【文献】
M.SUGAYA, et al.,"Low-Order Modeling of Head-Related Transfer Function for Binaural Reproduction" ,SICE Journal of Control, Measurement, and System Integration,2015年 3月,Vol.8, No.2,pp.108-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段は、前記剰余多項式の全係数に対する閾値判定により、前記剰余多項式の全係数が小さいか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の伝達関数近似装置。
前記伝達関数分解手段は、前記入力伝達関数として、クロストークキャンセレーション用の伝達関数を分解することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の伝達関数近似装置。
【背景技術】
【0002】
離散時間システムの伝達関数の安定性は、その伝達関数に含まれる極により決定される。伝達関数は、全ての極が複素平面上の単位円内に含まれるとき、安定する。このとき、伝達関数の応答は、ゼロに向けて収束する。一方、伝達関数は、極が一つでも単位円上又は単位円外に存在するとき、不安定となる。
図5の例では、極P1〜P3が単位円内に含まれるが、極P4が単位円上に存在し、極P5が単位円外に存在する。このように伝達関数が不安定な場合、その応答が発振する。
【0003】
なお、不安定極とは、複素平面上の単位円上又は単位円外に存在する極のことである。
不安定伝達関数とは、不安定極を含み、応答が発振する伝達関数のことである。
安定伝達関数とは、不安定極を含まず、応答が収束する伝達関数のことである。
【0004】
伝達関数の安定性は、制御システムを構築する際に重要となる。例えば、音場制御システムは、ある音場の特性を補償することや、ノイズや残響をキャンセルすることを目的としており、その音場の伝達関数の逆システムとして設計されることが多い。通常、逆システムは、制御対象となる音場が不安定零点を持つため、不安定極を持つ不安定伝達関数から構成される。そのような制御システムは、実装不可能なため、安定伝達関数により近似される。
【0005】
例えば、非特許文献1では、不安定伝達関数を全域通過特性を持つ関数と最小位相関数とに分割し、不安定極を含む全域通過関数を遅延により近似する技術が提案されている。また、非特許文献2では、不安定伝達関数から不安定極を括り出し、除算法と呼ばれる除算と剰余の打ち切り処理とにより、不安定極を安定伝達関数で近似する技術が提案されている。
なお、全域通過特性を持つ関数は、不安定零点及び極又はその何れかと、その複素共役の逆数の関係にある極及び零点とを含む伝達関数である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載の技術は、伝達関数の振幅特性を精度よく近似するが、位相特性が線形位相近似となるため、近似した不安定伝達関数の精度が低下する。また、非特許文献2に記載の技術は、剰余多項式が安定するまで打ち切り処理が繰り返されるため、振幅特性及び位相特性の誤差が増大する。
【0008】
そこで、本願発明は、前記した問題に鑑みて、入力伝達関数を精度よく近似できる伝達関数近似装置、そのプログラム及びその方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本願発明に係る伝達関数近似装置は、伝達関数分解手段と、伝達関数除算手段と、判定手段と、マッチドフィルタ算出手段と、伝達関数近似手段とを備える構成とした。
【0010】
かかる構成によれば、伝達関数近似装置は、伝達関数分解手段によって、入力伝達関数を、不安定極及び不安定極の複素共役の逆数の関係にある零点が含まれる不安定伝達関数と、不安定伝達関数以外の安定伝達関数とに分解する。このようにして、伝達関数近似装置は、不安定極と複素共役の逆数の関係にある零点とを、不安定伝達関数として一緒に括り出す。また、括り出された不安定伝達関数は、全域通過特性を持つことになる。
【0011】
