(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゴム含有重合体(B)が、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a2)から選ばれる1種以上の単量体と、架橋性単量体(a4)とを含む単量体(a)を重合して得られた弾性重合体(B1)の存在下で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(b1)を含む単量体(b)を重合して得られた、請求項1に記載の積層フィルム。
ゴム含有重合体(B)がグラフト重合体であり、弾性重合体(B1)100質量%中のグラフト交叉剤単位の含有率が1.2質量%以上である、請求項1に記載の積層フィルム。
弾性重合体(B1)中の、アルキルアクリレート(a1)単量体単位とアルキルメタクリレート(a2)単量体単位の合計の含有率が80質量%以上である、請求項6に記載の積層フィルム。
弾性重合体(B1)中の、アルキルアクリレート(a1)単量体単位/アルキルメタクリレート(a2)単量体単位の含有比が、50/50〜100/0(質量比)である、請求項6に記載の積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の積層フィルム及びその製造方法の好ましい形態について説明する。尚、本発明において、フィルムとは厚さが0.01〜0.5mm程度の平板材料であって、シート状物と称されるものも含まれる。
【0010】
<積層フィルム>
本発明の積層フィルムは、フッ素系樹脂(X)を含む層と、アクリル系樹脂組成物(Y)を含む層とからなる。
以下では、フッ素系樹脂(X)を含む層を「(X)層」、アクリル系樹脂組成物(Y)を含む層を「(Y)層」と記す場合がある。
【0011】
積層フィルムは、(X)層と(Y)層とからなる2層構成、又は(Y)層の両側に(X)層が存在する3層構成とすることができる。
積層フィルムは、耐溶剤性、透明性の観点から(X)層/(Y)層の厚さの比率が、5〜50/50〜95であることが好ましい。コストの観点から、5〜30/70〜95がより好ましく、5〜15/75〜95が更に好ましい。
積層フィルムの厚さは、特に制限されないが、500μm以下(例えば、10〜500μm)が好ましい。積層成形品に用いるフィルムの場合、その厚さは30〜400μmが好ましい。この厚さが30μm以上であると、成形時の取り扱いが容易になる。一方、厚さが400μm以下であると、適度な剛性を有することになるので、ラミネート性、二次加工性等が向上する。また、単位面積あたりの質量の点で、経済的に有利になる。さらには、製膜性が安定してフィルムの製造が容易になる。30〜200μmがより好ましい。
尚、本発明において、各層の厚さは、積層フィルムを断面方向に70nmの厚さに切断したサンプルを、透過型電子顕微鏡にて観察し、5箇所でそれぞれの厚さを測定し、それらを平均することで算出する。透過型電子顕微鏡の市販品としては、例えば日本電子(株)製J100S(商品名)が挙げられる。
【0012】
<フッ素系樹脂(X)>
本発明のフッ素系樹脂(X)は、フッ化ビニリデン系樹脂(F)である。
フッ化ビニリデン系樹脂(F)は、フッ化ビニリデン単位を含む樹脂であればよく、フッ化ビニリデン単位のみからなる単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)や、フッ化ビニリデン単位を含む共重合体を用いることができる。
フッ化ビニリデン系樹脂(F)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
以下では、フッ化ビニリデン系樹脂(F)を「樹脂(F)」と記す場合がある。
【0013】
樹脂(F)の質量平均分子量(Mw)は、耐薬品性の点から10万以上が好ましく、製膜性の点から30万以下が好ましい。
前記共重合体中のフッ化ビニリデン単位の含有率は、樹脂(F)と後述するアクリル系樹脂(A)との相溶性の点から85質量%以上が好ましい。
【0014】
樹脂(F)が共重合体の場合、フッ化ビニリデンと共重合させる共重合成分としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
しかしながら、透明性及び耐熱性に優れた積層フィルムが得られる点から、樹脂(F)は、ポリフッ化ビニリデンであることが好ましい。
【0015】
樹脂(F)は、高い結晶融点を有することが好ましい。具体的には、耐熱性の点から150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。また、結晶融点の上限は、耐熱性の点からポリフッ化ビニリデンの結晶融点に等しい175℃程度であることが好ましい。
尚、「結晶融点」とは、JIS K7121、3.(2)に記載の方法に準拠して測定される「融解ピーク温度」を意味する。
【0016】
樹脂(F)の市販品としては、例えば、アルケマ(株)製のKynar720(フッ化ビニリデンの含有率:100質量%、結晶融点:169℃)、Kynar710(フッ化ビニリデンの含有率:100質量%、結晶融点:169℃);(株)クレハ製のKFT#850(フッ化ビニリデンの含有率:100質量%、結晶融点:173℃);ソルベイスペシャリティポリマーズ(株)製のSolef1006(フッ化ビニリデンの含有率:100質量%、結晶融点:174℃)、Solef1008(フッ化ビニリデンの含有率:100質量%、結晶融点:174℃)が挙げられる。
【0017】
樹脂(F)は、モノマーの結合様式として、頭−頭結合(head to head)、尾−尾結合(tail to tail)、頭−尾結合(head to tail)の3種の結合様式があり、頭−頭結合及び、尾−尾結合は「異種結合」と呼ばれる。
積層フィルムの耐薬品性を向上させる点から、樹脂(F)における「異種結合の比率」は10質量%以下が好ましい。異種結合の比率を低くする点から、樹脂(F)は懸濁重合により製造された樹脂であることが好ましい。
【0018】
「異種結合の比率」は、樹脂(F)の
19F−NMRスペクトルの回折ピークから求めることができる。具体的には、樹脂(F)40mgを重水素ジメチルホルムアミド(D
7−DMF)0.8mlに溶解し、室温下で
19F−NMRを測定する。得られた
19F−NMRスペクトルは、−91.5ppm、−92.0ppm、−94.7ppm、−113.5ppm及び−115.9ppmの位置に主要な5本のピークを有する。
これらのピークのうち、−113.5ppm及び−115.9ppmのピークが異種結合に由来するピークと同定される。従って、5本の各ピーク面積の合計をS
T、−113.5ppmの面積をS
1、−115.9ppmの面積をS
