(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
工業炉向けの断熱材の形態としては、耐火煉瓦、キャスタブルが一般的であるが、高温焼成炉内の温度制御性の向上及び省エネルギーのためには、無機繊維を積層して不織布様にした無機繊維集合体を用いた無機繊維成形体、中でも、ニードリング加工された無機繊維成形体(ニードルブランケット)が、その極軽量性、易加工性、耐熱衝撃性に優れるという特徴を活かして、高温用工業炉の耐火断熱材として好ましく用いられている。
【0003】
断熱材として用いられる無機繊維としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、ムライト等のアルミノシリケート系繊維が一般的である。これらは通常5重量%以上のシリカが含有されている。
しかし、このような無機繊維は、酸化鉄等を含有するスケールと反応して、低融点化合物を生成することで、無機繊維が溶解、収縮してしまう。その結果、無機繊維成形体の厚みが減少したり、無機繊維成形体の一部が剥離してしまうことにより、断熱性能を低下させてしまう問題があった。
さらに真空焼成炉においては、無機繊維中のシリカが還元されて繊維から揮発してしまうために、無機繊維が脆弱化し、破壊する結果、無機繊維成形体の強度が低下して、その一部が剥離してしまうことにより、断熱性能が低下する問題もあった。
【0004】
無機繊維の中には、シリカの含有量が5重量%未満のものも存在するが、このような組成の繊維は、繊維強度が低いために、十分な強度を有する無機繊維成形体とすることはできなかった。
【0005】
これに対して、CaOとAl
2O
3から成るカルシウムアルミネート系材料は、古くから耐化学薬品性、耐スケール性に優れた断熱材として用いられている。中でも、CA6(CaO・6Al
2O
3)材料は、耐化学薬品性が高く、酸化鉄等のスケールと反応しにくい性質を有するため、特殊環境下における工業炉の断熱材として好適であると考えられる。
しかし、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物を含む紡糸原液を液糸化した後に焼成することにより製造される断熱材用の繊維形状のCA6材料(特許文献1)は、繊維強度が低く、工業炉の断熱材としての使用に耐えうるものではない。
【0006】
また、アルミナ繊維等のセラミックファイバー断熱材の表面にCA6骨材を塗布して、CA6の耐スケール性を活かした無機繊維成形体を製造する方法も知られている(特許文献2)。しかし、一般的にセラミック同士の強固な接合は極めて困難であるため、このような材料では、表面にコートしたCA6骨材がセラミックファイバー断熱材から容易に剥離してしまうために、断熱材に有効な耐スケール性を付与することは困難であった。
【0007】
特許文献3には、無機繊維集合体に、耐スケール性を有するスピネル系化合物をコーテイングする技術が示されているが、やはり、無機繊維とスピネル化合物との強固な接合は難しいため、断熱材に有効な耐スケール性を付与することは困難であった。
【0008】
特許文献4には、Al
2O
3、CaO、及びSiO
2からなる無機繊維とその製造方法が示されている。この文献によれば、十分な耐熱性を有するためには、繊維中のSiO
2含有量を5重量%以上とする必要があると記載されている。しかし、Al
2O
3、CaO、及びSiO
2からなる無機繊維のSiO
2含有量が5重量%以上のものは、耐スケール性が十分ではないため、断熱材に必要な繊維強度と耐スケール性を両立させることはできないという課題があった。
【0009】
特許文献5には、Al
2O
3、SiO
2、CaO、及びMgOから成る無機繊維が示されている。この文献では、無機繊維の人体への安全性のひとつの指標である疑似体液(人工的に調製した生理食塩水、pH約7.5とpH約4.5の水溶液)への無機繊維の溶解性と耐熱性を両立させるための技術が報告されているが、無機繊維に疑似体液への溶解性を付与するためには、繊維中のSiO
2含有量が10重量%以上である必要性が示されている。このようなSiO
2含有量の多い無機繊維では、高温下における耐スケール性が不十分である。
【0010】
このように、従来においては、耐スケール性が高く、特殊環境でも支障なく用いることができる断熱材向けの無機繊維や無機繊維成形体は得られていない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の無機繊維は、CaO
5〜10重量%、Al
2O
385〜94.5重量%、及びMgO
2〜8重量%を含み、かつ、CaO、Al
2O
3及びMgOの合計の含有割合が繊維全体の95重量%以上である無機繊維であって、特定の溶解度測定試験で求められる酸性試験液に対する繊維中のMgOの比表面積当たりの溶解度が0.15ppm/
(m
2/g
)以下であることを特徴とする。
【0025】
このように、CaO、Al
2O
