(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トマト及び/又はナスの茎及び/又は葉を含む植物材料を、水系溶媒中で解砕する解砕工程と、解砕後の前記植物材料から前記水系溶媒を除去する水系溶媒除去工程とを備える難燃性付与材料の製造方法。
【発明の概要】
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、植物性廃棄物を利用した難燃性付与材料
の製造方法および難燃性樹脂成形体
の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
(課題を解決するための手段)
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、植物および植物由来材料から選ばれる植物材料を水系溶媒に接触させた後、水系溶媒を除去することにより得られた材料を用いると難燃性が付与されるという知見を得た。本発明はかかる新規な知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、植物および植物由来材料から選ばれる植物材料を水系溶媒に接触させた後、水系溶媒を除去することにより得られた難燃性付与材料である。
【0010】
また本発明は、植物および植物由来材料から選ばれる植物材料を水系溶媒に接触させることにより得られた難燃性付与材料と、樹脂とを含む樹脂組成物を成形してなる難燃性樹脂成形体である。
【0011】
本発明においては、植物および植物由来材料から選ばれる植物材料を水系溶媒に接触させることにより難燃性を付与する材料が得られる理由の詳細は不明であるが、以下の3つのように考えられる。
(1)分解温度の低い(容易に燃焼する)低分子有機化合物が除去されたこと。
(2)分解温度の高いセルロース等の高分子有機化合物は除去されず、材料中の含有率が相対的に上昇したこと。
(3)燃焼に寄与する無機成分が除去され、難燃性に寄与する無機成分が残存していること。
【0012】
植物材料を水系溶媒に接触させると、植物材料に含まれる低分子量の糖類などの水溶性成分が除去される。一方、糖類等の低分子有機化合物を除去することにより植物材料に含まれるセルロース等の高分子有機化合物の含有量が相対的に増えて難燃性を付与することができる材料が得られると考えられる。
また、植物を燃焼させた後の灰に含まれる炭酸カリウムは助燃焼触媒であり、燃焼を促進する物質である。植物材料には非常に多くのカリウムが存在しているが、水系溶媒と接触させることにより大部分を除去することができる。
一方、カルシウム化合物やリン化合物は難燃性を高める成分であり、一部の難燃化剤にも使用されている。植物材料中にはカルシウムおよびリンが存在しており、これらは水系溶媒と接触した後も比較的減少しない。
【0013】
したがって、本発明によれば、植物性廃棄物を利用した難燃性付与材料および難燃性樹脂成形体を提供することができる。
【0014】
(発明の効果)
本発明によれば、植物性廃棄物を利用した難燃性付与材料
の製造方法および難燃性樹脂成形体
の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の難燃性付与材料は、植物および植物由来材料から選ばれる植物材料を水系溶媒に接触させた後、植物材料に接触させた水系溶媒を除去したことにより得られた材料である。
【0016】
本発明において、植物とは植物そのものおよび、食用となる部分や薬用となる部分などを収穫した後の植物をいい、植物由来材料とは、植物から抽出された成分や、植物から有用な成分等を抽出した後に得られるものをいう。本発明において、植物材料とは植物および植物由来材料から選ばれる材料をいう。
【0017】
