(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記スラリー中を通過して該スラリーが塗布された上記焼結磁石体をそのまま上記コンベアで搬送して、余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを順次通過させ、該焼結磁石体表面の余滴を除去し乾燥させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
上記押上ベルトの下側に、上記押上部材の下端が摺動するカム面を有するカム部材が配設されており、上記押上部材がこのカム面により押し上げられて、上記コンベアベルトの挿通穴に進入し、コンベアベルト上に突出するように構成された請求項5記載のスラリー塗布装置。
上記押上ベルトが、上記挿通穴に進入した各押上部材を介して上記コンベアのコンベアベルトにより回転駆動されるように構成した請求項5又は6記載のスラリー塗布装置。
上記押上ベルトに、複数の突起状ないし羽状の撹拌部を設け、押上ベルトの回転により該撹拌部でスラリーを撹拌するように構成された請求項5〜9のいずれか1項に記載のスラリー塗布装置。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系などの希土類永久磁石は、その優れた磁気特性のために、ますます用途が広がってきている。従来、この希土類磁石の保磁力を更に向上させる方法として、焼結磁石体の表面に希土類化合物の粉末を塗布して熱処理し、希土類元素を焼結磁石体に吸収拡散させて希土類永久磁石を得る方法が知られており(特許文献1:特開2007−53351号公報、特許文献2:国際公開第2006/043348号)、この方法によれば、残留磁束密度の減少を抑制しつつ保磁力を増大させることが可能である。
【0003】
ここで、特開2008−061333号公報(特許文献3)には、焼結磁石の一部に上記の方法を適用することにより、適用した箇所のみに上記の効果が表れることが示されているが、このことは逆に、磁石に粉末が十分に塗布されない部分が存在すれば、その部分には上記効果が得られないことを意味する。そのため、上記吸収拡散処理を行う際には、磁石の所定箇所又は全面に対して粉末を一様に塗布することが重要である。
【0004】
粉末を磁石体表面に塗布する方法は、該粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し乾燥させる方法があり、このスラリーを塗布する方法として、特開2011−129871号公報(特許文献4)、焼結磁石体を回転させながらスラリーを噴霧する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、一対の治具の間に焼結磁石体をセットして保持し、該治具を回転駆動して焼結磁石体を所定速度で回転させながらスラリーをスプレーするものであり、複数の焼結磁石体に塗布処理を行う場合には、通常、手作業で焼結磁石体を治具に取り付け、これを回転させ、スラリーをスプレーして塗布した後、回転を停止させて、手作業で塗布済みの磁石体を軸から取り外して回収し、次の磁石体を取り付けて同様の作業を繰り返すこととなり、非常に手間が掛かり量産方法としては全く不適である。
【0005】
このため、希土類化合物の粉末を分散したスラリーを均一かつ効率的に塗布することができ、しかも塗着量をコントロールして緻密な粉末の塗膜を密着性よく形成することができ、量産性にも優れる上、さらに省力化をも達成し得るようにスラリーを塗布する方策の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体表面に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に溶解したスラリーを塗布し乾燥させて該粉末を該焼結磁石体に塗布し、これを熱処理して希土類永久磁石を製造する際に、上記スラリーを均一かつ効率的に塗布して、粉末を均一かつ効率的に塗布することができ、しかも塗着量をコントロールして緻密な粉末の塗膜を密着性よく形成することができ、磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に得ることができる希土類磁石の製造方法、及びこの希土類磁石の製造方法に好適に用いられるスラリーの塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項1〜4の希土類磁石の製造方法を提供する。
請求項1:
R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し乾燥させて該粉末を該焼結磁石体に塗布し、これを熱処理してR
2を焼結磁石体に吸収させる希土類永久磁石の製造方法において、