3及びMgOを上記特定の範囲内で有し、特定組成の酸性試験液に対するMgOの比表面積当たりの溶解度が0.15ppm/
(m
2/g
)以下である本発明の無機繊維は、化学的に安定であり、高温条件下での耐スケール性に優れ、高真空条件や、酸性水溶液中でも安定に存在することができ、また、断熱材として用いるに十分な高い繊維強度と、十分な耐スケール性を兼備すると共に、水に対する耐久性にも優れ、特殊環境の断熱材用途等として好適である。
【0026】
本発明の無機繊維は、CaOを3〜20重量%含むものであり、好ましくは5〜10重量%含む。CaOの含有割合が上記範囲内にあることにより、繊維の脆性が向上して繊維強度が向上する。
本発明の無機繊維は、Al
2O
3を70〜94.5重量%含むものであり、好ましくは85〜94.5重量%含む。Al
2O
3の含有割合が上記範囲内にあることにより、繊維の脆性が向上して、繊維強度が向上する。
本発明の無機繊維は、MgOを1〜10重量%含むものであり、好ましくは2〜8重量%含む。MgOの含有割合が上記範囲内にあることにより、繊維の脆性が向上して繊維強度が向上する。
即ち、CaO、Al
2O
3及びMgOを上記範囲で含むことにより、繊維強度が高い無機繊維となる。
【0027】
本発明の無機繊維におけるCaO、Al
2O
3及びMgOの合計の含有割合は、繊維全体の95重量%以上であり、好ましくは96重量%以上であり、より好ましくは98重量%以上である。CaO、Al
2O
3及びMgOの合計の含有割合が繊維全体の95重量%以上であることにより、断熱材として用いるに十分な繊維強度と、耐スケール性を両立させることができる。
【0028】
さらに、本発明の無機繊維は、電気陰性度が1.35〜1.85である金属
の酸化物を含有することが、繊維強度が向上する点で好ましい。ここで、電気陰性度とは、結合状態にある原子が電子を引き付ける能力を表す数値であり、ポーリングによって定められた数値のことを指す(参照:理化学辞典 912項)。電気陰性度が1.35〜1.85の金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zn、Zr、Ga、Si、Nb、Ta等が挙げられる。
中でもSi、Ga等の典型金属が好ましく、特に好ましくはSiである。
即ち、本発明の無機繊維は、電気陰性度が1.30〜1.85の金属の酸化物としてSiO
2を含むことが好ましく、SiO
2を含むことにより、繊維強度がより向上し、好ましい。電気陰性度が1.30〜1.85の金属の酸化物は、本発明の無機繊維中に1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていても構わない。
【0029】
本発明の無機繊維は、電気陰性度が1.35〜1.85である金属の酸化物を0.1〜5重量%含むことが好ましく、より好ましくは、この含有量は0.2〜5重量%、更に好ましくは0.2〜3重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%である。電気陰性度が1.35〜1.85である金属の酸化物の含有量が上記下限未満では、これを含有させることによる繊維強度の向上効果を十分に得ることができず、上記上限を超えると、耐スケール性が低下するおそれがある。
【0030】
本発明の無機繊維は、不純物として、Na
2O、K
2O、Fe
2O
3、TiO
2、ZrO
2等の金属酸化物を、これらの合計で1重量%以下まで含有してもよい。なお、N
2OやK
2Oのアルカリ金属酸化物の含有量は、好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下であることが望ましい。不純物やアルカリ金属酸化物の量を上記上限以下にすることによって、繊維強度の高い無機繊維とすることができる。
【0031】
本発明の無機繊維は、以下の溶解度測定試験で求められる繊維中のMgOの比表面積当たりの溶解度(以下、「酸性試験液によるMgO溶解度」と称す。)が0.15ppm/
(m
2/g
)以下という、酸性溶液にも溶解し難い特徴を有する。本発明の無機繊維の酸性試験液によるMgO溶解度は、0.1ppm/
(m
2/g
)以下であることが好ましく、0.08ppm/
(m
2/g
)以下であることが特に好ましい。
このように酸性試験液によるMgO溶解度が小さいことにより、化学的安定性に優れたものとなる。
なお、以下の酸性試験液は、酸性の体液を模した疑似体液に該当する。
【0032】
<溶解度測定試験>
無機繊維0.1gと下記酸性試験液50gとを混合し、37℃で24時間静置した後、未溶解の無機繊維を濾過し、濾液に溶解しているMgの量をICP発光分光法により定量し、Mgの溶解量から溶解したMgOの量を算出して、無機繊維中のMgOの溶解度(ppm)を求める。算出された無機繊維中のMgOの溶解度を、無機繊維の比表面積(m
2/g)で除して、無機繊維中のMgOの比表面積当たりの溶解度(ppm/
(m
2/g
))を算出する。