本発明において用いる植物としては、食用となる部分や薬用となる部分などを収穫した後の植物、および植物そのものがあげられる。本発明において用いる植物由来材料としては、植物から抽出された成分や、植物から精油やアルカロイドなどの有用な成分等を抽出した後に得られるものなどがあげられる。植物および植物由来材料としては一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明において用いる植物材料としては、トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、ミカンなどの可食植物の廃棄部分や、藻類、資源作物(ナタネ等の食用ではなく主としてエネルギー資源として使用される作物)、バガス、稲わら、もみ殻や竹、間伐材など非可食性植物や、更には食品関連企業や木材加工関連企業から発生する植物系材料の未利用部位(例えば、木材加工関連企業から発生する「切りくず」等)などがあげられる。
【0019】
これらのうち、トマトから食用となる実を収穫した後の茎、葉、根などの廃棄物が好ましく、難燃性付与効果が高いという点で、トマトの茎を含むものが特に好ましい。
【0020】
水系溶媒との接触により除去される水溶性成分としては、植物中に含まれる水溶性の成分であって、有機物としてはグルコースなどの単糖類、二糖類、多糖類などの糖類、植物酵素、アミノ酸などがあげられる。無機物としてはカリウムなどが挙げられる。
【0021】
本発明においては、植物材料を解砕する解砕工程を実行したのちに水系溶媒と接触させてもよい。解砕工程の実行により生じた植物材料の解砕部分に水系溶媒が接触して、より水溶性成分が除去されやすくなるので好ましい。また、水系溶媒と接触させる工程(水系溶媒接触工程)に先立ち解砕工程を実行しておくと、接触工程前に植物材料を保管する必要があるときに植物材料をコンパクトに収容できるので好ましい。
【0022】
解砕工程とは、水系溶媒を用いずに植物材料を解砕する工程である。解砕工程においては、刃を用いてぶつ切りする方法、ボールミルなどの圧力をかけてすりつぶしたり叩く方法、爆砕等の種々の方法を用いることができる。解砕工程においては、植物材料を、細胞壁を破壊する程度の力を加えてばらばらに破砕してもよい。
【0023】
本発明において、水系溶媒としては、たとえば水、メタノール、エタノール、プロパノール、ギ酸、酢酸等の水溶性の溶媒やアルカリ性の溶媒、緩衝液などのうちの一種または二種以上の混合物を用いることができる。水系溶媒としては、水が好ましい。水としては、純水、精製水、水道水等を用いることができる。
【0024】
植物材料を水系溶媒と接触させる方法としては、具体的には、植物材料を水系溶媒中で解砕する方法(水中解砕)、水系溶媒を解砕の前後において植物材料にかけ流す方法等があげられる。これらの方法のうち、植物材料を水系溶媒中で解砕すると植物材料の解砕により出現する解砕部分から水溶性成分が除去されやすいので好ましい。
【0025】
植物材料と水系溶媒とを接触させる接触工程においては、容器にためた水系溶媒に植物材料を浸漬させることにより水系溶媒と植物材料とを接触させてもよいし、水系溶媒を流しながら水系溶媒と植物とを接触させてもよいし、気化させた水系溶媒を植物と接触させて凝結させてもよい。
【0026】
植物材料と水系溶媒とを接触させた後、電磁波、温度、圧力、薬理処理などの方法により殺菌工程を実行してもよい。殺菌工程を実行すると、菌の発生を防止し難燃性付与材料における悪臭の発生や品質の劣化を防ぐことができるので好ましい。
【0027】
水系溶媒に接触させた植物材料から水系溶媒を除去する固定(水系溶媒除去工程)を行い、難燃性付与材料を得る。水系溶媒除去固定としては、熱乾燥機において植物材料をそのまま高温加熱乾燥させる方法が好ましい。また、植物材料を乾燥させる乾燥工程を実行してもよい。乾燥工程は、熱乾燥や風乾、フリーズドライなどの方法により実行することができる。難燃性付与材料の水分を減らすことで、菌の増殖や酵素に伴う化学反応や空気中の酸素などによる酸化反応を抑えることができる。
【0028】
前記難燃性付与材料は、保管や他の材料との混合に適した形状および大きさに粉砕してもよい。粉砕を行う際には微粉砕機等を用いることができる。
【0029】
前記難燃性付与材料は、樹脂などに混合することにより樹脂に難燃性を付与する機能を有する材料である。
【0030】
本発明の難燃性樹脂成形体は、植物および植物由来材料から選ばれる植物材料を水系溶媒に接触させた後に水系溶媒を除去することにより得られた難燃性付与材料と、樹脂とを含む樹脂組成物を成形してなる。
【0031】
