(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記潜像要素群を、さらに第一の基画像aとして第一の方向とは異なる第二の方向に分割した画像を所定の縮率で圧縮した複数のIP要素aを、前記第二の方向に前記所定のピッチで複数配列したIP要素群aと、第二の基画像aとして前記第二の方向に分割した画像を所定の縮率で圧縮し前記第二の方向にミラー反転した複数のIP反転要素aが、前記第二の方向に前記所定のピッチで複数配列したIP反転要素群aを有し、前記IP要素aと前記IP反転要素aとが、前記第二の方向に重ならないように交互に配置された潜像要素群aとして、前記第二の方向に前記所定のピッチで複数配列した蒲鉾形状要素群に積層されることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像印刷物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0020】
(第一の実施の形態)
第一の実施の形態では、潜像印刷物(1)を構成する各要素が画線形態である場合の構成について説明する。
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。
図1(a)に示すのは潜像印刷物(1)の正面図であり、
図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。
【0021】
潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像領域(3)が形成されて成る。基材(2)は印刷画像領域(3)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像領域(3)は、いかなる色彩であっても良く、また透明や半透明であっても良い。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
【0022】
本発明の印刷画像領域(3)の構成の概要を
図2に示す。印刷画像領域(3)は、蒲鉾形状要素群(4)及び潜像要素群(5)から成る。積層順としては、蒲鉾形状要素群(4)の上に潜像要素群(5)が重なって成る。また、潜像要素群(5)はIP要素群(5A)とIP反転要素群(5B)を有する。
【0023】
まず、蒲鉾形状要素群(4)について具体的に説明する。
図3に示すのは蒲鉾形状要素群(4)であり、盛り上がりを有する、特定の画線幅(W1)の蒲鉾形状要素(6)が第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で万線状に配置されることで形成されて成る。
【0024】
図3において蒲鉾形状要素(6)の中に縦縞の線が複数配列されているように示されているが、これは他の線と区別するためのパターンであり、実際には単純な一本の線である(以下、他の画線も同様。)拡散反射光下において、蒲鉾形状要素(6)の色彩は問わず、いかなる色彩であってもよく、透明であっても半透明であってもよい。
【0025】
また、蒲鉾形状要素(6)は、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、正反射光下では強い反射光を発する特性を有する必要がある。本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度が変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキ及び透明インキ等がある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、あるいは白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。
【0026】
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、パールインキや液晶インキ、OVI、CSI(Color SHIftIng Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明だが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。蒲鉾形状要素(6)は、以上のような光学特性を備える必要がある。
【0027】
それぞれの蒲鉾形状要素(6)には一定の盛り上がり高さが必要であり、少なくとも3μm以上の盛り上がり高さを有することが好ましい。3μmより低い高さで形成した場合でも、要素のピッチを狭く形成することで本発明の効果を再現することは可能であるものの、潜像画像の視認性が極端に低くなったり、前述のように出現する基画像が不鮮明にぼやけて再生されたりする場合が多いため好ましい形態とはいえない。また、盛り上がりの高さの上限に関しては性能上の上限は存在しないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適正等を考慮し1mm以下とする。
【0028】
本発明における蒲鉾形状要素群(4)は、構成する蒲鉾形状要素(6)に一定の盛り上がり高さが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが望ましい。すなわち、フレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷等で形成してもよい。また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを形成するのではなく、エンボス加工や透き入れによって基材上に凹凸構造を形成して、その上に印刷被膜を形成したり、フィルムを貼付したりして蒲鉾形状要素群(4)としてもよい。
【0029】
また、蒲鉾形状要素(6)に高いカラーフリップフロップ性を付与したい場合には、蒲鉾形状要素(6)の画線の表面にカラーフリップフロップ性を有する顔料が揃って配向していることが望ましい。このような状態は一般にリーフィングと呼ばれ、優れたリーフィング効果を得る方法としては、例えば特開2001−106937号公報に記載の技術のように顔料に撥水及び撥油性を付与する方法がある。この方法を用いた場合には、蒲鉾形状要素(6)が正反射光下で発する反射光の色彩をより豊かにすることができるため望ましい。前述のようなリーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料を単一のインキ中に配合した場合、単一のインキで印刷したにも関わらず、リーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料が蒲鉾形状要素(6)の上層と下層に別々の層構造を形成するため、あたかも着色インキ層と機能性顔料層を別々のインキで印刷した場合と同等の、極めて高いカラーフリップフロップ性を発揮するため特に有効である。また、一定の盛り上がり高さがある蒲鉾形状要素(6)の表面形状は、蒲鉾のようになだらかな曲面で構成されている必要がある。