<酸性試験液>
水100重量部に、以下の試薬を混合、溶解させた溶液に、0.1規定の塩酸を添加して、pHを4.5に調整したもの。
NaHCO
3:1.95重量部
CaCl
2・2H
2O:0.029重量部
Na
2HPO
4:0.148重量部
Na
2SO
4:0.079重量部
MgCl
2・6H
2O:0.212重量部
グリシン:0.118重量部
クエン酸ナトリウム・2H
2O:0.152重量部
酒石酸ナトリウム・3H
2O:0.18重量部
ピルビン酸ナトリウム:0.172重量部
乳酸:0.14重量部
【0033】
本発明の無機繊維の平均繊維径は、特段の制限はないが、通常1.5〜10μmであることが好ましい。平均繊維径が1.5μm以上であることにより、空気中に浮遊する発塵量が少なくなり好ましく、10μm以下であることで、無機繊維の脆性が向上し、繊維強度が向上するため好ましい。中でも、平均繊維径は2〜8μmであることが好ましい。ここで平均繊維径は、100本以上の無機繊維の光学顕微鏡写真から計測した繊維径の平均値である。
【0034】
本発明の無機繊維の引張強度は、特段の制限はないが、通常300N/mm
2以上であり、好ましくは350N/mm
2以上、より好ましくは380N/mm
2以上である。引張強度が300N/mm
2以上であることで、工業的用途に堪える十分な強度の断熱材用材料として使用することができる。無機繊維の引張強度の上限には特段の制限はないが、引張強度が高すぎると、無機繊維成形体の加工性が低下する可能性があるため、通常3000N/mm
2以下、好ましく2800N/mm
2以下、より好ましくは2500N/mm
2以下である。
【0035】
ここで、無機繊維の引張強度とは、単繊維の引張強度のことを指す。単繊維の引張強度は、単繊維の圧壊荷重を測定して、その値から、以下の式によって計算することができる。ここで引張強度は、無機繊維10本の測定値の平均値とする。
引張強度[N/mm
2]=
2×圧壊荷重[N]/π(円周率)/繊維径[mm]/繊維長さ[mm]
【0036】
単繊維の圧壊荷重は、以下の方法で測定する。
平滑な基板上に、圧壊荷重を測定する長さ100μm以上の繊維を置き、光学顕微鏡によって、該繊維の直径を測定した後、直径50μmの円形平面圧子により、平面圧子のほぼ直径部分に該繊維が位置するようにして、繊維の長さ50μm相当する部分を平面圧子によって圧壊させて、繊維が壊れたときの荷重を圧壊荷重とする。
【0037】
本発明の無機繊維の比表面積は、特段の制限はないが、通常0.1〜50m
2/gであり、好ましくは0.2〜40m
2/g、より好ましくは0.3〜30m
2/gである。本発明の無機繊維の比表面積が上記範囲内にあることにより、断熱材として用いるために十分な繊維強度となるため、好ましい。無機繊維の比表面積は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0038】
本発明の無機繊維の細孔容量は、特段の制限はないが、通常0.0001〜0.1mL/gであり、好ましくは0.0002〜0.1mL/g、より好ましくは0.0003〜0.1mL/gである。本発明の無機繊維の細孔容量が上記範囲内にあることにより、断熱材として用いるために十分な繊維強度となるため、好ましい。無機繊維の細孔容量は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0039】
本発明の無機繊維の製造方法としては、溶融法や、無機繊維を構成する各成分や各成分の前駆体を含有する紡糸液を紡糸して、無機繊維の前駆体とした後、これを焼成する方法等が挙げられる。
【0040】
溶融法とは、一般的には、無機繊維を構成する元素の酸化物を原料として、これらを加熱溶融した後、溶融物を圧縮空気等で吹き飛ばすことによって繊維形状に成
形する方法である。
【0041】
以下に、紡糸液を紡糸することにより本発明の無機繊維を製造する方法について説明する。
【0042】
紡糸液は、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、及び有機重合体等の増粘剤と、水及び/又は有機溶媒類を含有する。紡糸液は、必要に応じて水溶性有機化合物等の安定化剤を含有していてもよい。
【0043】
アルミニウム化合物は、アルミナゾルや水溶性のアルミニウム化合物が好ましく用いられるが、塩基性塩化アルミニウム;Al(OH)
3−xCl
xがさらに好ましく用いられる。上記の化学式におけるxの値は通常0.45〜0.54、好ましくは0.50〜0.53である。
【0044】
カルシウム化合物は、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等の公知のカルシウム化合物が用いられるが、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム等の水溶性のカルシウム化合物が好ましい。また、水酸化カルシウムのような水に難溶性のカルシウム化合物においては、酸性の水溶液に溶解させたものを、カルシウム化合物として用いることができる。
