(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。なお、参照する図面はあくまでも模式的に示したものであり、実際の形態とは異なっている場合がある。また、以下の記載において、「〜(数値)を超えて」や「〜(数値)未満」との記載は、当該数値を含まないことを表し、一方で、「〜(数値)以上」や「〜(数値)以下」との記載は、当該数値を含むことを表している。
【0013】
[1.正極活物質]
本実施形態の正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極に使用されるものである。具体的には例えば、本実施形態の正極活物質や適宜結着剤や導電材等を含む正極合剤を金属板等に塗布及び乾燥することで、正極が得られる。
【0014】
<組成>
本実施形態の正極活物質は、以下の組成式(1)で表されるリチウム複合化合物(以下、単に「化合物(1)」ということがある)を含むものである。
Li
1+αNi
xCo
yM
11−x−y−zM
2zO
2+β ・・・組成式(1)
式(1)中、α、β、x、y及びzは、それぞれ、−0.03≦α≦0.08、−0.2≦β≦0.2、0.7<x≦0.9、0.03≦y≦0.3、0≦z≦0.1を満たす数である、M
1は、Mn及びAlのうちの少なくとも一種の元素であり、M
2はMg、Ti、Zr、Mo及びNbのうちの少なくとも一種の元素である。
【0015】
組成式(1)で表されるリチウム複合化合物を含んで構成される正極活物質は、充放電に伴ってリチウムイオンの可逆的な挿入及び脱離を繰り返すことが可能なものである。そして、この正極活物質は、抵抗の低い、α−NaFeO
2型の層状構造を有するものである。
【0016】
また、本実施形態の正極活物質において、前記式(1)で表されるリチウム複合化合物は、通常は一次粒子として含まれている。そして、本実施形態の正極活物質は、通常は、この一次粒子が複数凝集してなる二次粒子として構成されている。ただし、正極活物質を構成するリチウム複合化合物の粒子は、個々の粒子が分離した一次粒子であってもよく、複数の一次粒子を焼結等によって結合させた二次粒子であってもよく、遊離リチウム化合物を含む一次粒子又は二次粒子であってもよい。
【0017】
組成式(1)において、αは、化学式LiM’O
2で表される正極活物質の量論比率、即ちLi:M’:O=1:1:2からのLiの過不足量を表している。ここで、M’はこの組成式におけるLi以外の金属元素を示す。Liの含有率が高いほど、充電前の遷移金属の価数が高くなって、Li脱離時の遷移金属の価数変化の割合が低減され、正極活物質のサイクル特性を向上させることができる。その反面、Liの含有率が高いほど、正極活物質の充放電容量は低下する。従って、前記組成式中のLiの量を表すαの範囲を−0.03以上0.08以下とすることで、正極活物質のサイクル特性を向上させ、さらには、充放電容量の低下を抑制することができる。
【0018】
αの範囲は、好ましくは0以上0.05以下とすることができる。組成式(1)中のαが0以上であれば、充放電に寄与するのに十分なLi量が確保され、正極活物質のさらなる高容量化を図ることができる。また、組成式(1)中のαが0.05以下であれば、遷移金属の価数変化による電荷補償を十分確保することができ、高容量と高サイクル特性をより十分に両立させることができる。
【0019】
また、組成式(1)において、xはNiの含有率を表すものである。xが0.7より大きければ、正極活物質において充放電に寄与するのに十分なNi量が確保され、高容量化を図ることができる。一方、組成式(1)中のxが0.9を超えると、Niの一部がLiサイトに置換され、充放電に寄与するのに十分なLi量が確保できず、正極活物質の充放電容量が低下する虞がある。従って、組成式(1)中のNiの含有率を示すxを0.7より大きく0.9以下の範囲、より好ましくは0.75より大きく0.85以下の範囲とすることで、正極活物質を高容量化させつつ、充放電容量の低下を抑制することができる。
【0020】
組成式(1)において、yはCoの含有率を表すものである。yが0.03以上であれば、正極活物質の層状構造を安定に保つことができる。層状構造を安定に保つことにより、例えば、LiサイトにNiが混入するカチオンミキシングを抑制することができるため、優れたサイクル特性を得ることができる。一方、組成式(1)中のyが0.3を超えると、供給量が限られコストが高いCoの比率が相対的に多くなり、正極活物質の工業的な生産において不利になる。従って、組成式(1)中のCoの含有率を示すyを0.03以上0.3以下の範囲、好ましくは0.05より大きく0.2以下の範囲とすることで、サイクル特性を向上させることができ、正極活物質の工業的な量産においても有利になる。
【0021】
組成式(1)において、zはM
2の含有率を表すものである。zは0以上0.1以下であるが、好ましくは0.005以上0.1以下である。zがこの範囲にあることで、正極活物質の容量低下を抑制することができる。
【0022】
組成式(1)において、M
1はMn及びAlのうちの少なくとも一種以上の元素である。これらの元素は、充電によってLiが脱離しても層状構造を安定に維持する作用がある。これらの元素の中でも、M
1としてはMnが好ましい。充電によってLiが脱離しても層状構造をより安定に維持でき高容量となるためである。なお、M
1の含有率を示す「1−x−y−z」の値は、正極活物質の容量を十分に確保する観点から、0.35以下とすることが好ましい。
【0023】
また、組成式(1)において、M
2はMg、Ti、Zr、Mo及びNbののうちの少なくとも一種の元素である。M
2がこれらの元素であることにより、正極活物質における電気化学的活性を確保することができる。また、これらの金属元素は酸素との結合が強く、これらの金属元素で正極活物質の金属サイトを置換することで、正極活物質の結晶構造の安定性や層状正極活物質を用いた二次電池の電気化学特性(サイクル特性等)を向上させることができる。
【0024】
また、M
2としては、Tiが好ましい。Tiは、結晶構造の骨格を安定化する作用があり、Liの挿入脱離を伴う充放電の過程で結晶が歪むのを十分に抑制することができる。これにより、前記のようなカチオンミキシングが十分に抑制される。さらに、充放電サイクルに伴って結晶が分解することを十分に抑制することができ、NiOのような異相の生成を抑制することができる。