【0030】
次に、潜像要素群(5)について具体的に説明する。
図4に示すのは潜像要素群(5)であり、潜像要素群(5)は、
図5に示すIP要素群(5A)と、
図6に示すIP反転要素群(5B)とを有する。IP要素群(5A)はIP要素(7A)の集合から成り、IP反転要素群(5B)はIP反転要素(7B)の集合から成る。潜像要素群(5)において、IP要素(7A)とIP反転要素(7B)とはそれぞれが重なり合わないように第一の方向(S1方向)に位相をずらして交互に配置されて成る。潜像要素群(5)を構成するすべての要素には、盛り上がり高さは特に必要ない。また、IP要素(7A)とIP反転要素(7B)との配置関係については、重なり合わなければ隣接していても近接していてもよいが、潜像画像として出現させようと製作者が意図する画像が切れ目なく、よりスムーズな動きとなるのは隣接の配置関係である。
【0031】
潜像要素群(5)を構成する二つの要素群の一つであるIP要素群(5A)を
図5に示す。
図5に示すIP要素群(5A)は、特定の画線幅(W2)を有し、それぞれ形状の異なる複数のIP要素(7A)が特定のピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に万線状に配されて成る。
【0032】
潜像要素群(5)を構成する二つの要素群のもう一つの要素群であるIP反転要素群(5B)を
図6に示す。
図6に示すIP反転要素群(5B)は、特定の画線幅(W3)を有し、それぞれ形状の異なる複数のIP反転要素(7B)が特定のピッチP1で第一の方向(S1方向)に万線状に配されて成る。
【0033】
二つの要素群のピッチ(P1)及び第一の方向(S1方向)は同じである必要があるが、それぞれの要素の画線幅(W2、W3)は同じでも異なっていても良い。ただし、二つの要素の画線幅(W2とW3)の和がピッチP1の大きさを越えてはならない。また、
図4、
図5、
図6のIP要素(7A)及びIP反転要素(7B)は異なる色彩で示しているが、説明を明瞭にするためであり、同じ色彩であっても良く、またそれぞれの要素で異なる色彩を用いても良い。なお、IP要素(7A)や後記するIP反転要素(7B)とは、塗りつぶした画像のみをさすのではなく、画像が存在しない空白も含んだ一定の大きさの領域全体を指す。
【0034】
まず、IP要素群(5A)の具体的な構成と作製方法について
図7を用いて説明する。
図7に示すのは、正反射光下で動画効果を有する潜像画像として出現させようと製作者が意図する画像であり、本明細書中ではこれを基画像(8)と呼ぶ。また、IP要素群(5A)の基と成る基画像(8A)を第一の基画像と呼ぶ。この基画像(8)は文字や数値、記号、マーク、図形等であってもよく、何らかの任意の情報を表せば良い。第一の実施の形態における基画像(8)は、桜の花びらの画像である。また、本例では基画像(8)として階調表現の乏しい二値画像を用いたが、写真や顔画像のような階調画像を用いても良い。この桜の花びらの画像である第一の基画像(8A)を以下の手順でIP要素(7A)化する。なお、IP要素(7A)のIPとは、Integral Photographyの略であり、古典的な立体画像の形成方法の略である。本技術の動く画像を構成する要素群の基本的な構造がこの古典的な立体画像の形成方法から得られる画線構造に似ているため、この呼称を用いている。
【0035】
第一の基画像(8A)を選定したら、第一の基画像(8A)の第一の方向(S1方向)の幅よりも短い幅(W4)、第一の方向(S1方向)と直交する第二の方向(S2方向)の第一の基画像(8A)の高さよりも長い高さ(H)の大きさのフレーム(9A)を第一の基画像(8A)に対して当てはめ、フレーム(9A)内に含まれた第一の基画像(8A)のみを取り出して、取り出した画像を第一の方向(S1方向)に対して特定の画線幅(W2)に圧縮する。この一連の手順によって一つのIP要素(7Ai)が完成する。W2をW4で割った値を圧縮率と呼ぶ。この圧縮率が小さければ小さいほど動く画像として出現する第一の基画像(8A)の動きの大きさと速さ、遠近感等は大きくなる一方、出現する画像は輪郭がぼやけて不鮮明になる。
【0036】
一つのIP画線(7Ai)が完成したら、続いて、第一の基画像(8A)に対するフレーム(9A)の位置を第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)だけずらして、再びフレーム(9A)内に含まれた第一の基画像(8A)のみを取りだして、特定の画線幅(W2)に圧縮する。出来上がったIP要素(7Ai+1)は、先のIP要素(7Ai)から第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)だけ平行移動させた位置に配置する。この作業をフレーム(9A)内に第一の基画像(8A)が含まれない位置に達するまで繰り返すことによって、IP要素群(5A)が完成する。以上のようにそれぞれのIP要素(7A)は、第一の基画像(8A)に対してフレーム(9A)を当てはめる位置を変えながら構成して成るため、それぞれ隣り合うIP要素(7A)同士でも含まれる画像はわずかずつ異なっている。
【0037】
このIP要素群(5A)は、第一の基画像(8A)に対してP1ずつ位相をずらしながら切り出して圧縮して作成した各IP要素(7A)をピッチP1で連続して配置して構成した画像であることから、P1のピッチを有し、ピッチP1より充分狭い開口幅を有したスリットによって画像をサンプリングした場合には、第一の基画像(8A)が再生されるという特徴がある。本発明の潜像印刷物(1)では、このIP要素群(5A)の特徴を利用して正反射光下で特定の画像を出現させ、かつ、動画効果を生じさせるものである。
【0038】
続いて、IP要素群(5A)と対を成すIP反転要素群(5B)の具体的な構成と作製方法の一例について
図8を用いて説明する。
図8に示すのは、もう一つの基画像である第二の基画像(8B)である。第二の基画像(8B)も第一の基画像(8A)と同じく文字や数値、記号、マーク、図形等であってもよく、何らかの任意の情報を表せば良い。第二の基画像(8B)も第一の基画像(8A)と同じく、桜の花びらの画像である。第一の実施の形態において第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)は同じ画像を用いたが、それぞれの画像は同じでも異なっていても良い。
【0039】
