(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361957
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】電子部品用積層配線膜および被覆層形成用スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
C22C 27/04 20060101AFI20180712BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20180712BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20180712BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20180712BHJP
B22F 3/14 20060101ALN20180712BHJP
B22F 3/15 20060101ALN20180712BHJP
B22F 3/20 20060101ALN20180712BHJP
B22F 3/24 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
C22C27/04 102
H01B5/14 Z
C23C14/34 A
C23C14/14 G
C23C14/14 B
!B22F3/14 D
!B22F3/15 H
!B22F3/15 M
!B22F3/20 C
!B22F3/24 F
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-50030(P2014-50030)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2014-208887(P2014-208887A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2017年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-59489(P2013-59489)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 英夫
【審査官】
川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−279022(JP,A)
【文献】
特開2002−167667(JP,A)
【文献】
特表2011−523978(JP,A)
【文献】
特開2004−158442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/04
C23C 14/34
H01B 5/14
B22F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Alを主成分とする主導電層と該主導電層の少なくとも一方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Nix−Nby、10≦x≦30、3≦y≦15、x/yが1以上で表され、残部が不可避的不純物からなることを特徴とする電子部品用積層配線膜。
【請求項2】
前記組成式のx、yが、それぞれ10≦x≦20、5≦y≦10であり、かつx/yが1以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用積層配線膜。
【請求項3】
前記被覆層が、前記主導電層と前記基板の間に位置する下地層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子部品用積層配線膜。
【請求項4】
前記被覆層が、前記主導電層の表面のうち前記基板と反対側に位置する面を覆うキャップ層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子部品用積層配線膜。
【請求項5】
前記被覆層が、前記主導電層と前記基板の間に位置する下地層と、前記主導電層の表面のうち前記基板と反対側に位置する面を覆うキャップ層と、を備え、前記主導電層が、前記下地層および前記キャップ層の両方で覆われていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子部品用積層配線膜。
【請求項6】
請求項1に記載の被覆層を形成するための被覆層形成用スパッタリングターゲット材であって、原子比における組成式がMo100−x−y−Nix−Nby、10≦x≦30、3≦y≦15、x/yが1以上で表され、残部が不可避的不純物からなることを特徴とする被覆層形成用スパッタリングターゲット材。
【請求項7】