上記焼結磁石体をコンベアで搬送して上記スラリー中を通過させることにより、該焼結磁石体を該スラリーに浸漬して焼結磁石体にスラリーを塗布すると共に、その浸漬中にコンベアベルトに設けられた挿通穴を通してコンベアベルト上に突出する複数の柱状ないし棒状の押上部材により、一時的にコンベアベルト上の焼結磁石体を押し上げて、該焼結磁石体とコンベアベルトとを一時的に乖離させることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
請求項2:
上記コンベアベルトが、メッシュベルトである請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
請求項3:
上記押上部材が、直径0.5〜5mmの小径ロッドである請求項1又は2記載の希土類磁石の製造方法。
請求項4:
上記スラリー中を通過して該スラリーが塗布された上記焼結磁石体をそのまま上記コンベアで搬送して、余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを順次通過させ、該焼結磁石体表面の余滴を除去し乾燥させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
【0009】
また本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項5〜10のスラリー塗布装置を提供する。
請求項5:
R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に分散したスラリーを塗布し乾燥させて該粉末を該焼結磁石体に塗布し、これを熱処理してR
2を焼結磁石体に吸収させ希土類永久磁石を製造する際に、上記スラリーを上記焼結磁石体に塗布する塗布装置であり、
上記スラリーを収容する塗工槽と、
複数の挿通穴が設けられたコンベアベルトを有し、該コンベアベルトの一部が上記塗工槽内のスラリー中を通過するように配設され、該コンベアベルト上に上記焼結磁石体を載置して搬送するコンベアと、
上記塗工槽内に配設され、上記コンベアベルトの下側で同期的に回転する押上ベルトと、
該押上ベルトに上下動可能に取り付けられ、上記コンベアベルトの下側で一時的に上昇し上記挿通穴を通して該コンベアベルト上に突出する複数の柱状ないし棒状の押上部材とを具備してなり、
上記コンベアのコンベアベルト上に上記焼結磁石体を載置して搬送し、該焼結磁石体を上記塗工槽中に浸漬されたスラリー中を通過させることにより、該焼結磁石体を該スラリーに浸漬して焼結磁石体にスラリーを塗布すると共に、その浸漬中に上記挿通穴を通してコンベアベルト上に突出する上記押上部材により、一時的にコンベアベルト上の焼結磁石体を押し上げて、該焼結磁石体とコンベアベルトとを一時的に乖離させるように構成したことを特徴とするスラリー塗布装置。
請求項6:
上記押上ベルトの下側に、上記押上部材の下端が摺動するカム面を有するカム部材が配設されており、上記押上部材がこのカム面により押し上げられて、上記コンベアベルトの挿通穴に進入し、コンベアベルト上に突出するように構成された請求項5記載のスラリー塗布装置。
請求項7:
上記押上ベルトが、上記挿通穴に進入した各押上部材を介して上記コンベアのコンベアベルトにより回転駆動されるように構成した請求項5又は6記載のスラリー塗布装置。
請求項8:
上記コンベアベルトが、メッシュベルトである請求項5〜7のいずれか1項に記載のスラリー塗布装置。
請求項9:
上記押上部材が、直径0.5〜5mmの小径ロッドである請求項5〜8のいずれか1項に記載のスラリー塗布装置。
請求項10:
上記押上ベルトに、複数の突起状ないし羽状の撹拌部を設け、押上ベルトの回転により該撹拌部でスラリーを撹拌するように構成された請求項5〜9のいずれか1項に記載のスラリー塗布装置。
【0010】
即ち、上記本発明の製造方法及び塗布装置は、コンベアで焼結磁石体を搬送して希土類化合物の粉末が分散したスラリー中を通過させることにより、該焼結磁石体表面にスラリーを浸漬塗布するものであり、その浸漬中に上記押上部材により焼結磁石体を押し上げて該焼結磁石体を一時的にコンベアベルトから乖離させて焼結磁石体の全面に確実かつ良好にスラリーを塗布するようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の焼結磁石体をコンベアにより搬送して連続的にスラリーを塗布することができるので、効率的にスラリー塗布を行って量産化にも好適に対応することができ、かつスラリーに焼結磁石体を浸漬して塗布を行う際に一時的に該焼結磁石体を持ち上げてコンベアベルトから乖離させた状態で浸漬塗布が行われるため、焼結磁石体の全面に確実にスラリーを塗布することができる。従って、本発明によれば、均一で緻密な粉末の塗膜を密着性よく形成することができ、しかも高効率で量産性にも優れるものである。
【0012】