【0025】
zの値は前記のように0以上0.1以下であるが、M
2としてTiを使用する場合、zは0.001以上0.05以下であることが好ましい。zが0.001以上であれば、Tiの添加による効果をより確実に享受することができる。一方で、0.1以下とすることで、正極活物質の容量低下を抑制することができる。
【0026】
また、組成式(1)において、βは酸素の過不足量を表しており、空間群R−3mに帰属される層状構造化合物を許容する範囲に設定されることが好ましい。具体的には、正極活物質のα−NaFeO
2型の層状構造を維持する観点から、−0.2以上0.2以下の範囲とするが、より確実に正極活物質の層状構造を維持する観点からは、−0.1以上0.1以下の範囲とすることが好ましい。
【0027】
なお、前記した各元素の平均組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)や原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry;AAS)等によって確認することができる。
【0028】
<物性>
(空孔率)
本実施形態の正極活物質は、水銀圧入法により測定される空孔率によって特定される。具体的には、水銀圧入法によって測定した所定の大きさの空孔率と、直径10mmの型に入れて40MPaの荷重でプレスした後の正極活物質について測定される所定の大きさの空孔率との比が所定の値以下になるようになっている。この関係は、初期状態(当該正極活物質を含むリチウムイオン二次電池の充放電前)の正極活物質において満たされることが好ましい。この関係をさらに具体的にいえば、初期状態において、水銀圧入法により測定される開口直径0.6μm以下の空孔率をPi、40MPaでプレスした後に水銀圧入法により測定される開口直径0.6μm以下の空孔率をPpと定義したときに、Pp/Piの値が1.5以下
、好ましくは1.1以下になっている。この点について、
図1を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本実施形態の正極活物質における開空孔及び閉空孔について説明する図であり、(a)は初期状態(充放電前)の正極活物質の様子、(b)は充放電後の正極活物質の様子、(c)は空孔率を測定するときのプレス時を示す模式図である。
図1において、一次粒子10は前記の化合物(1)を、二次粒子20は一次粒子10が多数凝集して構成されたものを示している。なお、
図1では、一つの二次粒子20のみを示しているが、実際には複数の二次粒子20を含んで本実施形態の正極活物質が構成されている。そして、リチウムイオン二次電池の正極においては、通常は、前記の化合物(1)は
図1に示すような二次粒子20の形態で金属板(集電板、図示しない)の表面に担持されている。
【0030】
本実施形態の正極活物質の製造方法の詳細は後記するが、例えば原料混合物の焼成等により一次粒子10が多数凝集してなる二次粒子20が得られた場合、
図1(a)に示すように、凝集した一次粒子10の間には空孔が形成される。そして、形成される空孔のうち、一次粒子10によって囲まれているものの、囲まれている一次粒子10の間には隙間があるため、当該隙間によって二次粒子の外側と連通している空孔のことを、本明細書では開空孔30という。一方で、一次粒子10によって囲まれており、しかも、囲まれている一次粒子10の間には隙間が無く、二次粒子20の外側と連通していない空孔のことを、本明細書では閉空孔31という。
【0031】
また、隣接する一次粒子10同士は、
図1(a)に示すように接触しているが、これらの一次粒子10同士は結合している場合もあるし、単に接触している場合もある。特に、後者の場合には、充放電サイクルに伴って一次粒子10が膨張収縮すると、これらの接触が解かれることがある。そして、このような接触が解かれれば、接触していた部分には隙間が生じることになる。この隙間は閉空孔31と二次粒子20の外部とのパスとなるため、当初存在していた閉空孔31は開空孔に変化することになる。ここでは、このように閉空孔31から変化して開空孔になったものを、元々ある開空孔30と区別するために、開空孔32というものとする。
【0032】
そして、
図1(a)に示す初期状態から充放電が行われると、前記のように一次粒子10間の粒界の乖離が生じる。これは、リチウムイオンの吸蔵や放出に伴うものである。ただし、変形の程度は小さく、隣接する一次粒子10同士の結合が切れて、一次粒子10がバラバラになるほどのものではない。従って、一次粒子10間の粒界の乖離が生じれば、前記のような閉空孔31の部分において、一次粒子10の膨張収縮により、二次粒子20外部とのパスとなる新たな開空孔32が形成されることになる。このパスは、
図1(b)や後記する
図1(c)において太実線で示している。そして、この新たに形成された開空孔32は、前記のように閉空孔31から変化したものである。即ち、開空孔32は、閉空孔31が開口したものということができる。
【0033】
なお、初期状態(
図1(a))に示す状態で存在していた開空孔30は、一次粒子10の膨張収縮によって小さくなったり消滅したりする可能性は極めて低い。その理由は膨張収縮により粒界の結合が進行することがないためである。そのため、充放電サイクルに伴って
図1(a)に示す状態から
図1(b)に示す状態に変化したときには、正極活物質全体の開口率は増加することになる。
【0034】
ここで、本発明者らの検討によれば、充放電サイクルに伴う電池内部の抵抗の上昇は、このような開空孔30,32に起因することがわかった。即ち、正極活物質と非水電解液(図示しない)との接触面である二次粒子20の外側に位置する一次粒子10の表面において、充放電サイクルに伴ってLi欠損が生じ、これにより抵抗が上昇することがわかった。そのため、充放電サイクルに伴う応力により、一次粒子10同士の粒界が乖離して、非水電解液と接触して抵抗が上昇することになる。また、閉空孔31であったものが開空孔32に変化することで非水電解液との接触面積が増加する。これにより、Li欠損が顕著に生じる面積が増加し、そのために抵抗上昇が加速することになる。
【0035】