伝達関数近似装置は、伝達関数除算手段によって、伝達関数分解手段で分解された不安定伝達関数の分母多項式を分子多項式で除算することで、不安定伝達関数の逆数について商多項式及び剰余多項式を算出する。
ここで、不安定伝達関数の分母多項式を分子多項式で除算することは、不安定伝達関数の逆数をとって除算することと等価である。
【0012】
伝達関数近似装置は、判定手段によって、剰余多項式を扱わずに商多項式のみで近似を行うために、剰余多項式の全係数が小さくなるまで、伝達関数除算手段に除算を実行させる。これにより、不安定伝達関数の逆数は、剰余多項式を無視して、商多項式のみで近似できる。
【0013】
伝達関数近似装置は、マッチドフィルタ算出手段によって、伝達関数除算手段で算出された商多項式のマッチドフィルタ(matched filter)を算出する。このマッチドフィルタは、整合フィルタとも呼ばれる。そして、伝達関数近似装置は、伝達関数近似手段によって、マッチドフィルタ算出手段で算出されたマッチドフィルタと安定伝達関数との積で入力伝達関数を近似する。
ここで、不安定伝達関数が全域通過特性を持つため、不安定伝達関数の逆数も全域通過特性を持つことになる。そして、不安定伝達関数の逆数が商多項式で近似されることから、商多項式のマッチドフィルタも全域通過特性を持つことになる。
【0014】
なお、本願発明は、コンピュータを、伝達関数近似装置の各手段として動作させる伝達関数近似プログラムで実現することもできる。また、本願発明は、伝達関数近似装置の各手段が処理を順に実行する伝達関数近似方法で実現することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、括り出された不安定伝達関数が全域通過特性を持つため、不安定伝達関数の逆数も全域通過特性を持つことになり、マッチドフィルタも全域通過特性を持つことになる。従って、本願発明によれば、不安定伝達関数の振幅特性を精度よく近似できる。さらに、本願発明によれば、不安定伝達関数の逆数をとる際に位相が一旦反転するが、マッチドフィルタを算出することで位相が再度反転して元に戻るため、不安定伝達関数の位相特性も精度よく近似できる。このようにして、本願発明によれば、入力伝達関数を精度よく近似できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する手段には同一の符号を付し、説明を省略した。
【0018】
(第1実施形態)
[フィルタ近似装置の構成]
図1を参照し、本願発明の第1実施形態に係るフィルタ近似装置(伝達関数近似装置)1の構成について説明する。
フィルタ近似装置1は、不安定極を含む入力伝達関数Hを、不安定極が含まれないように近似するものである。
図1のように、フィルタ近似装置1は、伝達関数分解手段10と、伝達関数除算手段20と、判定手段30と、マッチドフィルタ算出手段40と、伝達関数近似手段50とを備える。
【0019】
伝達関数分解手段10は、入力伝達関数Hが入力され、入力された入力伝達関数Hを、不安定伝達関数と安定伝達関数とに分解するものである。
本実施形態では、伝達関数分解手段10は、入力伝達関数Hの係数を有するフィルタが外部(例えば、トランスオーラル再生システム)から入力される。この入力伝達関数Hは、有理関数の比で表されると共に、不安定極を含む不安定伝達関数である。
【0020】
下記式(1)のように、入力伝達関数Hは、不安定極及び不安定極の複素共役の逆数の関係にある零点が含まれる不安定伝達関数H
−と、不安定伝達関数H
−以外の安定伝達関数H
+との積で定義される。この不安定伝達関数H
−は、全域通過特性を持つことになる。また、伝達関数の分母多項式の根が極に、分子多項式の根が零点となる。このことから、不安定伝達関数H
−は、入力伝達関数Hの分母多項式の根のうち不安定なものを極として持ち、その根と複素共役の逆数の関係にある零点を持つことになる。
【0022】
例えば、入力伝達関数H=1/(0.5−2.25q
−1+q
−2)の場合を考える。この場合、伝達関数分解手段10は、入力伝達関数Hの分母多項式を“(0.25−q
−1)(2−q
−1)”に因数分解する。このとき、入力伝達関数Hの極となる根は、それぞれ“4”と“0.5”となる。従って、伝達関数分解手段10は、式(1)を用いて、入力伝達関数Hを、不安定伝達関数H