そして、本発明の製造方法及び塗布装置によれば、このように希土類化合物の粉末を焼結磁石体全面に均一に焼結磁石体表面に塗布することができ、しかもその塗布操作を極めて効率的に行うことができるので、保磁力が良好に増大された磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に製造することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の希土類磁石の製造方法は、上記のとおり、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を溶媒に溶解したスラリーを塗布し乾燥させて該粉末を該焼結磁石体に塗布し、これを熱処理してR
2を焼結磁石体に吸収させ、希土類磁石を製造するものである。
【0015】
上記R
1−Fe−B系焼結磁石体は、公知の方法で得られたものを用いることができ、例えば常法に従ってR
1、Fe、Bを含有する母合金を粗粉砕、微粉砕、成形、焼結させることにより得ることができる。なお、R
1は上記のとおり、Y及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上で、具体的にはY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられる。
【0016】
本発明では、このR
1−Fe−B系焼結磁石体を、必要に応じて研削等によって所定形状に成形し、表面にR
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物、水素化物の1種又は2種以上を含有する粉末を塗布し、熱処理して焼結磁石体に吸収拡散(粒界拡散)させ、希土類磁石を得る。
【0017】
上記R
2は、上記のように、Y及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上であり、上記R
1と同様にY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが例示される。この場合、特に制限されるのではないが、R
2中の1又は複数に合計で10原子%以上、より好ましくは20原子%以上、特に40原子%以上のDy又はTbを含むことが好ましい。このようにR
2に10原子%以上のDy及び/又はTbが含まれ、かつR
2におけるNdとPrの合計濃度が前記R
1におけるNdとPrの合計濃度より低いことが本発明の目的からより好ましい。
【0018】
本発明において上記粉末の塗布は、該粉末を溶媒に分散したスラリーを調製し、このスラリーを焼結磁石体表面に塗布して乾燥させることにより行われる。この場合、粉末の粒径は、特に制限されるものではなく、吸収拡散(粒界拡散)に用いられる希土類化合物粉末として一般的な粒度とすることができ、具体的には、平均粒子径100μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。その下限は特に制限されないが1nm以上が好ましい。この平均粒子径は、例えばレーザー回折法などによる粒度分布測定装置等を用いて質量平均値D
50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)などとして求めることができる。なお、粉末を分散させる溶媒は水でも有機溶媒でもよく、有機溶媒としては、特に制限はないが、エタノール、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコール等が例示され、これらの中ではエタノールが好適に使用される。
【0019】
上記スラリー中の粉末の分散量に特に制限はないが、本発明においては、良好かつ効率的に粉末を塗着させるために分散量が質量分率1%以上、特に10%以上、更には20%以上のスラリーとすることが好ましい。なお、分散量が多すぎても均一な分散液が得られないなどの不都合が生じるため、上限は質量分率70%以下、特に60%以下、更には50%以下とすることが好ましい。
【0020】
本発明では、上記スラリーを焼結磁石体に塗布し乾燥させて粉末を焼結磁石体表面に塗布する方法として、コンベアで焼結磁石体を搬送して上記スラリー中を通過させることにより、該焼結磁石体をスラリーに浸漬して焼結磁石体にスラリーを塗布する方法が採用され、その浸漬の際に、本発明では、焼結磁石体を一時的に持ち上げてコンベアベルトから乖離させ、焼結磁石体の全面にスラリーを良好に塗布するようにしたものである。具体的には、
図1,2に示した塗布装置を用いてスラリーの塗布を行うことができる。
【0021】
即ち、
図1,2は、本発明の一実施例にかかるスラリー塗布装置を示す概略図であり、この塗布装置は、上記焼結磁石体1をコンベア2で搬送し、塗工槽3に収容された上記スラリー4中を通過させることにより、該焼結磁石体1をスラリー4に浸漬して該焼結磁石体1にスラリー4を塗布し、引き上げて更に次工程の余滴除去、乾燥へと更に搬送するものである。
【0022】
上記コンベア2は、コンベアベルト21(参照符号21はコンベア2を構成するコンベアベルトを指示する。)に上記焼結磁石体1を載置して図中矢印方向へと(
