(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記出力電圧と前記基準電圧とを入力し、前記出力段のコモン電圧が前記基準電圧と一致するようにフィードバック制御する第2のフィードバック制御部をさらに備える請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のホール起電力信号検出回路。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ホール起電力信号検出回路の一例を示す概略構成図である。
図1に示すホール起電力信号検出回路は、4つの端子(端子1、端子2、端子3、端子4)を備えた第1のホール素子11と、第2のホール素子12と、第1のスピニングカレントスイッチ13と、第2のスピニングカレントスイッチ14と、第1のホール素子駆動電流源15と、第2のホール素子駆動電流源16とを備える。さらに、ホール起電力信号検出回路は、第1のトランスコンダクタンスアンプGm1と、第2のトランスコンダクタンスアンプGm2と、フィードバック用トランスコンダクタンスアンプGmfbと、増幅段17と、チョッパースイッチ18と、出力段19と、出力信号フィードバックネットワーク20と、フィードバックチョッパースイッチ21と、発振器(OSC)22と、チョッパークロック生成器(Clock Ctrl)23と、を備える。なお、以下、トランスコンダクタンスアンプはGmアンプともいう。例えば、第1のトランスコンダクタンスアンプは、第1のGmアンプ、第2のトランスコンダクタンスアンプは、第2のGmアンプ、フィードバック用トランスコンダクタンスアンプはフィードバック用Gmアンプという。
【0016】
第1のホール素子駆動電流源15の電流値はIbias1であり、第2のホール素子駆動電流源16の電流値はIbias2である。また、トランスコンダクタンスアンプ(Gmアンプ)とは、電圧信号を電流信号に変換する機能を有するアンプのことであり、例えばトランジスタ差動対を用いたアンプでよい。
発振器22は、クロック信号Clkを生成する。このクロック信号Clkはチョッパークロック生成器23に入力される。チョッパークロック生成器23は、クロック信号Clkを受けチョッパークロックFchopを生成する。
【0017】
チョッパークロック生成器23の出力信号Fchopは、第1、第2のスピニングカレントスイッチ13、14、チョッパースイッチ18、及びフィードバックチョッパースイッチ21に供給され、これら各部ではチョッパークロックFchopの位相φ1及びφ2に応じて、各々のスイッチの切り替えが行われる。第1のホール素子11が有する4つの端子1〜4は第1のスピニングカレントスイッチ13に接続され、第2のホール素子12が有する4つの端子1〜4は第2のスピニングカレントスイッチ14に接続されている。また、第1のホール素子駆動電流源15は第1のスピニングカレントスイッチ13に接続され、第2のホール素子駆動電流源16は第2のスピニングカレントスイッチ14に接続されている。
【0018】
このような構成により、第1、第2のホール素子11、12は、後述するスピニングカレント法により、それぞれ第1、第2のスピニングカレントスイッチ13、14によって駆動される。第1のスピニングカレントスイッチ13は、複数のスイッチを有しており、後述するスピニングカレント法で第1のホール素子11を駆動することにより、第1のホール素子11から得られるホール起電力信号を含む差動信号A1(
図1中、A1で示す)を第1のGmアンプGm1へ供給する。同様に第2のスピニングカレントスイッチ14は、複数のスイッチを有しており、後述するスピニングカレント法で第2のホール素子12を駆動することにより、第2のホール素子12から得られるホール起電力信号を含む差動信号A2(
図1中、A2で示す)を第2のGmアンプGm2へ供給する。スピニングカレント法での駆動を簡易に行う観点から、
図1の様に第1のホール素子と第2のホール素子の端子位置が対応していることが好ましい。
【0019】
図2の(a)〜(d)は、
図1中の、第1のホール素子11及び第2のホール素子12をスピニングカレント法により駆動する場合の説明図である。
スピニングカレント法では、ホール素子の各端子1〜4から流す電流の方向によって、その駆動状態を表現する。例えばすでに述べたように、
図1の各ホール素子11、12はそれぞれ端子1、端子2、端子3、端子4を備えているが、端子1から端子3へ電流を流す場合を0度方向と定義すると、端子2から端子4へ電流を流す場合を90度方向と呼び、端子3から端子1へ電流を流す場合を180度方向、端子4から端子2へ電流を流す場合を270度方向と呼ぶ。以下、この定義に沿って説明を行う。
【0020】
図2の(a)及び(b)は、第1のホール素子11に対するスピニングカレント法を説明する図である。第1のホール素子11に対しては、チョッパークロックFchopの位相がφ1とφ2との2値の間で切り替わるたびに、ホール素子11をバイアスする駆動電流の向きを、それぞれ、0度方向と90度方向との間で切り替える。これを第1のスピニングカレント法と呼ぶ。
そして、チョッパークロックFchopの位相がφ1のときは、端子4を基準とした端子2の電位を電圧信号Vhall1(φ1)として測定し、位相がφ2のときは、端子3を基準とした端子1の電位を電圧信号Vhall1(φ2)として測定する。この時、Vhall1(φ1)及びVhall1(φ2)は、次式(1)に示すように、ホール素子11を使った磁気センサの検出対象となる磁場Bに対応したホール起電力信号成分Vsig(B)と、ホール素子11のオフセット電圧Vos(Hall)との和として表される。
【0021】
Vhall1(φ1)=+2Vsig(B)+Vos(Hall)
(チョッパークロックFchopの位相がφ1のとき)
Vhall1(φ2)=−2Vsig(B)+Vos(Hall)
(チョッパークロックFchopの位相がφ2のとき)
……(1)
この電圧信号Vhall1(Vhall1(φ1)とVhall1(φ2))が、第1のスピニングカレントスイッチ13から第1のGmアンプGm1へ供給される差動信号A1となっている。
【0022】
図2の(c)及び(d)は、第2のホール素子12に対するスピニングカレント法を説明するための図である。第2のホール素子12に対しては、チョッパークロックFchopの位相がφ1とφ2との2値の間で切り替わるたびに、ホール素子12をバイアスする駆動電流の向きを、それぞれ、270度方向と180度方向との間で切り替える。これを第2のスピニングカレント法と呼ぶ。そして、チョッパークロックFchopの位相がφ1のときは、端子3を基準とした端子1の電位を電圧信号Vhall2(φ1)として測定し、位相がφ2のときは、端子4を基準とした端子2の電位を電圧信号Vhall2(φ2)として測定する。この時、Vhall2(φ1)とVhall2(φ2)は、次式(2)に示すように、ホール素子12を使った磁気センサの検出対象となる磁場Bに対応したホール起電力信号成分Vsig(B)と、ホール素子12のオフセット電圧Vos(Hall)との和として表される。
【0023】
Vhall2(φ1)=+2Vsig(B)+Vos(Hall)
(チョッパークロックFchopの位相がφ1のとき)
Vhall2(φ2)=−2Vsig(B)+Vos(Hall)
(チョッパークロックFchopの位相がφ2のとき)
……(2)
この電圧信号Vhall2(Vhall2(φ1)とVhall2(φ2))が、第2のスピニングカレントスイッチ14から第2のGmアンプGm2へ供給される差動信号(A2)となっている。
【0024】
そして、第1のGmアンプGm1は電圧電流変換の係数、すなわちトランスコンダクタンス値(以下、gm値と表記する)であるgm1で差動信号A1を電圧から電流に変換し、第2のGmアンプGm2はgm2で差動信号A2を電圧から電流に変換し、フィードバック用GmアンプGmfbはgmfbで後述する差動信号Gを電圧から電流に変換する。
第1、第2、及びフィードバック用のGmアンプ、それぞれGm1、Gm2、Gmfbの出力端は、加算ノード24に接続され、各Gmアンプで変換された電流信号が全て加算されて、差動信号B(
図1中、Bで示す)となる。
【0025】
さらに加算ノード24には、増幅段17が差動信号Bを受けるように接続されており、増幅段17は差動信号Bを増幅した差動信号C(
図1中、Cで示す)を出力する。増幅段17は、例えばトランスインピーダンスアンプであり、且つ電流電圧変換アンプであり、入力信号を増幅し出力する増幅器である。
そして、差動信号Cを受けるようにチョッパースイッチ18が増幅段17の出力端に接続され、チョッパースイッチ18は、チョッパークロックFchopで差動信号Cの復調を行い、差動信号D(
図1中、Dで示す)を出力する。そして、差動信号Dを受けるように出力段19がチョッパースイッチ18の出力端に接続され、出力段19は差動信号Dを増幅した差動信号E(
図1中、Eで示す)を出力する。この差動信号Eがホール起電力信号検出回路の出力Voutとなる。そして、出力信号フィードバックネットワーク20が差動信号Eを受けるよう接続され、出力信号フィードバックネットワーク20は差動信号F(
図1中、Fで示す)を出力する。さらに、フィードバックチョッパースイッチ21が差動信号Fを受けるよう出力信号フィードバックネットワーク20に接続され、フィードバックチョッパースイッチ21はチョッパークロックFchopによって変調された差動信号G(
図1中、Gで示す)を出力する。この差動信号Gはフィードバック用GmアンプGmfbへ供給される。
【0026】