従って、本発明者らは、充放電サイクルに伴う抵抗上昇は、圧壊に至る強度(圧壊強度、粒子強度)ではなく、非水電解液との接触面の生じ易さに相関があることを見出した。即ち、圧壊強度が強くて従来は電池特性に優れると判断されていた二次電池であっても、充放電に伴って、圧壊するほどではないものの変形が大きく非水電解液との接触面が多ければ、サイクル特性が低いことになる。一方で、圧壊強度が低く従来は電池特性に優れないと判断されていた二次電池であっても、比較的圧壊し易いものの変形が小さく非水電解液との接触面が小さければ、サイクル特性に優れるといえる。
【0036】
そして、非水電解液との接触面の生じ易さは、前記のように初期状態で存在していた開空孔30の大きさは変化しにくいことから、主に、充放電サイクルに伴って新たに形成された開空孔32の大きさに起因すると考えられる。即ち、開空孔32が多く新たに形成されれば、非水電解液との接触面は多くなることになり、電池抵抗(「二次電池の内部抵抗」のこと、以下同じ)が増加し易くなることになる。一方で、新たに形成される開空孔32が少なければ、非水電解液との接触面は少ないまま維持されることになり、電池抵抗の増加は抑制されることになる。
【0037】
ただし、充放電後に開空孔32となる、初期状態での閉空孔31の数や大きさを見積もることは、閉空孔31は閉じていることから水銀圧入法等を適用して行うことは難しい。そこで、本実施形態では、
図1(c)に示すように、一次粒子10同士の結合が切断されないものの、閉空孔31を歪めて開かせることで開空孔32とすることが可能な程度の強度である40MPaの圧力でプレス(白抜き矢印の方向)し、そのプレス後の正極活物質について空孔率を評価している。そして、ここで評価された空孔率を用いて、本実施形態の正極活物質を特定している。
【0038】
即ち、好ましくは初期状態において、水銀圧入法により測定される開口直径0.6μm以下の空孔率をPi、直径10mmの型に入れて40MPaの荷重40MPaでプレスした後に水銀圧入法により測定される開口直径0.6μm以下の空孔率をPpと定義したときに、Pp/Piの値、即ち、閉空孔31から変化した開空孔32がどの程度存在するかを示す値が1.5以下
、好ましくは1.1以下になっている。ここで、開口直径が0.6μm以下としたのは、一次粒子10(二次粒子20内の全開空孔の割合)に形成される空孔の大きさ(直径)が0.6μm以下であることが多いためである。即ち、0.6μmよりも大きな直径の空孔は、二次粒子20同士の間に形成される空孔であることが多いためである。なお、空孔の大きさ(直径)の下限は特に制限されないが、水銀圧入法では通常は0.003μmが検出限界となるため、下限値は通常は0.003μmとなる。
【0039】
前記のように、一次粒子10は充放電サイクルに伴って変形し、その体積が変化する。これにより、一次粒子10には、サイクル毎に応力が加わる。そして、プレスによって応力をかけたときに開空孔32の増加が少ないことは、一次粒子10間の粒界の結着性が強く充放電サイクルに伴う一次粒子10の粒界の乖離が少ないため、開空孔32の増加が少ないといえる。このことは、非水電解液との接触面の増加が少ないことを示している。そのため、このような指標に基づいた正極活物質を設定すれば、充放電サイクルに伴う抵抗上昇を抑制し、サイクル特性の向上を図ることができる。
【0040】
また、初期状態(充放電前)において、水銀圧入法により測定される開口直径0.6μm以下の空孔率Piは、30%以下であることが好ましい。30%以下とすることで、非水電解液との接触面が少なく充放電サイクルに伴う抵抗上昇をより十分に抑制することができる。中でも、空孔率Piは15%以下であることがより好ましい。15%以下とすることで、非水電解液との接触面をさらに少なくすることができ、充放電サイクルに伴う抵抗上昇をよりさらに抑制することができる。
【0041】
さらに、初期状態(充放電前)において、40MPaでプレスした後に水銀圧入法により測定される開口直径0.6μm以下の空孔率をPpは、20%以下であることが好ましい。20%以下とすることで、充放電サイクルに伴う開空孔32の増加を抑制でき、抵抗上昇をより抑制することができる。
【0042】
なお、水銀圧入法に基づく空孔率の測定は、例えば後記する実施例に記載の測定装置(水銀ポロシメータ)を用いて行うことができる。また、40MPaでプレスする際に使用する直径10mmの型(例えば、10mmの内径を有する円形の金型)には、金型内部の底面が見えなくなる程度の量の正極活物質(例えば0.1g〜0.5g程度)の正極活物質を入れることができる。そして、正極活物質を入れた金型に対して、上方からプレス機を使用して40MPaの荷重でプレスすればよい。
【0043】
(強度)
本実施形態の正極活物質は、前記のように直径10mmの型に入れたものとして、40MPaでプレスされている。そして、ここでプレスする圧力(40MPa)と、圧壊強度(粒子破壊強度)とは異なるものである。即ち、プレスする圧力は、直径10mmの型に入れられた正極活物質に含まれる二次粒子20の全体にかけられるものであるが、圧壊強度は、二次粒子のそれぞれに対して直接、プローブ等を用いて荷重をかけたものである。従って、Pp/Piの値と圧壊強度との間に相関関係はない。
【0044】
本実施形態の正極活物質の圧壊強度としては、10MPa以上200MPa以下であることが好ましい。これにより、電極作製の過程で正極活物質の二次粒子が破壊されることを抑制することができる。また、正極集電体の表面に正極活物質を含むスラリーを塗工して正極合剤層を形成する際に、剥がれ等の塗工不良が抑制される。正極活物質の圧壊強度は、例えば、微小圧縮試験機を用いて測定することができる。
【0045】
(一次粒子の大きさ)
本実施形態の正極活物質に含まれる一次粒子の平均粒径は、0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。正極活物質の一次粒子の平均粒径をこの範囲にすることで、正極活物質を含む正極を製造する際に、正極における正極活物質の充填性が改善し、エネルギ密度が高い正極を製造することができる。なお、一次粒子の平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって一次粒子を観察し、算出平均を求めることで測定することができる。
【0046】
(二次粒子の大きさ)
本実施形態の正極活物質に含まれる二次粒子の平均粒径は、3μm以上50μm以下であることが好ましい。正極活物質の二次粒子の平均粒径が3μm以上であると正極の密度を高くすることができるという利点がある。また、正極活物質の二次粒子の平均粒径が50μm以下であると正極を平滑に製造できるという利点がある。なお、二次粒子の平均粒径はレーザ回折/散乱式粒度分布計によって測定することができる。