前記組成式のx、yが、それぞれ10≦x≦20、5≦y≦10であり、かつx/yが1以上であることを特徴とする請求項6記載の被覆層形成用スパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿性、耐酸化性が要求される電子部品用積層配線膜およびこの電子部品用積層配線膜の主導電層を覆う被覆層を形成するための被覆層形成用スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(以下「LCD」という。)、プラズマディスプレイパネル(以下「PDP」という)、電子ペーパー等に利用される電気泳動型ディスプレイ等の平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、以下「FPD」という)に加え、各種半導体デバイス、薄膜センサー、磁気ヘッド等の薄膜電子部品においては、低抵抗な配線膜の形成が必要である。例えば、ガラス基板上に薄膜デバイスを作製するLCD、PDP、有機ELディスプレイ等のFPDは、大画面、高精細、高速応答化に伴い、その配線膜に低抵抗化が要求されている。さらに近年、FPDに操作性を加えるタッチパネルや樹脂基板を用いたフレキシブルなFPD等の新たな製品が開発されている。
【0003】
近年、FPDの駆動素子として用いられている薄膜トランジスタ(以下「TFT」という)は、Si半導体膜が主流であり、低抵抗な配線膜のAlは、Siと直接触れると、TFT製造における加熱工程により拡散してしまい、TFTの特性を劣化させる場合がある。このため、AlとSiの間には耐熱性に優れた純MoやMo合金をバリア膜とした積層配線膜が用いられている。
また、TFTからつながる画素電極や携帯型端末やタブレットPC等に用いられているタッチパネルの位置検出電極には、一般的に透明導電膜であるインジウム−スズ酸化物(以下「ITO」という)が用いられている。この場合にも、配線膜であるAlがITOと接触すると、その界面に酸化物が生成してしまい、電気的コンタクト性が劣化する場合がある。このため、AlとITOとの間にコンタクト膜として純MoやMo合金を形成してITOとのコンタクト性を確保している。
以上のように、Alの低抵抗な特性を生かした配線膜を得るには、純MoやMo合金膜が不可欠であり、Alを純MoやMo合金で被覆した積層配線膜とする必要がある。
さらに、近年、非晶質Si半導体より高速駆動に適すると考えられている酸化物を用いた透明な半導体膜の検討が盛んに進んでおり、これら酸化物半導体とAlとの積層膜のコンタクト膜やバリア膜として用いられる被覆層にも、純Moの適用が検討されている。
【0004】
そこで、本出願人は、純Moの特性を改善する手段として、耐食性、耐熱性や基板との密着性に優れ、低抵抗な、Moに3〜50原子%のVやNbを添加したMo合金膜を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−190212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1で提案したMo−V、Mo−Nb合金等は、Moより耐食性、耐熱性や基板との密着性に優れるため、ガラス基板上に形成するFPD用途では広く使用されている。
しかし、FPDを製造する場合において、基板上に積層配線膜を形成した後に、次工程に移動する際に、大気中に長時間放置される場合がある。また、利便性を向上させるために、樹脂フィルムを用いた軽量でフレキシブルなFPD等においては、樹脂フィルムがこれまでのガラス基板等に比較して透湿性があるため、積層配線膜にはより高い耐湿性が求められている。
【0007】
さらに、FPDの端子部等に信号線ケーブルを取り付ける際に、大気中で加熱される場合があるため、積層配線膜には耐酸化性の向上も要求されている。加えて、酸化物を用いた半導体膜においては、特性向上や安定化のために、酸素を含有した雰囲気や、酸素を含む保護膜を形成した後に350℃以上の高温での加熱処理を行う場合がある。このため、積層配線膜には、これらの加熱処理を経た後にも安定した特性を維持できるように、耐酸化性向上の要求が高まっている。
【0008】
本発明者の検討によると、上述したMo−V、Mo−Nb合金や純Moでは、上述した環境での耐湿性や耐酸化性が十分でなく、FPDの製造工程中で積層配線膜の被覆層とした際に、表面が酸化して変色してしまう問題が発生する場合があることを確認した。耐酸化性が不十分だと、電気的コンタクト性を劣化させ、電子部品の信頼性低下に繋がる。
また、高速駆動のためにTFT製造工程中の加熱温度は上昇する傾向にあり、より高い温度での加熱工程を経ると、積層配線膜に含まれる合金元素がAlに拡散して電気抵抗値が増加する問題があることを確認した。
【0009】