第二の基画像(8B)を選定したら、第二の基画像(8B)の第一の方向(S1方向)の幅よりも短い幅(W5)、第一の方向と直交する第二の方向(S2方向)の第二の基画像(8B)の高さよりも長い高さ(H)の大きさのフレーム(9B)を第一の基画像(8)に対して当てはめ、フレーム(9B)内に含まれた第二の基画像(8B)のみを取り出して、第一の方向(S1方向)に対して特定の画線幅(W3)に圧縮する。ここまでの手順はIP要素(7A)の作製手順と同じであるが、IP反転要素(7B)の作製においてはこの状態の要素をさらに第一の方向(S1方向)と直交する第二の方向(S2)を軸としてミラー反転する。このミラー反転の有無でIP反転要素(7B)となるか、IP要素(7A)となるかが決まる。この一連の手順によって一つのIP反転要素(7Bi)が完成する。W3をW5で割った値を圧縮率と呼ぶ。この圧縮率が小さければ小さいほど動く画像として出現する第二の基画像(8)の動きの大きさと速さ、遠近感等は大きくなる一方、出現する画像は輪郭がぼやけて不鮮明になることはIP要素(7A)と同じである。
【0040】
一つのIP反転要素(7Bi)が完成したら、続いて、第二の基画像(8B)に対するフレーム(9B)の位置を第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)だけずらして、再びフレーム(9B)内に含まれた第二の基画像(8B)のみを取りだして、特定の画線幅(W3)に圧縮する。新たに出来上がったIP反転要素(7Bi+1)は、先のIP反転要素(7Bi)から第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)だけ平行移動させた位置に配置する。この作業をフレーム(9B)内に第二の基画像(8B)が含まれない位置に達するまで続けることによって、IP反転要素群(5B)が完成する。IP要素(7A)と同様にそれぞれの隣り合うIP反転要素(7B)でも含まれる画像はわずかずつ異なっている。
【0041】
第一の実施の形態の例のように第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)が同じ画像である場合、隣り合って一対で向かい合うIP要素(7A)とIP反転要素(7B)同士が、互いの画像を第一の方向(S1)と直交する方向を軸としてミラー反転させた画像と同じか、同じに近い、略等しい画像となる。第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)が同じ画像である場合、隣り合って一対で向かい合うIP要素(7A)とIP反転要素(7B)がミラー反転させた関係の画像と大きく異なると、それぞれの動きの端点においてスムーズで連続的な動きが途切れる問題が生じるため避けなければならない。
【0042】
一方、第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)が異なる画像である場合には、IP要素群(5A)とIP反転要素群(5B)のそれぞれの画像の中心が略一致するように位相を合わせて潜像要素群(5)とすることで、それぞれの動きの端点において連続的な動きが途切れる問題が生じることを回避することができる。第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)が同じ画像である場合においても、IP要素群(5A)とIP反転要素群(5B)のそれぞれの画像の中心が略一致するように位相を合わせて潜像要素群(5)とすることで、よりスムーズで連続的な動きとなることはいうまでもない。
【0043】
また、本明細書中では潜像要素群(5)が第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)の二つの基画像から成る二つのIP要素群(5A)及びIP反転要素群(5B)によって構成された例を用いているが、基画像(8)の数はこれに限定されるものではなく、これ以上の数の異なる基画像(8)から成っても良い。潜像要素群(5)がIP要素群(5A)及びIP反転要素群(5B)の構成に用いる基画像(8)の数には特に制限はない。
【0044】
なお、このIP要素群(5A)及びIP反転要素群(5B)の作製方法とその構成、また圧縮率を変化させることで生じる効果等は、特開2011−126028号公報に記載のとおりであり、特開2011−126028号公報記載の様々な構成を応用してもよい。
【0045】
なお、IP要素(7A)の画線幅(W2)と、IP反転要素(7B)の画線幅(W3)のそれぞれの大きさは、蒲鉾形状要素(6)と蒲鉾形状要素(6)の間に存在する非画線の幅(P1−W1)よりも大きいことが望ましい。これは、蒲鉾形状要素(6)と蒲鉾形状要素(6)の間に存在する非画線の中にIP要素(7A)やIP反転要素(7B)が完全に入り、蒲鉾形状要素(6)の上に重ならなかった場合、それらの画線は潜像画像として正反射光下で出現することができないためである。
【0046】
以上のような構成のIP要素群(5A)やIP反転要素群(5B)を有する潜像要素群(5)は、正反射光下で蒲鉾形状要素(6)が発する色彩と異なる色彩である必要がある。この特性は、正反射光下で潜像画像を一定のコントラストで可視化させるために必要となる特性である。また、拡散反射光下で潜像要素群(5)は不可視であることが好ましいため、透明や半透明であるか、あるいは淡い色彩であることが望ましい。本明細書でいう半透明とは完全な透明ではないが、下地を完全に隠蔽しない程度の透過性を有する状態を指す。
【0047】
また、潜像要素群(5)は、正反射光下において潜像要素群(5)の下に存在する蒲鉾形状要素群(4)に光が入射するのを防ぎ、結果として印刷画像領域(3)内に反射光の強弱を作り出して基画像(8)を出現させる働きを成すために、低光沢(マット)であったり、光遮断性に優れたりする特性を有することが望ましい。なお、潜像要素群(5)には、蒲鉾形状要素(6)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていても問題ない。
【0048】
潜像要素群(5)は、特に盛り上がりは必須ではなく平坦な構造でよいが、盛り上がりを有していても良い。すなわち、オフセット印刷や凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷等で形成してもよく、インクジェットプリンタやレーザープリンタ等で形成しても問題ない。
【0049】
以上のような構成の蒲鉾形状要素群(4)の上に、潜像要素群(5)を重ね合わせて、本発明の潜像印刷物(1)を形成する。潜像印刷物(1)において、蒲鉾形状要素群(4)と潜像要素群(5)の重ね合わせの位置関係が変化することで、出現する基画像(8)の出現位置と動き方向が変化する。まず、蒲鉾形状要素群(4)と潜像要素群(5)の重ね合わせの位置関係の一例と、その場合の効果及びその効果が生じる原理について説明する。
図9に示すのは、蒲鉾形状要素群(4)と潜像要素群(5)が任意の位置関係で重なり合った図である。
図9に示すように、一つの蒲鉾形状要素(6)の左斜面(A辺側斜面)にIP要素(7A)が重なり、右斜面(A´辺側斜面)にIP反転要素(7B)が重なった位置関係にある潜像印刷物(1)である。