【0047】
(原子比Ti
3+/Ti
4+)
本実施形態の正極活物質にTiが含まれる場合、即ち、前記式(1)において、M
2としてTiが含まれている場合、X線光電子分光分析(XPS)に基づくTi
3+とTi
4+の原子比Ti
3+/Ti
4+は、1.5以上20以下であることが好ましい。この原子比がこの範囲にあると、充放電サイクルに伴う抵抗上昇をより抑制することができる。この原子比の測定は、例えば後記する実施例に記載の装置を使用して行うことができる。
【0048】
(比表面積)
正極活物質のBET比表面積は、概ね0.1m
2/g以上2.0m
2/g以下とすることが好ましい。BET比表面積をこのような範囲にすることで、正極における正極活物質の充填性が改善し、エネルギ密度が高い正極を製造することができる。なお、BET比表面積は、BET法に基づく自動比表面積測定装置を用いて測定することができる。
【0049】
[2.正極活物質の製造方法]
正極活物質は、任意の方法で製造することができる。例えば、正極活物質の一次粒子を、乾式造粒や湿式造粒によって造粒することによって二次粒子化することで、二次粒子を含んでなる正極活物質を製造することができる。以下、正極活物質の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0050】
図2は、本実施形態の正極活物質の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態の正極活物質は、粉砕混合工程S1と、造粒工程S2と、第1熱処理工程S31と、第2熱処理工程S32と、第3熱処理工程S33とを経て製造することができる。これらのうち、第1熱処理工程S31と、第2熱処理工程S32と、第3熱処理工程S33とにおいては、いずれも熱処理が行われる。但し、3段階の熱処理にとらわれるものではない。以下、本実施形態の正極活物質の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0051】
(粉砕混合工程S1)
粉砕混合工程S1では、Li以外の金属元素を含む出発原料と、炭酸リチウムを80質量%以上含むリチウム原料とを粉砕混合して混合物を得る。前記式(1)中のLi以外の金属元素(Ni、Co、M
1及びM
2)を含む原料としては、当該金属元素の炭酸塩、水酸化物、オキシ水酸化物、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物等、金属元素とC、H、O、Nで構成された化合物から適宜選択することができる。粉砕のし易さ、及び熱分解後のガス放出量の観点から、炭酸塩及び水酸化物が特に望ましい。
【0052】
粉砕混合工程S1では、前記式(1)に対応する所定の元素組成となる比率で秤量した出発原料を混合して原料粉末を調製する。ここでいう出発原料は、Liを含む化合物(Li含有化合物)のほか、Niを含む化合物(Ni含有化合物)、Coを含む化合物(Co含有化合物)、M
1を含む化合物(M
1含有化合物)、及びM
2を含む化合物(M
2含有化合物)である。本実施形態の正極活物質の製造方法では、Li含有原料として、炭酸リチウムを用いている。炭酸リチウムは、酢酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等、他のLi含有化合物と比較して、供給安定性に優れ、コストが低く、弱アルカリであることから製造装置へのダメージが少なく、工業利用性及び実用性に優れている。
【0053】
Ni含有化合物、Co含有化合物、M
1含有化合物及びM
2含有化合物は、Ni、Co、M
1及びM
2の、例えば酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を用いることができ、特に、酸化物、水酸化物、又は炭酸塩を用いることが好ましい。また、M
2含有化合物としては、M
2の、例えば酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物、又は水酸化物等を用いることができ、特に、炭酸塩、酸化物、又は水酸化物を用いることが好ましい。
【0054】
粉砕混合工程S1では、前記出発原料を、例えば、粉砕機によって粉砕して混合することが好ましい。これにより、均一に混合された粉末状の固体混合物を調製することができる。前記出発原料の化合物を粉砕する粉砕機としては、ボールミル、ジェットミル、ロッドミル、サンドミル等の精密粉砕機を用いることができる。水等の液体中で粉砕する湿式法と、液体を使用しない乾式法の双方が使用できる。粒径の小さな粉砕混合粉を調製する観点から、湿式法が望ましい。即ち、粉砕混合工程S1では、湿式法によって混合物をスラリーとすることが好ましい。
【0055】
(造粒工程S2)
造粒工程S2では、粉砕混合工程S1でスラリーとした混合物をノズルから噴霧して乾燥させることによって、化合物(1)の前駆体(以下、単に「前駆体」という)を造粒する工程である。噴霧乾燥法を採用することが好ましく、その噴霧方式として、2流体ノズル、4流体ノズル、ディスク式、スプレードライヤ、転動流動層装置等、種々の方式を採用することができる。噴霧乾燥法を採用し、噴霧量やスラリー濃度を制御することで、化合物(1)の気孔率を制御することができる。例えば、噴霧量を多くしたり、スラリー濃度を高くしたりすることで、化合物(1)の気孔率を低下させることができる。噴霧乾燥法を採用する場合の具体的な条件としては、後記する実施例に記載の条件を採用することができる。
【0056】
(第1熱処理工程S31)
第1熱処理工程S31と、以下で後記する第2熱処理工程S32と、第3熱処理工程S33では、前記の造粒工程S2において得られた前駆体を焼成することで、化合物(1)が得られる。以下、工程毎に説明する。
【0057】
第1熱処理工程S31では、前記前駆体を200℃以上400℃以下の熱処理温度で0.5時間以上5時間以下に亘って熱処理することで第1前駆体を得る。第1熱処理工程S31は、造粒工程S2において形成された前駆体から、正極活物質の合成反応を妨げる水分等の気化成分を除去することを主な目的として行われる。即ち、第1熱処理工程S31は、混合物中の水分を除去する熱処理工程である。
【0058】
