(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粒子状重合体と水溶性重合体との重量比が、粒子状重合体/水溶性重合体=99.0/1.0〜50.0/50.0である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を含む。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを含む。さらに、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを含む。また、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド及びメタクリルアミドを含む。
【0013】
さらに、ある物質が水溶性であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0重量%以上0.5重量%未満であることをいう。また、ある物質が非水溶性であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90重量%以上100重量%以下であることをいう。
【0014】
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される構造単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0015】
[1.リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物]
本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物(以下、適宜「バインダー組成物」ということがある。)は、粒子状重合体及び水溶性重合体を含む。
【0016】
〔1.1.粒子状重合体〕
粒子状重合体は、重合体の粒子である。粒子状重合体を含むことにより、通常は、以下のような利点を得られる。即ち、電極活物質層の結着性が向上し、撒回時、運搬時等の取扱い時にリチウムイオン二次電池用電極(以下、適宜「電極」ということがある。)にかかる機械的な力に対する強度を向上させることができる。また、電極活物質が電極活物質層から脱落し難くなることから、異物による短絡の危険性が小さくなる。さらに電極活物質層において電極活物質を安定して保持できるようになるので、サイクル特性及び高温保存特性等の耐久性を改善することができる。また、粒子状であることで、粒子状重合体は電極活物質に対して面ではなく点で結着しうる。このため、電極活物質の表面の大部分は重合体で覆われないので、電解液と電極活物質との間でイオンのやり取りをする場の広さを広くできる。したがって、内部抵抗を下げて、リチウムイオン二次電池の出力特性を改善できる。
【0017】
粒子状重合体を構成する重合体としては、様々な重合体を用いうるが、通常は、非水溶性の重合体を用いる。粒子状重合体を形成する重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いてもよい。
【0018】
さらに、以下に例示する軟質重合体の粒子を、粒子状重合体として使用してもよい。軟質重合体としては、例えば、
(i)ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル系軟質重合体;
(ii)ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などのイソブチレン系軟質重合体;
(iii)ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などのジエン系軟質重合体;
(iv)ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;
(v)液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;
(vi)ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;
(vii)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;
(viii)フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;
(ix)天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体;などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、変性により官能基を導入したものであってもよい。これらの中でも、アクリル系軟質重合体及びジエン系軟質重合体が好ましい。
【0019】
アクリル系軟質重合体は、アクリル酸又はメタクリル酸の誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体であり、中でも(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。ただし、(メタ)アクリル酸エステル単量体の中でもフッ素を含有するものは、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として(メタ)アクリル酸エステル単量体とは区別する。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0021】
アクリル系軟質重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上であり、好ましくは99重量%以下、より好ましくは98重量%以下、特に好ましくは97重量%以下である。
【0022】
また、アクリル系軟質重合体としては、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を組み合わせて含む共重合体が好ましい。(メタ)アクリロニトリル単量体単位とは、(メタ)アクリロニトリルを重合して形成される構造を有する構造単位のことを意味する。(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを組み合わせて含むアクリル系軟質重合体は、酸化還元に安定であるので、高寿命の電池を得やすい。
【0023】
アクリル系軟質重合体は、(メタ)アクリロニトリル単量体単位として、アクリロニトリルを重合して形成される構造を有する構造単位だけを含んでいてもよく、メタクリロニトリルを重合して形成される構造を有する構造単位だけを含んでいてもよく、アクリロニトリルを重合して形成される構造を有する構造単位とメタクリロニトリルを重合して形成される構造を有する構造単位の両方を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0024】
アクリル系軟質重合体が(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを組み合わせて含む場合、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に対する(メタ)アクリロニトリル単量体単位の重量比(「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比)は、所定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の重量比は、1/99以上が好ましく、2/98以上がより好ましく、また、30/70以下が好ましく、25/75以下がより好ましい。前記重量比を前記範囲の下限値以上にすることにより、粒子状重合体が電解液に膨潤することにより電極の抵抗が大きくなることを防止し、リチウムイオン二次電池のレート特性の低下を抑制できる。
【0025】
また、アクリル系軟質重合体は、架橋性単量体単位を含んでいてもよい。架橋性単量体単位とは、架橋性単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。架橋性単量体とは、加熱又はエネルギー線の照射により、重合中又は重合後に架橋構造を形成しうる単量体である。アクリル系軟質重合体が架橋性単量体単位を含むことにより、粒子状重合体同士を架橋させたり、水溶性重合体と粒子状重合体とを架橋させたりできる。
【0026】
架橋性単量体の例としては、1分子あたり2以上の反応性基を有する単量体を挙げることができる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0027】
単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、N−メチロールアミド基及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0028】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエン等のジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン等のアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル等の不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;などが挙げられる。
【0029】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンなどが挙げられる。
【0030】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0031】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0032】
2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0033】
中でも特に、架橋性単量体としては、N−メチロールアクリルアミド、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、及びエチレングリコールジメタクリレートが好ましく、エチレンジメタクリレート及びグリシジルメタクリレートがより好ましい。また、架橋性単量体及び架橋性単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
架橋性単量体単位は、架橋性単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と共重合することにより、アクリル系軟質重合体に導入してもよい。また、架橋性単量体単位は、架橋性基を有する化合物(架橋剤)を用いた慣用の変性手段によりアクリル系軟質重合体に架橋性基を導入することによって、アクリル系軟質重合体に導入してもよい。
【0035】
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、熱又は光により効果を発揮する架橋剤、などが用いられる。また、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
架橋剤の中でも、熱架橋性の架橋性基を含有する点で、有機過酸化物、および熱により架橋反応を生じうる架橋剤が好ましい。
【0036】
アクリル系軟質重合体における架橋性単量体単位の割合は、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。
【0037】
また、アクリル系軟質重合体は、上述した(メタ)アクリロニトリル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位および架橋性基単量体単位以外にも、任意の構造単位を含みうる。これらの任意の構造単位に対応する単量体の例を挙げると、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアミド系単量体;などが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、上述したような(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を組み合わせて含むことによる利点を顕著に発揮する観点からは、任意の構造単位の量は少ないことが好ましく、任意の構造単位を含まないことが特に好ましい。
【0038】
ジエン系軟質重合体は、脂肪族共役ジエン単量体単位を含む重合体である。また、脂肪族共役ジエン単量体単位は、脂肪族共役ジエン単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。
【0039】
