(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の誘電体材料を実施するための形態について説明する。
なお、以下の実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
[誘電体材料]
本実施形態の誘電体材料は、絶縁性材料中に導電性粒子を分散した複合焼結体からなる誘電体材料であり、この導電性粒子は、その体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.2μm以下、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が2μm以下、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が10体積%の粒子径D10に対する比(D90/D10)が3.0以上、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が50体積%の粒子径D50に対する比(D90/D50)が1.4以上の誘電体材料である。
【0017】
ここで、本実施形態の誘電体材料を知見するに至った経緯を説明する。
絶縁性材料中に導電性粒子を分散した複合焼結体からなる誘電体材料の導電パスの形成については、パーコレーション理論で説明することができる。
このパーコレーション理論では、絶縁性材料中に分散した導電性粒子の割合が一定の閾値を越えると急激に導電率が上がり(抵抗値が低下し)、この閾値近傍で導電性粒子のつながりはフラクタル形状を示していることが知られている。
【0018】
そこで、本発明者等は、複合焼結体からなる誘電体材料の絶縁破壊を緩やかにすること、すなわち、この誘電体材料の絶縁破壊特性を向上させるためには、絶縁破壊した際の導電パスの分岐を大きくすること、すなわち導電パスのフラクタル次元を高くする必要があると考えた。
この考えに基づいて、絶縁性材料中に、粒度分布が一定の条件を満たす導電性粒子を一定量分散させることで、絶縁破壊を緩やかにする誘電体材料を作製したところ、この誘電体材料の導電パスのフラクタル次元を高くすると、絶縁破壊はピンホール状に生じずに広い分布を持って生じることとなり、よって、緩やかに絶縁破壊する特性が得られることが分かった。
【0019】
また、絶縁性材料中の導電性粒子の粒度分布を広くすることで、閾値以上の導電性粒子を入れた場合には、導電性粒子のつながりのフラクタル次元が高くなること、一方、閾値以下の導電性粒子を入れた場合には、絶縁破壊により生じる導電パスのフラクタル次元が高くなることが分かった。
また、絶縁性材料中の導電性粒子の粒度分布を広くすると、導電性粒子の含有率を高くすることができ、なおかつ導電パスが形成される閾値が高くなることから、絶縁性を保ったまま導電性粒子の含有率を高くすることができ、誘電率の高い誘電体材料が得られることが分かった。
以上により、この誘電率の高い誘電体材料を用いてクーロン力型の静電チャックの基材を作製すれば、静電チャックの絶縁破壊を電気抵抗または電流値を測定することで予測出来ることがわかり、本発明を創出するに至ったものである。
【0020】
次に、本実施形態の誘電体材料について詳細に説明する。
この誘電体材料に用いられる絶縁性材料には、ポリイミド樹脂やシリコン樹脂等の各種有機樹脂や絶縁性セラミックスを適宜選択することができるが、有機樹脂は発熱による絶縁特性の劣化が起こり易く、絶縁破壊が緩やかに起こる特性が得難い場合があるので、絶縁性セラミックスを用いることが好ましい。
【0021】
この絶縁性材料、すなわち絶縁性セラミックスとしては、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)、酸化ネオジム(Nd
2O
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化サマリウム(Sm
2O
3)、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)、酸化エルビウム(Er
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)の群から選択された1種のみからなる酸化物、または2種以上を混合してなる複合酸化物であることが好ましい。
【0022】
これらのなかでも、特に酸化アルミニウム(Al
2O
3)は、安価で耐熱性に優れ、複合焼結体の機械的特性も良好であるから、本実施形態の誘電体材料においても好適に用いられる。
また、アルミニウム(Al)含有量が少ない絶縁性セラミックスを使用したい場合や耐食性をさらに高めたい場合には、酸化イットリウム(Y
2O
3)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:3Y
2O
3・5Al
2O
3)等を用いることもできる。
【0023】
酸化アルミニウム(Al
2O
3)の原料粉体としては、平均粒子径が1μm以下の酸化アルミニウム粉体を用いることが好ましい。
その理由は、平均粒子径が1μmを越える酸化アルミニウム粉体を用いて得られた炭化珪素−酸化アルミニウム複合焼結体においては、複合焼結体中の酸化アルミニウム粒子の平均粒子径が2μmを越えることとなり、この炭化珪素−酸化アルミニウム複合焼結体を用いて静電チャック装置の基材を作製すると、この基材の板状試料を載置する側の上面がプラズマによりエッチングされ易くなり、よって、この基材の上面にスパッタ痕が形成されることとなり、シリコンウエハ等の被吸着物を汚染させる原因となる虞があるからである。