第1熱処理工程S31では、熱処理される混合物に含まれる気化成分、例えば、水分、不純物、熱分解に伴う揮発成分等が、気化、燃焼、揮発するなどしてガスが発生する。また、第1熱処理工程S31では、熱処理される混合物が炭酸リチウム等の炭酸塩を含むため、炭酸塩の熱分解に伴う炭酸ガスも発生する。
【0059】
第1熱処理工程S31において、熱処理温度が200℃未満であると、不純物の燃焼反応や出発原料の熱分解反応が不十分となる場合がある。また、第1熱処理工程S31において熱処理温度が400℃を超えると、熱処理によって混合物から発生したガスを含む雰囲気下で、化合物(1)の層状構造が形成されてしまう場合がある。従って、第1熱処理工程S31において、200℃以上400℃以下の熱処理温度で混合物を熱処理することで、水分等の気化成分が十分に除去され、かつ、未だ層状構造が形成されていない第1前駆体を得ることができる。
【0060】
また、第1熱処理工程S31において、熱処理温度が好ましくは250℃以上400℃以下、より好ましくは250℃以上380℃以下の範囲内であれば、水分等の気化成分の除去効果と層状構造の形成を抑制する効果とをより向上させることができる。また、第1熱処理工程S31における熱処理時間は、例えば、熱処理温度、気化成分の除去の度合い、層状構造の形成の抑制の度合い等に応じて、適宜変更することができる。
【0061】
第1熱処理工程S31では、熱処理される混合物から発生するガスの排気を目的として、雰囲気ガスの気流下やポンプによる排気下で熱処理することが好ましい。雰囲気ガスの1分間あたりの流量又はポンプによる1分間あたりの排気量は、混合物から発生するガスの体積よりも多いことが好ましい。第1熱処理工程S31で熱処理される混合物から発生するガスの体積は、例えば、混合物に含まれる出発原料の質量と気化成分の比率等に基づいて算出することができる。
【0062】
また、第1熱処理工程S31は、大気圧以下の減圧下で行ってもよい。また、第1熱処理工程S31は、酸化反応を主な目的としていないため、第1熱処理工程S31の酸化性雰囲気は大気であってもよい。第1熱処理工程S31の酸化性雰囲気として大気を用いることで、熱処理装置の構成を簡略化し、雰囲気の供給を容易にして、正極活物質の生産性を向上させて製造コストを低減することができる。また、第1熱処理工程S31の熱処理の雰囲気は、酸化性雰囲気に限られず、例えば不活性ガス等の非酸化性雰囲気であってもよい。
【0063】
(第2熱処理工程S32)
前記の第1熱処理工程S31に次いで行われる第2熱処理工程S32は、前記の第1前駆体を、450℃以上800℃以下の熱処理温度で0.5時間以上50時間以下に亘って熱処理し、炭酸リチウムの93質量%以上を反応させて第2前駆体を得るものである。第2熱処理工程S32は、第1前駆体中の炭酸リチウムをリチウム酸化物にすること、また、第2熱処理工程S32は、炭酸リチウムと遷移金属(Ni、Co、M
1及びM
2)とを反応させ、組成式LiM’O
2で表される層状構造の化合物を合成し、炭酸成分を除去することを主な目的として行われる。即ち、第2熱処理工程S32は、第1前駆体中の炭酸成分の除去を行う熱処理工程である。
【0064】
なお、第2熱処理工程S32の熱処理温度が450℃未満であると、第1前駆体を熱処理して層状構造を有する第2前駆体を形成する際に、層状構造の形成反応の進行が著しく遅くなり、炭酸リチウムが過剰に残留する傾向にある。一方、第2熱処理工程S32の熱処理温度が800℃を超えると、粒成長が過剰に進行してしまい、高容量な正極活物質が得られにくい。また、第2熱処理工程S32の熱処理温度を好ましくは600℃以上とすることで炭酸リチウムをより反応させることができる。一方、第2熱処理工程S32の熱処理温度を好ましくは700℃以下とすることで、結晶粒の成長抑制効果をより向上させることができる。また、第2熱処理工程S32の熱処理温度を高くし、第2前駆体の炭酸リチウム量を減らすことで、初期状態の空孔率Piを小さくすることができる。一方で、第2熱処理工程S32の熱処理温度を低くし、第2前駆体の炭酸リチウム量を増やすことで、初期状態の空孔率Piを大きくすることができる。
【0065】
また、第2熱処理工程S32の熱処理の温度範囲で、第1前駆体を十分に酸素と反応させるためには、熱処理の時間を0.5時間以上50時間以下とすることができる。生産性を向上させる観点からは、第2熱処理工程S32の熱処理の時間を、2時間以上15時間以下とすることがより好ましい。
【0066】
(第3熱処理工程S33)
前記の第2熱処理工程S32に次いで行われる第3熱処理工程S33は、前記の第2前駆体を730℃を超えて900℃以下、好ましくは750℃を超えて900℃以下の熱処理温度で熱処理するものである。このとき、熱処理時間は0.5時間以上50時間以下、正極活物質の生産性を向上させる観点から好ましくは5時間以上15時間以下である。この熱処理により、前記の化合物(1)が得られる。この第3熱処理工程S33で得られた化合物(1)が、本実施形態の正極活物質である。第3熱処理工程S33は、第2熱処理工程S32で得られた第2前駆体中のNiを2価から3価へ酸化させるNi酸化反応を十分に進行させることを目的の一つとしている。また、第3熱処理工程S33は、熱処理によって得られる化合物(1)が電極性能を発現するようにするために、結晶粒を成長させることも目的としている。即ち、第3熱処理工程S33は、第2前駆体中のNi酸化反応と結晶粒成長とを行う熱処理工程である。
【0067】
第3熱処理工程S33における第2前駆体中のNi酸化反応を十分に進行させるために、第3熱処理工程S33の熱処理の雰囲気は、酸素を含む酸化性雰囲気である。第3熱処理工程S33における酸化性雰囲気は、酸素濃度が80%以上であることが好ましく、酸素濃度が90%以上であることがより好ましく、酸素濃度が95%以上であることがさらに好ましく、酸素濃度が100%であることが特に好ましい。なお、金属元素を含む原料、及びリチウム原料から発生するガスを排出し、十分な酸素を粉砕混合粉に供給する観点から、焼成工程S3の工程中にガスを流すことが好ましい。
【0068】
なお、仕上処理工程S33の熱処理温度は、730℃以下になると第2前駆体の結晶化の進行が困難になる場合があり、900℃を超えると第2前駆体の層状構造の分解を抑制できずに2価のNiが生成され、得られる化合物(1)の容量が低下してしまう。従って、第3熱処理工程S33の熱処理温度を730℃を超えて900℃以下にすることで、第2前駆体の粒成長を促進させ、かつ層状構造の分解を抑制して、得られる化合物(1)の容量を向上させることができる。なお、第3熱処理工程S33の熱処理温度を840℃以上かつ890℃以下にすることで、粒成長の促進効果と層状構造の分解抑制効果をより向上させることができる。