脂肪族共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン;直鎖において共役二重結合を有するペンタジエン並びにその置換体;並びに、側鎖において共役二重結合を有するヘキサジエン並びにその置換体;などが挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。また、脂肪族共役ジエン単量体及び脂肪族共役ジエン単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ジエン系軟質重合体において、脂肪族共役ジエン単量体単位の割合は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、特に好ましくは55重量%以下である。
【0041】
また、ジエン系軟質重合体は、芳香族ビニル単量体単位を含むことが好ましい。芳香族ビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。
【0042】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。ジエン系軟質重合体は、脂肪族共役ジエン単量体単位及び芳香族ビニル単量体単位の両方を含む重合体であることが好ましく、例えばスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。また、芳香族ビニル単量体及び芳香族ビニル単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
ジエン系軟質重合体の製造に脂肪族共役ジエン単量体及び芳香族ビニル単量体を組み合わせて用いる場合、得られるジエン系軟質重合体には、残留単量体として未反応の脂肪族共役ジエン単量体及び未反応の芳香族ビニル単量体が含まれることがある。その場合、ジエン系軟質重合体が含む未反応の脂肪族共役ジエン単量体の量は、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、理想的には0ppmである。また、ジエン系軟質重合体が含む未反応の芳香族ビニル単量体の量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは200ppm以下であり、理想的には0ppmである。
【0044】
ジエン系軟質重合体における芳香族ビニル単量体単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上であり、好ましくは79.5重量%以下、より好ましくは69重量%以下である。
【0045】
ジエン系軟質重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外にも任意の構造単位を含んでいてもよい。前記の任意の構造単位に対応する単量体の例としては、シアン化ビニル単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、及びα−エチルアクリロニトリルが挙げられる。中でも、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルが好ましい。
【0047】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。中でも、メチルメタクリレートが好ましい。
【0048】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、例えば、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、及び2−ヒドロキシエチルメチルフマレートが挙げられる。中でも、β−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0049】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、及びN,N−ジメチルアクリルアミドが挙げられる。中でも、アクリルアミド、及びメタクリルアミドが好ましい。
【0050】
さらに、ジエン系軟質重合体は、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を含んでもよい。
【0051】
さらに、粒子状重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含むことが好ましい。中でも、粒子状重合体としてジエン系軟質重合体を用いる場合に、当該ジエン系軟質重合体がエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含むことが、特に好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。粒子状重合体がエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含むことにより、通常は、以下のような利点が得られる。即ち、エチレン性不飽和カルボン酸単量体はカルボキシ基(−COOH基)を有するので、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いることにより、粒子状重合体は高い極性を有することになる。これにより、粒子状重合体の結着性を更に高めることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は機械的強度が強いので、粒子状重合体の強度を強くして、集電体に対する電極活物質層の結着性を高めることができる。そのため、例えば、集電体からの電極活物質層の剥離を安定して防止でき、また、電極活物質層の機械的強度を向上させることができる。また、カルボキシ基が有する極性により、粒子状重合体の水に対する親和性を高めることができるので、水等の溶媒中において粒子状重合体を安定に分散させて、バインダー組成物及びリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物(以下、適宜「スラリー組成物」ということがある。)の安定性を向上させることができる。さらに、カルボキシ基が有する極性により、粒子状重合体の極性溶媒に対する親和性が向上するので、粒子状重合体の電解液に対する濡れ性を改善することができる。
【0052】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が挙げられる。不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸等が挙げられる。不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、及びβ−ジアミノアクリル酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等の置換マレイン酸;マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステル;などが挙げられる。これらの中でも、バインダー組成物における粒子状重合体の安定性を向上させるという観点から、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸、並びにマレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸がより好ましく、イタコン酸が特に好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
粒子状重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは1.5重量%以上、特に好ましくは2重量%以上であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、更に好ましくは7重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、集電体と電極活物質層との結着性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高めることができる。
【0054】
また、粒子状重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0055】
粒子状重合体を構成する重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。粒子状重合体を構成する重合体の重量平均分子量を上記範囲に収めることにより、電極の強度及び電極活物質の分散性を良好にし易い。ここで、粒子状重合体を構成する重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、テトラヒドロフランを移動液としたポリスチレン換算の値として求めうる。
【0056】
粒子状重合体のガラス転移温度は、好ましくは−75℃以上、より好ましくは−55℃以上、特に好ましくは−35℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらにより好ましくは20℃以下、特に好ましくは15℃以下である。粒子状重合体のガラス転移温度を上記範囲に収めることにより、電極の柔軟性及び捲回性、並びに電極活物質層と集電体との結着性などの特性が高度にバランスされ、好適である。粒子状重合体のガラス転移温度は、例えば、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0057】
粒子状重合体の体積平均粒子径D50は、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。粒子状重合体の体積平均粒子径D50を上記範囲に収めることにより、電極の強度及び柔軟性を良好にできる。ここで、体積平均粒子径は、レーザー回折法で測定された粒子径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径である。
【0058】
粒子状重合体の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの、いずれの方法を用いてもよい。中でも、水中で重合をすることができ、そのまま本発明のバインダー組成物の材料として使用できるので、乳化重合法および懸濁重合法が好ましい。また、粒子状重合体を製造する際、その反応系には分散剤を含ませることが好ましい。粒子状重合体は、通常、実質的にそれを構成する重合体からなるが、重合に際して添加した添加剤等の任意の成分を同伴していてもよい。
【0059】
〔1.2.水溶性重合体〕
本発明のバインダー組成物は、水溶性重合体を含む。この水溶性重合体は、電極活物質層において電極活物質同士の間並びに電極活物質と集電体との間に介在することにより、電極活物質及び集電体を結着する作用を奏しうる。また、水溶性重合体、電極活物質及び水を含むスラリー組成物においては、水溶性重合体の一部は水中に遊離しているが、別の一部は電極活物質の表面に吸着して電極活物質を覆う安定した層を形成して、電極活物質の分散性を高める作用を奏しうる。さらに、水溶性重合体は、通常、電極活物質層においても電極活物質を覆う安定した層を形成し、電解液の分解を抑制する作用を奏する。
【0060】
水溶性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含む。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を用いることによって水溶性重合体の極性を高めることができ、それにより水溶性重合体に水溶性を発現させることができる。また、通常、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いることにより、水溶性重合体の集電体及び電極活物質への結着性を高めることが可能である。
【0061】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、粒子状重合体の説明の項において例示したものと同様の例が挙げられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸が特に好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0062】
水溶性重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上であり、通常85重量%以下、好ましくは80重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、集電体及び電極活物質に対する水溶性重合体の結着性を高めることができるので、集電体と電極活物質層との結着性を高めることが可能である。また、上限値以下にすることにより、電池のサイクル特性を良好にできる。
【0063】
水溶性重合体は、前記のエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位と組み合わせて、カルボン酸アミド単量体単位を含む。ここで、カルボン酸アミド単量体単位とは、カルボン酸アミド単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。また、カルボン酸アミド単量体とは、カルボン酸基と結合したアミド基を有する単量体であり、アミド化合物だけでなく、イミド化合物も含む。水溶性重合体がカルボン酸アミド単量体単位を含むことにより、リチウムイオン二次電池においてガスの発生を防止できる。このようにガスの発生を抑制できる理由は必ずしも定かではないが、カルボン酸アミド単量体単位を含む水溶性重合体が電解液中のハロゲン化物イオンをトラップすることにより、ハロゲン化物イオンを原因としたガスの発生を抑制できるものと推察される。