図1の出力信号フィードバックネットワーク20は、抵抗R11、抵抗R12、抵抗R21、及び抵抗R22を備える。抵抗R11、抵抗R21は、一端がアナロググラウンド(以下、AGNDともいう。)に接続され、他端はそれぞれ抵抗R12、抵抗R22の一端に接続されている。
出力段19の出力信号すなわち差動信号Eの正相成分をVout_p、負出力をVout_nとすると、差動信号E、すなわちホール起電力信号検出回路の出力Voutはその差分で表される。すなわち、Vout=Vout_p−Vout_nで表される。そして、抵抗R12、R22の他端は、それぞれ出力段19の出力端に接続されている。
【0027】
抵抗R11、R12、R21、及びR22の抵抗値が、R11=R21、R12=R22であるものとすると、ホール起電力信号検出回路の出力Voutは、第1、第2及びフィードバック用のGmアンプGm1、Gm2、Gmfbのgm値、すなわちgm1、gm2、gmfbを利用して、次式(3)で表すことができる。
Vout
=(1+R12/R11)×{(gm1/gmfb)×Vhall1
+(gm2/gmfb)×Vhall2} ……(3)
ここで、第1のGmアンプGm1のgm値gm1、第2のGmアンプGm2のgm値gm2を、gm1=gm2=gm_hallと設定すると、(3)式は、次式(4)で表される。
【0028】
Vout
=(1+R12/R11)
×{(gm_hall/gmfb)×(Vhall1+Vhall2)}
……(4)
ところで、連続時間信号処理方式では、ホール起電力信号を検出する場合、スパイクと呼ばれるスイッチ切り替え時に発生する誤差信号を抑えることが重要となる。このスパイクは歪んだ正弦波の原因、または残留オフセットとなるため、電流センサがモーター制御に利用される場合、モーターのトルクリップルの原因となり、滑らかなモーター制御にとっては障害となるものである。そして、このスパイクにはその発生原因によって2種類あり、ここでは、一方のスパイクを第1のスパイクと呼び、他方のスパイクを第2のスパイクとする。そして、ホール起電力信号検出回路の出力においては、これら第1及び第2のスパイクの変動が抑えられていることが、正弦波を精度よく滑らかにし、また残留オフセットの変動を抑えることにつながり、連続時間信号処理を利用した電流センサでは重要である。
【0029】
しかしながら、
図1に示すホール起電力信号検出回路では、これら第1及び第2のスパイクを抑制するに当たり、以下のような新たな課題を発明者らは見出した。
まず第1のスパイクについて説明する。
第1のスパイクの発生原因は、スピニングカレント法により駆動した際に、ホール素子への駆動電流の通電によって決まるバイアス電圧「Vbias+、Vbias−」からホール起電力信号の電圧に移行する際の時間的な遷移が原因となっている。なお、
図2(a)〜(d)において、高電圧側を「Vbias+」、電流源側を「Vbias−」としている。
この第1のスパイクの発生度合はスピニングカレント法においてホール素子の駆動電流を通電する端子を選択し切り替えを行う順序、また、そのシーケンスによって変わってくる。
【0030】
図1に示すホール起電力信号検出回路は、第1のホール素子11を第1のスピニングカレント法で駆動することによって発生するスパイク信号の極性と、第2のホール素子12を第2のスピニングカレント法で駆動することによって発生するスパイク信号の極性とが、チョッパークロックFchopの位相がφ1である場合とφ2である場合とで互いに異なっていることを利用したものである。すなわち
図1に示すホール起電力信号検出回路は、第1のGmアンプGm1と第2のGmアンプGm2の出力同士を加算ノード24で加算し、スパイク信号成分を含む差動信号A1と差動信号A2とを加算することで両差動信号A1、A2に含まれるスパイク信号成分を相殺して、ゼロとすることを狙ったものである。
【0031】
図3及び
図4は、
図1に示すホール起電力信号検出回路の差動信号A1及び差動信号A2の、正相成分と逆相成分と差動信号の、時間的変化を説明するための図である。
図3において(a)はチョッパークロックFchopの位相、(b)はホール素子11の電圧信号Vhall1の信号波形正相成分つまり差動信号A1の正相成分を表し、(c)は電圧信号Vhall1の信号波形逆相成分つまり差動信号A1の逆相成分を表し、(d)は電圧信号Vhall1の信号波形つまり差動信号A1を表す。
同様に
図4において、(a)はチョッパークロックFchopの位相、(b)はホール素子12の電圧信号Vhall2の信号波形正相成分つまり差動信号A2の正相成分を表し、(c)は電圧信号Vhall2の信号波形逆相成分つまり差動信号A2の逆相成分を表し、(d)は電圧信号Vhall2の信号波形つまり差動信号A2を表す。
【0032】
図3において、差動信号A1の正相成分はチョッパークロックFchopの位相φ1においてバイアス電圧「Vbias+」からホール起電力信号電圧+Vsig(B)へと遷移し、また、チョッパークロックFchopの位相φ2においてはバイアス電圧「Vbias+」からホール起電力信号電圧−Vsig(B)へと遷移する。つまり、差動信号A1の正相成分のスパイク信号成分のピークの極性は常に正符号である。なお、オフセット成分に関しては、説明を簡単にするためここでは無視する。
一方、差動信号A1の逆相成分は、チョッパークロックFchopの位相φ1においてバイアス電圧「Vbias−」からホール起電力信号電圧「−Vsig(B)」へと遷移し、また、チョッパークロックFchopの位相φ2においてはバイアス電圧「Vbias−」からホール起電力信号電圧「+Vsig(B)」へと遷移する。つまり差動信号A1の逆相成分のスパイク信号成分のピークの極性は常に負符号である。したがって、差動信号A1は正相成分と逆相成分の差分であるから、そのスパイク信号成分のピーク極性は常に正符号となることがわかる。
【0033】
図4において、差動信号A2の正相成分はチョッパークロックFchopの位相φ1においてバイアス電圧「Vbias−」からホール起電力信号電圧「+Vsig(B)」へと遷移し、また、チョッパークロックFchopの位相φ2においてはバイアス電圧「Vbias−」からホール起電力信号電圧「−Vsig(B)」へと遷移する。つまり差動信号A1の正相成分のスパイク信号成分のピークの極性は常に負符号である。
一方、差動信号A2の逆相成分は、チョッパークロックFchopの位相φ1においてバイアス電圧「Vbias+」からホール起電力信号電圧「−Vsig(B)」へと遷移し、また、チョッパークロックFchopの位相φ2においてはバイアス電圧「Vbias+」からホール起電力信号電圧「+Vsig(B)」へと遷移する。つまり差動信号A2の逆相成分のスパイク信号成分のピークの極性は常に正符号である。したがって、差動信号A2は正相成分と逆相成分の差分であるから、そのスパイク信号成分のピーク極性は常に負符号となることがわかる。
【0034】
図5は、この極性の異なるスパイク信号の相殺を説明するための図である。
図5において、(a)はチョッパークロックFchopの位相φ1とφ2、(b)はホール素子11の電圧信号Vhall1の信号波形つまり差動信号A1を表し、(c)はホール素子12の電圧信号Vhall2の信号波形つまり差動信号A2を表し、(d)は差動信号Bの信号波形を表し、(e)は差動信号Eの信号波形を表す。
図5に示すように、差動信号A1、差動信号A2はともにチョッパークロックFchopの位相φ1において「2Vsig(B)」、φ2において「−2Vsig(B)」となり、振動している。しかしながら、前述したように差動信号A1のスパイク信号は、チョッパークロックFchopの位相がφ1及びφ2のいずれの場合にも正符号のピークから遷移しているのに対し、差動信号A2のスパイク信号は、位相がφ1、φ2のいずれの場合にも、負符号のピークから遷移している。
【0035】
したがって、差動信号A1と差動信号A2をそれぞれ第1、第2のGmアンプGm1、Gm2で電流変換して加算した信号である差動信号Bは、
図5(d)で表されるように、チョッパークロックFchopの位相がφ1である場合、φ2である場合において、それぞれ「4Vsig(B)」、「−4Vsig(B)」として振動しているが、スパイク信号の影響は相殺され時間的な遷移がなくなる。
そして、スパイク信号が相殺された差動信号Bは増幅段17で増幅されて差動信号Cとなり、チョッパースイッチ18による復調、さらに出力段19での増幅を受けて差動信号Eとして出力される。
図5(e)に、差動信号Eの時間的な変化を実線で示している。当然ながら差動信号Eにおいても、スパイク信号による影響は発生しなくなる。
【0036】
このスパイク信号の相殺のためには第1のGmアンプGm1と第2のGmアンプGm2のgm値である、gm1とgm2とが常に等しくなければならない。しかしながら、シリコン基板上に形成されたホール素子は、PN接合によって形成された空乏層の厚みが温度によって変化し、空乏層の影響を受けるホールコモン電圧が変動するため、各Gmアンプの入力に利用されるトランジスタ差動対のゲートの直流電位も変動する。つまり、トランジスタ差動対の動作点が変動し、gm値が変動する。
ここで、ホールコモン電圧とは、ホール起電力信号を取り出す出力電圧のコモン電圧のことであり、通常ホール素子の出力信号は差動信号として扱うので、差動信号の正相成分と逆相成分の中間電位がコモン電圧となる。つまり、ホール素子の差動出力端子対(たとえば、第1のホール素子の端子1と端子3の対、端子2と端子4の対)の中間電位がコモン電圧となる。このホールコモン電圧のことを、ホール素子のコモン電圧と呼んでもよいし、ホール素子の出力信号のコモン電圧と呼んでもよい。また、ホール素子の差動出力信号に含まれるホール起電力信号の正相成分と逆相成分の基準となるコモン電圧なので、ホール起電力信号のコモン電圧と呼んでもよい。