本発明の目的は、耐湿性や耐酸化性を改善し、さらに、低抵抗な主導電層であるAlと積層した際に、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できる、Mo合金からなる被覆層を用いた電子部品用積層配線膜および前記被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み、新たにMoに添加する元素の最適化に取り組んだ。その結果、Moに特定量のNiとNbとを複合で添加することで、耐湿性と耐酸化性を向上させるとともに、主導電層であるAlの被覆層とした際に加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Alを主成分とする主導電層と該主導電層の少なくとも一方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo
100−x−y−Ni
x−Nb
y、10≦x≦30、3≦y≦15で表され、残部が不可避的不純物からなる電子部品用積層配線膜の発明である。
本発明では、前記組成式のx、yを、それぞれ10≦x≦20、5≦y≦10、かつx/yが1以上とすることが好ましい。
前記被覆層は、下地層であることが好ましい。
また、前記被覆層は、キャップ層であることが好ましい。本発明において「キャップ層」とは、主導電層をはさんで基板の反対側に設けられた被覆層をいう。
また、前記被覆層は、下地層およびキャップ層であることがより好ましい。本発明において「下地層」とは、主導電層と基板の間に設けられた被覆層をいう。
【0012】
また、本発明は、前記被覆層を形成するための被覆層形成用スパッタリングターゲット材であって、原子比における組成式がMo
100−x−y−Ni
x−Ti
y、10≦x≦30、3≦y≦15で表され、残部が不可避的不純物からなる被覆層形成用スパッタリングターゲット材の発明である。
本発明では、前記組成式のx、yが、それぞれ10≦x≦20、5≦y≦10かつx/yが1以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子部品用積層配線膜は、耐湿性、耐酸化性を向上させることができる。また、主導電層のAlと積層した際の加熱工程おいても、電気抵抗値の増加を抑制し、低い電気抵抗値を維持できる。これにより、種々の電子部品、例えば樹脂基板上に形成するFPD等の配線膜に用いることで、電子部品の安定製造や信頼性向上に大きく貢献できる利点を有するものであり、電子部品の製造に有用な技術となる。特に、タッチパネルや樹脂基板を用いるフレキシブルなFPDに対して非常に有用な積層配線膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図の一例を
図1に示す。本発明の電子部品用積層配線膜は、Alを主成分とする主導電層3の少なくとも一方の面を覆う被覆層からなり、例えば基板1上に形成される。
図1では主導電層3の両面に被覆層2、4を形成しているところ、下地層2またはキャップ層4のいずれか一方の面のみに形成してもよく、適宜選択できる。尚、主導電層の一方の面のみを本発明の被覆層で覆う場合には、主導電層の他方の面には電子部品の用途に応じて、本発明とは別の組成の被覆層で覆うことができる。
本発明の重要な特徴は、
図1に示す電子部品用積層配線膜の被覆層において、Moに特定量のNiとNbとを複合添加することで、耐湿性、耐酸化性を向上させ、主導電層のAlと積層する際の加熱工程を経ても、低い電気抵抗値を維持できる新たなMo合金を見出した点にある。以下、本発明の電子部品用配線膜について詳細に説明する。
尚、以下の説明において「耐湿性」とは、高温高湿環境下における配線膜の電気抵抗値の変化のしにくさ、および電気的コンタクト性の劣化のしにくさをいい、配線膜の変色により確認でき、例えば反射率によって定量的に評価することができる。また、「耐酸化性」とは、高温環境下における電気的コンタクト性の劣化のしにくさをいい、配線膜の変色により確認でき、例えば反射率によって定量的に評価することができる。
【0016】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金にNiを添加する理由は、主に被覆層の耐酸化性を向上するためである。純Moは、大気中で加熱すると酸化して膜表面が変色してしまい、電気的コンタクト性が劣化してしまう。本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層は、Moに特定量のNiを添加することで、被覆層の変色を抑制する効果を有し、耐酸化性を向上できる。その効果は、Niの添加量が10原子%以上で顕著になる。