【0064】
カルボン酸アミド単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、α−クロロアクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、クロトン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の、不飽和カルボン酸アミド化合物;N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−2−アミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−3−アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−3−メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の、不飽和カルボン酸アミドのN−アミノアルキル誘導体;などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが好ましく、(メタ)アクリルアミドがより好ましい。また、カルボン酸アミド単量体及びカルボン酸アミド単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
水溶性重合体におけるカルボン酸アミド単量体単位の割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。カルボン酸アミド単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、リチウムイオン二次電池においてガスの発生を抑制することができる。また、上限値以下にすることにより、水溶性重合体が電解液に溶出することを防止できるので、電極活物質の表面に層を形成して電解液の分解を抑制する作用;ハロゲン化物イオンをトラップしてガスの発生を抑制する作用;電極活物質同士を結着させる作用などの、水溶性重合体による作用を安定して発揮させることが可能となる。
【0066】
水溶性重合体は、前記のエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及びカルボン酸アミド単量体単位と組み合わせて、架橋性単量体単位を含む。水溶性重合体が架橋性単量体単位を含むことにより、水溶性重合体を架橋させることができるので、電極活物質層の強度及び安定性を高めることができる。これにより、電極活物質の表面に層を形成して電解液の分解を抑制する作用;ハロゲン化物イオンをトラップしてガスの発生を抑制する作用;電極活物質同士を結着させる作用などの、水溶性重合体による作用を安定して発揮させることが可能となる。さらに、通常は、電解液による電極活物質層の膨潤を抑制できるので、リチウムイオン二次電池の低温特性を良好にできる。
【0067】
架橋性単量体としては、重合した際に架橋構造を形成しうる単量体を用いうる。架橋性単量体の例としては、粒子状重合体の説明の項において例示したものと同様の例が挙げられる。
【0068】
中でも特に、架橋性単量体としては、N−メチロールアクリルアミド、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、及びエチレングリコールジメタクリレートが好ましく、エチレンジメタクリレート及びグリシジルメタクリレートがより好ましい。
また、架橋性単量体及び架橋性単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
水溶性重合体における架橋性単量体単位の割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、通常2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下である。架橋性単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、電極活物質層と集電体との結着性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、電極の耐久性を高めることできる。
【0070】
水溶性重合体は、フッ素含有単量体単位を含むことが好ましい。フッ素含有単量体単位とは、フッ素含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。フッ素含有単量体単位は、通常、高いイオン伝導性を有するので、水溶性重合体のイオン伝導性を高めて電極の抵抗を小さくすることができる。
【0071】
フッ素含有単量体としては、例えば、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、フッ素含有芳香族ジエン単量体などが挙げられ、中でもフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。
【0072】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、下記の式(I)で表される単量体が挙げられる。
【0074】
前記の式(I)において、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。
前記の式(I)において、R
2は、フッ素原子を含有する炭化水素基を表す。炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上であり、好ましくは18以下である。また、R
2が含有するフッ素原子の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。
【0075】
式(I)で表されるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、(メタ)アクリル酸フッ化アルキル、(メタ)アクリル酸フッ化アリール、及び(メタ)アクリル酸フッ化アラルキルが挙げられる。なかでも(メタ)アクリル酸フッ化アルキルが好ましい。このような単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル;(メタ)アクリル酸β−(パーフルオロオクチル)エチル;(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル;(メタ)アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル;(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル;(メタ)アクリル酸1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル、(メタ)アクリル酸1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステルなどが挙げられる。
また、フッ素含有単量体及びフッ素含有単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0076】
水溶性重合体におけるフッ素含有単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。フッ素含有単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、集電体と電極活物質層との結着性を高めることができる。
【0077】
水溶性重合体は、反応性界面活性剤単位を含んでいてもよい。反応性界面活性剤単位は、反応性界面活性剤を重合して形成される構造を有する構造単位である。反応性界面活性剤単位は、水溶性重合体の一部を構成し、且つ界面活性剤として機能しうる。
【0078】
反応性界面活性剤は、他の単量体と共重合できる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(親水性基及び疎水性基)を有する単量体である。通常、反応性界面活性剤は重合性不飽和基を有し、この基が重合後に疎水性基としても作用する。反応性界面活性剤が有する重合性不飽和基の例としては、ビニル基、アリル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。この重合性不飽和基の種類は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
反応性界面活性剤は、親水性を発現する部分として、通常は親水性基を有する。反応性界面活性剤は、親水性基の種類により、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に分類される。
【0080】
アニオン系の親水性基の例としては、−SO
3M、−COOM、及び−PO(OH)
2が挙げられる。ここでMは、水素原子又はカチオンを示す。カチオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンのアンモニウムイオン;並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンのアンモニウムイオン;などが挙げられる。
カチオン系の親水性基の例としては、−NH
2HXなどの第1級アミン塩、−NHCH
3HXなどの第2級アミン塩、−N(CH
3)
2HXなどの第3級アミン塩、−N
+(CH
3)
3X
−などの第4級アミン塩、などが挙げられる。ここでXは、ハロゲン基を表す。
ノニオン系の親水性基の例としては、−OHが挙げられる。
【0081】
好適な反応性界面活性剤の例としては、下記の式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0083】
式(II)において、Rは2価の結合基を表す。Rの例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基が挙げられる。
式(II)において、R
3は親水性基を表す。R
3の例としては、−SO
3NH
4が挙げられる。
式(II)において、nは1以上100以下の整数を表す。
【0084】
好適な反応性界面活性剤の別の例としては、エチレンオキシドを重合して形成される構造を有する構造単位及びブチレンオキシドを重合して形成される構造を有する構造単位を有し、さらに末端に、末端二重結合を有するアルケニル基及び−SO
3NH
4を有する化合物を挙げることができる。このような反応性界面活性剤の具体例としては、花王株式会社製の商品名「ラテムルPD−104」及び「ラテムルPD−105」が挙げられる。
反応性界面活性剤及び反応性界面活性剤単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0085】
水溶性重合体における反応性界面活性剤単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、また、好ましくは5重量%以下、より好ましくは4重量%以下、特に好ましくは2重量%以下である。反応性界面活性剤単位の割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、バインダー組成物及びスラリー組成物の分散性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより、電極の耐久性を向上させることができる。
【0086】
水溶性重合体は、上述したエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、カルボン酸アミド単量体単位、架橋性単量体単位、フッ素含有単量体単位及び反応性界面活性剤単位以外に、任意の構造単位を含みうる。
例えば、水溶性重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含みうる。
【0087】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、粒子状重合体の説明の項において例示したものと同様の例が挙げられるが、これらの中でも、柔軟性と溶解性の観点から、エチルアクリレート、n―ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0088】
水溶性重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上、特に好ましくは35重量%以上であり、また、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下、特に好ましくは65重量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の量を上記範囲の下限値以上にすることにより、電極活物質層の集電体への結着性を高くすることができる。また、上限値以下にすることにより、電極の柔軟性を高めることができる。