この酸化アルミニウム(Al
2O
3)の原料粉体は、平均粒子径が1μm以下のもので高純度のものであればよく、特段限定されない。
【0024】
導電性粒子としては、導電性炭化珪素(SiC)粒子等の導電性セラミックス粒子、モリブデン(Mo)粒子、タングステン(W)粒子、タンタル(Ta)粒子等の高融点金属粒子、炭素(C)粒子の群から選択された1種または2種以上であることが好ましい。
これらのなかでも導電性炭化珪素(SiC)粒子は、これを酸化アルミニウム(Al
2O
3)粒子と複合化した場合、得られる複合焼結体は、電気的特性の温度依存性が小さく、ハロゲンガスに対する耐蝕性に優れ、耐熱性、耐熱衝撃性に富み、かつ高温下の使用においても熱応力による損傷の危険性が小さいので、好ましい。
【0025】
この導電性炭化珪素(SiC)粒子としては、導電性に優れることからβ型の結晶構造を有する炭化珪素粉体を使用することが好ましい。なお、この炭化珪素粉体の導電性を制御するために、炭化珪素中の窒素の含有率を適宜制御したものを用いてもよい。
この導電性炭化珪素(SiC)粒子としては、プラズマCVD法、前駆体法、熱炭素還元法、レーザー熱分解法等の各種の方法により得られた炭化珪素粉体を用いることができる。特に、本実施形態の誘電体材料を半導体プロセスにて用いる場合、半導体プロセスでの悪影響を防ぐために、純度の高いものを用いることが好ましい。
【0026】
この導電性粒子は、誘電体材料中において、その体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.2μm以下、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が2μm以下であり、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が10体積%の粒子径D10に対する比(D90/D10)が3.0以上であることが好ましい。
また、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が50体積%の粒子径D50に対する比(D90/D50)が1.4以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
【0027】
ここで、上記の導電性粒子の体積粒度分布における各種数値を上記のように規定した理由について説明する。
誘電体材料中の導電性粒子の大きさは、大きい導電性粒子が多すぎると、静電チャックの基材としたときの耐プラズマ性の悪化やパーティクルの増加が生じる虞がある。よって、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90は、2μm以下(2μm以上の導電性粒子は10%以下)であることが好ましく、1μm以下(1μm以上の導電性粒子は10%以下)であることがより好ましい。
【0028】
また、微細な粒径の導電性粒子が多すぎると導電性粒子の配合量を多くした場合に、導電性粒子の個数が多くなりすぎ、絶縁性粒子の粒界に存在する導電性粒子がつながり易くなり、耐電圧を高くして導電性粒子の配合量を多くすること、すなわち誘電率を高くすることが出来なくなるので、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90は0.5μm以上であることが好ましい。また同様の理由から累積体積百分率が50体積%の粒子径D50は0.3μm以上であることが好ましい。
【0029】
一方、絶縁破壊により形成される最も細い導電パスの太さは、誘電体材料中に分散される導電性粒子の大きさや割合に依存する。そこで、緩やかに絶縁破壊が生じる特性が得易くするためには、最も細い導電パスの太さを小さくする必要があり、したがって、導電性粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.2μm以下であることが好ましい。
さらに、絶縁破壊の分岐を微細にして導電パスの分岐を増やすには、0.04μm以下の粒子が0.001%以上含まれることが好ましく、1%以上10%以下含まれることがより好ましい。
【0030】
また、絶縁破壊を緩やかにするためには、累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.2μm以下の条件に加えて、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が10体積%の粒子径D10に対する比(D90/D10)が3.0以上であり、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が50体積%の粒子径D50に対する比(D90/D50)が1.4以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
また、効率よく粒度分布を広くした効果を出すためには、粒度分布をグラフ化した際に滑らかな曲線となっていることが好ましい。
【0031】
