【実施例】
【0031】
本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法の有効性を確認した。
実験では、有機溶液の代表としてDBCを用いて、(I)DBC中に存在または残留するシュウ酸を検出できるか否かを確認し、(II)DBC中に存在または残留するシュウ酸を定量できるか否かを確認した。
【0032】
(I)本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いて、DBC中に存在または残留するシュウ酸を検出できるか否かを確認した。
【0033】
(分析試料の調製)
実験では、精錬工程における金の回収プロセスにおいて、抽出剤として繰り返し使用されているDBCを分析の対象溶液とした。
【0034】
金の回収プロセスでは、アノードスライムの酸性の塩素浸出溶液にDBCを接触させて塩素浸出溶液からDBC中に金を抽出する(抽出工程)。抽出工程で得られた金を含有するDBCをシュウ酸水溶液と混合することにより、DBC中の金をシュウ酸で還元して金粉を回収する(還元工程)。そして、還元工程後のDBCは、再度、抽出工程に使用される(抽出剤循環工程)。つまり、DBCは上述した循環プロセスの系内を循環しているので、上記循環プロセスにおける還元工程後のDBCを、本実験の分析の対象溶液とした。
【0035】
分析の対象溶液であるDBCから100ml容量用の分液漏斗に30ml分取した。この分液漏斗に超純水30mlを入れて1分間振とうした。振とう後、10分間静置した後、下相に位置する水相を分取して分析試料を調製した。
【0036】
分析試料の分析は、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)および核磁気共鳴装置(NMR)を用いて行った。
【0037】
LC/MS分析では、注入方法としてインフュージョン法を採用した。かかる注入方法を用いて分析する場合、分析試料から希釈用の分析試料を全量100ml容量用のメスフラスコに1ml分取した。その後、かかるメスフラスコに超純水を入れて定容しインフュージョン用の分析試料とした。
【0038】
実験に使用した機器および分析条件は、以下の通りである。
【0039】
(LC/MS)
LC/MS:QSTAR XL(ABサイエックス社製)
注入方法:インフュージョン法
注入量:1ml
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
測定モード:ネガティブ
【0040】
(NMR)
NMR:AVANCE400型(Buruker Biospin製)
観測核:
13C核
積算回数:5000回
【0041】
(結果)
図2には、LC/MSを用いて分析した実験結果を示す。
図3には、NMRを用いて分析した実験結果を示す。
なお、
図3(B)には、シュウ酸の標準試料(和光純薬工業株式会社製;シュウ酸二水和物(試薬特級))を用いて分析したNMRの結果を示す。
【0042】
図2に示すように、マススペクトルにおいて、m/z=88.9876に強いピークが検出された。
本測定モードは、ネガティブモードである。このため、シュウ酸は、プロトン(水素)が1個外れたピークとして検出される。
シュウ酸(分子式C
2H
2O
4)からプロトンが1個外れた場合、つまりC
2HO
4の理論上の精密質量は、88.9880である。この値は、
図2に示した実測値(88.9876)とよく一致していた。
したがって、
図2に示すm/z=88.9876のピークは、シュウ酸由来のピークであると推定された。
【0043】
また、元液のNMRの分析結果(
図3(A)の
13C核 NMRスペクトル)と、シュウ酸の標準試料のNMRの分析結果(
図3(B)の
13C核 NMRスペクトル)を比較すると、
図3(A)には、
図3(B)のシュウ酸の標準試料由来の165ppm付近のピーク(
図3の矢印で示したピーク)に一致するピークを検出した。
【0044】
なお、
図3(A)および
図3(B)に検出された80ppm付近のピークは、NMR測定に使用される基準物質のクロロホルム由来のピークである。
また、
図3(A)に検出された100ppm以下のクロロホルム由来以外の複数のピークは、DBC由来のピークであった。
したがって、
図3(A)に示す165ppm付近に検出されたピークは、シュウ酸由来のピークであると推定された。
【0045】
以上の結果から、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いることにより、DBC中からシュウ酸を検出することができることが確認された。つまり、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、DBC中のシュウ酸を同定することができることが確認できた。
したがって、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、有機溶液中にシュウ酸が存在する否かを把握することができることが確認できた。
【0046】
(II)本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いて、DBC中に存在または残留するシュウ酸を定量できるか否かを確認した。
【0047】
実験では、(I)で調製した分析試料を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)およびイオンクロマトグラフ(IC)を用いて分析した。
【0048】
実験に使用した機器および分析条件は、以下の通りである。
【0049】
HPLC:Agilent 1100型(アジレント・テクノロジー社製)
検出器:UV検出器(アジレント・テクノロジー社製;1100シリーズダイオードアレイ検出器)
検出波長:210nm
カラム:Supelcogel C-610H(Supelco社製)
移動相:0.1%−りん酸水溶液
【0050】
IC:ICS-1000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
検出器:電気伝導度検出器(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製;ICS-1000型)
カラム:Dionex IonPac AS22(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
移動相:4.5mmol/LNa
2CO
3+1.4mmol/LNaHCO
3
【0051】
(結果)
図4には、HPLCを用いて分析した実験結果を示す。
図5には、ICを用いて分析した実験結果を示す。
【0052】
図4のHPLCを用いて得られたクロマトグラムから、9.5分付近にピーク(
図4の矢印で示したピーク)が検出された。かかるピークは、シュウ酸に由来するものであると推定した。
一方、(I)で調製した分析試料にシュウ酸の標準溶液を添加した後、同条件下、HPLCを用いて分析した。その結果、
図4に示した9.5分付近に検出されたピークと全く同じ場所のピーク強度が向上した。この結果から、かかるピークがシュウ酸であることが確認できた。
【0053】
この9.5分付近に検出されたピークに基づいて、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度を算出した。その結果、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度は、1.1mmol/l(0.1g/l)であった。
【0054】
なお、シュウ酸の濃度は以下の方法で算出した。
HPLCから得られたクロマトグラムからシュウ酸のピークを検索し、かかるピークのピーク面積を算出した。そして、算出したピーク面積を、検量線(既知濃度のシュウ酸をHPLCで測定した際のピーク面積と絶対量との関係に基づく検量線)から算出した関係式に代入して分析の対象溶液30ml中のシュウ酸の絶対量を算出した。そして、算出した値を分析の対象溶液の溶液量(30ml)で除して、(I)の分析の対象溶液中に存在するシュウ酸の濃度を算出した。
【0055】
図5のICを用いて得られたクロマトグラムから、15.7分付近に検出されたピーク(
図5の矢印で示したピーク)が、シュウ酸に由来するものであることが確認できた。
【0056】
この15.7分付近に検出されたピークに基づいて、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度を算出した。その結果、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度は、1.1mmol/l(0.1g/l)であった。
なお、シュウ酸の濃度は、上述したHPLCを用いた場合と同様の方法で算出した。
【0057】
以上の結果から、DBC中のシュウ酸の濃度を適切に算出することができることが確認できた。つまり、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、DBC中のシュウ酸を定量することができることが確認できた。
【0058】
以上のように、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、(I)DBC中のシュウ酸の有無を把握することができ、しかも、(II)かかるシュウ酸の濃度を適切に算出することができることが確認できた。