2として、異種結合の比率は次式により算出される。
異種結合の比率 = [{(S
1+S
2)/2}/S
T]×100(%)。
【0019】
樹脂(F)は、積層フィルムの透明性を損なわない程度に、艶消し剤を含むことができる。艶消し剤としては、有機及び無機の艶消し剤が使用可能である。
【0020】
<フッ素系樹脂(X)を含む層>
本発明のフッ素系樹脂(X)を含む層は、フッ化ビニリデン系樹脂(F)単独、又はフッ化ビニリデン系樹脂(F)とアクリル系樹脂(A)とのポリマーブレンドからなる。
アクリル系樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
耐薬品性の点から、ポリマーブレンドからなるフッ素系樹脂(X)を含む層は、樹脂(F)を50〜95質量%、アクリル系樹脂(A)を5〜50質量%含有することが好ましい。樹脂(F)が50質量%以上であれば、積層フィルムの耐薬品性が良好となり、また樹脂(F)が95質量%以下であれば積層フィルムのコストが抑えられる。樹脂(F)/アクリル系樹脂(A)が55〜95/5〜45質量%がより好ましく、60〜95/5〜40質量%が更に好ましい。
樹脂(F)とアクリル系樹脂(A)の比率は、ガスクロマトグラフ質量分析によって測定することができる。
尚、このポリマーブレンド中には、後述の配合剤を添加することができる。
【0022】
<アクリル系樹脂(A)>
本発明のアクリル系樹脂(A)は、アクリル系の単量体単位を主成分とする重合体である。
アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg)が95〜120℃であることが好ましく、95〜115℃がより好ましい。Tgが95℃以上であれば、積層フィルムの表面硬度が良好となる。また、Tgが120℃以下であれば、積層フィルムの成形性が良好となる。
【0023】
ここで、Tgは、DSC(示差走査熱量分析計)によって測定できる。
「ガラス転移温度」はJIS K7121、3.(2)に記載の方法に準拠して昇温速度10℃/分の条件で昇温を行ない、「補外ガラス転移開始温度」として測定される温度である。
以下では、アクリル系樹脂(A)を「樹脂(A)」と記す場合がある。
【0024】
樹脂(A)は、アルキル(メタ)アクリレートから得られる重合体であり、アルキルメタクリレート単位を70質量%以上含む重合体であることが好ましい。
樹脂(A)中のアルキルメタクリレート単位の含有率は、積層フィルムの表面硬度及び耐熱性の点から80質量%以上がより好ましく、積層フィルムの耐熱分解性の点から99質量%以下が好ましい。85質量%以上、99質量%以下が更に好ましい。
【0025】
また、樹脂(A)と樹脂(F)との相溶性の点から、樹脂(A)中のアルキルメタクリレート単位及びアルキルアクリレート単位の合計含有率は、80質量%以上が好ましい。
【0026】
樹脂(A)の原料となる単量体としては、表面硬度の高い積層フィルムを得る点から、その単独重合体のTgが95℃以上であるアルキルメタクリレートを用いることが好ましい。
この要件を満たすアルキルメタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
尚、アルキルメタクリレートのアルキル基は分岐状でもよく、直鎖状でもよい。また、アルキルメタクリレートのアルキル基の炭素数は、積層フィルムの耐熱性の点から4以下が好ましい。
【0028】
樹脂(A)は、アルキルメタクリレートから得られる重合体であってもよく、アルキルメタクリレートと、他の単量体(例えば、メタクリル酸やスチレン。)とから得られる重合体であってもよい。
【0029】
樹脂(A)のMwは、積層フィルムの機械的特性の点から3万以上が好ましく、積層フィルムの成形性の点から20万以下が好ましい。5万以上、15万以下がより好ましく、7万以上、15万以下が更に好ましい。
尚、樹脂(A)は、積層フィルムの透明性を損なわない程度に、後述するゴム含有重合体(B)を含んでもよい。
【0030】
<アクリル系樹脂組成物(Y)を含む層>
アクリル系樹脂組成物(Y)は、アルキル(メタ)アクリレート単位を含有する(共)重合体を含む樹脂組成物を意味する。
アクリル系樹脂組成物(Y)は、下記のゴム含有重合体(B)を含有することが好ましく、耐ストレス白化性の観点からゴム含有重合体(B)を80質量%以上含むことが好ましい。機械強度の観点から90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
アクリル系樹脂組成物(Y)は、積層フィルムの機械強度を損なわない程度にアクリル系樹脂(A)を含んでいてもよい。積層フィルムの機械強度の観点から、アクリル系樹脂(A)を0〜20質量%含むことが好ましい。耐ストレス白化の点から0〜10質量%が好ましく、0〜5質量%がより好ましい。
【0031】
<ゴム含有重合体(B)>
本発明のゴム含有重合体(B)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a2)から選ばれる1種以上の単量体と、架橋性単量体(a4)とを含む単量体(a)を重合して得られる弾性重合体(B1)の存在下で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(b1)を含む単量体(b)を重合して得られる。
【0032】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)は、アルキル基が、直鎖状、分岐状の何れでもよい。具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
この中では、Tgが低いアルキルアクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレートがより好ましい。Tgが低ければ、弾性重合体(B1)が良好な柔軟性を有し、かつ容易に成形できる。
【0033】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a2)は、アルキル基が、直鎖状、分岐状の何れでもよい。具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
アルキルアクリレート(a1)とアルキルメタクリレート(a2)は、何れか一方のみを用いてもよく、双方を組み合わせて用いてもよい。弾性重合体(B1)の原料として用いる単量体(a)100質量%中、アルキルアクリレート(a1)の比率は、得られる積層フィルムの柔軟性が良好となることから、35質量%以上が好ましい。積層フィルムの柔軟性の観点から45質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。