なお、この導電性粒子の原料粉体における粒子径と誘電体材料中の粒子径は、製造過程における粉砕や焼結により変化するので同じ粒径にはならない。そこで、誘電体材料中での導電性粒子の粒子径を、上記の範囲にするために導電性粒子の原料粉体の粒径を決める必要がある。
ところで、0.04μm以下の粒子は、製造過程における粉砕により得ることが難しいので、誘電体材料中に含まれる導電性粒子に0.04μm以下の粒子が0.001%以上含まれる様にするためには、0.04μm以下の粒径のものが1%以上含まれるもの(累積体積百分率が1体積%の粒子径D1が0.04μm以下)を使用することが好ましい。
【0032】
さらに、複合焼結体に含まれる導電性粒子に2μm以上のものが含まれる量を10%以下(粒子径D90が2μm以下)とするために、導電性粒子の原料中の1μm以上の粒径の粒子は1%以下(粒子径D1が1μm以下)とすることが好ましい。
さらにまた、数種類の導電性粒子を混合して使用する場合には、各の種類の導電性粒子の合計が上記の条件を満たすことが好ましい。
【0033】
この誘電体材料における導電性粒子の含有率は、4質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上かつ20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上かつ12質量%以下であることがさらに好ましい。
ここで、導電性粒子の含有率を上記の範囲とした理由は、導電性粒子の含有率が4質量%未満では、導電性粒子の量が絶縁性材料に対して少なすぎてしまい、良好な導電性が得られなくなるからであること、および誘電体材料中に含まれる導電性粒子間の距離が離れすぎてしまうために絶縁破壊が進行する特性が得難くなるからである。一方、導電性粒子の含有率が20質量%を超えると、導電性粒子の量が絶縁性材料に対して多すぎてしまい、導電性粒子が凝集や焼結により大きくなり2μm以上の粒子が多くなり易くなること、および良好な誘電体特性は得られるが静電チャックとして使用するために必要な耐電圧特性が得難くなるからである。
【0034】
なお、この誘電体材料における導電性粒子の含有率は、使用する絶縁性材料の種類や必要な特性により異なるので、導電性粒子の含有率を上記の範囲内で最適化することが好ましい。
例えば、絶縁性材料として絶縁性セラミックスを使用した場合、導電性粒子の多くは焼結段階で絶縁性セラミックスの結晶粒子の粒界に偏在することとなり、絶縁性樹脂中に分散した場合と比べて導電パスが形成される閾値が小さくなる。
これは、導電性粒子に対して絶縁性セラミックスの結晶粒子の大きさが大きいほど、また、絶縁性セラミックスの結晶粒内に取り込まれる導電性粒子が少なくなるほど、顕著になるからである。
【0035】
そこで、導電性粒子の粒度分布を広くすると、絶縁性セラミックスの結晶粒子の粒径が同じでも導電パスが形成される閾値が大きくなる効果がある。例えば、絶縁性セラミックスの結晶粒子の粒径が0.1〜10μmの場合には、導電パスが形成される閾値は4〜20%程度となる。
よって、導電性粒子の含有率は、例えば、耐電圧が静電チャックの仕様を満たす様にするためには、上記の閾値より0.05〜8体積%程度小さい値にすることが好ましく、1〜5体積%程度小さい値にすることがより好ましい。
【0036】
また、導電性粒子の粒度分布を広くすると、絶縁性セラミックスの結晶粒子の粒径が同じでも導電パスが形成される閾値が大きくなる効果により、より多くの導電性粒子を含有させることが可能となり、誘電率をさらに高くすることが可能となる。
【0037】
[誘電体材料の製造方法]
本実施形態の誘電体材料の製造方法は、絶縁性材料の原料粉体と導電性粒子の原料粉体と分散媒とを混合してスラリーとし、このスラリーを噴霧乾燥して顆粒とし、この顆粒を1MPa以上かつ100MPa以下の加圧下にて焼成して複合焼結体とする方法である。
次に、この製造方法について詳細に説明する。
【0038】
まず、絶縁性材料の原料粉体と導電性粒子の原料粉体と分散媒とを混合してスラリーとする。
このスラリーに用いられる分散媒としては、水および有機溶媒が使用可能である。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等の一価アルコール類およびその変性体;α−テルピネオール等の単環式モノテルペンに属するアルコール類;ブチルカルビトール等のカルビトール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0039】
このスラリーを調製する際に分散剤やバインダーを添加してもよい。
分散剤やバインダーとしては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩等のポリカルボン酸塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の有機高分子等が用いられる。
分散処理としては、特に限定されないが、超音波ホモジナイザー、ビーズミル、超高圧粉砕機等の分散機を用いて分散処理がなされる。
なお、絶縁性粒子の原料粉体と導電性粒子の原料粉体を均一に混合していないと、複合化して得られる誘電体材料中の導電性粒子の分布も不均一となり、電気的特性の再現性およびその焼結体内での均一性が悪化する虞があるので、分散媒や分散剤、分散処理条件を選定して均一に混合することが好ましい。