【0037】
また、半導体製造時のプロセス勾配による不純物濃度の濃淡分布によって空乏層の形成状況は各ホール素子によって異なるため、空乏層の変動も各ホール素子によって異なる。したがって、各ホール素子間でホールコモン電圧が異なることになり、第1のGmアンプGm1のgm値gm1と、第2のGmアンプGm2のgm値gm2も異なってしまうことになる。そのため、ホール起電力信号検出回路及びこのホール起電力信号検出回路を用いた電流センサにさらなる高精度化を追求した場合に、gm1とgm2の変動に伴い前述のスパイク信号の相殺が十分ではなくなり、
図1のホール起電力信号検出回路の出力である差動信号Eにおいて、
図5(e)の差動信号Eに破線で重畳して記載されているように、スパイク信号が残留してしまうことを発明者らは見出した。このようなスパイク信号の残留は、高精度な電流センサの実現の障害につながる。
【0038】
次に第2のスパイク信号について説明する。
第2のスパイク信号は、メインの信号パス、つまり差動信号A1、A2から差動信号B、C、D、Eの信号パスの周波数特性と、出力信号フィードバックネットワーク20の信号パスつまり差動信号Eから差動信号F、G、B、C、D、Eの信号パスの周波数特性と、に依存している。例えば、第2のスパイク信号は、2つの信号パスの信号遅延時間の違いによって発生するものである。第2のスパイク信号は、たとえば、
図5(e)の差動信号Eに一点鎖線で重畳して記載している。
【0039】
そして、この2つの信号パスの周波数特性は、その利得にGmアンプのgm値が影響しているため、周波数特性の安定のためにはgm値の安定が重要である。
しかしながら、前述したように、第1のGmアンプGm1のgm値gm1と第2のGmアンプGm2のgm値gm2は温度によって変動してしまう。そのため、gm値gm1とgmfbの比、またはgm2とgmfbの比が変動し、これもまた、スパイク信号を変動させてしまうことの要因となる。
つまり、出力である差動信号Eにおいてスパイク信号が安定せず変動することは、さらなる高精度な電流センサの実現の障害となる。
【0040】
(第1実施形態)
図6は本発明の第1実施形態に係るホール起電力信号検出回路の構成の一例を示すブロック図である。なお、
図1に示すホール起電力信号検出回路と同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
図6に示す第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、4つの端子(端子1、端子2、端子3、端子4)を備えた第1のホール素子11と第2のホール素子12と、第1のスピニングカレントスイッチ13と、第2のスピニングカレントスイッチ14と、第1のホール素子駆動電流源15と、第2のホール素子駆動電流源16と、ホール信号フィードバックネットワーク31とを備える。さらに、ホール起電力信号検出回路は、第1のGmアンプGm1と、第2のGmアンプGm2と、フィードバック用GmアンプGmfbと、増幅段17と、チョッパースイッチ18と、出力段19と、出力信号フィードバックネットワーク20と、フィードバックチョッパースイッチ21と、発振器(OSC)22と、チョッパークロック生成器23と、フィードバックネットワークコントローラー32と、を備える。
【0041】
フィードバックネットワークコントローラー32は、例えば基準信号発生源を含んで構成され、例えば温度に対して安定な定電圧回路(レギュレーター回路)を利用して構成される。フィードバックネットワークコントローラー32は、電圧信号からなる基準信号Vcomを生成する。
なお、第1のホール素子駆動電流源15の電流値はIbias1であり、第2のホール素子駆動電流源16の電流値はIbias2である。
図1に示すホール起電力信号検出回路と異なる点は、
図6に示すホール起電力信号検出回路は、さらにホール信号フィードバックネットワーク31と、フィードバックネットワークコントローラー32と、を備えている点である。
【0042】
発振器22はクロック信号Clkを生成する。このクロック信号Clkはチョッパークロック生成器23に出力される。チョッパークロック生成器23は、クロック信号Clkを受けチョッパークロックFchopを生成する。
チョッパークロック生成器23の出力信号Fchopは、第1及び第2のスピニングカレントスイッチ13及び14と、チョッパースイッチ18と、フィードバックチョッパースイッチ21と、に供給され、これら各部では、チョッパークロックFchopの位相φ1及びφ2に応じて、各々のスイッチの切り替えが行われる。
【0043】
第1のホール素子11が有する4つの端子1〜4は、第1のスピニングカレントスイッチ13に接続され、第2のホール素子12が有する4つの端子1〜4は、第2のスピニングカレントスイッチ14に接続されている。また、第1のホール素子駆動電流源15及び第2のホール素子駆動電流源16は、それぞれ第1及び第2のスピニングカレントスイッチ13、14に接続されている。また、第1のスピニングカレントスイッチ13には、ホール信号フィードバックネットワーク31から第1のホール素子駆動補正電流Ibias1aが供給され、第2のスピニングカレントスイッチ14には、ホール信号フィードバックネットワーク31から第2のホール素子駆動補正電流Ibias2aが供給される。
【0044】
このような構成により、第1、第2のホール素子11、12は、それぞれ第1、第2のスピニングカレントスイッチ13、14によって駆動される。そして、第1のホール素子11は、第1のスピニングカレントスイッチ13によって、前述の第1のスピニングカレント法で駆動される。すなわち、ホール素子11をバイアスする駆動電流の向きを、0度方向と90度方向とで切り替える。第2のホール素子12は、第2のスピニングカレントスイッチ14によって、前述した第2のスピニングカレント法で駆動される。すなわち、ホール素子12をバイアスする駆動電流の向きを、270度方向と180度方向とで切り替える。
【0045】
なお、第1または第2のホール素子駆動補正電流Ibias1a、Ibias2aは、
図2に示すように、スピニングカレントスイッチが0度方向への駆動を行う場合、ホール素子の端子1へ注入される(
図2(a)の駆動電流方向に沿って注入される)。同様に90度方向の駆動の場合、端子2へ注入され(
図2(b)の駆動電流方向に沿って注入される)、270度方向の駆動の場合、端子4へ注入され(
図2(c)の駆動電流方向に沿って注入される)、180度方向の駆動の場合、端子3へ注入される(
図2(d)の駆動方向に沿って注入される)。
【0046】
そして、第1のスピニングカレントスイッチ13は、第1のホール素子11からのホール起電力信号を含む差動信号A1(
図6中、A1で示す)をホール信号フィードバックネットワーク31へ供給する。第2のスピニングカレントスイッチ14は、第2のホール素子12からのホール起電力信号を含む差動信号A2(
図6中、A2で示す)をホール信号フィードバックネットワーク31へ供給する。
ホール信号フィードバックネットワーク31は、差動信号A1と、差動信号A2と、フィードバックネットワークコントローラー32からの基準信号Vcomとを受け、第1のスピニングカレントスイッチ13に第1のホール素子駆動補正電流Ibias1aを供給し、第2のスピニングカレントスイッチ14に第2のホール素子駆動補正電流Ibias2aを供給する。また、ホール信号フィードバックネットワーク31は、差動信号A1をそのまま差動信号A1aとして第1のGmアンプGm1へ供給し、差動信号A2をそのまま差動信号A2aとして第2のGmアンプGm2へと供給する。
【0047】
ここで、第1実施形態の説明において、フィードバックネットワークコントローラー32が出力する基準信号Vcomは、例えばホール起電力信号検出回路に供給する電源電圧をVDDとしたときに、VDD/2である。
フィードバック用GmアンプGmfbと、増幅段17と、チョッパースイッチ18と、出力段19と、フィードバックチョッパースイッチ21の動作は、
図1に示すホール起電力信号検出回路と同等である。
出力信号フィードバックネットワーク20は、フィードバックネットワークコントローラー32からの基準信号Vcomと差動信号Eとを受けるように構成され、差動信号Fをフィードバックチョッパースイッチ21へと供給する。
【0048】
図6において、出力信号フィードバックネットワーク20は抵抗R11、R12、R21、及びR22を備える。抵抗R11、R21は、一端に基準信号Vcomが入力されている。抵抗R11、R21の他端はそれぞれ抵抗R12、R22に接続されている。出力段19の出力信号すなわち差動信号Eの正相成分をVout_p、負出力をVout_nとすると、差動信号Eはその差分(すなわちVout=Vout_p−Vout_n)で表され、抵抗R12、R22の他端はそれぞれ出力段19の出力端に接続され、Vout_n、Vout_pがそれぞれ入力される。
【0049】
出力信号フィードバックネットワーク20は、差動信号Fの正相成分をVf_p、負出力をVf_nとし、基準信号の信号レベルをVcomとすると、次式(5)で表される差動信号Fを出力する。
Vf_p
=(Vout_n−Vcom)・R21/(R21+R22)+Vcom
Vf_n
=(Vout_p−Vcom)・R11/(R11+R12)+Vcom
……(5)
ここで、R11=R21、R12=R22とすれば、差動信号Fは基準信号Vcomを中心とした信号である。差動信号Gは、差動信号Fの正相成分と逆相成分がフィードバックチョッパースイッチ21によってチョッパークロックの位相ごとに入れ替わったものであるので、同様に基準信号Vcomを中心とした信号である。つまり、フィードバック用GmアンプGmfbの動作点およびgm値gmfbは基準信号Vcomによって決定される。