【0035】
弾性重合体(B1)の原料として用いる単量体(a)として、アルキルアクリレート(a1)及びアルキルメタクリレート(a2)以外の、他のビニル単量体(a3)を併せて用いることもできる。
他のビニル単量体(a3)としては、例えば、炭素数9以上のアルキル基を有するアルキルアクリレート、アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート等のアクリレート単量体;アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
【0036】
架橋性単量体(a4)は、アルキルアクリレート(a1)及び/又はアルキルメタクリレート(a2)と架橋構造を形成して、重合体にゴム弾性を付与すると共に、硬質重合体(B)との間に架橋を形成する成分である。中でも、更にグラフト交叉を生じる機能を有するグラフト交叉剤が好ましい。
このような機能を有するものとして、例えば、共重合性のα、β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリル又はクロチルエステルが挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はフマル酸のアリルエステルが好ましい。
中でも、アリルメタクリレートが優れた効果を奏する。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートも有効である。
【0037】
グラフト交叉剤は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基又はクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。この間アリル基、メタリル基又はクロチル基の実質上のかなりの部分は次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与えるものである。
【0038】
尚、架橋性単量体(a4)は、上述のように得られる成形体にゴム弾性を付与したり、グラフト交叉を生じたりする単量体に限定されず、耐熱性向上のための架橋性単量体であってもよい。
例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンが挙げられる。
このように架橋性単量体(a4)は、多様な化合物を選択し得るが、耐ストレス白化性を好適に発現するためには、アリルメタクリレート等のグラフト交叉剤の使用が好ましい。
【0039】
以上の単量体(a1)〜(a4)の合計100質量%中、アルキルアクリレート(a1)とアルキルメタクリレート(a2)の合計量は、耐候性向上等の点で80〜100質量%、単量体(a3)の量は0〜20質量%が好ましい。また、耐ストレス白化等の観点から単量体(a1)単位/単量体(a2)単位の含有比は、50/50〜100/0(質量比)であることが好ましい。耐ストレス白化の観点から、単量体(a3)の量は0〜12質量%がより好ましい。
【0040】
架橋性単量体(a4)の量は、単量体(a1)〜(a4)の合計100質量%中、0.4〜2.0質量%が好ましく、0.6〜1.8質量%がより好ましい。この量が0.4質量%以上であれば、弾性重合体(B1)と硬質重合体(B2)との間の架橋が安定となり、充分な透明性が発現する。また、ゴム弾性をより向上でき、得られる積層フィルムの耐衝撃性が増大する。逆に2.0質量%以下であれば、架橋を適度に制御でき、得られる積層フィルムの柔軟性が好適に発現する。
【0041】
弾性重合体(B1)は2段以上に分けて重合してもよい。その場合、組成の異なる単量体混合物を重合してもよい。2段以上に分けて重合することで、最終的に得られるゴム含有重合体(B)の粒子径の制御が容易になる。
弾性重合体(B1)を、例えば2段に分けて重合する場合、第一弾性重合体(B1−1)と第二弾性重合体(B1−2)とは、グラフト交叉剤によって二層間にグラフト結合を有することが好ましい。
弾性重合体(B1)が、2段以上に分けて重合され、隣接する二層間にグラフト結合を有するグラフト重合体であれば、ゴム含有重合体(B)の粒子径の制御が容易となり、得られる積層フィルムの耐ストレス白化性を好適に発現することができる。
【0042】
弾性重合体(B1)は、弾性重合体(B1)100質量%中のグラフト交叉剤単位の含有率が1.2質量%以上であることが好ましい。グラフト交叉剤単位の含有率が1.2質量%以上であれば、第一弾性重合体(B1−1)と第二弾性重合体(B1−2)の層間、また、弾性重合体(B1)と硬質重合体(B2)の層間の架橋が安定となり、積層フィルムの耐ストレス白化性が好適に発現する。
【0043】
弾性重合体(B1)は、乳化重合、懸濁重合等の重合法により得られる。乳化重合による場合、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができる。
乳化剤としては、アニオン系、カチオン系又はノニオン系の界面活性剤が用いられ、特にアニオン系界面活性剤が好ましい。
アニオン系界面活性剤の具体例としては、ロジン酸石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が挙げられる。
【0044】
乳化液を調製する方法としては、例えば、水中に単量体混合物を仕込んだ後に界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後に単量体混合物を投入する方法、単量体混合物中に界面活性剤を仕込んだ後に水を投入する方法が挙げられる。この中では、水中に単量体混合物を仕込んだ後に界面活性剤を投入する方法、及び、水中に界面活性剤を仕込んだ後に単量体混合物を投入する方法が好ましい。
【0045】
重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;これら過硫酸塩又は有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。
この中では、レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤がより好ましい。
重合開始剤は、水相及び単量体相の何れか一方又は両方に添加することができる。
【0046】
重合開始剤の量は、単量体(a1)〜(a4)の合計100質量部に対して、0.05〜1.0質量部が好ましく、0.1〜0.6質量部がより好ましい。重合開始剤量が0.05質量部以上であれば、機械強度が良好な積層フィルムが得られる。また、1.0質量部以下であれば、流動性が良好になり、アクリル系樹脂組成物(Y)を溶融押出して成形する際の成形性が良好になる。