【0040】
次いで、このスラリーを噴霧乾燥法により噴霧乾燥する。噴霧乾燥装置としてはスプレードライヤー等が好適に用いられる。
ここでは、スラリーを加熱された気流中に噴霧し乾燥することにより、スラリー中の絶縁性材料と導電性粒子とが均一に分散された状態で、分散媒のみが飛散し、絶縁性材料中に導電性粒子が均一に分散した造粒粉が得られる。
【0041】
次いで、この造粒粉を所定の焼成雰囲気にて、1MPa以上かつ100MPa以下の加圧下にて焼成し、複合焼結体とする。
ここで、焼成雰囲気としては、導電性粒子として導電性炭化珪素(SiC)粒子、モリブデン(Mo)粒子、タングステン(W)粒子、タンタル(Ta)粒子等を用いた場合、これらの酸化を防止する必要があることから、非酸化性雰囲気、例えば、アルゴン(Ar)雰囲気、窒素(N
2)雰囲気等が好ましい。
【0042】
ここで、焼成時の圧力を1MPa以上かつ100MPa以下とした理由は、圧力が1MPa未満では、得られた焼結体の密度が低くなり、耐食性が低下し、また、緻密な焼結体が得られず導電性も高くなり、半導体製造装置用部材として使用する際に用途が限定されてしまい、汎用性が損なわれるからである。一方、圧力が100MPaを超えると、得られた焼結体の密度、導電性とも問題はないが、部材の大型化に伴う大型焼結体の焼結装置を設計する際に、加圧面積に制限が生じるからである。
【0043】
また、焼成温度は、使用する絶縁性材料に用いられる通常の焼結温度を適用することができる。例えば、絶縁性材料に酸化アルミニウムを使用する場合では1500℃以上かつ1900℃以下が好ましい。
造粒粉を1500℃以上かつ1900℃以下にて焼成することが好ましい理由は、焼成温度が1500℃未満では、焼結が不十分なものとなり、緻密な複合焼結体が得られなくなる虞があるからであり、一方、焼成温度が1900℃を超えると、焼結が進みすぎて異常粒成長等が生じる等の虞があり、その結果、緻密な複合焼結体が得られなくなる虞があるからである。
また、焼成時間は、緻密な焼結体が得られるのに十分な時間であればよく、例えば1〜6時間である。
【0044】
このように、造粒粉の焼成時に、1MPa以上かつ100MPa以下の加圧を同時に行うことにより、絶縁性材料及び導電性粒子各々の粒成長を抑止しつつ複合焼結体の密度を向上させることができる。
【0045】
この複合焼結体中の導電性粒子の粒度分布は、使用する原料や焼成過程における導電性粒子同士の焼結等により変化するので、使用する原料や焼成条件を調整することで目的の特性を得ることができる。
スラリー製造段階で制御する方法としては、導電性粒子の原料に粒度分布の広いものを用いる方法、異なる粒子径の原料を混合して用いる方法、絶縁性材料の原料と導電性粒子の原料を混合する際に導電性粒子の凝集状態を制御する方法、あるいはこれらを組み合わせた方法等が適宜用いられる。
焼成条件により制御する方法としては、成形条件や焼成における圧力、雰囲気、焼成温度等が挙げられる。
【0046】
[誘電体材料の特性]
誘電体材料、すなわち複合焼結体における耐電圧特性、誘電率等の電気的特性は、絶縁性材料中に分散している導電性粒子の分散状態、絶縁性材料の粒子の大きさ、絶縁性材料中の導電性粒子の割合、絶縁性材料の粒子の粒径分布等、様々な要因により変化し、導電性粒子の粒度分布と電気的特性との関係を一義的に決めることは難しい。
そこで、絶縁性材料中の導電性粒子の粒度分布を各種の粒度分布を変化させる方法により粒度分布を変えた複合焼結体を作製し、電気的特性の評価結果から実験的に最適値を求める方法が用いられる。
【0047】
その中でも、実験の再現性が良好であることから、複合焼結体の製造条件を一定にし、原料に用いる導電性粒子に粒子径の異なる数種類の導電性粒子を用い、絶縁性材料中の導電性粒子の割合を変化させて、最適値を求める方法が好適に用いられる。
また、導電性粒子の最適な種類及び粒子径、絶縁性材料中の導電性粒子の最適な割合が求められ、これと同一の特性の複合焼結体を試験生産あるいは量産する場合には、導電性粒子自体の製造条件を最適な粒度分布が得られる様に変更することで、1種類の導電性粒子及び絶縁性材料を用いても、複合焼結体の電気的特性を最適な値にすることができる。
【0048】
[複合焼結体の電気的特性]
(1)耐電圧特性
複合焼結体の耐電圧特性の測定は、この複合焼結体の両面に電極を設け、これらの電極に印加する直流電圧を徐々に上げながら、この複合焼結体に流れる電流を測定することで行う。
【0049】
ここでは、次に挙げる「絶縁破壊がピンホール状に形成されないことの確認」を行うことを考慮して、電極には10cm
2以上の面積のシリコンウェハを使用する。
この複合焼結体の耐電圧、すなわち絶縁破壊により電圧印加による電流値が上昇して電流値が1nA/cm
2以上となる電圧は、この複合焼結体を静電チャックの基材に適用した場合に使用電圧や耐電圧の仕様よりも高い値であることが必要であることから、5k/Vmm以上であることが好ましく、8kV/mm以上であることがより好ましく、10kV/mm以上であることがさらに好ましい。
【0050】
ところで、これらの電極に直流電圧を印加すると、これらの電極に電荷が蓄えられることにより、電流値は、電圧の上昇に伴い一時的に1nA/cm