難燃性付与材料とともに樹脂組成物に含まれる樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂等があげられる。難燃性付与材料は、樹脂組成物の質量に対し20質量%以上50質量%以下の割合で含まれているのが好ましい。難燃性付与材料が50質量%を超えると成形しにくくなり難燃性付与材料が20質量%未満であると、難燃性が不十分となることがある。樹脂組成物には主成分となる樹脂以外に各種添加剤が添加されていても構わない。
【0032】
次に発明の効果について説明する。
本発明によれば、植物材料と水系溶媒とを接触させることで、植物材料に糖類などの水溶性成分を除去することができるので、セルロースの相対的な比率が高まり、植物材料に含まれるセルロースの含有量が相対的に増えて難燃性を付与することができる材料が得られると考えられる。併せて、燃焼に寄与する無機成分が除去される一方、難燃性に寄与すると考えられる無機成分(カルシウム、リンなど)が残存したためと考えられる。
【0033】
したがって、本発明によれば、植物性廃棄物を利用した難燃性付与材料および難燃性樹脂成形体を提供することができる。
【0034】
<実施例>
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(1)材料(植物材料)の作製
(A)実を収穫した後のトマトの茎葉を粗粉砕装置(株式会社ホーライ製)により1cm程度の大きさに切断したものを前駆体Aとして、この前駆体Aに対して、乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料Aとした。
(B)実を収穫した後のトマトの茎葉を粗粉砕装置(株式会社ホーライ製)により1cm程度の大きさに切断して得られる材料Aを500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕した後、ろ過して得られたろ過残渣に対し再び同様に処理を繰り返し、処理を3回行ったものを前駆体Bとして、この前駆体Bに対して、乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料Bとした。
(C)もみ殻を微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料Cとした。
なお、これらの材料A,Bと、該材料A,Bを微粉砕する前のものには、その構成成分であるセルロース等で、その寸法がミクロン未満である、サブミクロン単位、ナノ単位の繊維状物(セルロースナノファイバー等)が含まれていることが確認された。特に微粉砕が完了した材料A,Bや、該材料Bを微粉砕する前のものについては、上記繊維状物の含有率が高いことも併せて確認された。
【0035】
(2)樹脂成形体の作製
材料A,B,Cを、溶融混練装置でPP(ランダムタイプのポリプロピレン、サンアロマー社製 サンアロマーPMA20V)に50質量%混練(180℃、10分)したのち、熱プレス装置で板状(125mm×13mm×2mm)に成形(180℃、10分)し、板状の樹脂成形体A,B,Cを作製した。
また、上記のPP50質量%とセルロース(粉末、38μm(400mesh)通過、和光純薬工業株式会社製)50質量%を溶融混練装置で混練したのち、熱プレス装置で板状(125mm×13mm×2mm)に成形(180℃、10分)し、板状の樹脂成形体Dを作製した。
さらに、上記PP(サンアロマーPMA20V)のみを用いて熱プレス装置で板状に成形した樹脂成形体Eも作製した。
【0036】
(3)燃焼試験
樹脂成形体A,B,C,D,Eを治具にセットし、樹脂成形体の端部にバーナの炎を30秒間接触させて着火し、端部から25mmの標線の燃焼後1分経過した時点で消火し燃焼位置を測定し表1に示した。治具としては簡易燃焼試験治具(UL94HB準拠)を用い、バーナのガス流量は105ml/分、炎の大きさは20±1mmであった。
【0037】
(4)材料中の全糖濃度の測定
PPと混練する前の材料A,Bを0.5gずつ、5.0mLの水に浸漬し、25℃で2時間、180rpmの条件で振とうした。振とう後の試料を、3000rpm、10分間遠心分離し、得られた上澄みを抽出水とした。抽出水中の全糖濃度を、グルコースを標準物質としたフェノール硫酸法で測定し表1に示した。