一方、NiはAlに対して拡散しやすい元素であり、Al中におけるNiの相互拡散係数はAl中におけるMoの相互拡散係数よりも大きい。MoへのNiの添加量が30原子%を越えると、FPD等の電子部品を製造する際の加熱工程において、被覆層に含まれるNiが主導電層のAlに拡散してしまい、低い電気抵抗値を維持しづらくなる。このため、Niの添加量は10〜30原子%とする。
また、主導電層の表面に被覆層を形成して、350℃より高温で加熱する場合には、被覆層のNiが主導電層のAlに拡散しやすくなり、電気抵抗値が上昇する場合がある。本発明で低い電気抵抗値を維持するためには、Niの添加量を20原子%以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金にNbを添加する理由は、主に被覆層の耐湿性を向上するためである。Nbは、酸素や窒素と結合しやすい性質を有する金属であり、高温高湿雰囲気では、表面に不動態膜を形成して配線膜の内部を保護する効果を持つ。そして、その効果は、Nbを単独で添加するよりも、上述したNiと組み合わせて複合添加することで、さらに高くなる。本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層は、Moに特定量のNbを添加することで耐湿性を大幅に向上させることができる。この効果は、Nbの添加量が3原子%以上で明確になり、5原子%以上で顕著になる。
一方、Nbの添加量が15原子%を越えると、耐食性が向上し過ぎてしまい、Al用エッチャントでのエッチング速度が低下し、その結果、主導電層のAlとの積層膜のエッチング時に残渣が生じたり、エッチングができなくなったりする。このため、本発明では、Nbの添加量を3〜15原子%とする。
また、Alとの積層膜において、耐湿性、エッチング性を容易に達成するには、Nbの添加量を5〜10原子%にすることが好ましい。
また、被覆層を形成するMo合金に複合添加するNiとNbは、原子比(x/y)で1以上が好ましい。上述したように、Nbは耐湿性向上に関与する元素であるものの、添加し過ぎると耐酸化性が低下するため、Niの添加量よりNbの添加量が多い場合には、耐酸化性の向上効果を得にくくなる。このため、NiとNbとの原子比(x/y)が1以上となるようにそれぞれ添加することで、被覆層の耐湿性と耐酸化性をより安定的に得ることが可能となる。
【0018】
また、積層配線膜の製造工程における加熱温度が350℃以上の高温を経る場合は、被覆層を形成するMo合金に複合添加するNiとNbの総和を35原子%以下にすることがより好ましい。その理由は、NiだけでなくNbもAlに熱拡散する元素であり、NiとNbの総和が35原子%を越えると、被覆層のNiやNbが主導電層のAlに拡散し、低い電気抵抗値を維持しづらくなるためである。
【0019】
本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と耐湿性や耐酸化性を安定的に得るには、主導電層の膜厚を100〜1000nmにすることが好ましい。主導電層の膜厚が100nmより薄くなると、薄膜特有の電子の散乱の影響で電気抵抗値が増加しやすくなる。一方、主導電層の膜厚が1000nmより厚くなると、膜を形成するために時間が掛かったり、膜応力により基板に反りが発生しやすくなったりする。主導電層の膜厚のより好ましい範囲は、200〜500nmである。
また、Alを主成分とする主導電層は、最も低い電気抵抗値を得ることができる純Alが好適である。耐熱性、耐食性等の信頼性を考慮して、Alに遷移金属や半金属等を添加したAl合金を用いてもよい。このとき、できる限り低い電気抵抗値が得られるように、Alへの添加元素の添加量は、5原子%以下が好ましい。
【0020】
また、本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と耐湿性や耐酸化性を安定的に得るには、被覆層の膜厚を20〜100nmにすることが好ましい。被覆層の膜厚が20nm未満では、Mo合金膜の連続性が低くなってしまい、耐湿性と耐酸化性を十分に得ることができない場合がある。
一方、被覆層の膜厚が100nmを越えると、被覆層の電気抵抗値が高くなってしまい、主導電層のAl膜と積層した際に、電子部品用積層配線膜として低い電気抵抗値が得にくくなる。また、本発明において加熱時の主導電層を形成するAlへの原子の拡散を抑制するためには、被覆層の膜厚を20〜70nmとすることがより好ましい。
【0021】
本発明の電子部品用積層配線膜の各層を形成するには、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が最適である。被覆層を形成する際には、例えば被覆層の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用して成膜する方法や、Mo−Ni合金スパッタリングターゲットとMo−Nbスパッタリングターゲットを使用してコスパッタリングによって成膜する方法等が適用できる。スパッタリングの条件設定の簡易さや、所望組成の被覆層を得やすいという点からは、被覆層の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用してスパッタリング成膜することがより好ましい。