2以上に上昇する。ここで、これらの電極に一定量の電荷が蓄えられた後は電流値は低下する。ここで測定する電流値は電荷が蓄えられた後の電流値とする。この過程において、複合焼結体に絶縁破壊が進行すると、この絶縁破壊の影響により電流値は電荷が蓄えられた後も上昇を続ける様になり、その結果、電流値は徐々に増加することとなる。
【0051】
(2)絶縁破壊特性
この複合焼結体の絶縁破壊特性は、上記の耐電圧測定を行った後、複合焼結体の電極上、例えば、10cm
2以上の面積のシリコンウェハを測定端子とし、上記の耐電圧測定の後、耐電圧測定に用いた電極よりも小さい測定用電極、例えば5mm角に切断したシリコンチップを使用して再度同じ電圧を印加して電流値を測定する方法が挙げられる。
【0052】
通常の絶縁体では、絶縁破壊は瞬間的に生じ、電圧を印加する電源の許容電流値を越えるか、発熱や放電により材料や周囲の機器を破損するまで瞬時に上昇する。
一方、本実施形態の複合焼結体では、複合焼結体に絶縁破壊が進行した場合でも電流値は徐々に増加するので、この電流値が徐々に増加する特性を用いて、この複合焼結体の絶縁破壊の兆候を検出することができる。また、絶縁破壊は不可逆的な現象であるから、過去の使用時において絶縁破壊が進行していた場合においても、再度電圧を印加して測定を行い、絶縁破壊が起こる前に測定した結果と比較して電流値が増加していることを確認することで、絶縁破壊の兆候を検出することができる。
【0053】
本実施形態の複合焼結体では、その耐電圧特性を測定する場合に、絶縁破壊による電流値が1nA/cm
2から100nA/cm
2まで上昇するのに要する時間が3秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、60秒以上であることがさらに好ましい。
絶縁破壊による電流値の上昇に要する時間の測定を開始する電流値を1nA/cm
2としたのは、1nA/cm
2以下であると、測定系のノイズ等との判別が困難になるからである。
また、絶縁破壊による電流値の上昇に要する時間の測定を終了する電流値を100nA/cm
2としたのは、100nA/cm
2以上であると静電チャックとしてシリコンウェハを吸着させるためにシリコンウェハ全体に電圧を印加した場合、流れる電流値の総量が大きくなりすぎる虞があるからである。
【0054】
上記に要する時間が好ましくは3秒以上、より好ましくは10秒以上、さらに好ましくは60秒以上であれば、絶縁破壊による電流で複合焼結体上に載置されたウエハ中のデバイスが破壊する前や放電により他の装置を損傷させる前に、この複合焼結体の絶縁破壊の予兆を検出することで装置を停止することができる。
また、絶縁破壊は不可逆的な現象であるから、過去の使用時において耐電圧特性が劣化していた場合においても、この複合焼結体を使用する前に、使用電圧以上であり複合焼結体の耐電圧値以下の電圧を印加して電流値を測定することで、複合焼結体の絶縁破壊の兆候を知ることができる。
【0055】
この複合焼結体を静電チャックの基材として使用する場合には、広い面積に電圧を印加するので、電流値の総量が大きくなり、よって、単位面積あたりの検出する電流値の精度を高くすることが可能である。また、この複合焼結体と小さい電流値を検出することができる高精度の電流計を組み合わせることで、より早い段階で絶縁破壊の兆候を検出することができる。
【0056】
(3)絶縁破壊のフラクタル性
複合焼結体の絶縁性材料中に分散している導電物粒子の粒径分布を広くすることで、導電物粒子のつながりのフラクタル性および絶縁破壊形状のフラクタル性を高くすることができる。
ここで、絶縁破壊のフラクタル性とは、複合焼結体に絶縁破壊で生じる導電パスの分岐の多さの程度をいい、導電パスの分岐が多い場合をフラクタル性が高いという。
この複合焼結体に絶縁破壊の箇所がピンホール状に形成されている場合には、ピンホールが1点または複数の点に形成されていることから、測定箇所により電流値に1000倍以上の差が生じる。
【0057】
この絶縁破壊のフラクタル性を便宜的に数値化して判断する方法としては、複合焼結体の表面に測定用端子、例えば5mm角に切断したシリコンチップを載置し、この表面の複数箇所における電流値の分布を測定した際のばらつき、すなわち電流値の最大値(Amax)と最小値(Amin)との比(Amax/Amin)が所定の値未満の場合に「フラクタル性有り」と判断し、所定の値以上の場合に「フラクタル性無し」と判断する方法が採られる。
【0058】
このようにして簡易的に電流値を測定した場合、絶縁破壊の箇所がピンホール状に形成されている場合には、ピンホールが1点または複数の点に形成されていることから、比(Amax/Amin)に1000倍以上の差が生じる。
一方、絶縁破壊の箇所がピンホール状に形成されていない場合には、比(Amax/Amin)の差は小さくなる。
これにより、複合焼結体が絶縁破壊した際に、電流集中によりデバイスが破損されないためには、複合焼結体の表面に5mm角に切断したシリコンチップを載置して電流値の分布を測定した際のばらつき、すなわち電流値の最大値(Amax)と最小値(Amin)との比(Amax/Amin)が1000倍以下となっていることが好ましく、すべての測定点で同時に絶縁破壊により電流値が上昇していることがより好ましい。
【0059】