【0050】
図9の位置関係で二つの要素群が重なった場合の効果について
図10に示す。拡散反射光下において、印刷画像領域(3)中にはいずれの基画像(8A,8B)も出現せず、潜像要素群(5)も不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において
図10(a)のようにA辺側が光源(10)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、第一の基画像(8A)である桜の花びらの画像がA´辺側に出現する。
【0051】
次に、正反射光下において
図10(a)の状態から
図10(b)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、第一の基画像(8A)がA´辺側からA辺側へと徐々に移動する動画効果が生じる。
図10(b)の状態で観察した場合、第一の基画像(8A)がA辺側端点に出現する。あるいは
図10(b)の状態で観察した場合、第二の基画像(8B)がA辺側端点に出現する。これは、
図10(b)の状態において、サンプリングされる要素がIP要素(7A)からIP反転要素(7B)へと変わった場合、第一の基画像(8A)から第二の基画像(8B)への画像のチェンジが生じるためである。
【0052】
続いて、正反射光下において
図10(b)の状態から
図10(c)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、A辺側端点にあった第二の基画像(8B)は逆方向のA´辺側へと移動する。以上のように、
図9の状態で構成された本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で傾けて観察した場合、第一の基画像(8A)がA´辺側に出現してA辺側端点まで動き、A辺側端点に達したのちにA´辺側へと動き方向を変えるスムーズな動画効果が生じる。
【0053】
なお、本明細書中で言う正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。また、正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態をさす。
【0054】
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下では蒲鉾形状要素群(4)及び潜像要素群(5)に直接入射する光が存在せず、強い正反射光を発することがないことから、蒲鉾形状要素群(4)と潜像要素群(5)間に色差が生じることがない。そのため拡散反射光下では潜像要素群(5)は完全に不可視か、ほぼ不可視である。
【0055】
一方、正反射光下においては蒲鉾形状要素群(4)の有する光学特性である明暗フリップフロップ性あるいはカラーフリップフロップ性によって色彩が大きく変化するために、潜像要素群(5)との間に大きな色差が生じ、潜像要素群(5)が可視化される。ただし、蒲鉾形状要素(6)は盛り上がりを有しているため、蒲鉾形状要素群(5)全体が一斉に光を反射することはなく、潜像要素群(5)全体が一度に可視化されることはない。正反射光下においては、蒲鉾形状要素(6)の画線表面のうち、入射した光と直交する画線表面だけが強く光を反射し、その領域だけ蒲鉾形状要素群(4)と潜像要素群(5)間に大きな色差が生じる。結果として入射した光と直交した蒲鉾形状要素群(4)の画線表面の上に重ねられた潜像要素群(5)の画像情報のみがサンプリングされ、可視化されることとなる。
【0056】
以上のことから、正反射光下において
図10(a)のように潜像印刷物(1)のA辺側が光源(10)に近づいて傾いた状態で観察した場合、入射光と直交する角度を成す画線表面となる蒲鉾形状要素(6)のA辺側の画線表面が強く光を正反射し、その上に存在する潜像要素群(5)の画像情報のみがサンプリングされて可視化される。この例において、蒲鉾形状要素(6)の上のA辺側の画線表面に重なっているのはIP要素(7A)であるため、IP要素群(5A)がサンプリングされる。ここで、蒲鉾形状要素(6)はピッチP1で連続して配されて成るため、IP要素群(5A)は、ピッチP1でサンプリングされることとなる。IP要素群(5A)とは、各IP要素(7A)をピッチP1で連続して配置して構成した画像であって、各IP要素(7A)とは第一の基画像(8A)に対してP1ずつ位相をずらしながら切り出した画像を圧縮して構成した画像であることから、IP要素群(5A)をP1のピッチでサンプリングした場合には、第一の基画像(8A)が再生されることとなる。これが、正反射光下の
図10(a)の観察角度で第一の基画像(8A)が出現した原理である。
【0057】
次に、正反射光下において
図10(a)の状態から
図10(b)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、光源(10)から入射する光と潜像印刷物(1)との角度の関係が変化することからIP要素群(5A)の情報がA辺側から蒲鉾形状要素(6)の頂点へ向かってサンプリングされる。IP要素群(5A)のそれぞれのIP要素(7A)のA辺側にある画像情報とは、第一の基画像(8A)がA´辺側の端点に存在する画像情報であり、頂点に存在する画像情報は、第一の基画像(8A)がA辺側の端点に存在する画像情報であり、その中間にはA´辺からA辺までの間に存在する第一の基画像(8A)の画像情報によって構成されている。このため、正反射光下で潜像印刷物(1)の傾きを
図10(a)の状態から
図10(b)の状態まで変化させた場合、IP要素群(5A)の情報がA辺側から頂点側へ向かってサンプリングされることで、第一の基画像(8A)がA´辺側の端点からA辺側の端点へと徐々に移動する動画効果が生じる。次に
図10(b)の状態で観察した場合、蒲鉾形状要素(6)の上の盛り上がり部分の頂点に存在する潜像要素群(5)の情報が再生される。蒲鉾形状要素(6)の上の盛り上がり部分の頂点に存在する潜像要素群(5)には、IP要素群(5A)とIP反転要素群(5B)が存在しているが、それぞれの要素群が表す情報は同じである。すなわち、蒲鉾形状要素(6)の上の盛り上がり部分の頂点に存在するIP要素群(5A)とIP反転要素群(5B)の画像情報は、いずれも第一の基画像(8A)あるいは第二の基画像(8B)がA辺側の端部に存在する情報であるため、第一の基画像(8A)あるいは第二の基画像(8B)がA辺側端部に出現する。
【0058】
次に、正反射光下において
図10(b)の状態から
図10(c)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、IP要素群(5A)に変わってIP反転要素群(5B)の情報が蒲鉾形状要素(6)の頂点からA´辺側へ向かってサンプリングされる。IP反転要素群(5B)のそれぞれのIP反転要素(7B)において頂点近辺にある画像情報とは、第二の基画像(8B)がA辺側の端点に存在する画像情報であり、A´辺側に存在する画像情報は第二の基画像(8B)がA´辺側の端点に存在する画像情報であり、その中間にはA辺側の端点からA´辺側の端点までの間に存在する第二の基画像(8B)の画像情報によって構成されている。このため、正反射光下で潜像印刷物(1)の傾きを
