特許第6361980号(P6361980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361980
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】有機溶液中のシュウ酸の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20180712BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20180712BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G01N30/88 C
   G01N30/02 B
   G01N31/00 V
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-106587(P2015-106587)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-218016(P2016-218016A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】安藤 真規
(72)【発明者】
【氏名】児玉 竜二
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−271406(JP,A)
【文献】 特開昭54−155093(JP,A)
【文献】 特開2004−238735(JP,A)
【文献】 特開2012−126952(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0335581(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00−31/22
G01N 30/00−30/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸の分析方法であって、
水に対して不溶な有機溶液に対して水を接触させる前処理工程と、
該前処理工程で得られる水溶液を分析する分析工程と、を順に行
前記有機溶液が、
ビス(2−ブトキシエチル)エーテルである
ことを特徴とする有機溶液中のシュウ酸の分析方法。
【請求項2】
前記前処理工程で得られる水溶液を、液体クロマトグラフィーおよび/またはイオンクロマトグラフィーを用いて分析する
ことを特徴とする請求項記載の有機溶液中のシュウ酸の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶液中のシュウ酸の分析方法に関する。さらに詳しくは、有機溶液中の貴金属や、化合物などをシュウ酸を用いて回収するプロセスに使用される有機溶液中のシュウ酸の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シュウ酸は、分子中にカルボキシル基を2つ有する極性が高い物質であり、水に対対して非常に溶解し易い一方、有機溶媒にはほとんど溶解しない物質である。そして、シュウ酸は、天然に一般的に存在する物質であり、ホウレンソウや、生姜、ピーマンなどの多くの野菜に含まれている。しかし、これらの植物を人が過剰に摂取した場合、植物中シュウ酸が腎臓結石や、腎臓障害を引き起こす原因になるといわれている。
このため、従来、植物や環境水など水分を含有するものを対象としたシュウ酸の分析方法が様々提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、シュウ酸は、強い還元性を有する物質であるので、重要な還元剤として使用されている。例えば、一般的な酸化還元滴定のほか、近年では、工業化学、電気化学、生化学など様々な分野における反応プロセスに使用されてきている。例えば、工業化学の分野では、湿式精錬による金の回収プロセスにおいて、有機溶液に対してシュウ酸を接触させることにより有機溶液中から所望の金属を回収している(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2890320号公報
【特許文献2】特開平11−140549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、シュウ酸は重要な還元物質として、有機溶液とともに使用されているので、有機溶液中のシュウ酸を把握することは重要となる。
しかるに、特許文献1の野菜中のシュウ酸分析方法のように、水溶液中からシュウ酸を分析する方法は存在するものの、有機溶液からシュウ酸を分析した方法は現在のところ全く存在しない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、有機溶液中のシュウ酸を把握することができる有機溶液中のシュウ酸の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法は、シュウ酸の分析方法であって、水に対して不溶な有機溶液に対して水を接触させる前処理工程と、該前処理工程で得られる水溶液を分析する分析工程と、を順に行い前記有機溶液が、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルであることを特徴とする。
発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法は、第1発明において、前記前処理工程で得られる水溶液を、液体クロマトグラフィーおよび/またはイオンクロマトグラフィーを用いて分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、有機溶液であるビス(2−ブトキシエチル)エーテルからシュウ酸を検出することができるので、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル中にシュウ酸が存在するか否かを把握することができる。また、疎水性の有機溶液であるビス(2−ブトキシエチル)エーテルに対して水を接触させるだけで、分析試料を調製することができる。このため、分析工程を非常に簡単にすることができ、しかも迅速に分析結果を得ることができる。しかも、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル中に金を抽出する際に発生する予期せぬ還元反応を抑制できる。