【0045】
マグネシウム化合物は、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の公知のマグネシウム化合物が用いられるが、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等の水溶性のマグネシウム化合物が好ましい。また、水酸化マグネシウムのような水に難溶性のマグネシウム化合物においては、酸性の水溶液に溶解させたものを、マグネシウム化合物として用いることができる。
【0046】
電気陰性度が1.30〜1.85の金属
の酸化物を含有する無機繊維を製造する場合は、紡糸液中に、電気陰性度1.30〜1.85の金属を含有する化合物を含有させておく。電気陰性度1.30〜1.85の金属を含有する化合物としては、金属酸化物、金属塩化物、金属酢酸塩、金属乳酸塩、金属硝酸塩、金属アルコキシド、金属酸化物ゾル、金属酸化物ゲル等、公知の金属化合物が用いられるが、金属塩化物、金属酢酸塩、金属硝酸塩、金属乳酸塩等の水溶性の塩類が好ましい。
【0047】
特に、SiO
2を含有する無機繊維を製造する場合には、紡糸液中に珪素を含有する化合物を含有させる。珪素を含有する化合物としては、シリカゾル、水ガラス、シリコーン化合物、アルコキシシラン類、シロキサン類、ケイ酸塩類が挙げられるが、中でも、水溶性の珪素化合物が望ましい。水溶性の珪素化合物としては、シリカゾル、水ガラス、水溶性のシリコーン化合物、水溶性のアルコキシシラン類が挙げられるが、シリカゾル、水溶性のシリコーン化合物がより望ましい。
【0048】
有機重合体としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、糖類、セルロース化合物等が挙げられるが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングルコール等の水溶性高分子化合物が好適に用いられる。
【0049】
水溶性有機化合物としては、水酸基やカルボキシル基、アミノ基等の親水性の官能基を有する有機化合物が挙げられる。中でも、カルボキシル基を有する化合物が望ましく、具体的には、乳酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、グルコール酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0050】
紡糸液は、溶媒として水及び/又は有機溶媒類、好ましくは水、或いは水と有機溶媒類を含有する。有機溶媒類としては、水溶性の有機溶媒類が好ましく、具体的には、アルコール類、ケトン類、エーテル類、アミド化合物等が挙げられる。
【0051】
紡糸液中のアルミニウム化合物の濃度は、アルミニウム換算濃度として、通常5〜20重量%、特に6〜18重量%、とりわけ8〜15重量%とすることが好ましい。また、紡糸液中の有機重合体の濃度は、通常0.1〜10重量%、特に0.2〜8重量%、とりわけ0.5〜5重量%とすることが好ましい。紡糸液中のアルミニウム濃度と有機重合体の濃度が上記範囲にあることにより、紡糸液の粘度が紡糸に適したものとなる。紡糸液の粘度は、25℃において、100〜10万cP(センチポイズ)、好ましくは、200〜5万cP、さらに好ましくは500〜3万cPである。紡糸液中のアルミニウム濃度、有機重合体の濃度、紡糸液の粘度を上記範囲にすることによって、所望の繊維径で高い繊維強度の無機繊維を得ることができる。
【0052】
紡糸液は、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、有機重合体、水等を所望の繊維組成となるように混合した後、必要に応じて、アルミニウム濃度及び有機重合体の濃度が上記の範囲となるように濃縮することによって調製される。
【0053】
紡糸液中には、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類や、チタン、鉄、ジルコニウム等の遷移金属類や、ランタン、イットリウム等の希土類金属類が含有されていても構わない。ただし、これらの金属の紡糸液中の含有量は、合計で1重量%未満である。これらの金属を含有する紡糸液から得られた繊維中には、通常、これらの金属の酸化物が含有される。
【0054】
紡糸液を紡糸する方法としては、高速の紡糸気流中に紡糸液を供給するブローイング法、円周面に孔を有する中空円盤を高速で回転させながら、孔から紡糸液を吐出させる方法、紡糸液をノズルの先端から吐出させながら連続的に液を延伸させて繊維を得る巻き取り方式等の連続延伸法、エレクトロスピニング法等、公知の紡糸方法が挙げられる。
【0055】
このように、紡糸液を紡糸することにより、本発明の無機繊維の繊維前駆体を得ることができる。
【0056】