【0089】
水溶性重合体が有しうる任意の構造単位のさらなる例としては、下記の単量体を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。即ち、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン単量体;並びにN−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体;の1以上を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0090】
水溶性重合体の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下である。水溶性重合体の重量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、集電体と電極活物質層との密着性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高めることができる。ここで、水溶性重合体の重量平均分子量は、GPCによって、ジメチルホルムアミドの10体積%水溶液に0.85g/mLの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を移動液としてポリスチレン換算の値として求めうる。
【0091】
粒子状重合体と水溶性重合体との重量比は、粒子状重合体/水溶性重合体で、好ましくは50.0/50.0以上、より好ましくは55.0/45.0以上、特に好ましくは60.0/40.0以上であり、好ましくは99.0/1.0以下、より好ましくは98.0/2.0以下、特に好ましくは97.0/3.0以下である。重量比を前記範囲の下限値以上にすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、電極活物質層と集電体との結着性を高めることができる。
【0092】
水溶性重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して、製造しうる。この際、単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、水溶性重合体における構造単位の比率と同様にする。
【0093】
水系溶媒としては、水溶性重合体の分散が可能なものを用いうる。通常、常圧における沸点が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、且つ、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下の水系溶媒から選ばれる。以下、その水系溶媒の例を挙げる。以下の例示において、溶媒名の後のカッコ内の数字は常圧での沸点(単位℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てられた値である。
水系溶媒の例としては、水(100);ダイアセトンアルコール(169)、γ−ブチロラクトン(204)等のケトン類;エチルアルコール(78)、イソプロピルアルコール(82)、ノルマルプロピルアルコール(97)等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル(120)、メチルセロソルブ(124)、エチルセロソルブ(136)、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル(152)、ブチルセロソルブ(171)、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(174)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(150)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(230)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(271)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188)等のグリコールエーテル類;並びに1,3−ジオキソラン(75)、1,4−ジオキソラン(101)、テトラヒドロフラン(66)等のエーテル類が挙げられる。中でも水は可燃性がなく、重合体の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。また、主溶媒として水を使用して、重合体の分散状態が確保可能な範囲において上記記載の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0094】
単量体成分の重合形態としては、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いうる。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのままバインダー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点から、中でも乳化重合法が特に好ましい。
単量体成分の重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いうる。これらの重合方法の中でも、重合効率に優れることから、ラジカル重合が好ましい。
【0095】
乳化重合法は、通常は常法により行う。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法で行う。すなわち、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に、水と、分散剤、乳化剤、架橋剤などの添加剤と、重合開始剤と、単量体とを所定の組成になるように加え、容器中の組成物を攪拌して単量体等を水に乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。あるいは、上記組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ、同様に反応を開始させる方法である。
【0096】
重合開始剤の例としては、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;α,α’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム;並びに過硫酸カリウムが挙げられる。重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0097】
乳化剤、分散剤、重合開始剤などの添加剤は、これらの重合法において一般的に用いられるものであり、通常はその使用量も一般に使用される量とする。
【0098】
重合温度および重合時間は、重合方法及び重合開始剤の種類などにより任意に選択しうる。通常、重合温度は約30℃以上、重合時間は0.5時間〜30時間程度である。
また、アミンなどの添加剤を重合助剤として用いてもよい。
【0099】
重合により、通常は水溶性重合体を含む反応液が得られる。得られた反応液は通常は酸性であり、水溶性重合体は水系溶媒に分散していることが多い。このように水溶性溶媒に分散した水溶性重合体は、通常、その反応液のpHを、例えば7〜13に調整にすることにより、水系溶媒に可溶にできる。こうして得られた反応液から水溶性重合体を取り出してもよい。しかし、通常は、水系媒体として水を用い、この水に溶解した状態の水溶性重合体を用いて本発明のバインダー組成物を製造する。
【0100】
反応液をpH7〜pH13にアルカリ化する方法としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を混合する方法が挙げられる。前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0101】
〔1.3.溶媒〕
本発明のバインダー組成物は、通常、溶媒を含む。溶媒としては、通常は、水を用いる。本発明のバインダー組成物において、粒子状重合体は水に分散しており、また、水溶性重合体は水に溶解している。
【0102】
また、溶媒として、水以外の溶媒を水とを組み合わせて用いてもよい。例えば、水溶性重合体を溶解しうる液体を水と組み合わせると、水溶性重合体が電極活物質の表面に吸着することにより、電極活物質の分散が安定化するので、好ましい。
【0103】
水と組み合わせる液体の種類は、乾燥速度や環境上の観点から選択することが好ましい。好ましい例を挙げると、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;などが挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン(NMP)が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0104】
溶媒の量は、バインダー組成物の製造、及びバインダー組成物を用いたスラリー組成物の製造に適した濃度及び粘度になるよう、適宜、調整しうる。具体的には、バインダー組成物の全量中に占める固形分の濃度が、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上となり、好ましくは60重量%以下、より好ましくは55重量%以下、特に好ましくは50重量%以下となる量に設定しうる。ここで、バインダー組成物の固形分とは、バインダー組成物の乾燥を経て残留する物質をいう。
【0105】
〔1.4.任意の成分〕
本発明のバインダー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した粒子状重合体、水溶性重合体及び溶媒以外の任意の成分を含みうる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0106】
〔1.5.バインダー組成物の製造方法〕
本発明のバインダー組成物の製造方法に制限は無い。例えば、本発明のバインダー組成物は、上述した粒子状重合体、水溶性重合体及び溶媒を任意の順序で混合することにより製造しうる。
【0107】
粒子状重合体を水分散体の状態で使用したり、水溶性重合体を水溶液の状態で使用したりする場合、これらの水分散体及び水溶液と別に水を混合してもよく、これらの水分散体及び水溶液と別に水を混合しなくてもよい。通常は、これらの水分散体及び水溶液とは別に水を混合して、バインダー組成物の固形分濃度が所望の範囲に収まるように調整を行う。
【0108】
混合を行うための機器の例としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ロールミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。
【0109】
[2.リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物]
本発明のスラリー組成物は、本発明のバインダー組成物及び電極活物質を含む。
【0110】
〔2.1.電極活物質〕
電極活物質のうち、正極用の電極活物質(以下、適宜「正極活物質」ということがある。)としては、通常、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質が用いられる。このような正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0111】
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
【0112】
遷移金属酸化物としては、例えば、MnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等が挙げられ、中でもサイクル安定性と容量からMnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2が好ましい。
【0113】
遷移金属硫化物としては、例えば、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeS等が挙げられる。
【0114】
リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0115】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LCO:LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物(NMC:LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2等)、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物(NCA:Li[Ni−Co−Al]O