発明によれば、有機溶液であるビス(2−ブトキシエチル)エーテル中のシュウ酸の量を精度よく把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のシュウ酸の分析方法のフローチャートである。
図2】実施例の結果を示した図である(マススペクトル)。
図3】実施例の結果を示した図であり(13C核 NMRスペクトル)、(A)はサンプルの13C核 NMRスペクトルであり、(B)は標準試料の13C核 NMRスペクトルである。
図4】実施例の結果を示した図である(HPLCのクロマトグラム)。
図5】実施例の結果を示した図である(ICのクロマトグラム)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法は、有機溶液からシュウ酸を検出することができるようにしたことに特徴を有している。
【0011】
なお、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法に用いられる有機溶液とは、水に対して不溶性を示す有機溶媒を単独で使用する場合のほか、かかる性質を有する有機溶媒を複数混合した混合溶液、水溶液中から所望の物質等を抽出する際に用いられる抽出溶剤または抽出溶媒などを含む溶液をいう。これらの有機溶媒等は、上述したように水に対して不溶性を示すものであれば、とくに限定されない。例えば、非極性の有機溶媒であれば、水と接触させた後の分離がしやすい。
【0012】
これらの有機溶液として、例えば、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、アミン系有機溶媒、アルコール系有機溶媒などを挙げることができる。
エーテル系有機溶媒としては、例えば、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル(いわゆるジブチルカルビトール、以下単にDBCという)、エチレングリコールモノエチルエーテルなどを挙げることができる。
エステル系の有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピルなどを挙げることができる。ケトン系有機溶媒としては、例えば、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンを挙げることができる。また、アミン系の有機溶媒としては、例えば、トリオクチルアミン、アニリンなどを挙げることができる。
【0013】
また、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法の有機溶液に対して水を接触させるとは、両者を機械的に撹拌することや、バブリングにより液体を混合すること、両者を並流や向流により接触させることを含む概念である。
なお、以下では、有機溶液と水を接触させる方法として、両液を混合する場合を代表として説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法(以下、単に本分析方法という)は、有機溶液に対して水を接触させて、分析試料を調製する前処理工程と、前処理工程で調製された分析試料を分析する分析工程と、を順に行う方法である。
【0015】
(前処理工程について)
本分析方法の前処理工程は、まず、有機溶液に対して水を接触させる。かかる有機溶液は水に対して不溶性を示すので、両者を接触させた後、簡単に分離することができる。そして、この分離した2溶液のうち、水相に相当する水溶液を分取すれば、次工程に供する分析試料として用いることができる。
【0016】
シュウ酸は、分子内に極性を有する物質であるため、水に対して非常に溶解し易い一方、疎水性の有機溶媒に対する溶解性が非常に低い。このため、かかる溶解度の差を利用することにより、有機溶液中にシュウ酸が存在していれば、かかる有機溶媒からシュウ酸を選択的に抽出することができる。
【0017】
また、本分析方法の前処理工程に用いられる水は、上述したシュウ酸の有機溶液と水との溶解度を利用した選択的抽出が行えるものであれば、とくに限定されない。
例えば、一般的な分析方法の前処理で用いられる水を使用することができる。
とくに、有機溶液中のシュウ酸濃度が非常に低い有機溶液と水を混合する場合には、シュウ酸の抽出率の低下を抑制する上で、有機物が可能な限り含有されていない水が好ましい。
また、分析機器として液体クロマトグラフ質量分析計や高速液体クロマトグラフなどを用いる場合、水に含まれる有機物が妨害成分となる可能性があるので、かかる場合にも、可能な限り有機物を含んでいない水を用いるのが好ましい。
上述した水としては、例えば、JIS K 0557のA1〜A4のような分析用水などを挙げることができる。
【0018】
なお、この分析試料は、次工程において使用する分析機器に応じて適宜希釈等の処理を行ってもよいのは言うまでもない。例えば、インフュージョン法を用いる場合には、検出成分の濃度に応じて10〜1000倍程度に希釈したものを分析試料とすることができる。また、高分解能を有する分析機器を使用する場合も、上記と同様に検出成分の濃度に応じて10〜1000倍程度に希釈したものを分析試料とするのが好ましい。
【0019】
(分析工程について)
本分析方法の分析工程は、上述した前処理工程で調製された分析試料を所定の分析機器を用いて測定する工程である。
【0020】
分析機器は、上記分析試料をそのまま、または希釈するだけで、シュウ酸の測定が可能な機器が好ましい。また、上記分析試料をそのまま、または希釈することでは測定できない場合には、シュウ酸をメチルエステル化などとすることによって測定できる機器を用いてもよい。
【0021】
本分析方法の分析工程に用いることが可能な分析機器として、例えば、クロマトグラフィー、核磁気共鳴法(NMR法)、赤外分光法を挙げることができる。
【0022】
これらの分析機器のうち、クロマトグラフィーに用いられる液体クロマトグラフが好ましく、定量性を求める上では高速液体クロマトグラフ、イオンクロマトグラフが好ましい。
【0023】
また、質量分析計を検出器とした液体クロマトグラフ質量分析計や高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いれば、得られた値をシュウ酸の質量の理論値と比較することができるので、シュウ酸の検出精度を向上させることができる。