図10(b)の状態から
図10(c)の状態まで変化させた場合、IP反転要素群(5B)の情報が頂点からA´辺側へ向かってサンプリングされることで、第二の基画像(8B)がA辺側からA´辺側へと徐々に移動する動画効果が生じる。
【0059】
以上が、正反射光下のある特定の観察角度において基画像(8)が出現し、観察角度を変えることで基画像(8)の動きの方向が変化する原理である。以上の原理によって、基画像(8)がそれぞれの動きの端点に達した場合でも「ジャンプ」現象を生じたり、基画像(8)が消失したりすることがなく、スムーズで連続した動きの中で動きの方向のみが反転するものである。
【0060】
続いて、
図9に示した蒲鉾形状要素(6)とIP要素(7A)及びIP反転要素(7B)との刷り合わせ位置からズレが生じた場合の効果について説明する。
図11に示すのは、
図9に示した蒲鉾形状要素(6)とIP要素(7A)及びIP反転要素(7B)との刷り合わせ位置から、第一の方向(S1方向)に約半ピッチ(P1/2)だけ刷り合わせにズレが生じた図である。
【0061】
図11に示す重ね合わせの位置関係で蒲鉾形状要素(6)とIP要素(7A)及びIP反転要素(7B)を積層した場合に、本発明の潜像印刷物(1)において生じる効果について
図12を用いて説明する。拡散反射光下において、印刷画像領域(3)中にはいずれの基画像(8A、8B)も出現せず、完全に不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において
図12(a)のようにA辺側が光源(10)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、第二の基画像(8B)である桜の花びらの画像がA辺側に出現する。
【0062】
次に、正反射光下において
図12(a)の状態から
図12(b)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、第二の基画像(8B)がA辺側からA´辺側へと徐々に移動する動画効果が生じる。
図12(b)の状態で観察した場合、第二の基画像(8B)あるいは第一の基画像(8A)がA´辺側端部に達する。
【0063】
続いて、正反射光下において
図12(b)の状態から
図12(c)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、A´辺側端点に達していた第一の基画像(8A)は逆方向のA辺側へと移動する。以上のように、
図11の状態で構成された本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で傾けて観察した場合、第二の基画像(8B)がA辺側端点に出現してA´辺側端点まで動き、A´辺側端点に達したのちにA辺側へと動き方向を変えるスムーズな動画効果が生じる。以上のように、
図9に示した刷り合わせの状態から約半ピッチ刷り合わせの位相がずれた場合でも、動きの方向が逆転するのみであって「ジャンプ」現象は生じない。
【0064】
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)においては、蒲鉾形状要素(6)とIP要素(7A)及びIP反転要素(7B)の刷り合わせの位置関係に関係なく、出現した画像が動きの端点に達した場合には逆方向に動きの方向を変える効果が生じる。この効果によって、従来の技術のように「ジャンプ」現象の発生を避けるために、蒲鉾形状要素群(4)と潜像要素群(5)とを正確に刷り合わせる必要がなくなり、製造難度を大きく低下させる効果を得ることができる。
【0065】
第一の実施の形態においてIP要素群(5A)の第一の基画像(8A)とIP反転要素群(5B)の第二の基画像(8B)が同じ画像である例で説明したが、第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)が異なる画像であってもよい。この例については第二の実施の形態で説明する。IP要素群(5A)やIP反転要素群(5B)の具体的な構成については、特開2011−126028号公報に記載の様々な構成を用いることができる。
【0066】
また、第一の実施の形態において、すべての蒲鉾形状要素(6)の画線幅を同じとしたが、20%を超えない範囲で画線幅を変え、蒲鉾形状要素群(4)の中に濃淡を作り出して拡散反射光下で視認できる有意情報を表現しても良い。この有意情報は正反射光下では消失する効果を有するため、本発明の動画効果に加えて拡散反射光下と正反射光下における画像のチェンジ効果を実現することができる。
【0067】
本明細書中でいう「端点」とは、出現した基画像(8)が、一方向に対してそれ以上動くことができない印刷領域中(3)の特定の位置を指し、第一の実施の形態のような各要素が画線形態の例ではA辺側とA´辺側にそれぞれ1点ずつ端点が存在する。画像構成の上では、蒲鉾形状要素群(4)上に重なって形成された潜像要素群(5)の第一の方向(S1方向)における両端の位置がそれぞれA辺側とA´辺側の端点となる。すなわち、出現した基画像(8)が動ける範囲(一方の端点からもう一方の端点までの距離)とは、蒲鉾形状要素群(4)上に重なって形成された潜像要素群(5)の第一の方向(S1方向)の両端の距離、すなわち蒲鉾形状要素群(4)上に重なって形成された潜像要素群(5)の幅にあたる距離となる。
【0068】
第一の実施の形態において、蒲鉾形状要素(6)を画線形態としたが、本発明の構成はこれに限定するものではなく、画素形態として単純に上下左右に等ピッチで万線状に配置して蒲鉾形状要素群(4)としても良い。また、本発明において、「万線状に配置する」とは、複数の要素が規則的に所定のピッチで配列されている状態をいう。また、画素形態の蒲鉾形状要素(4)と潜像要素群(5)を用いて本発明の潜像印刷物(1)を形成した例を、
図13から
図16で説明する。
【0069】
なお、本発明における画線とは、印刷画像を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線及び破線等を指し、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等を画素とする。
【0070】
蒲鉾形状要素群(4´)及び潜像要素群(5´)を構成する各要素を第一の実施の形態のような画線形態ではなく、画素形態の要素で形成した潜像印刷物(1´)の構成の概要図を
図13に示す。
【0071】