2等)等が挙げられる。
【0116】
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LMO:LiMn
2O
4)、又は、マンガン酸リチウムのMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn
3/2M
11/2]O
4(ここでM
1は、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
【0117】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、Li
XM
2PO
4(式中、M
2は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、Xは0≦X≦2を満たす数を表す。例えば、LFP:LiFePO
4等)で表されるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0118】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子化合物が挙げられる。
【0119】
また、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
【0120】
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
また、上記の無機化合物と有機化合物の混合物を正極活物質として用いてもよい。
正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0121】
正極活物質の特に好ましい例としては、LCO、LMO、NMC及びNCAを挙げることができる。
【0122】
正極活物質の粒子の体積平均粒子径D50は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。正極活物質の粒子の体積平均粒子径を上記範囲にすることにより、正極活物質層におけるバインダーの量を少なくすることができ、リチウムイオン二次電池の容量の低下を抑制できる。また、スラリー組成物の粘度を塗布し易い適正な粘度に調整することが容易になり、均一な正極を得ることができる。
【0123】
正極活物質の量は、電極活物質層における正極活物質の割合で、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であり、また、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。正極活物質の量を上記範囲とすることにより、リチウムイオン二次電池の容量を高くでき、また、正極の柔軟性並びに集電体と正極活物質層との結着性を向上させることができる。
【0124】
電極活物質のうち、負極用の電極活物質(以下、適宜「負極活物質」ということがある。)は、負極において電子の受け渡しをする物質である。負極活物質として、通常は、リチウムイオンを吸蔵及び放出が可能な物質が用いられる。
好適な負極活物質を挙げると、例えば、炭素が挙げられる。炭素としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック等が挙げられ、中でも天然黒鉛を用いることが好ましい。
【0125】
また、負極活物質としては、スズ、ケイ素、ゲルマニウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む負極活物質を用いることが好ましい。これらの元素を含む負極活物質は、不可逆容量が小さい。この中でも、ケイ素を含む負極活物質が好ましい。ケイ素を含む負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池の電気容量を大きくすることが可能となる。
【0126】
負極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。したがって、前記の負極活物質のうち、2種類以上を組み合わせて用いてよい。中でも、炭素と、金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方とを組み合わせて含む負極活物質を用いることが好ましい。炭素と、金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方とを組み合わせて含む負極活物質においては、高電位で金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方へのLiの挿入及び脱離が起こり、低電位で炭素へのLiの挿入及び脱離が起こると推測される。このため、膨張及び収縮が抑制されるので、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0127】
ケイ素系活物質としては、例えば、SiO、SiO
2、SiO
x(0.01≦x<2)、SiC、SiOC等が挙げられ、SiO
x、SiC及びSiOCが好ましい。中でも、負極活物質自体の膨らみが抑制される点から、ケイ素系活物質としてSiO
xを用いることが特に好ましい。SiO
xは、SiO及びSiO
2の一方又は両方と金属ケイ素とを原料として形成される化合物である。このSiO
xは、例えば、SiO
2と金属ケイ素との混合物を加熱して生成した一酸化ケイ素ガスを、冷却及び析出させることにより、製造しうる。
【0128】
炭素と金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方とを組み合わせて用いる場合、金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方は導電性カーボンと複合化されていることが好ましい。導電性カーボンとの複合化により、負極活物質自体の膨らみを抑制することができる。
複合化の方法としては、例えば、金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方をカーボンによりコーティングすることにより複合化する方法;導電性カーボンと金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方とを含む混合物を造粒することにより複合化する方法;等が挙げられる。
【0129】
金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方をカーボンによりコーティングする方法としては、例えば、金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方に熱処理を施して不均化する方法;金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方に熱処理を施して化学蒸着する方法;等が挙げられる。
【0130】
負極活物質の粒子の体積平均粒子径D50は、リチウムイオン二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択され、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0131】
負極活物質の比表面積は、出力密度向上の観点から、好ましくは2m
2/g以上、より好ましくは3m
2/g以上、さらに好ましくは5m
2/g以上であり、また、好ましくは20m
2/g以下、より好ましくは15m
2/g以下、さらに好ましくは10m
2/g以下である。負極活物質の比表面積は、例えばBET法により測定しうる。
【0132】
負極活物質の量は、電極活物質層における負極活物質の割合で、好ましくは85重量%以上、より好ましくは88重量%以上であり、また、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。負極活物質の量を上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも優れた柔軟性及び結着性を示す負極を実現できる。
【0133】
〔2.2.スラリー組成物におけるバインダー組成物の割合〕
スラリー組成物が含むバインダー組成物の割合は、得られる電池の性能が良好に発現されるよう適宜調整することが好ましい。例えば、電極活物質100重量部に対するバインダー組成物の固形分の割合を、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、特に好ましくは1重量部以上、また、好ましくは10重量部以下、より好ましくは8重量部以下、特に好ましくは5重量部以下にする。
【0134】
〔2.3.任意の成分〕
スラリー組成物は、上述した電極活物質及びバインダー組成物以外に、任意の成分を含みうる。
例えば、スラリー組成物は、カルボキシメチルセルロース塩を含むことが好ましい。カルボキシメチルセルロース塩はスラリー組成物において増粘剤として作用する。そのため、カルボキシメチルセルロース塩により、スラリー組成物の粘度を高めることができるので、スラリー組成物の塗布性を良好にすることができる。また、カルボキシメチルセルロース塩により、通常は、スラリー組成物における電極活物質等の粒子の分散安定性を高めたり、電極活物質層と集電体との結着性を高めたりすることができる。カルボキシメチルセルロース塩としては、例えば、ナトリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。また、カルボキシメチルセルロース塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0135】
カルボキシメチルセルロース塩の量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上、特に好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。カルボキシメチルセルロース塩の量を前記範囲に収めることにより、スラリー組成物における粒子の分散性を更に良好にして、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を効果的に改善することができる。
【0136】
また、例えば、スラリー組成物は、バインダー組成物が含む溶媒に加えて、さらに追加的に水等の溶媒を含みうる。溶媒の量は、スラリー組成物の粘度が塗布に好適な粘度になるように調整することが好ましい。具体的には、スラリー組成物の固形分の濃度が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは65重量%以下となる量に調整して用いられる。ここで、スラリー組成物の固形分とは、スラリー組成物の乾燥を経て電極活物質層の構成成分として残留する物質をいう。
【0137】
また、例えば、スラリー組成物は、導電材を含みうる。導電材は、電極活物質同士の電気的接触を向上させうる成分である。導電材を含むことにより、リチウムイオン二次電池の放電レート特性を改善することができる。
導電材としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンなどが挙げられる。中でも、リチウムイオン二次電池の低温出力特性と寿命特性とのバランスが良いので、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック及びケッチェンブラックが好ましく、アセチレンブラック及びケッチェンブラックが特に好ましい。また、導電材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0138】
導電材の比表面積は、好ましくは50m
2/g以上、より好ましくは60m
2/g以上、特に好ましくは70m
2/g以上であり、好ましくは1500m
2/g以下、より好ましくは1200m
2/g以下、特に好ましくは1000m
2/g以下である。導電材の比表面積を前記範囲の下限値以上にすることにより、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、電極活物質層と集電体との結着性を高めることができる。
【0139】
導電材の量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、さらに好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは8重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下である。導電材の量を前記下限値以上にすることにより、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、電極活物質層と集電体との結着性を高めることができる。
【0140】
また、例えば、スラリー組成物は、補強材を含みうる。補強材を用いることにより、強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を得ることができる。補強材としては、例えば、各種の無機及び有機の球状、板状、棒状又は繊維状のフィラーが挙げられる。また、補強剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0141】