図1の左側から右側へと)搬送するものであり、該コンベアベルト21の一部が一旦斜めに下降して上記塗工槽3に収容された上記スラリー4中に進入し、該スラリー4中を水平方向に進行した後、斜めに上昇をしてスラリー4から退出するようになっている。即ち、このコンベア2で搬送される上記焼結磁石体は、その搬送途中で上記塗工槽3内のスラリー4中に浸漬され、スラリー4中を水平搬送された後、スラリー4から引き上げられ、更に次工程へと搬送されるようになっている。
【0023】
上記コンベア2を構成するコンベアベルト21には、多数の挿通穴22(
図2参照)が設けられており、この挿通穴22を通して後述する押上部材51の上端部がベルト上面から突出するようになっている。この挿通穴22は、コンベアベルト21の周方向に沿って等間隔ずつ離間して均等に形成され、この挿通穴22の列がコンベアベルト21や焼結磁石体の幅に応じて複数列(
図2では3列の例を示したが、2列又は4列以上であってもよい)形成されている。
【0024】
ここで、このコンベアベルト21は、上記焼結磁石体1を載置して安定的に搬送し得、かつ上記挿通穴22が形成されたものであればよく、通常の平ベルトを用いることもできるが、本発明では特にメッシュベルトを用いることが好ましい。メッシュベルトを用いることにより、ベルトと焼結磁石体1との接触部分を小さく(少なく)することができると共に、スラリー4の流通性も向上してより良好にスラリーを塗布することができる。
【0025】
上記塗工槽3内には、上記コンベアベルト21の下側に存して該コンベアベルト21と同期して図中矢印方向(
図1において時計回り方向)に回転する押上ベルト5が配設されており、該押上ベルト5上部の軌道が上記コンベアベルト21の水平搬送部分と平行した状態となっている。この押上ベルト5には、柱状ないし棒状の多数の押上部材51が上下動自在に取り付けられていると共に、この押上部材51はコンベアベルト21の上記挿通穴22に対応した配列とされている。これにより、上記コンベアベルト21の水平搬送部分と平行した上部軌道部分を移動中に上動することにより、上記挿通穴22に下側から進入し、コンベアベルト21の上面から突出するようになっている。
【0026】
なお、上記各押上部材51は、所定の範囲で上下し得るようになっており押上ベルト5から抜け落ちることのないように取り付けられている。例えば、押上部材51に設けた貫通穴に押上部材51を挿入し、この押上部材51に抜け落ち防止の突起を取り付けて、脱落を防止するようにしてもよく、また押上部材51を押上ベルト5に設けられた貫通穴に単に通しただけの状態とし、
図1に一点鎖線で示したように、抜け落ち防止板7を押上ベルト5に沿って配設して、押上部材51の脱落を防止するようにしてもよい。
【0027】
この押上ベルト5も上記押上部材51が取り付けられていればよく、通常の平ベルトやメッシュベルトを用いることができるが、上記コンベアベルト21の場合と同様にスラリーの流動性を考慮すればメッシュベルトとすることが好ましい。更に、上記コンベアベルト21との同期性を考慮すれば、コンベアベルト21と同質ものであることが好ましい。
【0028】
ここで、上記押上部材51の形状は、上述のように柱状ないし棒状のものであればよく、特に制限されるものではないが、通常は直径0.5〜5mm程度の小口径のロッド(棒状体)であることが好ましい。また、先端部を球状に形成したり、また先端部をテーパー処理して小径に形成することもできる。一方、この押上部材51が挿入される上記コンベアベルト21の挿通穴22は、押上部材51がスムーズに進入し得るように該押上部材51の外径よりも大きく形成することが好ましく、具体的には直径で0.05〜0.3mm程度大きくすることが好ましい。この挿通穴22が大きすぎると、押上部材51を垂直に保持することが困難になったり、突出状態で移動中の押上部材51に大きな揺れが発生して、後述する焼結磁石体1の押し上げの際に安定性が低下する場合がある。
【0029】
上記押上ベルト5の内側には、
図1に示されているように、上記コンベアベルト21の水平走行部分の下側に存して、上面がカム面61となったカム部材6が配設されている。このカム部材6の上面は、高さの低い略山形に形成されており、コンベアベルト21の搬送方向に沿って緩やかに上向傾斜し、所定範囲の水平部分を経て緩やかに下降傾斜するカム面61となっている。そして、
図1中の矢印方向に回転する押上ベルト5に取り付けられた上記各押上部材51の下端がこのカム面61上を摺動して押し上げられ、上記コンベアベルト21水平走行部分において該押上部材51の先端部がコンベアベルト21の挿通穴22に下側から進入して該コンベアベルト21から突出し、所定の高さまで突出した状態で一定の距離を移動した後、徐々に降下してコンベアベルト21の挿通穴22から下方へと退去するようになっている。このとき、コンベアベルト21の上面から突出した複数の上記押上部材51がスラリー4中で水平搬送されている上記焼結磁石体1を押し上げて所定時間コンベアベルト21の上面から所定時間だけ乖離させ、再びコンベアベルト21上に戻すようになっている。なお、上記カム面61の形状は種々変更しても差し支えなく、例えば比較的高さの低い略山形の膨出部を複数設けて上記押上部材51を複数回上下させることにより、上記焼結磁石体1を複数回押し上げるようにしてもよい。
