【実施例】
【0030】
(第1実施例)
<工具>
工具として、組成がWC(bal.)−Co(8.0質量%)−Cr(0.5質量%)−VC(0.3質量%)、WC平均粒度0.6μm、硬度93.9HRA(ロックウェル硬さ、JIS G 0202に準じて測定した値)からなる超硬合金製の2枚刃ボールエンドミル(ボール半径5mm、三菱日立ツール株式会社製)を準備した。
【0031】
実施例1、比較例1は、スパッタ蒸発源を6機搭載できるスパッタリング装置を使用した。これらの蒸着源のうち、AlTi系合金ターゲット3個およびTiSi系合金ターゲット3個を蒸着源として装置内に設置した。なお、寸法がΦ16cm、厚み12mmのターゲットを用いた。実施例1と比較例1では、使用するTiSi系合金ターゲットの組成を変えた。
工具をスパッタリング装置内のサンプルホルダーに固定し、工具にバイアス電源を接続した。なお、バイアス電源は、ターゲットとは独立して工具に負のバイアス電圧を印加する構造となっている。工具は、毎分2回転で自転しかつ、固定治具とサンプルホルダーを介して公転する。工具とターゲット表面との間の距離は100mmとした。
導入ガスは、Ar、及びN
2を用い、スパッタリング装置に設けられたガス供給ポートから導入した。
【0032】
<ボンバード処理>
まず工具に硬質皮膜を被覆する前に、以下の手順で工具にボンバード処理を行った。スパッタリング装置内のヒーターにより炉内温度が430℃になった状態で30分間の加熱を行った。その後、スパッタリング装置の炉内を真空排気し、炉内圧力を5.0×10
−3Pa以下とした。そして、Arガスをスパッタリング装置の炉内導入し、炉内圧力を0.8Paに調整した。そして、工具に−170Vの直流バイアス電圧を印加して、Arイオンによる工具のクリーニング(ボンバード処理)を実施した。
【0033】
<中間皮膜の成膜>
次いで、以下の手順でAlTiNの中間皮膜を工具上に被覆した。
炉内温度を430℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを120sccmで導入して炉内圧力を0.60Paとした。工具に−60Vの直流バイアス電圧を印加し、AlとTiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のAlTi系合金ターゲットを切り替えながら連続的に電力を印加して、工具の表面に厚さ約1.5μmの中間皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、1.5kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
【0034】
<硬質皮膜の成膜>
次いで、以下の手順で硬質皮膜を中間皮膜の上に被覆した。
炉内温度を430℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを80sccmで導入して炉内圧力を0.52Paとした。工具に−40Vの直流バイアス電圧を印加し、TiとSiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のTiSi系合金ターゲットを切り替えながら連続的に電力を印加して、中間皮膜の上に厚さ約1.5μmの硬質皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、1.5kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
【0035】
比較例2は、実施例1および比較例1とは異なる装置を用いたスパッタリング法で被覆した試料を準備した。
成膜には、AlTi系合金ターゲット1個およびTiSi系合金ターゲット1個を蒸着源に設けたスパッタリング装置を用いた。なお、寸法が500mm×88mm、厚み10mmのターゲットを用いた。実施例と同様にArイオンにより工具のクリーニングを実施した。
スパッタリング装置の炉内圧力を5.0×10
−3Pa以下に真空排気して、炉内温度を430℃とし、炉内圧力が0.6PaになるようにArガスおよびN
2ガスを導入した。そして、工具に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、AlTi系合金ターゲットに5kWの電力を供給して厚さ約1.5μmの中間皮膜を被覆した。
続いて、工具温度を430℃に保持したまま、炉内圧力が0.6PaになるようにArガスおよびN
2ガスを導入した。そして、工具に−80Vの直流バイアス電圧を印加し、TiSi系合金ターゲットに5kWの電力を供給して厚さ約1.5μmの硬質皮膜を被覆した。
【0036】
比較例3は、アークイオンプレーティング法で被覆した試料を準備した。
成膜には、AlTi系合金ターゲット1個およびTiSi系合金ターゲット1個を蒸着源に設けたアークイオンプレーティング装置を用いた。なお、寸法がΦ10.5cm、厚み16mmのターゲットを用いた。実施例と同様にArイオンにより工具のクリーニングを実施した。