補強剤の量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。補強材の量を前記範囲にすることにより、リチウムイオン二次電池において高い容量と高い負荷特性を得ることができる。
【0142】
また、例えば、スラリー組成物は、電解液添加剤を含みうる。電解液添加剤を用いることにより、例えば電解液の分解を抑制することができる。電解液添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。電解液添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0143】
電解液添加剤の量は、電極活物質の量100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜10重量部である。電解液添加剤の量を上記範囲にすることにより、サイクル特性及び高温特性に優れた二次電池を実現できる。
【0144】
また、例えば、スラリー組成物は、フュームドシリカ及びフュームドアルミナなどのナノ微粒子を含んでいてもよい。ナノ微粒子を含む場合にはスラリー組成物のチキソ性を調整することができるので、それにより得られる電極活物質層のレベリング性を向上させることができる。ナノ微粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0145】
ナノ微粒子の量は、電極活物質の量100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜10重量部である。ナノ微粒子が上記範囲であることにより、スラリー組成物の安定性及び生産性を改善し、高い電池特性を実現できる。
【0146】
〔2.4.スラリー組成物の製造方法〕
本発明のスラリー組成物は、例えば、電極活物質、バインダー組成物、及び必要に応じて任意の成分を混合して製造しうる。この際の具体的な手順は任意である。例えば、電極活物質、バインダー組成物、水、増粘剤及び導電材を含むスラリー組成物を製造する場合には、水に電極活物質、バインダー組成物、増粘剤及び導電材を同時に加えて混合する方法;水に電極活物質、導電材及び増粘剤を加えて混合し、その後にバインダー組成物を加えて混合する方法;などが挙げられる。
【0147】
混合を行うための機器の例としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ロールミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。
【0148】
[3.リチウムイオン二次電池用電極]
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と電極活物質層とを備える。
【0149】
〔3.1.集電体〕
集電体は、電気導電性を有し、且つ、電気化学的に耐久性のある材料を用いうる。通常、この集電体の材料としては、金属材料を用いる。その例を挙げると、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、正極に用いる集電体としてはアルミニウムが好ましく、負極に用いる集電体としては銅が好ましい。また、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0150】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。
【0151】
集電体は、電極活物質層との密着強度を高めるため、表面に予め粗面化処理して使用することが好ましい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、例えば、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、電極活物質層の密着強度や導電性を高めるために、集電体の表面に中間層を形成してもよい。
【0152】
〔3.2.電極活物質層〕
電極活物質層は、集電体上にスラリー組成物を塗布し、乾燥して得られる層である。したがって、電極活物質層は、本発明のスラリー組成物の固形分によって形成される層であるので、電極活物質、粒子状重合体及び水溶性重合体を含む。
【0153】
電極活物質層を製造する際には、集電体上にスラリー組成物を塗布して、スラリー組成物の膜を形成する。この際、スラリー組成物は、集電体の片面に塗布してもよく、両面に塗布してもよい。
塗布方法に制限は無く、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
また、スラリー組成物の膜の厚みは、目的とする電極活物質層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0154】
スラリー組成物の膜を形成した後、乾燥により、この膜から溶媒等の液体を除去する。これにより、スラリー組成物の固形分を含む電極活物質層が集電体の表面に形成されて、電極が得られる。
【0155】
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線又は電子線などのエネルギー線の照射による乾燥法;などが挙げられる。中でも、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。
乾燥温度及び乾燥時間は、スラリー組成物の膜から溶媒を除去できる温度と時間が好ましい。具体的な範囲を挙げると、乾燥時間は通常1分〜30分であり、乾燥温度は通常40℃〜180℃である。
【0156】
スラリー組成物の膜を乾燥させた後で、必要に応じて、例えば金型プレス又はロールプレスなどを用い、電極活物質層に加圧処理を施すことが好ましい。加圧処理により、電極活物質層の空隙率を低くすることができる。空隙率は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、また、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。空隙率を前記範囲の下限値以上とすることにより、高い体積容量が得易くなり、電極活物質層を集電体から剥がれ難くすることができる。また、上限値以下とすることにより高い充電効率及び放電効率が得られる。
【0157】
さらに、電極活物質層が架橋反応等の硬化反応により硬化しうる重合体を含む場合は、例えば加熱処理を行うことにより、電極活物質層の形成後に前記重合体を硬化させてもよい。
【0158】
電極活物質層の厚みは、要求される電池性能に応じて任意に設定しうる。
例えば、正極活物質層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは通常300μm以下、より好ましくは250μm以下である。正極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度の両方で高い特性を実現できる。
また、例えば、負極活物質層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、また、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下、特に好ましくは250μm以下である。負極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びサイクル特性を良好にすることができる。
【0159】
[4.リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極及び電解液を備える。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、セパレーターを備えうる。ただし、本発明のリチウムイオン二次電池においては、正極、負極、又は、正極及び負極の両方が、本発明の電極である。
【0160】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、充放電によるガスの発生を抑制できる。このような効果が得られる理由は必ずしも定かではないか、本発明者の検討によれば、水溶性重合体が電解液中のハロゲン化物イオンをトラップできるので、ハロゲン化物イオンを原因としたガスの発生が抑制されているものと推察される。ハロゲン化物イオンが電池に含まれていると、電極活物質の表面に形成された水溶性重合体の層が破壊されることがある。水溶性重合体の層が破壊されると、充放電に伴って電解液及びSEIが分解され、ガスが生じることがありえる。これに対し、水溶性重合体がハロゲン化物イオンをトラップすると、前記のような水溶性重合体の層の破壊が抑制されるので、ガスの発生量を低減することが可能となっているものと考えられる。
【0161】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、通常、サイクル特性が良好である。このように良好なサイクル特性が実現できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者の検討によれば、次のように推察される。すなわち、第一に、前記のようにガスの発生が抑制されるので、ガスによる電池容量の減少を抑制できる。第二に、水溶性重合体が電解液中のハロゲン化物イオンをトラップできるので、ハロゲン化物イオンを原因とした集電体の腐食を防止できる。集電体の腐食を防止できると、腐食の進行による電極の抵抗上昇を抑制できる。また、集電体の腐食を防止できることにより、集電体と電極活物質層との結着力の低下を抑制できる。第三に、本発明のバインダー組成物は集電体及び電極活物質を結着させる能力に優れるので、充放電を繰り返すことによる導電パスの切断を抑制できる。そして、これらの要因が組み合わさって、優れたサイクル特性が実現できているものと推察される。
【0162】
〔4.1.電解液〕
電解液としては、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものを使用しうる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0163】
支持電解質の量は、電解液における濃度として、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。支持電解質の量を前記範囲に収めることにより、イオン導電度を高くできるので、電池の充電特性及び放電特性を良好にできる。
【0164】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させうるものを用いうる。このような溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルエチルカーボネートが好ましい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0165】
また、電解液は必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えばビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0166】
〔4.2.セパレーター〕
セパレーターとしては、通常、気孔部を有する多孔性基材を用いる。セパレーターの例を挙げると、(a)気孔部を有する多孔性セパレーター、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレーター、(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレーター、などが挙げられる。これらの例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレーター、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム;ゲル化高分子コート層がコートされたセパレーター;無機フィラーと無機フィラー用分散剤とからなる多孔膜層がコートされたセパレーター;などが挙げられる。
【0167】
〔4.3.ハロゲン化物イオンの発生源〕
上述したように、本発明のリチウムイオン二次電池では、水溶性重合体がハロゲン化物イオンをトラップすることによりガスの発生が抑制されていると考えられる。このようなハロゲン化物イオンの発生源と考えられる成分としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0168】
例えば、フッ化物イオンの発生源としては、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLi等の電解液の支持電解質;ポリフッ化ビニリデン等の電極のバインダーなどが挙げられる。
また、例えば、塩化物イオンの発生源としては、LiAlCl
4、LiClO