【0069】
また、第3熱処理工程S33において、酸素分圧が低い場合には、Ni酸化反応を促進させるために加熱することが好ましい。即ち、第3熱処理工程S33において第2前駆体への酸素供給が不十分である場合には、熱処理温度を上昇させることが好ましい。ただ、熱処理温度を上昇させると、得られる化合物(1)において層状構造の分解が生じる可能性があり、これにより、正極活物質の良好な電極特性を得ることができない可能性がある。従って、第3熱処理工程S33において第2前駆体への酸素供給を十分に行うために、第3熱処理工程S33の熱処理の時間は、前記のように0.5時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0070】
以上の各工程を経ることで、正極活物質としての化合物(1)を製造することができる。製造された化合物(1)は必要に応じて粉砕することができる。粉砕することでスラリー状にし易くなり、金属板(集電体)に塗布して正極を作製し易くなる。
【0071】
[3.リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」という)は、前記の正正極活物質や適宜結着剤等をスラリー状の正極合剤にして、当該スラリー状の正極合剤を電極板に塗布及び乾燥してなる正極を備えるものである。二次電池の構成としては、本実施形態の正極材料を備えていればその他の構成は特に制限されず、例えば以下のような構成を採用することができる。
【0072】
図3は、本実施形態の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池の構造を示す模式図である。
図3では、説明の便宜上、二次電池100の一部の内部構造を可視化して示している。二次電池100は、円筒形のリチウムイオン二次電池であり、非水電解液を収容する有底円筒状の電池缶101と、電池缶101内に収容される捲回電極群110と、電池缶101の上部開口を封止する円板状の電池蓋102と、を備えている。なお、円筒形の形状に代えて、ボタン型の形状であってもよい。
【0073】
電池缶101及び電池蓋102は、アルミニウム等の金属材料により構成される。そして、絶縁性を有する樹脂材料からなるシール材106を介して電池蓋102が電池缶101にかしめ等によって固定されている。これにより、電池缶101が電池蓋102によって封止されるとともに互いに電気的に絶縁されている。
【0074】
捲回電極群110は、長尺帯状のセパレータ113を介して対向させた長尺帯状の正極111と負極112とを捲回中心軸周りに捲回することによって構成されている。捲回電極群110は、正極集電体111aが正極リード片103を介して電池蓋102と電気的に接続され、負極集電体112aが負極リード片104を介して電池缶101の底部と電気的に接続されている。
【0075】
捲回電極群110と電池蓋102との間、及び、捲回電極群110と電池缶101の底部との間には、短絡を防止する絶縁板105が配置されている。正極リード片103及び負極リード片104は、それぞれ正極集電体111a及び負極集電体112aと同様の材料によって製作された電流引出用の部材であり、それぞれ正極集電体111a及び負極集電体112aにスポット溶接又は超音波圧接等によって接合されている。
【0076】
正極111は、金属板により構成される正極集電体111aと、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、を備えている。この正極合剤層111bは、前記の正極材料を含んで構成されている。また、負極112は、金属板により構成される負極集電体112aと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bとを備えている。この負極合剤層112bは、リチウムイオン二次電池に使用可能な任意の負極合剤(例えば炭素材料)を含んで構成されている。
【0077】
二次電池100に使用可能な非水電解液としては、リチウムイオン二次電池に使用される任意の非水電解液を使用することができる。具体的には例えば、LiPF
6をエチレンカーボネート(EC)に溶解させて得られる非水電解液を使用することができる。
【実施例】
【0078】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0079】
<実施例1>
(正極活物質の作製)
まず、正極活物質の出発原料として、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト及び炭酸マンガンを用意した。次に、各出発原料を、原子比でLi:Ni:Co:Mnが、1.04:0.80:0.15:0.05となるように秤量した。そして、秤量した各原料を混合して、粉砕混合機を使用して十分に粉砕するとともに、湿式混合し、原料スラリーを得た(粉砕混合工程S1)。この原料スラリーにおける原料混合物の濃度は20質量%とした。
【0080】
原料スラリーに対し、Ni、Co及びMnの合算モル数を100molとしたときに1mol相当のTiとなるようにチタン含有キレート剤(チタンラクテートアンモニウム塩)を加え、十分に湿式混合した。この湿式混合は、前記の粉砕混合機と同じものを用いて行った。その後、湿式混合された混合物を、スプレードライヤで噴霧乾燥させて、粉末状の混合物を得た(造粒工程S2)。
【0081】
乾燥させた混合物300gを、縦300mm、横300mm、高さ100mmのアルミナ容器に充てんし、連続搬送炉によって、大気雰囲気で350℃の熱処理温度で1時間に亘って熱処理を行った(第1熱処理工程S31)。熱処理後の粉末(第1前駆体)を、炉内酸素濃度99%以上の雰囲気に置換した連続搬送炉によって、酸素気流中で600℃の熱処理温度で10時間に亘って熱処理を行った(第2熱処理工程S32)。この熱処理も、前記の第1熱処理工程S31において使用したものと同じ装置を用いて行った。
【0082】