アークイオンプレーティング装置の炉内圧力を5.0×10
−3Pa以下に真空排気して、炉内温度を430℃とし、炉内圧力が4.0PaになるようにN
2ガスを導入した。工具に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、AlTi系合金ターゲットに150Aの電流を供給して厚さ約1.5μmの中間皮膜を被覆した。
続いて、炉内温度を430℃に保持したまま、炉内圧力が4.0PaになるようにN
2ガスを導入した。そして、工具に印加するバイアス電圧を−50V、TiSi系合金ターゲットに150Aの電流を供給して厚さ約1.5μmの硬質皮膜を被覆した。
【0037】
<皮膜組成>
硬質皮膜の皮膜組成は、電子プローブマイクロアナライザー装置(株式会社日本電子製 JXA−8500F)を用いて測定した。具体的には、上記装置に付属の波長分散型電子プローブ微小分析(WDS−EPMA)で硬質皮膜の皮膜組成を測定した。物性評価用のボールエンドミルを鏡面加工して試料とした。測定条件は、加速電圧10kV、照射電流5×10
−8A、取り込み時間10秒とし、分析領域が直径1μmの範囲を5点測定してその平均値から硬質皮膜の金属含有比率および金属成分と非金属成分の合計におけるArの含有比率を求めた。
【0038】
<結晶構造・結晶粒径>
硬質皮膜の結晶構造は、X線回折装置(株式会社リガク製 RINT2000 縦型ゴニオメーター 固定モノクロメーター)を用いて特定した。管電圧40kV、管電流300mA、X線源Cukα(λ=0.15418nm)、2θが20〜70度の測定条件で確認を行った。硬質皮膜の(200)面のピーク強度の半価幅から、硬質皮膜の平均結晶粒径を測定した。
【0039】
<皮膜硬さおよび弾性係数>
硬質皮膜の皮膜硬さおよび弾性係数は、ナノインデンテーションテスター(エリオニクス(株)製ENT−1100a)を用いて分析した。分析は、皮膜の最表面に対し試験片を5度傾けた皮膜断面を鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さが膜厚の略1/10未満となる領域を選定した。押し込み荷重49mN/秒の測定条件で10点測定し、値の大きい側の2点と値の小さい側の2点を除いた6点の平均値から求めた。
【0040】
<TEM分析>
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてミクロ組織の観察を実施した。また、ビーム直径が5nmのナノビームを用いて、50nm×50nmの領域に円相当径が5nm以上の非晶質相が存在するかを確認した。
【0041】
<切削試験>
作製した被覆切削工具を用いて切削試験を行った。表1に分析結果および切削試験結果を示す。切削条件は以下の通りである。
(条件)湿式加工
・工具:2枚刃超硬ボールエンドミル
・型番:EPBTS2100、ボール半径5.0mm
・切削方法:底面切削
・被削材:HPM38(52HRC)(日立金属株式会社製)
・切り込み:軸方向、0.2mm、径方向、0.2mm
・切削速度:314.0m/min
・一刃送り量:0.2mm/刃
・切削油:水溶性エマルジョン加圧供給
・切削距離:300m
・評価方法:切削加工後、走査型電子顕微鏡を用いて倍率150倍で観察し、工具と被削材が擦過した幅を測定し、そのうちの擦過幅が最も大きかった部分を最大摩耗幅とした。
各試料について、皮膜特性および皮膜組織を観察した。皮膜特性および切削評価の結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1は、従来のアークイオンプレーティング法で被覆した比較例3に対して、最大摩耗幅が約20μmも抑制され、優れた耐久性を示すことが確認された。なお、表中の「fcc」は面心立方格子構造を表す。
比較例1は、硬質皮膜のSiの含有比率が少なかったために、硬度および耐熱性が低下し、実施例1に比べて摩耗幅が大きくなった。
比較例2は、従来のDCスパッタリング法で被覆した硬質皮膜であり、実施例1に比べて硬質皮膜のAr含有比率が多く、硬度も低い。そのため、粗大な皮膜剥離が早期に発生した。
実施例1と比較例3の硬質皮膜は平均結晶粒径が7nmの微細な結晶組織であり、ミクロ組織観察において円相当径が5nm以上の粗大な非晶質相は確認されなかった。そこで、実施例1と比較例3の耐久性の差異を明らかにするために、実施例1と比較例3について、走査型X線光電子分光装置を用いて、膜厚方向の組成分析を実施した。
【0044】
<表面から深さ方向の原子濃度分布の測定>
実施例1と比較例3について、走査型X線光電子分光装置(アルバック・ファイ(株)製Quantum−2000)を用いて、皮膜の表面から深さ方向の原子濃度分布の測定を実施した。分析は、X線源AlKα、分析領域をΦ20μm、電子中和銃を使用し、測定を実施した。皮膜の深さ方向の元素分布を測定するために、Arイオン銃を使用し、SiO