【0050】
図7は、
図6に示す第1実施形態におけるホール信号フィードバックネットワーク31の構成の一例を説明するための図である。
図7に示すように、ホール信号フィードバックネットワーク31は、複数ホールコモン電圧算出部31aと、複数ホールコモン電圧制御部31bとを備え、複数ホールコモン電圧制御部31bは、比較部101と可変電流源102とを備える。
複数ホールコモン電圧算出部31aは、差動信号A1の正相成分と差動信号A2の正相成分とを受け、複数のホール素子つまり第1及び第2のホール素子11及び12の平均コモン電圧Vhcom_plを算出し、複数ホールコモン電圧制御部31bの比較部101へと供給する。
【0051】
複数ホールコモン電圧算出部31aは、差動信号A1の正相成分と差動信号A2の正相成分を各々受けるトランジスタによって電圧電流変換し、加算する構成を用いてよい。比較部101はコンパレーターであってよい。また、複数ホールコモン電圧算出部31aと比較部101を複数のトランジスタを入力とするひとつのコンパレーターとして構成してもよい。また、可変電流源102はMOSトランジスタによって構成してよい。
ここで、差動信号A1の正相成分と差動信号A2の正相成分をそれぞれVa1_p、Va2_pとし、第1及び第2のホール素子11、12のホールコモン電圧をそれぞれVhcom1、Vhcom2、各成分に重畳しているスパイク成分をVspikeとする。スパイク成分Vspikeの極性に注意すれば、前述の
図3、
図4から、第1、第2のスピニングカレントスイッチ13、14から出力される差動信号A1の正相成分と差動信号A2の正相成分は、次式(6)で表すことができる。
【0052】
Va1_p=Vhcom1+Vspike+Vsig(B)
Va2_p=Vhcom2−Vspike+Vsig(B)……(6)
ここで、平均コモン電圧Vhcom_plは次式(7)で表すことができる。
Vhcom_pl
=(Va1_p+Va2_p)/2
=(Vhcom1+Vhcom2)/2+Vsig(B)
≒(Vhcom1+Vhcom2)/2
(∵Vsig(B)≪(Vhcom1+Vhcom2)/2)……(7)
つまり、平均コモン電圧Vhcom_plは、第1のホール素子11と第2のホール素子12の2つのホールコモン電圧Vhcom1、Vhcom2の平均値となる。ここで、(7)式からわかるようにスパイク成分の影響はキャンセルされている。つまり、第1、第2のスピニングカレントスイッチ13、14の出力信号に発生しているスパイク成分は、複数ホールコモン電圧算出部31aにおいてその影響が除去される。
【0053】
また、(7)式中の最終項のVsig(B)は、第1、第2のホール素子11、12がシリコンホール素子の場合、入力される磁場が大きい場合でも30mV程度である。したがって、例えば電源電圧が3Vの場合であれば、1V以上2V以下の範囲で設計する、第1、第2のホール素子11、12のホールコモン電圧Vhcom1、Vhcom2と比較して、Vsig(B)の大きさは非常に小さい。
つまり、複数ホールコモン電圧算出部31aは、第1のスピニングカレントスイッチ13及び第2のスピニングカレントスイッチ14のそれぞれの差動出力の正相成分、すなわち同相成分同士を補正(算術平均)することで、平均コモン電圧Vhcom_plを検出している。
【0054】
比較部101は、基準信号Vcomと、第1、第2のホール素子11、12の平均コモン電圧Vhcom_plとを受け、両者を比較する。そして、比較部101は、第1、第2のホール素子11、12の平均コモン電圧Vhcom_plが基準信号Vcomに等しくなるように制御するための複数ホールコモン電圧制御信号Vcom_ctrlを、可変電流源102に供給する。可変電流源102は、複数ホールコモン電圧制御信号Vcom_ctrlを受け、2つのスピニングカレントスイッチ13、14に対して、それぞれ調整されたホール素子駆動補正電流Ibias1aとIbias2aを供給する。すなわち、2つのホール素子11、12をIbias1aとIbias2aで駆動することとなる。
【0055】
つまり、比較部101において、基準信号Vcomと、平均コモン電圧Vhcom_plとを比較し、Vcom>Vhcom_plの場合には、Vhcom_plを大きくするようVcom_ctrlを可変電流源102に供給し、可変電流源102は、Ibias1aとIbias2aとを増加させる。また、Vcom<Vhcom_plの場合には、Vhcom_plを小さくするようVcom_ctrlを可変電流源102に供給し、可変電流源102は、Ibias1aとIbias2aを減少させる。
このようにホール信号フィードバックネットワーク31を構成したので、複数のホール素子11、12のそれぞれのホールコモン電圧Vhcom1、Vhcom2が異なってしまうプロセス勾配の影響を受けても、複数のホール素子11、12のホールコモン電圧Vhcom1、Vhcom2を基準信号Vcomに一致させることができる。そのため、各ホール素子11、12からの差動信号を受ける第1と第2のGmアンプGm1、Gm2への入力信号の直流電位を一致させることができる。つまり、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2の動作点を一致させることができる。したがって、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2のgm値が常に等しくなるので、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2の出力端を接続した加算ノード24での逆極性のスパイク信号によるキャンセルのミスを防ぎ、出力での第1のスパイクの変動を抑えることができる。
【0056】
また、前述したようにフィードバック用GmアンプGmfbも同じ基準信号Vcomによって制御されている。したがって、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2のgm値gm1、gm2と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとは同じ信号で制御されるので、同じ動作点を有する。つまり、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2のgm値、gm1、gm2と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値の比は安定する。したがって、出力での第2のスパイク信号の変動を抑えることができる。
以上説明したように、第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、スピニングカレント法によって駆動された複数のホール素子11、12と、複数のトランスコンダクタンスアンプとを利用したホール起電力信号検出回路において、高精度なホール起電力信号検出の障害となるスパイク状の誤差信号の変動を抑制できる。
【0057】
また、第1実施形態においては、第1と第2のGmアンプのgm値gm1、gm2と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとの比が安定であることから、(4)式で表されるホール起電力信号検出回路の利得(ゲイン)も安定となり、ゲインエラーを低減する効果も得られる。
なお、第1実施形態の説明においては、複数ホールコモン電圧制御部31bが、比較部101と可変電流源102とを1つずつ有する場合について説明したがこれに限るものではない。ホール素子駆動補正電流Ibias1aを供給するために、比較部101と可変電流源102とを1つずつ備え、ホール素子駆動補正電流Ibias2aを供給するために、別の比較部101と別の可変電流源102とを1つずつ備えてもよい。
【0058】
また、第1実施形態の説明においては、差動信号A1の正相成分と差動信号A2の正相成分とを受けて、平均コモン電圧Vhcom_plを算出するシンプルな形態を説明したが、これに限るものではない。例えば、第1のスピニングカレントスイッチから出力される差動信号の正相成分と負相成分が入力される第1のホールコモン電圧算出部と、第2のスピニングカレントスイッチから出力される差動信号の正相成分と負相成分が入力される第2のホールコモン電圧算出部とを設け、算出されたホールコモン電圧の各々と、基準電圧Vcomとを比較し、各々のホール素子に対して、ホール素子駆動補正電流を供給する形態であってもよい。
【0059】
ここで、第1実施形態において、第1のスピニングカレントスイッチ13が第1の駆動電流供給部に対応し、第2のスピニングカレントスイッチ14が第2の駆動電流供給部に対応し、ホール信号フィードバックネットワーク31が第1のフィードバック制御部に対応し、出力信号フィードバックネットワーク20がフィードバック部に対応している。また、フィードバックチョッパースイッチ21が変調スイッチに対応し、加算ノード24が電流加算部に対応し、チョッパースイッチ18が復調スイッチに対応し、フィードバックネットワークコントローラー32が基準信号生成回路に対応している。
【0060】
(第2実施形態)
図8は本発明の第2実施形態に係るホール起電力信号検出回路の構成の一例を示すブロック図である。
