凹凸のある立体面や曲面を有する被転写体であることが、液圧転写の利点をより効果的に活用することができることから好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。なお、切断に供されるPVAフィルムを20℃の水に浸漬したときの溶解時間(厚みを30μmとした際の換算値)および切断されたPVAフィルムの切断面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の各測定方法を以下に示す。
【0048】
切断に供されるPVAフィルムを20℃の水に浸漬したときの溶解時間(厚みを30μmとした際の換算値)の測定方法
PVAフィルムから長さ40mm×幅10mmの長方形のサンプルを切り出し、50mm×50mmのプラスチック板に長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)を開けたもの2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつサンプルが窓の幅方向のほぼ中央に位置するように挟み込んで固定した。
一方、500mlのビーカーに300mlの水を入れ、回転数280rpmで3cm長のバーを備えたマグネチックスターラーで撹拌しつつ、水温を20℃に調整しておき、上記したプラスチック板に固定したサンプルをマグネチックスターラーのバーに接触しないように注意しながらビーカー内に浸漬した。水に浸漬してから、水中に分散したサンプル片が完全に消失するまでの時間(秒)を測定し、これをサンプルの溶解時間とした。そして、以下の式によって、PVAフィルムの厚みを30μmとした際の換算値を得た。
20℃の水に浸漬したときの溶解時間(厚みを30μmとした際の換算値)(秒)=[30/PVAフィルムの厚み(μm)]×(サンプルの溶解時間(秒))
【0049】
切断されたPVAフィルムの切断面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の測定方法
KEYENCE社製形状測定レーザーマイクロスコープ「VK−X200」を用いた。具体的には、製造されたロールから切断されたPVAフィルムを繰り出してその幅方向(TD)両端の切断面のうちの任意の1箇所でフィルムの厚み方向に表面粗さを測定して算術平均粗さ(Ra)を求めた。
【0050】
[実施例1]
(1)ロールの製造
ロールから長尺のPVAフィルム(長さ1000m、幅700mm、厚み30μm)を連続的に繰り出し、繰り出されたPVAフィルムの両端より内側にそれぞれ10cmまでの範囲を耳部として設定してこれを除去するように、刃を周波数20kHzで振動させた超音波カッターを用いてPVAフィルムを長さ方向(MD)に切断後、得られた幅500mmの切断されたPVAフィルムを紙管(内径75mm、外径90mmの円筒状の紙管)にロール状に巻き取ってロールとした。
この際に、切断に供される長尺のPVAフィルムとしては、ポリ酢酸ビニルの単独重合体をけん化してなる重合度1700およびけん化度88モル%のPVAから構成され、可塑剤としてグリセリンをPVA100質量部に対して8質量部含む、水分率3質量%のPVAフィルム(20℃の水に浸漬したときの溶解時間(厚みを30μmとした際の換算値)39秒)を使用した。また、超音波カッターとしては、超硬合金製で刃先角度が30°で厚みが0.38mmのレザー刃を有するものを使用した。
また切断にあたっては、超音波カッターの位置を固定し、溝付ロールをPVAフィルムの裏側に配置し、PVAフィルムを40m/分の搬送速度(繰り出し速度)で移動させながら行った。なお、超音波カッターの刃の刃先とPVAフィルムのなす角度は45°とし、溝付ロールによるPVAフィルムの屈曲角度(PVAフィルムの溝付ロールへの抱き角)は5°とした。
このようにして得られた切断されたPVAフィルムの切断面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))を上記した方法によって測定したところ1.2μmであった。
【0051】
(2)液圧転写用フィルムの製造
(1)において製造したロールを室温20℃、相対湿度60%に加湿空調した室内にて繰り出し装置に装着し、30m/分の繰り出し速度でロールからPVAフィルムを連続的に繰り出し、繰り出されたPVAフィルムの片面に印刷を施して液圧転写用フィルムを得た。
この際、ロールからPVAフィルムを繰り出すときのロールの端面におけるPVAフィルムの剥離音の回数とPVAフィルムの破断回数を数えた。この評価を(1)において上記したのと同様にして製造した5本のロールについて行い、その平均値を算出したところ、剥離音が0.2回、破断回数が0回であった。
【0052】
[比較例1]
(1)ロールの製造
超音波カッターの振動を停止したこと以外は、実施例1の(1)と同様にしてPVAフィルムを切断後、ロールとした。
このようにして得られた切断されたPVAフィルムの切断面の表面粗さ(算術平均荒さ(Ra))を上記した方法によって測定したところ1.5μmであった。
【0053】
(2)液圧転写用フィルムの製造
(1)において上記したのと同様にして製造した5本のロールについて、実施例1の(2)と同様にして剥離音の回数とPVAフィルムの破断回数の平均値を算出したところ、剥離音が0.4回、破断回数が0.2回であった。