なお、質量分析計として飛行時間型(TOF)質量分析計や、二重収束型質量分析計を用いれば、精密質量の値を得ることができる。すると、シュウ酸の精密質量との理論値と比較することができるので、検出精度をより向上させることができる。
【0024】
一方、ガスクロマトグラフィーに用いられるガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計などを用いる場合には、シュウ酸をジアゾメタンまたはBF3/メタノールによるメチルエステル化すれば、かかる分析機器を用いてシュウ酸を測定することができる。
【0025】
以上のごとく、本分析方法は、有機溶液と水を加えて混合し分離して調製した分析試料を測定するだけの簡単な工程であるので、有機溶液中にシュウ酸が存在または残存しているか否かを迅速に分析することができる。
また、分析機器を適宜選択するだけで所望の分析結果、例えば、有機溶液中のシュウ酸の有無を把握したい場合や、有機溶液中のシュウ酸の濃度を把握したい場合など、必要に応じた分析結果を提供することができる。このため、適切な分析情報を有機溶液をサンプリングした現場等に対してフィードバックすることが可能となる。
【0026】
(DBC中のシュウ酸分析方法)
以下では、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いて、DBC中に存在または残留するシュウ酸を分析する場合を代表として説明する。
【0027】
まず、DBC(図1では有機溶液に相当する)の一部を分取する。分取したDBCに対して水を加え撹拌した後、所定時間静置する。そして、所定時間静置した後の水相(図1では水相に相当する)の一部を分取して機器分析に供する分析試料とする。
【0028】
分析試料は水溶液であるので、そのままの状態で液体クロマトグラフ質量分析計を用いて分析することができる。そして、液体クロマトグラフ質量分析計により得られるクロマトグラムからシュウ酸のピークを検索し、かかるピーク面積に基づいてDBC中に存在または残存するシュウ酸の濃度を算出する。
【0029】
例えば、DBCが、精錬工程における酸性水溶液中に存在する金を抽出するために用いられている場合、一連の金の回収が終了した後のDBC中に1.0g/l程度のシュウ酸が存在していても、その存在を把握することできる。
【0030】
かかるDBCを金の回収プロセスに繰り返し使用する場合、DBC中に存在するシュウ酸によって、DBCによる金の抽出効率が低下する可能性がある。かかる現象は、金を含有する酸性水溶液中からDBC中に金を抽出する際に発生する、DBC中のシュウ酸に起因する予期せぬ還元反応であると推察される。このため、本分析方法を用いてDBC中のシュウ酸濃度を把握しておけば、DBCを金の回収プロセスに繰り返し使用する場合であっても、DBCによる金の抽出の低下を抑制できる可能性がある。
【実施例】
【0031】
本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法の有効性を確認した。
実験では、有機溶液の代表としてDBCを用いて、(I)DBC中に存在または残留するシュウ酸を検出できるか否かを確認し、(II)DBC中に存在または残留するシュウ酸を定量できるか否かを確認した。
【0032】
(I)本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いて、DBC中に存在または残留するシュウ酸を検出できるか否かを確認した。
【0033】
(分析試料の調製)
実験では、精錬工程における金の回収プロセスにおいて、抽出剤として繰り返し使用されているDBCを分析の対象溶液とした。
【0034】
金の回収プロセスでは、アノードスライムの酸性の塩素浸出溶液にDBCを接触させて塩素浸出溶液からDBC中に金を抽出する(抽出工程)。抽出工程で得られた金を含有するDBCをシュウ酸水溶液と混合することにより、DBC中の金をシュウ酸で還元して金粉を回収する(還元工程)。そして、還元工程後のDBCは、再度、抽出工程に使用される(抽出剤循環工程)。つまり、DBCは上述した循環プロセスの系内を循環しているので、上記循環プロセスにおける還元工程後のDBCを、本実験の分析の対象溶液とした。
【0035】
分析の対象溶液であるDBCから100ml容量用の分液漏斗に30ml分取した。この分液漏斗に超純水30mlを入れて1分間振とうした。振とう後、10分間静置した後、下相に位置する水相を分取して分析試料を調製した。
【0036】
分析試料の分析は、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)および核磁気共鳴装置(NMR)を用いて行った。
【0037】
LC/MS分析では、注入方法としてインフュージョン法を採用した。かかる注入方法を用いて分析する場合、分析試料から希釈用の分析試料を全量100ml容量用のメスフラスコに1ml分取した。その後、かかるメスフラスコに超純水を入れて定容しインフュージョン用の分析試料とした。
【0038】
実験に使用した機器および分析条件は、以下の通りである。
【0039】
(LC/MS)
LC/MS:QSTAR XL(ABサイエックス社製)
注入方法:インフュージョン法
注入量:1ml
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
測定モード:ネガティブ
【0040】
(NMR)
NMR:AVANCE400型(Buruker Biospin製)
観測核:13C核
積算回数:5000回
【0041】
(結果)
図2には、LC/MSを用いて分析した実験結果を示す。
図3には、NMRを用いて分析した実験結果を示す。
なお、図3(B)には、シュウ酸の標準試料(和光純薬工業株式会社製;シュウ酸二水和物(試薬特級))を用いて分析したNMRの結果を示す。
【0042】
図2に示すように、マススペクトルにおいて、m/z=88.9876に強いピークが検出された。
本測定モードは、ネガティブモードである。このため、シュウ酸は、プロトン(水素)が1個外れたピークとして検出される。