したがって、本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するには、原子比における組成式がMo
100−x−y−Ni
x−Nb
y、10≦x≦30、3≦y≦15で表され、残部が不可避的不純物からなるスパッタリングターゲットを用いることで、安定して被覆層を形成できる。
また、上述したように、350℃という高温の加熱工程を経る場合にも低い電気抵抗値の電子部品用積層配線膜を得るには、MoにNiを10〜20原子%、Nbを5〜10原子%含有させ、かつNiとNbとの原子比(x/y)が1以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の被覆層形成用スパッタリングターゲット材の製造方法としては、例えば粉末焼結法が適用可能である。粉末焼結法では、例えばガスアトマイズ法で合金粉末を製造して原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末を本発明の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
【0023】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金において、耐酸化性、耐湿性を確保するために必須元素であるNi、Nb以外の残部を占めるMo以外の不可避的不純物含有量は少ないことが好ましく、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるFe、Cu、半金属のAl、Si等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の酸素、窒素は各々1000質量ppm以下、炭素は200質量ppm以下、Fe、Cuは200質量ppm以下、Al、Siは100質量ppm以下等であり、ガス成分を除いた純度として99.9質量%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0024】
先ず、被覆層となるMo合金膜を形成するためのスパッタリングターゲット材を作製した。平均粒径が6μmのMo粉末と平均粒径100μmのNi粉末と平均粒径85μmのNb粉末を用い、表1の組成となるように混合し、軟鋼製の缶に充填した後、加熱しながら真空排気して缶内のガス分を除いた後に封止した。次に、封止した缶を熱間静水圧プレス装置に入れて、800℃、120MPa、5時間の条件で焼結させた後に、機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。また、比較となる純Mo、Mo−Nb合金、Mo−Ni合金のスパッタリングターゲット材も同様に作製した。
【0025】
上記で得た各スパッタリングターゲット材を銅製のバッキングプレートにろう付けしてスパッタリング装置に取り付けた。スパッタ装置は、キヤノンアネルバ株式会社製のSPF−440Hを用いた。
25mm×50mmのガラス基板上に、それぞれ
図1に示す下地層/主導電層/キャップ層の順に、表1に示す膜厚構成でスパッタリング法にて形成し、電子部品用積層配線膜を得た。また、比較のために、純Mo、Mo−Nb合金膜、Mo−Ni合金膜を、それぞれAl膜と積層し、積層配線膜も作製した。
【0026】
耐酸化性の評価としては、大気中にて200℃、250℃、300℃、350℃で1時間加熱した後の反射率の変化を測定した。また、耐湿性の評価としては、85℃×85%の高温高湿雰囲気に100時間、200時間、300時間放置した際の反射率の変化を測定した。反射率の測定には、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM−2500dを用いて、可視光域の反射特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、積層配線膜の反射率は、大気中で加熱すると低下し、高温高湿雰囲気に放置しても低下する傾向にある。比較例の被覆層に純Moを用いた積層配線膜の反射率は、大気中加熱では250℃より低下し350℃ではさらに大きく低下し、耐酸化性が低く、高温高湿雰囲気に100時間放置すると、反射率は大きく低下していることがわかる。
また、被覆層にMo−10原子%Nbを用いた比較例となる試料No.2の積層配線膜の反射率は、大気中で加熱すると300℃で著しく低下し、耐酸化性が低いことを確認したため、以後の評価を中止した。