【0047】
連鎖移動剤の具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素が挙げられる。連鎖移動剤は、硬質重合体(B2)の重合時に混在させることが好ましく、n−オクチルメルカプタンが好ましい。
【0048】
重合温度は、重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、より好ましくは60〜95℃である。
【0049】
弾性重合体(B1)の重合に先立って、Tgが0℃を超える芯部を重合してもよい。芯部はゴム含有重合体(B)中、ポリマー粒子径生成の安定性の点で0〜10質量%が好ましい。
芯部は炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)10〜50質量%、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a2)20〜70質量%、他のビニル単量体(a3)0〜10質量%、架橋性単量体(a4)0.1〜10質量%とを含む単量体(a)((a1)〜(a4)の合計が100質量%)を重合して得られるものが好ましい。
【0050】
ゴム含有重合体(B)は、上述の弾性重合体(B1)の存在下で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(b1)を含む単量体(b)を重合することにより得られる。単量体(b)は重合して硬質部(B2)を形成する。
アルキルメタクリレート(b1)の具体例としては、アルキルメタクリレート(a2)の具体例と同じものが挙げられる。それらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
単量体(b)として、アルキルメタクリレート(b1)以外の、他の単量体(b2)を併せて用いることもできる。他の単量体(b2)の具体例としては、アルキルアクリレート(a1)及び他のビニル単量体(a3)の具体例と同じものが挙げられる。それらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
単量体(b)100質量%中、アルキルメタクリレート(b1)の含有率は70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。これにより、硬質部(B2)のTgを適度に高くすることができる。
【0052】
単量体(b)は2段以上に分けて重合してもよい。その場合、組成の異なる単量体混合物を重合してもよい。
単量体(b)の重合反応は、弾性重合体(B1)の重合反応終了後、得られた重合液をそのまま用いて、単量体(b)を添加して、引き続き重合を行なうことが好ましい。
この重合における乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤の具体例は、弾性重合体(B1)の重合における具体例と同じである。
【0053】
連鎖移動剤の量は、単量体(b)100質量部に対して、0.1〜2質量部が好ましく、0.2〜1質量部がより好ましい。連鎖移動剤の量が0.1質量部以上であれば、成形体の柔軟性が高くなる。また、2質量部以下であれば、成形体の機械的強度が高くなる。
【0054】
弾性重合体(B1)のTgは0℃以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。Tgが0℃以下であれば、得られる積層フィルムが、好ましい耐衝撃性を有する。このTgは、動的粘弾性測定装置を用いて次のように測定、算出した値である。
試験片を幅6mm、厚さ1mmのシートに成形し、動的粘弾性測定装置を用いて、ISO6721−4に準拠して、初期チャック間距離2cm、測定周波数0.1Hz、測定温度範囲−90〜150℃、昇温速度2℃/分、窒素気流200mL/分の条件で、引張モードで貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の値を測定し、tanδ=E’’/E’の式に従って、各温度におけるtanδ(損失正接)の値を算出する。
次にtanδの値を温度に対してプロットすると、二つ以上のピークが現れる。このうちの最も低温で現れるピークに対応する温度を、弾性重合体のTgとする。
【0055】
硬質部(B2)のTgは70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。このようなTgを有することにより、成形性に優れるアクリル系樹脂組成物(Y)が得られ、かつ積層フィルムの耐熱性が高く、低温環境下での加工性が良好となる。
硬質部(B2)のTgは、弾性重合体(B1)のTgの測定法と同様の動的粘弾性測定において、最も高温で現れるピークに対応する温度である。
【0056】
また、弾性重合体(B1)の重合反応終了後、単量体(b)の重合を行なう前に、弾性重合体(B1)を構成する単量体の組成から、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)の比率を徐々に減じ、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a2)の比率を徐々に増加させた組成の単量体を順次重合して、中間部(B3)を形成することもできる。
【0057】
中間部(B3)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(c1)、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(c2)、他の単量体(c3)、架橋性単量体(c4)を構成成分とすることが好ましい。
単量体(c1)〜(c4)の具体例は、単量体(a1)〜(a4)の具体例と同じである。
単量体(c1)〜(c4)の合計を100質量%とした場合、得られる積層フィルムの耐熱性、耐ストレス白化性の点から、単量体(c1)10〜90質量%、単量体(c2)10〜90質量%、単量体(c3)0〜20質量%、単量体(c4)0〜10質量%が好ましい。単量体(c1)20〜80質量%、単量体(c2)20〜80質量%、単量体(c3)0〜10質量%、単量体(c4)0〜5質量%がより好ましい。
【0058】
ゴム含有重合体(B)100質量%中における中間部(B3)の比率は、得られる積層フィルムの意匠性の点から0〜35質量%が好ましく、耐ストレス白化の点から5〜15質量%がより好ましい。
中間部(B3)が含有される場合、耐ストレス白化の点から弾性重合体(B1)/中間部(B3)/硬質部(B2)の比率は、25〜45質量%/5〜15質量%/50〜70質量%が好ましい。
【0059】