図8のホール起電力信号検出回路は、それぞれ4つの端子(端子1、端子2、端子3、端子4)を備えた第1のホール素子11と第2のホール素子12と第3のホール素子41と第4のホール素子42と、第1のスピニングカレントスイッチ13と、第2のスピニングカレントスイッチ14と、第3のスピニングカレントスイッチ43と、第4のスピニングカレントスイッチ44と、第1のホール素子駆動電流源15と、第2のホール素子駆動電流源16と、第3のホール素子駆動電流源45と、第4のホール素子駆動電流源46と、を備える。さらに、ホール起電力信号検出回路は、ホール信号フィードバックネットワーク47と、第1のGmアンプGm1と、第2のGmアンプGm2と、第3のGmアンプGm3と、第4のGmアンプGm4と、フィードバック用GmアンプGmfbと、増幅段17と、チョッパースイッチ18と、出力段19と、出力信号フィードバックネットワーク20と、フィードバックチョッパースイッチ21と、発振器(OSC)22と、チョッパークロック生成器23と、フィードバックネットワークコントローラー32と、を含んで構成される。第1〜第4のホール素子駆動電流源15、16、45、46の電流値は、それぞれIbias1、Ibias2、Ibias3、Ibias4である。
【0061】
フィードバックネットワークコントローラー32は、例えば基準信号発生源を備え、例えば温度に対して安定な定電圧回路(レギュレーター回路)を利用して構成される。フィードバックネットワークコントローラー32は、電圧信号からなる基準信号Vcomを生成する。
図6に示す第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路と異なる点は、
図8に示す第2実施形態のホール起電力信号検出回路は、第3のホール素子41と、第4のホール素子42と、第3のスピニングカレントスイッチ43と、第4のスピニングカレントスイッチ44と、第3のホール素子駆動電流源45と、第4のホール素子駆動電流源46と、第3のGmアンプGm3と、第4のGmアンプGm4と、をさらに備えている点である。
【0062】
チョッパークロック生成器23の出力信号、すなわちチョッパークロックFchopは、第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44と、チョッパースイッチ18と、フィードバックチョッパースイッチ21と、に供給され、これら各部ではチョッパークロックFchopの位相φ1とφ2に応じて、各々のスイッチの切り替えが行われる。第1〜第4のホール素子11、12、41、42がそれぞれ有している4つの端子1、端子2、端子3及び端子4は、それぞれ第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44に接続されている。
【0063】
また、第1〜第4のホール素子駆動電流源15、16、45、46はそれぞれ第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44に接続されている。また、ホール信号フィードバックネットワーク47から、ホール素子駆動補正電流Ibias1a、Ibias2a、Ibias3a、Ibias4aが、それぞれ第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44に供給される。
このような構成により、第1〜第4のホール素子11、12、41、42は、それぞれ第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44によって駆動される。
【0064】
そして、第1のスピニングカレントスイッチ13によって第1のホール素子11は、前述した第1のスピニングカレント法、すなわち、第1のホール素子11の駆動電流を0度方向と90度方向とで切り替えて駆動される。第2のスピニングカレントスイッチ14によって第2のホール素子12は、第2のスピニングカレント法、すなわち駆動電流を270度方向と180度方向とで切り替えて駆動される。また、第3のスピニングカレントスイッチ43によって第3のホール素子41は、第1のスピニングカレント法により駆動され、第4のスピニングカレントスイッチ44によって第4のホール素子42は、第2のスピニングカレント法により駆動される。すなわち、第1のスピニングカレントスイッチ13と第3のスピニングカレントスイッチ43の動作は等しい。また、第2のスピニングカレントスイッチ14と第4のスピニングカレントスイッチ44の動作は等しい。
【0065】
このように駆動することによって、第1のスピニングカレントスイッチ13は、第1のホール素子11からのホール起電力信号を含む差動信号A1(
図8中、A1で示す)をホール信号フィードバックネットワーク47へ供給する。同様に第2のスピニングカレントスイッチ14は第2のホール素子12からのホール起電力信号を含む差動信号A2(
図8中、A2で示す)をホール信号フィードバックネットワーク47へ供給する。同様に第3のスピニングカレントスイッチ43は第3のホール素子41からのホール起電力信号を含む差動信号A3(
図8中、A3で示す)をホール信号フィードバックネットワーク47へ供給する。同様に第4のスピニングカレントスイッチ44は第4のホール素子42からのホール起電力信号を含む差動信号A4(
図8中、A4で示す)をホール信号フィードバックネットワーク47へ供給する。
【0066】
ホール信号フィードバックネットワーク47は、差動信号A1と、差動信号A2と、差動信号A3と、差動信号A4と、フィードバックネットワークコントローラー32からの基準信号Vcomとを受け、第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44に、それぞれ第1のホール素子駆動補正電流Ibias1a、第2のホール素子駆動補正電流Ibias2a、第3のホール素子駆動補正電流Ibias3a、第4のホール素子駆動補正電流Ibias4aを供給する。またホール信号フィードバックネットワーク47は、差動信号A1をそのまま差動信号A1aとして第1のGmアンプGm1へ供給し、差動信号A2をそのまま差動信号A2aとして第2のGmアンプGm2へと供給し、差動信号A3をそのまま差動信号A3aとして第3のGmアンプGm3へ供給し、差動信号A4をそのまま差動信号A4aとして第4のGmアンプGm4へと供給する。
【0067】
ここで、第2実施形態の説明において、フィードバックネットワークコントローラー32が出力する基準信号Vcomは、例えばホール起電力信号検出回路に供給する電源電圧をVDDとしたときに、VDD/2である。
差動信号A1とA3は、その正相成分及び逆相成分を含めて、チョッパークロックFchopの位相に対し、発生するスパイクの極性は同極性となる。また、差動信号A2とA4も、同様に発生するスパイクの極性は同極性(差動信号A1とA3とは逆極性)となる。
【0068】
そして、第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4はそれぞれ差動信号A1a〜差動信号A4aを電圧から電流に変換し、フィードバック用GmアンプGmfbは、差動信号Gを電圧から電流に変換する。第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4及びフィードバック用GmアンプGmfbの出力端は加算ノード48に接続されており、変換された電流信号はすべて加算されて差動信号B(
図8中、Bで示す)となる。
それ以外の構成である、発振器22、チョッパークロック生成器23、増幅段17、チョッパースイッチ18、出力段19、出力信号フィードバックネットワーク20、フィードバックチョッパースイッチ21、フィードバックネットワークコントローラー32の動作は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0069】
第2実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、以上のような構成を有する。その結果、出力信号フィードバックネットワーク20に含まれる抵抗R11、R12、R21、及びR22を、R11=R12、R21=R22とすれば、ホール起電力信号検出回路の出力信号Voutは、第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4のgm値gm1、gm2、gm3、gm4とフィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとを利用して、次式(8)で表される。
Vout
={1+(R12/R11)}×{(gm1/gmfb)×Vhall1
+(gm2/gmfb)×Vhall2+(gm3/gmfb)
×Vhall3+(gm4/gmfb)×Vhall4} ……(8)
(8)式中の、Vhall3とVhall4はそれぞれ差動信号A3、A4の信号電圧である。
【0070】
ここで、各Gmアンプのgm値を、gm1=gm2=gm3=gm4(=gm_hall)とすると、(8)式は、次式(9)のようになる。
Vout
=(1+R12/R11)×{(gm_hall/gmfb)
×(Vhall1+Vhall2+Vhall3+Vhall4)}
……(9)
また、フィードバック用GmアンプGmfbは、第1実施形態における
図6のフィードバック用GmアンプGmfbと同じ機能を持ち、差動信号Gが入力されるので、動作点およびgm値gmfbは基準信号Vcomによって決定される。
【0071】
図9は、
図8に示すホール信号フィードバックネットワーク47の構成を説明するための図である。
第2実施形態におけるホール信号フィードバックネットワーク47は、複数ホールコモン電圧算出部47aと、複数ホールコモン電圧制御部47bとを備え、複数ホールコモン電圧制御部47bは、さらに、比較部111と可変電流源112とを備える。