紡糸された繊維前駆体は、必要に応じて乾燥処理を施した後、焼成することで、本発明の無機繊維を得る。繊維前駆体の焼成は通常500℃以上、好ましくは700〜1400℃の温度で行う。焼成温度が500℃より低い場合は、結晶化や有機重合体の焼成除去が不十分なため、強度が低い脆弱な繊維しか得られない傾向がある。焼成温度が1400℃を超えると、繊維中の結晶の粒子成長が進行して強度の小さい繊維しか得られない傾向がある。
特に、繊維強度の高い本発明の無機繊維を得るために、500〜900℃で1分〜3時間の一次焼成と、この一次焼成温度より高温である1000〜1400℃で1分〜3時間の二次焼成とを行っても構わない。
【0057】
本発明の無機繊維を含む本発明の無機繊維集合体を得る方法としては、紡糸気流に対して、凡そ直角となるように、金属等から成る網状の薄板や、ネット等に、無機繊維前駆体を含有する紡糸気流を衝突させる構造の集積装置により、網やネット上に薄層シート形状の無機繊維前駆体の集合体を得、このような集合体を、上記の繊維前駆体の焼成条件と同様に焼成して無機繊維集合体とする方法が挙げられる。このとき、網やネットの位置を移動させながら、無機繊維の連続シート(薄層シート)状としてもよい。
【0058】
このような無機繊維集合体や、集合体同士を積層させたものに、ニードリングを施すことによって、本発明の無機繊維成形体とすることができる。また、焼成前の無機繊維前駆体の集合体に、ニードリング等を施すことによって、無機繊維前駆体の成形体として、その後上記繊維前駆体の焼成条件と同様に焼成することによって無機繊維成形体とすることもできる。
【0059】
さらに、無機繊維を一定の容量の容器等に入れて加圧成形する方法や、紙漉き法によっても、本発明の無機繊維集合体や無機繊維成形体を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例等において得られた無機繊維の各種物性や特性の測定、評価方法は以下の通りである。
【0061】
[平均繊維径]
無機繊維0.3gを、水100mL中において、10分間撹拌しながら分散させた。この液を撹拌した状態で、容器底部付近よりピペットで液をサンプリングして、スライドガラス上に液を1滴載せ、その上からカバーグラスを置いた。カバーガラス越しに、繊維を光学顕微鏡にて観察して、繊維100本の繊維径を測定し、その平均値を算出して、平均繊維径とした。
【0062】
[比表面積]
大倉理研社製表面積測定装置「AMS−1000」にて、無機繊維の比表面積を測定した。
【0063】
[細孔容量]
カンタクローム社製「オートソーブ3B」にて、液体窒素温度下で、無機繊維の吸着等温線(吸着ガス:窒素)を測定した。得られた吸着等温線を用いて、BJH法解析により、細孔容量を算出した。
【0064】
[引張強度]
無機繊維を、1mm角のダイヤモンド基板上に載せて、島津製作所製微小圧縮試験機「MCTM−500」にて、直径50μmの円形平面圧子を用いて、無機繊維の圧壊荷重を測定した。測定する無機繊維は、100μm以上の長さのもので、平面圧子のほぼ直径部分に無機繊維が位置するようにして測定した。まず、繊維の繊維径を試験機のモニタ画面上で測定し、その後、繊維の長さ50μmに相当する部分を平面圧子によって圧壊させて、繊維が壊れたときの荷重を圧壊荷重とし、以下の理論式により、無機繊維の引張強度を算出した。繊維長さは、平面圧子の直径(50μm)とした。無機繊維10本の引張強度の平均値を算出して、無機繊維の引張強度とした。
引張強度[N/mm
2]=
2×圧壊荷重[N]/π(円周率)/繊維径[mm]/繊維長さ[mm]
【0065】
[耐スケール性]
無機繊維の集合体(無機繊維0.5g、直径2.0cm、高さ1.5cm)の表面に、直径5mmで厚さ2mmの鉄ペレットを載せ、電気炉に入れて1400℃まで7時間で昇温し、1時間保持した後、降温後取り出して外観変化を観察した。酸化鉄の浸食度合いを深さ方向で判定し、全く浸食されない状態を10、厚さ方向に貫通した状態を1として、10段階評価した。
【0066】
[酸性試験液によるMgO溶解度]
以下の溶解度測定試験により求めた。
<溶解度測定試験>
無機繊維0.1gと下記酸性試験液50gとを混合し、37℃で24時間静置した後、未溶解の無機繊維を濾過し、濾液に溶解しているMgの量をICP発光分光法により定量し、Mgの溶解量から溶解した無機繊維中のMgOの量を算出して無機繊維中のMgOの溶解度(ppm)を求めた。算出された無機繊維中のMgOの溶解度を、無機繊維の比表面積(m
2/g)で除して、繊維中のMgOの比表面積当たりの溶解度(ppm/
(m
2/g
))を算出した。
<酸性試験液>
水100重量部に、以下の試薬を混合、溶解させた溶液に、0.1規定の塩酸を添加して、pHを4.5に調整したもの。
NaHCO
3:1.95重量部
CaCl
2・2H
2O:0.029重量部
Na
2HPO
4:0.148重量部
Na
2SO
4:0.079重量部
MgCl
2・6H
2O:0.212重量部
グリシン:0.118重量部
クエン酸ナトリウム・2H