−=(q
−1−4)/(0.25−q
−1)と、安定伝達関数H
+=1/((q
−1−4)(2−q
−1))とに分解できる。その後、伝達関数分解手段10は、分解した不安定伝達関数H
−及び安定伝達関数H
+を伝達関数除算手段20に出力する。
【0023】
伝達関数除算手段20は、伝達関数分解手段10から入力された不安定伝達関数H
−の分母多項式を分子多項式で除算することで、不安定伝達関数H
−の逆数について商多項式及び剰余多項式を算出するものである(1回目の除算)。
【0024】
ここで、下記式(2)のように、不安定伝達関数H
−の分子多項式をH
−A、分母多項式をH
−Bとおく。この場合、伝達関数除算手段20は、下記式(3)のように、分子多項式H
−Aによる分母多項式H
−Bの除算を行い、そのときの商及び剰余をそれぞれ商多項式C及び剰余多項式Dとする。その後、伝達関数除算手段20は、伝達関数分解手段10から入力された安定伝達関数H
+と、算出した商多項式C及び剰余多項式Dとを判定手段30に出力する。
【0027】
さらに、伝達関数除算手段20は、後記する除算実行指令が判定手段30から入力される都度、剰余多項式Dの分子多項式H
−Aによる除算を行う(2回目以降の除算)。つまり、伝達関数除算手段20は、剰余多項式Dの全係数が小さくなるまで、剰余多項式Dを分子多項式H
−Aで除算することを繰り返す。
【0028】
判定手段30は、剰余多項式Dを扱わずに商多項式Cのみで近似を行うために、剰余多項式Dの全係数が小さくなるまで、伝達関数除算手段20に除算を実行させるものである。
本実施形態では、判定手段30は、剰余多項式Dの全係数に対する閾値判定により、剰余多項式Dの全係数が小さいか否かを判定する。例えば、判定手段30は、閾値Tが予め設定され、剰余多項式Dの全係数が閾値T未満であるか否かを判定する。
【0029】
剰余多項式Dの全係数が閾値T未満でない場合、判定手段30は、伝達関数除算手段20に除算の実行を指令する(除算実行指令)。このとき、判定手段30は、除算実行指令の出力回数を、除算反復回数Nとして算出(カウント)する。
なお、伝達関数除算手段20が除算を繰り返すと、近似精度が向上する一方、除算反復回数Nが多くなるため、近似による遅延(モデリングディレイ)が増大する。
【0030】
剰余多項式Dの全係数が閾値T未満の場合、判定手段30は、伝達関数除算手段20から入力された安定伝達関数H
+と、算出した商多項式C及び除算反復回数Nとをマッチドフィルタ算出手段40に出力する。
【0031】
<除算及び閾値判定の具体例>
ここでは、分母多項式H
−B=3q
−1+4q
−2+5q
−3を、分子多項式H
−A=q
−1で除算する具体例をあげて、伝達関数除算手段20による除算及び判定手段30による閾値判定を説明する。
【0032】
1回目の除算では、伝達関数除算手段20が分母多項式H
−B=3q
−1+4q
−2+5q
−3を“q
−1”で除算するので、商が“3”、剰余が“4q
−2+5q
−3”となる。この場合、判定手段30は、剰余多項式Dの係数“4,5”のそれぞれに対し、閾値判定を行う。ここでは、剰余多項式Dの係数“4,5”が閾値T未満でないため、伝達関数除算手段20が2回目の除算を行うこととする。
【0033】
2回目の除算では、伝達関数除算手段20が1回目の除算で発生した剰余多項式D=4q
−2+5q
−3を“q
−1”で除算するので、商が“3+4q
−1”、剰余が“5q
−3”となる。この場合、判定手段30は、剰余多項式Dの係数“5”に対し、閾値判定を行う。
剰余多項式Dの係数の全てが閾値T未満になるまで、伝達関数除算手段20による除算及び判定手段30による閾値判定が繰り返されることになる。
【0034】
以下、フィルタ近似装置の構成について、説明を続ける。
マッチドフィルタ算出手段40は、判定手段30から入力された商多項式CのマッチドフィルタC
Mを算出するものである。
【0035】
ここで、商多項式Cのマッチドフィルタについて考える。マッチドフィルタは、その周波数伝達関数が対象信号の周波数伝達関数の複素共役となる。つまり、対象信号の時間軸反転と等価になる。そこで、商多項式Cは、下記式(4)で記述できる。この場合、マッチドフィルタC
Mは、下記式(5)のようになる。この商多項式C及びマッチドフィルタC