図7に示す第1実施形態におけるホール信号フィードバックネットワーク31と異なる点は、第2実施形態におけるホール信号フィードバックネットワーク47に含まれる複数ホールコモン電圧算出部47aが、差動信号A1の正相成分と、差動信号A2の正相成分と、差動信号A3の逆相成分と、差動信号A4の逆相成分とを受け、複数のホール素子11、12、41、42の平均コモン電圧Vhcom_plを算出し、複数ホールコモン電圧制御部47bの比較部111へと供給する点である。
【0072】
このように複数ホールコモン電圧算出部47aを構成したので、差動信号A1と差動信号A2の正相成分をそれぞれVa1_p、Va2_p、差動信号A3と差動信号A4の逆相成分をそれぞれVa3_n、Va4_nとすると、これらは、次式(10)で表すことができる。なお、第1〜第4のホール素子11、12、41、42のホールコモン電圧をそれぞれVhcom1、Vhcom2、Vhcom3、Vhcom4とし、各成分に重畳しているスパイク成分をVspikeとしている。スパイク成分Vspikeの極性に注意すれば次式(10)で表すことができる。
【0073】
Va1_p=Vhcom1+Vspike+Vsig(B)
Va2_p=Vhcom2−Vspike+Vsig(B)
Va3_n=Vhcom3−Vspike−Vsig(B)
Va4_n=Vhcom4+Vspike−Vsig(B)
……(10)
ここで、複数のホール素子11、12、41、42の平均コモン電圧Vhcom_plは、次式(11)で表すことができる。
【0074】
Vhcom_pl
=(Va1_p+Va2_p+Va3_n+Va4_n)/4
=(Vhcom1+Vhcom2+Vhcom3+Vhcom4)/4
……(11)
つまり、平均コモン電圧Vhcom_plは、ホール素子11、12、41、42のホールコモン電圧の平均値となる。
ここで、スパイク成分およびホール起電力信号成分Vsig(B)はキャンセルされている。つまり、各スピニングカレントスイッチ13、14、43、44から出力された後の信号に発生しているスパイク成分は、複数ホールコモン電圧算出部47aにおいてその影響が除去されている。また、第1実施形態の
図7に示すホール信号フィードバックネットワーク31と異なり、ホール起電力信号成分Vsig(B)がキャンセルされているため、より正確にホールコモン電圧を検出できる。
【0075】
つまり、複数ホールコモン電圧算出部47aは、第1のスピニングカレントスイッチ13と第2のスピニングカレントスイッチ14のそれぞれの差動出力の正相成分(同相成分同士)と、第3のスピニングカレントスイッチ43と第4のスピニングカレントスイッチ44のそれぞれの差動出力の逆相成分(異相成分同士)とを補正(算術平均)することで、平均コモン電圧Vhcom_plを検出している。
図9に示す比較部111、および可変電流源112の動作は
図7に示す、第1実施形態におけるホール信号フィードバックネットワーク31の比較部101及び可変電流源102と同じであるが、
図9に示す可変電流源112が、第1〜第4のスピニングカレントスイッチ13、14、43、44へそれぞれホール素子駆動補正電流Ibias1a〜Ibias4aを供給している点が異なる。
【0076】
このようにホール信号フィードバックネットワーク47を構成したので、複数のホール素子11、12、41、42のそれぞれのホールコモン電圧Vhcom1、Vhcom2、Vhcom3、Vhcom4が異なってしまうプロセス勾配の影響を受けても、複数のホール素子11、12、41、42のホールコモン電圧を基準信号Vcomに一致させることができる。そのため、各ホール素子からの差動信号を受ける第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4の動作点を一致させることができる。したがって、第1〜第4のGmアンプのgm値が常に等しくなるので、第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4の出力端を接続した加算ノード48での逆極性のスパイク信号同士によるキャンセルのミスを防ぎ、出力信号Voutでの第1のスパイクの変動を抑えることができる。
【0077】
また、前述したようにフィードバック用GmアンプGmfbも同じ基準信号Vcomによって制御されている。したがって、第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4のgm値gm1、gm2、gm3、gm4と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとは同じ信号で制御されるので、第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4のgm値と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとの比は安定する。
したがって、出力信号Voutでの第2のスパイク信号の変動も抑えることができる。
以上説明したように、第2実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、スピニングカレント法によって駆動された複数のホール素子11、12、41、42と、複数のトランスコンダクタンスアンプとを利用したホール起電力信号検出回路において、高精度なホール起電力信号検出の障害となるスパイク状の誤差信号の変動を抑制できる。
【0078】
第2実施形態において、
図9に示すホール信号フィードバックネットワーク47の代わりに
図10に示すホール信号フィードバックネットワーク49を利用してもよい。
図10に示すホール信号フィードバックネットワーク49は、複数ホールコモン電圧算出部49aと複数ホールコモン電圧制御部49bとを備える。複数ホールコモン電圧制御部49bは、比較部121と可変電流源122とを備える。
複数ホールコモン電圧算出部49aは、
図9に示すホール信号フィードバックネットワーク47における複数ホールコモン電圧算出部47aと異なり、差動信号A1の正相成分と、差動信号A3の逆相成分とを受け、複数のホール素子、つまり、ホール素子11及び41の平均コモン電圧Vhcom_plを算出し、複数ホールコモン電圧制御部49bの比較部121へと供給するものである。
【0079】
すなわち、差動信号A1の正相成分Va1_p、差動信号A3の逆相成分Va3_nは次式(12)で表すことができるため、平均コモン電圧Vhcom_plは次式(13)で表すことができる。
Va1_p=Vhcom1+Vspike+Vsig(B)
Va3_n=Vhcom3−Vspike−Vsig(B)
……(12)
Vhcom_pl=(Vhcom1+Vhcom3)/2……(13)
(13)式に示すように、スパイク成分およびホール起電力信号成分Vsig(B)はキャンセルされている。Vsig(B)がキャンセルされているため、この場合も
図7に示す第1実施形態における複数ホールコモン電圧算出部31aよりも正確にホールコモン電圧を検出できる。ただし、
図9のホール信号フィードバックネットワーク47の方が第1〜第4のホール素子11、12、41、42のプロセス勾配の影響を考慮できる点で、
図10のホール信号フィードバックネットワーク49よりも好ましい。
【0080】
また、第2実施形態においては、第1〜第4のGmアンプGm1〜Gm4のgm値gm1、gm2、gm3、gm4と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとの比が安定であることから、(9)式で表されるホール起電力信号検出回路の利得(ゲイン)も安定となり、ゲインエラーを低減する効果も得られる。
なお、
図10に示す複数ホールコモン電圧算出部49aでは、差動信号A1の正相成分Va1_pと差動信号A3の逆相成分Va3_nとから平均コモン電圧Vhcom_plを演算しているが、例えば差動信号A2の正相成分と差動信号A4の逆相成分等、スパイク成分の極性が互いに異なる2つの信号を用いて平均コモン電圧Vhcom_plを演算してもよい。
【0081】
また、第2実施形態の説明においては、複数ホールコモン電圧制御部47bが、比較部111と可変電流源112とを1つずつ有する場合について説明したがこれに限るものではない。比較部111と可変電流源112は、ホール素子駆動補正電流Ibias1a、Ibias2a、Ibias3a、及びIbias4a毎に備えてもよい。
また、第2実施形態の説明においては、差動信号A1、A2の正相成分と、差動信号A3、A4の逆相成分とを受けて、平均コモン電圧Vhcom_plを算出するシンプルな形態を説明したが、これに限るものではない。例えば、スピニングカレントスイッチから出力される差動信号の正相成分と負相成分が入力されるホールコモン電圧算出部を、スピニングカレントスイッチ毎に設け、算出されたホールコモン電圧の各々と、基準電圧Vcomとを比較し、各々のホール素子に対して、ホール素子駆動補正電流を供給する形態であってもよい。
【0082】
ここで、第2実施形態において、第3のスピニングカレントスイッチ43が第3の駆動電流供給部に対応し、第4のスピニングカレントスイッチ44が第4の駆動電流供給部に対応し、ホール信号フィードバックネットワーク47が第1のフィードバック制御部に対応し、出力信号フィードバックネットワーク20がフィードバック部に対応している。また、フィードバックチョッパースイッチ21が変調スイッチに対応し、加算ノード48が電流加算部に対応し、チョッパースイッチ18が復調スイッチに対応し、フィードバックネットワークコントローラー32が基準信号生成回路に対応している。
【0083】
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態に係るホール起電力信号検出回路の構成の一例を示すブロック図である。