この複合焼結体を静電チャックの基材として使用する場合には、この静電チャックでは評価する際に印加した電圧よりも低い電圧となるが、この静電チャックにおける絶縁破壊は、プラズマ等による損傷や繰り返しの使用による劣化で徐々に生じ易くなる。したがって、これらの評価により絶縁破壊が緩やかに進行する特性が得られていれば、静電チャックとして使用する際にも絶縁破壊が緩やかに進行する特性が得られる。
【0060】
(3)誘電率
複合焼結体の誘電率は、この複合焼結体を静電チャックの基材として使用する場合には、静電チャックの吸着力を高くするために高い方がよく、11以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。
誘電率が高い複合焼結体では、耐電圧が低くなる場合があるので、必要な特性に応じて適宜調整することが好ましい。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の複合焼結体によれば、複合焼結体の絶縁性材料中に分散している導電性粒子を、その体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10を0.2μm以下、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90を2μm以下、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が10体積%の粒子径D10に対する比(D90/D10)を3.0以上、累積体積百分率が90体積%の粒子径D90の累積体積百分率が50体積%の粒子径D50に対する比(D90/D50)を1.4以上としたので、この複合焼結体の絶縁性材料中に分散している導電物粒子の粒径分布を広くすることで、絶縁破壊形状のフラクタル次元を高くすることができ、この複合焼結体からなる誘電体材料の絶縁破壊を穏やかに進行させることができる。したがって、この複合焼結体からなる誘電体材料の使用前もしくは使用中に、その電気抵抗を測定することにより、この電気抵抗の値から絶縁破壊の予兆を知ることができる。その結果、この複合焼結体からなる誘電体材料の絶縁破壊を事前に予測することができる。
【0062】
また、複合焼結体にフラクタル性が高い材料を使用することで、絶縁破壊による電流を分散させることができ、絶縁破壊が生じた場合でも、この複合焼結体上に載置されるウエハ中のデバイスへのダメージを無くすことができる。
また、フラクタル性が高い複合焼結体を使用することで、絶縁破壊が緩やかに進行する特性が得られ易くなる。
また、複合焼結体の絶縁性材料中に分散している導電物粒子の粒径分布を広くすることで、高い耐電圧を保ったまま、誘電率を高くすることができる。したがって、この複合焼結体をクーロン力型静電チャックに適用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
「実施例1」
平均粒子径0.05μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径1.0μmの炭化ケイ素(SiC)粉体とを、質量比で50:45:5の割合で混合してSiC混合粉体を得た。
次いで、このSiC混合粉体が8体積%、平均粒子径0.1μmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)粉体が92体積%となるように秤量し、これらSiC混合粉体及びAl
2O
3粉体を純水に投入し、超音波分散機にて5時間分散処理した後、遊星式ボールミルにてさらに4時間分散処理し、分散液を得た。
【0065】
次いで、この分散液をスプレードライヤーを用いて200℃にて乾燥し、Al
2O
3−SiC複合粉体を得た。
次いで、このAl
2O
3−SiC複合粉体を、ホットプレスを用いて、アルゴン(Ar)雰囲気下、1650℃、圧力25MPaにて2時間焼成を行い、Al
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
この複合焼結体を直径100mm、厚み1.0mmの円盤状に加工し、実施例1のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0066】
「実施例2」
SiC混合粉体を11体積%、Al
2O
3粉体を89体積%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0067】
「実施例3」
SiC混合粉体を9体積%、Al
2O
3粉体を91体積%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0068】
「実施例4」
平均粒子径0.05μmのSiC粉体を9体積%、平均粒子径0.1μmのAl
2O
3粉体を91体積%とし、さらに、焼成温度を1800℃、圧力を40MPaとし、超音波分散機での分散処理の後に遊星式ボールミルでの分散処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、実施例4のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0069】
「実施例5」
平均粒子径0.03μmのSiC粉体と、平均粒子径0.05μmのSiC粉体と、平均粒子径0.1μmのSiC粉体とを、質量比で1:1:1の割合で混合してSiC混合粉体を得た。