【0038】
(5)材料灰分の蛍光X線分析
リガクPrimusIIZSX(波長分散型蛍光X線分析)を用いて材料A,Bの灰分の蛍光X線分析を行った(分析条件50kV、60mA)。その結果、材料Aではカリウムおよびリンが多く存在していたが、材料Bではカリウムが大幅に低減している。リンも減少してはいるが比較的残っている。マグネシウムおよびカルシウムはほとんど溶出しなかったため、含有率は相対的に増加していた。また、材料Bでは、硫黄が材料Aよりも減少していることが確かめられた。
【0040】
表1に示す結果から明らかなように、トマトから得られる材料(材料A,B)を用いて作製した樹脂成形体A,Bと、もみ殻から得られる材料Cを用いて作製した樹脂成形体Cと、セルロースを混練して作製した樹脂成形体Dとの何れの燃焼速度も、PPのみで作製した樹脂成形体Eよりも燃焼速度が遅かった。このように、程度の差はあるものの、いずれの材料においてもPPの燃焼速度を抑える作用を有しているといえる。
【0041】
トマトから得られる材料(材料A,B)を用いて作製した樹脂成形体A,Bのうち、水中解砕をしなかった材料を用いた樹脂成形体Aの燃焼速度は、約50mm/分であり、PPのみで作製した樹脂成形体Eよりも燃焼速度が20mm/分以上も遅くなった。これは、トマトの茎葉自体に難燃性を高める要素がもともと含まれていることを示している。
【0042】
さらに、水中解砕したトマト茎葉を用いた樹脂成形体Bの燃焼速度は、前述の樹脂成形体Aよりもさらに12mm/分も遅くなり、より難燃性が向上していることが分かる。これは、水中解砕により、トマト茎葉に含まれていた燃焼しやすい成分あるいは組織が除去されたためと考えられる。これは全糖濃度が10分の1以下まで低減されていることからも推察できる。
【0043】
また、純粋なセルロースのみを混錬して作製した樹脂成形体Dの燃焼速度は、PPのみで作製した樹脂成形体Eより約30mm/分も遅くなっており、ある程度の難燃性を発揮
している。
【0044】
しかし、前述したトマト茎葉を水中解砕した材料から作製した樹脂成形体Bの燃焼速度は、純セルロースから作製した樹脂成形体Dよりもさらに4mm/分遅く、より高い難燃性を示している。これは、水中解砕した材料の難燃性は、主成分であるセルロースによる寄与以外に、難燃性の元素(リンなど)が、水中解砕後もその中に残存しているためと考えられる。
【0045】
以上のように、トマト茎葉はもともと難燃性を高める要素を持っているが、それを水中解砕等、植物材料を水に接触させることにより、燃焼速度を遅くすることができるということ(難燃性を付与できること)がわかった。これは比較的燃焼に寄与する成分が除去され、難燃性がより高まったためと考えられる。
【0046】
しかも、その難燃性能は純セルロースを混錬して作製した樹脂成形体Dよりも高いことから、主成分であるセルロース以外に難燃性に寄与する元素成分は、水中解砕等、植物材料を水に接触させた影響を比較的受けることなく、樹脂成形体中に残存していると推察できる。
【0047】
〔水中解砕の回数の検討〕
(6)材料(植物材料)の作製
実を収穫した後のトマト(品種名「桃太郎はるか」)の茎葉を凍結乾燥したものを、粗粉砕装置(リョービ株式会社製)により、1cm程度の大きさに切断したものを粗粉砕物とした。
【0048】
前記粗粉砕物を500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕した。その後、その解砕物をろ過してろ過残渣を得た。水中解砕処理後のろ過残渣に乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料g1とした。
【0049】
前記粗粉砕物を500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕し、その後、その解砕物をろ過してろ過残渣を得た。そして、そのろ過残渣に対して、上記のような水中解砕処理及びろ過処理を2回繰り返した。3回目の水中解砕処理後のろ過残渣に乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料g3とした。