【0030】
上記押上ベルト5は、上述のように、上記コンベアベルト21と同期して回転するものであるが、その回転駆動は、別途駆動機構を設けてこの押上ベルト5を駆動してもよいが、この押上ベルト5は押上部材51を介して上記コンベアベルト21と歯合した状態となっているので、このコンベアベルト21により押上ベルト5が回転駆動されるように構成することができる。これにより、押上ベルト5を正確にコンベアベルト21と同期させて回転駆動することができると共に、装置の省力化を図ることもできる。
【0031】
ここで、特に制限されるものではないが、上記押上ベルト5に羽状又は突起状の撹拌部を設け、押上ベルトの回転によりこの撹拌部で塗工槽3内のスラリー4を撹拌するようにすることができる。例えば、
図2に一点鎖線で示したように、上記押上部材51に対応して3個のロッド挿通孔53を形成した厚肉板状ないし長尺ブロック状の撹拌部材52を用意し、その各ロッド挿通孔53に上記各押上部材51を挿し通して、この撹拌部材52押上ベルト5の上面に保持させることにより、羽状ないし突起状の撹拌部を押上ベルト5に設けることができる。また、このように撹拌部材52を設けることにより、各押上部材51を効果的にサポートして押上部材51の垂直状態が良好に維持される効果も得られる。なお、特に図示していないが、この撹拌部材52と同様のものを押上ベルト5の下面側にも取り付けることができる。
【0032】
次に、このスラリー塗布装置を用いて上記焼結磁石体にスラリーを塗布する際の動作について説明する。
まず、上記コンベア2のコンベアベルト21上に上記焼結磁石体1を所定間隔で並べて載置し搬送する。各焼結磁石体1は連続的に搬送され、
図1のとおり、その搬送途中でコンベアベルト21と共に、塗工槽3に収容された上記スラリー4中を通過する。一方、塗工槽3内では、上記コンベアベルト21の搬送運動に駆動されて上記押上ベルト5が該コンベアベルト21と同期して回転し、この押上ベルト5に取り付けられた各押上部材51が上記カム部材6のカム面61の作用によって上記コンベアベルト21の水平搬送範囲におして、押し上げられ上記挿通穴22を通して該上記コンベアベルト21の上面に突出する。
【0033】
このとき、焼結磁石体1は、上記スラリー4中に浸漬された状態で水平搬送される際、コンベアベルト21上に突出する上記押上部材51により押し上げられ、所定範囲(所定時間)コンベアベルト2と乖離した状態で水平搬送され、再びコンベアベルト2上に戻された後、スラリー4から引き上げられ、コンベアベルト2により次工程へと搬送される。そして次工程では、必要に応じて余滴除去を行った後、乾燥処理によりスラリーの溶媒が除去されて上記粉末の塗膜が形成される。なお、余滴除去や乾燥処理は公知の手段により行えばよく、例えばコンベアベルト2の上下にノズルを配設して、空気の噴射により余滴除去を行い、次いで温風の噴射により乾燥を行うようにすることができる。
【0034】
このように、焼結磁石体1は、コンベア2により連続的に搬送され、その搬送途中でスラリー4に浸漬され、スラリーが塗布され、複数の焼結磁石体1に連続して自動的にスラリーを塗布することができ、効率的にスラリーの塗布作業を行うことができる。このとき、スラリー浸漬中に各焼結磁石体1が上記押上部材51により持ち上げられて一時的にコンベアベルト2と乖離した状態となるので、このとき焼結磁石体1の裏面のコンベアベルト2と接触していた部分にも良好にスラリー4が接触して塗布され、焼結磁石体1の全面に良好にスラリーを塗布することができる。また、回転する上記押上ベルト5に設けられた上記撹拌部材52により、塗工槽3内のスラリー4が常に撹拌され均一な状態が維持されるので、均一なスラリー塗布をより確実に行うことができ、これを乾燥させることにより、均一で緻密な粉末の塗膜を形成することができる。
【0035】
このように、本発明によれば、複数の焼結磁石体をコンベアにより搬送して連続的にスラリーを塗布することができるので、効率的にスラリー塗布を行って量産化にも好適に対応することができ、かつスラリーに焼結磁石体を浸漬して塗布を行う際に一時的に該焼結磁石体を持ち上げてコンベアベルトから乖離させた状態で浸漬塗布が行われるため、焼結磁石体の全面に確実にスラリーを塗布することができる。従って、本発明によれば、均一で緻密な粉末の塗膜を密着性よく形成することができ、しかも高効率で量産性にも優れるものである。
【0036】
このようにして希土類化合物の粉末の塗膜を形成した上記焼結磁石体に熱処理して上記R