4等の電解液の支持電解質;カルボキシメチルセルロース塩等のスラリー組成物の添加剤;電極活物質の残留HCl成分などが挙げられる。
【0169】
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記のようなハロゲン化物イオンを生じうる成分を含む構成であっても、そのハロゲン化物イオンによる電池の性能低下を抑制できる点で、意義がある。
【0170】
〔4.4.リチウムイオン二次電池の製造方法〕
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口してもよい。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0171】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0172】
[評価方法]
(1.セルの体積変化量の測定方法)
実施例及び比較例で製造した800mAh捲回型セルのリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1Cで4.35Vまで充電し0.1Cで2.75Vまで放電する充放電の操作を行った。その後、捲回型セルを流動パラフィンに浸漬し、その体積V0を測定した。
【0173】
さらに、60℃環境下で、前記と同様の条件で充放電の操作を1000サイクル繰り返した。その後、捲回型セルを流動パラフィンに浸漬し、その体積V1を測定した。
【0174】
充放電を1000サイクル繰り返す前後での捲回型セルの体積変化量ΔVを、「ΔV=(V1−V0)/V0×100(%)」にて計算した。この体積変化量ΔVの値が小さいほど、ガスの発生を抑制する能力に優れていることを示す。
【0175】
(2.プレス後のピール強度の測定方法)
実施例及び比較例で製造した電極(実施例1〜15及び比較例1〜5では負極、実施例16では正極)を、長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とした。この試験片を、電極活物質層の表面を下にして、電極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、集電体の一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を3回行い、その平均値を求めて、当該平均値をピール強度Sp1とした。ピール強度Sp1が大きいほど、電極活物質層の集電体への結着力が大きいこと、すなわち、密着強度が大きいことを示す。
【0176】
(3.高温サイクル特性の評価方法)
実施例及び比較例で製造した800mAh捲回型セルのリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1Cで4.35Vまで充電し0.1Cで2.75Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。
【0177】
さらに、60℃環境下で、前記と同様の条件で充放電の操作を1000サイクル繰り返し、1000サイクルの充放電を行った後の容量C1を測定した。
【0178】
容量維持率ΔCを「ΔC=C1/C0×100(%)」にて計算した。この容量維持率ΔCの値が高いほど、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性が優れ、電池が長寿命であることを示す。
【0179】
(4.サイクル試験後のピール強度の測定方法)
前記(3.高温サイクル特性の評価方法)の項で説明した容量維持率ΔCの測定を行った後で、捲回型セルのリチウムイオン二次電池を解体した。解体した電池の電極(実施例1〜15及び比較例1〜5では負極、実施例16では正極)を、電解液溶媒(EC/DEC/VC=68.5/30/1.5体積比)を用いて洗浄し、温度60℃で−0.05MPaの負圧環境において10時間かけて減圧乾燥した。乾燥した電極を、長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して、試験片を得た。
【0180】
この試験片を、電極活物質層の表面を下にして、電極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、集電体の一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を3回行い、その平均値を求めて、当該平均値をサイクル試験後のピール強度Sp2とした。ピール強度Sp2が大きいほど、電極活物質層の集電体への結着力が大きいこと、すなわち、密着強度が大きいことを示す。
【0181】
(5.水溶性重合体の重量平均分子量の測定方法)
水溶性重合体の重量平均分子量は以下の条件により、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定装置:東ソー社製GPC(型番:HLC−8220)
分子量カラム:TSKgel SuperHZM−M(東ソー社製)を4本連結させたもの
移動液:ジメチルホルムアミドの10体積%水溶液に0.85g/mLの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液
流速:0.6mL/min
注入量:20μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製HLC−8320 GPC RI検出器)
標準物質:ポリスチレン
測定方法:実施例および比較例で製造した水溶性重合体の水溶液を、それぞれ、乾燥厚みが1mmとなるようにシリコン容器に流入し、室温で72時間乾燥し、1cm×1cmの正方形のフィルムを作製した。このフィルムを、ジメチルホルムアミドに溶解して1%溶液を調製した。これを試料として、GPCにて測定した。
【0182】
[実施例1]
(1−1.水溶性重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリルアミド(カルボン酸アミド単量体)0.8部、メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)32.5部、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体)7.5部、エチルアクリレート(任意の単量体)57.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.2部、t−ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水150部、及び過硫酸カリウム(重合開始剤)1.0部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む混合物を得た。上記水溶性重合体を含む混合物に10%アンモニア水を添加してpH8に調整することにより水溶性重合体を水に溶解させて、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得た。
【0183】
(1−2.粒子状重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33.0部、イタコン酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)3.5部、スチレン62.5部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体(SBR)を含む混合物を得た。上記粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって混合物から未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液を得た。
【0184】
(1−3.二次電池電極用バインダー組成物の製造)
容器に前記工程(1−2)で作製した粒子状重合体を含む水分散液を固形分相当で95部、及びジオクチルコハク酸ナトリウム0.25部を混合し、その後で前記工程(1−1)で作製した水溶性重合体を含む水溶液を固形分相当で5部を更に混合した。ここに水を混合して濃度を調整し、固形分濃度25%の電極用バインダー組成物を得た。
【0185】
(1−4.負極用スラリー組成物の製造)
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積5.5m
2/gの天然黒鉛(上海杉杉社製「FSN」、体積平均粒子径:15.6μm)100部、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロース塩(日本製紙社製「MAC−350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1.0部混合し、更にイオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、さらに25℃で15分間混合し、混合液を得た。この混合液に、前記工程(1−3)で製造した電極用バインダー組成物を固形分相当量で2.0部を加え、更にイオン交換水を加えて最終固形分濃度が48%となるように調整し、10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
【0186】
(1−5.負極の製造)
前記工程(1−4)で得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極活物質層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た。
この負極について、上述した要領で、電極活物質層と集電体とのピール強度Sp1を測定した。
【0187】
(1−6.正極用スラリー組成物の製造)
正極活物質として体積平均粒子径12μmのLiCoO
2を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製「HS−100」)を2部、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、#7208)を固形分相当で2部混合し、更にN−メチルピロリドンを加えて全固形分濃度を70%に調整した。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を得た。
【0188】
(1−7.正極の製造)
前記工程(1−6)で得た正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミニウム箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極を得た。
【0189】
(1−8.セパレーターの用意)
単層のポリプロピレン製セパレーター(セルガード社製「セルガード2500」)を、5×5cm
2の正方形に切り抜いた。
【0190】
(1−9.リチウムイオン二次電池の製造)
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。前記工程(1−7)で得られた正極を、4.6×4.6cm
2の正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極活物質層の面上に、前記工程(1−8)で得られた正方形のセパレーターを配置した。さらに、前記工程(1−5)で得られたプレス後の負極を、5×5cm
2の正方形に切り出し、これをセパレーター上に、負極活物質層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF
6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を得た。
このリチウムイオン二次電池について、上述した要領で、セルの体積変化量ΔV、容量維持率ΔC、及び、サイクル試験後のピール強度Sp2を測定した。
【0191】
[実施例2]
前記工程(1−1)において、アクリルアミドの量を0.1部に変更し、エチルアクリレートの量を57.9部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0192】
[実施例3]
前記工程(1−1)において、アクリルアミドの量を9.5部に変更し、エチルアクレートの量を48.5部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0193】
[実施例4]
前記工程(1−1)において、アクリルアミドの代わりにメタクリルアミドを用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0194】
[実施例5]
前記工程(1−1)において、アクリルアミドの代わりにN,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(N−2−ジメチルアミノエチルアクリルアミド)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0195】
[実施例6]