【0050】
前記粗粉砕物を500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕し、その後、その解砕物をろ過してろ過残渣を得た。そして、そのろ過残渣に対して、上記のような水中解砕処理及びろ過処理を5回繰り返した。6回目の水中解砕処理後のろ過残渣に乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料g6とした。
【0051】
前記粗粉砕物を500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕し、その後、その解砕物をろ過してろ過残渣を得た。そして、そのろ過残渣に対して、上記のような水中解砕処理及びろ過処理を9回繰り返した。10回目の水中解砕処理後のろ過残渣に乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料g10とした。
【0052】
(7)樹脂成形体の作製
材料g1を、溶融混練装置でPP(ランダムタイプのポリプロピレン、サンアロマー社製、サンアロマーPMA20V)に30質量%混練(180℃、10分)した後、熱プレス装置で、板状(160mm×13mm×1mm)に成形(180℃、10分)し、板状の樹脂成形体G1を得た。
【0053】
上記材料g1に代えて、それぞれ材料g3,g6,g10を用いたこと以外は、上記樹脂成形体G1と同様の方法により、板状(160mm×13mm×1mm)の樹脂成形体G3,G6,G10を得た。
【0054】
上記PP(サンアロマーPMA20V)のみを用いて熱プレス装置で板状(160mm×13mm×1mm)に成形した樹脂成形体Gpを得た。
【0055】
(8)燃焼試験
簡易燃焼試験治具(UL94HB準拠)を用いて、以下に示されるように、燃焼試験を行った。具体的には、樹脂成形体G1を、長手方向が水平方向と一致し、かつ短手方向が鉛直方向と一致するように治具にセットした。その樹脂成形体G1の長手方向の端部にバーナの炎(炎の大きさ:20±1mm、ガス流量:105ml/分)を30秒間接触させて着火し、その端部から長手方向で25mmの位置にある標線が燃焼してから1分経過した時点で消火し、前記標線から燃焼位置までの距離を測定した。なお、試験時の室温は、26.0℃であり、湿度は、73%であった。また、樹脂成形体G3,G6,G10,Gpについても、上記樹脂成形体G1と同様、燃焼試験を行った。測定結果は、表2に示した。
【0057】
表2に示されるように、水中解砕の回数が増加するにつれて、樹脂成形体の燃焼速度が遅くなり、難燃性が向上することが確かめられた。
【0058】
〔トマト以外の他の植物材料〕
(9)材料(植物材料)の作製
実を収穫した後のナス(品種名「千両」)の茎葉を凍結乾燥したものを、粗粉砕装置(リョービ株式会社製)により、1cm程度の大きさに切断したものを粗粉砕物とした。
【0059】
前記粗粉砕物を500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕し、その後、その解砕物をろ過してろ過残渣を得た。そして、そのろ過残渣に対して、上記のような水中解砕処理及びろ過処理を2回繰り返した。3回目の水中解砕処理後のろ過残渣に乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料hとした。
【0060】
(10)樹脂成形体の作製
材料hを、溶融混練装置でPP(ランダムタイプのポリプロピレン、サンアロマー社製、サンアロマーPMA20V)に30質量%混練(180℃、10分)した後、熱プレス装置で、板状(160mm×13mm×1mm)に成形(180℃、10分)し、板状の樹脂成形体Hを得た。
【0061】
(11)燃焼試験
簡易燃焼試験治具(UL94HB準拠)を用いて、以下に示されるように、燃焼試験を行った。具体的には、樹脂成形体Hを、長手方向が水平方向と一致し、かつ短手方向が鉛直方向と一致するように治具にセットした。その樹脂成形体Hの長手方向の端部にバーナの炎(炎の大きさ:20±1mm、ガス流量:105ml/分)を30秒間接触させて着火し、その端部から長手方向で25mmの位置にある標線が燃焼してから1分経過した時点で消火し、前記標線から燃焼位置までの距離を測定した。なお、試験時の室温は、26.0℃であり、湿度は、73%であった。測定結果は、表3に示した。