図13の印刷画像領域(3´)は、画素形態の蒲鉾形状要素(6´)で構成された蒲鉾形状要素群(4´)の上に、画素形態のIP要素群a(5A´)及びIP反転要素群a(5B´)で構成された潜像要素群a(5´)が積層されて成る。
図14に示すのは、画素形態の蒲鉾形状要素(6´)で構成された蒲鉾形状要素群(4´)の詳細であり、特定の幅(W4)と特定の高さ(W5)の円形の画素を蒲鉾形状要素(6´)が第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)で、第二の方向(S2方向)に特定のピッチ(P2)で万線状に複数配置されて成る。なお、第一の方向(S1方向)に万線状に配置するための特定のピッチ(P1)と第二の方向(S2方向)に万線状に配置するための特定のピッチ(P2)とは、同じでも異なっていてもよい。
【0072】
図15に潜像要素群a(5´)の拡大図を示す。潜像要素群a(5´)は、特定の幅(W6)と特定の高さ(W7)のIP要素a(7A´)を第一の方向(S1方向)に蒲鉾形状要素(6´)の配置ピッチと同じ特定のピッチ(P1)で、第二の方向(S2方向)に蒲鉾形状要素(6´)の配置ピッチと同じ特定のピッチ(P2)で万線状に複数配置されて成るIP要素群a(5A´)と、特定の幅(W6)と特定の高さ(W8)のIP反転要素a(7B´)を第一の方向(S1方向)に蒲鉾形状要素(6´)の配置ピッチと同じ特定のピッチ(P1)で、第二の方向(S2方向)に、蒲鉾形状要素(6´)の配置ピッチと同じ特定のピッチ(P2)で万線状に複数配置されて成るIP反転要素群a(5B´)とから成る。IP要素a(7A´)とIP反転要素a(7B´)は重なり合うことなく、交互に配置されて成る。各要素に画素形態を用いた場合でも、基画像(8´)を変化させる形態でなければ、上下に隣り合って一対で向かい合うIP要素a(7A´)とIP反転要素a(7B´)同士は、互いの形状を第二の方向を軸にミラー反転させた形状に等しいか、略等しい図柄構成となる。
【0073】
図16に画素形態の潜像要素群a(5´)の作製方法の一例を示す。画素形態の潜像要素群a(5´)の作製の方法はいくつか存在するが、ここでは第一の実施の形態で作製した画線形態の潜像要素群(5)を利用して、画素形態の潜像要素群a(5´)を作製する方法を具体例として説明する。また、説明を簡潔にするために、IP要素群a(5A´)とIP反転要素群a(5B´)は同じ基画像(この基画像を第一の基画像a(8´)とする)から成る形態であって、IP要素群a(5A´)とIP反転要素群a(5B´)は同じ潜像要素群(5)を第一の基画像a(8´)として切り出し、それぞれの要素群間では切り出した画像のミラー反転の有無のみが異なる形態を例とする。このため、この例においてはW7とW8は等しくなる。まず、第一の実施の形態で説明したように、各要素が第一の方向(S1方向)に交互に配置された画線形態の潜像要素群(5)を形成する。この潜像要素群(5)の幅よりも大きな幅(L)で、特定の高さ(W9)のフレーム(9´)を潜像要素群(5)に対して当てはめ、フレーム(9´)内に含まれた潜像要素群(5)のみを取り出して、第二の方向(S2方向)に対して特定の画線幅(W7)に圧縮する。この一連の手順によって一つのIP要素a(7Ai´)が完成する。W7をW9で割った値を第二の方向の圧縮率と呼ぶ。
【0074】
一つのIP画線a(7Ai´)が完成したら、続いて、潜像要素群(5)に対するフレーム(9´)の位置を第二の方向(S2方向)に特定のピッチ(P2)だけずらして、再びフレーム(9´)内に含まれた潜像要素群(5)のみを取りだして、特定の画線幅(W7)に圧縮する。出来上がったIP要素a(7Ai+1´)は、先のIP要素a(7Ai´)から第二の方向(S二方向)に特定のピッチ(P2)だけ平行移動させた位置に配置する。この作業をフレーム(9´)内に潜像要素群(5)が含まれない位置までフレーム(9´)が達するまで第二の方向(S2方向)に移動させて繰り返し続けることによって、IP要素群a(5A´)が完成する。以上のように、第一の方向にIP要素aを配置した画像(この例では潜像要素群(5))に対して、第一の実施の形態と異なり第二の方向にフレームの移動方向を変えてIP要素aを作製することで、画素形態のIP要素a(7A´)を作製し、それぞれのIP要素aを特定のピッチ(P2)で第二の方向に配置することによって画素形態のIP要素群a(5A´)を形成することができる。
【0075】
また、フレーム(9´)を当てはめて作製したIP要素a(7A´)を第一の方向を軸にミラー反転させることでIP反転要素a(7B´)を構成することができ、IP要素群a(5A´)と同じ手法で第二の方向に特定のピッチ(P2)で連続して配置することによって、IP要素群a(5A´)と対を成すIP反転要素群a(5B´)を構成することができる。
【0076】
完成したIP要素群a(5A´)とIP反転要素群a(5B´)を第二の方向に重なり合わないよう交互に配置することによって、画素形態の潜像要素群a(5´)が完成する。以上の方法で作製した画素形態の潜像要素群a(5´)と画素形態の蒲鉾形状要素(6´)を重ね合わせることで画素形態の潜像印刷物(1´)が完成する。画素形態の潜像印刷物(1´)においては、正反射光下で潜像印刷物(1´)の傾きを変えると、第一の実施の形態の画線形態の潜像印刷物(1)と異なり、出現した基画像(9´)は印刷物の傾きの方向に応じて第一の方向だけでなく、360度あらゆる方向に動く効果が生じる(図示せず)。また、画素形態の潜像要素群a(5´)と画素形態の蒲鉾形状要素(6´)の重ね合わせの位置関係が第一の方向(S1方向)および第二の方向(S2方向)に大きくずれたとしても、従来の技術のようにジャンプが生じることなく逆方向に向きを変えて動くことから、基画像(8)の動きは必ず連続した動きとなり、観察者が違和感を覚えることなく容易に動きを認識できる。
【0077】
前述の画素形態のIP要素a(5A´)及びIP反転要素a(5B´)の作製にあたっては、説明を簡潔にするために、あらかじめ第一の方向(S1方向)に圧縮して作製した画線形態の潜像要素群(5)を作製し、そののちに第二の方向(S2方向)に画像を切り出す方法を例として用いたが、潜像要素群(5)をあらかじめ構成することなく、基画像(8)に対して幅(W4)高さ(W9)の画素形態のフレームを当てはめ、取り出した画像を幅(W6)高さ(W7)に圧縮することで、画素形態のIP要素a(7A´)を一つずつ形成しても何ら問題ない。
【0078】
以上のように、潜像印刷物(1´)は画線形態のみならず、画素形態の要素によって構成することもできる。画素形態の潜像印刷物(1´)においてもIP要素a(7A´)及びIP反転要素a(7B´)の第二の圧縮率が小さければ小さいほど動く画像として出現する基画像(8)の第二の方向(S2方向)の動きの大きさと速さ、遠近感等は大きくなる一方、出現する画像は、輪郭がぼやけて不鮮明になることは画線形態の潜像印刷物(1)と同じである。ただし、第一の方向(S1方向)に対する第一の圧縮率(S1方向に対する圧縮率)と第二の圧縮率(S2方向に対する圧縮率)の値が大きく異なる場合、出現する基画像(8)の高さと幅の比率が代わってしまうため、それぞれの圧縮率は同じか、近い値を用いることが望ましい。