前記工程(1−1)において、アクリルアミドの代わりにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N−3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0196】
[実施例7]
前記工程(1−1)において、メタクリル酸の量を22部に変更し、エチルアクリレートの量を67.7部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0197】
[実施例8]
前記工程(1−1)において、メタクリル酸の量を82部に変更し、エチルアクリレートの量を7.7部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0198】
[実施例9]
前記工程(1−1)において、エチレンジメタクリレートの代わりにグリシジルメタクリレートを用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0199】
[実施例10]
前記工程(1−1)において、エチレンジメタクリレートの代わりにエチレングリコールジメタクリレートを用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0200】
[実施例11]
前記工程(1−1)において、エチレンジメタクリレートの量を0.15部に変更し、エチルアクリレートの量を57.85部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0201】
[実施例12]
前記工程(1−1)において、エチレンジメタクリレートの量を1.8部に変更し、エチルアクリレートの量を56.2部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0202】
[実施例13]
前記工程(1−1)において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを用いないで、エチルアクリレートの量を64.7部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0203】
[実施例14]
前記工程(1−3)において、粒子状重合体を含む水分散液の量を固形分相当で98.5部に変更し、水溶性重合体を含む水溶液の量を固形分相当で1.5部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0204】
[実施例15]
前記工程(1−3)において、粒子状重合体を含む水分散液の量を固形分相当で72部に変更し、水溶性重合体を含む水溶液の量を固形分相当で28部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0205】
[実施例16]
(16−1.粒子状バインダーの製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリル酸2−エチルヘキシル76.0部、イタコン酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)4.0部、アクリロニトリル20部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体(ACL)を含む混合物を得た。上記粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって混合物から未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液を得た。
【0206】
(16−2.二次電池電極用バインダー組成物の製造)
容器に前記工程(16−1)で作製した粒子状重合体を含む水分散液を固形分相当で95部、及びジオクチルコハク酸ナトリウム0.25部を混合し、その後で実施例1の工程(1−1)で作製した水溶性重合体を含む水溶液を固形分相当で5部を更に混合した。ここに水を混合して濃度を調整し、固形分濃度25%の電極用バインダー組成物を得た。
【0207】
(16−3.正極用スラリー組成物の製造)
正極活物質として体積平均粒子径12μmのLiCoO
2を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製「HS−100」)を2部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製「MAC−350HC」)を1部、及び、前記工程(16−2)で製造した電極用バインダー組成物を固形分相当で2部混合し、更に水を加えて全固形分濃度を65%に調整した。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を得た。
【0208】
(16−4.正極の製造)
正極用スラリー組成物として前記工程(16−3)で得たものを用いたこと以外は実施例1の工程(1−7)と同様にして、正極を製造した。
この正極について、上述した要領で、電極活物質層と集電体とのピール強度Sp1を測定した。
【0209】
(16−5.負極用スラリー組成物の製造)
前記工程(1−3)で製造した電極用バインダー組成物の代わりに実施例1の工程(1−2)で製造した粒子状重合体を含む水分散液を用いたこと以外は実施例1の工程(1−4)と同様にして、負極用スラリー組成物を製造した。
【0210】
(16−6.負極の製造)
負極用スラリー組成物として前記工程(16−5)で得たものを用いたこと以外は実施例1の工程(1−5)と同様にして、負極を製造した。
【0211】
(16−7.リチウムイオン二次電池の製造)
正極として前記工程(16−4)で得たものを用い、負極として前記工程(16−6)で得たものを用いたこと以外は実施例1の工程(1−9)と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0212】
[比較例1]
前記工程(1−4)において、前記工程(1−3)で製造した電極用バインダー組成物の代わりに、前記工程(1−2)で作製した粒子状重合体を含む水分散液を固形分相当で2.0部用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0213】
[比較例2]
1,3−ブタジエン33.0部の代わりに、1,3−ブタジエン32.0部及びアクリルアミド1.0部を組み合わせて用いたこと以外は前記工程(1−2)と同様にして、粒子状重合体を含む水分散液を得た。
【0214】
前記工程(1−4)において、前記工程(1−3)で製造した電極用バインダー組成物の代わりに、比較例2で得た粒子状重合体を含む水分散液を固形分相当で2.0部用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0215】
[比較例3]
前記工程(1−1)において、アクリルアミド、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、エチレンジメタクリレート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムを使用せず、メタクリル酸の量を35部に変更し、エチルアクリレートの量を65部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0216】
[比較例4]
前記工程(1−1)において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、エチレンジメタクリレート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムを使用せず、アクリルアミドの量を0.05部に変更し、メタクリル酸の量を35部に変更し、エチルアクリレートの量を64.95部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0217】
[比較例5]
前記工程(1−1)において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、エチレンジメタクリレート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムを使用せず、アクリルアミドの量を15部に変更し、メタクリル酸の量を35部に変更し、エチルアクリレートの量を50部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0218】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表1〜表5に示す。
下記の表1〜表5において、略称の意味は、以下の通りである。
「単量体X」:エチレン性不飽和カルボン酸単量体
「ST」:スチレン
「BD」:1,3−ブタジエン
「β−HEA」:2−ヒドロキシエチルアクリレート
「2−EHA」:2−エチルヘキシルアクリレート
「AN」:アクリロニトリル
「IA」:イタコン酸
「単量体I」:カルボン酸アミド単量体
「AAm」:アクリルアミド
「MAAm」:メタクリルアミド
「DMAEAAm」:N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(N−2−ジメチルアミノエチルアクリルアミド)
「DMAPAAm」:N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N−3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
「単量体II」:エチレン性不飽和カルボン酸単量体
「MAA」:メタクリル酸
「単量体III」:フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体
「TFEMA」:2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート
「単量体IV」:架橋性単量体
「EDMA」:エチレンジメタクリレート
「GMA」:グリシジルメタクリレート
「EGDMA」:エチレングリコールジメタクリレート
「単量体V」:反応性界面活性剤
「PD−104」:ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム
「単量体VI」:任意の単量体
「EA」:エチルアクリレート
「Mw」:重量平均分子量
「粒:水」:粒子状重合体と水溶性重合体の重量比
「LCO」:LiCoO
2
「CMC塩」:カルボキシメチルセルロースの塩
「ΔV」:電池の体積変化量
「Sp1」:プレス後の集電体と電極活物質層との間のピール強度
「ΔC」:電池の容量維持率
「Sp2」:サイクル試験後の集電体と電極活物質層とのピール強度
【0219】
【表1】
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
【表4】
【0223】
【表5】
【0224】
[検討]
前記の表1〜表5から分かるように、電池のセルの体積変化量ΔVは、実施例の方が比較例よりも大幅に小さい。このことから、本発明によってリチウムイオン二次電池におけるガスの発生を抑制できることが確認された。
【0225】
また、プレス後の集電体と電極活物質との間のピール強度Sp1は、実施例の方が比較例よりも大きい。このことから、本発明によって、通常は、集電体と電極活物質層との結着力が大きいリチウムイオン二次電池を実現できることが確認された。このように集電体と電極活物質層との結着力が大きいと、充放電に伴う活物質の膨張及び収縮、温度変化などの要因によって電極内に応力が生じても、電極活物質層が集電体から剥がれ難い。そのため、充放電を繰り返しても電池容量が低下し難いので、サイクル特性等の電池特性の向上が期待できる。
【0226】
また、電池の容量維持率ΔCは、実施例の方が比較例よりも大きい。このことから、本発明によって、通常は、高温サイクル特性に優れた電池が得られることが確認された。このため、本発明により、リチウムイオン二次電池の寿命を延ばすことが期待できる。
【0227】
さらに、サイクル試験後の集電体と電極活物質層とのピール強度Sp2は、実施例の方が比較例よりも大きい。このことから、本発明によって、通常は、充放電を繰り返した場合でも、集電体と電極活物質層との結着力が低下し難いリチウムイオン二次電池を実現できることが確認された。集電体と電極活物質層との結着力の低下の原因の一つとしては、集電体の表面の腐食の進行が挙げられる。本発明者の検討によれば、本発明に係るリチウムイオン二次電池では、この集電体の表面の腐食の進行を抑制できるので、集電体と電極活物質層との結着力の低下を抑制できているものと推察される。
【0228】
また、特に比較例2においては、粒子状重合体がカルボン酸アミド単量体単位を含んでいるが、電池のセルの体積変化量ΔVが大きい。このことから、カルボン酸アミド単量体単位によってガスの発生を抑制する効果は、水溶性重合体がエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及び架橋性単量体単位と組み合わせてカルボン酸アミド単量体単位を含むことによってはじめて奏される効果であることがわかる。