次いで、このSiC混合粉体が10体積%、平均粒子径0.1μmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)粉体が90体積%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0070】
なお、SiC混合粉体の含有率(10体積%)は、SiC混合粉体の含有量を4体積%から13体積%まで1体積%間隔で変えた試料を作製し、これらの試料を用いて実施例1と同様にして複合焼結体を作製した場合に、電気的特性が絶縁体から導電体へと変わる含有率より3体積%少ない含有率である10体積%とした。
【0071】
「実施例6」
SiC混合粉体を5体積%、Al
2O
3粉体を95体積%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例6のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0072】
「実施例7」
SiC混合粉体を12体積%、Al
2O
3粉体を88体積%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例7のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0073】
「実施例8」
実施例1と同様にしてSiC混合粉体を得た。
次いで、このSiC混合粉体が10体積%、平均粒子径0.1μmの酸化イットリウム(Y
2O
3)粉体が90体積%となるように秤量し、これらSiC混合粉体及びY
2O
3粉体を、テフロン(登録商標)ボール及びポリエチレンポットを用いたボールミル中のイオン交換水に投入し、48時間分散処理して、分散液を得た。
【0074】
次いで、この分散液をスプレードライヤーを用いて200℃にて乾燥し、Y
2O
3−SiC複合粉体を得た。
次いで、このY
2O
3−SiC複合粉体を、ホットプレスを用いて、アルゴン(Ar)雰囲気下、1600℃、圧力40MPaにて1時間焼成を行い、Y
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
この複合焼結体を直径100mm、厚み1.0mmの円盤状に加工し、実施例8のY
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0075】
なお、SiC混合粉体の含有率(10体積%)は、SiC混合粉体の含有量を8体積%から15体積%まで1体積%間隔で変えた試料を同様の方法で作製して複合焼結体を作製した場合に、電気的特性が絶縁体から導電体へと変わる含有率より3体積%少ない含有率である10体積%とした。
【0076】
「実施例9」
実施例1と同様にしてSiC混合粉体を得た。
次いで、このSiC混合粉体が9体積%、平均粒子径0.2μmの窒化ケイ素(Si
3N
4)粉体が85体積%、焼結助剤として平均粒子径0.05μmの酸化イットリウム(Y
2O
3)粉体が6体積%となるように秤量し、これらSiC混合粉体、Si
3N
4粉体及びY
2O
3粉体を、テフロン(登録商標)ボール及びポリエチレンポットを用いたボールミル中のエタノールに投入し、48時間分散処理して、分散液を得た。
【0077】
次いで、エバポレータを用いて、上記の分散液からエタノールを抽出し、その後真空乾燥させてSi
3N
4−SiC複合粉体を得た。
次いで、このSi
3N
4−SiC複合粉体を、ホットプレスを用いて、窒素(N
2)雰囲気下、1800℃、圧力35MPaにて2時間焼成を行い、Si
3N
4−SiC複合焼結体を作製した。
この複合焼結体を直径100mm、厚み1.0mmの円盤状に加工し、実施例9のSi
3N
4−SiC複合焼結体を作製した。
【0078】
なお、SiC混合粉体の含有率(9体積%)は、SiC混合粉体の含有量を5体積%から15体積%まで1体積%間隔で変えた試料を同様の方法で作製して複合焼結体を作製した場合に、電気的特性が絶縁体から導電体へと変わる含有率より3体積%少ない含有率である9体積%とした。
【0079】
「比較例1」
市販の純度99.9%のAl
2O
3焼結体を、直径100mm、厚み1.0mmの円盤状に加工し、比較例1のAl
2O
3焼結体を作製した。
【0080】
「比較例2」
SiC混合粉体の替わりに、平均粒子径0.3μmの炭化ケイ素(SiC)粉体のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0081】
「比較例3」
平均粒子径0.05μmのSiC粉体を9体積%、平均粒子径0.1μmのAl
2O
3粉体を91体積%とし、実施例1と同様にして、比較例3のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0082】
「比較例4」
SiC混合粉体を1体積%、Al
2O
3粉体を99体積%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例4のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0083】
「比較例5」
SiC混合粉体を13体積%、Al
2O
3粉体を87体積%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例5のAl
2O
3−SiC複合焼結体を作製した。
【0084】