【0079】
(第二の実施の形態)
第一の実施の形態ではIP要素群(5A)の第一の基画像(8A)と、IP反転要素群(5B)の第二の基画像(8B)は全く同じ画像を用いたが、続く第二の実施の形態では第一の基画像(8A´)と第二の基画像(8B´)が異なる画像である例について説明する。
【0080】
図17に、本発明における潜像印刷物(1´´)を示す。
図17(a)に示すのは、潜像印刷物(1´´)の正面図であり、
図17(b)に示すのは、潜像印刷物(1´´)のAA´ラインにおける断面図である。
【0081】
潜像印刷物(1´´)は、基材(2´´)の上に、印刷画像領域(3´´)が形成されて成る。基材(2´´)の材質や大きさ、印刷画像領域(3´´)の色彩等は第一の実施の形態と同様であり、説明を省略する。本発明の印刷画像領域(3´´)の構成の概要を
図18に示す。印刷画像領域(3´´)は、蒲鉾形状要素群(4´´)及び合成IP要素群(5´´)から成る。また、潜像要素群(5´´)はIP要素群(5A´´)とIP反転要素群(5B´´)を有する。
【0082】
蒲鉾形状要素群(4´´)について
図19に示すとおりであり、第一の実施の形態と同様である。盛り上がりを有する、特定の画線幅(W1)の蒲鉾形状要素(6´´)が第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で万線状に配置されることで形成されて成る。拡散反射光下において、蒲鉾形状要素(6´´)の色彩や求められる光学特性、作製方法等も第一の実施の形態と同様であるから説明を省略する。
【0083】
次に、潜像要素群(5´´)について具体的に説明する。
図20に示すのは潜像要素群(5´´)であり、潜像要素群(5´´)は、
図21に示すIP要素群(5A´´)と、
図22に示すIP反転要素群(5B´´)とを有する。IP要素群(5A´´)はIP要素(7A´´)の集合から成り、IP反転要素群(5B´´)はIP反転要素(7B´´)の集合から成る。潜像要素群(5´´)において、IP要素(7A´´)とIP反転要素(7B´´)とはそれぞれが重なり合わないように第一の方向(S1方向)に位相をずらして交互に配置されて成る。潜像要素群(5´´)を構成するすべての要素には、盛り上がり高さは特に必要ない。
【0084】
潜像要素群(5´´)を構成する二つの要素群の一つであるIP要素群(5A´´)は、特定の画線幅(W2)を有し、それぞれ形状の異なる複数のIP要素(7A´´)が特定のピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に万線状に配されて成る。第二の実施の形態におけるIP要素(7A´´)の基画像である第一の基画像(8A´´)は、桜の花びらである。
【0085】
潜像要素群(5´´)を構成するもう一つの要素群であるIP反転要素群(5B´´)は、特定の画線幅(W3)を有し、それぞれ形状の異なる複数のIP反転要素(7B´´)が特定のピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に万線状に配されて成る。第二の実施の形態におけるIP反転要素(7B´´)の基画像である第二の基画像(8B´´)は、桜の蕾である。これらIP要素群(5A´´)及びIP反転要素群(5B´´)の具体的な作製方法については第一の実施の形態と同じであることから説明を省略する。
【0086】
以上の構成としたIP要素群(5A´´)及びIP反転要素群(5B´´)を第一の方向(S1方向)に位相をずらしてそれぞれの要素が重なり合わないように配置して潜像要素群(5´´)を構成する。潜像要素群(5´´)に求められる画線構成や光学特性、印刷方法等は第一の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0087】
以上のような構成の潜像要素群(5´´)と蒲鉾形状要素群(4´´)を重ね合わせて、本発明の潜像印刷物(1´´)を形成する。潜像印刷物(1´´)において、蒲鉾形状要素群(4´´)と潜像要素群(5´´)の重ね合わせの位置関係が変化することで出現する基画像(8´´)自体と、出現する位置及び動き方向が変化する。まず、蒲鉾形状要素群(4´´)と潜像要素群(5´´)の重ね合わせの位置関係の一例と、その場合の効果及びその効果が生じる原理について説明する。
図23に示すのは、蒲鉾形状要素群(4´´)と潜像要素群(5´´)が任意の位置関係で重なり合った図である。
図23に示すように、一つの蒲鉾形状要素(6´´)の左斜面(A辺側斜面)にIP要素(7A´´)が重なり、右斜面(A´辺側斜面)にIP反転要素(7B´´)が重なった位置関係にある潜像印刷物(1´´)である。
【0088】
図23の位置関係で二つの要素群が重なった場合の効果について
図24に示す。拡散反射光下において、印刷画像領域(3´´)中にはいずれの基画像(8A´´、8B´´)も出現せず、潜像要素群(5´´)も不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において
図24(a)のようにA辺側が光源(10´´)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、第一の基画像(8A´´)である桜の花びらの画像がA´辺側に出現する。
【0089】
次に、正反射光下において
図24(a)の状態から
図24(b)の状態まで潜像印刷物(1´´)を徐々に傾けた場合、第一の基画像(8A´´)がA´辺側からA辺側へと徐々に移動する動画効果が生じる。
図24(b)の状態で観察した場合、第一の基画像(8A´´)がA辺側端部に位置する。
【0090】
続いて、正反射光下において
図24(b)の状態から
図24(c)の状態まで潜像印刷物(1´´)を徐々に傾けた場合、A辺側端点に達していた第一の基画像(8A´´)は第二の基画像(8B´´)にチェンジし、そのまま逆方向のA´辺側へと移動する。以上のように、
図23の状態で構成された本発明の潜像印刷物(1´´)を正反射光下で傾けて観察した場合、第一の基画像(8A´´)がA´辺側に出現してA辺側端点まで動き、A辺側端点に達したのちに第二の基画像(8B´´)にチェンジし、第二の基画像(8B´´)はA´辺側へと動くスムーズな動画効果が生じる。
【0091】
また、
図23の位置関係から二つの要素群の重なり合いの位相が第一の方向(S1方向)に半ピッチ(P1/2)だけズレが生じた場合、すなわち二つの要素群の重なり合いの位置関係が
図25に示す関係となった場合の効果について
図26に示す。拡散反射光下において、印刷画像領域(3´´)中にはいずれの基画像(8A´´、8B´´)も出現せず、潜像要素群(5´´)も不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において