2で示された希土類元素を吸収拡散させることにより、保磁力が良好に増大された磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に製造することができるものである。
【0037】
なお、上記R
2で示される希土類元素を吸収拡散させる上記熱処理は、公知の方法に従って行えばよい。また、上記熱処理後、適宜な条件で時効処理を施したり、更に実用形状に研削するなど、必要に応じて公知の後処理を施すこともできる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のより具体的な態様について実施例をもって詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
Ndが14.5原子%、Cuが0.2原子%、Bが6.2原子%、Alが1.0原子%、Siが1.0原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Al、Fe、Cuメタル、純度99.99質量%のSi、フェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するいわゆるストリップキャスト法により薄板状の合金とした。得られた合金を室温にて0.11MPaの水素化に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行ないながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩いにかけて、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0040】
上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルで粉末の重量中位粒径5μmに微粉砕した。得られたこの混合微粉末を窒素雰囲気下15kOeの磁界中で配向させながら、約1ton/cm
2の圧力でブロック状に成形した。この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1060℃で2時間焼結して磁石ブロックを得た。この磁石ブロックをダイヤモンドカッタ−を用いて全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄し乾燥させて、7mm(W)×20.5mm(L)×3mm(T:磁気異方性化した方向)の板状磁石体を得た。
【0041】
次いで、フッ化ディスプロシウムの粉末を質量分率40%で水と混合し、フッ化ディスプロシウムの粉末をよく分散させてスラリーを調製し、このスラリーで
図1,2に示されたスラリー塗布装置の塗工槽3を満たし、このスラリー塗布装置を用いて下記条件で上記板状磁石体にスラリー塗布を施した。このスラリーが塗布された板状磁石体に空気を噴射して余滴を除去し、更に60℃のドライエアーを送風して乾燥させた後に回収した。得られた200個の板状磁石体につき表面を観察してフッ化ディスプロシウム粉末の塗布状態を確認した。その結果、磁石体表面に塗布ムラを示す色ムラは確認されなかった。
【0042】
[塗布条件]
(コンベアベルト21)
幅200mmのコンベアベルト全面に5mmφの貫通穴(挿通穴22)を前後左右に7mm間隔で成形した。
(押上ベルト5)
コンベアベルトと同じベルトを用い、全ての貫通穴にロッド(押上部材51)を取り付けて用いた。この押上ベルト5上面と上記コンベアベルト21下面との距離は9mmとした。
(押上部材51)
押上ベルト5の全ての貫通穴に4.5mmφ×15mmのロッドを通し、押上ベルト5に沿って抜け落ち防止板7を配置して、脱落を防止した。
(押上ベルト5の駆動)
コンベアベルト21の駆動力により押上ベルト5を同期的に回転させた。
(搬送速度)
10mm/秒の速度で搬送し、スラリー中への浸漬時間は50秒、その内押上部材により持ち上げられた状態で搬送される時間が約30秒である。
(撹拌部材52)
高さ8mm、厚さ7mm、幅200mmの厚肉板状の撹拌部材52を上記押上部材51(ロッド)の3列に1列の割合で取り付けた。取り付け方法は、
図2に記載されているように、撹拌部材52に設けた3個の貫通穴(5.6mmφ)に上記押上部材51(ロッド)を挿通させることにより押上ベルト5の上面に保持させた。
【0043】
[実施例2]
実施例1の塗布装置から撹拌部材52を全て取り除いた以外は、実施例1と同じ方法で200個の上記板状磁石体にスラリー塗布を行ったところ、全ての磁石体表面に、塗布ムラを示す色ムラは見られなかった。
【0044】
[比較例]
実施例1の塗布装置から押上部材51を取り除いた以外は、実施例1と同じ方法で板状磁石体にスラリー塗布を行ったところ、7個に、コンベアベルトの穴形状と似た色ムラが確認された。また13個には、点状の色ムラが確認され、この色ムラはベルトコンベアと板状磁石体との接点に対応するものと思われる。