「比較例6」
平均粒子径0.1μmの酸化イットリウム(Y
2O
3)粉体を、ホットプレスを用いて、アルゴン(Ar)雰囲気下、1600℃、圧力40MPaにて1時間焼成を行い、Y
2O
3焼結体を作製した。
この焼結体を直径100mm、厚み1.0mmの円盤状に加工し、比較例6のY
2O
3焼結体を作製した。
【0085】
「比較例7」
平均粒子径0.2μmの窒化ケイ素(Si
3N
4)粉体が93体積%、焼結助剤として平均粒子径0.05μmの酸化イットリウム(Y
2O
3)粉体が7体積%となるように秤量し、これらSi
3N
4粉体及びY
2O
3粉体を、テフロン(登録商標)ボール及びポリエチレンポットを用いたボールミル中のエタノールに投入し、48時間分散処理して、分散液を得た。
【0086】
次いで、エバポレータを用いて、上記の分散液からエタノールを抽出し、その後真空乾燥させてSi
3N
4粉体を得た。
次いで、このSi
3N
4粉体を、ホットプレスを用いて、窒素(N
2)雰囲気下、1800℃、圧力35MPaにて2時間焼成を行い、Si
3N
4焼結体を作製した。
この焼結体を直径100mm、厚み1.0mmの円盤状に加工し、比較例7のSi
3N
4焼結体を作製した。
【0087】
「複合焼結体または焼結体の評価」
(1)粒子径及び粒度分布
実施例1〜9及び比較例2〜5各々の複合焼結体中のSiC粒子の粒子径及び粒度分布をSEM観察法により測定した。
ここでは、SiC粒子の粒子径D10、D50、D90、比(D90/D50)及び比(D90/D10)を測定により求めた。
測定結果を表1に示す。
【0088】
なお、SEM観察法による測定では0.04μm以下の粒子は判別出来ない場合があるので、実施例1〜9及び比較例2〜5各々の複合焼結体について「導電性微粒子の有無」、すなわち、複合焼結体中に0.04μm以下の導電性微粒子が0.001%以上かつ5%以下含まれているか否かをTEM観察法により観察した。
ここでは、500個の導電性粒子それぞれの粒子径を測定し、0.04μm以下の導電性微粒子が0.001%以上かつ5%以下含まれている場合を導電性微粒子が有ると判断して「○」とし、この導電性微粒子が0.001%以上かつ5%以下含まれていない場合を導電性微粒子が無いと判断して「×」とした。
【0089】
(2)耐電圧及び絶縁破壊時間
実施例1〜9及び比較例1〜7各々の複合焼結体または焼結体を35mm角のシリコンウェハにて電極間の沿面放電が生じない様に挟み、10kV/mmまでは1kV/mm毎に、10kV/mm以上では0.5kV/mm毎に、所定の測定電圧まで電圧を上げ、この所定の測定電圧を印加した1分間保持後の電流値を測定した。
ここでは、1分保持後の電流値が1nA/cm
2以下の場合には、さらに1kV/mmまたは0.5kV/mm電圧を上げて測定を続けた。
また、電流値が1nA/cm
2以上の場合で、1分経過後の電流計の値が下がっていく場合には、1nA/cm
2に下がるまで保持してから電圧を上げて測定を続けた。
【0090】
また、電流値が上昇している場合で、かつ100nA/cm
2を超えている場合には、その印加電圧を耐電圧値とし、絶縁破壊時間は1秒以下とした。
電流値が上昇している場合で電流値が100nA/cm
2以下の場合には、電圧の保持を開始した時間から100nA/cm
2に到達するまでの時間を絶縁破壊時間とした。
また、保持後1分以上経過しても100nA/cm
2を超えない場合には、保持した電圧を耐電圧値とし、絶縁破壊時間を60秒以上とした。
測定結果を表2に示す。
【0091】
(3)絶縁破壊のフラクタル性
耐電圧特性の測定箇所に12mm角のシリコンチップを電極として載置し、この電極を用いて複合焼結体または焼結体の電流値の分布を測定し、絶縁破壊のフラクタル性の評価を行った。
ここでは、印加する電圧は、耐電圧値の値を上限とし100nA/cm
2以上となっていることが確認できた時点で、その測定点の測定を終了した。この動作を繰り返し行い、絶縁破壊試験を行った場所から9点の電流値を測定した。
【0092】
測定した9点における電流値の最大値と最小値の比(Amax/Amin)が1000以下である場合にはフラクタル性があると判断し、評価結果を「○」とした。
また、電流値の最大値と最小値の比(Amax/Amin)が1000より大きい場合には、絶縁破壊がピンホール状に生じていることを確認するために、詳細な電流値の分布を測定した。そこで、12mm角のシリコンチップを2mm間隔で移動させながら測定し、100nA/cm
2以上の電流値となる領域の面積を求め、この面積が4mm
2以下の点状である場合には絶縁破壊がピンホール状に生じているのでフラクタル性が無いと判断し、評価結果を「×」とした。なお、絶縁破壊が生じている場所が破損などにより目視で確認できる場合であってもフラクタル性が無いと判断されるので、この場合も評価結果を「×」とし、それ以外の場合で絶縁破壊がピンホール状に生じていないが絶縁破壊により生じた電流のばらつきが大きい場合は「△」とした。
測定結果を表2に示す。
【0093】
(4)誘電率
実施例1〜9及び比較例1〜7各々の複合焼結体または焼結体の1kHzにおける誘電率を、誘電体測定システム 126096W(東陽テクニカ社製)を用いて測定した。
測定結果を表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】