また、被覆層にMo−Ni合金を用いた比較例となる試料No.3〜No.5の積層配線膜の反射率は、大気中での加熱時の反射率の低下は少ないが、高温高湿中での加熱時の反射率は、保持時間の増加に伴い低下することを確認した。また、被覆層に本発明から外れるNiとNbを添加したMo−Ni−Nb合金を用いた比較例となる試料No.12の積層配線膜の反射率は、大気中で加熱すると、温度上昇に伴い低下することを確認した。
また、被覆層に本発明から外れるNiとNbを添加したMo−Ni−Nb合金を用いた比較例となる試料No.13の積層配線膜の反射率は、高温高湿中における加熱保持時間の増加に伴い低下することを確認した。
これに対して、被覆層にMoにNiとNbを所定量添加したMo−Ni−Nb合金を被覆層に用いた本発明例の積層配線膜の反射率は、大気加熱雰囲気および高温高湿雰囲気に放置しても、その低下は少なく、耐酸化性を大きく改善できることが確認できた。
その改善効果は、Niを10原子%以上、Nbを5原子%以上添加することで顕著となり、電子部品に好適な積層配線膜であることが確認できた。
【実施例2】
【0029】
次に、実施例1で作製した一部の積層配線膜を、真空中で加熱処理した際の電気抵抗値の変化について確認した。電気抵抗値は、株式会社ダイヤインスツルメンツ製の4端子薄膜抵抗率測定器MCP−T400を用いて測定した。加熱温度は、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃で1時間加熱した。測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示すように、被覆層のNi添加量が本発明の範囲から外れる30原子%超えると、450℃の温度で加熱した際の電気抵抗値が大幅に増加することを確認した。
これに対して、本発明例のMoに特定量のNiとNbを添加した被覆層を用いた積層配線膜は、450℃まで加熱しても電気抵抗値の増加が抑制されることが確認できた。
【実施例3】
【0032】
次に、エッチング性の評価を行った。実施例2で用いた積層配線膜を形成した基板の半分の面積にのみフォトレジスト塗布して乾燥させ、関東化学株式会社製のAl用エッチャント液に浸し、未塗布部分をエッチングした。その後、基板を純水で洗浄し、乾燥させ、溶解部分とレジストを塗布した未溶解部分の境目近傍を光学顕微鏡で観察した。その結果を表2に示す。
比較例の被覆層に純MoやMo−Ni合金膜を用いた積層配線膜では、境目近傍の膜が浮き、端部が剥がれていることを確認した。これは、Alとガラス基板との間の被覆層のMo合金膜がエッチングされていると考えられる。
また、Nbの添加量が15原子%を越える試料No.12は、エッチングを行うことができなかった。
これに対して、本発明例となるNbの添加量が15原子%の試料No.11は、基板上にわずかに残渣が確認されたが、エッチングは可能であった。これにより、エッチング性には、Nbの添加量が大きく影響することが確認された。
また、本発明の被覆層にMoにNiとNbを所定量添加したMo−Ni−Nb合金を用いた積層配線膜は、比較例で生じた膜剥がれもなく、エッチングが可能であり、エッチング性にも優れていることが確認できた。
以上のように、耐酸化性、耐湿性、加熱時の電気抵抗値の増加の抑制、エッチング性を同時に満たすには、被覆層に添加するNiの添加量を10〜30原子%、Nbの添加量を3〜15原子%にすることにより可能となることが確認できた。
【実施例4】
【0033】
実施例1と同様の方法で、25mm×50mmの大きさに切断した厚さ0.25mmのITO膜付きPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、それぞれ表3に示す膜厚構成で、スパッタリング法にて積層配線膜を形成し、耐湿性の評価を行った。耐湿性の評価としては、85℃×85%の高温高湿雰囲気に50時間、150時間、300時間放置した際の反射率の変化を測定した。その結果を表3に示す。
本発明のMoに特定量のNiとNbを添加した被覆層を用いた積層配線膜は、最も反射率の低下が少なく、耐湿性に優れていることが確認された。
以上のように、耐酸化性、耐湿性、加熱時の電気抵抗値の増加の抑制、エッチング性を満たすには、Niの添加量を10〜30原子%、Nbの添加量を3〜15原子%にすることが好ましいことが確認できた。また、高温での電気抵抗値の増加を抑制し、高い耐湿性を確保するにはNiを10〜20原子%、Nbを5〜10原子%とすることがより好ましいことが確認できた。
【0034】
【表3】
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 被覆層(下地層)
3 主導電層
4 被覆層(キャップ層)