Mは、同一の振幅特性を有し、位相特性が遅延を伴って逆に進む。
なお、c
0,…,c
N−1が商多項式Cの係数を表し、qがシフトオペレータを表す。
【0038】
つまり、マッチドフィルタ算出手段40は、式(5)を用いて、反復除算で得られた商多項式CのマッチドフィルタC
Mを算出する。そして、マッチドフィルタ算出手段40は、判定手段30から入力された安定伝達関数H
+と、算出したマッチドフィルタC
Mとを伝達関数近似手段50に出力する。
【0039】
伝達関数近似手段50は、マッチドフィルタ算出手段40から入力されたマッチドフィルタC
Mと安定伝達関数H
+との積で入力伝達関数Hを近似するものである。
以下、マッチドフィルタと安定伝達関数との積で近似した伝達関数を「近似伝達関数」と呼ぶ。
【0040】
ここで、伝達関数除算手段20が除算を繰り返したので、剰余多項式Dが無視できる程小さくなる。そこで、式(3)より、不安定伝達関数H
−を商多項式Cで近似できる。その結果、不安定伝達関数H
−は、マッチドフィルタC
Mを用いて、下記式(6)のように近似できる。さらに、式(1)及び式(6)により、伝達関数近似手段50は、下記式(7)を用いて、近似伝達関数C
MH
+で入力伝達関数Hを近似できる。その後、伝達関数近似手段50は、近似伝達関数C
MH
+を外部(例えば、トランスオーラル再生システム)に出力する。
【0043】
[フィルタ近似装置の動作]
図2を参照し、フィルタ近似装置1の動作について説明する(適宜
図1参照)。
フィルタ近似装置1は、伝達関数分解手段10によって、式(1)を用いて、入力伝達関数Hを不安定伝達関数H
−と安定伝達関数H
+とに分解する(ステップS1)。
【0044】
フィルタ近似装置1は、伝達関数除算手段20によって、式(3)を用いて、不安定伝達関数H
−の分母多項式H
−Bを分子多項式H
−Aで除算する(ステップS2)。
フィルタ近似装置1は、判定手段30によって、剰余多項式Dの全係数が閾値T未満であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0045】
剰余多項式Dの全係数が閾値T未満でない場合(ステップS3でNo)、フィルタ近似装置1は、ステップS2の処理に戻り、伝達関数除算手段20によって、剰余多項式Dを分子多項式H
−Aで更に除算することになる。
【0046】
剰余多項式Dの全係数が閾値T未満の場合(ステップS3でYes)、フィルタ近似装置1は、マッチドフィルタ算出手段40によって、式(5)を用いて、商多項式CのマッチドフィルタC
Mを算出する(ステップS4)。
フィルタ近似装置1は、伝達関数近似手段50によって、式(7)を用いて、マッチドフィルタC
Mにより入力伝達関数Hを近似する(ステップS5)。
【0047】
[作用・効果]
本願発明の第1実施形態に係るフィルタ近似装置1は、括り出された不安定伝達関数H
−が全域通過特性を持つため、不安定伝達関数H
−の逆数も全域通過特性を持つことになり、マッチドフィルタも全域通過特性を持つことになる。従って、フィルタ近似装置1は、不安定伝達関数H
−の振幅特性を精度よく近似できる。さらに、フィルタ近似装置1は、不安定伝達関数H
−の逆数をとる際に位相が一旦反転するが、マッチドフィルタを算出することで遅延は伴うものの位相再度が反転して元に戻るため、不安定伝達関数H
−の位相特性も精度よく近似できる。このように、フィルタ近似装置1は、一定の遅延を伴うものの、不安定伝達関数H
−の振幅特性及び位相特性を精度よく近似し、入力伝達関数Hの安定化を図ることができる。
【0048】
(第2実施形態)
図3,
図4を参照し、本願発明の第2実施形態に係るフィルタ近似装置1について説明する。この第2実施形態では、フィルタ近似装置1が、トランスオーラル再生システム100に用いられる。
【0049】
[トランスオーラル再生の概略]
図3を参照し、トランスオーラル再生システム100の概略について、説明する。