図26(a)のようにA辺側が光源(10´´)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、第二の基画像(8B´´)である桜の蕾の画像がA辺側に出現する。
【0092】
次に、正反射光下において
図26(a)の状態から
図26(b)の状態まで潜像印刷物(1´´)を徐々に傾けた場合、第二の基画像(8B´´)がA辺側からA´辺側へと徐々に移動する動画効果が生じる。
図26(b)の状態で観察した場合、第二の基画像(8B´´)がA´辺側端部に位置する。
【0093】
続いて、正反射光下において
図26(b)の状態から
図26(c)の状態まで潜像印刷物(1´´)を徐々に傾けた場合、A´辺側端点に達していた第二の基画像(8B´´)は第一の基画像(8A´´)にチェンジし、そのまま逆方向のA辺側へと移動する。以上のように、
図25の状態で構成された本発明の潜像印刷物(1´´)を正反射光下で傾けて観察した場合、第二の基画像(8B´´)がA辺側に出現してA´辺側端点まで動き、A´辺側端点に達したのちに第一の基画像(8A´´)にチェンジし、第一の基画像(8BA´´)はA辺側へと動くスムーズな動画効果が生じる。
【0094】
以上のように、IP要素(7A´´)の基画像である第一の基画像(8A´´)とIP反転要素(7B´´)の基画像である第二の基画像(8B´´)を異なる画像とすることによって、
図23に示す二つの要素群の位置関係と、
図25に示す二つの要素群の位置関係のいずれにおいても、動きの方向が逆転した場合に、同時に異なる画像へと画像がチェンジする効果を得ることができる。また、二つの要素群の位置関係が第一の方向(S1方向)にズレが生じた場合でも第一の実施の形態と同様にジャンプは生じず、二つの基画像(8A´´、8B´´)の動きは連続的であって、スムーズである。
【0095】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0096】
図27に潜像印刷物(1−1)を示す。
図27(a)に示すのは、潜像印刷物(1−1)の正面図であり、
図27(b)に示すのは、潜像印刷物(1−1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、印刷画像領域(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。だい
【0097】
本発明の印刷画像領域(3−1)の構成の概要を
図28に示す。印刷画像領域(3−1)は、蒲鉾形状要素群(4−1)と潜像要素群(5−1)を有する。潜像要素群(5−1)は、それぞれ同じ桜の花びらを基画像(図示せず)とするIP要素群(5A−1)とIP反転要素群(5B−1)を有する。
【0098】
図29に示すのは蒲鉾形状要素群(4−1)であり、第一の方向(S1方向)の幅0.3mmでの蒲鉾形状要素(6−1)が、第一の方向(S1方向)のピッチが0.4mmで万線状に配置されて成る。また、
図30に示すのは、潜像要素群(5−1)であり、IP要素群(5A−1)とIP反転要素群(5B−1)とを構成する各要素が第一の方向(S1方向)に0.4mmピッチで交互に連続して配されて成る。
【0099】
図31に示すのは、IP要素群(5A−1)であり、画線幅0.18mmのIP要素(7A−1)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで万線状に配置して構成した。また、
図32に示すのはIP反転要素群(5B−1)であり、画線幅0.18mmのIP反転要素(7B−1)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで万線状に配置して構成した。これらの要素を互いに重なり合わないように、第一の方向(S1方向)に0.2mmだけ位相をずらして交互に連続して配することで潜像要素群(5−1)を構成した。本実施例におけるIP画線(9−1)のフレーム(図示せず)は第一の方向(S1方向)の幅を4mm、第二の方向(S2方向)の高さを6mmとし、第一の方向(S1方向)の圧縮率は0.045とした。
【0100】
以上の構成の二つの画像を、まず基材(2−1)上に蒲鉾形状要素(4−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。インキは、表1に示すUVスクリーンインキを用いた。本インキは、拡散反射光下では半透明であり、正反射光下では緑色の干渉色を発する。続いて、蒲鉾形状要素(4−1)の上に潜像要素群(5−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。インキは、透明なマットニス(マットメジュウム T&K TOKA製)を使用した。また、蒲鉾形状要素(8−1)の盛り上がり高さは約12μmであった。二つの要素群の重なり合いの位置関係については、
図33に示したような位置関係で重ね合わせた。
【0101】
【表1】
【0102】
以上の手順で作製した本発明の潜像印刷物(1−1)の効果を確認した。拡散反射光下において、印刷画像領域(3−1)中には桜の花びらは出現せず、完全に不可視であった(図示せず)。一方、正反射光下において
図34(a)のようにA辺側が光源(10−1)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、パール顔料の干渉色である緑色を呈する背景の中を桜の花びらの画像がA´辺側に出現した。
【0103】
次に、正反射光下において
図34(a)の状態から
図34(b)の状態まで潜像印刷物(1−1)を徐々に傾けた場合、緑色を呈する背景の中を桜の花びらがA´辺側からA辺側へと徐々に移動する動画効果が生じた。
図34(b)の状態で観察した場合、桜の花びらがA´辺側端部に達した。
【0104】
続いて、正反射光下において
図34(b)の状態から
図34(c)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、緑色を呈する背景の中をA辺側端点に達していた桜の花びらは逆方向のA´辺側へと移動した。以上のように、
図33の状態で構成された本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で傾けて観察した場合、桜の花びらがA´辺側端点に出現してA辺側端点まで動き、A辺側端点に達したのちにA´辺側へと動き方向を変えるスムーズな動画効果が生じることが確認できた。また、蒲鉾形状要素(4−1)の上の潜像要素群(5−1)の位相を
図33の状態から第一の方向(S1方向)に0.2mmずらした場合(図示せず)でも、ジャンプは生じなかった(図示せず)。以上のように、蒲鉾形状要素(4−1)と潜像要素群(5−1)の重ね合わせの位置に関係無く、ジャンプが生じないことが確認できた。