ゴム含有重合体(B)100質量%中における弾性重合体(B1)の比率は、30質量%以上が好ましく、50〜70質量%がより好ましい。弾性重合体(B1)の比率が30質量%以上であれば、得られる積層フィルムの機械強度や柔軟性が向上し、クラックや折曲げた際の白化を抑制できる。また、基材にラミネートして折曲加工した際に白化や剥れ、破断を抑制できる。
弾性重合体(B1)の比率が70質量%以下であれば、得られる積層フィルムは厚さ精度に優れ、成形時の生産性が低下しない。
【0060】
ゴム含有重合体(B)100質量%中における硬質部(B2)の比率は、70質量%以下が好ましく、20〜60質量%がより好ましく、30〜50質量%が更に好ましい。硬質部(B2)の比率が20質量%以上であれば、成形時の流動性が向上し、膜厚精度の高い積層フィルムの製造が容易となる。70質量%以下であれば積層フィルムの柔軟性が増し、成形加工性が向上する。
【0061】
乳化重合法を用いた場合、重合反応終了後のラテックスからゴム含有重合体(B)を粉体として回収する。粉体として回収する方法としては、例えば、ラテックスを凝固剤と接触させて凝固又は塩析し、固液分離し、重合体の1〜100質量倍程度の水で洗浄し、濾別等の脱水処理により湿潤状の粉体とし、更にこの湿潤状の粉体を圧搾脱水機や流動乾燥機等の熱風乾燥機で乾燥させる方法が挙げられる。
その他、スプレードライ法によりラテックスを直接乾燥させてもよい。重合体の乾燥温度、乾燥時間は重合体の種類によって適宜決定できる。
【0062】
凝固剤の具体例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸カリウム、ギ酸カルシウム等の有機塩;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩が挙げられる。中でも、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩が好ましい。
特に、成形体の耐温水白化性の点、また回収される粉体の含水率を低くする点から、酢酸カルシウムがより好ましい。
凝固剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0063】
凝固剤は、通常、水溶液として用いられる。凝固剤、好ましくは酢酸カルシウムの水溶液の濃度は、安定してアクリル樹脂組成物を凝固、回収できる点から、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、酢酸カルシウムの水溶液の濃度は、回収した粉体に残存する凝固剤の量が少なく、特に耐温水白化性、着色性等の積層フィルムの性能を殆ど低下させない点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
尚、酢酸カルシウムは、濃度が20質量%を超えると10℃以下では飽和により酢酸カルシウムが析出することがある。
【0064】
ラテックスを凝固剤に接触させる方法としては、例えば、凝固剤の水溶液を攪拌しながら、そこにラテックスを連続的に添加して一定時間攪拌を継続する方法や、凝固剤の水溶液とラテックスとを一定の比率で攪拌機付きの容器に連続的に注入しながら接触させ、凝固した粉体と水とを含む混合物を容器から連続的に抜き出す方法がある。
凝固剤の水溶液の量は、ラテックス100質量部に対して10〜500質量部が好ましい。凝固工程の温度は得られた凝固粉のブロッキングの点から、30〜100℃が好ましい。
【0065】
ゴム含有重合体(B)のアセトン可溶分のMwは、25000〜70000が好ましく、30000〜65000がより好ましい。Mwが25000以上であれば、得られる積層フィルムの機械強度が向上し、成形加工時の割れを抑制できる。また、折曲加工時の破断や白化を抑制できる。
Mwが70000以下であれば、得られる積層フィルムは柔軟性が高く、加工性に優れる。すなわち積層フィルムを鋼板等の基材に貼り合わせた後、曲げ加工する際に曲部で白化が発生せず、得られる各種部材の外観が良好となる。
【0066】
このMwは、ゴム含有重合体(B)中のアセトン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した値である。具体的には、以下の方法による測定値を採用する。
[1]ゴム含有重合体(B)1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で4時間還流させてアセトン可溶分を得る。
[2]得られた抽出液を、CRG SERIES((株)日立製作所製)を用いて、4℃で14000rpm×30分間遠心分離を行なう。
[3]アセトン不溶分をデカンテーションで取り除き、真空乾燥機にて50℃×24時間乾燥させて得られたアセトン可溶分について、以下の条件でGPC測定を行ない、標準ポリスチレンによる検量線からMwを求める。
装置 :東ソー(株)製「HLC8220」
カラム:東ソー(株)製「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」(内径4.6mm×長さ15cm×2本、排除限界4×10
7(推定))
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
測定温度 :40℃
試料注入量:10μL(試料濃度0.1%)
【0067】
ゴム含有重合体(B)のアセトン可溶分のMwは、重合時に連鎖移動剤の量を適宜変更することによって調整できる。連鎖移動剤は硬質重合体(B2)の重合時に混在させることが好ましい。
【0068】
アクリル系樹脂組成物(Y)のゲル含有率は50〜70質量%が好ましく、55〜70質量%がより好ましい。ゲル含有率が50質量%以上であれば、得られる積層フィルムの機械的強度が高く、取り扱いが容易である。また、ゲル含有率が70質量%以下であれば、成形時の流動性が高く、連続成形を可能とする。
ここで、アクリル系樹脂組成物(Y)のゲル含有率は、下記式により算出して求めることができる。
G=(m/M)×100 (%)
式中、G(%)はゲル含有率を示し、Mは所定量(抽出前質量ともいう)の樹脂組成物を示し、mは該所定量の樹脂組成物のアセトン不溶分の質量(抽出後質量ともいう)を示す。
【0069】
アクリル系樹脂組成物(Y)は、メルトテンションの値が好ましくは0.03N以上、より好ましくは0.04N以上である。メルトテンションとは、カレンダー成形性、押出成形性、ブロー成形性、発泡成形性等の成形加工性を判断する指標の一つであり、メルトテンションの向上は成形加工性の向上とみなし得る。
アクリル系樹脂組成物(Y)のメルトテンションが上記範囲内であれば、溶融押出成形やカレンダー成形において引取り性が良好であり、破断し難くなる。また、フィルム状に溶融押出する場合に、吐出量が低下して生産性が悪化することを防止でき、更にフィルムの厚さ精度も良好になる。