2O:0.152重量部
酒石酸ナトリウム・3H
2O:0.18重量部
ピルビン酸ナトリウム:0.172重量部
乳酸:0.14重量部
【0067】
[実施例1]
<紡糸液の調製>
アルミニウム濃度が163g/Lの塩基性塩化アルミニウム;Al(OH)
3−xCl
x(x=0.51)の水溶液25重量部と、塩化カルシウム・2水和物(和光純薬工業製)の30重量%水溶液4.2重量部、塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学製)の30重量%水溶液3.2重量部、10重量%ポリビニルアルコール(重合度1700)水溶液4.6重量部、乳酸(キシダ化学製)0.5重量部を混合した後、50℃で減圧濃縮して、水13.1重量部を留去することにより、紡糸液を得た。紡糸液の粘度は8000cP(25℃におけるコーンプレート型粘度計による測定値)、アルミニウム濃度は12.5重量%、ポリビニルアルコール濃度は1.9重量%であった。
【0068】
<紡糸>
上記の紡糸液をブローイング法で紡糸した。紡糸は、紡糸液供給ノズルの直径0.3mm、紡糸液供給ノズル1本当たりの液量1ml/min、紡糸液供給ノズル1本当たりのブローイング用の空気流量7m
3/hr、紡糸液供給ノズルの周囲温度41℃、相対湿度9%、の条件で実施した。集綿は、紡糸気流に対してほぼ直角に置いたステンレス製金網に、紡糸された無機繊維前駆体と紡糸気流を衝突させることにより行い、金網から無機繊維前駆体を回収した。
【0069】
<焼成>
回収した無機繊維前駆体を、石英製焼成管に入れて、空気流通下に、900℃で30分間焼成を実施した。続いて、焼成管から焼成繊維を取り出した後、電気炉に入れて、空気中で1200℃で30分間焼成を実施して、無機繊維を得た。得られた無機繊維中のAl
2O
3、CaO、MgO含有量は、それぞれ89.5重量%、7.5重量%、3.0重量%であった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液による繊維中のMgOの溶解度の評価結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を3.6重量部、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を8.4重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を4.8重量部とした上で、減圧濃縮時に留去する水の量を15.9重量部とした以外は、実施例1と同様に行って表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は8500cP、アルミニウム濃度は11.6重量%、ポリビニルアルコール濃度は1.8重量%であった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を4.1重量部、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を4.6重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を4.6重量部とした上で、減圧濃縮時に留去する水の量を13.8重量部とした以外は、実施例1と同様に行って表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は6900cP、アルミニウム濃度は12.2重量%、ポリビニルアルコール濃度は1.9重量%であった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0072】
[実施例4]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を4.5重量部、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を3.2重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を5.1重量部とした上で、さらに、シリコーン化合物(信越シリコーン社製「KF351A」)0.6重量部を混合した後に、減圧濃縮して水13.9重量部を留去したこと以外は、実施例1と同様に行って、表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は10500cP、アルミニウム濃度は12.3重量%、ポリビニルアルコール濃度は2.1重量%であった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を4.6重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を4.5重量部とした上で、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を加えないで減圧濃縮して