頭部伝達関数(HRTF:Head-Related Transfer Function)は、自由音場において、頭がない状態での頭部中心に相当する位置から、頭外音源位置を経て両耳鼓膜位置もしくは外耳道入口までの音響伝達関数として定義される。このHRTFには、両耳間時間差やレベル差、周波数特性上のスペクトラルキューなど、音像定位知覚に関連した多くの特徴量が含まれている。そのため、HRTFを音源信号に作用させる、言い換えると、HRTF領域表現である頭部インパルス応答を音源信号に畳み込むことにより、任意の方位に音像を定位知覚させることができる。このように生成される信号をバイノーラル信号、という。また、バイノーラル信号をヘッドホンにより再生する再生方式をバイノーラル再生方式という。
【0050】
スピーカによりバイノーラル信号を再生する場合、スピーカから同側耳までの信号の伝搬に加え、対側耳への漏洩(クロストーク)も発生する。従って、このクロストークを抑圧し、所望信号のみをそれぞれの耳に伝送する補償処理が必要となる。この処理をクロストークキャンセレーションという。また、この処理により実現されるスピーカを用いた3次元音響再生方式を、トランスオーラル再生という。
【0051】
図3のように、トランスオーラル再生システム100では、制御点数m(1≦i≦m)及び2次音源数n(1≦j≦n)である。G
ij(q)は、j番目の2次音源からi番目の制御点への音響伝達関数、すなわちHRTFを表す。X
i(q)は、各制御点での所望伝達関数を表す。H
ij(q)は、各制御点でのクロストークキャンセレーション用の制御器120として働く。
図3では、X
i(q)及びG
ij(q)にそれぞれ符号110,140を付した。また、符号130がスピーカを表し、符号150が頭部位置を表し、符号160が音源を表す。
【0052】
トランスオーラル再生システム100の入出力信号は、下記式(8)〜式(12)の関係で表される。ここで、u(k)がトランスオーラル再生システム100の入力信号を表す。また、y(k)がトランスオーラル再生システム100の出力信号を表す。また、Tが転置を表す。
【0058】
出力信号y(k)は、入力信号u(k)に伝達関数X(q)が作用された信号となるため、下記式(13)で表すことができる。このように、シフトオペレータqを用いると、時間領域での畳み込み演算が行列積の形で記述可能となる。このため、下記式(14)のような代数学的な逆行列演算により、制御器120を設計することができる。
【0061】
ただし、式(14)は不安定となるため、そのままの実装が不可能である。そこで、一旦不安定な制御器120を設計した後、フィルタ近似装置1が、各制御器120を構成する伝達関数H(q)から不安定伝達関数H
−を括り出す。そして、フィルタ近似装置1が、この不安定伝達関数H
−を遅れ逆システムとして近似することで、安定した制御器120を実現できる。
【0062】
<フィルタ近似装置の利用例>
図4を参照し、
図1のフィルタ近似装置1の利用例について説明する(適宜
図3参照)。
この
図4では、図面を見やすくするため、制御器120及びスピーカ130を1個だけ図示した。
【0063】
図4のように、フィルタ近似装置1は、トランスオーラル再生システム100で用いられる伝達関数H(q)を近似するものである。
具体的には、フィルタ近似装置1は、入力伝達関数として、各制御器120を構成する伝達関数H(q)をそれぞれ入力し、第1実施形態と同様の処理を行う。そして、フィルタ近似装置1は、伝達関数H(q)の近似伝達関数を各制御器120に出力する。その後、各制御器120は、フィルタ近似装置1から入力された近似伝達関数を用いて、トランスオーラル再生を行う。
【0064】
[作用・効果]
本願発明の第2実施形態に係るフィルタ近似装置1は、第1実施形態と同様の理由により、伝達関数H(q)を精度よく近似することができる。従って、フィルタ近似装置1を用いると、制御器120を容易に実装することができる。
【0065】
なお、前記した各実施形態では、フィルタ近似装置1を独立したハードウェアとして説明したが、本願発明は、これに限定されない。例えば、フィルタ近似装置1は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した各手段として協調動作させるフィルタ近似プログラムで実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD−ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。