このメルトテンションは、キャピラリー径φ=1mm、L/D=16、温度230℃の条件で、一定速度(1.57cm
3/分)で押出し、ストランドを一定速度(10m/分)で引取った際の値である。
【0070】
<配合剤>
本発明の積層フィルムは、必要に応じて配合剤を含有していてもよい。
配合剤としては、例えば、安定剤、滑剤
、耐衝撃助剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体が挙げられる。
例えば、重合液のラテックスに配合剤を添加し、配合剤と重合体の混合物を粉体化することができる。また、ラテックスの粉体化後に配合剤を混合してもよい。また、溶融押出によって積層フィルムを製造する場合は、成形機に付随する混練機に、ラテックスを粉体化したものと共に配合剤を供給してもよい。成形機に付随する混練機とは、例えば単軸押出機、二軸押出機である。
【0071】
本発明のアクリル系樹脂組成物(Y)は、例えば、まずゴム含有重合体(B)の全量の内の一部、及び必要に応じて配合剤を混合してマスターバッチを作製し、このマスターバッチを更にゴム含有重合体(B)の残部と混合する多段階配合により得ることもできる。
また、アクリル系樹脂組成物(Y)を溶融押出成形する場合は、まずゴム含有重合体(B)の全量の内の一部、及び必要に応じて配合剤を混合して単軸押出機又は二軸押出機に供給し、溶融混練してマスターバッチペレットを作製し、このマスターバッチペレットとゴム含有重合体(B)の残部とを混合して再び単軸押出機又は二軸押出機に供給し、溶融混練、溶融押出しを行ない、成形体を得ることもできる。
【0072】
積層フィルムが基材の保護を目的として基材に積層される場合、(Y)層には耐候性付与のために、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤の分子量は300以上が好ましく、400以上がより好ましい。分子量が300以上の紫外線吸収剤を使用すると、例えばフィルムを製造する際に転写ロール等に樹脂が付着してロール汚れが発生する等の不具合を抑制できる。
紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。
前者の市販品としては、BASFジャパン(株)製のTinuvin360、Tinuvin234;(株)ADEKA製のアデカスタブLA−31RGが挙げられる。
後者の市販品としては、BASFジャパン(株)製のTinuvin1577、Tinuvin1600、Tinuvin460;(株)ADEKA製のアデカスタブLA−F70、アデカスタブLA−46が挙げられる。
紫外線吸収剤の添加量は、アクリル樹脂組成物(Y)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。フィルムの製膜時の工程汚れ、耐溶剤性、耐候性の観点から、0.5〜5質量部がより好ましい。
【0073】
また(Y)層には光安定剤が添加されていることが好ましい。光安定剤としては、特にヒンダードアミン系光安定剤等のラジカル捕捉剤が好ましい。
このような光安定剤の市販品として、BASFジャパン(株)製のChimassorb944、Chimassorb2020、Tinuvin770;(株)ADEKA製のアデカスタブLA−57、アデカスタブLA−72が挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤の添加量は、アクリル樹脂組成物(Y)100質量部に対して、0.1〜5質量部含有することが好ましい。フィルムの製膜時の工程汚れを防止する観点から、0.15〜3質量部がより好ましい。
さらに、(Y)層には酸化防止剤が添加されていることが好ましい。酸化防止剤としては、公知のものを用いることができるが、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。このような酸化防止剤の市販品としては、BASFジャパン(株)製のイルガノックス1076が挙げられる。
酸化防止剤の添加量は、アクリル樹脂組成物(Y)100質量部に対して、0.01〜5質量部含有することが好ましい。積層フィルムの透明性の観点から0.05〜3質量部がより好ましい。
【0074】
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムの製造方法としては、製造工程を少なくできるという点から、フッ素系樹脂(X)を含む層と、アクリル系樹脂組成物(Y)の層とを同時に溶融押出しながら積層する共押出法が好ましい。
複数の溶融樹脂層を積層する具体的な方法としては、(1)フィードブロック法等のダイ通過前に溶融樹脂層を積層する方法、(2)マルチマニホールド法等のダイ内で溶融樹脂層を積層する方法、(3)マルチスロット法等のダイ通過後に溶融樹脂層を積層する方法等が挙げられる。
尚、フッ素系樹脂(X)を含む層と、アクリル系樹脂組成物(Y)の層とを同時に溶融押出しながら積層する場合、(X)層の表面の艶消し性の点から、(Y)層を冷却ロールに接するように溶融押出することが好ましい。
【0075】
具体的には、例えば、以下の工程を含む製造方法により、本発明の積層フィルムを製造することができる。2台の溶融押出機を用意し、それらのシリンダー温度及びダイ温度を200〜250℃に設定する。一方の押出機内にてフッ素系樹脂(X)を含む組成物を溶融可塑化する。
それと同時に、他方の押出機内にてアクリル系樹脂組成物(Y)を溶融可塑化する。両押出機の先端のダイから押し出された溶融樹脂を、50〜100℃に設定された冷却ロール上に共押出しする。
【0076】
<積層フィルムの耐延伸白化性>
本発明の積層フィルムは、ISO 527−3に従い、厚さ0.05〜0.1mm、幅15mmに成形して得られた積層フィルムを試験片とし、温度0℃にて、引張速度500mm/分の条件で、初期チャック間距離25mmから、35mmまで延伸した際の、延伸前後の試験片の白色度(W値)の差(ΔW)が5以下である。耐ストレス白化性の観点から、ΔWは3以下であることが好ましい。
ここで、W値はJIS Z8722の幾何条件aに従い、C/2°光源を用いて測定した値である。
延伸前後のΔWが5以下であれば、フィルムを折曲加工した際に、折曲部分が白化しない、又は白化が目立たないため、得られる積層フィルムの外観が良好になる。
【0077】
<積層フィルムの透明性>
本発明の積層フィルムの全光線透過率は、JIS K7136に従って測定される。
ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、商品名:NDH4000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件で測定した全光線透過率が90%以上である。全光線透過率が90%以上であれば、積層フィルムの外観が良好になる。
【0078】
<積層成形品>
本発明の積層フィルムを、各種樹脂成形品、木工製品及び金属成形品等の基材の表面に積層することによって、(X)層を表面に有する積層体(積層成形品)を製造することができる。
基材は、目的とする積層成形品に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂成形品であれば、ポリ塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0079】
積層成形品としては、例えば、意匠性を付与する目的で鋼板に貼り付けた形での窓枠、玄関ドア枠、屋根材及びサイディング材等の外壁建材が挙げられる。
基材が二次元形状であって、かつ熱融着可能な材質である場合は、熱ラミネーション等の方法により基材と積層フィルムとを積層できる。
熱融着が困難な金属部材等に対しては、接着剤を用いたり、積層フィルムの片面を粘着加工したりして積層すればよい。
更に、積層後に折曲加工等を施してもよく、本発明の積層フィルムは白化、割れ等の意匠性の低下を抑えることができる。
【実施例】
【0080】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。略号は以下のものを示す。
MMA メチルメタクリレート
BA n−ブチルアクリレート
BDMA 1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
AMA アリルメタクレート
MA メチルアクリレート
CHP クメンハイドロパーオキサイド
tBH t−ブチルハイドロパーオキサイド
RS610NA モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム (フォスファノールRS−610NA:東邦化学(株)製)
nOM n−オクチルメルカプタン
EDTA エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
【0081】
(製造例1)ゴム含有重合体(B−1)
撹拌器、冷却管、熱電対、窒素導入管を備えた重合容器に、脱イオン水195部を入れた後、MMA0.2部、BA4.5部、AMA0.15部、BDMA0.3部、CHP0.025部、RS610NA1.1部を予備混合したものを投入し、75℃に昇温した。昇温後、脱イオン水5部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部からなる混合物を重合容器へ一度に投入し、重合を開始した。温度上昇ピークを確認後、15分間反応を継続させ、第一弾性重合体(B1−1)の重合を完結した。
続いて、MMA1.0部、BA22.3部、AMA0.74部、BDMA1.5部、CHP0.016部を90分間にわたって重合容器内に滴下した。その後60分間反応を継続させ、第二弾性重合体(B1−2)の重合を完結した。
第一弾性重合体(B1−1)、第二弾性重合体(B1−2)単独のTgは、どちらも−50.2℃であった。
【0082】
続いて、MMA5.9部、BA4.0部、AMA0.074部、CHP0.0125部を45分間にわたって重合容器内に滴下した。その後60分間反応を継続させ、中間重合体(B3)の重合を完結した。中間重合体(B3)単独のTgは19.8℃であった。
最後に、MMA54.7部、BA4.8部、tBH0.075部、nOM0.24部を140分間にわたって重合容器内に滴下した。その後30分間反応を維持させラテックス状のゴム含有重合体(B−1)を得た。
硬質重合体(B2)単独のTgは、79.3℃であった。重合後に測定したラテックス状のゴム含有重合体(B−1)の固形分は33%であり、平均粒子径は0.12μmであった。
【0083】
得られたラテックス状のゴム含有重合体(B−1)100部を目開き62μmのSUS製メッシュを取り付けた振動型濾過装置で濾過した。次いで、酢酸カルシウム2.5部を含む80℃の熱水100部中に滴下して、ラテックスを凝析した。更に95℃に昇温して5分保持し、固化した。得られた凝析物を分離洗浄し、75℃で24時間乾燥して、粉体状のゴム含有重合体(B−1)を得た。このゴム含有重合体(B−1)のゲル含有率は65%、Mwは53,000であった。
【0084】
(製造例2)ゴム含有重合体(B−2)
中間重合体(B3)を形成しなかった以外は製造例1と同様にして、「表1」に記載の添加量に従ってゴム含有重合体(B−2)を得た。このゴム含有重合体(B−2)のゲル含有率は65%、Mwは36,000であった。
【0085】
(製造例3)ゴム含有重合体(B−3)
「表1」に記載の添加量に従って製造例1と同様にゴム含有重合体(B−3)を得た。このゴム含有重合体(B−3)のゲル含有率は62%、Mwは60,000であった。
【0086】
(製造例4)アクリル系樹脂組成物(Y−1)
上記ゴム含有重合体(B−1)100部、加工助剤(三菱レイヨン(株)製、商品名:メタブレンP551A)2.0部、紫外線吸収剤((株)ADEKA製、商品名:アデカスタブLA−31)2.36部、光安定剤(BASFジャパン(株)製、商品名:Chimassorb2020)0.51部、フェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、商品名:イルガノックス1076)0.1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。
この粉体状混合物を脱気式押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM−35、以下同様)を用いてシリンダー温度100〜240℃、ダイ温度240℃で溶融混練してアクリル系樹脂組成物(Y−1)のペレットを得た。
【0087】
(製造例5)アクリル系樹脂組成物(Y−2)、(Y−3)
「表2」に記載の添加量に従って製造例4と同様に、アクリル系樹脂組成物(Y−2)及び(Y−3)のペレットを得た。
【0088】
(製造例6)ポリマーブレンド(1)
フッ化ビニリデン系樹脂(F)として、(株)クレハ製、商品名:KFポリマーT#850(異種結合の比率8.5%)90部、アクリル系樹脂(A)としてMMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、Mw:10万、Tg:105℃)10部、酸化防止剤として(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブAO−60 0.1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。