この熱処理後の粉末(第2前駆体)を、炉内酸素濃度99%以上の雰囲気に置換した連続搬送炉によって、酸化気流中で785℃の熱処理温度で10時間に亘って熱処理を行った(第3熱処理工程S33)。この熱処理も、前記の第1熱処理工程S31において使用したものと同じ装置を用いて行った。そして、この熱処理によって得られた焼成粉を目開き53μm以下の篩を用いて分級し、当該篩を通過した粉体を正極活物質(実施例1の正極活物質)とした。
【0083】
得られた正極活物質の元素比をICPによって分析した。この分析は、パーキネルマー社製OPTIMA3300XLを用いて行った。この分析の結果、Li:Ni:Co:Mn:Tiの組成比(モル比)は、1.02:0.79:0.15:0.05:0.01であった。よって、得られた正極活物質の組成式はLi
1.02Ni
0.79Co
0.15Mn
0.05Ti
0.01O
2であることがわかった。また、図示はしないが、得られた正極活物質についてX線回折測定(リガク社製RINT)を行うと、α−NaFeO
2型層状構造に対応した回折パターンが得られた。
【0084】
また、得られた正極活物質について、XPSにより、Ti
3+とTi
4+との原子比Ti
3+/Ti
4+を測定した。測定装置としてアルバックファイン社製PHI 5000を使用した。そして、この装置を用いて、Ti2pスペクトルを測定した。測定されたスペクトルについて、アルバック・ファイ社製の解析ソフト PHI MultiPak(登録商標)を用いて、Ti
2O
3(Ti
3+)及びTiO
2(Ti
4+)に帰属した二つのスペクトルでフィッティングさせた。そして、得られたTi
3+とTi
4+との面積比を、実施例1の正極活物質についてのTi
3+とTi
4+との原子比Ti
3+/Ti
4+とした。この結果、原子比Ti
3+/Ti
4+は1.9であった。
【0085】
さらに、得られた正極活物質について、マイクロトラックベル社製BELSORP−miniを用いて、BET比表面積を測定した。その結果、BET比表面積は1.3m
2/gであった。また、得られた正極活物質について、水銀圧入法に基づく測定装置島津製作所社製オートポアを使用して、開口直径0.6μm以下の空孔率Piを測定した。その結果、開口直径0.6μm以下の空孔率Piは10%であった。
【0086】
また、得られた正極活物質について、40MPaでプレス後の、開口直径0.6μm以下の空孔率Ppを測定した。具体的には、以下のようにして測定した。まず、得られた正極活物質0.3gを内径として直径10mmの円形を有する金型に入れた。このとき、正極活物質は、金型の底面が見えなくなるように、かつ、できるだけ偏りが無いように万遍なく入れた。そして、金型の上方から40MPaの荷重でプレスすることで、直径10mmのペレットを得た。次いで、得られたペレットを乳鉢で十分に解砕し、粉末を得た。得られた粉末を用いて、前記の空孔率Piと同様にして、空孔率Ppを測定した。その結果、40MPaでプレス後の空孔率Ppは9%であった。従って、Pp/Piの値は0.9であった。
【0087】
なお、参考までに、得られた正極活物質について、圧壊強度を測定した。測定装置として島津製作所社製MCT−510を用いた。その結果、圧壊強度は67MPaであった。
【0088】
(リチウムイオン二次電池の作製)
得られた正極活物質を使用して、リチウムイオン二次電池(実施例1の二次電池)を作製し、その電池性能を評価した。
【0089】
まず、得られた正極活物質と、結着剤と、導電材とを混合した。結着剤としてはポリフッ化ビニリデンを使用した。導電材としてはアセチレンブラックを使用した。そして、これらの混合物を十分に混合して、正極合剤スラリーを調製した。このとき、溶媒としてN−メチルピロリドンを使用した。そして、調製した正極合剤スラリーを、正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、120℃で乾燥させた。その後、電極密度が2.6g/cm
3となるようにプレスで圧縮成形し、これを直径15mmの円盤状に打ち抜いて正極を作製した。即ち、この正極の1cm
3あたり、2.6gの正極活物質が含まれていることになる。
【0090】
また、負極としては、前記の正極と同じ大きさの金属リチウムを使用した。さらに、非水電解液としては、体積比で3:7のエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを混合した溶媒に、濃度が1.0mol/LとなるようにLiPF
6を溶解させた溶液を調製した。そして、作製した正極、負極及び非水電解液を用いて、ボタン型のリチウムイオン二次電池(実施例1の二次電池)を作製した。
【0091】
作製したリチウムイオン二次電池について25℃で充放電を行って、初回の放電容量を測定した。このとき、充電は、充電電流を0.2CAとして、充電終止電圧4.3Vまで定電流、定電圧で行い、放電は、放電電流を0.2CAとして、放電終止電圧3.3Vまで定電流で行った。その結果、初回の放電容量は196Ah/kgであった。なお、ここでいう単位「Ah/kg」における「kg」は、正極活物質の質量を表している。以下の記載でも同様の意味である。
【0092】
また、負極として、前記の金属リチウムに代えて黒鉛を用いたこと以外は同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池について25℃で以下の条件で充放電を行って、充放電サイクルに伴う抵抗上昇率を評価した。具体的には、以下のようにして評価した。
【0093】
充電は、充電電流を1CAとして、充電終止電圧4.2Vまで定電流、定電圧で行い、放電は、放電電流を1CAとして、放電終止電圧3.2Vまで定電流として2サイクル充放電を行った。その後、SOC50%における初期直流抵抗値を測定した。さらに、50℃において、充電及び放電電流を1CA、充電終止電圧を4.2V、放電終止電圧3.2Vとして300サイクル充放電を繰返した。300サイクル後に、25℃において、初期直流抵抗値を測定した電位での直流抵抗値を測定した。300サイクル目に測定された直流抵抗値を初期直流抵抗値で除することで、抵抗上昇率を算出した。その結果、算出された抵抗上昇率は48%であった。
【0094】
<実施例2>
出発原料として炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガン及びチタニアを用いて、かつ、これらの使用量を原子比で、Li:Ni:Co:Mn:Tiが、1.04:0.79:0.15:0.05:0.01となるように秤量して使用したこと以外は実施例1と同様にして正極活物質(実施例2の正極活物質)を得た。従って、実施例2では、チタンを含む原料を途中で加えた実施例1とは異なり、チタンを含む原料を出発原料として初めから使用している。