2換算で10nm/分の速度でエッチングを実施し、20nmエッチング毎に皮膜組成の分析を実施して硬質皮膜の表面から200nmまでの深さを分析した。
炭素、窒素、酸素、ケイ素およびチタンの合計の含有比率を100原子%とし組成分析を行った。尚、硬質皮膜に上記以外の金属(半金属を含む)元素は含まれていない。実施例1の分析結果を表2示す。また、比較例3の分析結果を表3に示す。本測定法では、1原子%未満の分析値は測定精度が十分でないため、表2、3において1原子%未満の値は、「−」と示している。なお、いずれの試料においても、最表面には不可避不純物である酸素と炭素が多く検出されるため、皮膜表面からの深さ20nmの位置から分析を行った。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
従来のアークイオンプレーティング法で被覆した比較例3は、膜厚方向にわたって、酸素および炭素の含有比率が高いため、窒素の含有比率が50.0原子%未満であり、硬質皮膜の全体に十分な窒化物が形成されていなかった。一方、実施例1は膜厚方向にわたって、酸素および炭素の含有比率が低く、かつ、窒素の含有比率が50.0原子%以上であることが確認された。実施例1は硬質皮膜の膜厚方向にわたって窒素の含有比率が高く、硬質皮膜の全体に窒化物が十分に形成されるため、従来のアークイオンプレーティング法で被覆した比較例3に比べて摩耗幅が抑制されたものと推定される。
なお、表面からの深さが200nmよりも深い箇所においても、実施例1は酸素や炭素が少なく、窒素の含有比率が50.0原子%以上であり、従来のアークイオンプレーティング法で被覆した比較例3は酸素や炭素が多く窒素の含有比率が50.0原子%未満であることを確認した。
【0048】
実施例1の走査電子顕微鏡による表面観察写真を
図1に示す。比較例3の走査電子顕微鏡による表面観察写真を
図2に示す。実施例1は、円相当径が1.5μmを超える粗大なドロップレットは確認されず、円相当径が1.0μm〜1.5μmのドロップレットが、硬質皮膜の表面の100μm
2当たり3個であった。また、円相当径が0.5μm以上1.0μm未満のドロップレットは、硬質皮膜の表面の100μm
2当たり2個であった。鏡面加工した断面観察においては、円相当径が1.0μm〜1.5μmのドロップレットが100μm
2当たり1個であり、円相当径が0.5μm以上〜1.0μm未満のドロップレットは、100μm
2当たり1個であった。
一方、アークイオンプレーティング法で被覆した比較例3は、円相当径が1.0μm以上のドロップレットは10個以上であり、円相当径が2.0μm以上の粗大なドロップレットも確認された。また、円相当径が0.5μm以上1.0μm未満のドロップレットは、硬質皮膜の表面の100μm
2当たり40個程度であった。同様に、鏡面加工した断面観察においても、円相当径が1.0μm以上のドロップレットは100μm
2当たり10個以上であり、円相当径が0.5μm以上1.0μm未満のドロップレットは、100μm
2当たり40個程度であった。
【0049】
上述した実施例では工具径が10mmのドロップレットの影響が少ない大径のボールエンドミルを用いての評価である。例えば工具径が1mm以下の小径工具においては、ドロップレットの影響がより大きくなるため、ドロップレットが少ない実施例の硬質皮膜を適用することで更なる工具寿命の改善が見込まれる。
【0050】
(第2実施例)
第2実施例では、第1実施例と同様の工具を用いて、単層の硬質皮膜の物性を評価した。第1実施例の実施例1と同様に、スパッタ蒸発源を6機搭載できるスパッタリング装置を使用し、TiSi系合金ターゲット3個を蒸着源として装置内に設置した。
第1実施例と同様のボンバード処理を行った後に、工具の表面に硬質皮膜を被覆した。
【0051】
実施例20は、炉内温度を500℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを80sccmで導入して炉内圧力を0.52Paとした。工具に−40Vの直流バイアス電圧を印加し、TiとSiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のTiSi系合金ターゲットに連続的に電力を印加して、厚さ約2.0μmの硬質皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、2.3kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
【0052】