図6に示す第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路と異なる点は、
図11に示す第3実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、
図6に示すホール起電力信号検出回路に含まれる出力段19の代わりに、出力コモン電圧制御端子を備えた出力段51を有し、さらに、出力信号フィードバックネットワーク20とは別の第2の出力信号フィードバックネットワーク52を備えた点である。
【0084】
第2の出力信号フィードバックネットワーク52は、例えばコモンモードフィードバック増幅器で構成される。そして、第2の出力信号フィードバックネットワーク52は、差動信号Eと、基準信号Vcomとを受け、出力コモン電圧制御端子を備えた出力段51に出力コモン電圧コントロール信号Vout_com_ctrlを供給する。出力コモン電圧制御端子を備えた出力段51は、出力コモン電圧コントロール信号Vout_com_ctrlを受けて、差動信号Eのコモン電圧Vout_com、すなわちVout_pとVout_nとの中間電位を基準信号Vcomに一致させる。
【0085】
つまり、
図11のホール起電力信号検出回路は、出力信号フィードバックネットワーク20に供給する基準信号と、第2の出力信号フィードバックネットワーク52に供給する基準信号とをVcomに一致させることで、差動信号Eのコモン電圧Vout_comを基準信号Vcomに一致させたものである。
ここで、第3実施形態の説明において、フィードバックネットワークコントローラー32が出力する基準信号Vcomは、例えばホール起電力信号検出回路に供給する電源電圧をVDDとしたときに、VDD/2である。
【0086】
このようにホール起電力信号検出回路を構成したことで、高精度なホール起電力信号検出の障害となるスパイク状の誤差信号の変動を抑制できる。以下に、その説明を行う。
図6に示す第1実施形態、
図8に示す第2実施形態におけるホール起電力信号検出回路の出力信号フィードバックネットワーク20内の抵抗R11、R12、R21、及びR22にミスマッチが存在した場合、つまり、R11≠R21、R12≠R22のとき、差動信号Eにオフセットが発生する。つまり、ホール起電力信号検出回路の出力端子、すなわち、出力段19の出力端子から、オフセット電流Ioffa、Ioffbが発生してしまうため、差動信号Eにオフセットが発生する。そこで、オフセット電流の発生を抑制するために、抵抗R11、R12、R21、R22の各抵抗値を大きくすると、フィードバックループの信号パス、すなわち、差動信号Eから差動信号F、G、B、C、D、Eの信号パスの時定数を大きくしてしまう。その結果、スパイクの発生期間が延びて、第2のスパイク信号が大きくなる。つまり、差動信号Eから差動信号F、G、B、C、D、Eの信号パスの時定数は抵抗値に比例するため、スパイクの発生期間が長くなる。
【0087】
そこで、
図11に示す第3実施形態におけるホール起電力信号検出回路のように、出力信号フィードバックネットワーク20に供給する基準信号と、第2の出力信号フィードバックネットワーク52に供給する基準信号とをVcomに一致させることで、差動信号Eのコモン電圧Vout_comを基準信号Vcomに一致させる。その結果、ホール起電力信号検出回路の出力端子、すなわち、出力段19の出力端子から基準信号Vcomへ流れるオフセット電流が発生しなくなり、出力信号フィードバックネットワーク20に含まれる各抵抗R11、R12、R21、及びR22の抵抗値を小さくできる。すなわち、フィードバックループの信号パスの時定数を小さくできる。
【0088】
第2のスパイク信号の発生原因は、前述のとおり、メインの信号パス、つまり差動信号A1、A2から、差動信号B、C、D、Eの信号パスとフィードバックループの信号パスの周波数特性の違いによる。メインの信号パスの時定数は、ホール素子の出力抵抗とスピニングカレントスイッチにおける寄生容量が主要因であり、フィードバックループの信号パスの時定数は、抵抗R11、R21とフィードバックチョッパースイッチ21における寄生容量が主要因である。本実施形態においては、前述のように、抵抗R11、R21の変更が可能となる。そこで、例えば、ホール素子の出力抵抗値と、抵抗R11、R21の抵抗値を等しくしておけば、メインの信号パスとフィードバックループの信号パスの時定数を小さく、かつ、一致させることができる。つまり、第2のスパイク信号の発生と変動を抑制できる。
【0089】
なお、第2の出力信号フィードバックネットワーク52は、例えばコモンモードフィードバック回路を利用できる。コモンモードフィードバック回路つまり第2の出力信号フィードバックネットワーク52は、差動信号EのVout_pとVout_nの平均値Vout_aveを算出し、Vout_aveが基準信号Vcomに一致するようなVout_com_ctrlを出力する。
以上説明したように、第3実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、スピニングカレント法によって駆動された複数のホール素子と、複数のトランスコンダクタンスアンプとを利用したホール起電力信号検出回路において、高精度なホール起電力信号検出の障害となるスパイク状の誤差信号の変動を抑制できる。
【0090】
なお、第3実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路に、出力コモン電圧制御端子を備えた出力段51と、第2の出力信号フィードバックネットワーク52とをさらに設けた場合について説明したが、第2実施形態におけるホール起電力信号検出回路に適用することもできる。その場合も第3実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
ここで、第3実施形態において、ホール信号フィードバックネットワーク31が第1のフィードバック制御部に対応し、出力信号フィードバックネットワーク20がフィードバック部に対応し、フィードバックチョッパースイッチ21が変調スイッチに対応している。また、加算ノード24が電流加算部に対応し、チョッパースイッチ18が復調スイッチに対応し、フィードバックネットワークコントローラー32が基準信号生成回路に対応している。また、第2の出力信号フィードバックネットワーク52が第2のフィードバック制御部に対応している。
【0091】
(第4実施形態)
図12は、本発明の第4実施形態におけるホール起電力信号検出回路の構成を示すブロック図である。
図6に示す第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路と異なる点は、第4実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、
図6に示す増幅段17の代わりに出力コモン電圧制御端子を備えた増幅段61を備え、出力信号フィードバックネットワーク20とは別の第2の出力信号フィードバックネットワーク62を備えた点である。
第2の出力信号フィードバックネットワーク62は、第3実施形態における出力信号フィードバックネットワーク52と同等の機能構成を有し、出力コモン電圧制御端子を備えた増幅段61に出力コモン電圧コントロール信号Vout_com_ctrlを供給する。出力コモン電圧制御端子を備えた増幅段61は、出力コモン電圧コントロール信号Vout_com_ctrlを受けて、差動信号Eのコモン電圧Vout_com、すなわちVout_pとVout_nとの中間電位を基準信号Vcomに一致させるよう、差動信号Cをチョッパースイッチ18に供給する。チョッパースイッチ18は、差動信号Cを受けて、チョッパークロックFchopによって復調された差動信号Dを出力段19に供給する。出力段19は差動信号Dを受けて、コモン電圧Vout_comがVcomに一致した差動信号Eを出力する。
【0092】
ここで、第4実施形態の説明において、フィードバックネットワークコントローラー32が出力する基準信号Vcomは、例えばホール起電力信号検出回路に供給する電源電圧をVDDとしたときに、VDD/2である。
このような構成を有する結果、第4実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、第3実施形態におけるホール起電力信号検出回路と同様に、出力信号フィードバックネットワーク20に供給する基準信号と、第2の出力信号フィードバックネットワーク62に供給する基準信号とをVcomに一致させる。その結果、差動信号Eのコモン電圧Vout_comを基準信号Vcomに一致させることができる。そのため、第3実施形態と同様の理由により、高精度なホール起電力信号検出の障害となるスパイク状の誤差信号の変動を抑制できる。
【0093】
なお、第4実施形態は、第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路に、増幅段61と第2の出力信号フィードバックネットワーク62とをさらに設けた場合について説明したが、第2実施形態及び第3実施形態におけるホール起電力信号検出回路に適用することも可能であり、この場合も第4実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
ここで、第4実施形態において、ホール信号フィードバックネットワーク31が第1のフィードバック制御部に対応し、出力信号フィードバックネットワーク20がフィードバック部に対応している。また、フィードバックチョッパースイッチ21が変調スイッチに対応し、加算ノード24が電流加算部に対応し、チョッパースイッチ18が復調スイッチに対応し、フィードバックネットワークコントローラー32が基準信号生成回路に対応している。また、第2の出力信号フィードバックネットワーク62が第3のフィードバック制御部に対応している。