得られた混合物を、脱気式押出機を用いてシリンダー温度100〜240℃、ダイ温度240℃で溶融混練してポリマーブレンド(1)のペレットを得た。
【0089】
(製造例7)ポリマーブレンド(2)
KFポリマーT#850を85部、MMA/MA共重合体を15部としたこと以外は、製造例6と同様にしてポリマーブレンド(2)のペレットを得た。
【0090】
(製造例8)ポリマーブレンド(3)
KFポリマーT#850を68部、MMA/MA共重合体を32部としたこと以外は、製造例6と同様にしてポリマーブレンド(3)のペレットを得た。
【0091】
(製造例9)ポリマーブレンド(4)
KFポリマーT#850を100部とし、MMA/MA共重合体及びAO−60を配合しないこと以外は、製造例6と同様にしてポリマーブレンド(4)のペレットを得た。
【0092】
(製造例10)ポリマーブレンド(5)
フッ化ビニリデン系樹脂(F)として、アルケマ(株)製のKynar720を使用したこと以外は、製造例9と同様にしてポリマーブレンド(5)のペレットを得た。
【0093】
<評価方法>
(1)延伸前後の白色度の差
ISO 527−3に従い、厚さ0.05〜0.1mm、幅15mmに成形して得られた積層フィルムを試験片とし、温度0℃にて、引張速度500mm/分の条件で、初期チャック間距離25mmから、35mmまで10mm延伸した際の、延伸前後の試験片の白色度(W値)の差(ΔW)を測定した。
W値はJIS Z8722の幾何条件aに従い、C/2°光源を用いて色差計(日本電色工業(株)製、商品名:SE−2000)で測定した。
尚、試験片はMD方向で採取した。
【0094】
(2)全光線透過率
JIS K7136に従って、積層フィルムの全光線透過率を測定した。ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、)商品名:NDH4000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件で測定した。
【0095】
(3)折曲白化
厚さ0.5〜1.0mmの鋼板に厚さ0.1〜0.3mmの塩ビ層を積層した鋼板化粧シートに、積層フィルムを140℃で熱プレスして積層成形品を得る。
得られた積層成形品を−30℃に調温した後、鋼板側を内側にして2秒間かけて90°に折曲げ、積層成形品の外観の変化を以下の基準により目視で評価した。
○:折曲支点部が白化していない。
△:折曲支点部が少し白化している。
×:折曲支点部が白化している。
【0096】
(4)耐薬品性
メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチルを脱脂綿に浸み込ませ、積層フィルムの(X)層の上で20往復した後、積層フィルムの外観の変化を以下の基準により目視で評価した。
○:外観の変化がない。
×:外観の変化(膨潤又は白濁)がある。
【0097】
[実施例1]
40mmφ単軸押出機1と30mmφ単軸押出機2の先端部にマルチマニホールドダイを設置した。
製造例4で得られたアクリル系樹脂組成物(Y−1)のペレットをシリンダー温度230〜240℃の単軸押出機1に供給して、溶融可塑化した。また製造例9で得られたポリマーブレンド(4)のペレットを、シリンダー温度200〜230℃の単軸押出機2に供給し、溶融可塑化した。
これらの溶融可塑化物を250℃に加熱したマルチマニホールドダイに供給して、(X)層の厚さが5.0μm、(Y)層の厚さが45.0μmの2層の積層フィルムを得た。
その際、冷却ロールの温度を90℃とし、(Y)層が冷却ロールに接するようにして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を「表2」に示した。
【0098】
[実施例2]
ポリマーブレンド(4)のペレットを、製造例6で得られたポリマーブレンド(1)のペレットとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0099】
[実施例3]
ポリマーブレンド(4)のペレットを、製造例7で得られたポリマーブレンド(2)のペレットとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0100】
[実施例4]
ポリマーブレンド(4)のペレットを、製造例8で得られたポリマーブレンド(3)のペレットとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0101】
[実施例5]
アクリル系樹脂組成物(Y−1)のペレットを、製造例5で得られたアクリル系樹脂組成物(Y−2)のペレットとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0102】
[実施例6]
ポリマーブレンド(4)のペレットを、製造例10で得られたポリマーブレンド(5)のペレットとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0103】
[比較例1]
アクリル系樹脂組成物(Y−1)のペレットを、製造例5で得られたアクリル系樹脂組成物(Y−3)のペレットとしたこと以外は、実施例6と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0104】
[比較例2]
アクリル系樹脂組成物(Y−1)のペレットを、製造例5で得られたアクリル系樹脂組成物(Y−3)のペレットとしたこと以外は、実施例2と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0105】
[比較例3]
アクリル系樹脂組成物(Y−1)のペレットを、製造例5で得られたアクリル系樹脂組成物(Y−3)のペレットとしたこと以外は、実施例3と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を「表2」に示した。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
以上の実施例及び比較例により、次のことが明らかとなった。
本発明の積層フィルムは、延伸前後の白色度の差(ΔW)が5以下であり、耐ストレス白化性に優れる。また、鋼板化粧シートに積層して折曲白化試験を実施した場合も、白化しないため、成形加工性に優れている。
【0109】
従って、本発明の積層フィルムを、金属製の基材等に貼り合わせ、この基材を玄関ドア等の各種部材の形状にするために折曲げ加工を施しても、割れや剥れ、白化等の問題が生じることのない、意匠性の高い積層成形品を製造することができる。