、水13.9重量部を留去したこと以外は、実施例1と同様に行って、表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は6000cPであった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を3.0重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を4.3重量部として、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を加えないで減圧濃縮して、水11.2重量部を留去したこと以外は、実施例1と同様に行って、表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は4250cPであった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0075】
[比較例3]
実施例1において、紡糸液の調製における、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を4.2重量部として、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液と塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を加えないで、さらに酸性シリカゾル(SiO
2含有量20重量%、株式会社ADEKA製)0.6重量部を加えて混合した後に減圧濃縮して、水9.8重量部を留去したこと以外は、実施例1と同様に行って、表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は5060cPであった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0076】
[比較例4]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を4.6重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を4.6重量部として、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を加えないで、さらに比較例3で用いたものと同様の酸性シリカゾル0.6重量部を加えて混合した後に減圧濃縮して水12.0重量部を留去したこと以外は、実施例1と同様に行って、表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は4820cPであった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0077】
[比較例5]
実施例1において、紡糸液の調製における、塩化カルシウム・2水和物の30重量%水溶液を6.1重量部、塩化マグネシウム・6水和物の30重量%水溶液を11.4重量部、10重量%ポリビニルアルコール水溶液を6.7重量部とし、さらに比較例3で用いたものと同様の酸性シリカゾル11.4重量部を加えて混合した後に減圧濃縮して、水27.9重量部を留去したことと、焼成において900℃で30分焼成の後に1200℃の焼成を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行って、表1に示す成分組成の無機繊維を得た。紡糸液の粘度は4430cPであった。
得られた無機繊維の平均繊維径、比表面積、細孔容量、引張強度、耐スケール性、及び酸性試験液によるMgO溶解度の評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
上記結果から、Al
2O
3、CaO、及びMgOの含有量が、本発明の定める範囲にあり、酸性試験液によるMgO溶解度が0.15ppm/
(m
2/g
)以下の無機繊維においては、高い繊維強度と良好な耐スケール性を両立できることがわかる。特に実施例2と比較例5を比較すると、実施例1の本発明の繊維の方が、繊維中のMgO含有量が多いにも関わらず、酸性試験液によるMgO溶解度が低く、かつより良好な耐スケール性を示していることが判る。また、実施例4より、さらにSiO
2を含有することによって、耐スケール性を損なうことなく、繊維強度を高く、比表面積を低く、細孔容量を小さくすることができることがわかる。
なお、比較例1〜2より、MgOとCaOのいずれかを含有しない無機繊維は、繊維強度が低く、MgOを含有しないものは比表面積が大きく、細孔容量も大きいことがわかる。また、比較例3、4より、MgOを含有しない無機繊維では、SiO
2を含有させても、十分な繊維強度が得られないことがわかる。比較例5は、酸性試験液によるMgO溶解度が高い無機繊維であるが、比較的高い繊維強度が得られるものの、SiO
2の含有量が高いために、耐スケール性は大きく劣った結果となった。