シュウ酸(分子式C)からプロトンが1個外れた場合、つまりCHOの理論上の精密質量は、88.9880である。この値は、図2に示した実測値(88.9876)とよく一致していた。
したがって、図2に示すm/z=88.9876のピークは、シュウ酸由来のピークであると推定された。
【0043】
また、元液のNMRの分析結果(図3(A)の13C核 NMRスペクトル)と、シュウ酸の標準試料のNMRの分析結果(図3(B)の13C核 NMRスペクトル)を比較すると、図3(A)には、図3(B)のシュウ酸の標準試料由来の165ppm付近のピーク(図3の矢印で示したピーク)に一致するピークを検出した。
【0044】
なお、図3(A)および図3(B)に検出された80ppm付近のピークは、NMR測定に使用される基準物質のクロロホルム由来のピークである。
また、図3(A)に検出された100ppm以下のクロロホルム由来以外の複数のピークは、DBC由来のピークであった。
したがって、図3(A)に示す165ppm付近に検出されたピークは、シュウ酸由来のピークであると推定された。
【0045】
以上の結果から、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いることにより、DBC中からシュウ酸を検出することができることが確認された。つまり、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、DBC中のシュウ酸を同定することができることが確認できた。
したがって、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、有機溶液中にシュウ酸が存在する否かを把握することができることが確認できた。
【0046】
(II)本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いて、DBC中に存在または残留するシュウ酸を定量できるか否かを確認した。
【0047】
実験では、(I)で調製した分析試料を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)およびイオンクロマトグラフ(IC)を用いて分析した。
【0048】
実験に使用した機器および分析条件は、以下の通りである。
【0049】
HPLC:Agilent 1100型(アジレント・テクノロジー社製)
検出器:UV検出器(アジレント・テクノロジー社製;1100シリーズダイオードアレイ検出器)
検出波長:210nm
カラム:Supelcogel C-610H(Supelco社製)
移動相:0.1%−りん酸水溶液
【0050】
IC:ICS-1000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
検出器:電気伝導度検出器(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製;ICS-1000型)
カラム:Dionex IonPac AS22(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
移動相:4.5mmol/LNaCO+1.4mmol/LNaHCO
【0051】
(結果)
図4には、HPLCを用いて分析した実験結果を示す。
図5には、ICを用いて分析した実験結果を示す。
【0052】
図4のHPLCを用いて得られたクロマトグラムから、9.5分付近にピーク(図4の矢印で示したピーク)が検出された。かかるピークは、シュウ酸に由来するものであると推定した。
一方、(I)で調製した分析試料にシュウ酸の標準溶液を添加した後、同条件下、HPLCを用いて分析した。その結果、図4に示した9.5分付近に検出されたピークと全く同じ場所のピーク強度が向上した。この結果から、かかるピークがシュウ酸であることが確認できた。
【0053】
この9.5分付近に検出されたピークに基づいて、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度を算出した。その結果、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度は、1.1mmol/l(0.1g/l)であった。
【0054】
なお、シュウ酸の濃度は以下の方法で算出した。
HPLCから得られたクロマトグラムからシュウ酸のピークを検索し、かかるピークのピーク面積を算出した。そして、算出したピーク面積を、検量線(既知濃度のシュウ酸をHPLCで測定した際のピーク面積と絶対量との関係に基づく検量線)から算出した関係式に代入して分析の対象溶液30ml中のシュウ酸の絶対量を算出した。そして、算出した値を分析の対象溶液の溶液量(30ml)で除して、(I)の分析の対象溶液中に存在するシュウ酸の濃度を算出した。
【0055】
図5のICを用いて得られたクロマトグラムから、15.7分付近に検出されたピーク(図5の矢印で示したピーク)が、シュウ酸に由来するものであることが確認できた。
【0056】
この15.7分付近に検出されたピークに基づいて、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度を算出した。その結果、(I)の分析の対象溶液中のシュウ酸の濃度は、1.1mmol/l(0.1g/l)であった。
なお、シュウ酸の濃度は、上述したHPLCを用いた場合と同様の方法で算出した。
【0057】
以上の結果から、DBC中のシュウ酸の濃度を適切に算出することができることが確認できた。つまり、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、DBC中のシュウ酸を定量することができることが確認できた。
【0058】
以上のように、本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法を用いれば、(I)DBC中のシュウ酸の有無を把握することができ、しかも、(II)かかるシュウ酸の濃度を適切に算出することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の有機溶液中のシュウ酸の分析方法は、湿式精錬において金属イオンを含む水溶液に有機溶液を接触させた後、かかる有機溶液にシュウ酸を接触させて金属を回収する方法に使用される有機溶液中のシュウ酸を分析するのに適している。
図1
図2
図3
図4
図5