【0095】
得られた正極活物質について、実施例1と同様にしてICP分析及びXPS分析を行った。その結果、Li:Ni:Co:Mn:Tiの組成比(モル比)は、1.02:0.79:0.15:0.05:0.01であった。よって、得られた正極活物質の組成式はLi
1.02Ni
0.79Co
0.15Mn
0.05Ti
0.01O
2であることがわかった。また、図示はしないが、実施例1と同様にしてX線回折測定を行うと、α−NaFeO
2型層状構造に対応した回折パターンが得られた。さらに、原子比Ti
3+/Ti
4+は2.0であった。
【0096】
また、得られた正極活物質について、実施例1と同様にしてBET比表面積、空孔率Pi、空孔率Pp、Pp/Pi、及び圧壊強度を測定した。その結果、BET比表面積は0.8m
2/gであった。また、空孔率Piは11%、空孔率Ppは12%であり、Pp/Piの値は1.1であった。さらに、圧壊強度は61MPaであった。
【0097】
さらに、得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池(実施例2の二次電池)を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池を用いて、実施例1と同様にして、初回の放電容量及び抵抗上昇率を測定した。その結果、初回の放電容量は190Ah/kgであり、抵抗上昇率は39%であった。
【0098】
<比較例1>
チタン含有キレート剤を加えず、かつ、第3熱処理工程S33での熱処理温度を「785℃」に代えて「750℃」としたこと以外は実施例1と同様にして、正極活物質及びリチウムイオン二次電池を作製した(比較例1の正極活物質、及び、比較例1の二次電池)。
【0099】
得られた正極活物質について、実施例1と同様にしてICP分析及びXPS分析を行った。その結果、Li:Ni:Co:Mnの組成比(モル比)は、1.02:0.80:0.15:0.05であった。よって、得られた正極活物質の組成式はLi
1.02Ni
0.80Co
0.15Mn
0.05O
2であることがわかった。また、図示はしないが、実施例1と同様にしてX線回折測定を行うと、α−NaFeO
2型層状構造に対応した回折パターンが得られた。
【0100】
また、得られた正極活物質について、実施例1と同様にしてBET比表面積、空孔率Pi、空孔率Pp、Pp/Pi、及び圧壊強度を測定した。その結果、BET比表面積は0.7m
2/gであった。また、空孔率Piは14%、空孔率Ppは42%であり、Pp/Piの値は3.0であった。さらに、圧壊強度は109MPaであった。なお、比較例1では、チタン含有キレート剤を加えていないため、原子比Ti
3+/Ti
4+は測定していない。
【0101】
さらに、作製したリチウムイオン二次電池を用いて、実施例1と同様にして、初回の放電容量及び抵抗上昇率を測定した。その結果、初回の放電容量は197Ah/kgであり、抵抗上昇率は153%であった。
【0102】
<比較例2>
前記の仕上げ熱処理工程S33における熱処理温度及び時間を「750℃で10時間」に代えて「750℃で1時間」にしたこと以外は比較例1と同様にして、正極活物質及びリチウムイオン二次電池を作製した(比較例2の正極活物質、及び、比較例2の二次電池)。
【0103】
得られた正極活物質について、実施例1と同様にしてICP分析及びXPS分析を行った。その結果、Li:Ni:Co:Mnの組成比(モル比)は、1.02:0.80:0.15:0.05であった。よって、得られた正極活物質の組成式はLi
1.02Ni
0.80Co
0.15Mn
0.05O
2であることがわかった。また、図示はしないが、実施例1と同様にしてX線回折測定を行うと、α−NaFeO
2型層状構造に対応した回折パターンが得られた。
【0104】
また、得られた正極活物質について、実施例1と同様にしてBET比表面積、空孔率Pi、空孔率Pp、Pp/Pi、及び圧壊強度を測定した。その結果、BET比表面積は1.2m
2/gであった。また、空孔率Piは24%、空孔率Ppは41%であり、Pp/Piの値は1.7であった。さらに、圧壊強度は44MPaであった。なお、比較例2では、チタン含有キレート剤を加えていないため、原子比Ti
3+/Ti
4+は測定していない。
【0105】
さらに、作製したリチウムイオン二次電池を用いて、実施例1と同様にして、初回の放電容量及び抵抗上昇率を測定した。その結果、初回の放電容量は192Ah/kgであり、抵抗上昇率は110%であった。
【0106】
<検討>
以上の結果を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0107】
Pp/Piの値が
1.1以下となる実施例1及び2では、比較例1や比較例2と同水準の初期放電容量を有しつつも、充放電サイクルに伴う抵抗上昇率を極めて低く抑えることができた。特に、実施例1や実施例2の抵抗上昇率は、比較例1や比較例2の抵抗上昇率と比べて、50%(比較例2に対する実施例1)〜75%程度(比較例1に対する実施例2)も小さくなっていた。これにより、実施例1や実施例2の二次電池では、サイクル特性に優れていることがわかった。
【0108】
また、抵抗上昇率を抑制するには正極活物質の圧壊強度を強くするだけでは不十分であることが示された。例えば、圧壊強度の大きな比較例1では、従来では電池特性に優れると考えられていた。しかし、実際には、比較例1は、実施例1及び2並びに比較例1及び2の中でも最も大きな抵抗上昇率を示し、電池特性が良くなかった。一方で、実施例2と比較例2とは、圧壊強度は比較的近い値を示したが、実施例2の抵抗上昇率は、比較例2の抵抗上昇率の1/3程度であった。従って、実施例2と比較例2とはいずれも同程度の電池性能を示すと従来は考えられていたが、実際には、実施例2の方が優れたサイクル特性を示すことがわかった。
【0109】
Pp/Piの値が
1.1以下のプレスにより応力をかけたときに開空孔32の増加が少ない正極活物質であれば、充放電サイクルによる体積変化に伴う応力による開空孔32の増加がしにくく、非水電解液との新たな接触面が生じにくいため、抵抗上昇率が小さい優れた充放電サイクル特性が得られることが示された。