【0063】
表3に示されるように、植物材料としてナスを用いた樹脂成形体Hは、PPのみからなる樹脂成形体(表2の樹脂成形体Gp)と比べて、樹脂成形体の燃焼速度が遅くなり、難燃性が向上することが確かめられた。
【0064】
(12)材料灰分の蛍光X線分析
リガクPrimusIIZSX(波長分散型蛍光X線分析)を用いて、水中解砕を行っていないナスの粗粉砕物と、材料hとの蛍光X線分析を行った(分析条件50kV、60mA)。その結果、粗粉砕物ではカリウムおよびリンが多く存在していたが、材料hではカリウムが大幅に低減している。リンも減少してはいるが比較的残っている。マグネシウムおよびカルシウムはほとんど溶出しなかったため、含有率は相対的に増加していた。なお、材料hでは、上述したトマトの場合とは異なり、硫黄が水中解砕を行っていない粗粉砕物よりも増加していることが確かめられた。
【0065】
〔PP以外の他の樹脂〕
(13)材料(植物材料)の作製
実を収穫した後のトマト(品種名「桃太郎はるか」)の茎葉を凍結乾燥したものを、粗粉砕装置(リョービ株式会社製)により、1cm程度の大きさに切断したものを粗粉砕物とした。
【0066】
前記粗粉砕物500gを、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したもの(微粉砕物)を材料i0とした。
【0067】
前記粗粉砕物を500g、2リットルの水中に入れ、ホモジナイザーにて2分間解砕し、その後、その解砕物をろ過してろ過残渣を得た。そして、そのろ過残渣に対して、上記のような水中解砕処理及びろ過処理を2回繰り返した。3回目の水中解砕処理後のろ過残渣に乾燥処理(130℃、8時間の後、更に105℃、12時間)を施して、更に微粉砕装置(大阪ケミカル株式会社製)にて500μm程度に粉砕したものを材料i3とした。
【0068】
(15)樹脂成形体の作製
材料i3を、溶融混練装置でABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、UMG ABS株式会社社製、サイコラック1001N)に30質量%混練(180℃、10分)した後、熱プレス装置で、板状(160mm×13mm×1mm)に成形(180℃、10分)し、板状の樹脂成形体I3を得た。
【0069】
上記材料i3に代えて、材料i0を用いたこと以外は、上記樹脂成形体I3と同様の方法により、板状(160mm×13mm×1mm)の樹脂成形体I0を得た。
【0070】
上記ABS(サイコラック1001N)のみを用いて熱プレス装置で板状(160mm×13mm×1mm)に成形した樹脂成形体Iaを得た。
【0071】
(16)燃焼試験
簡易燃焼試験治具(UL94HB準拠)を用いて、以下に示されるように、燃焼試験を行った。樹脂成形体I3を、長手方向が水平方向と一致し、かつ短手方向が鉛直方向と一致するように治具にセットした。その樹脂成形体Iの長手方向の端部にバーナの炎(炎の大きさ:20±1mm、ガス流量:105ml/分)を30秒間接触させて着火し、その端部から長手方向で25mmの位置にある標線が燃焼してから1分経過した時点で消火し、前記標線から燃焼位置までの距離を測定した。また、樹脂成形体I0,Iaについても、上記樹脂成形体Iと同様、燃焼試験を行った。なお、試験時の室温は、26.0℃であり、湿度は、73%であった。測定結果は、表4に示した。
【0073】
表4に示されるように、樹脂成分としてABSを使用した樹脂成形体I3においても、水中解砕された植物材料を添加することによって、樹脂成形体の燃焼速度が遅くなり、難燃性が向上することが確かめられた。また、水中解砕を施していない樹脂材料を添加した樹脂成形体I0についても、ABSのみからなる樹脂成形体Iaと比べて、燃焼速度が遅くなり、難燃性が向上するものの、水中解砕を行った樹脂材料が添加された樹脂成形体I3と比べれば、難燃性が劣ることが確かめられた。なお、ABSのみからなる樹脂成形体Iaでは、燃焼速度が160mm/分を超える値となった。