実施例21は、炉内温度を430℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを100sccmで導入して炉内圧力を0.57Paとした。工具に−40Vの直流バイアス電圧を印加し、TiとSiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のTiSi系合金ターゲットに連続的に電力を印加して、厚さ約2.0μmの硬質皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、2.3kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
【0053】
実施例22は、炉内温度を430℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを80sccmで導入して炉内圧力を0.52Paとした。工具に−40Vの直流バイアス電圧を印加し、TiとSiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のTiSi系合金ターゲットに連続的に電力を印加して、厚さ約2.0μmの硬質皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、2.8kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
【0054】
比較例20は、炉内温度を430℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを80sccmで導入して炉内圧力を0.52Paとした。工具に−60Vの直流バイアス電圧を印加し、TiとSiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のTiSi系合金ターゲットに連続的に電力を印加して、厚さ約2.0μmの硬質皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、1.5kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
【0055】
比較例21は、炉内温度を430℃に保持したまま、スパッタリング装置の炉内にArガスを160sccmで導入し、その後、N
2ガスを60sccmで導入して炉内圧力を0.47Paとした。工具に−40Vの直流バイアス電圧を印加し、TiとSiを含有する合金ターゲットに印加される電力の1周期当りの放電時間を4.0ミリ秒、電力が印加される合金ターゲットが切り替わる際に、電力の印加が終了する合金ターゲットと電力の印加を開始する合金ターゲットの両方の合金ターゲットに同時に電力が印加されている時間を10マイクロ秒として、3個のTiSi系合金ターゲットに連続的に電力を印加して、厚さ約2.0μmの硬質皮膜を被覆した。このとき、電力パルスの最大電力密度は、1.5kW/cm
2、平均電力密度は0.37kW/cm
2とした。
各試料について、実施例1と同様に皮膜特性および皮膜組織を観察した。皮膜特性の結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例20〜22は、Ar含有比率が低く、また、膜厚方向にわたって窒素の含有比率が50.0原子%以上であった。なお、表面からの深さが200nmよりも深い箇所においても、実施例20〜22の硬質皮膜は酸素や炭素が少なく窒素の含有比率が50.0原子%以上であることを確認した。表5に実施例21の走査型X線光電子分光装置(アルバック・ファイ(株)製Quantum−2000)を用いた、皮膜の表面から深さ方向の原子濃度分布の測定結果を示す。実施例21は膜厚方向における窒素の含有比率が51原子%以上であり、特に窒素の含有比率が高くなることが確認された。
実施例20〜22は、何れも微粒な結晶粒径からなり、ミクロ組織観察において円相当径が5nm以上の粗大な非晶質相は確認されなかった。また、実施例20〜22の硬質皮膜は、表面および断面観察において、円相当径が1.5μmを超える粗大なドロップレットは確認されず、円相当径が1.0μm〜1.5μmのドロップレットが100μm
2当たり3個以下であった。
比較例20は、膜厚方向にわたって窒素の含有比率が50.0原子%以上であったが、成膜時に基材に印加する負のバイアス電圧の絶対値を大きくしたため、Ar含有比率が高くなった。
比較例21は、成膜時の窒素ガスの流量が少なく、膜厚方向にわたって窒素の含有比率が50.0原子%未満となった。表6に比較例21の走査型X線光電子分光装置(アルバック・ファイ(株)製Quantum−2000)を用いた、皮膜の表面から深さ方向の原子濃度分布の測定結果を示す。ターゲットに順次電力を印加するスパッタリング法を適用しても、成膜時の窒素ガスの流量が適切でないと、硬質皮膜の膜厚にわたって窒素の含有比率が50.0原子%以上にすることは困難となる。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
実施例20〜22は、比較例20、21よりも優れた工具寿命を示す傾向にあった。特に、窒素の含有比率の高い実施例21は優れた工具寿命であった。