【0094】
(第5実施形態)
図13は、本発明の第5実施形態におけるホール起電力信号検出回路の構成を示すブロック図である。
図6に示す第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路と異なる点は、第5実施形態におけるホール起電力信号検出回路は、フィードバックネットワークコントローラー71が、第1の基準信号Vcom1をホール信号フィードバックネットワーク31に供給し、第2の基準信号Vcom2を出力信号フィードバックネットワーク20に供給するフィードバックネットワークコントローラーである点である。
図14は、本発明の第5実施形態におけるフィードバックネットワークコントローラー71の構成を示す図である。
【0095】
図14のフィードバックネットワークコントローラー71は、基準信号発生源を備え、基準信号発生源は、例えば、温度特性を有する1つの電圧源72と分圧回路73とで構成される。分圧回路73は、電圧源72の出力電圧Vrefを受けて、電圧の異なる第1の基準信号Vcom1と第2の基準信号Vcom2を生成する。電圧源72は、例えば温度に対して出力変動が小さいバンドギャップ回路を利用して構成され、あるいは、温度に対して単調減少あるいは増加する電圧発生回路を利用して構成される。分圧回路73は例えば抵抗ラダーで構成され、第1の基準信号Vcom1と第2の基準信号Vcom2は抵抗分割を介して生成される。
【0096】
このようにフィードバックネットワークコントローラー71を構成したので、第1の基準信号Vcom1と第2の基準信号Vcom2は、異なる電圧でありながらその温度変動特性は同じである。
ホール信号フィードバックネットワーク31は、複数のホール素子11、12のホールコモン電圧Vhcom1、Vhcom2を基準信号Vcom1に一致させることができるので、各ホール素子11、12からの差動信号を受ける第1と第2のGmアンプGm1、Gm2への入力信号の直流電位を一致させることができる。つまり、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2の動作点を一致させることができる。したがって、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2のgm値が常に等しくなるので、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2の出力端を接続した加算ノード24での逆極性のスパイク信号によるキャンセルのミスを防ぎ、出力での第1のスパイクの変動を抑えることができる。
【0097】
一方、フィードバック用GmアンプGmfbは第2の基準信号Vcom2によって制御されている。そのため、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2の動作点と、フィードバック用GmアンプGmfbの動作点は異なる。しかしながら、その温度変動特性は同じであるため、第1と第2のGmアンプGm1、Gm2の動作点と、フィードバック用GmアンプGmfbの動作点の温度変動特性は同じである。つまり、動作点が異なっていても、gm1とgmfbの比と、gm2とgmfbの比の温度変動は安定している。したがって、出力での第2のスパイク信号の変動を抑えることができる。
【0098】
また、第5実施形態においては、例えば、電圧源72を温度に対して単調減少あるいは増加する電圧発生回路を利用して構成すれば、第1の基準信号Vcom1と第2の基準信号Vcom2は、温度に対して単調減少、あるいは増加とすることができる。そのため、各Gmアンプのgm値の温度変動を打ち消すように、動作点の温度変動量を制御することもできる。このような場合も、動作点が異なっていても、gm1とgmfbの比と、gm2とgmfbの比の温度変動を安定させることができる。したがって、出力での第2のスパイク信号の変動を抑えることができる。
【0099】
また、第5実施形態においては、第1と第2のGmアンプのgm値gm1、gm2と、フィードバック用GmアンプGmfbのgm値gmfbとの比が安定であることから、(4)式で表されるホール起電力信号検出回路の利得(ゲイン)も安定となり、ゲインエラーを低減する効果も得られる。
なお、第5実施形態は、第1実施形態におけるホール起電力信号検出回路のフィードバックネットワークコントローラーから、ホール信号フィードバックネットワークに供給する基準信号と、出力信号フィードバックネットワークに供給する基準信号とが、異なる電圧ではあるが、同じ温度変動特性を有する場合について説明した。同様に、第2実施形態乃至第4実施形態におけるホール起電力信号検出回路に適用することも可能であり、この場合も第5実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
【0100】
ここで、第5実施形態において、ホール信号フィードバックネットワーク31が第1のフィードバック制御部に対応し、出力信号フィードバックネットワーク20がフィードバック部に対応し、フィードバックチョッパースイッチ21が変調スイッチに対応している。また、加算ノード24が電流加算部に対応し、チョッパースイッチ18が復調スイッチに対応し、フィードバックネットワークコントローラー71が基準信号生成回路に対応している。
以上説明したように、本発明は、複数のホール素子をスピニングカレント法で駆動した、複数のトランスコンダクタンスアンプを利用したホール起電力信号検出回路において、ホール信号フィードバックネットワークを用意し、ホール信号フィードバックネットワークと、出力信号フィードバックネットワークとに、フィードバックネットワークコントローラーから基準信号を供給することで、スパイク信号の変動を抑えるものである。また別の形態ではさらに第2の出力信号フィードバックネットワークへとフィードバックネットワークコントローラーから基準信号を供給することで、スパイク信号の変動を抑えるものである。また、別の形態においては、ホール信号フィードバックネットワークと、出力信号フィードバックネットワークとに、フィードバックネットワークコントローラーからそれぞれ同じ温度変動特性を有する第1の基準信号と第2の基準信号を供給することで、スパイク信号の変動を抑えるものである。
【0101】
なお、以上の本発明の実施形態の説明において、ホール素子を駆動するスピニングカレント法は、0度方向と90度方向との間で駆動電流方向を切り替える第1のスピニングカレント法と、270度方向と180度方向との間で駆動電流方向を切り替える第2のスピニングカレント法とを組み合わせたものとして説明した。しかし、この方法の組み合わせに限らず実施可能であることは言うまでもない。ホール素子を駆動するスピニングカレント法によって発生するスパイクの極性が、互いに逆極性となる組み合わせならばよい。たとえば、第1のホール素子は、0度方向、90度方向、270度方向、180度方向の順に駆動電流方向を切り替え、第2のホール素子は、270度方向、180度方向、0度方向、90度方向の順に駆動電流方向を切り替えてもよい。
【0102】
また、すべての実施形態において、磁束密度はすべて同じ方向からホール素子へ入射する場合として説明したが、それに限らず互いに異なる方向から入射する場合でも実施可能である。たとえば、シリコン基板の表面から第1のホール素子へ磁束密度が入射し、シリコン基板の裏面から第2のホール素子へ磁束密度が入射する場合であってもよい。このような場合でも本発明の範囲に含まれる。
また、すべての実施形態において、フィードバックネットワークコントローラーからの基準信号は、ホール信号フィードバックネットワーク、出力信号フィードバックネットワークへ、バッファアンプを介して供給されてもよい。また、第3、第4の形態においても、基準信号はバッファアンプを介して第2の出力信号フィードバックネットワークへ供給されていてよい。
【0103】
また、フィードバックネットワークコントローラーからの基準信号は、電圧が時間平均的に一致していれば同じ基準信号であって、瞬間的なノイズなどによる電圧変動がある場合でも同じ基準信号としてよい。つまり、前述のようにフィードバックネットワークコントローラーから各フィードバックネットワークへの入力までにバッファアンプ等の回路を介した場合であっても、各フィードバックネットワークへの入力電圧が時間平均的に一致しているのであれば、同じ基準信号としてよい。また、バッファアンプの入出力信号が一致するよう制御されている場合には、入出力信号は同じ基準信号としてよい。
【0104】
また、すべての実施形態においてフィードバックネットワークコントローラーは、さらにホール起電力信号検出回路が実装されるICパッケージによる応力によって発生する、複数のトランスコンダクタンスアンプのgm値の変動影響を打ち消すように動作点を制御することが可能な信号を基準信号(第5実施形態においては第1と第2の基準信号)に重畳させて供給してもよい。このような変形も本発明に含まれる。
また、本発明の実施形態はすべてシリコンホール素子を用いた場合について説明したが、GaAs、InSbなどの化合物半導体ホール素子を適用することも可能である。
【0105】
また、本発明は、これまでに記載された各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれる。即ち、当業者であればなし得るであろう各種変形や修正を含むことは勿論である。
また、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。